NHK朝ドラ『花子とアン』『ごちそうさん』『あまちゃん』…ストーリーを勝手に解釈&裏読み … ほぼネタバレ…
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2013年05月31日 (金) | 編集 |
第53話

3月、雪景色の中をお座敷列車が走ります。

乗客の大部分は成人男性という予想は覆されました。

親子連れや10代の女の子もよく集まり、ふたりは幅広い世代に愛されていることを物語っていました。


アキとユイは給仕をしたりして乗客とコミュニケーションを取りながら、和気藹々とした雰囲気の中、列車は進んでいきます。

「左手をご覧ください、冬の三陸海岸が見えてきました」

手振りを交えて乗客たちにアナウンスするアキ。

海岸を見下ろす鉄橋に差し掛かると列車がスピードを緩めました。

「ここは北三陸随一の絶景スポットですので、記念撮影をされる方どうぞ!」

続くユイのアナウンスを聞きながら、アキ自身がこの景色にしばし目をうばわれていました。

… … … … …

アキが冬の三陸海岸に見とれている頃 …

おらたち、海女クラブは、ウニ丼300個を作り終え、真っ白に燃え尽きていました。


疲れ果てて、作業小屋でそのままの格好で横たわるクラブの面々。

はっと気づいて、目を覚ます弥生。

「 … 寝てた」

弥生は慌てて皆のことも起こしました。

「起きろ、アキの歌っこ聴きに行かねえと!」

… … … … …

列車は約1時間で折り返し地点の畑野駅に到着。

ここで記念撮影とトイレを済まし、30分後、北三陸駅に向かって出発します。


アキとユイは、よしえにこしらえてもらったステージ衣装に着替えました。

姿見の前で自分自身をチェックするユイ。

「いいのかなこれ、全然客観的に見れないんだけど」

アキはうなずきながら言いました。

「大丈夫だ、ユイちゃんは似合ってる … 問題はおらだ」

『北の海女』と書かれた大きなリボンを頭に乗せてユイに尋ねました。

「これ、アイドルか?」

「う~ん … 」


唸ったままハッキリと答えず、出ていくユイ。

「考え込まないでよ!」

後を追いかけるアキ。

「もう出るけど、準備は?」

「これでいいなら、OKです」


ヒロシはアキの姿を上から下までざっと見ました。

「う~ん … 」

ユイと同じような反応 …

「なんだよ、兄妹して!」

… … … … …

「ふたり合わせて『潮騒のメモリーズ』です!」

吉田に紹介されて、拍手と喝采に迎えられて現れたユイとアキは決めのポーズを取りました。

列車は復路、再び北三陸駅を目指して出発です。

帰りは、ジャンケンやゲーム、北鉄グッズのオークション、カラオケ大会、そして、待望の … 『潮騒のメモリーズ』によるミニコンサート。

… … … … …

喫茶リアス。

「ああ、もう歌ってる頃だな、師匠行かないんですか?」

水口に声を掛けられても勉さんは一心不乱に琥珀を磨いています。

店内は、あとの便を待つ乗客たちで溢れんばかり、それを春子がひとりきりで捌いています。

「ちょっと、ミズタク、手伝いなさいよ! 水入れるとかお皿洗うとかやることあるでしょ!」

常連は客扱いされないのが、リアス …

「夏ばっぱいる?」

慌てて飛び込んできた大吉。

「売店のミサンガ、売り切れだ!」

… … … … …

夏たち海女クラブの面々が支度を終えて、天野家を出るところに大吉から電話がかかってきました。

「何、ミサンガ50本?!」

「じぇじぇっ」

「頼む、いつもの倍払うから! あの1本400円、50本で2万円だど!」


夏は、かつ枝に伺いを立てました。

「しゃあねえ、やるか!」

皆は、最初嫌な顔をしましたが、手間賃がいつもの倍と聞いて、素直に後に続きました。

… … … … …

この調子で、正午の便、3時の便、共に定員を上回る盛況ぶり、北鉄開業25周年記念イベントは大成功のうちに幕を閉じました。

満足して帰って行く客たちを見送る大吉と吉田、イベント成功万々歳 … と、いうように簡単には終わりませんでした。

「そうはいかねえ!」

「大吉、おらたちも乗せろ!」

「貸切りだ、貸切りにして宴会させろ!」

「んだんだ、海女クラブを接待しろ!」


大吉を取り囲み詰め寄ってくる夏をはじめとする海女クラブの面々。

「ちょちょっと待って、何そんなに怒ってるの?」

大吉には意味が分かりません。

「あったりめえだ、おらたち朝4時半に集まって、ウニ丼300こせえて、その後、50本ミサンガ編んだんだぞ!」

「だから、普段の倍払うって!」

「ババアをこき使った代償は重いぞ、乗せろ!乗せろ!」


つまり、お座敷列車に乗り損ねた自分たちのためにもう1回走らせろという要求でした。

「大吉っつあん、おらからも頼む、せっかくだからもう1回、最後は地元の人のために走ってけろ」

アキにもそう懇願されて、大吉は決断しました。

「そこまで言われたら、仕方がない! もう一往復すっぺ!」

大歓声が上がりました。

… … … … …

大吉の男気で急遽運行が決まった臨時のお座敷列車、海女クラブの面々の他、春子、保たち観光協会、勉さん、諸々 …  ぞくぞくと乗り込んで行きます。

「それでは、おかげ様で25周年を迎えました北鉄の前途を祝しまして、お座敷列車、しゅぱっ」

「待って!」


大吉の出発の合図を遮ったアキは、急いで窓を開けました。

列車が止まっている向かいのホームに立っていたのは …

「種市先輩」

ユイが気を回して呼んでいたのです。

「呼ばない方が良かった?」

アキは窓から身を乗り出して手招きしました。

「早く乗って、先輩! 早く!」

「お、おう!」


皆に歓迎されながら列車に乗り込んだ種市に続いて水口も息を切らせながら走りこんできました。

「水口 … 」

ユイの顔が少し強張りました。

それぞれの思惑を乗せて、4往復めのお座敷列車は出発しました。

… … … … …

いつもの梨明日での宴会とほぼ変わらない … 場所が列車の中というだけ … それでも、誰もが皆このひとときを十二分に楽しんでいました。

「大吉、日が暮れる前に歌ってもらうべ」

組合長の進言で、ユイとアキの出番が回ってきました。

水口に目が行くユイ、ビデオカメラを構えています。

ユイの様子が少しおかしいと感じたアキが声を掛けました。

「大丈夫?」

「うん … 最後だもんね、一緒に歌うの」

「うん!」


この日のために練習を重ねてきた『潮騒のメモリー』、ふたりでこうして歌うのも最後 … ユイは気を持ち直しました。

イントロが流れ始めました。

♪来てよ その火を 飛び越えて 砂に書いた アイ ミス ユー

ふたりで考えた波を表す振付 …

ユイが歌います。

♪北へ帰るの 誰にも会わずに 低気圧に乗って 北へ向かうわ

続いてアキ。

♪彼に伝えて 今でも好きだと ジョニーに伝えて 千円返して

潮騒のメモリー 17才は寄せては返す 波のように激しく …


… … … … …

列車は折り返し地点の畑野に到着。

アキは一度ホームに降りた夏と春子に自分の歌の感想を聞きました。

「おらわかんねえ、母ちゃんさ聞いてみろ」

「どうだった、ママ?」

「今までで一番良かったよ」

「やったあ!」


一番褒めてほしい人からの言葉に喜ぶアキ。

「 … お話し中、すみません」

種市でした。

「どうぞどうぞ」

気を利かして、ふたりから離れていく春子。

「天野、ちょっといい?」

アキはユイのことを少し気にしながら種市についていきました。

「何?」

「俺、ここでバイバイするわ」


驚くアキ。

「このまま宮古方面さ乗って、仙台から新幹線さ乗る」

「じぇじぇじぇ」

「お盆には帰って来っからよ … その頃は天野、潜ってるな」


アキはうなずきました。

「うん、潜ってる」

種市の笑顔。

「そろそろ出発するよ!」

ヒロシが合図の笛を鳴らしました。

ホームの先端にいたユイがふたりに気づきました。

「じゃあな」

… … … … …

♪白い鴎か 波しぶき …

突然、アキが腕を振りながら『南部ダイバー』を歌い始めます。

♪若い血潮が 躍るのさ …

それに種市も声を合わせて歌い出しました。

♪カップかぶれば 魚の仲間 俺は海の底 南部のダイバー

旅立つ種市へ贈る、アキなりのエール …

笑い合うふたり、他に言葉は不要でした。

「頑張れよ」

手を差し出す種市、握手を交わすふたり。

その様子を見つめるユイの背中に声を掛けたのは、水口でした。

「よかったよ、歌 … 」

「えっ?」


… … … … …

「アキちゃん、行くべ」

吉田が発車時間を知らせました。

後ろ髪をひかれる想いのアキ。

「じゃあな」

アキはうなずき、また『南部ダイバー』を歌いながら、列車に戻って行きました。

♪白い鴎か 波しぶき、若い血潮が 躍るのさ …

走り出した列車の窓から顔を出して、大きく手を振り声を上げました。

「先輩、またねえ!」

「またなあ!」


… きっとまたあえる …

… … … … …

♪来てよ その火を 飛び越えて 砂に書いた アイ ミス ユー

好きよ …

2009年3月、北三陸に春が来るのはもう少し先のことです …


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2013年05月30日 (木) | 編集 |
第52話

『北三陸鉄道リアス線開通25周年記念イベント』がとうとう始まろうとしています。

発車2時間前だというのに北三陸駅の入り口は、残り少ないチケットを求める人々で長蛇の列ができていました。

「それもそのはず、このお座敷列車は北三陸のアイドル『ミス北鉄のユイちゃん』そして『海女のアキちゃん』のファンの集いでもあるんです」

岩手こっちゃこいテレビ『五時わん』のパーソナリティ、福田萌が現場の模様をレポートしています。

マイクは駅長の大吉に向けられました。

「やあ、もうね、こんなに大勢の人にね、北鉄に乗ってもらえるなんてね … 

25年間やってきて本当に良かったです!」


… … … … …

夏のウニ丼も普段は限定30食ですが、今日はその10倍の300食出荷するということで、海女クラブの面々だけでなく、袖が浜近辺の女性も応援に駆り出されて作業小屋はてんてこ舞いです。

… … … … …

「実はアキちゃん、学業に専念するためにこの日を最後に卒業を発表しているんです」

観光協会にカメラはまわされて、アキが映りました。

「卒業つっても北三陸さいるし、夏んなれば、海女として海さ潜ります … ただ、こうやってテレビ出たり、ユイちゃんと歌ったりするのは今日が最後です … 普通の高校生に戻ります」

プロデューサーの池田が一旦カメラを止めました。

「じゃあ、あとはユイちゃん来てからにしましょうか」

… ユイが来ません。

集合時間を過ぎても連絡すらないのです。


先ほどから、ヒロシが何回も携帯を呼び出しているのですが … いまだ連絡が取れません。

「すみません、本当に」

「いえいえまだ2時間ありますから」


この時、まだ池田にも余裕がありました。

一体何があったのか? … 話を昨日の午後に戻します。

… … … … …

北三陸駅。

偶然、聞こえてきた男の声が何となく気にかかって、ユイは立ち止まりました。

「ええ、ええ、はい、明日9時からです。一応席はキープしてありますんで、フトマキさんにもそうお伝えください … 僕もビデオまわすんで送りますよ」

声の主は、水口でした。どこかに電話をかけています。

… … … … …

その後、突然観光協会に顔を出したユイは、協会のPCを使って検索を始めました。

キーワードは『太巻き』。

思ったような結果が表示されなかったようで、『太巻き プロデュース』と絞り込みました。

… 『太巻こと、荒巻太一プロデュース』 … ユイはクリックしました。

荒巻太一のプロフィールが表示されました。

荒巻太一、49歳、芸能界では『太巻き』の愛称で呼ばれる、その筋では有名はプロデューサーでした。

… … … … …

ユイがPCの画面をヒロシたちに見られることを拒んだため、最初に『太巻き』というキーワードを検索していたということ以外は誰も知りません。

「太巻がもの凄く食べたかったのかな?」

「究極の太巻を探す旅に出たのかしら?」

「あいつ、そこまで食べ物に執着する奴だったかな?」


吉田が話の流れに関係なく、ヒロシとしおりに尋ねました。

「で、おふたりはつきあっているんですか?」

「それは今 … 」

どうでもいいよ、そんなの!


黙って聞いていた池田がいきなり机を叩いて声を荒げました。

… … … … …

「8時過ぎたよ、1時間切ったよ、何処行ったんだよ、ユイちゃんよお?

ユイちゃんいなきゃ番組成立しねえんだよ!」


ヒロシに詰め寄りました。

「 … 同じ人間とは思えねえ」

「ああいうタイプが一番怖えんだよ」


吉田と保のひそひそ話を聞きのがさなかった池田は怖い顔でにらみつけました。

「ああん?! どうなってんの、ユイちゃんはよお!」

「家はとっくに出てるんですけど」

「昨日はふたり一緒だったんだよね?」


アキに尋ねる吉田。

「んだ、スナックで最後の練習して、『明日、がんばっぺ』って一緒に7時半の電車乗って帰りました」

「特に変わった様子もなく?」


ヒロシに聞かれてアキは、しばらく考え込みました。

「あっ!」

何か思い出したようなので、注目する一同。

「潮騒のメモリーズの決めポーズを考えたんだ!」

一同、がっくり、頭を抱え込む池田 …

「せえの! … し・お・さ・い・のメモリーズです!」

例の下向きピースサインはこれだったのです。

「で、特に変わった様子はなかったんだよね?」

「はいっ!」

「 … 一回、表出ようか? 個人的に話したいことがあるから」


空気を読まないアキの振る舞いにブチ切れ寸前の池田をヒロシが必死に止めました。

「な、何だよ?」

… … … … …

発車10分前、改札がオープンすると、待ちわびていた乗客たちが我先にお座敷列車が止まっているホーム目指して雪崩込んで行きました。

… … … … …

観光協会。

知らせを聞いてユイの両親、功とよしえも駆けつけてきています。

発車時間が迫るごとに態度が悪くなる池田が足をテーブルの上に投げ出して、大きな声をあげました。

「あ~あ、発車まであと10分しかないわ!」

功が立ち上がって頭を下げました。

「本当申し訳ない、6時には車に乗せて駅まで送ってたから、もうてっきり着いていると思って … 」

「まさか、ドタキャンするとはねえ」

「そういう無責任なことするこじゃないんですよ」


非難する池田に弁解するよしえ。

「来た?!」

興奮状態の大吉が飛び込んできました。

「どうする? 発車準備整っちゃったけど、やめる?」

「やめるって … 駅長、落ち着いて」


吉田がなだめました。

「何かもうさ、あんだけ人集まってくれたらさ、何かやめてもいいかなっていうか … 走っても走らなくても、お祭りじゃあ はっはっはは … 」

「完全に躁状態ですね」

「黒字は確定してるからね … 黒字ハイだね」


状況を顧みずに、大笑いする大吉を唖然と見つめるヒロシと保。

「やめたら、チケット払い戻しですよ … 」

「なぬ?」


しおりに言われて初めて気づく大吉。

… … … … …

お座敷列車にはウニ丼も運び込まれました。

「さあ、私も中に入り込んでみたいと思います」

テレビカメラと共に福田萌がお座敷列車に乗り込むと、満員の乗客から歓声が上がりました。

一番前に陣取ったオタクのリーダー格(?)ヒビキ一郎にマイクを向けました。

「こちらかなり早くからふたりを追いかけてきたというアイドル研究家の … ジヒビキさん」

「おしい、『ジ』はいらない、あとね厳密に言うと追いかけてたのはユイちゃんだけ、俺ユイちゃん押しだから」


… 相変わらず面倒くさい男です。

… … … … …

とうとう出発時間の9時を回りました。

リアスで待機する海女姿に着替えたアキ、何回も何回もユイの携帯を呼び出しています。

「だめ、出ない … 」

「どうするアキ、もう少し待ってみる? … それとももう中止にしてもらう?」


春子にそう言われて、アキは大きく首を振りました。

「何なら、春ちゃんが代わりに乗ってくれてもいいんだけどな … 」

この期に及んで適当なことを言うなと大吉は本人に怒られました。

「来るよ、ユイちゃん、だって約束したもん! … それまで何とかひとりで頑張る!」

アキがそう言うのであれば、誰も口は挟めません。

その時、アキの携帯に着信が … ユイからでした。

「もしもし、ユイちゃん?」

色めきだつ一同。

「 … アキちゃん?」

「んだ、アキだよ、今どこ?」

「 … ごめん」

「いいよ、謝んなくて … 大丈夫か?」

「 … うん」

「ねえ、こっち来ない?」


ユイは黙ったままです。

「おいでよ、皆集まってるよ」

「 … アキちゃん、びっくりしないで聞いてね。『じぇじぇ』とか言わないで、あと周りの人に聞こえないように気をつけて」


アキは周りの大人たちにOKサインを出すと、皆から離れた部屋の隅に移動しました。

「 … スカウトの人がいるの、間違いかもしれないんだけど、芸能事務所のスカウトの人がいるの」

アキは「じぇじぇ」と言いそうになるのを慌てて止めました。

「 … 聞いちゃったの昨日、その人が電話で私たちふたりの話してたの … ふたりともキャラはいいけど、歌唱力が問題だって」

「ちなみに誰?」

「勉さん … 」

「じぇじぇっ!」


今度は思わず口走り、勉さんの顔までまじまじと見つめてしまいました。

「えっ?!」

「なになに?!」


一同の視線も勉さんに集中します。

「 … の弟子の水口さん、いるでしょ?」

「うん」

「 … だから、無理」

「えっ、ええっ、何言ってるの?」

「 … お腹痛い、無理」


アキは店を飛び出て、駅務室に駆け込みました。

「 … 自信ないの、失敗する、怖いよお … 楽しむ自信がないの」

「あんなに練習したのに?」

「 … ごめん」

「おらだって怖えよ、ユイちゃん … だけど、それ以上に楽しみだ … 覚えてる? こないだユイちゃんに怒られたべ?」


『遊びじゃないんだよ!

アキちゃんにとっては、青春の1ページっていうか、高校生活の思い出づくりか知れないけど …

私にとってはスタート地点だし、大事なチャンスなんだあ! 真剣にやってくれないと困るんだあ!』

「だから、ユイちゃんの足引っ張んねえように頑張るけど、だけど … おらにとっては大事な思い出だもん …だって、今日で最後だもん … いいべ?

ユイちゃんと電車さ乗って、歌いてえもん … 思い出つくったっていいべ?」

「 … うん」

「じゃあ、おいでよ!」

「 … うん!」


アキは駅務室を飛び出しました。

「今どこ、どれくらいかかる?」

出迎えに外へ出ようとアキが通り過ぎた女子トイレからユイは出てきました。

「だあ!アキちゃん!!」

アキのあとを追っていた大吉がいきなり目の前に現れたユイを見て腰を抜かすほど驚きながらもアキを呼びました。

「えっ?」

目と鼻の先に隠れていたユイ。

「じぇじぇじぇじぇ」

「ごめんね … 」

「ユイちゃん!」


アキの顔がほころんでいきます。

コートを脱いだユイはすでに海女姿に着替えていました。

「やる気満々じゃん!」

照れ笑いするユイ、ようやく笑顔が戻りました。

「いくべ!」

アキはユイの手を取るとホームに向かって走り出しました。

… … … …

「来た来た来た、来ましたよ!」 

ふたりを先導して走る池田。

「ご覧ください、北鉄のユイちゃん、そして海女のアキちゃんによる1日限定スーパーユニット『潮騒のメモリーズ』が29分遅れでただいまホームに到着しました!」

福田萌の実況を背に、列車に乗り込んだふたり。

座敷の入り口に掛けられた暖簾の前で微笑みうなずき合いました。

… … … … 

暖簾をくぐって座敷に上がったユイとアキを迎える割れんばかりの拍手と喝采。

「ミス北鉄のユイちゃんです!」

「海女のアキちゃんです!」


お互いを紹介し合うふたり。

「ふたり合わせて … 潮騒のメモリーズです!」

ふたりで考えたという例のポーズで決めました。

最高に盛り上がる乗客。

「それじゃあ、出発進行!!」

窓の外から春子が覗いて手を振っているのが見えました。

笑顔で返すアキ。

ホームにも溢れるたくさんの人々、春子が北鉄に乗ってこの町を旅立ったあの日のようでした。

今その春子が娘を乗せた列車に向かって手を振っています。

いくつもの困難を乗り越えて、お座敷列車は走り始めました。





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2013年05月29日 (水) | 編集 |
第51話

ふたたび部屋に引きこもってしまったアキ、朝になっても起きてきません。

「アキ、朝ご飯持ってきたよ」

春子が声を掛けてもアキは布団にもぐったままでひとこと。

「いらね」

「いらねって、あんたお腹空いてるんでしょ?」

「いらねっ!」

「ああそう、じゃあここ置いとくから勝手にしなさいね」


春子の気配がなくなると、アキはもそもそっとベッドを抜け出して、部屋の前に置いてある食事の盆をこっそりと手に取ろうとしました。

ふと視線を感じて階段の方を見ると、こちらを見て春子が笑っています。

「いらねったら、いらねっ!」

… … … … …

お座敷列車の運行日まであと2日、北鉄および観光協会は最大のピンチを迎えていました。

アキの出演が取りやめと発表されて以来、観光協会は、問い合わせとキャンセルの電話の対応で大わらわです。

「すいません、天野アキちゃんの方が体調不良で … その代り、トシちゃんのそっくりさんがきます」

「払い戻し? あららららら … 」


… … … … …

駅舎の壁に貼られたポスターのアキの写真の上にトシちゃんのそっくりさんを貼り直している大吉と吉田。

「この人、何ができるの? トシちゃん以外に」

「マッチもやったことあるって言ってました … しょうがねえでしょ、誰も捕まんなかったんだから!」


ため息をついた大吉に吉田が逆ギレしました。

そこへ走りこんできたヒロシ。

「悲しいお知らせです!」

「その顔で明るいニュース持ってきたら動揺する」

「キャンセルの電話が鳴りやみません、現段階で座席数の3分の1がキャンセル … 」


キャンセル待ちの客に回そうにもキャンセル待ちをキャンセルする客の方が多く、キャンセル待ちのキャンセルを待つ客もキャンセル … とにかく事態は深刻でした。

「だから、アキちゃんじゃないとダメなんだよ」

「トシちゃんじゃダメだあ」


ふと売店の横にユイが立っていることに気づくヒロシ、ユイは無言で手招きをしました。

… … … … …

「だから、あたしが言っても聞かないんだって」

ヒロシとユイはリアスにいる春子にアキのことを説得してくれるように頼みましたが、返事はつれないものでした。

「おばさんは聞きたくないんですか? アキちゃんの歌、『潮騒のメモリー』」

「いやいや歌われてもねえ、聞きたくないっていうかさ …

あんたたちがちゃんと仲直りして … で、堂々と楽しそうに歌うんだったら聞きたいかなあ、おばさんも」


無言で店を出ていくユイ、あとを追うヒロシ。

何かを確信したかのように春子はニヤリと笑いました。

… … … … …

腹を空かせたアキは部屋から下りて来ました。

「夏ばっぱ、干し芋もらうよ、夏ばっ … 」

板の間にユイが立っていました。

「やろうよ、お座敷列車」

上り込んできたユイは、アキのいる台所までどんどん入ってきました。

「ごめん、こういうの最後にするから … お互い言いたいこと言い合おうよ」

「言いたいことなんか、ねえ」


目をそらしたアキはユイの前から逃げ出しました。

「アキちゃん!」

ユイはアキの後を追いかけました。

「やめてよ、おら今から干し芋食うんだ!」

部屋の中で追いかけっこするふたり。

「アキちゃん!!」

… … … … …

一方、ヒロシは北三陸駅で待ち伏せして種市を捕まえました。

「いいから来い」

「なんすか?!」


種市の手を掴んで強引に何処かへ連れて行くヒロシ。

… … … … …

春子がリアスから家に戻ると玄関の外で夏が家の中の様子を窺がっていました。

「何してるの?」

夏は唇に指を立てて、ひそひそ声で答えました。

「ユイちゃんが来てる」

「えっ?」

「邪魔するなよ、ナーバスになってるから、な」


夏は春子に持っていた荷物を預けると何処かへ行ってしまいました。

… … … … …

逃げ回るのはあきらめたアキ、ふたりは少し離れて座っていました。

「くやしかったの、アキちゃんと知り合うまで負けたことなかったんだよ、同世代の女の子に」

ユイが一方的に話し、それをアキは黙って聞いていました。

「アキちゃん、面白いし、一緒にいて楽しい … けど、周りが『アキちゃん、アキちゃん』ばっかりだと何か複雑っていうか … ごめんね、器が小さいんだよ、きっと …

種市先輩のこともそう、アキちゃんに彼氏ができるって想像しただけで … なんか、ムカついたっていうか … 」


アキが初めて口を開きました。

「じゃあ、ユイちゃん、種市先輩のこと別に好きじゃないの?」

「よくわかんない … 」

「おら本当に好きだったんだよ、今でも好きなんだよ!」

「ごめん … だから、一度は断ろうとしたんだよ、でも … 」


アキはユイの顔をのぞきこみました。

「 … 東京に彼氏がいるなっていいなって、東京の彼氏と遠距離恋愛したかっただけなんだ」

… … … … …

「 … 違う違う違う、まだウソついてる」

ユイは立ち上がって、アキの傍に座りなおしました。

「だから、要するに嫌なんだよ! アキちゃんと同等か、私の方が上じゃないと気が済まないの!

… そういう性格なの」


偽らざる気持ちを吐き出しました。

「そっか、ユイちゃんはそんな風に考えてたんだな」

「ごめん … 」

「おら、長え夢から覚めたような感じだ」

「夢?」

「んだ、こっちゃ来てからいいこと続きだったべ? 『アキちゃんアキちゃん』って皆に可愛がられて …

だから、種市先輩がユイちゃん好きだって聞いた時も、くやしくて頭に来た、ユイちゃんのこと恨んだし、妬んだし、『地獄に落ちればいい』って思った」


無言でうなずくユイ。

「バカだな、普通に考えたら、おらとユイちゃんでは雲泥の差があるのに、そんなことも忘れるぐれえ、おら調子に乗ってたんだな」

笑ったアキの顔は陰りが消えていました。

「もう覚めた、おら何も変わってねえ … 所詮は地味で暗くて向上心も … あれっ?」

「どうしたの?」

「昔ママに言われたの、地味で暗くて向上心 … あと何だっけ? 思い出せねえ」


… … … … …

玄関の外でふたりのやりとりをずっと聞いていた春子。

昔、自分が何気なしに口走った言葉がアキの心にカサブタのように貼りついてたことが、たまらなくなって … 思わず戸を開けて中に入りました。

「思い出さなくていい、そんなの!」

「ママ … 」

「アキはもう地味じゃないし、明るいし、向上心も協調性もあるんだから!」


まるで怒っているような口調で言いました。

「あ、協調性だ」

「もういいから … あのね、男取られたら悔しいのが人間、妬んで恨むのが健全な女子!」


春子の剣幕に唖然とするアキとユイ。

「もっとユイちゃんと張り合えばいい、ケンカすればいい、男だって取り返せばいい、地獄に落とせばいい!

あんたたち何も変わらない、ふたりとも可愛いし、ふたりともバカだし … ふたりとも子供なんだから!」


… 一番熱くなっているのが春子でした。

「何かお腹空いたね、何か作るわ、ママ」

… … … … …

種市がヒロシに連れてこられた先は何のことはない観光協会でした。

明日の朝までにあるものを完成させるためにヒロシは種市にも協力してほしかったのです。

… … … … …

ユイを見送るためにアキは外まで出てきました。

「どうする、明後日? お座敷列車 … 」

そう聞かれましたが、アキはまだ迷っているようです。

「どうしても嫌ならいいよ、無理しなくて … でも学校にはおいでよ

卒業式だよ、明日 … 来なよ、絶対」


ユイはピースサインを下に向けてアキの前に突き出しました。

ふたりだけにわかる秘密の合図 …

アキも同じようにポーズを取りました。

… … … … …

観光協会。

ヒロシの掛け声で、皆で手分けしてペンキを塗っていた大きなベニヤ板を起こして立て掛けました。

「よし、できた!」

満足そうな保、一同拍手。

「じゃあ、飾りますか?」

男衆がうなずき合うと、しおりが驚きました。

「ええっ、明日の朝にしませんか?」

「っていうかもうだいぶ朝ですけど … 」


ブライド越しに外を見た種市が言いました。

誰もが作業に夢中で気づかなかったのですが、いつの間にか外は明るくなりかけています … 笑い合う一同。

改めてお互いを見ると、皆の顔や手はペンキだらけ、それでまた笑いが起こりました。

… … … … …

『お座敷列車運行まであと1日』

ユイと並んで、北三陸の駅舎から出て来たアキの足が止まりました。

「どうしたの?」

一点を見つめたアキ。

「ユイちゃん、おらやる!」

「え?」

「お座敷列車やるわ、『潮騒のメモリー』歌う」

「じぇじぇっ!」


急に走り出したアキ、あとを追うユイ。

アキが指差した方をユイは見上げました。

「うわあっ … 」

駅前の観光協会のビルに掲げられてある北三陸の名物の看板、『北の海女』『北三陸鉄道』の下、長い間空きスペースだった位置に、大きくアキとユイの似顔が描かれた『潮騒のメモリーズ』の看板が並んで飾られていました。

それは、足立ヒロシ君と種市先輩が中心となって、昨夜徹夜で作った看板でした。

「やんねえ訳にはいかねえべ?」

「うん」


… … … … …

「僕たち卒業生は、母校で学んだ技術と不屈の南部ダイバースピリットを胸に社会へ羽ばたいていきます …

磯野先生、3年間ありがとうございました!」


潜水土木科の卒業生を代表して、種市が磯野に謝恩の意を伝えました。

「ありがとう、卒業しても遊びに来いよ … って毎年言ってるけど、誰も来ねえ!」

男泣きする磯野。

廊下で控えていた在校生たちが卒業生に別れを告げるために一斉に教室になだれ込みました。

アキは、ガラス窓越しに種市のことを見つめていましたが、目が合った瞬間、その場から逃げ出しました。

「天野!」

廊下に飛び出して来た種市に呼び止められました。

「いがった、もう会えねえかと思った」

アキは近づいてくる種市にきちんと向き直りました。

「卒業、おめでとうございます」

「うん、ありがとう」


他に何も言葉が出てこないアキに種市は言いました。

「あと1年、頑張れよ」

右手を差し出す種市。

「汚ねえ」

ペンキだらけの種市の手を見たアキは思わず口にしてしまいました。

「えっ、うわ、これは … 」

慌てて手をズボンでこする種市。

… きっと先輩も、あの看板を作ることを手伝ってくれたんだ …

「ありがとうございました、先輩!」

自分の方から右手を差し出しました。

「おうっ」

ふたりは固く握手を交わし、あの日以来の微笑みを交わしました。

… … … … …

北三陸駅。

「ええ、ええ、はい、明日9時からです」

聞くともなく耳に入ってきた男の声が何となく気にかかって、ユイは立ち止まりました。

「一応席はキープしてありますんで、フトマキさんにもそうお伝えください」

声の主は、水口でした。どこかに電話をかけています。

盗み聞きするつもりはなかったのですが、ユイはそのまま聞き耳を立てていました。

「はい、地元のローカル番組のカメラが一台それだけです … 僕もビデオまわすんで送りますよ」

話の内容から察すると、明日のお座敷列車のことのようです。

「いやあ、ふたりともキャラは良いんで、問題は歌ですね、歌唱力が … 」

ユイは思わず、柱の陰に身を隠していました。

明らかに自分たちのことです。

「 … 可能性ですか? 今のところ、五分五分ですね … いやあ、母親のガードが固くて、訛ってる子の、海女さんの方です … 」

馬脚を現したか、水口 … ?!

あまちゃん

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2013年05月28日 (火) | 編集 |
第50話

「ユイちゃん … 」

春子の目くばせに気づいたアキが玄関を見ると、そこにはユイが立っていました。

「こんばんは … 」

あこがれの種市先輩を親友のユイちゃんに取られちゃった …


アキの表情がみるみるうちに険しくなって、囲炉裏の傍から立ち上がると脱兎のごとく母屋を飛び出して、離れの作業小屋に逃げ込みました。

そして、中から心張棒をかってしまいました。

「アキちゃん、ごめん … でも、つきあってはないの、本当に … 種市先輩が誤解してるだけ!」

小屋の外からユイが話しかけても、アキは耳を貸さずにそこらにある箱や机を入り口に積み上げています。

バリケードを作ると、背中を向けたまま膝を抱えて座り込みました。

「ごめん、でもこんなことでアキちゃんと気まずくなりたくないから … 」

「謝らなくてもいいんじゃないの?」


春子が出てきてユイに声を掛けました。

「えっ?」

「ユイちゃん、ひとつも悪くないでしょ … ただ種市君にとって、アキよりユイちゃんの方が魅力的だったって話じゃん」


春子は作業小屋にこもっているアキにも聞こえるように言いました。

「いいのいいの、この歳になって失恋したことがない方がどうかしてるんだから」

… … … … …

春子は取りあえず、ユイを母屋に招き入れました。

「彼氏とか必要ない人なんです、私」

ユイは自分の胸の内を春子に話しました。

「だから、浮ついてるアキちゃん見てイライラしたし、ちょっと嫉妬したのかもしれません」

「正直だなあ」

「何でユイじゃなくてアキちゃんなのって思ってたし、見た目カッコいいし普通に、あと … 東京行くって言うし … 」

「ああ、東京に彼氏が欲しかったんだね」


春子はユイはアキと違って種市じゃなくてもよかったことを暗に指摘していました。

「あ、ごめん … あたしユイちゃんのお母さんじゃないからさ、どうしてもアキ寄りっていうか、ちょっとキツイ言い方になっちゃったね …

でもね、やっぱり自分の娘は可愛いのよ」

「ごめんなさい」


春子は首を振りました。

「でも、あの子変わったよ … さっき、ユイちゃんのこと突き飛ばして出て行ったでしょ? あれ本気でくやしかったんだよ、前はそんなことできる子じゃなかったのに …

アキも強くなったのよ」


… … … … …

「あ~んもう、腹減った腹減った腹減ったあ!」

焼きそばを食べかけで離れにこもってしまったアキ、どうしようもなく空腹になってきてましたが、かといってユイとは顔を合わせたくない … 駄々っ子のように床にひっくり返って手足をジタバタさせていました。

その時、入り口をノックする音がしたので、アキはすかさず元の姿勢を取りました。

「アキ、ユイちゃん帰るよ」

母の声がして、続けてユイが声を掛けてきました。

「早く良くなってね、おやすみ … 」

アキは黙って背を向けたままです。

「わざわざありがとうね」

「いえ、だって … 」

「 … 親友だもんね」


ユイが憚った言葉を代わりに春子が口にしました。

… … … … …

二日後、アキは学校に行けるまで回復しました。

しかし …


アキが袖が浜の駅から電車に乗り込むと、ユイと出くわしました。

「おはよう」

いつものように挨拶をしてくるユイを避けてアキはひとり離れた席に腰かけました。

それでもユイはアキの横まで来て、もう1回「おはよう」と声を掛けましたが、アキはひとことも発さずに席を移ってしまいました。

ふたりの関係はもはや修復不可能です …

… … … … …

喫茶リアス。

「ちょっちょ、ちょっと待って、やらないって何を?」

わが耳を疑った大吉は夏に聞き返しました。

「だから、お座敷列車のイベント、アキはやらねえって言ってる … 悪いなあ、本人がそう言ってるから」

申し訳なさそうに話す夏の説明を聞いて、大吉は一瞬気が遠くなりかけました …

「じぇじぇええええっ!

それはだって、じぇじぇ … もう準備じぇ、じぇんぶ、じぇんぶ ◎×▲◆ … 」

「“じぇ”抜きでしゃべれ、イライラする!」


カウンターで隣に座っていた弥生が突っ込みを入れました。

「チケットは完売、列車の内装も完璧、総工費1,000万、お料理・お飲み物の発注もやって、あとはアキちゃんユイちゃん乗るだけだよ!?」

「そのふたりが男の取り合いで泥沼だもんな、『泥沼列車』か」


人の『泥沼』大好きな弥生が茶々を入れました。

「とにかく、やってもらわねば困るんだ!」

大吉はリアスを飛び出して行きました。

… … … … …

観光協会。

呼び出された種市を大吉、吉田、ヒロシ、保の4人が取り囲んでいます。

「まったくエライことしてくれたな、種市君よ」

「本当だよ、大人しくアキちゃんとつきあってればいいものをよ」


刑事気取りの大吉と吉田が種市に吐き捨てました。

「何が不満なんだ? アキちゃん、めんこいべ?」

「今からでも遅くない、ヨリ戻せ」


保に命令されましたが、種市はキッパリと答えました。

「いや無理っす、自分の気持ちにウソはつけねえっす」

一気に笑い出す一同。

「自分の気持ちなんかどうでもいいべえ!」

突然、吉田が大声を出しました。

「北鉄は今、存続の危機にさらされてるんだよ … お座敷列車は起死回生の町を挙げての一大イベントなんだじゃあ!」

詰め寄る大吉。

「運行中止になったら、栗原ちゃん、どうなる?」

保に聞かれて、しおりが答えた試算は、約1,500万円の損害でした。

「間違いなく北鉄は廃線だべという現実を踏まえて、もう一度聞く」

大吉が念を押して、吉田が尋ねました。

「アキちゃんとユイちゃん、君が好きなのは … 」 

「ユイです!」


躊躇せず答える種市。

「アキちゃん、めんこいべ!」

今度はヒロシが声を荒げました。

「 … ヒロシ君、さっきからそれしか言ってない」

不満そうなしおりを見て、保が声を大にして話しはじめました。

「足立君は今でもアキちゃんのことが好きなんだよ、しかもユイちゃんの実の兄だ!」

「そりゃ、複雑だ … 」


合いの手を入れる吉田。

「複雑すぎて訳わかんなくなって、たまたま近くにいた栗原ちゃんと今職場恋愛中です」

「 … そ、それは今いいじゃないですか」

「たまたまじゃねえし!」


ふたりに対する嫌味とも聞こえる保の主張、結局何が言いたいのか …

「その複雑な足立君がアキちゃんとの交際ば全力で勧めてるんだ、その気もちば汲んであと3、4日こっちさいる間だけ彼氏になれ」

しばらく考え込む種市、答えを待つ一同。

しかし返事は変わりませんでした。

「 … 自分の気持ちにウソはつけねえっす」

「お前の気持ちひとつでローカル線一本救えるんだよお!」


声を張り上げる大吉に負けないくらいの声で種市も言い返しました。

「俺だって、北鉄好きだし、無ぐなってほしぐねえっす! … でも、無理っす … 第一、今更天野に交際申し込んだって、OKしねえと思う。

不器用でバカだけど、人の本心は見抜く勘のいい奴です。

… 自分は天野を傷つけてしまった、もうつきあう資格ねえっす」


そこまで言われたら、誰も返す言葉はありませんでした。

「仕方がねえ、中止だ … 」

… … … … …

あきらめた大吉がそう宣言した時、入口の戸が開いて … 入ってきたのは、ユイと父親の足立功でした。

「私ひとりでもやります!」

「ユイ … 」

「アキちゃんの分まで頑張る、だから中止にはしないでください」


顔を見合わせる一同。

「私からも頼む、この通り!」

功は両膝をつきました。

「娘がね、毎度お騒がせをして申し訳ない … ミス北鉄としての自覚を欠いた身勝手な行動だったと本人も反省してる。

何よりお座敷列車の言いだしっぺはこの私だ、万一中止になって北鉄が廃線なんてことになれば、責任とって私は … 県議会議員を辞職します!」

「じぇじぇじぇっ」


… … … … …

♪ … 潮騒のメモリー 17才は寄せては返す 波のように激しく

「だから、感情ってものがねえのかって!」

弥生の激しい叱責の声がリアスの外まで聞こえてきました。

ちょうど店の前を歩いていたアキは足を止めて、聞き耳を立てて中の様子を窺がいます。

ひとりでお座敷列車に乗ることになったユイ、歌唱指導もマンツーマンです。叱られ役だったアキは隣にいません

「 … すみません」

「謝る時も無表情だ … マネキンか? マネキンだったら飾るぞ、ブティック今野に!」


初めて見学に訪れた功とよしえの目の前でいつもにも増して厳しい弥生の指導。

見かねた功が弥生に懇願しました。

「あの、もう少しやさしく指導してください」

「そうね、ユイは褒められて伸びる子だもんね」


よしえも口を挟みます。

「うるせえっ、ここはおらの独壇場だ! 外野は引っ込んでろ!」

… えっ、いつから?

「ユイ、頑張れよ、ふたり分だからな」

「大丈夫、叩かれても伸びる」


ユイの声は少し震えているようにも聞こえましたが、アイドルを目指す彼女はこんなことでメゲルわけにはいきません。

「歌に感情を乗せて … 」

♪わだすの~ おはがのまあえでえええ ながないでください …

弥生の後について同じように声を張り上げるユイ。

… … … … …

そっと中を覗こうとするアキ、ドアが開いて水口が出てきました。

「やあ、どうも」

アキは頭を下げて、リアスから離れて待合室のベンチに背中を向けて腰かけました。

「中に入らないの?」

頑ななアキに水口もベンチに腰かけました。

「振られたんだって?」

無神経な言葉にアキは水口をにらみつけました。

「何で知ってるんだ?」

「知りたくなくても、勝手に耳に入ってくるよ … ここの町の人らは口を開けば、アキちゃんユイちゃんだもの」


そっぽ向くアキ。

「あ、ネットの動画見たよ、あの海潜ってウニ獲るやつ … やあ、感動したよ、もっと浅瀬でちゃぷちゃぷやってる感じだと思ってたから」

少し気をよくしたのか、アキは本気獲りのことを話し始めました。

「一年に一回、沖さ出てなんぼ獲ってもいい日なんだ」

「へえ、怖くないの?」


水口が乗せるのがうまいからなのか、アキは傍に座りなおすと一生懸命話を続けます。

「そりゃ、怖えべ … あの日は特に潮の流れが速がった、でも怖えと思っちゃダメだ … 何でかわかるか?

肩をすくめる水口。

「脳みそ使うと酸素が足らなくなって、息が続かねえんだ … だから何にも考えねえで潜るんだ

今年の夏もやっから、蛇口さんも来るといい」

「 … 惜しい、水口。蛇口から出る方ね」


アキは、久しぶりに笑ったような気がしました。

しかし、それも束の間 …

「元々は東京の子だったんだよね、何処?」

「 … 世田谷区」


また背中を向けてしまったアキに水口は詮索を続けました。

「世田谷のどの辺?」

「東京の話はしたくねえ、東京なんかさ行くやつはバカだ … 浅草寺の鳩に襲われて死ねばいい!」

「えっと … それは誰に対しての暴言だろう?」


『出発、いつですか?』

『3月18日、卒業式の次の日だ』

『お座敷列車の日だ。』

『なんか、天野としゃべってると、東京さ行ぎたくなくなるな … 』

… 思えばまだ、つい数日前の会話でした。

… … … … …

その時、横を通り過ぎる人影。

「じぇっ」

アキは思わず声を上げてしまいました … 種市でした。

驚いたように振り向く種市、アキは固まったままです。

「あ、そうだ、タバコ買いに出たんだ」

気を利かせた水口は口実を作ってその場を離れていきました。

「風邪、治ったのか?」

種市に尋ねられてうなずいたアキ。

「そうか、よかったな … 」

リアスから『潮騒のメモリー』のイントロが流れ、ユイの歌声が聞こえてきました。

「あ、そうだ、東京の住所 … 」

「ごめんなさい!」


アキは逃げ出してしまいました。

… … … … …

「おかえり」

アキは返事もしないで家に上がってきました。

「おかえり」

春子はもう一度声を掛けましたが、無言でその横を駆け抜けて2階の部屋に飛び込みました。

手提げかばんを放り出すと、ベッドにうつぶせに倒れこみました。

… 春子が思っているほど、アキはまだ強い子じゃないようです …

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2013年05月27日 (月) | 編集 |
第49話

「バカ野郎おおお!」

天野アキ17歳、生まれてはじめての失恋です。

『自分、ユイが好きなんだ … つかもう、つぎあってる、正式につぎあってる、バリつぎあってる … 遠距離恋愛だ … 』

考えもしなかった、種市先輩に好きな人がいたなんて、しかも相手はアキの親友、ミス北鉄のユイちゃんだなんて …

「うわあああ!」


アキの暴走自転車はスピードを緩めることもなく堤防を走り抜けました。

ザッブ~ン!!

この日の水温、7℃です …


… … … … …

アキが自転車のまま海に飛び込んだ … 漁協は大騒ぎです。

急いで引き揚げて、漁協に連れて行くと、組合長はありったけのストーブを焚いてアキの周りを取り囲み、かつ枝がずぶ濡れの体にタオルをかぶせました。

「ほらほらほら、自分で拭け!」

落ちた本人はただ泣くだけです。

「ETかよ?!」

珠子がアキにきつい口調で言いました。

「自転車で空が飛べると思ったか、という意味の例えつっこみだ … 笑え!」

彼女なりの慰めか、場を和まそうとしたのか? … しかし、アキには通じずに輪をかけて泣き出しました。

「アキ!」

知らせを受けて駆けつけてきた夏。

「大丈夫か?! 早く着替えろ、風邪ひくぞ!」

「放っといてけろ、おらなんか風邪ひいて、鼻詰まって死んじまえばいい!」


… … … … …

「振られたあ?」

リアスから戻った春子は、夏から今日の出来事を聞いて驚いています。

「えっ、種市君?! … この間、デートしたばっかりなのに」

「男と女のことだからな、こればっかりは … 」

「だからってバッカじゃないの、海に飛び込んだりするなんて」


春子が部屋に様子を見に行こうとするのを夏は止めました。

「だめよ、もともと暗い子なんだから … 東京で暮らしてた時はね、地味で暗くて、向上心も協調性も存在感も個性も華もない、パッとしない子だったの。

本来は取扱い注意の子なんです。

裏と表があるの、何かの拍子にひっくり返って、裏の顔がまた出てさ … やっぱ、見てくるわ」


話しているうちに余計に心配になってきた春子は2階へ上がって行きました。

… … … … …

アキはベッドの上で布団を頭からかぶっていました。

眠ってはいないようですが、声を掛けても返事は一切ありません。

「あのさ、ママ今日ずっと起きてるから、しゃべりたくなったら呼んで」

金八先生のような母でした。

… … … … …

次の朝。

北三陸駅の入り口には、『お座敷列車運行まであと5日』とカウントダウンの大きな看板が掲げられています。

「アキちゃん、学校休むってよ」

大吉に声を掛けられて、ユイは振り返りました。

「聞いてねえか? 風邪だと。さっきウニ丼積みによったが出てこねがった」

「そうか、だから返信返って来ないんだ」


ユイはもう一度携帯を確認しましたが、やはりアキからの返信は届いていません。

「ユイちゃんも気つけてな、いよいよ今週末、お座敷列車だからよ … まあ、ユイちゃんは海さ落ちたりしねえだろうけどよ」

「えっ?!」


うなずいて歩き出そうとしたユイですが、大吉の言葉に足を止めました。

… … … … …

喫茶リアス。

「失恋か、甘酸っぺえなあ … 私なんか、もう毎日失恋したい」

美寿々が思わせぶりにカウンター席の水口の顔を見ました。

「そうですか?」

「だって、失恋しなきゃ新しい恋は生まれないじゃん」


何かにつけてまとわりついてくる美寿々のことを別に嫌がるでもなく手慣れた感じであしらう水口。

「 … ごめん、という訳で、今日これで上がらせてもらいますね」

洗い物をしながら、春子が言いました。

「この話、くれぐれも皆には“これ”でね!」

唇に人さし指を立てて、美寿々だけでなく、水口や勉さんにも念を押しました。

その時、入り口が開いて飛び込んできたヒロシは、開口一番。

「アキちゃん、振られたって本当ですか?」

「ええっ?! 早えな」


しかも、うれしそうなヒロシ、誰から聞いたかというと …

「大吉さんから、一斉メールで」

… 大吉よ、あんたって人は …

… … … … …

天野家。

夏が居間に掃除機をかけていると、スウェット姿のアキが、“もそ”っと起きてきました。

夏の目の前を夢遊病患者のように通り過ぎると、そのまま玄関へ。

「アキ、そんな薄着で何処さ行く?」

上がり間口に腰かけて、ただ一点を見つめるアキ。

夏は慌てて、その肩に半纏を羽織わせました。

囲炉裏に火を起こそうと夏がそばを離れると、アキは立ち上がり半纏を払いのけました。

そして、靴も履かずに外に出ようとしました。

夏は連れ戻して、また半纏を羽織わせましたが、隙をみせると同じように外へ出ようとします。

「アキぃ!」

… … … … …

「確かにかなりの重傷であることは、間違いねえべ」

「普段がうるさすぎっから、静かでいいんだが … 」


海女クラブで内職をしながら、夏からその話を聞いたかつ枝は腹を立てていました。

「 … しかし、種市ってわらしはよ、今時珍しい好青年だと思ったが、とんだ狸だな」

「締めてやんねえとな」


弥生が作りかけのミサンガで締めるマネをしました … この人なら本当にやりかねません。

… … … … …

北三陸駅。

「待ちなさいよ!」

種市が振り向くと、ユイが怖い顔をして立っていました。

「ユイ」

笑顔で寄ってくる種市をユイはどなりつけました。

「気安く名前で呼ばないでよ!」

その様子をリアスの小窓から窺っている大吉と美寿々がいました。

「ねえ、何したの? … とぼけないでよ、アキちゃん学校休んだでしょ!」

「ああ、風邪だって聞いたけど … 」

「何で風邪ひいたと思う?」


詰め寄ってくるユイに種市は答えました。

「海さ飛び込んだって聞いたけど … 」

「何で海さ飛び込んだと思う?」


そこまでは種市にはわかりませんでしたが、

「 … 若さ?」

「そんな訳ないじゃん!」


ブチ切れたユイが、種市の胸倉をつかんだ時、ちょうどホームから下りて来た吉田。

「ごゆっくりどうぞ」

モメているふたりを見てそう一言、そそくさとリアスに入って行きました。

… … … … …

「何だ、何の騒ぎ?」

逃げるように入ってきた吉田に大吉は尋ねました。

「ユイちゃんが種市締めてます」

「なるほど、女同士の友情って訳だな」


うなずき合う美寿々と大吉。

「さすが、『潮騒のメモリーズ』、これで一安心だ」

「それはどうかな? … そんな友達想いじゃないですよ、あいつ」


安堵する大吉にヒロシが水を差しました。

「いや、ユイちゃんは良い子だよ」

ユイの心の叫びを聞いたことがある、勉さんが否定しましたが、今度は弟子の水口が口を挟みました。

「僕も足立さんと同意見だなあ、芸能界を目指すような子は他人のために怒鳴るとかそういう無駄なカロリー使わないと思いますよ」

… … … … …

「だから、もう彼女いるし、天野とはつきあえないってハッキリ言ったよ」

ユイに問いただされて、種市は昨日のことを包み隠さずに話しました。

「待って … えっ、彼女って誰? … 私?」

「 … 他にいねえべ」


ところがユイから返ってきた言葉は …

「やだ、まだつきあってないよね?」

ポカンとした顔の種市。

「いやいやいや、ないからないからないから、怖い怖い怖い、鳥肌鳥肌鳥肌 … 」

ユイは叫びながら種市の前から離れました。

リアスから覗いている大吉たちには何事が起きたのかまったく分かりません。

「こないだつきあうっていったべ?」

「こないだのは予約です!」


困惑の顔の種市。

「予約っていうか、予告! 来週からふたりはつきあうでしょうっていう … 」

「来週からつきあうなら今週からでも」

「よくない!」


真っ赤な顔をして種市をにらみつけました。

「逆に何故その1週間が待てないかなあ?!」

「1週間後に彼女ができるってわかってて、天野とつきあうわけにはいかねえ … 大事な後輩裏切れねえべ」

「 … 結果的に裏切ったじゃん」


それは、自分のこと? …

「じゃあ、別れるのか?」

「だからまだつきあってないって言ってるじゃん!」


髪を振り乱して大声を上げるユイ。

… … … … …

「ただいま」

家に戻った春子は、居間の灯りをつけてはじめて、階段の横に膝を抱えて丸くなっているアキがいたことに気づきました。

「何よ、気配消さないでよ」

「 … おかえり」

「お祖母ちゃんは?」

「 … 漁協」


聞かれたことにボソッと答えるだけのアキ。

「熱は、っていうか何か食べた?」

「 … おかゆとクラッカー」

「おいで、焼きそば作ってあげる」


しかし、アキは囲炉裏の前に移動しただけで相変わらず丸まったままです。

「あんたさ、ヒロシ君のこと笑えないよ」

「え?」

「ヒロシ君が『ストーブさん』なら、あんたは囲炉裏を離れられない … い、い、『囲炉裏ちゃん』だよ」

「うひっ」

「やっと笑った!」


へそを曲げて、そっぽ向くアキ。

… … … … …

ヒロシがリアスから出ると、待合室にはユイの姿はすでになく、種市がひとりベンチに座っていました。

軽く会釈してホームへ向かおうとする種市をヒロシは呼び止めてました。

「なんすか?」

「 … マネージャーとして、いやファン第一号として、いやひとりの男として … やっぱり、マネージャーとして言わせてもらう、アキちゃん泣かせるようなことすんじゃねえ!」


ヒロシは種市をにらみつけましたが、妹に比べてこの兄貴は童顔のせいもあってか、迫力がいまいちありません。

「お兄さんは関係ないでしょ」

そう一言だけ、種市は行ってしまいました。

「お兄さん?」

… … … … …

春子の作った焼きそばを食べるアキ。

「美味しい?」

アキはうなずきました。

「ツラい時も、楽しい時も腹は減るんだよねえ … で、焼きそば食べると、歯に青のりがつくんだよね

… 早く元気になんなきゃ、週末は北鉄のイベントでしょ?」


アキは焼きそばの皿を置いてしまいました。

「やりたくねえ … お座敷列車とか無理、歌ったり踊ったり、今そんな気分じゃねえ」

「そっか … まあ、無理にやることでもないしね。もともとママは反対だしね、気分が乗らないならいいよ、やめちゃえば?」


春子は飲んでいたビールを置くと、囲炉裏に近づきながら独り言のように言いました。

「でもあれだよね、楽しみにしている人、いっぱいいるんだろうね?」

そう言われてアキは再び焼きそばを食べようとしていた箸を置きました。

… … … … …

「種市先輩さ、告白した … 」

ふいに話しはじめました。

「遠距離でもいいから、おらとつきあってけろって」

うなずく春子。

「したら、他に好きな女がいるって言われた … ずっと前から、おらと知り合うずっと前から好きだった女だって … もうつきあってるって」

「誰?」


春子がそう尋ねたと同時に玄関の戸が静かに開きました。

「ユイちゃん … 」

春子が口にした名前にアキはうなずきました。

「んだ … だから、お座敷列車さ乗りたくねえ」

気づいていないアキに春子は軽い咳払いと目で玄関を見るように合図しました。

そっと顔を向けるアキ、そこに … 立っていたのはユイでした。

… … … … …

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2013年05月26日 (日) | 編集 |
さて、次週の「あまちゃん」は …

好きだった種市(福士蒼汰)から振られ、さらに衝撃の事実を聞かされたアキ(能年玲奈)。ショックのあまり真冬の海に飛び込み、熱を出して寝込んでしまう。

アキ!

「地味で暗くて協調性もない」アキに、また戻ってしまうのではないかと春子(小泉今日子)や夏(宮本信子)は心配するが、その予想はあたり、アキは「お座敷列車」のイベントに参加しないと言い出す。

お前の気持ちひとつでローカル線一本救えるんだよ!

このままでは北三陸鉄道は廃線になってしまう。焦った駅長の大吉(杉本哲太)や副駅長の吉田(荒川良々)たちは、種市を観光協会に呼び出し、アキと付き合うよう無理難題を吹っ掛ける。

男取られたらくやしいのが人間、恨んで妬むのが健全な女子!

その頃には、アキはユイと口もきかなくなり、2人の関係は修復不能に思われた。ユイは、思い切って天野家を訪ね、初めて本当の気持ちをアキに伝える。ユイの言葉に心を動かされたアキは、イベントへの参加を決める。

今日で最後だもん、いいべ? ユイちゃんと電車さ乗って、歌いてえもん

本番当日、アキとユイのユニット「潮騒のメモリーズ」を目当てに観光客が殺到しイベントは大成功。二人の人気は一層高まるが、アキは春子との約束を守っていつもの高校生活に戻る。

一方、ユイは喫茶リアスで、琥珀堀り・勉(塩見三省)の弟子を名乗る謎の男、水口(松田龍平)の正体を明かそうと、彼に詰め寄っていた…。
あまちゃん 公式サイトより)

あまちゃん ユイ

潮騒のメモリーを2題 …




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2013年05月25日 (土) | 編集 |
第48話

2009年3月、北鉄開通25周年を記念したファン感謝祭まであと1週間 …

廃線の危機を脱するために一致団結して準備に追われる日々 … 水面下ではいくつかの恋模様が同時進行していました。

幼なじみの春子を想い、ずっと独身を貫いてきた大吉。

昨年末に春子の離婚が成立してからは、より積極的なアプローチを繰り返しています。


喫茶リアス、客は大吉ひとりです。

「今夜、お座敷列車の試運転なんだ」

週刊誌を読みながら気のない返事をする春子。

「本当は誰も乗せちゃいけねえんだけども、もしよかったら春ちゃんだけを特別に … 」

その時、吉田が試運転中止の報告に入ってきました。

作業員が車体の横に勝手に描いてしまった絵が超有名ネズミのキャラにそっくりだという版権問題 … つまり消すのが間に合わなかったのです。

アキに想いを寄せていたストーブさんこと足立ヒロシ、最近は同じ職場の栗原ちゃんといい感じです。

梨明日のカウンターで仲良さげなふたりをよそ目に面白くない保。

「職場恋愛ばスナックさ持ち込んでほしくねえんだよね、酒がまずくなるから」

美寿々に同意を求めましたが、その美寿々は …

勉さんの弟子、ミズタクこと水口君にご執心、不倫・略奪愛・駆け落ちという輝かしい経歴を持つ魔性の女だけに勉さんも気が気じゃない。

… 水口といえば、最近ちょいちょい、アキとユイが弥生に歌唱指導を受けている頃にもリアスに顔を出しているようです。

… … … … …

一方、アキとユイは、振付を思案中。

天野家の離れでカセットをかけながら、ふたりで考えた振りを取り入れての練習中のところへ、春子がお茶を運んできました。

口を出さずにいられない春子は自分で振りをしてみせます。

「もっと激しい方がいいんじゃない?」

「何それ? いいの、ふたりでやるから!」

「いいの? … 邪魔なのねママ、ごめんなさい … 」


すごすごと出て行きました。

ちょっと休憩 …

「ねえユイちゃん、高校出たら東京行ぐの?」

うなずくユイ。

「そっか、いいなあ」

「だってアキちゃん、東京嫌いなんでしょ … いじめられてたんでしょ?」

「いじめられる個性もないほど埋もれてた … ひきこもる勇気もねえし、良い思い出ひとっつもねえ」


自嘲気味に笑いました。

「でも、今ちょっと東京が懐かしい … 」

ユイは何となく理由がわかりました。

「種市先輩?」

アキはコクリとうなずきました。

しかし、大騒ぎしてこっちに残ることを決めた訳だし、両親は離婚してしまった … 今更東京へ戻りたいとは言えません。

「あ~あ、遠距離恋愛なんかできるのかなあ? … 東京にはおらよりめんこくて『じぇじぇ』とか言わない女子いっぺえいるべ」

「そろそろ行かなきゃ」


ユイはそれには答えずに帰り支度を始めました。

「え、まだ早えべ?」

「バス停までちょっと歩くし … じゃあ、明日ね」


何となくぎこちないユイ、離れを出るときに思い出したように言いました。

「 … ちゃんと、種市先輩と話した方がいいと思うよ」

「えっ?」

「あの人、中々本音言わないから」


何処かアキの視線を避けるような … そんな感じでユイは帰って行きました。

種市先輩が本音を言わないって、どういう意味? … アキには全く見当がつきませんでした。

… … … … …

翌日。

大声をあげながら、自転車のペダルをメチャメチャに漕いで、雪道を暴走するアキがいました。

一体何があったのか? … 話は少し前の時間にさかのぼります。

放課後、アキは潜水土木科の準備室で種市が来るのを待っていました。

やって来た種市にアキは意を決して切り出しました。

「何か … 何かちゃんと話した方がいいと思って … 」

「何を?」

「 … 何だべ、おらだちのこと … かな?」


そう言われても、種市は困惑しているようでした。

「先輩、おら先輩のことが好きです、ずっと好きです!」

種市は驚いた顔をしましたが、気を取り直して答えました。

「うん、ありがとう」

「で、なんつうか … それだけで十分だったんです、今までは」


種市はうなずきました。

「でも、そうもいかねっていうか … 先輩あと一週間でいなくなるべ? … 何かこう離れ離れでも安心できる保証というか …

ハッキリ言うとですね … つぎあってほしいんです、おらと正式につぎあってください!」


ついに言いました。

… … … … …

しばらく逡巡していた種市の口から出た言葉は …

「ごめん … そりゃ無理だ、天野、ごめん」

そう言ったあと唇を真一文字に結んでいます。

「 … そうか、そうですか … そうですよね、身軽な方がいいですもんね」

種市は何か言いたそうですが、アキは続けました。

「遠距離恋愛なんて、めんどくせえですもんね」

「いや … 」

「せっかく東京さ行ぐのに地元さ彼女いたら、重いですよね」

「好きな人がいるんだ」


交際を断られたことよりショックでした。

「 … 誰かは言わなくてもわかるべ?」

「わがんねえ … 」


都合のいい話ですが、アキは種市に自分以外に恋愛の対象がいるということを考えたことがありませんでした。

そして、まさかその名前を種市の口から聞こうとは …

「 … ユイだ」

… … … … …

「自分、ユイが好きなんだ … つかもう、つぎあってる、正式につぎあってる、バリつぎあってる … 遠距離恋愛だ、遠距離恋愛バリバリだ」

種市の言葉はこれでもかとアキを打ちのめしました。

「ごめん、こないだ車庫の中で言うつもりだったんだけど … 」

「 … いづからですか?」


ようやくそれだけ聞くことができました。

初めて意識したのは、種市がまだ2年生の時だと言いました。

「じぇじぇ」

「天野が転校してくるよりずっと前だ、通学の北鉄の中で本読んでた … 『じぇ、滅茶可愛い』って思った。

でも、学年違うし、共通の話題もねえし、話しかけられねかった」


去年の秋、アキの付き添いでユイも潜水土木科の実習プールを訪れていました。

「天野のおかげで、しょっちゅう顔合わせるようになって」

皮肉な話でした。

「 … それで十分だった、自分は就職も決まってるし、もしつぎあっても却って迷惑だべと思って …

でもクリスマスに駅で声掛けられて … 」


『待ちなさいよ!』

「ユイは天野に対する自分の煮え切らない態度が気に障ったみたいで … 」

『アキちゃんは、先輩のこと好きなんです … それなのに気づかないふりして、『頑張ってるなあ』なんて、そんなの残酷だと思う』

「 … ああ、それで」

『頑張りゃ、いいてもんじゃねえべ』

何故、種市が急にあんなことを言いだしたのか、アキも理解しました。

「そしたら、また声掛けられて … 」

… … … … …

「ユイ、俺と … つぎあってくれ」

リアスに入ろうとしていたユイは振り向きました。

「 … 俺?」

「ずっと前から好きだったんだ」


ユイは笑いながら首を振りました。

「あり得ない … だって、アキちゃんと私は一蓮托お!」

「わかってる、だから我慢してた、ずっと … でもそれは、天野に対して失礼だべ、頑張っている天野に失礼だべ?」


ユイは首を振り続けています。

「だから、遠距離恋愛だけど、つぎあってくれ」

「嫌だ、絶対ありえない!」


ユイは、リアスの扉に手を掛けましたが、うなだれる種市にひとつだけ尋ねました。

「何処? … 東京の何処に住むの? 練馬とかそれとも … 」

「お台場、会社の寮がお台場にある」


ユイの表情が変わりました。

種市を見る目の輝きも …

「うん?」

「いいよ、つきあってもいいよ … その代り … 」

「何?」

「アキちゃんには内緒 … っていうか、そっちが東京へ行ったら、つきあおう」


… ユイは種市との交際を承知したというよりは、『お台場』への憧れに負けてしまったのでしょう。

… … … … …

考えもしなかった、種市先輩に好きな人がいたなんて、しかも相手はアキの親友、ミス北鉄のユイちゃんだなんて …

「バカ野郎おおお!」


アキの暴走自転車はそのまま堤防に突っ込んで行きました。

天野アキ17歳、はじめての失恋 … 北鉄25周年イベントまで、あと1週間を切ったある晴れた午後の出来事でした。

そのままのスピード、目の前には灯台が迫っています。

灯台を通り越せば、そこは …

さあ、どうなる?北鉄! … どうなる?お座敷列車! … 来週に続く!

ザッブ~ン!!


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2013年05月24日 (金) | 編集 |
第47話

『ありがとう!北鉄開通25周年イベント お座敷列車3.18運行』

お座敷列車の運行日が発表になりました。

そして、ふたりのグループ名は『潮騒のメモリーズ』に落ち着きました。

往復5,000円のチケットはわずか数時間で完売、気をよくした大吉っつぁんは臨時便の運行を決定、銭ゲバっぷりを発揮しました。

開通25周年のイベントの準備は着々と進められていました。

廃線の危機にさらされている北鉄にとって、それは一発逆転のチャンス … 失敗は許されません。


… … … … …

観光協会。

大吉が岩手こっちゃこいテレビの池田に注文を付けました。

「池田さん、ちゃんと撮ってよ、あれみたいに『スパルタンX』みたいに」

「『プロジェクトX』ですね」

「そうそう『プロジェクトA』みたいに!」


… 大吉は、ジャッキー・チェン世代でした。

「遅くなりました」

「すいません、こんな大事な日に寝坊なんて」


遅刻して来たヒロシとしおり、メンバーが揃ったので、撮影の開始です。

… … … … …

「まず、第一便が9時に北三陸駅を出発します … 」

大吉が不自然なカメラ目線でお座敷列車の運行予定を説明し始めました。

「 … という要領で、12時、15時の計3本の運行で210人が乗車する見込みです」

「駅長、三往復もしてふたりは疲れないでしょうか?」


棒読みのセリフで保が質問すると、大吉は考え込む仕草をします。

「本人たちは平気だって言っていますが … こちらの栗原さんにも手伝ってもらいます」

そう答えながらも少し様子がおかしいヒロシ、隣に座っているしおりは笑顔で答えました。

「がんばりまっす」

「ふたりはつき合っているんですか?」

「えっ?」


カメラが回っているのもお構いなしで吉田が尋ねました。

「ふたり揃って遅刻とか怪しいと思うんですが、どうなんですか?」

まるで、芸能レポーターです。

含み笑いのしおりに対して、ヒロシは目が泳いでいます。

「否定も肯定もしないんですか?」

ふたりに寄るカメラ、しおりはヒロシのことを思わせぶりに横目でチラチラ見ています。

「それは、今 … どうでもいいじゃないですか」

ところが、ヒロシは不機嫌そうに言い捨てました。

「 … どうでもいい?」

固まったまま動かないしおり。

「どうでもいいですね … ハイ、どうでもいいで~す!」

そうです、お座敷列車には全く関係がないことでした。

… … … … …

喫茶リアス。

弥生の歌唱指導も佳境に入ってきました。

「ハイハイハイハイ、ユイちゃん … 全体的に強弱をつけましょう! 特に … ♪来てよ この川 乗り越えてええええ … これが一番の盛り上がりだから」

一番盛り上がっているのは、弥生さんです。

「はい」

「♪乗り越えてええええ … 」


逆にアキはもっと押さえろと注意され、春子からは白目剥くクセを指摘されました。

「今のうちにどうかしなさい、怖いんだからね、見てる方は! … ねえ、あんなのテレビで使えませんよね?」

池田に尋ねると、ギリギリアウトだと笑われました。

「ほれ、頭からもう一回行くぞ! 音楽!」

その後、連日、歌の練習は続きました。

弥生さんの気合いとは裏腹にアキは一向に成長せずに、ユイはどこか集中できずにいました。


… … … … …

駅の待合室、練習を終えたふたり、ユイはぐったりとして机に突っ伏したままです。

対するアキは珍しく携帯電話ばかり触っています。

「はあ、難しいね … 上手く歌おうとしちゃダメなんだな、きっと … でも、下手過ぎても寒いし」

「うん、でも楽しみ!」


ユイは聞き返しました。

「楽しみ?」

「だって、動いてる電車の中できれいな景色見ながら、ご飯食べたり歌ったりするんでしょ? … 絶対楽しいじゃん」


ユイは顔をあげました。

「種市先輩も見に来ればいいのになあ」

「 … アキちゃん?」

「東京なんか行かなきゃいいのに … でもね、必ず帰って来るって、先輩ここが好きだから」

「あのさ、アキちゃん … 」


ユイはアキの浮かれている顔を見て爆発してしまいました。

「遊びじゃないんだよ!」

ユイは机を叩いて大声を上げ、立ち上がりました。

唖然とするアキ。

「アキちゃんにとっては、青春の1ページっていうか、高校生活の思い出づくりか知れないけど …

私にとってはスタート地点だし、大事なチャンスなんだあ! 真剣にやってくれないと困るんだあ!」


… … … … …

「ごめん … 」

アキは、そう謝るのが精いっぱいでした。

我に戻ったユイ。

「いや、こっちこそごめん … 何か熱くなっちゃった … ああ、なしなし、今のなし」

ユイは大声を出した自分のことを恥じているようです。

「なんかストレスっていうか、プレッシャーに弱いの

… 足、引っ張んないように頑張る」


こんな弱音を吐くユイは初めてでした。

「おらも頑張る」

「ごめん、私嫌な奴だ … 」


自分を責めるユイはベンチにもたれました。

駅務室から様子を窺がっていた大吉が心配して声を掛けてきました。

「どうした?」

「何でもない、何でもないです」


アキは取り繕いました。

大吉は腑に落ちないような顔をしましたが、もうすぐ宮古行の電車が出ることを告げると戻って行きました。

「 … ねえ、ひとりになりたいから、先帰って」

アキはユイの言葉に従って、待合室を後にしました。

ユイを怒らせてしまった … たったひとりの親友を怒らせてしまった。

アキにはその原因がわかりませんでした。

… ひょっとして、グループ名を変えたから?

「気に入ってたもんなあ、JJガールズ … 」


… … … … …

家に帰って、着替えもせずにベッドに横たわっていると、部屋に入ってきた夏に言われました。

「何だ、蒼い顔して … 彼氏とケンカでもしたか?」

夏の冗談めいたひとことでアキは思い出しました。

「そうだよ!」

種市先輩の名前を口にした途端、ユイの顔つきが変わったのです。

調子に乗って、種市先輩の話なんかするから …

「あ~っ!」


自己嫌悪 … 布団に頭を突っ込んで声をあげました。

『なんか、天野としゃべってると、東京さ行ぎたくなくなるな … 』

「 … 種市先輩」

それでも、種市のことを思い浮かべると、顔がほころんでしまうアキでした。

「てへへへ」

何かにかこつけて、繋がっていたい … アキは携帯を手に取ると種市にメールを出しました。

『元気ですか? 友達とケンカしちゃって ちょっと凹んでます。』

メールを出せば、すぐに返信が欲しい乙女心。

しかし、待てど暮らせど種市からの返信は届きません … といっても数分ですが。

問い合わせても新着メールは届いていませんでした。

「アキ、ちょっといらっしゃい!」

1階から春子の呼び声が聞こえました。

… … … … …

居間に下りてみると、ユイの母、よしえが訪ねてきていました。

「見てよこれ、ユイちゃんママが作ってくれたの」

春子が広げて見せたのはアキのためのステージ衣装でした。

「うわあっ」

赤をベースにボディのあたりに海女の絣模様をあしらえた可愛い衣装です。

「親ばかで恥ずかしいんですけど、こだわり出したら止まらなくなっちゃって」

「ちょっとあんた着てみなさいよ」


アキは早速着替えて見せました。

… … … … …

「ああ、いいじゃん」

滅多にアキをほめない春子が「可愛い可愛い」と喜びながら台所に立ちました。

「これデザインもお母さんが?」

アキが尋ねると、よしえは一冊のスケッチブックを開いて見せました。

「ユイが絵描いたの、ほらこれ見て」

それはデザイン画というよりは少女マンガのようなタッチで描かれていましたが、一生懸命に描いたと言うことは一目でわかりました。

「あの子、本当に楽しみにしてるの … ほら、普段感情を表に出さないっていうか、お人形みたいでしょ … でもね、最近家にいてずーっと歌ってるし、もうアキちゃんの話ばっかするのよ

殻破りたいのよ、あの子も … でも、見た目がああだし、なかなか … だから、アキちゃんが隣にいてくれて本当に良かったって」


本人の前では少しもそんなそぶりを見せることはありませんでした。

「ひとりじゃ恥ずかしくて何もできないけど、アキちゃんがもっと恥ずかしいこと平気でやるから、何にも怖くないって …

アキちゃんがいるから、毎日が楽しいって言うの … ありがとうね、アキちゃん」


アキの目は涙が今にもあふれ出しそうです。

「うばっ!」

言葉にならない声を発してアキは泣き出してしまいました。

「何 … 何々、泣いてるの?」

戻ってきた春子が意味が分からずにあきれています。

「私、私 … 頑張りますう」

衣装の袖で涙を拭おうとして、春子に慌てて止められました。

「泣くなら脱ぎなさい」

「その前に写真撮らせてユイに送るから」


… … … … …

アキが携帯に電話をかけると、ユイはまだ北三陸駅の待合室にいました。

「 … うん、届いた、見たよ写真」

「ごめんね、変な顔だったべ?」


アキにそう言われて、ユイは改めて母から送られてきた写真を見直しました。

衣装を着てポーズを取っていますが、顔は涙でくしゃくしゃの泣き顔です。

「うん、変な顔だった」

照れ笑いするアキ。

「だってうれしかったんだもん … ごめんね、ユイちゃん、明日からおらもっと一生懸命にやる」

「いいよ、アキちゃんは普段通りで … それよりママは?」


よしえは、まだ居間にいました。

春子とふたりで楽しそうに振付を考えているようです。

「マジで? … 躍るの?」

「しょうがねえべ、ここまで来たら思いっきりガンバっぺ!」


俄然やる気を見せるアキでした。

「わかった … がんばっぺ」

どことなくぎこちないユイ、しかしアキは気づきません。

「じゃあ、明日学校で」

「うん … アキちゃん … ごめんね

「えっ?」


最後の言葉がよく聞き取れずにアキは聞き返しました。

「 … 何でもない、じゃあね」

ユイの電話は切れました。

アキは今一度、メールを問い合わせてみました … が、新着メールは1件も届いていませんでした。

ため息 …

… … … … …

「終わった?」

ユイの後方から聞き覚えのある男の声がそう尋ねました。

「お待たせ」

ユイが振り向いた先に立っていたのは …

あれっ? … あれあれあれ、これってもしかして、うわっ … どうりで、メール返って来ないわけだあ

歩き出した種市の後についてユイも駅舎を出て行きました。

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2013年05月23日 (木) | 編集 |
第46話

北鉄の存続をかけて企画された『お座敷列車』。

それに先駆け、アキの歌唱力を試すことになりました。


アキが選んだ曲は『潮騒のメモリー』です。

♪来てよ その火を 飛び越えて 砂に書いた アイ ミス ユー …

… 何とも言えません …


パラパラの拍手、いやひとり勉さんだけは立ち上がって喝采を送っています。

「う~ん、なんだろう … 笑えるほど下手でもないんだよな」

吉田の言葉通り、可もなく不可もなく、面白みもないといった感想でしょうか。

「ありがとうございます!」

… あれ、今、ほめた?

「誰だ、今歌ってたの? 外まで聞こえたぞ、ジャイアンリサイタルかと思った」

ちょうど出勤してきた弥生の一言 … この例えはアキにも理解できました。

故に、ふくれっ面。

「あの、私のも聴いてもらっていいですか?」

ようやく選曲が終わったユイがステージに上がりました。

イントロ~時をかける少女~が流れだします。

ビジュアル的にはバッチリ、皆の期待が一様に高まりました。

「ボイストレーニングとかやってましたから」

そう言いながら、ヒロシも妹の歌を聴くのは初めてでした。

♪あなた 私の元から 突然消えたりしないでね …

… やはり、何とも言えません …


魂を抜かれたような大吉、ヒロシ、吉田。 … 拍手喝采は勉さんだけ、涙さえ流しています。

… … … … …

見かねた弥生が出てきて、アキとユイを前にして言いました。

「とにかく、ふたりともここで練習しろ、毎日」

「じぇっ?」

「おらが歌唱指導してやっから」


弥生はこう見えても、ジャズもシャンソンも歌える『北三陸の越路吹雪』と呼ばれているのでした。

♪あなたの燃える手でえ …

こうして、アキとユイの歌唱指導は弥生さんに決まりました。


… … … … …

3月、種市先輩が実習に来てくれるのも、あと数日 … でも、種市先輩は何故か近頃素っ気ない … 資格試験に合格したら、「デートしよう」っていってくれたのに …

『だめですか? … おら、そのために頑張ったんですけど』

『頑張りゃいいってもんじゃねえべ』

… あれはどういう意味だったのだろう?

「天野 … おい、天野!」


授業中なのにうわの空だったアキは、磯野に指されてもボーっとしていて注意されてしまいました。

… … … … …

北三陸駅。

柱の陰に身を隠していたユイは、やって来た種市の目の前に飛び出しました。

「待ちなさいよ!」

「えっ?」

「どういうつもり? … アキちゃんに頑張ってもしょうがないって言ったんだって?」

「ああ」

「 … 何でそんなひどいこと言うの?!」


地団太を踏んで悔しがるユイ。

「そっちがこの間、頑張るって言葉大嫌いって言ったから … 」

「あたしの言うことなんて信じないでよ、世話の焼ける … 一回くらいデートしてあげればいいじゃん」


ベンチに腰かけたユイの怒りは収まりません。

「そっち? … 自分のことは『自分』って言うクセに、私は『そっち』なんだ?」

「いやいや、何て呼べばいいんだ?」

「知らないわよ、自分で考えて!」


ユイに手を焼く種市、考えた挙句、下の名前で呼びました。

「ユイ … 」

「 … はい」


意外にも呼び捨てにされてもユイは怒りもせず、返事までしました。

しかし、名前を呼んだだけで、ボーっと突っ立っている種市を見てまた怒り出します。

「何なのよ、用もないのに呼ばないでよ!」

「ユイ!」


種市を残してリアスに入ろうとするユイを種市は呼び止めました。

「何よ?」

「俺と … 」


… … … … …

リアスの中では、アキが弥生から歌唱指導を受けている最中でした。

♪来てよ その火を 飛び越えて …

「違う、違う! 音程が違う! … それから、高音になるところの白目剥くクセ直せ、怖ええから」

「弥生さんも白目剥いてるべ!」


白目剥くのは弥生のやる通りしろと言われてマネていたのです。

「おらのマネしなくていい!」

… 理不尽な指導 …

「次、ユイちゃん!」

丁度入ってきたユイとバトンタッチしてアキは一度店の外に出ました。

… … … … …

「先輩!」

ベンチに腰かけていた種市。

「あ、ちょっといい? … 大事な話があるんだけど」

「じぇじぇっ!」

「 … 別に今じゃなくてもいいんだけど」


アキは喜び勇んで店内に戻ると、カバンを手にしました。

「どこさ行ぐんだ? 練習中だぞ」

弥生にたしなめられましたが、アキはそれどころではありません。

「ごめん、デート … また明日!」

有無を言わさず、飛び出して行きました。

「 … デート?」

ヒロシだけでなく、ユイまでが複雑な表情でアキを見送りました。

… … … … …

「いいのか、勝手に入って?」

アキが種市を連れてきたのは、北鉄の整備用車庫でした。

「大丈夫、まだ電気ついてるし、下見だから」

「下見?」


アキはお座敷列車に改装中の車両にどんどん乗り込んでいきました。

「わあ、随分出来上がってる」

床には畳が敷き詰められていました。

「ここで歌うんです、ユイちゃんとふたりで … だから毎日、歌教わってるんです、ユイちゃんと」

「仲いいんだな」

「はいっ、だって親友だもん」


種市が少し気まずそうな顔をしたように見えました。

アキはそれに気づかないで、ユイと友達になった経緯を話しはじめました。

「初めて会ったのも北鉄の中だったな … ここさ立って本読んでた」

アキは車両の一番後ろに立ちました。

「近寄りがてえ雰囲気だったけど、しゃべってみたら気が合ったんだ」

生まれて初めて、たったひとりの親友です。

… … … … …

そわそわと落ち着かない種市、意を決したように口を開きました。

「あの、天野 … 実は俺 … 」

すべての灯りが落ちて、一瞬で暗闇に包まれてしまいました。

「じぇっ!」

種市の方へ駆け寄るアキ。

… … … … …

電源を落とし、戸締りをして帰って行く吉田。

… … … … …

梨明日。

「いいの? デートなんて、春ちゃん行かせて」

「種市君なら心配ないでしょ」


大吉に聞かれて春子はそう答えました。

「この辺、デートっていったら、何処へ行くんですか?」

勉さんの隣で琥珀を磨きながら水口が尋ねました。

「ないね … 国道沿い走ってたら、モーテルばっかりだもんね」

ユイがいるので、春子が勉さんの話を遮りました。

「別に平気っすよ」

冷めた口調のユイ。

… … … … …

観光協会。

誰もいないのをいいことにしおりは夜の窓ガラスに写る自分の姿を見ながら激しく踊っていました。

片手にはマイク、声は出していませんが、何かになりきっています。

梨明日からひとり戻ってきたヒロシは、入り口から動けずにそのまま見つめていました。

しばらくはヒロシに気づかなかったしおりですが、ふと窓ガラスに映る姿が目に入りました。

恐る恐る振り返るしおり、顔から火が噴き出しそうな気分 …

「 … 違うんです、誰もいないから開放的な気分になっちゃって、TM NETWORKの『Get Wild』に合わせて踊ってみました … 合わせてって言っても、あの頭の中で鳴っている音に合わせて ○▲×◎ … 死にたい … 」

ところが思いつめたような顔のヒロシの口から出た言葉は …

「飲み行きませんか?」

「 … 是非」


… … … … …

ふたたび、梨明日。

外回りから帰った保が顔を出しました。

「で、何の話してたの?」

「この辺、デートスポットがないねって話」

「国道沿い走ってても、モーテルしか … 」


勉さんと全く同じことを言いかけた保を春子が慌てて止めました。

「平気っす」

ユイ、全く動揺せず。

そこへ入ってきたのは、戸締りを終えた吉田です。

「 … 何の話?」

「デートするなら … 」

「モーテルしかないでしょ」


外で聞いていたかのような吉田の受け答え。

「さすがにイラッときた」

ユイは落ち着きながらもそうつぶやきました。

「東京だとどうなんですか?」

「そりゃやっぱり原宿だべ」


保の『原宿』という言葉に反応するユイ。

「んだ、原宿のオープンカフェだべ」

見てきたようなことを言う大吉。

「いや、逆に東京に住んでると行かないけどね、原宿とか」

春子の話で完全にスイッチが入ったのか、今まで離れた席で知らん顔していたユイが話に加わってきました。

「原宿には表と裏があるって本当ですか?」

「えっ?」

「芸能人は大体裏に潜んでいるんですよね?」


ユイは立ち上がって春子に近づいてきます。

「スカウトマンがいるのは表の方なんですよね?」

以前アキにも聞いたことがある雑誌で仕入れた情報を次から次に質問し始めました。

「竹下通りのクレープ屋さんに並んでいるとスカウトされやすいんですよね?」

「 … いや、よく分かんない」


そう言うしかない春子です。

「クレープ屋のあたりは、キャッチも多いから気をつけた方がいいと思います」

代わりに答えたのは水口でした。

「あれっ?」

吉田が自分の携帯が見当たらないと騒ぎ始めました。

… … … … …

一方、整備用車庫に閉じ込められたアキと種市はどうなったかというと …

一斗缶に廃材を入れ、燃やして暖を取っていました。

「ありがとうございます」

「んっ?」

「頑張ればいいもんじゃないって、先輩言ったべ? … あれ良い言葉だなって思って」


困ったようにうなずく種市。

「出発、いつですか?」

「3月18日、卒業式の次の日だ」


… お座敷列車の当日でした。

立ち上がった種市は思いがけないことを口にしました。

「なんか、天野としゃべってると、東京さ行ぎたくなくなるな … 天野みてえにこの町を愛しているやつは他にいねえ、自分が育った町を『寂れてる』とか『遊ぶ場所がねえ』とか悪くいうやつばっかりだ」

種市はアキの方へ振り返りました。

「自分は東京さ行ぐ、でもこの町を捨てたわけじゃねえ … 

ここが一番いい場所だって確認するために行ぐんだ」


種市の口から出た言葉は偶然にも祖父、忠兵衛がアキに話して聞かせたことと同じ … アキは感動していました。

… … … … …

♪潮騒のメモリー 17才は寄せては返す 波のように激しく

ステージで歌うユイ、弥生の歌唱指導のおかげでだいぶ様になってきています。

「すいません、誰か俺の携帯に電話してもらっていいですか?」

「何、失くしたのか?」


… ここを探すより、外を探せって。

… … … … …

♪来てよ その火を 飛び越えて …

アキが突然歌いだしたので、種市は驚きました。

「 … 天野?」

「あ、お座敷列車で唄う歌です。『潮騒のメモリー』」


ホッとする種市。

「びっくりしたあ、いきなり大きい声出すから、ぶっ壊れたと思ったべ」

「へへへへへ」

「『潮騒』って三島由紀夫だべ … 三島の恋愛小説で映画化された名作だ」


そんなこともアキは知りませんでした。

「その火を飛び越えて来いっていうのは、その中のセリフだ … その後、ふたりは抱き合うんだ」

焚火の日を見つめていたふたりの視線が … いつしかお互いを …

微妙な雰囲気をかき消すように、突然、種市の後方で携帯電話の着信音がけたたましく鳴り響きました。

「誰のだ、これ?」

たぶん吉田が探していた携帯電話でしょう。

手に取った種市が顔を上げると …

焚火の向こうのアキが立ち上がってこちらを見つめていました。

「天野?」

「 … その火を飛び越えます」

「じぇじぇっ!」

「その火を飛び越えて来いって意味ですよね? 先輩!」


慌てて否定する種市ですが、アキには伝わりません。

「天野、行きます!」

助走を取るアキ。

「お前が飛ぶのか?」

「はい、その火を飛び越えます!」


… … … … …

「やめろ、天野 … 落ち着け!」

「飛びます!」


アキは走り出しました。

「あまの!」

「せんぱーい!!」


走るアキの横を黒い影が … 一瞬早く焚火を飛び越えると、その先にいた種市を突き飛ばしました。

ひっくり返った種市の手から携帯電話を奪って振り向いた顔は … 吉田でした。

吉田は懐中電灯でポスターの標語を照らし出しました。

「火の用心!」

「 … すみません」


一体何事が起きたのか、首をかしげるアキでした。

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『Get Wild』ってこんな曲 … 

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2013年05月22日 (水) | 編集 |
第45話

2009年2月。

北三陸では、2月に降りはじめた雪が5月頃まで残ります。

サンタさんのクリスマスプレゼントは携帯音楽プレイヤーでした。


ホームルームは始まっているというのに、アキはイヤフォンをはめたまま音楽プレイヤーの操作に夢中で、教室に磯野が入ってきたことにも気づいていません。

「え~、1月に受けてもらった潜水士の資格試験の結果が来ました。」

磯野は何人かの名前を読み上げました。名前を呼ばれて喜ぶ生徒。

「 … 以外は全員合格!」

ぬか喜びの数名を除いて、教室中に歓喜の声が上がりました。

やっと気づいたアキは、慌ててイヤフォンを外して磯野に聞きました。

「天野は?」

「あ? 不合格じゃねえんだから、合格だべ、この」

「じぇじぇっ」


喜びがじわじわとこみ上げてくるアキ。

「はい、では授業を始めます」

「やったあああ」


アキは叫びながら、教室を飛び出して行きました。

その後ろ姿を唖然として見送る磯野。

「 … そんなに自由か?!」

… … … … …

種市の姿を探すアキ、実習プールにいるのを見つけました。

「先輩、おら資格試験受かっ … 」

ザッブーン!

プールに水しぶきが上がりました。

振り向いた種市、水面に大きな波紋が広がるのが見えます。

「天野 … ?!」

… … … … …

合格したことを種市に少しでも早く知らせたくて、プールがあることを忘れてそのまま直進してしまったアキ、すぐに引き上げられましたが、制服はおろか全身ずぶ濡れで震えています。

「いがったな天野、よく頑張った」

「は、はい」


種市は祝福して、褒めてくれました。

「岩手では女子の合格者は他にいなかったそうだ … つまり、今年度ただひとりの女潜水士だど」

アキの濡れた髪をタオルで拭きながら磯野も褒めました。 受験1ヶ月前の居残りテスト3点からよくぞ合格までこぎつけたものです。

「北高にとっては8年ぶりだと、喜べ」

「はい … それより、しぇんぱい(先輩)」


種市の手を取って部屋の隅へと連れて行きました。

「ただひとり」だろうが「8年ぶり」だろうが、アキにはどうでもいいことでした。

アキにとって大事なことは …

「例のやくしょく(約束) … 」

「約束?」


… … … … …

それは、アキの誕生パーティの夜のこと。

『もし、資格試験さ受がったら … おらとデートしてけろ』

… … … … …

「ああ … 」

「覚えてますか?」

「うん … 覚えてる、『ゴーストバスターズ』も込みで覚えてる」


言葉を待つアキに種市の態度は煮え切らないものでした。

「あ、まあそのうち … 」

「今日がいいんですけど」


せっかちなアキに戸惑いの表情を見せる種市。

「だめですか? … おら、そのために頑張ったんですけど」

『頑張るって言葉大っ嫌いなんです、私』

『アキちゃんは先輩のこと好きなんです … それなのに気づかないふりして、頑張ってるなあなんて、そんなの残酷だと思う』

種市の脳裏をユイに言われた言葉がよぎりました。

「頑張りゃいいってもんじゃねえべ」

珍しく大きな声をあげてしまいました。

ポカ~ンとするアキ。

「どうした、種市?」

隠れて様子を窺がっていた磯野は思わず声を掛けていました。

「ごめん、また今度な … 」

アキにそう言い残すと種市は出て行ってしまいました。

… … … … …

北三陸駅。

駅務室から出てきたのは、足立功です。

あとを追うように出てきた大吉。

「いやいや、ちょっと意味わかんないべ?!」

「まだ決まった訳じゃないんだよ、そういう意見が議題に上ってますっていうね … 」


功はそのままリアスに入りました。執拗に後に続く大吉。

「誰ですか先生、誰が言いだしたんですか?」

「だから、市長だよ」


カウンターに腰かけながら、功は続けました。

「あれはもともとモータリゼーション推進派だからね、北鉄廃線をマニフェストにして当選したわけだから」

「あの植毛野郎め! … ウーロンハイ、焼酎抜き!」

「何、どうしたの?」


ただならぬ大吉の様子に春子が訳を尋ねました。

「市長が、北鉄を廃線にしようとしているって!」

それを聞いて、のんびりと昼食を取っていた吉田も慌てだしました。

「 … 年度末になるとな、予算の見直しだ削減だって、騒ぎ立てる奴が多くてね」

功はうんざりして言いました。

赤字続きの北鉄ですが、今年はアキやユイの効果もあって黒字にはなっていました。

「北鉄は市民の大事な足なんです、病院に通うお年寄りや通学の学生さんは?」

「バスでまかなえるそうだ」

「バ・ス … 」

「バスガス爆発、バスガス爆発、バスガスバツ … バス、バス、バス」


へなへなと崩れ落ちる大吉と吉田でした。

「私もツラいよ、今年は開通25周年だから何とかしたいとは思うんだけどね」

功は、立場上、市長を擁護しなくてはならないと説明しました。

… … … … …

「アキちゃんとユイちゃん、呼んでくれ … 」

カウンターを這い上がりながら大吉が春子に言いました。

「何、またあのふたりに頼る気?」

あきれる春子。

「この間、じじいふたりが何か調子いいこと言ってましたよね、何でしたっけ?」

大吉は功に尋ねました。

… … … … …

数日前 …

ひまつぶしに勉さんの隣で琥珀磨きを手伝っていた功に、大吉が観光協会と北鉄で大々的なイベントをやって盛り上げたいと相談した時のことです。

「いいねえ、そういうの大好き」

「焚き付けないでくださいよ」


無責任に後押しする功のことを春子がたしなめました。

「だってこれから冬だよ、雪景色だよ、つまんないよ」

「雪ん中走る北鉄もなかなかのもんですよ」


勉さんの言葉で功はひらめきました。

「あ、だったら、お座敷列車なんてどう?」

興味を示す大吉。

「車両を改造して、掘りごたつにして、宴会やりながら、北三陸と畑野の間往復するんだよ」

… … … … …

「お座敷列車か!」

「 … じじいって私のことか?」


大吉は都合の悪いことは耳に入りません。

「メッチャクチャ金掛るじゃないですか?!」

吉田の危惧を大吉は一蹴しました。

「だから、アキちゃんとユイちゃん呼んで、客呼ぶんだべ! … 転んでもただじゃ起きない北三陸鉄道、起死回生の一大イベント仕掛けるぞ!」

功に伺いを立てる大吉。

「 … あ、いや、儲かる … 盛り上がる」

よくよく考えて、ほくそ笑む功。

お墨付きが出ると、大吉は早速に功を連れ出して行きました。

… … … … …

観光協会。

急遽、呼び出されたアキとユイ。

「何でお父さんいるんだろう?」

首をかしげるユイ。

ホワイトボードを使って、ヒロシが説明し始めました。

… 何故か、岩手こっちゃこいテレビの池田がカメラを回しています。

「北三陸、畑野間の所要時間が約1時間ですので、往復2時間飲み放題でどうでしょうか?」

料金はひとり1万円と聞いて、功が「高いなあ」と口を出しました。

「でも、車内の改造費もかかるし、食事もお酒も出すわけですから … 」

「お前は消費者の気持ちがわかってない、気軽に参加できるのはせいぜい5,000円くらいだろう」


反論しようとするヒロシを「発案者は私だ」と黙らせました。

… … … … …

「北三陸鉄道25周年を記念して、お座敷列車が走ることになったの」

アキとユイにケーキを出しながら、しおりが事の次第を教えました。

… 観光協会でケーキが出るときは、何か良からぬ企みがある時 …

「座敷が走るんですか?」

「ううん、車両を座敷に改造するの、畳を敷いてね」


しおりはアキの質問にできるだけ丁寧に答えてあげようとしますが …

「電車の中に誰かが住むんですか?」

「 … 落ち着いてアキちゃん、そうじゃないの」


ユイがもっともらしい顔をして口を挟みました。

「座敷童よ、座敷童が走るんですよね」

「そうなんですか?!」


オカルト好きのアキは俄然興味を示します。

「まあ、実物見ればピンとくるだろう」

大吉がとりなしました。

… … … … …

「とにかく、3月にそういうイベントを企画しているんで、是非協力してほしい」

「北鉄とふたりの … まあファンの集いだね」


保がうまいことまとめました。

「そのお座敷列車を準備段階からウチの番組がレポートします」

というわけで先ほどからカメラを回していたのでした。

「あ、じゃあ今の座敷童の件、カットしてください」

自分のイメージダウンにつながることは抜け目なくチェックするユイです。

「でね、例によって全国からお客さんが殺到すると思うんだ」

「もちろん、高校生だから隣に座ってお酌とかそういうサービスはできないんだけどね」


カメラ目線の吉田と大吉の後を受けて、ヒロシがふたりに説明します。

「その代り、往復2時間ゲームやったり、一緒にご飯食べたりするんだけど、君たちふたりから … 」

アキとユイが急に立ち上がり例のポーズをとって声を合わせました。

「JJガールズです!」

「 … ジェイジェイガールズから、日ごろの感謝をこめて」


兄の話など、そっちのけでユイがアキに耳打ちします。

「JJガールズってダサくない? … お兄ちゃんが口に出して言ったら、超ダサいって思っちゃった」

「じゃあ、ウニ娘。にすっか?」

「いいね、略してウニむす!」

「何でもいいよ!」


声を荒げるヒロシにユイは冷めた口調で返しました。

「何キレてるの?」

「キレてねえよ」

「キレてるじゃん ふふ」

「やめなさい、そういうのは家でやりなさい」


功がふたりを諌めました。

「お前、ちょっと人気が出たからって調子こいてるんじゃねえぞ、ブス」

「ああ、ひどい! マネージャーがタレントにブスって言う? 許せない!」

「やめなさい、お前たちは兄妹なんだから! やめなさい!」


兄妹喧嘩も一部始終、カメラに収めている池田。

… … … … …

「大吉君?」

気がつくと大吉が机にうずくまって嗚咽していました。

「泣いてるんですか、駅長?」

「何か皆、北鉄のために話し合ったり、ぶつかり合ったりしてくれて」

「別に北鉄の為じゃ … 」

「俺うれしい、本当にうれしい!」


雄叫びを上げる大吉に功は言いました。

「大吉君ね、まだ廃線になるって決まった訳じゃないんだよ」

「廃線?」


アキたちには初耳でした。

「そうなんだ、俺たちの未来はこのお座敷列車にかかってるんだあ!」

「重っ … 」


ドン引きのユイ。

「ああ、だから、日ごろの感謝をこめて … その、歌を一発」

… … … … …

「歌、アキが?」

会議が終わって、リアスに戻った大吉が春子に報告をしました。

「カラオケの機械、お座敷列車に積み込んでさ、最後に一曲ふたりで歌ってくれたら盛り上がるなって」

「何でもいいんですよ … ♪北三陸鉄道はwow wow wow wow」

「絶対嫌です、そんなの!」


ユイが吉田のことを睨みつけました。

「ユイちゃん俺のこと嫌いなのかな?」

吉田が気にしていますが、ヒロシはあたりさわりのない返事をしました。

「さあ、家ではいつもあんな感じなんで」

当のユイは選曲に夢中です。

「ねえ、いいよね春ちゃん、1曲くらい?」

「本人次第だけどね … ただ約束は守ってくださいね」


とぼけようとする大吉に春子は念を押しました。

「どんなに人気が出ても、観光客が押し寄せても、3月いっぱいで辞めにするって言ったよね?」

「 … わかってますよ、お座敷列車を最後にアキちゃんには卒業してもらいます」

「ごめんね、北鉄が大変だっていうことは分かってるんだけどさ … それとこれとは、話が別だからさ」


… … … … …

「っていうかさ!」

アキがいきなりテーブルを叩いて立ち上がりました。

「 … どうしたの?」

ユイに尋ねられて、アキは口をとがらせながら言いました。

「おめでとうは?」

「何?」

「今日、おら潜水士の試験、受がったんですけど … まだ誰にもおめでとう、言われてないんですけど」


… その前にきちんと報告しなければ、誰にもわからないと思うけど …

「おめでとう」

「遅い!!」


すかさずヒロシが応えましたが、怒鳴り返されました。

… この町には、アキの口のきき方を叱る大人はいないのでしょうか?

「誰にも言われてねがったのか?」

大吉が尋ねました。

「誰にも言われてねがった!」

「種市君にも~?」


春子に突っ込まれると、アキの顔がとろけだしました。

「へへへ … 」

「言われてるじゃん!」

「メールも来ましたあ!」


機嫌が直ったアキと裏腹に落ち込んでいるヒロシを見て吉田が傷口をなぞりました。

「あれあれ、どうした? 足立家の温度差が凄まじいな」

「おかまいなく … 」


… … … … …

アキはけろっとして言いました。

「ごめんごめん、歌だよね … こないだママが歌ったの何て歌だっけ?」

「えっ?」


アキは音楽プレイヤーを取り出して、曲のリストを確認しました。

「『潮騒のメモリー』だ、あれがいい」

「入ってるの?」

「ネットで見つけたんです、映画の主題歌だったんですね」


ユイの家のパソコンでダウンロードしたのです。

「んだんだ、俺がもう北鉄の社員だったから20年ぐらい前か … あれ、主役誰だっけ?」

「鈴鹿ひろ美」


春子が答えると、ヒロシが驚きました。

「えっ、あの!」

「確か海女さんの映画だよな」

「主題歌は誰が歌ってるんですか?」

「鈴鹿ひろ美」

「えっ、あの!」


またまた驚くヒロシ。

「あの!」って言われても「どの?」って感じでしょうが … 「この!」ポスターを見れば、ああ「あの!」って思うでしょう。

「今、魅惑の東北へ」 … 北三陸の駅舎にも静御前に扮した「鈴鹿ひろ美」のNR東北のキャンペーンのポスターが貼られていました。

清純派女優として華々しくデビューして四半世紀、今や日本を代表する実力派女優 … 「あの!」「鈴鹿ひろ美」です。

… … … … …

「あの人、歌なんか出してたんすか、へえ」

まだ幼かったヒロシには歌手時代の鈴鹿ひろ美の記憶はありませんでした。

「デビュー曲だ、家にレコードあんだけどな」

「見てえなあ、『潮騒のメモリー』久しぶりに」

「DVDになってねえの?」


皆がそれほどまで懐かしがる映画をアキも見たくなりました。

「なってない … っていうか、あんた歌えんの?」

いつもにも増して不機嫌そうに春子が聞きました。

「えっ?」

「あれ、難しいよマジで … あんたの歌なんて小学校の学芸会以来聴いたことないんですけど」

「それ合唱だよね?」

「ほとんど聞こえなかったって言うか … 口すらあけてなかったもんね?」

「やっばいやばい、こりゃ期待しちゃいけないパターンだな」


うなずき合う一同。

… … … … …

「歌えるもん!」

… と、強がって見せたアキですが、春子の言うとおり、人前で歌ったことなど一度もなく … カラオケもほぼ初体験。


しかし、ヘンな負けん気だけは人一倍あるアキ。

まだ時間は早いのですが、カウンターの後ろのパーテーションを動かしてステージの準備を始めました。

マイクを手にするアキ。

「あ~あ~、テステス」

『潮騒のメモリー』のイントロが流れ始めました。

♪来てよ その火を 飛び越えて 砂に書いた アイ ミス ユー …

… 何とも言えません …


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2013年05月21日 (火) | 編集 |
第44話

北高潜水土木科の準備室、アキは種市とふたりきりです。

「天野 … 自分、3月に東京行っちゃうけど、それでもいがったら、つきあってほしい」

背中を向けたままで種市はそう言い、振り返りました。

「おめえのこと、好きなんだ」

突然の告白にアキも答えます。

「あたしも … 」

もう、先に言っちゃいますけど、これは夢です。

今更特にびっくりしないと思いますが、何処まで続くかしばらく様子を見てみましょう。


お互いに名を呼び、見つめあうふたり … 目をつむるアキ、種市の両手がアキの方に置かれて、顔が近づいてくる … コツン!

次の瞬間、ふたりは潜水服を身にまとい、ヘルメットをぶつけ合っていました。

何度顔を近づけても、唇は触れ合うことはありません。

コツン、コツン、コツン …

「なんだ、どうした? 天野! … あ・ま・の ~!!」

絶叫する磯野 …

… … … … …

「うわっ」

やっと目を覚ましたアキ、ここはリアスのカウンター … アキはうたた寝をしていたのです。

「アキちゃん、大丈夫?」

隣の席でユイが尋ねました。

「 … 夢見でた」

「夢見でると思った、はははは」


カウンター内で夏が笑いました。

大体予想はつきますが、どんな夢を見ていたのかユイが聞きました。

「 … 種市先輩に告白されて」

ユイの隣に座っているヒロシが色めき立ちました。

「キ、キ、キスしそうになって … 」

「いい加減目を覚まして!」


ユイは声を荒げました。

「 … 今目を覚ましたところだ」

「そうじゃなくて、大事な時期じゃん」


アキは急に悲観的な表情になりうなずきました。

「そうなんだよ、資格試験まで1ヶ月切ってるし … 」

「ちがう … それも大事だけど、私たち『JJガールズ』も今が正念場だと思うの」


アキの中では引き出しにしまわれていたことでした。

「実際、ふたりの人気も一段落というか、飽きられた感は否めないですよね」

久しぶりにお呼びがかかったヒビキ一郎です。

ふたりは頑張っているのに、何が原因なのかわからないと吉田とヒロシ。

「これはジモドル(地元のアイドル)やネットアイドルの限界であり、面白さでもあるんですけど … 知名度が上がったところで一旦落ち着くんです。希少価値がなくなると言うか … ちなみにこれ掲示板」

一郎は手元にあったネットブックをヒロシたちに見せました。

アキも気になって、一緒にのぞきこみます。

ヒロシは掲示板に書きこまれた投稿を読み上げました。

「 … ミス北鉄とか、もう終わってるっしょ … 海女のアキ、まじウザい … だって彼氏できちゃったらしいよ … 天狗になってるんじゃねえの? … ブスW」

「ひどい! … 何でこんなデタラメ書くんだあ?!」


アキはいきなり一郎の胸倉をつかんで揺すり始めました。

「まだ彼氏いねえし、アンタなんかにブスって言われる筋合いねえし!」

「いてて、俺じゃねえし、俺書きこんでねえし!」


一郎はアキの腕を振りほどき、ふたりはにらみ合いになりました。

「ファンが増えれば、当然アンチも増えるってことか … 」

「来年は開通25周年だ、そろそろ次の手を打たねばなあ


吉田が憂鬱そうにつぶやきました。

「あれ、大吉っつあんは?」

いつもこの時間はいるはずの大吉の姿が見えないことに夏が気づきました。

「駅長は何だか、北鉄より大事な会議があるとか … 」

… … … … …

その会議とは …

「とにかく、この現状を打破する方法は一つしかないと俺は思う」

神妙な顔でそう語った大吉、目の前に向かい合って座っているのは正宗と春子でした。

そう、ここは天野家 … 夫婦ふたりきりで話し合うはずでしたが、何故か大吉が立会人として座っています。

春子の署名を終えた離婚届を前に正宗は言いました。

「どうしても別れたいの?」

無言でうなずく春子。

「 … わかんないな、いつ何で嫌われたのか … 僕の何がいけなかったんだろう?」

「そのままでいいの、正宗さんは … 変わらなきゃいけないのは、私の方なんです。

そして、変わるためには別れなくちゃいけないの」


そのままでいいのは、宮古島の純だけ …

… … … … …

「一度捨てた町に戻って、母や昔なじみと向き合って、改めて思ったの … 私自身が変わるためには、東京の暮らしを捨てなくちゃいけないって」

「僕も変わるつもりさ、一緒に変わればいいじゃないか?!」

「それは、ダメよ … 」


大吉もうなずきました。

「ここで一緒に暮らすには、あなたあたしのこと知りすぎてる」

「知りすぎている」 … 言葉が大吉の胸を貫きました。

「正宗さんは、本当のあたしを知ってる」

「本当のあたしを知ってる」 … 大吉に二度目の衝撃でした。

「だから、一緒にいると本当のあたしに見られてるような気になるの … わかるでしょ?」

「わかるよ … 」


狼狽する大吉。

わからない … 大吉は疎外感を感じていました。

「最も君を知っているのは確かに世界中で僕だけだ」


「僕だけだ」 … ダメ押しは正宗からでした。

何なんだ … この敗北感は?

試合に勝って勝負に負けたようなこの感じ、俺の知らない春ちゃんをこの野郎は知っている、このクセッ毛の童顔野郎め … いや待て待て、逆にこいつの知らない春ちゃんの秘密を俺は …


春子の説得に折れて、離婚届に署名している正宗の横顔を睨みつけながら、大吉は必死に思い出していました。

全部しゃべってしまった! … こないだスナックで、得意げに、ああ、俺はおしゃべり豚野郎だ!

… … … … …

署名を終えて、捺印をしようとした正宗の手が止まりました。

「ごめんごめん、春子さん … せめて、クリスマスだけでも3人で過ごせないかな?」

「だめよ … 」

「頼むよ、25日の朝には帰るからさ」

「だめです!」


春子はキッパリと拒否しましたが、それでも正宗は続けました。

「 … じゃあ、サンタクロースは?」

何か重大なことを思い出したのか、春子は黙ってしまいました。

… … … … …

再びリアス。

アキのことを、ユイ、吉田、ヒロシ、一郎が信じられないと言った顔で見つめています。

「アキちゃん、それ本気で言ってるの?」

ユイが聞くと、アキはうれしそうにうなずいて話しはじめました。

「うん、今年もサンタさんにお手紙書いたんだ … 良い子にしていればプレゼントもらえるの」

「それはいくら何でも無理があるべ?」


吉田にそう言われてもアキには意味が分かりません。

「 … おらも引いた、高校生にもなって、夢見すぎだべ」

「でも信じてる子の家には必ず来るの、サンタは信じてないと来ないからね!」


夏にもたしなめられましたが、それでも得意げに話すアキ、決してポーズではなく本気で信じているみたいです。

「目に余る不思議発言が痛々しい … 天然ぶってんじゃねえよ、天然ブス!」

先ほどの恨みもあるのか、キーボードをタイプしながら一郎がアキのことを罵りました。

「ブス」という言葉に敏感に反応するアキ、一瞬で顔色が変わって、一郎の元に駆け寄るとネットブックを思い切り閉じて一郎の両手を挟みました。

「ブスとか言うな!」

「いい加減にしろよ、サンタがいるとかいないとか!」


吉田が立ち上がって声をあげました。

「いるもん!」

「見たのかよ?」

「見たもん!」


子供の喧嘩です。

「 … じゃあ、河童見たことあんのか?」

「なんで河童が出てくるんだよ?」


いつものアキではありません、やはり春子譲りでしょうか …

「出てくるよ、河童も天狗もUFOもツチノコも … 」

ムキになって対抗する吉田。

「おら、海坊主見たど!」

「じぇじぇ、マジで?」


夏の話に食いつくアキ。

「 … おばあちゃん、黙ってて」

話がどんどん違う方へ向かっています。

「心霊写真だったら、俺も … 」

ヒロシも立ち上がりました。

「私、何も見たことない … 」

ガックリと肩を落とすユイ。

「ユイちゃんも落ち込まないで」

「金縛りは?」


アキがヒロシに興味津々で尋ねました。

「何だこれ、何の話からこうなった?」

混乱する吉田 … あんたのせいだよ!

… … … … …

2008年12月24日、そしてクリスマスイブの夜。

アキが眠りについた後の居間、春子と向かい合って座っているのはサンタクロースです。

袋の中から何やら取り出して春子に手渡しました。

その時、フスマが開いて顔を出した夏とサンタクロースの目が合いました。

息を飲む夏 …

「どちら様ですか?」

「何言ってるの?」


春子はサンタと笑い合い、礼を言いました。

「ありがとう、サンタさん」

サンタはうなずくと、袋を担いで立ち上がり、アキの寝ている二階の部屋へと向かいました。

サンタは正宗の変装です。

正宗はアキを起こさないように部屋に入ると、枕元につる下げてある靴下にプレゼントの包みを入れました。

そして、アキの寝顔をそっと覗きこみます。

しばし見つめた後、部屋をそっと出ようと … マフラーをつかむ手が … アキでした。

「今年も来てくれたんだ … よくわかったね、こんな田舎に引っ越したのに、ありがとうね」

… … … … …

「アキちゃん、君のパパから伝言を預かっています」

「何?」

「 … アキ、パパとママは別々に暮らすことにしたよ」

「うん、ふたりにとってそれが幸せならいいと思う」

「うっ、サンタはそうは思わないけどね … 確かに幸せの形はいろいろで … 」


ふと見るとアキは眠っているように見えました。

「 … アキちゃん?」

声を掛けると、うっすらと目を開けました。

「アキ、ママのことをよろしく頼むよ」

「うん … 」


そのやり取りを部屋の外で春子が静かにうかがっています。

「パパからはね、とにかく元気で暮らせと … つらくなったり、寂しくなったら、いつでも会いに来い … 待ってるぞ、アキ」

再び寝入ってしまったアキの頭を優しくなでました。

「 … だそうです。以上、メリークリスマス … よいお年を」

… … … … …

「何もこんな夜中に出て行かなくても … 」

正宗が東京に戻ることを知った大吉が天野家を訪れています。

「いいの、気が変わったら面倒くさいんだから」

正宗は仏壇に手を合わせた後、夏の方に向き直りました。

夏の手を両手でしっかりと握って、正宗は話しはじめました。

「じゃあ、お義母さん、お世話になりました … ウニ丼、あら汁、まめぶ汁、美味しゅうございました … それから下着を洗濯してくれたことも、電気毛布の温かさ … 」

名残を惜しむ正宗の挨拶が長引きそうなので、夏は中断させて上に羽織るものを取りに引っ込みました。

… … … … …

正宗が横に立っていた大吉に話しかけようとすると …

「春ちゃんのことは俺に任せろ」

笑顔で何度もうなずく大吉に正宗は言いました。

「任せるかどうかは別として … 天野家のことを、夏さん、春子さん、アキのことを見守ってください」

そう言うと右手を差し出しました。

思い切り握り返す大吉。

「俺は今日からあんたのことをマサって呼ぶぞ」

「もう会わないですけどね」

「心で呼ぶ … 」


… … … … …

戻ってきた夏にも別れを告げて、正宗は玄関に向かいます。

「また個人に逆戻りか … 」

「そういうことを言わない」


降り口で振り返った正宗は、春子に言いました。

「春子さん、幸せにしてやれなくてごめんなさい」

「こちらこそ … 身勝手な女でごめんなさい」


気の強いはずの春子が涙声です。

「アキと一緒に幸せになってください」

正宗の差し出した右手を春子は握り返してうなずきました。

そして、皆に向かって深く頭を下げて正宗は出て行きました。

… … … … …

一足違いで居間に飛び込んできたアキ。

「サンタさんは?」

「ああ、今そりに乗って帰ったよ」

「うそ … ママもプレゼントもらった?」


無邪気に聞いてくるアキに春子は答えました。

「 … もらったよ」

春子の手にはサンタから渡されたプレゼント … 離婚届がありました。

後ろに回した左手の薬指の指輪をそっと外す春子。

そして、年が明け、北三陸に本格的な冬がやってきました。

サンタクロースっているんでしょうか?

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2013年05月20日 (月) | 編集 |
第43話

玄関口に黒紋付きに袴を着た忠兵衛が身構えて座っています。

「固てえなあ、もっとほらリラックスして」

遺影を取り直すために呼ばれた写真館の亭主が注文を付けました。

「バカこの、最後かも知れねえんだから、気合入れて撮れ」

お父さんがマグロ船に乗り込む日がやってきました。

大吉さんが八戸の港まで車を出してくれることになり、見送りに町の人が大勢集まる予定でした … が、


集まったのは、長内夫婦、珠子、大吉の4名だけでした。

「しゃあねえべ、昨日送別会で遅くまで飲んだんだから」

アキの提案で急遽、家族写真も写すことになったのですが、夏が作業小屋から出て来ません。

「夏ちゃん、出てきて一緒に写真撮るべ」

忠兵衛が声を掛けましたが、聞こえないふりか、黙々と作業を続ける夏でした。

「わがった、毎年言ってることだけどもよ … おらのことは死んだと思ってけろ」

夏抜きで写真を撮ってもしょうがないと、忠兵衛はこのまま出かけることにしました。

「天野家の家長は、夏ちゃんだ」

「死ぬなよ、祖父ちゃん」


アキが自分の腕のミサンガを見せると、忠兵衛も同じようにして、ふたりのミサンガを合わせました。

忠兵衛が歩き出した時、作業小屋の戸が開いて、夏が出てきました。

「さっさと撮れ、忙しいんだ」

ぶっきらぼうに言った夏、気が変わらないうちにと春子が急いで家族を並ばせました。

「パパも早くおいでよ」

正宗にも声を掛けるアキ。

「えっ、いいの?」

「何遠慮してるの、いつもは全然平気なくせにさ」


皆にも促されて、うれしそうに加わった正宗でした。

… … … … …

♪置いてゆくのね サヨナラも言わずに 再び会うための 約束もしないで

北へ行くのね ここも北なのに 寒さ こらえて 波止場で待つわ

潮騒のメモリー 私はギター Amのアルペジオ 優しく

来てよ その火を 飛び越えて 夜空に書いた アイ ミス ユー

来てよ その川 乗り越えて 三途の川の マーメイド

友達少ない マーメイド マーメイド 好きよ …

『潮騒のメモリー』 作詞:宮藤官九郎 作曲:大友良英

… … … … …

大吉の車に送られて、忠兵衛は再び大海原へと旅立って行きました。

慌ただしく2008年が終わろうとしています。

アキは夏と一緒にクリスマスツリーを飾りつけました。

… … … … …

北三陸駅もささやかですがイルミネーションが飾り付けられています。

「待ちなさいよ!」

いきなり声を掛けられて種市は驚いて立ち止まりました。

飛び出してきたのはユイでした。

「何してたんだ?」

「こっちのセリフです。何してたんですか? こんな時間まで」

「 … 友達とゲーセン」

「いいご身分ですこと … 」


すでに就職が決まっている種市は、卒業を待つだけの身なのです。

「天野だったら、まだ学校だ … 居残りテストだ」

しかし、ユイは種市に話があって待っていたのでした。

「アキちゃんのことどう思っているんですか?」

「天野? … まあ、頑張ってるなあって思う」

「 … でたよ」


ユイは声を荒げました。

「頑張るって言葉大っ嫌いなんです、私」

「なんで?」

「頑張るってことは、つまり報われてないって意味でしょ? … 頑張っているアキちゃんを見て、先輩は頑張ってるなって思うだけ? … そんなの全然報われない!

頑張ってるからどうなの? 好きなの、嫌いなの、どっち?」


ユイは種市の周りをぐるぐる回りながら、問いただしました。

「 … いや、おめえに関係ねえべな」

「あります … だってうちらJJガールズだもん … アキちゃんと私は一連たくおなんです」


ユイは睨みつけましたが、種市は他に気を取られています。

「何処見てるの?!」

種市の視線の先を見ると、そこに兄のヒロシが立っていました。

「一蓮托生だべ?」

「出たよ、立ち聞き?」


狭い待合室であれだけ大きな声を出していたら、いやでも聞こえてしまいますが …

ヒロシは「ごゆっくり」と言うとリアスに入って行ってしまいました。

… … … … …

「アキちゃんは先輩のこと好きなんです … それなのに気づかないふりして、頑張ってるなあなんて、そんなの残酷だと思う」

態度がハッキリしない種市にイライラしているユイは、言いたいことを言ってホームに向かおうとしましたが、種市も同じ方向に歩き出そうとします。

「なんですか?」

「自分も電車 … 」

「やだ … 次のに乗ってください」


しかし、この電車が最終でした。

… … … … …

居残りテスト中のアキ、解答用紙をスラスラと埋めていきます。

磯野の合図でテスト終了です。

「何だ天野、自信あっか?」

「えっとお … 頑張りましたあ!」


アキは割と自信があったのですが、謙遜気味に答えました。

「おお、どれどれ?」

磯野はアキの答案用紙を手に取り、その場で採点を始めました。

「はいダメ、ダメ、ダメ … 3点」

無残な結果を突きつけられたアキ。

「じぇじぇじぇ … 」

「でも、頑張ってるお前が大好きだ、でも3点だ … お疲れ」


… … … … …

「あ~もう、また終電乗れなかった」

ブツブツ言いながらアキが梨明日に入ってきました。

「いつだっけ、資格試験?」

「 … 1月です」


ヒロシに聞かれてアキはうんざりした顔で答えました。

「資格試験?」

「潜水士の資格を取るんです … っていうかさ、誰よ?」


今頃になって春子が勉さんの横で琥珀を磨いている水口に尋ねました。

「水口くん初めて? 勉さんのお弟子さん」

美寿々が紹介しましたが、忠兵衛の送別会の二次会にもいたし、初めてではないでしょ。

「怪しい … 勉さんの弟子でしょ? あり得ない、バカじゃあるまいし」

客に向かって酷い言いよう …

「だって勉さんから学ぶことなんかある?」

「いや、あるでしょう」


保はそう言いましたが、それが何かはすぐに出ないようです。

「少なくとも反面教師にはなるべ」

吉田が楽しそうに言いました。

勉さん、怒りもせずに水口に春子へ名刺を渡すように促しました。

「水口琢磨です」

水口から名刺を受取った春子、にやにやしているので何を言うかと思ったら …

「 … ミズタク」

爆笑する一同。

「そんなに面白いですか?」

「そんなに面白くねえよ」


と、吉田。

「分析しないでよ、ここスナックだもん」

そう、スナックだから保のようにいい加減でいいのです。

… … … … …

「ねえねえ、ミズタクは独身?」

惚れっぽい美寿々が水口に尋ねました。

「あ、はい」

「彼女は? クリスマスの予定は?」

「美寿々さん、あんまりがっついちゃだめ」


春子がたしなめました。

「がっつかないと飢え死にしちゃうわよ」

「ごめんなさい、僕年上じゃないとダメなんです」

「年下に見える?」


社交辞令か? … 冷やかす声があがりました。

「うるせえ、大の大人が何やってるんだ? 騒いで」

勉強に集中できないアキが八つ当たりしました。

「いや大目に見てよ、だってここスナックだもん」

「スナックで受験勉強してる方がどうかしてるべ?」


保と吉田の言うことの方がごもっともなので、反論できないアキでした。

… … … … …

「ねえねえ、アキちゃんはさ、資格を取って将来どうなりたいの?」

思いがけず水口がアキに話しかけてきました。

「わかんねえ … 年中、海さ潜りてえから資格取るだけだ」

「でも君、ネットですごい人気だよね? テレビも出たんでしょ、すごいよね? … 普通に可愛いし」

「この野郎、年下はダメだって言ったくせに … 」


美寿々が茶々を入れましたが、水口は構わず続けました。

「でもさ、まだ17才だろ? まだまだ知らない世界があるわけじゃん … 君自身、無限の可能性を秘めてるわけじゃんか?」

アキは水口の顔をじっと見つめて、そして言いました。

「なんだこいつ … 言ってること、さっぱりわかんねえ」

子供みたいなアキに『こいつ『呼ばわりされ、話も通じていないことに困惑する水口。

「さては、マルチ商法の勧誘か?」

保に突っ込まれて否定する水口、ヒロシが口を挟みました。

「その辺にしておきましょうか、彼女のマネージャーです」

「マネージャー?」


ヒロシは水口に観光協会の名刺を手渡しました。

「彼女や足立ユイに関する問い合わせの窓口は僕ですので」

「親から預かった大事な娘さんだからな、ガードせねばな」


保も念のためにくぎを刺しました。

「いや、僕はただ普通に可愛いのにもったいないなあと思って … 」

「ちょっと、普通に可愛いって何よ … 普通に可愛いって言われて喜ぶ親がいると思う?」


今度は春子がかみつきました。

「親はね、異常に可愛いって思ってんのよ」

… … … … …

「水口君、手が止まってる」

「ああ、すみません」


勉さんに注意されて、水口は琥珀を取り出しました。

「ちゃんと五感を研ぎ澄まし、琥珀からいにしえの地球の変遷を感じ、8,500万年の歴史をかみしめながら磨くんだ … 酒飲んでくっちゃべりながら、磨くもんじゃねえ」

「酒飲んでくっちゃべるところだよ、ここスナックだもの」


… そう、受験勉強や琥珀磨きならよそでどうぞ。

水口は、手にしていた琥珀を光にかざして何か確認するようなそぶりの後でおもむろに立ち上がり、それをゴミ箱に放り捨てました。

「何で捨てた?」

「虫が入ってたんで」


吉田に尋ねられてそう答えた水口の返事を聞いて、しばし考えていた勉さんが突然 …

「じぇえええっ」

今まで聞いたことがないような大きな叫び声をあげました … まるで『ムンクの叫び』のようなポーズで。

そして、ものすごい勢いで水口が琥珀を捨てたゴミ箱を漁りはじめました。

「何、何、どうした? 勉さん」

呆気にとられる一同。

「何、琥珀に虫が入ってたのか?」

「ええ、アリみたいなものが … だから捨てました」


保に答えた水口。

「アリ入ってるのは琥珀、高く値がつくって聞いたことあるな」

「えっ?」

そもそも琥珀とは、簡単に言うと樹液が長い年月をかけて固まってできた結晶です。

つまり、琥珀の中に入っている虫は、8,500万年前の虫ということになり、ようするにとても貴重なのです。

「あったあ!!」


水口が捨てた琥珀を探し出した勉さん。

震える手でルーペを使って確認すると、水口が言っていた通り、琥珀の中にアリがいるのが見えました。

「おめえ、すげえな!」

「っていうかさ、勉さん初めて見たの?」


春子に聞かれてうなずいた勉さん。

「はいっ、すんげええ、アリだよアリ … おら、40年やってて初めて見たよお!」

まるで小学生の男子のような興奮の仕方です … 終いには泣き出しました。

「 … やめちまえ」

つぶやく吉田。

「ちょっと何何、見せて」

春子に言われて、テーブルに置いてあるイルミネーションの上に琥珀を置いて見せました。

「すげえ … 」

「すげえんだ?」


興奮が冷めやらない勉さんですが、他の者には、実物を見てもいまいちその凄さが伝わらないようです。

… … … … …

その時、外でクラクションの音が … 正宗がアキを迎えに来たのです。

「遅いよ、パパ」

「ごめん、ごめん、また道間違えちゃったよ」

「パパ?」

「春子さんの『別れた』旦那さんだあ」


いつの間にか勉さんの席、水口の隣にチャッカリと座りこんでいる美寿々が教えました。

そうなんです … 私の夫、忠兵衛さんはマグロ船でインド沖に出てったというのに、正宗さんはしれっと天野家に居座っていたのです。

次の日の朝。

朝食を終えて学校に出かけようとするアキに正宗が尋ねました。

「今日どうする、梨明日でいいのか?」

「うん、お願い」


しかし、春子が今日は電車で帰ってくるようにくぎを刺しました。

「ええっ?!」

「パパね、今日ママと大事な話があるのよ」


春子は笑顔でそう言いましたが、目は決して笑ってはいませんでした。

来た! … ついに正宗に審判が下される時が来たのです。

「 … 行ってきます」


足取りも重く出かけて行く正宗でした。

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2013年05月19日 (日) | 編集 |
さて、次週の「あまちゃん」は …

忠兵衛(蟹江敬三)の船出を夏(宮本信子)とともに見送ったアキ(能年玲奈)は、種市(福士蒼汰)とのデートを夢見て、潜水士の資格試験の勉強に励む。

身勝手な女でごめんなさい

春子(小泉今日子)はついに正宗(尾美としのり)との離婚を決めるが、地元のタクシー会社に就職した正宗は、もう少しだけ北三陸にとどまりたいと懇願する。しかし、クリスマスイブの夜、プレゼントをアキと春子に残し、ひとり東京に戻って行った。
 
好ぎだ … おらも

年が明けて、アキは見事試験に合格。さっそく種市に報告するが、約束のデートはなかなか実現しない。

バスガス爆発、バスガス …

一方、町は北三陸鉄道の存続問題に揺れていた。どうやら市長が赤字続きの北鉄を廃線にしようと考えているらしい。そこで大吉(杉本哲太)らは起死回生の策を練り「お座敷列車」のイベントを企画。アキとユイ(橋本愛)を列車に乗せて観光客を集めようと考える。

イベントの本番に向けて、弥生(渡辺えり)による歌のレッスンに励む2人。しかし種市への恋に夢中で練習に身の入らないアキは、真剣にアイドルを目指しているユイを怒らせてしまう。
 
その火を飛び越えます

モヤモヤした気持ちを引きずっていたアキは、思い切って種市に愛の告白をするが、そこで種市の口から驚きの言葉が飛び出す。



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2013年05月18日 (土) | 編集 |
第42話

「あんた、船さ乗りてえんだべ? 顔見てたらわかる … あんた、海恋しくなったんだべ、マグロ船さ乗って沖さ出たくなったんだべ?」

「んだなあ … 」


夏に聞かれて忠兵衛はあっさりと認めました。

「じぇじぇじぇじぇ!」

「 … 行くのは勝手だけどさ、温泉くらいつきあってあげなよ」


春子はそう言いましたが、少し考えて忠兵衛は頭を振りました。

「いや、別れがつらくなるじゃ … 」

… … … … …

アキは離れで机にうずくまっている夏に声を掛けました。

「ばっぱ、大丈夫か?」

夏はひとりごとのようにつぶやきました。

「ああ、こん時ほど、漁師の家さ嫁いだこと後悔するわ … せわしねえ男だ、ちょっとはのんびりすりゃいいのに … 」

春子に促されて母屋から出てきた忠兵衛が離れの入り口で夏に話しかけます。

「夏さん、すまねえ … おらどうやら、自分で思ってたほど、ジジイじゃなかったみてえだ … 陸さいてえのはやまやまだけど、そしてら本格的にジジイになっちまう。

ジジイと一緒にいたら、夏さんあんたもババアになっちまうべ、それだけは我慢ならねえ」


… … … … …

「とっくにババアだ … 」

そう言い捨てると、夏はすべて吹っ切ったように立ち上がり離れから出てきました。

「あ~っ、ははは、いがったいがった、このままずっと家さいられたら息が詰まるわ … 毎日弁当こさえて、洗濯して、晩酌の支度して … おらが先にくたばるわ!」

夏の悲しい悪態でした。

「お母さん … 」

「春子、写真館電話しろ、遺影撮りなおしだ!」


忠兵衛は夏に頭を下げました。

「夏さん、すまねえ、もう今年で最後にすっから」

「去年も一昨年も、そう言ったべ … 

いけいけ、インド沖でもどこでもさっさと行け! もう帰えってくんな!」

「去年も一昨年も、そう言われた ははは」


泣き笑いの忠兵衛、そして夏 …

… … … … …

その日、お父さんの送別会が急遽行われました。

梨明日の集まった漁協や海女クラブの面々、足立兄妹 … 何故か今回は磯野の顔も見えます。

「はい皆さん注目! 宴もたけなわですが、ここで中締めとして、本日の主賓天野忠兵衛さんから一言いただきたいと思います」

大吉が忠兵衛にマイクを渡しました。

「ええ、この度は醜態をさらして申し訳ございません」

ステージに立った忠兵衛は最敬礼しました。

「わたくし天野忠兵衛、昭和36年に初めて遠洋に出て以来、マグロ一筋でやってまいりました … 今年は娘夫婦と孫にも会えで、一時は引退も考えましたが …

こうなったら生涯現役のつもりで人生という航海を楽しみたい所存でございます」


拍手喝采。

「わたくし同様、今後とも天野家をあたたかく見守ってやってください!」

… … … … …

喫茶タイムが終わって中締めで一度、店の外に出た一同。

別れを惜しんで泣く者、それぞれに忠兵衛に花向けの言葉をかける者。

「先輩、くれぐれもご無事で」

「若けえ者に張り合ってよ、無理するんでねえぞ」

「その元気があったら心配ねえ … 」


… … … … …

「ねえ、本当にいいの、寂しくないの?」

後片付けをしながら、春子は夏に尋ねました。

「去る者は追わずだ」

「またそれだ」

「毎年毎年大騒ぎして、ふっ … いなくなって清々するわ」

「あのね、全然追ってこないっていうのは、それはそれで寂しいもんなんだよ」


… 自分の経験とダブらせて(?)話す、春子。

「あ、勝手なこと言うんでねえ、バカこの」

「去る者だって、ちゃんと送り出してもらいたいんだよ」


… … … … …

「ごめん、夏ばっぱ、結局ひとりも減ってねえ」

店の外で待機していた連中が二次会の為に梨明日の入り口から入ってきました。

「むしろ、増えてしまいました」

勉さんが弟子の水口を連れての途中参加です。

ヒロシとユイの父、功も入ってきました。

… … … … …

主賓の忠兵衛はといえば、駅の待合室でアキとユイを相手に話をしていました。

「ねえ祖父ちゃん、遠洋漁業っておもしれえ? … 船の上ずっといるんでしょ、退屈しねえの?」

「するさ、そりゃあ、もの凄げえストレスだ … 男ばっかり、四六時中顔つきあわせてよ、飯もほぼ毎日一緒、狭いベッドさ横になっても疲れ取れねえ」

「私無理、絶対」


ユイが言うと忠兵衛も「おらも無理だ」と言って、声を上げて笑いました。

「じゃあ、なして行ぐの?」

「余計なこと考えなくて済むからな … 陸さいる限り、おら日本人だ、日本の常識で量られるべ? … でも、海は世界中つながってるべ、中国の国だからって、中国語しゃべるわけじゃねえ、アメリカのマグロも英語しゃべんねえ、だからおらも日本語しゃべんねえ …

マグロは魚類、カモメは鳥類、おらは人類だ」


アキは尊敬のまなざしで忠兵衛を見つめました。

「かっけえ!」

「えっ、何?」

「かっこいいって言ったんです」


ユイの説明で意味が分かった忠兵衛。

「ほらな、日本語もわからなくなってる へへへへへ」

そして、忠兵衛はふと漏らしました。

「もうどこで死んでも同じだべ」

「死んじゃだめだよ!」


忠兵衛は改めてアキの顔を見つめながら尋ねました。

「アキ、北三陸が好ぎか?」

「うん、おらここが一番好きだ」

「そうか、アキがそこまで言うんだったら、帰ってくるべえ」


忠兵衛はアキの頭をなでながらそう言いました。

… … … … …

ふいにアキは思い立って売店でミサンガを買うと忠兵衛に渡しました。

「手首さ巻くの、お守り … 自然に切れる時、願い事が叶うんだって」

「ああ、漁協でおばちゃんたちが … 」

「それ言っちゃダメ、効き目が薄れるから」


ユイが忠兵衛の言葉を遮りました。

「願い事か特にねえなあ」

アキに巻いてもらった手首のミサンガを見ながら忠兵衛は言いました。

「まあいいんじゃん、それ見たら家族のこと思い出せるし」

ユイにそう言ってもらって、アキは笑いながら自分のミサンガも忠兵衛に見せました。

「そうだね、お揃いだし」

… … … … …

「アキ、大変大変!」

突然、正宗が店から慌てて飛び出して来ました。

「ママがカラオケ歌うって言ってる」

「じぇじぇじぇっ!」


… … … … …

急いで店に入る3人。

「おお、忠兵衛さん、ほらほら」

主賓の忠兵衛はステージの前に作った特等席に夏と並んで座らされました。

「正宗さん、あんたがこないだ入れた歌何だっけ?」

大吉が尋ねました。

「ああ、『潮騒のメモリー』 … 」

ついに母の歌を生で聴く機会がやってきた … アキは期待に胸を躍らせていました。


そして、春子はステージに上がりました。

「一番だけね、一番だけ … 」

「いよお、待ってました!」


イントロが流れ始め …

♪来てよ その火を 飛び越えて 砂に書いた アイ ミス ユー

スローなテンポのサビから始まったその曲。

アキの目と耳はステージの母にくぎ付けでした。アキだけでなく、アイドルを目指しているユイも同様です。

春子の歌声は甘く、以前デモテープで聴いた高校生の頃とはまた違った感じでしたが、曲調にピッタリでした。

北へ帰るの 誰にも会わずに 低気圧に乗って 北へ向かうわ

彼に伝えて 今でも好きだと ジョニーに伝えて 千円返して …


歌いこんでいるような、身振りも慣れた感じで、まるで自分の持ち歌のようです。

♪潮騒のメモリー 17才は寄せては返す 波のように激しく

満足そうな忠兵衛とは裏腹に夏は一度も顔をあげて春子のことを見ようとはしません。

サビは一気にアップテンポになります。

♪来てよ その火を 飛び越えて 砂に書いた アイ ミス ユー

来てよ タクシー捕まえて 波打ち際のマーメイド … 早生まれのマーメイド


拍手 …

春子の歌声に聞惚れる一同 … 漁に出る忠兵衛の送別会で歌う春子 … 20年以上前の光景の再現でした。

… ひとり辛い表情の夏がいました。

一番だけの約束でしたが、春子は歌い続けました。

♪置いてゆくのね サヨナラも言わずに 再び会うための 約束もしないで

北へ行くのね ここも北なのに 寒さ こらえて 波止場で待つわ

潮騒のメモリー 私はギター …

普段、不機嫌でガサツな母がこの時ばかりは、まるで別人に見え、アキはただその歌声に身をゆだねていました。

「かっけえ … 」


あまちゃん 春子 潮騒のメモリー

『潮騒のメモリー』は未収録(当然)、マーメイドが出てくる『渚のハイカラ人魚』収録、『スターダストメモリー』という曲もありまして …

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2013年05月17日 (金) | 編集 |
第41話

「あたしがいないと困るでしょ?」

店のこともあるし、アキがいなければ海女クラブだって …

「スナックだって海女だって、やめればいいだけの話さあ、なあんも困んねえ … おらがいてほしいのは、父ちゃんだけだ」

「ああ、そうですか … だったら、あたしも好きにさせてもらいますよ」


ふて腐れた春子は食事の手を止めて立ち上がりました。

「春子、何処へ行く?!」

「パチンコ」


… … … … …

「 … という訳で、久しぶりの出勤です」

「懐かしいな、なんだかな」


夏が事情を話すと、喫茶リアスの常連たちから何故か拍手が起きました。

「それにしても、なんだべ春ちゃん、ここんとこイライラして」

商工会長の今野がそう言うと、弥生とかつ枝もうなずきました。

「まあ基本、イライラしてるか、すごくイライラしてるかのどっちかですからね」

吉田がうまいことを言います。

「あの黒川って男、悪い奴ではないんだけども、なんだかイラッとする『さむしんぐ』があるんだよなぁ … なんだか時々、ぶっ飛ばしたくなるんだよな」

興奮した弥生が拳を振り回すと、旦那の今野に命中してしまいました。

「そこまで言われるなら、悪い人の方がましだ」

黙々と食事しながら、たまにボソッと的確なつっこみを入れる吉田です。

「でも、まず何で悪い人と結婚したんだべ?」

… いつのまにか「悪い人」になっている正宗でした。

今野に聞かれて、夏は答えました。

「ズバリ、安定感でねえか?」

納得する今野たち。

「なるほど、実の父親が不安定だもんな」

「漁師だって、収入は安定してるべ?」

「なに語ってるの、漁さ出たら命がけだど、いつ何が起きるかわかんねんだよ」


旦那に言われて弥生も納得しました。

「ご心配なく、父ちゃん今日からスーパーで働いてるからよ … 60過ぎて、愛妻弁当作るとは思わねがった」

夏はそうノロケると、旅行のパンフレットを取り出して嬉しそうに見せました。

「来月あたり、温泉さでも行くべってな」

「その歳で恋人気分でいられるなんてよ、おらも漁師と結婚すれば、いがったなあ」


弥生さん、隣の芝生は何とやら …

… … … … …

「ところで勉さん、その人は誰だい?」

かつ枝は、ふと勉さんの隣に見慣れない若い男が座っていることに気づきました。

その男は、髪はボサボサ、無精ひげ、丸メガネをかけて、勉さんと同じように琥珀を磨いていました。

「やっと気づいた、あのね何って言うか … 弟子」

「弟子?」


男は立ち上がると、物静かな声で自己紹介をしました。

「ご挨拶遅れてすみません、今日から勉さんの所へ弟子入りすることになりました。

水口琢磨と申します」


立ち上がると結構上背があることがわかりました。

「昨夜、いきなり尋ねてきてさ、琥珀の魅力について朝まで語り明かしたんです」

琥珀の魅力がわかる者に珍しく出会った勉さんは嬉しそうに話しました。

「大学で考古学を勉強していたんです」

… … … … …

「あやしい!」

弥生が突然声を上げて男をにらみました。

「琥珀掘りたいなんて若者いるはずねえ! … さてはおめえスパイだな?!」

慌てて、今野が止めましたが、それでも弥生は水口に詰め寄って行きます。

「八戸から来たスパイだな … 町興しのアイディア探りに来たんだべ?!」

困惑する水口。

「仮にスパイだとして、勉さんの近くにいて何かメリットありますか?」

吉田の言葉は説得力がありました。

「 … ねえな」

「ははは、何もしゃべんねえもんな」

「冗談だ、冗談、よろしぐな」


弥生のたちの悪い冗談でした … 

… … … … …

朝、お父さんは誰よりも早く起きて海へ出ます。

次第に明けていく海、忠兵衛は堤防から釣り糸を投げ込みました。

竿を固定すると、腕を組んで海を眺めています。

その表情はどこかさみしげ …

そして、朝ご飯を食べて、お弁当を持って出かけていきます。

… 買い物がてら、春子は父の様子を見に行きました。


鮮魚売り場を少し離れた位置から覗くと、忠兵衛が主任から何やら指示を受けているのが見えました。

「いやあ、いくら何でも半額はねえべえ」

「だから、四の五の言わず、シール貼ってくださいよ、タイムセールなんだから!」


忠兵衛は刺身のパックをひとつ手に取りました。

「こっちの赤身なんかまだ鮮度落ちてねえべ … 食べてみりゃわかるって」

「食べてからわかっちゃ遅いの、半額じゃないと買わないから」


タイムセールの半額シールを貼ることを拒んでいるようです。

「でもこの赤身半額にしたら、漁師が泣くって!」

「ここスーパーですから、漁師の気持ちは置いといて、仕事して!」


主任は「面倒くせえジジイだな」とつぶやきながら行ってしまいました。

渋々と値引きシールを貼って行く忠兵衛。

そんな父の背中を見て、春子は声を掛けるのをためらってその場を離れました。

… … … … …

晩酌をしながらうたた寝をしてしまった忠兵衛を春子は起こしました。

「お父さん、あたしそろそろお店に行くね」

春子と入れ替わりにアキが居間に入ってきました。

「祖父ちゃん、祖父ちゃん英語分かる?」

「おお、あたりめえだあ! アイ・コール・ポリスメン・カミング・スーン!」

「すごい、すご~い!」


春子は昼間の父のことが少し気になってはいるのですが、アキと楽しそうに話す忠兵衛を見て、そのまま出かけて行きました。

「まあな、俺の英語はカナダ訛りだけどな」

「じぇじぇ、何で?」

「英語圏では、カナダの女が一番積極的なのさ … 見るか? カナダからの手紙」

「見ない!」


… … … … …

次の日、喫茶リアス。

客は大吉、アキ、ヒロシと珍しい組み合わせです。

夏は何処へ旅行に行くかまだ決めかねているようです。

「やっぱし、日帰りにすっかなあ」

「いやいや、泊まりの方がのんびりできますよ … ほら、60歳以上2割引きだし」


ヒロシがパンフレットを指さしました。

「アキも行く、アキも行く」

「ダメだあ、新婚旅行以来なんだからふたりで行かせてやれ」


大吉がアキをたしなめました。

「新婚旅行も日帰りだったんだよ」

「じぇじぇじぇっ … 貧乏くせえ」


… そう言えば、夏さん、生まれてから一度も北三陸を出たことがないって言っていたような。

その時、電話が鳴り、夏が出ました。

「 … えっ、こっちには来てねえけど … あら、あらららら、すいません、ちょっとお待ちください」

電話は、スーパーの主任からでした。

「父ちゃん、いなくなったって!」

午前中まではいたらしいのだが、休憩で外へ出てそのまま戻らないらしいのです。

『店は平気ですよ、でも歳も歳ですし、万が一のことがあったらと思って … 』

主任からそう言われて気が気でない夏は、漁協に連絡を入れました。

「じぇっ、忠兵衛さんが行方不明?!」

… … … … …

性懲りもなくパチンコ中の春子の元にもアキから連絡が入りました。

「 … お父さんが?!」

「そう、行方不明らしいの、心当たりない?」

「 … いやいやいや、ないけどさ … ないけど、何か嫌な予感はしてたんだよね」

「えっ、何? 聞こえない … ママ、何処にいるの、今?」

「今、そっち向かうから待ってて!」


店内を通り抜けて外に出ようとする春子の足が止まりました。

「来い来い! イルカリーチ来い!」

目の前に忠兵衛がいました。

「大丈夫かな、大丈夫だよね?」

受話器からアキの心細そうな声が聞こえました。

「 … 大丈夫だと思うよ」

「よ~し、やったあ! おい、ドル箱持って … 」


忠兵衛が振り返ったそこに春子がニッコリ笑って立っていました。

… … … … …

長内夫妻が天野家の玄関を開けると、忠兵衛を取り巻いて家族と大吉が一言も発せずに座っていました。

「水臭いぜ、忠兵衛さん、おらとあんたの仲でよ、不満があったら言ってけろ … おらがスーパーさ行って、話しつけるからよ」

「なんぼ仕事が面白くねえたって、黙って帰えるのはいくねえべ」


組合長と大吉に咎められても返す言葉がない忠兵衛。

夏が代わって頭を下げました。

「本当に皆さん、ご迷惑をおかけしました」

「悪いのは俺だ、おめえが謝ることねえべ」

「何言ってるんだ! 皆さん、心配して集まってるんだよ」


… … … … …

「んだんだ、責任感の強え忠兵衛さんが何か訳があってのことだべ?」

かつ枝が助け舟を出しましたが、忠兵衛の返事は …

「訳なんかねえべ、ただ足がスーパー通り越して、パチンコの方、向いただけだ」

「仕事きつかったか?」

「いやいや、むしろ反対だ … 楽すぎるのが問題で」


本当の訳を聞き出そうと、皆がいろいろ聞いてきますが、忠兵衛はだんだん焦れてきました。

「いやだから、違うんだって … 」

忠兵衛は居間のテーブルに突っ伏してしまいました。

… … … … …

「少し休んでもらったらどうだい? … 無理して稼ぎさ出なくても、蓄えはあるんだべ?」

かつ枝にそう言われましたが、夏は本当の訳は別にあると気づいていました。

「 … 休みてえ訳ではねえんだ、むしろ反対だ」

「反対、反対」 … さっき忠兵衛も同じようなことを言っていました。

「早え話、忠兵衛さん … あんた、船さ乗りてえんだべ?」

夏がそう聞くと忠兵衛の背中がピクリと動きました。

「顔見てたらわかる … あんた、海恋しくなったんだべ、マグロ船さ乗って沖さ出たくなったんだべ?」

「んだなあ … 」


忠兵衛はあっさりと認めました。

「じぇじぇじぇじぇ!」

… … … … …

「さすが、夏さんはお見通しだ」

「何言ってるんだ、何年夫婦やってると思ってるんだ?!」


しかし、今度は春子が許しません。

「ダメよ、絶対にダメよ、お父さん!」

「んだ、第一医者に止められてるんだべ?」

「ん、まあ … 心臓の塩梅は、いぐねえ」


大吉に聞かれて、忠兵衛は後の言葉を濁しました。

「精密検査した方がいいって、長期の漁さ出たら、命の保証はしかねますって … ハッキリ言われた」

つらそうに夏が話しました。

「それだけが理由じゃねえが、俺も歳だしよ、ジジイだし … ここは大人しく隠居するべって、一度は思ったんだが …

はははは、漁師の血がうずいて … はははは」

「いやでも … 一度ちゃんと調べた方が、何なら僕、良い病院探しますよ」

「うるせえっ! おらの体はおらが一番わかってるんだ!」


良かれと思って口を挟んだ正宗でしたが、癇に障ったのか忠兵衛にドヤしつけられました。

その剣幕に一同は絶句してしまいましたが、我に返った忠兵衛が弁解し始めました。

「いやいや違うんだって、船さ乗ってる方が体も問題ねえんだよ、気も張ってるから … むしろ、スーパーでちんたら働いてたら、何だか糸が切れたみたいになって … 

この上、温泉だの入ったら、身も心も緩んでしまって、二度と立てねえべ」


居たたまれなくなった夏は席を立ち、外へ出て行ってしまいました。

… … … … …

春子はアキに夏の様子を見に行くようにそっと耳打ちしました。

「そんな訳で組合長、元々こっちから頼んでまわしてもらった仕事だけど、今日限り辞めさせてもらう」

「そりゃまあ、忠兵衛さんがそう言うなら構わねえが、辞めてどうするんだ?」

「沖さ出るのか?」

「いいのか? 次の航海はインド沖だぞ」


矢継ぎ早に皆から尋ねられて、考え込む忠兵衛 … いや、自分の気持ちは決まっているのでしょうが、ひとつだけ気になることが …

「どうするの? お母さん、ひとり残して行くの?

生きて帰ってこれないかもしれないんだよ!」


極端過ぎる春子をかつ枝がたしなめました。

「 … 行くのは勝手だけどさ、温泉くらいつきあってあげなよ」

少し考えて忠兵衛は頭を振りました。

「いや、別れがつらくなるじゃ … 」

… … … … …

夏は離れで机にうずくまっていました。

こんな祖母を見るのはアキは初めてでした。

「ばっぱ、大丈夫か?」

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2013年05月16日 (木) | 編集 |
第40話

忠兵衛は春子とアキを傍らに座らせると、畏まって話しはじめました。

「アキ、お祖父ちゃんなあ、漁師辞めるじゃ」

「じぇじぇっ?」

「明日、漁協さ行って引退宣言してくるじゃ、ついでに仕事紹介してもらうべと思って … 」


台所で食事の支度をする夏が、ビールを取りに来た春子にそっと耳打ちしました。

「定期健診の結果、あんまりよぐねがったみたいだ」

「えっ?」

一度は死んだと思い込んでいた父、忠兵衛 … 幸い元気に暮らしていますが、67歳のお祖父ちゃんなんです。


… … … … …

翌日、忠兵衛は夏を伴って漁協の長内組合長の元を訪れました。

「医者が言うには、長期の漁は体に障ると、心臓が … 」

本人に代わって夏が説明しました。

「さすがの忠兵衛さんも寄る年波には勝てねえか?」

「いやいや、あくまで病気は考え直すきっかけだ … 神様が『そろそろ休め』って言ってんだ」


忠兵衛は組合長に前向きな選択だと言いました。

「思えば、二十歳過ぎてから延縄漁一本でよ、ずっと海の上だべ、いっぺえやり残したことあるしよ」

「そりゃそうだ、たった一度の人生だすけな」


忠兵衛はホワイトボードに書かれていた出漁予定者から自分の名前を消しました。

「 … 今年はほら、娘も孫もいだから」

「夏さん、えがったな」


組合長に言われてうなずいた夏は、忠兵衛にもう一度尋ねました。

「本当にいいんだね?」

「しつこいな、男が一度決めたことだ」

「よし、温泉さでも行って、ゆっくりするといい」


夫婦で旅行など一度もなかったふたりにかつ枝が言いました。

「その前に働け、この」

「はい」


忠兵衛は、珠子に手渡された求人情報に目を通します。

天野家の大黒柱、忠兵衛さんが引退宣言をしました。

… … … … …

喫茶リアス。

昨晩の騒動などなかったかのように正宗と大吉がカウンターに並んで食事をしています。

「そうか、漁師って定年ないんだね」

春子から忠兵衛の話を聞いた正宗が言いました。

「う~ん、でも67歳で再就職って中々難しいよね」

「そりゃ、漁船に乗るよりは収入落ちるかも知んねえが、忠兵衛さんこの辺では人望厚いし」


大吉は言いました。

「だからこそ雇う方だって扱いにくいと思うでしょうに」

「でもほら、未経験者歓迎ってところ結構ありますよ」


正宗が求人誌を取出し、ページを開いて見せました。

「しかも、年齢不問、缶詰工場のような単純作業でも、月20万は保証しますって」

やけに就職事情にくわしい正宗。

「おいおい、黒川さんは何故、北三陸市の求人誌を持ってるんだろう?」

大吉に言われて、気づいた春子。

「やだ何これっ、何○で囲ってるの、こっちで仕事探す気? 居座る気ぃ?」

「うん … っていうか、もう見つけちゃった … こっちのタクシー会社でさ、ドライバー募集してて、条件が良かったんで」


これから面接があると、そそくさと出かけて行ってしまいました。

「あいつ、鉄のハートの持ち主だなあ」

敵ながら感心する大吉でした。

… … … … …

「昨日、遅くまで飲んだんだって?」

春子は改めて大吉に尋ねました。

「ああ、春ちゃんのこといろいろしゃべった … ごめん」

「いいよ別に、聞かれなかったからしゃべらなかっただけだし … どうせ離婚するしさ」


自分もアキに昔のことを話したと言いました。

「アキちゃん、何て言ってた?」

「『イタイ』って言われちゃった … 『どうかしてる』って意味じゃないの?

インターネットも携帯もない時代にさ、こんな片田舎の女子高生が『アイドルになりたい』って東京へ行ったら、そりゃ笑われるよね … 実際、笑われたしね」


大吉は頭を振りました。

「いや、おら笑ってねえど、ずっと応援してたど … 春ちゃんが有名になったら、一日駅長やってもらうべって昔から言ってたんだ、なあ勉さん!」

指定席で琥珀を磨いていた勉さんが笑顔でうなずきました。

「 … ありがとう」

… … … … …

「そっか、割と本気でアイドル目指してたんだ … 」

アキは学校で昨晩春子に聞いたことをユイに伝えました。

「うん、それで海女になるの断って、祖母ちゃんとケンカして、東京さ行ったんだって」

「それは、複雑だねえ … 娘がテレビの取材受けたり、ネットで人気出たりして、嫌がるの分かる」


アキにはユイの言っている意味が分かりません。

「だから、アキちゃんに嫉妬してるんでしょ」

「ママが、おらに?」


アキはありえないと否定しました。

「そうかな、どっかでくやしいと思っているよ、きっと」

思いもしなかったことをユイに指摘されて、アキは考え込んでしまいました。

… ほんの僅かそういう気持ちもあったかも知れませんが、それこそもっと複雑な事情があるような気がします。

… … … … …

ユイはふいに黒板に向かって何か書き始めました。

『JJガール』『AMMA』そう書き終わると、アキに尋ねました。

「ねえ、どっちがいい?」

「えっ?」

「そろそろユニット名を決めた方がいいと思うの、『5時わん』のレギュラー決まったら、ふたりでの活動も増えるし」


『5時だべ!わんこチャンネル』略して『5時わん』です。

「『JJガールズ』は見ての通り、『じぇじぇ』から来てるんだけど、『AMMA』は昔『ABBA』ってグループがいたらしいの、知らない? あとは … 」

『ウニ娘』『ウニクロ』『ウニやっこ』 … ユニット名の候補を書き続けるユイ。

ユイちゃん、飛ばし過ぎ … アキは内心そう思いましたが、その勢いはもう止められませんでした。

そして、ユイは『決めポーズ』も考えてきていました。

「右手を高く上げて、左手のひじを曲げて … ほら、『J』の形、やってみて!」

アキは言われるがまま、ユイのマネをして『J』の形を取りました。

「じぇっ!って言わなきゃ」

「おめえら、何やってるんだ?」

「じぇっ!」


教室の入り口付近でふたりの様子を種市が見ていました。

「2年生さ、プールさ、集まってるから、早ぐ着替えろ … あと、それ『J』じゃなくて、『し』だべ?」

あまちゃん JJガールズ

… … … … …

その頃、忠兵衛と夏は、漁協で紹介された … スーパーマーケットの鮮魚売り場を訪れていました。

「 … やってもらいてえのは、この向こう側の売り場に陳列するのと接客です」

ふたりは早速、責任者に職場を案内されました。

「まあ、簡単な作業ですし、うちもお爺ちゃん初めてじゃねえから … お魚の種類とかは詳しい方?」

「へへへ、少なくともあんたよりは … 」


余計な口を利きそうになって、忠兵衛は夏にたしなめられました。

時給700円からスタート、残業手当が別途1,000円と提示されましたが、忠兵衛はよく理解できずに夏に説明してもらっています。

「1時間700円っつう意味だべ」

「 … 残尿?」

「残業だ、遅くまで働けば、1,000円」

「俺が払うのか?」


夏は責任者の若い男に頭を下げました。

「すいません … この人、マグロ船さずっと乗ってたもんで、あの金銭感覚が少々グローバルなんです」

取りあえず、愛想笑いする忠兵衛。

… … … … …

学校帰りのアキがユイを連れてリアスに顔を見せました。

「ママ、どっかさ行ってよ」

「はっ?」


店に入るなり、娘に何処かへ行けと言われても …

「今からママに聞がれたくねえ話すんだ」

「だったら、ママの店来ないでヨソでやりなさいよ」


… ごもっとも。

「ヨソの人にはもっと聞かれたくないの」

「何、急に標準語で … 」


春子は不満でしたが、ユイにも「大事な話」と謝られて、しぶしぶ …

「わかりました … じゃあ、勉さんと琥珀磨いてま~す」

カウンターの隅にいる勉さんの隣に腰かけました。

… … … … …

「で、どう思う?」

席に着くや否やアキはユイに尋ねました。

「私はやっぱり『JJガールズ』がいい」

「ユニット名の話じゃなくて … 」

「ああ、種市先輩のこと?」


うなずいたアキですが、背中に視線を感じて振り向きました。目をそらし不自然に琥珀を磨く春子。

「好きって気持ちは伝えたの?」

はっきりしないアキにユイはもう一度聞き直しました。

「どっちよ?」

「資格試験さ受がったら、デートしてけろって言いました … そこで、ちゃんと伝えるつもりです」

「でもさ、仮に種市先輩とつきあったとしても、3月で東京行っちゃうんでしょ? … 遠距離恋愛じゃん、我慢できる?」


例のごとく、そこまでは考えていなかったアキ。

「あ、それとも東京で暮らす? … お父さんと一緒で東京で暮らしたら、種市先輩とも会えるじゃん」

「でも … 」

「私も高校卒業したら東京行くし、ねえそうしなよ … 何なら一緒にアイドル目指そうよ」


ユイちゃん、飛ばし過ぎ …

… … … … …

「海女は?」

突然口を挟んできた春子。

「海女はどうすんの? あんた、来年も潜るって言ってたじゃん、やめるの?」

「ママ … 」


春子は席を立ってふたりの元に近づいてきました。

「ごめん、今さ途中全然聞いてなかったんだけど … って言うか、聞かないでって言われたのに、聞いてたんだけど」

そして、ユイに向かって言いました。

「ユイちゃん、ウチにはウチの複雑な事情っていうのがあるのね、で今、こっちと向こうと東京と別々に暮らしてるんだけど … 」

「離婚調停中なんですよね?」


ユイにズバリ言われて、一瞬絶句した春子ですが、思い直して続けます。

「 … そうよ、そうよ、だから簡単に『東京に一緒に行かない?』みたいなこと言わないでほしいわけ。

あたしもね、やっと夫と離婚する決心がついて、でやっとようやくこっちの暮らしに慣れて来たっていう、そういう状態 … 」


物事を的確に話して伝えることがあまり得意でない春子がユイに説明していると、ものすごい勢いで誰かが店に飛び込んできました。

「面接受かったよお!」

正宗でした。

そのあとから、こちらも面接を終えた忠兵衛と夏が続いて入ってきました。

「えっ?!」

「ちょうど空きがあってね、明日からでも走ってくれって へっへっへっへ」


水戸黄門の印籠のように社名の入った名札を見せました。

「パパ、こっちで働くの?」

「うん、こっちに住んでこっちで働くの … お義母さんも認めてくれた」

「ちょっとお!」


春子が夏に非難の声をあげましたが、夏は笑って答えました。

「来るものは拒まずさ」

「俺も明日からスーパーで働くことになった … 見ろ、鮮魚売り場の新人だ!」


忠兵衛は胸に『研修中 鮮魚 天野忠兵衛』と書かれた名札をつけていました。

「家族3人、一緒に暮らせるぞ、アキ!」

ごきげんの正宗、忠兵衛とお互いにエールを送り合っています。

ユイがアキに耳打ちしました。

「じゃあ、東京行きはナシだね」

「ママ … 」

「ちょっと、よくわかんないわかんない … いいのか、これで? … よくないだろ、よくないよね … 整理しよう」

目まぐるしい展開に頭がついていかない春子とアキでしたが … 何はともあれ、一家5人での新生活が始まりました。


… … … … …

翌朝。

玄関の扉を開ける正宗。

横一列に並んだ忠兵衛、アキ、正宗の3人に夏と春子が弁当を渡しました。

「んだら、いってきま~す!」

笑顔の3人。

「いってらっしゃ~い!」

笑顔で答える2人。

「お義父さん、スーパーまで送りましょうか?」

「おお、悪いな」


すっかり天野家の一員、マスオさん状態になっている正宗です。

「きをつけてねえ~」

玄関で見送る春子。

「さあ、あたしたちも食べましょう」

家族を送り出し、夏とふたりで食卓に着きました。

「もう一度、いただきま~す」

まるで朝ドラのような一場面です。

… 何か間違ってる?!

「いやいやいや … これ、おかしいよね? 絶対、おかしいよね」

「何が?」

「死んだ人と別れた人が仲良く一緒に出て行ったよ」

「ああ」

「ああって、いいの? … 半年前までさ、このウチお母さんひとりで暮らしてたんだよ、今5人もいるんだよ?」


… … … … …

「半年で5倍か … 1年経ったら、25人か?」

「ふざけないでよお」


夏は嫌なら出ていけばいいと言いました。

「私が?」

「おめえもアキも正宗さんもだ … そしたら、おれ父ちゃんとふたりっきりで悠々自適だべ?」

「この期に及んでそういうこと言う? … あたしがいないと困るでしょ?」


店のこともあるし、アキがいなければ海女クラブだって …

「スナックだって海女だって、やめればいいだけの話さあ、なあんも困んねえ … おらがいてほしいのは、父ちゃんだけだ」

「ああ、そうですか … だったら、あたしも好きにさせてもらいますよ」


ふて腐れた春子は食事の手を止めて立ち上がりました。

「春子、何処へ行く?!」

「パチンコ」

「春子!」

「いってきまあす … 」


春子は振り向きもせずに玄関を出て行ってしまいました。

また、やっちまったあ … シブい顔をした夏さんでした。

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2013年05月15日 (水) | 編集 |
第39話

「行くよ!」

アキの顔を見た春子、うなずいたアキ …

春子はラジカセの再生ボタンを押しました。

『 … 天野春子、高校2年生17歳です。聴いてください、「初恋」』

「恥ずかしい … 」


若かりし頃の自分の声を聴いて、春子は顔を手で覆いました。

イントロが流れ始めます。

「これね、ここで録ったの … 8トラのカラオケの機械を漁協で借りて、ここに持ち込んで … 本当は聖子ちゃんの曲歌いたかったんだけど、カセットに入ってなかったのよ」

… … … … …

その頃、梨明日でもちょうど~大吉が春子からもらった~同じカセットをかけていました。

♪五月雨は緑色 悲しくさせたよ ひとりの午後は …

17歳の春子の歌声。

久しぶりに聴いたと懐かしがる保に大吉は言いました。

「おら、しょっちゅう聴いてる」

「駅長はな、春子さんからこのテープを受け取ったのは、自分だけと勘違いして、すっかり舞い上がっちゃったんだよ」

「デモテープの意味がわがんねかったんですよね?」

「しかも中身が『初恋』だべ、俺に惚れてると思うべ?」


正宗に聞きましたが、特に言葉は返ってきませんでした。。

「そう思い込んで24年間、駅長は独身を貫いてるんだ」

「あれ、でも奥さんいましたよね?」


正宗は大吉と小百合のことを知らないとタカをくくっていたのでしょうか …

「 … 俺の話はどうでもいいべ、とにかく春ちゃんがテープを送って、しばらく経って、たまたま漁協で会ったんだよ」

… … … … …

1984(昭和59)年。

届け物があって漁協を訪ねた大吉を見かけると、春子がうれしそうに話しかけてきました。

「見て見て、受かった、『君スタ』のテープ審査受かった!」

春子はテレビ局からの通知の葉書を大吉に見せました。

「じぇじぇっ!」

春子は大吉を人目の届かない部屋の隅に連れて行くと、小声で説明しました。

「7月7日土曜日・朝9時、東京NYBSテレビ・スタジオに集合してくださいって」

「すっげえすっげえ、夏ばっぱ知ってるのか?」


春子の表情がいきなり陰りました。

… … … … …

「夏さんには一切相談しなかったの … まあ、うすうす感づいてるとは思うけどね。いつか熱も冷めるって思ってたんじゃないかな?」

アキにそう語る春子。

… … … … …

あの日 …

春子からテープ審査通過の通知を見せられた夏は、葉書を読み終わるといきなり放り捨てました。

「くだらねえ!」

葉書を拾った春子は夏に向かって土下座しながら言いました。

「お願い、二度とないチャンスだから行かせてください!」

「だめだ、芸能人なんておめえ、水ものだ、何の保証もねえし … 第一、おめえ土曜でねえか、学校どうするんだ?」


元々その日は休むことになっていると春子が言うと、夏は改めて尋ねました。

「受かったらどうするんだ、この町さ捨てて東京で暮らすのか?」

「 … 次の週も行ぐ、10週勝ち抜かないとデビューできないの! … 落ちたらその時点で終わりだけれど、受かったら次の週も行ぐ」

「毎週土曜日さ東京通うのか?」

「 … 大丈夫だよ、10週なんて無理だから … 」


… … … … …

春子のこの一言で夏の顔色が変わりました。

「もちろん、1週や2週は勝ちたいけど、10週なんて無理」

「だったら、行ぐな! 途中で負けるって分かってて、大騒ぎして東京さ行ぐのか? … 恥ずかしい、寝言語ってるんでねえ、バカこの!」


席を立ってしまった夏のあとを春子は追いかけました。

「本気だと思って真面目に聞いてりゃ、ええっ、10週なんて無理だあ? … 遊びさ行ぐのか?

違うべ、アイドル歌手さなりたくて行くんだべ?」


春子はうなずきました。

「だったらなれ、勝て! … 負けた時のこと考えてるぐらいなら、最初から行ぐな、バカこの!」

「ごめんなさい!」


春子はもう一度土下座しました。

「ごめんなさいじゃねえ、本気か遊びか聞いてるんだ! … 1回や2回勝ってどうするんだ、0(ゼロ)か10しかねえ、どっちだ?

0か、10か?」


夏は春子の目を見つめ、春子もしっかり見つめ返して言いました。

「10です」

「 … わがった、なら行ってよし」

「本当に?」

「組合長には、おらがちゃんと説得してやる」


… … … … …

「夏さん」

その時、玄関からかつ枝の夏を呼ぶ声がしました。

迎えに出ると、長内夫妻、弥生と共にひとりの男性が立っていました。

見覚えのあるその人のことを組合長が紹介しました。

「こちら北三陸市の市長さん、知ってるべ?」

… … … … …

「えっ、市長が直々に来たんですか?」

梨明日では、いつ来ていたのか長内夫婦が当時のことを正宗に話して聞かせていました。

「んだ、それだけ春ちゃんが期待されてたってことだ」

… … … … …

春子に頼みがあるという市長、夏立会いの上で話しはじめました。

「明日、北三陸鉄道が開通すれば、観光客も増える、東京からも人が来る」

「新聞やテレビの取材も来る、ちょうど海開きで袖が浜の海女も注目される … こんなチャンス、滅多にねえべ!」


組合長も力説しました。

「おめえしかいねえんだ、春子、頼む!」

弥生が春子に絣半纏を渡しました。

「袖が浜の未来のためだ、頼む、潜ってけろ!」

かつ枝がそう言って頭を下げると、組合長、弥生、市長までが同じように頭を下げました。

17歳の少女は大人4人に頭を下げられて戸惑っています。

「あとはおらが話して聞かせるから、悪いようにはしねえから … 」

… … … … …

「掌返したのよ、夏さん、ひどいでしょ? … さっき説得するって言ったのに、全然話違うじゃんって、内心もう腹が立って仕方なかったの」

「それで、話し合ったの?」


… … … … …

市長たちを見送った夏は、東京のことも海女のこともどちらにも一切触れずに …

「明日も早い、そろそろ寝るべ」

着替えもせずにそのまま自分の寝床に入ってしまいました。

「母ちゃん」

夏の言葉を待っていた春子は、梯子を外されたような気分でしたが、それでも母の枕元に立って言いました。

「やっぱり、海女やりたくねえ … 東京さ行ぎてえ!」

… … … … …

「いっつもそう、最終的には自分で決めろって、突き放すのよ … っていうかもう、出て行けってことだと思ったよね、その時は … 」

翌日、開通した北三陸鉄道リアス線に乗って、春子はこの町を後にしたのでした。

… … … … …

「あん時、あそこで引き下がらずに連れて帰っとけば、こったらどうしようもねえ男につかまんねえで済んだのにい」

そう言って、コップのウーロン茶ダブルを飲み干した大吉 … 目が据わってきています。

「おいおい、駅長またウーロンハイ飲んでます」

困った顔の正宗。

… やっぱり、嫌な予感的中。

「今夜は確信犯だ、この野郎! 表へ出ろ、この野郎、おい!」

酒の力を借りて何をしたかったのか …

立ち上がった大吉のことを吉田と保が店の外に引っ張り出しました。

「すみません、何だか結局絡んじゃって」

ヒロシが正宗に謝りました。

「いえ、僕も初めて聞く話ばかりだったんで … 家内は自分のこと話したがらないんですよ」

… … … … …

「見送りにも来てくれなかったしさ、結局、夏さんがあの時どんな気持ちだったのか、いまだにワカンナイ …

応援する気持ちがあったのか、それともこの町に残ってほしかったのか … 」

「どっちもじゃない?」

「どっちも?」


アキはうなずきました。

「もちろん、さみしいって思う気持ちもあっただろうけど、頑張れって気持ちもあったんだよ」

自分の考えも及ばないことを言われて、わが娘ながら感心して春子は聞き返しました。

「どうしてそう思うの?」

「 … わがんねえ」


その程度のことか … あきれるやら、ほっとするやら …

「都合悪くなると訛るよね、あんた」

「だって、ママが東京行かなかったら、パパと知り合ってないし、私も生まれてなかったし … 」


正宗のことを持ち出されたからか、春子は鼻で笑ってしまいました。

「えっ、生まれない方が良かった?」

勘違いしたアキは母に尋ねました。

「何言ってるの?」

「私が生まれたから、アイドルあきらめたの?」

「そんな訳ないでしょ、バカなこと言わないの」

「じゃあ、なんであきらめたの?」


春子は言葉に詰まってしまいました。

話の流れで当然予想していなければいけなかった質問でした。

「 … まあ、いろいろあったのよね」

結局、言葉を濁らしました。

「でも、全然アキのせいじゃないからね … だって、あんた産んだの25の時だもの」

… … … … …

「つうか、親って本当に難しい!」

「え、なんで?」

「だって、アキが『海女やりたい』って言い出した時やさ、『南部もぐりやりたい』って言い出した時にさ … 今一つこう強く出れないのよね、ママ

だって、アイドルになりたかったんだよ、なれると思って高校辞めて勝手に東京行っちゃったんだよ、ねっ?」


これにうなずいていいものかどうかアキは迷いました。

「ああ、もうなんか一杯しゃべったらお腹空いちゃった はははは」

… … … … …

「それはねえべ、夏っちゃん」

ふたりが居間に下りると、忠兵衛と夏が楽しそうに笑いながら話していました。

今日は飲まないと言っていた酒も入っているようです。

「あれ、どうしたの?」

「いいとこさ来た、ここさ座れ」


忠兵衛は春子とアキを傍らに座らせると、畏まって話しはじめました。

「アキ、お祖父ちゃんなあ、漁師辞めるじゃ」

「じぇじぇっ?」

「日曜の船さ乗って、沖に出る予定だったけどな、やめた。 

もう歳だべ、無理して船さ乗んなくてもいいかと思って、夏っちゃんも心配みてえだし、アキもいるし、春子もな …

だから、陸で第二の人生楽しむかってな」


急なことなので驚きを隠せない春子とアキです。

「明日、漁協さ行って引退宣言してくるじゃ、ついでに仕事紹介してもらうべと思って … 」

「うんうん、長い間ご苦労様でした」


春子は父に労いの言葉を掛けました。

「ビール飲む?」

「おお、もらうべ」


… … … … …

「じゃあ、祖父ちゃんここで一緒に暮らすのか?」

「当たりめえだおめえ、ここはおらの家だど」


アキの顔がパアっと明るくなりました。

「やったあ、ばっぱいがったね!」

「へへへ まあね」


台所で食事の支度をする夏が、ビールを取りに来た春子にそっと耳打ちしました。

「定期健診の結果、あんまりよぐねがったみたいだ」

「えっ?」

一度は死んだと思い込んでいた父、忠兵衛 … 幸い元気に暮らしていますが、67歳のお祖父ちゃんなんです。


改めて父の年老いた姿を見つめた春子でした。

『初恋』収録 …

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2013年05月14日 (火) | 編集 |
第38話

「アキちゃんのママ、オーディション受けたことあるみたいだよ … 駅の反対側にさ、古い写真館あるじゃん、あそこで写真撮って送ったみたい。

探したら家にあるんじゃない?」


家に飛んで帰ったアキは二階の部屋でユイから聞いた写真を探しはじめました。

「何探してるの … もしかして、これ?」

そこに現れた春子が手にしていたものは …

… … … … …

「見ていいよ、見なよ、見たかったんでしょ?」

「ごめんなさい」


春子はそれを開いてアキの方に向けました。

ユイが話していた春子の写真、全身とバストショットの2枚つづり、聖子ちゃんカットの若かりし頃の春子が笑顔でポーズをとっていました。

「ダサっ」

春子は自嘲しました。

「でも、めんこいな」

「そう? … 何かほら媚びている感じしない?」


確かにファッションやポーズは古めかしい感じはしましたが、春子自身の容姿は人気があっただけのことはありました。

「必死だったのよ、この頃」

春子はアキの顔を見つめ改めて言いました。

「 … アキ、こないだ、お父さんが言った通り、

ママね、アイドルになりたかったんです」


… … … … …

「別に隠していたわけじゃないのよ、たださ、言う必要はないかなと思って黙ってただけ … 

でも近頃あんたたちが人気者になってさ、テレビ出るとか言い出すから、まっ、いつかは話さなきゃいけないなと思ってたから … まあ、ちょうどよかった」


春子はベッドに腰かけながら話を続けました。

「アイドルって言っても、今みたいな … ほら、人数の多いあの ~ 」

母はモーニング娘。やAKB48のことを言いたいようなのでアキが名前を出しました。

「ああ、それとは根本的に違うわけ … 大体今は歌を歌う人をアーティスト、演技する人は女優、モデルはモデル、グラビア専門の人がいる、棲み分けができてるでしょ?

… でも昔はね、ぜ~んぶアイドルがやってたの」

「へえ」

「その走りが百恵ちゃんね」


封印を解かれ、まるで堰を切ったように、春子は独自のアイドル論を展開しましたが …


アキが知りたいことは、アイドルの系譜ではなく、春子本人のことについてでした。

「ねえママ、お店大丈夫かな?」

「うん、まだ平気 … で、その後は、キャンディーズとかピンクレディとかグループの時代が来るわけ … 」

導入で盛り上がりすぎて中々、春子本人の話にたどり着きません。

ついにアキはシビレを切らし … 


… … … … …

「それで、次が聖子ちゃん?」

「 … それちょっと長くなるから端折ろうと思ってたんだけど … しょうがないなじゃあ、ママもう今日スナック休むわ、ね?

はい、聖子ちゃんの時代に突入します、その前にママお酒取って来まあす!」


春子は腰を落ち着けて話すためにスナックは休むことに、潤滑油を取りに一度、一階に下りて行きました。

… 裏目に出ました。

… … … … …

「うん、全然大丈夫だ … 弥生さんもいるし、正宗さんも洗いものやってくれてるから」

春子が梨明日に休みの連絡を入れると、美寿々の話では何故か正宗が手伝っているというではありませんか …

「好きでやってるんだって」

「だめだめ美寿々さん、好きにさせちゃ、そいつね、放っておくとすぐ図に乗るんだから!」


… … … … …

春子は缶ビールを片手に戻ってきました。

「それで、何処まで話したっけ … ああ、聖子ちゃんだ聖子ちゃん」

松田聖子のデビューが1980年の春、山口百恵の引退がその年の秋だと春子は話しはじめました。

「つまり、80年の夏こそ、二大アイドルが揃って存在したアイドル黄金期なわけよ … ママにとっては中2の夏ね!」

「やっとママが出てきた! … それでそれで?」

「皆夢中だったのよ、聖子ちゃんには … 何しろ歌が上手い、もちろん可愛い、ぶりっ子って言葉の語源は聖子ちゃんだからね」


… … … … …

「可愛い子ぶってるのに同性に嫌われない、むしろ憧れの対象だったわけ … 」

ビデオのない時代、テレビの前にラジカセを置いて、テープに直に録音して、新曲を覚えて …

「 … そうやって応援してるとさ、何かこう元気が出てくるのよ、自分も … わかる?

それがアイドルの条件だと思うわけ」


アキには母の言っていることがよく分かりませんでした … そんな存在が今のアキにはいないということです。

「聖子ちゃんに夢中になってるとさ、そのうち自分も聖子ちゃんになりたいって思い始めるんだわ」

「アイドルに?」

「うん、そうなのかな … 試にこう聖子ちゃんカットしてみてさ、お母さんにスッゴイ叱られてさ …

髪型変えたぐらいじゃ、何も変わんないのよね」


でもアイドルになりたいという気持ちは強くなる一方で、それでオーディションを受けたりしていたと春子は言いました。

「だからこれはね、それ用に撮った写真」

そう言って、先ほどの写真を改めてアキに見せました。

「ダサいでしょ?」

「そんなことないよ … ちょっと、何だろう … イタイ子だなとは思うけど、ダサくはないよ」

「イタイって、言葉選んでそれかよ?」


春子は苦笑いしました。

「たしかにね … 写真と書類を送りまくって、落ちまくってさ、その時点で気づけよって話なんだけどね … まあ、あきらめきれなくってさ … 

イタイよねえ」


… … … … …

「帰ったど」

一階、忠兵衛が外出から帰ってきました。

「アキは?」

二階の部屋に顔を出そうとした忠兵衛を夏が止めました。

「ダメだ、女子の邪魔しちゃあ、ふたりっきりで大事な話があるんだと」

「正宗君は?」

「ああ、そう言えば見ねえな … 一本つけるか?」

「いや、今日は飲まねえ」


… 拍子抜けで夕餉の支度に戻る夏、忠兵衛が一瞬見せた浮かない表情には気づきませんでした。

… … … … …

一方、スナック梨明日の一角はただならぬ雰囲気に包まれていました。

カウンターに腰かけ(され)た正宗の周りを斜めに構えた大吉、吉田、保の3人が睨みを利かせて取り囲んでいます。

本人たちは凄んでいるつもりなのでしょうが、欲目で見てもチンピラです。

「改めてご挨拶させてもらってよろしいですか? 観光協会会長の菅原です、春子さんとは高校の同級生です」

「交換日記してたんだよなあ」

「へえ … 」


大吉が付け加えましたが、正宗の反応が思ったより薄いものだったので、吉田が声を荒げました。

「へえってそれだけかい?!」

「吉田君、東京の方はクールだから“じぇじぇ”とか言わないんだよ」

「かなり濃厚でハードな内容でしたよぉ」


大吉がもったいぶって含み笑いしました。

「同じく観光協会でウェブ担当しています、足立ヒロシです」

ヒロシが礼儀正しく挨拶すると、正宗も会釈しました。

「春子さんの元担任の息子、ユイちゃんのお兄さん」

「アキちゃんにラブレター渡したんだよな」


あまり効果があるとは思えないようなことを付け加える保と大吉。

「厳密には書いただけで渡してないです」

「かなり濃厚でハードなラブレターでしたよぉ」

「ああ … 」


冷静な受け答えをする正宗に吉田がキレました(演技)

「なんだよ、ああって大都会か?!」

そんな3人をヒロシがなだめて席につかせました。

… … … … …

「えっと、改めまして、春子の亭主の … 」

「何だと、この野郎!」「上等だ、この野郎!」「ダンカン、バカ野郎!」


『春子の亭主』という一言で、3人がテーブルを叩いて立ち上がって、正宗に掴み掛ろうとしました。

「うるせえ! ケンカだったら表でやれ!」

しかし、弥生にピスタチオを豆まきのように投げつけられて、怯んでカウンターから離れて身構えました。

「元、春子の亭主の黒川と申します」

正宗も立ち上がって、3人に向かって自己紹介しなおしました。

「すいません、いつも全然おとなしいんです … 駅長、お酒飲めないし、菅原さん、ジオラマだけがお友達だし」

ヒロシは皆を席につかせました。

「春ちゃんが町から出て行った経緯を聞きたいって、あんたが言うから集まったが、こっちもしゃべりたくてウズウズしてたんだ … 基本的にはこっちのペースでやらせてもらうぜ」

大物ぶってしゃべっても大吉は大吉です。

… またウーロン茶とウーロンハイ、入れ替わってませんか?

… … … … …

春子の昔話は続いていました。

「歌が好きでちょっとは自信あったから、高校に入ってレッスンに通い始めたの」

「ユイちゃんと一緒だ、でもお金は?」

「自分で稼いだよ」


この町で手っ取り早く小遣いを稼げる方法で … それは、海女でした。

「じぇじぇじぇえ」

あまちゃん 春子18歳 海女

… … … … …

こちら梨明日。

「どうだい、まぶしすぎて直視できねえだろう?」

大吉は海女姿の春子の写真を正宗の目の前のカウンターに置きました。

「あいつも海女だったんだ … 」

「いや、アキと違って、海さ潜ったりしなくて、接客したり、歌っこ歌ったりよ … 何しろ、高校生で人気あったからよ」


当時を知っている弥生が話しました。

美寿々が結婚して、後継者がいなくなった頃の話でした。

「だけど、春ちゃんは東京さ行って、歌うたいになるって言ってた … 周りは皆いくら何でも無理だべって語ってたけど、本人は至って本気だったな、ねえ先輩?」

「おらが北鉄さ就職した後、たまたま3人で会ったんだ。」


… … … … …

時はさかのぼって、1984(昭和59)年。

北三陸鉄道の開業を間近に控え、その準備に追われる大吉の元を訪ねてきたのは高校生の保と春子でした。

その時、大吉は相変わらずスカートの丈の長い春子に高校を卒業した後の進路について尋ねました。

「東京さ行って芸能人になる … 」

「バカも休み休み言え、いつまでおめえ、そんな夢みたいな話」

「夢じゃねえよ、歌番組にデモ送ったもん」

「で、デモ?」

「知らないの? 土曜の夕方にやってる素人参加のオーディション番組!」


春子は、カセットテープを大吉の鼻先に突き付けて言いました。

「あげるよ、そのテープ。あたしが有名になったら、高く売れるよ」

少し照れながら笑った春子。

『1984.5 君でもスターだよ!』と、そのカセットには書かれていました。

… … … … …

「あった、本当宝の山だわここ」

春子がさっきから探していたもの、それはあのカセットでした。

「『君でもスターだよ!』っていう番組があったの、その時に送ったテープなんだ … ついでに何本かダビングして皆に配ったの … ふふふ、イタイよね?」

アキは頭を振りました。

「でも、随分積極的って言うか、今のママからは想像できない」

春子はアキの顔色を見ながら言いました。

「 … 聴いてみたりして?」

「えっ?!」


アキの顔がパッと明るくなりました。

「いえいえいえ、無理無理無理 … 」

「聴かないの?」

「えっ、聴きたいの?」


アキは大きくうなずきました。

「いえいえいえ、無理無理無理 … 」

「そうだよね、じゃあ今度でいい」


… そう簡単にあきらめられても、何か物足りない気がする春子でした。

「とか言っちゃって、ママがいない時、こっそり聴いたりするんでしょ?」

アキはいたずらっぽく笑いました。

「じゃあ … 今、聴いちゃおうか?!」

実際、本人も聴いてみたい気持ちでいっぱいでした。

… … … … …

いざ聴くと決めたら一刻でも早く聴きたいものです。

春子はラジカセを手に取って、カセットをセットすると、落ち着くためにか、ビールを一口あおりました。

「行くよ!」

アキの顔を見た春子、うなずいたアキ …

再生ボタンを押しました。

残念、時間切れです … 15分って短いですね … という訳で、明日ちゃんと聞きましょう。

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2013年05月13日 (月) | 編集 |
第37話

「あいつね、『アイドル歌手になる』って家出したんですよ」

アキの誕生会での忠兵衛の爆弾発言。

耳を疑う者、聞き流そうとする者、聞いてなかった者 … 楽しかったアキの誕生会が緊迫した空気に包まれました。

そんな雰囲気を紛らわせようと、大吉がリクエストしたバカの一つ覚えのゴーストバスターズが流れ出しました。

「ゴーストバスターズ!」

皆これ幸いと、大吉の乗りに合わせるフリをしましたが、どこか空々しく … 春子はカラオケを止めてしまいました。

… … … … …

ここに来て、忠兵衛はようやく自分がとんでもない爆弾を落としてしまったことに気づきました。

「やべえ、これ … おらまたやっちまった感じか」

しかし、忠兵衛以上に空気が読めない者がひとりいました。

「アイドル? … アイドルって何、お祖父ちゃん?」

アキでした。

忠兵衛はとぼけようとしましたが、白々しくて … 夏に泣きつきました。

「あんた、帰えってくると、いつもこうなる」

「もう遅いからお開きにしましょうか?」


春子はそう言いましたが、気になってしょうがないアキは母に尋ねました。

「ねえママ、アイドルになりたかったの? じぇじぇ、知らなかったあ … みんな知ってたあ?」

アキは皆に聞いて回ります。

「いい加減にしなさい! … 皆、気遣って黙ってるのわかんないの?」

この話題は皆が気を使わなければいけないようなことなんだ … アキはそれをやっと理解しました。

「田舎の人はね、腫れ物に触らないの、うわべだけの優しさと作り笑いで誤魔化すの … だから、腫れ物の腫れはいつまでたっても引かないの」

「別にそう言うつもりじゃねえべ」


大吉が否定しましたが、春子は聞き返しました。

「ウソだね! じゃあさ、何で今日の今日まで誰もあたしに歌えって言わないの?」

「だって、春ちゃんが歌いたくねえだろうなと思って」

「ほら、気遣ってるじゃん」

「まあまあ、春子」


正宗がなだめても、逆に八つ当たりされる始末です。

母が若い頃、アイドルに憧れていた … その事実を町の人々は知っていた、知っててアキには黙ってた。

ついに触れては欲しくない春子の過去が …


… … … … …

「さあ、片付けるべ」

かつ枝の合図で皆一斉に席を立ちました。

「 … このタイミングで帰っても、おら気になって眠れねえべ」

「アキ、皆疲れてるんだ … 続きはまた今度」


夏に諭されましたが、アキはまだ納得できずに、忠兵衛を見ましたが … アキと目が合うと頭を抱え込んでしまいました。

… … … … …

「ウニが68匹、ウニが69匹、ウニが70匹 … 」

案の定、アキは眠れませんでした。

にわかに信じがたい、元スケバンのやさぐれ者、春子がその昔、アイドル歌手を目指していたとは … でも確かに思い当たる節はある。


『海女になりたいって言い出して、ちょっと壁にぶつかったら今度は何、アイドル? … くっだらない』

「 … ウニ135匹、ウニ136匹、ウニ137匹 … 」

そうだ、春子は徹底してアイドルを毛嫌いしていた … ことあるごとにアイドル的ポジションを否定した。


『駅弁売ったり、チヤホヤされたり、写真撮られたり、そんなことするためにここで暮らしてるの?』

『アキは観光協会や北鉄のオモチャじゃないの!』

『危ない輩の危ない攻撃に四六時中苦しめられて、一生日陰を歩く覚悟がアンタたちにできてるの?』

… … … … …

あの異常な警戒心、被害妄想、かつて自分が芸能界に憧れていたとしたら …

いつしか夜は白み、小鳥のさえずる声が聞こえ始めていました。

「 … ウニ721匹、ウニ722匹、ウニ723匹、ウニ724匹、ウニ725匹 … 」

目覚まし時計のベル、飛び起きるアキ、時計の針は午前5時を指していました。

… … … … …

「いつまで寝てんの、どいて!」

部屋から出てきた春子が、囲炉裏の脇で布団にくるまっていた正宗にけりを入れました。

「あ、おはよう」

「そったらに怒るなよ、春ちゃん」

「怒っていません!」


忠兵衛がたしなめましたが、春子はぷいっと横を向いて台所の方へ行ってしまいました。

そう言えば、アキは母の歌を聴いた記憶がありません。

… … … … …

そのことを昼休みにユイに話しました。

「一度も?」

アキはうなずきました。

「童謡とか子守唄とか鼻歌も?」

どれひとつありませんでした。

「でも昔は違うみたいだよ … パパに聞いちゃった、アキちゃんのお母さん、昔のど自慢で優勝したんだって」

「じぇじぇじぇっ!」


… … … … …

放課後、アキはユイの家に寄って、功から昔の写真を見せてもらいました。

「これが高一の春、秋、これが高二の春、宮古のカラオケ大会で優勝した時 … 」

優勝しトロフィーを掲げる春子、表彰状を持つ春子の横に担任だった功が一緒に写っているものもありました。

「これはね、盛岡 … この時はね、百恵ちゃん歌ったんだ」

優勝したのは、一度や二度のことではなかったようです。

「コンテスト荒しだったんだよ、天野 … まあ、不良で問題児だったけど、歌は好きだったねえ … 寄合や盆踊りに呼ばれて歌って、小遣い稼いでた」

… … … … …

1984(昭和59)年。

漁協で開かれた忠兵衛の送別会でも春子は皆の前で歌っていました。

皆、春子の歌に聞惚れて、歌い終わればアンコール …

… … … … …

ユイの家を後にしたアキが漁協に寄ると、組合長とかつ枝が押し入れから、母の思い出の品を探し出してくれました。

ここからも出るわ出るわトロフィーや写真の数数。

「すげえ、何で隠してたの?」

隠す必要もないことなのに、アキは不思議に思いました。

「別に隠してたわけでねえけどな」

かつ枝はそう言いました。

暗黙の了解でこの話題には触れなかった、それなりの理由はあるのでしょうが …

「漁さ出る前はここで酒盛りして、春ちゃん呼ばれて歌ってた あははは」

「忠兵衛さん、何処さ行くにも春ちゃん連れて歩いてたもんなあ」


組合長と弥生が懐かしそうに話しました。

「仲良かったんだ?」

「めんこくて歌上手くて人気者だったもん」


世代が近い美寿々もよく覚えています。

「時々、夏ばっぱとはぶつかってたな … 」

… … … … …

夏とケンカすると春子は、堤防の先の灯台の元に逃げてきていました。

今も残る、その時に書いた落書き …

東京、原宿、海死ね … 春子がアイドルにあこがれて東京に出たのは間違いなさそうです。

… … … … …

二階の部屋に何か手がかりになるようなものがあるかもしれない …

何故、今まで秘密にしていたのか? 何故、町の人までなかったことにしようとしていうのか? … やっぱり、春子に直接聞かなきゃわからない。

気がつくと、部屋を家探ししている間に時間はもう午前4時近くになっていました。

… … … … …

「なんだもう、何で起こしてくれなかったの?」

明け方になってからうたた寝して、寝過ごしてしまったアキは朝食をとる時間もなく家を飛び出して行きました。

「いってらっしゃい」

「 … うん」


春子はアキが今、自分に何か言おうとして止めたことを見逃しませんでした。。

… … … … …

正宗は相変わらず居座っていました。

実家のようにくつろいで食卓を囲んで世間話をしています。

「ここらは年越してからが本格的な冬だすけな」

「2月3月が一番雪降るんだ」

「そうなんですか、ああじゃあフリース買っといた方がいいなあ」


忠兵衛、夏との会話からすると、雪が降る頃までいるつもり … ?

「あとで保険証出しといてけろじゃ」

忠兵衛が夏に言いました。

どこか悪いのかと春子が尋ねましたが、毎年恒例の定期健診でした。

「まあどこも悪くねえんだけどな」

… … … … …

「 … って言うか、いつまでいるんですか?」

春子が唐突に正宗に尋ねました。

「えっ、僕?」

こういうところも癇に障る春子でした。

「俺は日曜日に船さ乗る」

「あら、あららあと5日もある」


また忠兵衛を送り出す日が近づいていました。

「正宗君は? アキの誕生会終わりましたけど」

「ああ、楽しかったなあ はははは


わざとか天然か、答えをはぐらかす正宗。

「思い出し笑いしないでよ、気持ち悪い … 何がフリースだよ、寒さ対策してんじゃねえよ!」

… … … … …

アキが準備室のドアを開けると、磯野と種市がちょうど着替えを終えたところでした。

「すいません」

慌てて出て行こうとするアキを磯野が部屋に通しました。

脇を通り抜けようとした時、アキは種市が自分が、もらったものと同じミサンガを手首にしていることに気づきました。

「あ、これか? 自分も駅で買わされた」

「えっと、おそろいですね」


アキは自分の手首を見せました。

「ああ、この間ご馳走様。楽しかったな」

「こちらこそ、遅くまですみません」


ふたりの会話を聞いていた磯野が急に話に割り込んできました。

「へいへいへいへい、おめえらくのやろ、つきあってんのか?」

「ちがいます、天野の誕生会があって … 」

「おら呼ばれてねえど、くのやろ怪しいべ、そのミミガー!」


… … … … …

妬きモチ(?) … いいえ、ただのやじ馬根性。

「潜水土木科、久々のロマンスだべ!」

磯野は準備室を飛び出しました。

「スクープ!スクープ!」

うるせえデブだな … 心の中でそう毒づきながら、アキは喜びを隠せませんでした。

もしかしたら、種市先輩も好意を抱いているのかも …


磯野が辺りを一周して準備室に戻ってきた時、アキを訪ねてきたユイと鉢合わせしました。

「ユイちゃん知ってた? 天野と種市はあっちっちだ」

ユイは磯野の相手をせず、アキを部屋の奥にひっぱって行きました。

「お母さんに聞いた?」

「まだ、中々タイミングが合わなくて … ユイちゃんは?」


ユイはワクワクしているみたいでした。

「またパパから聞いたの、新事実!」

… … … … …

「アキちゃんのママ、オーディション受けたことあるみたいだよ … 駅の反対側にさ、古い写真館あるじゃん、あそこで写真撮って送ったみたい。

探したら家にあるんじゃない?」


アキは家に飛んで帰り、二階の部屋に入り込むと本格的に家探しを始めました。

部屋の中は、物がひっくり返ってすごい剣幕です。

そこへ …

「何探してるの?」

春子でした。

「もしかして、これ?」

春子が手にしていたものは …

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2013年05月12日 (日) | 編集 |
さて、次週の「あまちゃん」は …

あいつね、『アイドル歌手になる』って家出したんですよ

アキ(能年玲奈)の誕生パーティーで忠兵衛(蟹江敬三)が爆弾発言。

アキは、春子(小泉今日子)の隠された過去を知る。若き日の母の姿をもっと知りたいアキは、春子がかつて使っていた部屋を探り、町の人々に話を聞いて回る。

アイドルになりたかったんです

次第に分かってくる春子がかつて抱いた大きな夢や、夏(宮本信子)との衝突、家出の理由に驚きを隠せないアキ。

一方、地元テレビ局の番組に出演も決まり盛り上がるユイ(橋本愛)は、一緒に上京してアイドルを目指そうとアキを誘うが、すかさず春子に反対される。

その頃、忠兵衛が遠洋漁業の漁師を引退することを突然宣言し、スーパーの鮮魚売り場で働くことに。どうやら心臓の調子が良くなく医者に止められたらしい。

死んじゃダメだよ

正宗(尾美としのり)も勝手に地元タクシー会社への就職を決めてきて、天野家は5人家族に。

ご挨拶遅れてすいません

さらに、リアスには風変わりな青年・水口(松田龍平)が現れる。何と琥珀に興味があって勉(塩見三省)に弟子入りしたという。

忠兵衛さんが行方不明?

海への思いが断ち切れない忠兵衛は、職場から逃亡。再び遠洋漁業に出たいと言い出す。別れの辛さをこらえる夏に、アキと春子が寄り添う。

ママがカラオケ歌うって言ってる!

そして、忠兵衛の送別会、ついに春子が長年封印してきた歌を歌う瞬間が?!

♪潮騒のメモリー、17歳は …
あまちゃん 公式サイトより)

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2013年05月11日 (土) | 編集 |
第36話

あの男が北三陸に帰ってきました。

アキが急いで玄関の戸を開けると、忠兵衛と酒を酌み交わしている正宗がいました。

「パパ、何やってるの?」

「だってお前、明日誕生日だろう?」

「じぇじぇじぇ!」

「じぇ」3つ分驚いたのには理由がありました。

自分の誕生日を忘れていたこと、正宗が自分の誕生日を覚えていたこと …

そして、3つ目の「じぇ」は?


… … … … …

それは、今日の潜水実習後のことでした。

準備室で用具の後片付けをしている時にアキは種市から「少し早いけど」と小さな包みを渡されていたのです。

そのことを思い出したアキは慌てて二階の部屋に行き、その包みを開けてみました。

包みの中に入っていたのは水色のミサンガでした。

「じぇっ!?」

3つ目の「じぇ」は、あこがれの先輩がアキの誕生日を知っていたこと …


アキは種市にお礼の電話をしようとしましたが … 番号を知らなかったことに気づいて、もしかして知っているかもしれないと、ユイに電話を掛けました。

あいにく、ユイも種市の携帯の番号は知らないようです。

「 … って言うか、それ本当に誕生日プレゼントかな?」

「それ以外考えられねえべ、だってミサンガだよ」

「いや、死んだ目したおばちゃんたちが漁協で作っているやつでしょ?」


何故かユイは否定的でした。

「 … でもミサンガだもん」

その時、一階から春子の「うそでしょ?!」という大きな声が聞こえてきました。

「あ、ママ帰って来ちゃった」

「じゃあ、知り合いの先輩に連絡先聞いておくから」


… 知り合いの先輩ですか …

… … … … …

「来ないでって言ったのに何で来んのかなもう!」

あれほど来るなと念を押したのに、やって来て平気な顔をして座っている正宗に、春子は腹を立てています。

「何が悲しくて、娘の誕生日にひとりで … ねえ、お義父さん」

すっかり忠兵衛と打ち解けた正宗が同意を求めました。

「亭主に向かってそう言う口のきき方したらダメだ」

「んだんだ、相手を立てるのが長続きの秘訣だ」


両親が揃って、娘のことを責めました。

「年に10日しか一緒にいない夫婦に言われたくないんですけど」

正宗が驚くと、夏は言いました。

「これが意外と悪くないのよ、メリハリがついて」

「正宗さんも乗りますかあ、マグロ船」

「いいですねえ」


正宗の言うことがいちいち癇に障る春子、3人は和気藹々とまた酒を酌み交わしはじめました。

二階から下りてきたアキが春子のことを呼んでいます。

「何?」

「 … 誕生日、明日、明けて今日、誕生日」

「そうよ、だからこんな面倒くさいことになってるんじゃないのよ」

「お祝い、なんかお祝い … 」

「それどころじゃないでしょ、あんた早く寝なさい」


アキは尻を叩かれ追い立てられてしまいました。

… … … … …

でもアキは大して気にはなりませんでした。

種市にもらったミサンガを手首に巻くと灯りを消して布団に入りました。

夢の中 … 種市はアキの手首にミサンガを結んでくれました。

微笑みあうふたり。

次はアキが種市に巻く番です。

しかし、急に腕が太くなったようで、ミサンガの寸法が足りなくなり、結ぶのに苦労するアキ。

ふと顔を見上げると、種市ではなく磯野の顔 …

跳ね起きるアキ。

「どうした?」

尋ねたのは正宗でした。

「 … 怖い夢見た」

「お父さんがついてるから安心しなさい」

「うん、おやすみ」


再び横になるアキ、眠りにつこうとしてハッと気づきます。

何で、同じベッドにパパが眠っているの?

「いやあああ … 」

… … … … …

「信じられない!」

「何してるんだ、娘の布団に潜り込んで!」


アキの悲鳴で駆けつけた春子と夏が正宗を責めました。

「えっ、いや、だって去年までは時々一緒に寝てたから … 」

弁解をする正宗にアキが食って掛かりました。

「ウソっ、中学まで!」

「いやいやでしょ、いやいや寝てたんでしょ!」

「いいじゃないか、親子なんだからさあ~」


口をとがらせて言う正宗。

「正宗君、見苦しいべ」

忠兵衛の鶴の一言。

… … … … …

次の朝。

アキが作業小屋でウニ丼の仕込みを手伝っている時、ユイはやって来ました。

結局、種市の携帯番号はわからなかったようです。

「何だおめえ、ミサンガ手首さ巻いてるのか?」

アキがミサンガをしているのに気がついた弥生が言いました。

「お、お揃いだな、見ろ」

かつ枝がメガネバンド替わりにしているミサンガはアキと同じものでした。

姉様かぶりを取った弥生が頭に巻いていたものも …

… … … … …

その夜、終電まで弁当を売ったアキが大吉さんの車で家へ送ってもらおうとすると …

「大吉さん、支度できました」

駅務室で待つ大吉にアキが声を掛けました。

「ああごめん、車まわしてくるから、スナックで待ってろ」

「いや、ここで待ってます」

「寒いから“スナックで待ってろ”」


やけにムキになる大吉、アキには理由はわかりませんでしたが、言われたとおりに梨明日に向かいました。

すかさず、携帯でどこかへ連絡を入れる大吉。

… … … … …

アキが梨明日の扉を開けると、薄暗い店の中から同時にいくつものクラッカーが鳴らされました。

「じぇじぇっ?!」

「お誕生日、おめでとう!」


両親に祖父母、いつもの常連だけでなく、漁協や海女クラブの面々が声をそろえてアキの誕生日を祝いました。

サプライズパーティです。

ハッピイバースディの合唱の中、大吉がローソクの灯が点ったケーキを運んできました。

『アキちゃん お誕生日 祝17歳 おめでとう』

「やだあ、もうびっくりしたあ!」

春子に促されてアキはロウソクを吹き消しました。

「おめでとう」

「ありがとう、皆本当にありがとう」


アキはこんなにも北三陸の人たちに愛されているのです。

… … … … …

「先輩、こっちこっち」

ユイが入口の外に立っていた種市の手を引いてアキの前に連れてきました。

「こんばんわ」

「じぇじぇじぇっ」

「ごめん、実は連絡ついて、来てもらっちゃった」

「もしかして、噂のヘルメット先輩か?」


組合長が声を上げると、皆が囃し立てました。

いたたまれなくなったヒロシは輪を離れていきなりビールを煽りはじめます。

「ストーブ対ヘルメットかあ?」

… … … … …

しばらくして、盛り上がっているスナックを抜け出してアキと種市は待合室にいました。

「天野ごめん、誕生日だって知らなかったんだ」

「えっ?」

「もうすぐ潜水士の資格試験だべ、毎日勉強頑張ってるからさ、受がるといいなと思って … 」

「わざわざ買ってくれたんですか?」


種市はうなずいて駅の売店コーナーを指さすと、そこに『あなたの願い きっと叶う … 海女のミサンガ(琥珀付き)』と書かれて500円で売られていました。

かつ枝や弥生たちが勉さんと一緒に漁協で内職で作っているものです。どうりでお揃いのはずです。

「高けえ!」

「だからそれ誕生日プレゼントじゃないんだ」


少し当てが外れたアキですが、よく考えてみれば、種市が自分の誕生日を知っている訳がないのです。

「むしろうれしいです、全然うれしいです!」

「そうか … 」

「あの … ひとつお願いがあるんですけど」

「なんだ?」


アキは種市が座っているベンチの隣に腰かけました。

「もし … もし、資格試験さ受がったら … 」

「受がったら?」

「受がったら … おらとデートしてけろ!」


勇気を振り絞ってやっと言えました。

一瞬困惑の表情を見せた種市は思案しているようです。

返事を待つアキ。

梨明日から漏れてくるカラオケ、アキの不安な気持ちをかきたてるように、大吉が「ゴーストバースターズ」と繰り返しています。

「うるせえなあ、もう!」

アキは思わず声を荒げてしまいました。

「デートってお前、ここらでデートつったってどこさ行けばいいんだ?」

ようやく口を開いた種市。

… えっ、断られたの?

アキは種市を見つめました。

その時、梨明日から忠兵衛が飛び出して来て手招きをしました。

「アキ何やってんだおめえ、夏ばっぱとデュエットだど」

「今いぐ」


そろそろ帰ると言って立ち上がった種市。

「わざわざすみません … 」

うなずいて歩き出した種市ですが、急に振り返って忘れ物をしていたかのように言いました。

「天野 … デートな、考えとくわ」

「はいっ!」


OKをもらったわけではありませんが、アキは自分の顔がほころんでくるのがわかりました。

種市にもらったミサンガを見つめたアキ … やはり自分にとって一番のバースディプレゼントでした。

… … … … …

「次、春子だ、歌え!」

忠兵衛は夏とのデュエットが終わると、春子を指名しました。

「いえいえ、私はいいよ」

「昔はお前、おれが漁さ出る晩は必ず一曲歌ってくれたべえ … ハイ、皆拍手!」


アキも母の歌を聴いた記憶がありません。

「ママ、歌って!」

しかし、春子は乗り気ではないようです。

夏の様子も少し変に見えます。

「マイクマイク」

「お父さん、ちょっと飲み過ぎなんでないの?」


保が心配しましたが、忠兵衛は怒鳴り返しました。

「うるせえ、24年ぶりなんだど、娘の歌っこ聞きてえべ! なあ?」

「春ちゃん、もう歌わねえと済まねえべ」


大吉にもそう言われて、マイクを手にした春子ですが、まだ踏ん切りがつかないようです。

… … … … …

その時、突然イントロが流れ始めました。

哀愁を帯びたその曲 …

「懐かしいなあ、何だっけこれ?」

「映画の主題歌だっぺ」


カラオケのモニターに映し出されたタイトルは『潮騒のメモリー』

その歌は20年前の流行歌でした。

何故、正宗がその曲を入れたのか … その真意はわかりません。


イントロが終わっていざ歌い出すと思った時、春子はカラオケを止めてしまいました。

「やっぱ無理無理無理 … 」

「何だよ、歌わねえのかよ? … 変わっちまったな、昔はおめえ『東京さ行って、芸能人になる』って語ってたのに」


… えっ?

忠兵衛の言葉で静まり返った店内。

空気が読めないのか忠兵衛は正宗に向かって話しはじめました。

「正宗君、知ってた? あいつね、『アイドル歌手になる』って家出したんですよ」

「えっ?」


… … … … …

耳を疑う者、聞き流そうとする者、聞いてなかった者 … 楽しかったアキの誕生会が緊迫した空気に包まれました。

お父さんが、とんでもない爆弾を落としてしまったことだけは間違いないようです。


こうして、アキが生まれてから17年で一番賑やかな誕生会が幕を閉じました。

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2013年05月10日 (金) | 編集 |
第35話

数日後、観光協会に池田が再びやってきました。

ユイの両親と春子にテレビ番組の企画について説明するためです。

「『5時だべ!わんこチャンネル』という30分番組の中の『アイドルさ会いさ来い』ってコーナーで地方限定のアイドルの卵と言いますか … 地域社会に貢献する県内の女子高生を紹介しています。

おふたりに関してはウニ丼販売の様子とオフを取材しつつ関係者の声を織り交ぜ、北鉄や商店街、つりがね洞などの名所を紹介させていただき … 」


池田の話の途中、ユイの母よしえがスタイリストがつくかどうか確認しました。

「奥様は元女子プロでしたので、こういう … 」

「女子アナだよ」


保がよしえの経歴を言い間違えて、功に訂正されました。

「海女さんのスタイルと学校の制服以外は基本ご自前でお願いいたします、飾らない姿を撮りたいので」

「自宅にもカメラ入るんですねえ」


企画書に目を通していた春子が尋ねました。

「ええ、差支えなければ … 」

「“危ない輩”が家や漁協に押しかけたりしないかしら?」


返事に困る池田。

「学校にも入るんですね、“危ない輩”が窓ガラス割りに来たりしないかしら?」

「学校には許可を取ってありますんで … 」

「海女の衣装は露出が多いんで下にタイツでも履かせないと、“危ない輩”が … 」

「危ない輩はこの時間テレビを観ません!」


“危ない輩”を繰り返す春子にいらついた池田が語気を強め、テーブルを叩きましたが、反対に春子に凄みを利かせて睨まれました。

「いや失礼 … でもお母さん、そんなに過敏にならなくても、ウチのターゲットは主婦 … 」

春子は池田の話は受け流して、アキに尋ねました。

「アキ、本当に大丈夫なの? どうしても出たいの?」

アキはコクコクッとうなずきました。

「テレビに出るということは、“危ない輩”に素顔をさらすってことなのよ … 無言電話にピンポンダッシュ、盗聴盗撮ストーカー行為、黒塗りのワンボックスカー … 

“危ない輩”の“危ない攻撃”に四六時中苦しめられて、一生日陰を歩く覚悟があんたたちにできてるの?」


エスカレートした脅しに怯えて泣き出したアキを見て、大吉が春子を止めました。

… … … … …

「考え過ぎだよ、天野 … 一回ぐらいテレビに出ただけでそんな被害にあうわけないだろう?」

功も春子を諌めました。

「それにほら、マネージャーも復活したことだから」

保の指さす方、事務所の片隅にいつからいたのか、うつむいたヒロシが座ってだるまストーブに当たっていました。

「ストーブさん … 」

「もう、吹っ切れたのよね?」


しおりにそう言われて、ヒロシは力なくうなずきました。

「あの、あたしが心配なのは、アキよりむしろユイちゃんなんです … アキは平気よ、田舎が好きで田舎のためなら何でもやる子だから … でもユイちゃんは違う、いずれここを去るでしょ?」

春子に聞かれて、ユイは躊躇なくうなずきました。

「その時に大人たちが快く送り出してくれると思う? … あんたのおかげで北鉄も観光協会も繁盛してるの、田舎に利用されてるの、わかるでしょ?

… めんこいめんこいって煽られて乗せられて、背中押されて、都会に行ったら、ツラい思いする絶対!」


しかし、ユイはけろっとした顔で答えました。

「ご心配ねぐ … おらも田舎を利用してっから、ご心配ねぐ」

ユイの訛りに唖然とする一同。

「なんか開き直ってキャラ変えるそうです」

アキが代わりに説明しました。

「あ、訛ってない方が良ければ戻しますが」

ユイは池田に聞きました。

「えっ、いや、いいんじゃない」

ユイは立ち上がり皆に向かって言いました。

「こう見えて、おら自分のことわがってるから … 温かく見守ってけろじゃ」

… … … … …

「何だろう? … 何かすごく新鮮」

「んだな、ただ訛ってるだけなのに癒されるな」


保と大吉もユイの訛りを支持しました。

春子はユイが自分が思っていたよりずっとしっかりとした考えを持っている子だと知りました。

「どうする、天野? … ウチは応援しようと思う」

功はよしえと顔を見合わせて春子にそう言いました。

「 … じゃあ、ウチも今回は許します」

喜び合うアキとユイ。

「ただし、条件があります … 大吉さん、期限決めましょう?」

春子はアキとユイが町興しに協力する期限を決めることを条件に出しました。

「それ決めないと、延々やらされそうで怖いから」

功も春子の考えに賛成しました。

「いつまで?!」

「できれば … あと3年」


これにはさすがに誰もが驚き、保でさえ「図々しい」と言いました。

「いやいや、あと3年黒字出さねば、北鉄は廃線に追い込まれるから … 」

「それは、自分でなんとかしなさい、駅長でしょ?!」


ブチ切れた春子にどやされて、大吉は直立不動になって返事しました。

「じゃあ、来年の3月までにしましょう … 高2の間は協力を惜しみません、でもどんなに人気が出てもどんなに観光客が押し寄せても、3月で辞めさせます … わかったあ?」

こうして、アキとユイは情報番組に出ることになり、カメラがふたりの生活に密着し始めました。


… … … … …

天野家の作業小屋。

いつものように海女クラブのメンバーと珠子がウニ丼の仕込みを手伝っているところへ、カメラを持った池田が撮影に訪れていました。

「 … って言うか皆さん、普段通りが良かったんですけど … 」

いつもと違うのは、皆の格好でした。

やたら派手な色のものを身につけ、いつもはしないメイクもくどいほどしていて、どう見ても仕込みの作業に携わる格好ではありません。

「普段通りだべ?」

「んだ、普段より薄いぐれえだあ」


格好やメイクだけでなく、カメラを意識しすぎて動きもぎこちなく、普段のようにテキパキ動くことができません。

「 … カットカット、普段通りです」

… … … … …

そして、放送当日がやって来ました。

『5時だべ!わんこチャンネル!』

軽快なテーマ曲が流れ、MCの福田萌がタイトルコールをするとテレビの画面に北三陸駅が映って、緊張した面持ちの吉田がメガホンを取ってアナウンスを始めました。

『ま、まもなく、ミス北鉄のユイちゃんと海女のアキちゃんを乗せた列車が到着しまあす』

雄たけびを上げて、一斉に走り出すオタクの群れ。

『大人気!女子高生2人組 ミス北鉄ユイ&海女のアキ』というキャッチ、満員の車両の中、番重を下げてウニ丼を売るユイとアキの映像に切り替わりました。

『ご覧ください、この人気! ふたりがウニ丼を車内販売を始めてから売り上げが5倍に伸びたそうです』

なまりすぎる海女 天野アキちゃん(16)、初代ミス北鉄 足立ユイちゃん(16)ふたりを紹介するテロップ。

『アキちゃんのお祖母ちゃんでウニ丼の生みの親である夏ばっぱこと天野夏さんにもお話を伺ってきました』

夏だけでなく隣には忠兵衛も並んだツーショットが映し出されると、漁協に集まってテレビ鑑賞している皆から歓声が上がりました。

「色男!」

「黙って聞けえ、色男しゃべるから!」


テレビの真ん前に陣取っている忠兵衛が得意げに言いました。

『Q アキちゃんはどんなお孫さん?』

『はい、北三陸はですね、リアス式海岸の優れた漁場で海の幸に恵まれて … 』


忠兵衛が少し言葉に詰まると組合長が囃し立てました。

「色男、目が泳いでるぞお!」

『 … 質問、何でしたっけ?』


テレビの夏が代わって答えはじめると、本人は見ていられずに立ち上がってしまいました。

『まんず、最初はやかましい童が来たと思いました。

海女になりてえなんて今時珍しい娘っ子で、何べんも流されて溺れて、それでもあきらめなかったのは立派だと思いました』


… … … … …

『そうなんです、アキちゃんは現役の海女さんで夏の間は海に潜ってウニを獲ってるんです … 観光協会のホームページにアップされたその動画が何と100万回以上再生され人気爆発!

現在アキちゃんは北三陸高校の潜水土木科で南部もぐりを習得中です』


種市と磯野が映し出されました。

『わが潜水土木科にとっては8年ぶりの女子生徒ですので、期待も注目度も高く … 本人もやる気まんまんで実習に励んでおります』

『 … やってるやってる!』


種市の横で相槌を打つだけの磯野。

『Q どっちがタイプ?』

質問に戸惑う種市を押しのけて磯野がカメラの前にしゃしゃり出ました。

『俺、ユイちゃん、断然ユイちゃん!』

… … … … …

『そのユイちゃんは、初代ミス北鉄に選ばれた正統派美少女』

大吉と吉田のツーショットに切り替わりました。

『おかげ様で北鉄も20年ぶりに黒字に回復しました、はい』

緊張した笑顔の大吉、過呼吸のような状態の吉田は何を言っているのかよくわかりません。

池田がスタジオのカメラに戻す合図を出しました。

『はい、というわけで今日は北鉄のユイちゃん、海女のアキちゃんがスタジオに来てくださいました』

MCに紹介されて、車掌姿のユイと海女姿のアキが登場。

カメラを向けられると普通でいられなかった大人たちに比べて少女たちの振る舞いは堂々としたものでした。

北三陸の人たちは、それぞれいろんな場所のテレビの前でふたりに拍手を送りました。

何だかんだ言っても春子の目はテレビに映ったわが娘の姿に釘付けになっています。

『可愛いですね … アキちゃんは夏、海女さんとして海に潜っているんだよね? … じゃあ、今日はウニの殻をアキちゃんに割ってもらいましょう』

ワゴンに乗せられたウニが目の前に運ばれてきました。

『じぇじぇっ』

ウニを手にしようとしたアキが驚いて手を引っ込めました。

『えっ、今のなんですか?』

『いや、生ぎてると思わなくて … 』

『北三陸地方では、びっくりした時にじぇじぇって言うんです』


ユイが説明しました。

… … … … …

『もうあまり時間もないようです、最後に地元北三陸のPRお願いします』

まずはユイ。

『はい、北三陸は景色もきれいで、豊富な海の幸とあと琥珀が自慢です』

「ありがとう!」


リアスでテレビを見ていた勉さんがコブシを掲げました。

… 採掘場でストレス発散させてもらったお礼でしょうか?

『 … 北鉄さ乗って、夏ばっぱのウニ丼さ食いさ来てけろ』

次はアキの番です。

『はい、え~っと、まめぶを食べにきっ』

突然、画面がニュースセンターに切り替わってしまいました。

『番組の途中ですが、リーマンショックに関する速報です … 』

「いやいやいや、申し訳ない、ニュース入っちゃった」


池田が出てきて、アキに詫びました。

色々ありましたが、ふたりのテレビ出演の宣伝効果は凄まじく、次の週末は過去最高の人出 …

… … … … …

かと、思いきや …

「おかしいなあ、何で客来ねえんだ?」


いつもの週末に比べて客が少ない駅舎を見て、大吉は首を傾げました。

「誰も見てなかったんじゃないの?」

興味ないように答えた春子です。

「どうやら逆効果だったようですね」

「あ、カルキ」

「ヒビキです」


… 久々に登場のヒビキ一郎は、テレビ出演によって、インターネットのファンが離れて行った可能性があると推測しました。

「そんなあ!」

「その証拠に動画のカウンターが伸び悩んでいる … オタクは食いつくのも早いですけど、離れるのも早いですから」


読み違えたか大吉!

ところが …

観光協会のふたり、保とヒロシが駆け込んできました。

「国道のバイパス付近で3キロの渋滞だそうです」

「 … どういうこと?」

「岩手ローカルの番組だったから、皆ほら電車じゃねく車やバスで来るんじゃねえかな?」

「くそう、許すまじモータリゼーション!」


今度は電話を受けていた吉田が飛び込んできました。

「駅長、観光客120人を乗せたバスが、渋滞に巻き込まれたので、電車発車を5分~10分遅らせてくれって!」

「何ぃ?!」

「どうします、待ちます?」

「 … 待ってやろうじゃねえか、第3セクターなめんなよお!」

結局、この日も大繁盛でアキもユイもくたくたに疲れて家に帰りました。


… … … … …

家路をたどるアキは、我が家の下の道路に見慣れた車が停まっていることに気づきました。

「パパ?」

紛れもなく父、正宗のタクシーでした。

急いで坂を上って玄関の戸を開けると、正宗が忠兵衛と囲炉裏を挟んで酒を酌み交わしているではありませんか?!

「パパ、何やってるの?」

「何って、会いに来たんだよ」


当然のように答える正宗。

「え、何で?」

「だってお前、明日誕生日だろう?」

「じぇじぇじぇ!」


もしかして、自分の誕生日忘れてた?

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2013年05月09日 (木) | 編集 |
第34話

潜水実習中に丸窓から覗いているヒロシを見つけたアキ。

汚れたガラスにヒロシが書いた文字「るいがとひなきす」

… すきなひとがいる … アキには好きな人がいる …

ヒロシの思いつめたような顔。

… アキの体がゆっくりと水面へ浮かび上がって行きました。

… … … … …

「なんか? どうした?!」

急に浮かんできたので、何事か起きたのかと磯野はプールサイドに引き上げたアキのヘルメットを慌てて外しました。

「どしたのよお?」

「すいません、ちょっと … ストーブ!」

「ストーブ?」

「出ます!」

「早く手伝え!」


磯野は周りの生徒にアキの潜水服を早く脱がすように指示しました。

こう見えて本人はすこぶる慌てているのです。

しかし、何分この重装備 … そう簡単には脱げません。


アキはあきらめて言いました。

「もういいです … 」

「いくねえべ、バカこの … ストーブつけっぱなしはダメだ!」


… … … … …

この日を境にヒロシは観光協会を無断で休み、ストーブさんに逆戻り …

アキに渡すはずだった手紙をストーブにくべるヒロシ。

ちょうど、帰宅した父、功がその様子を見て言いました。

「おいおい、まだストーブの季節じゃないだろ?」

しかし、ヒロシは虚ろな目で炎を見つめたままで振り向きもしません。

… … … … …

「ええっ、なんでそんなこと言ったの?」

リアスに寄ったアキは春子から昨日の出来事を聞いて驚きました。

「はずみよ、ごめん … でも、まさかあんなに傷つくとは思わなくてさ」

「やめてよもう、デリカすーがないんだからもう!」

「デリカすーなんてもんは、スナックにはないの、あるのは下世話な会話と下世話な歌」

「で、そのあこがれの先輩とはどうなってるの?」


隣の席でふたりの会話を聞いていた保がアキに尋ねました。

「第二ボタンは予約済みですか?

そうアキをからかった吉田、保に「古いよ」とつっこまれて急に歌いだしました。

♪制服の胸のボタンを ~

「もうちょっとやめろって!」

アキが慌てて止めました。

「何よ、好きなんでしょ?」

「来てんだ … 」


アキは外を指さしました。

「あらっ」

春子が小窓から駅の待合室を覗くとベンチに腰かけている種市が見えました。

… … … … …

種市はリアスから出てきた春子たちを見ると、立ち上がって挨拶をしました。

「どうも、自分、北三陸高校潜水土木科3年、種市浩一と申します」

「あ、覚えてる? アキの母です」


うなずく種市に春子は店でコーヒーでも飲むように誘いました。

「自分、コーヒー飲めないので、まめぶで」

そこへ大騒ぎで駆け込んできたのは大吉です。

「アキがあこがれの先輩と駅さ向かって歩いてたって、タレこみがあったど! あっ!」

それらしき男子生徒が目の前にいることに気づいて息を飲む大吉。

「お父さん!」

「お父さん?!」


アキの父親と勘違いして、大吉にも礼儀正しく挨拶をしました。

気をよくした大吉は種市に卒業したら北鉄に就職するよう勧めました。

「大吉さん何言ってるの?」

「出発進行!って言ってみ?」

「出発進行!」


大吉に言われた通り、身振りを交えて言いました。

「言わなくていいから! … 種市先輩、就職決まってんだ」

「潜水士として3月から、羽田空港の滑走路拡張計画の基礎工事に加わります」


感心する一同。

「おらも潜水士の試験受けっから、勉強教わってんだ … 邪魔しねえでけろ」

そう言うと、ふたりはフリースペースに並んで座って参考書を広げて勉強を始めました。

… … … … …

その様子を微笑ましく見つめる一同。

「戻りてえなあ、あの頃に」

「単語帳、蛍光ペン、変な匂いの消しゴム … 」


懐かしそうに話す大吉と保。

吉田がまた歌いだしました。

♪制服の胸のボタンを ~

続けて大吉が歌います。

♪下級生たちにねらわれ ~

「ねらわれ?」

おかしな顔をする保に大吉は言いました。

「“ねらわれ”だべ? “ねらわれた学園”の主題歌だべ?」

「それは、“守ってあげたい”でしょ、ユーミンの」


春子が指摘しました。

そのうちに「ねばられ」だか「ねじられ」だか「ねぎられ」だか、その部分の歌詞がどうだったか … 議論になってしまいました。

「ねだられ … じゃないですか?」

大人たちの話を耳に挟んだユイが、聞いていられないと口を出しました。

♪制服の胸のボタンを ~ 下級生たちにねだられ ~ 

「ああ、そうそう」

… … … … …

「うるせえなもう、邪魔しねえでよお」

アキが騒がしい春子たちに文句を言いました。

… でも、公共の場で勉強するアキも悪い …

「大丈夫、邪魔しない」

ユイはアキが勉強が終わるのを後ろのベンチに座って読書しながら待ちました。

親友、あこがれの先輩、潜水土木の実習 … アキは充実した学園生活を送っていました。

… … … … …

一方、忠兵衛と夏は同居4日で早くも倦怠期を迎えていました。

ユイを連れて家に帰ってきたアキ、玄関の戸を開けた途端、ものすごい光景が目に飛び込んで来ました。

夏が振り下ろした大根が忠兵衛の頭にジャストミートして真っ二つに折れました。

頭を抱えながら忠兵衛。

「痛えなこの野郎、警察呼ぶぞ!」

「うるせえ、さっさと出てけ!」


慌てて家に飛び込むアキ。

「ばっぱ、祖父ちゃん、何やってんだ?」

「ブリ大根とブリの照り焼きどっちが食いてえって聞いたら、どっちでもいいって抜かしやがった!」

「あの大吟醸さ合うのどっちだって考えたら、どっちも合うなと思ったから、どっちだっていいって答えたんだべ」


忠兵衛は食卓の上に置いてある大吟醸の一升瓶を指さしました。

「ブリ大根でもブリの照り焼きでも、おら一生懸命作るんだど、どっちでもいいとは何事だあ!」

「ああもう、うるせえ! 外で喰う!」

「ああ、行け行け、船さ乗って沖さ行け … 二度と帰って来んな!」


夏は折れた大根を振り回して、忠兵衛を追い出してしまいました。

… … … … …

こちらリアスは、スナック梨明日の時間になっていました。

「いらっしゃいませ」

暗黙の了解、大吉、吉田、保、勉はそれぞれスナックタイムの注文をしました。

「やってる?」

扉を開けて入ってきたのは、足立功でした。

功は保の顔を見て、ヒロシが無断で欠勤していることを詫びました。

「いえいえ、原因はハッキリしてますから」

「え、そうなの?」

「 … 聞いてないんですか? 失恋したんですよ」


大吉に聞くまで、功は知らなかったようでした … 失恋の相手がアキだということも当然知りません。

「情けない、大の男が女に振られて仕事に穴を開けるとは、諸君には本当にご迷惑をおかけして … 」

ソファーの横で急にひざまずいた功を見て、大吉たちは思わず立ち上がりました。

「先生 … 」

しかし、功はソファーの下に落ちていたストラップを拾っただけでした。

「ははは、あった、いやこの間来た時、携帯のストラップ落しちゃって」

「土下座するのかと思った … 」

「土下座のタイミングでしたよね」


一瞬冷や汗をかいた保、吉田も同じように思っていました。

「わざわざそのために来たんですか?」

大吉が尋ねるとカウンターの中から春子が答えました。

「あたしが呼んだんです … あんたたちもう帰って」

「ビール頼んだばっかりだべ?!」


不満そうな3人の目の前に、春子は例のテレビ局の企画書をちらつかせました。

「ほら、これの話するんだから」

痛いところをつかれて、勉さん共々すごすごと引き上げていきました。

… … … … …

天野家。

アキはユイを連れて二階の部屋へ避難(?)していました。

「そっかあ、じゃあまだお母さんと話してないんだ」

アキはうなずき、ユイのことを尋ねました。

「ウチは平気、パパもママも応援してくれてるから」

ふたり並んでベッドに寄りかかって、天井を眺めながら、アキはつぶやくように言いました。

「どうすっぺかなあ … 」

… … … … …

夏に追い出された忠兵衛は漁協の海女クラブで長内夫婦、弥生、美寿々、珠子たちと酒盛りをしていました。

「大体、袖のおなごは気性が荒くてだめだ … それに比べて北欧のおなごは … 」

「北欧、スウェーデンか?」

「おら、グローバル・フィッシャーマンだからな … 港々さ、おなごがいたじゃあ」


美寿々と弥生を両側に侍らせていい気になっている忠兵衛です。

「あ、夏さん」

美寿々の冗談に本気で焦りまくる忠兵衛。

「しかしまあ、俺みたいな男をよく待ってられるよな、夏も」

しみじみと話す忠兵衛にかつ枝がうなずきながら言いました。

「本当だよ、忠兵衛さん」

「いよいよ逃げられるんじゃねえかって心配するが、毎年ちゃあんと待ってる … しかも今年は、娘も孫もいて、ありがてえ話だ」


忠兵衛が話している間、珠子の目が何かを追っているようでしたが …

「だったら帰って、謝って許してもらえ」

「そういうこったなあ」


長内夫婦に諭されて、忠兵衛はうなずきました。

「んだな」

席を立とうとした忠兵衛は、ふと後ろのテーブルに家にあるはずの大吟醸の一升瓶が置いてあることに気づきました。

「ありゃ?」

「夏さんが来て置いて帰った」


珠子が表情一つ変えずに言いました … 先ほど目で追っていたのは夏だったのです。

「じぇじぇじぇ!」

「いつだあ?」

「今さっきだ」


忠兵衛に聞かれて、珠子は答えました。

「今か、さっきか? … 何で黙ってんだあ?!」

… … … … …

スナック梨明日。

功が企画書に目を通しています。

「正直迷ってます、アキひとりだったら絶対に反対なんですけど … ユイちゃんも一緒だし、アキだけ出さないって訳にはいかないし … 」

「町興しに協力しなかったら、何を言われるかわからないし?」

「 … そんなのはいいんですよ、別に … 娘の将来に対する不安に比べたら、そんなの」


春子は功が含み笑いをしているのに気がつきました。

「いや、おもしろいなあと思ってね … 北高一のワルだった天野春子の娘と担任だった私の娘が同級生になるなんて、あの頃は考えもしなかったよね」

… … … … …

時はさかのぼり …

学校の廊下で春子は、教師の功に呼び止められました。

「天野、ちょっと待って」

「何だよ?」


反抗的な態度の春子に功は言いました。

「お前、パーマかけただろう?」

「天パーだよ」


そのまま行こうとする春子の腕を功は掴みました。

「前は、まっすぐだっただろう、これパーマかけたんだろう?!」

「触るんじゃねえよ、天パーだって言ってんだろう!」

「パーマだよ!」

「天パーだよ!」


… … … … …

「パーマか、天パーかで一触即発だったもんね」

「そうだな ははは」


昔話に顔を見合わせて笑うふたり … こんな日が来ることも夢にも思っていなかったでしょう。

「 … 懐かしんでる場合じゃないか、とにかく不安なんです。テレビなんか出たら、ますます注目される、好奇の目にさらされる … 」

話ながら春子が小窓を開けると、そこで聞き耳を立てている大吉たちが丸見えになりました。

「そういう状況で娘を守ってあげられる自信がないんです」

春子は大吉たちにもよく聞こえるように言うと、また勢いよく窓を閉めました。

「なるほどね、でも実際のところどうなのかな? … ユイ、芸能界でやっていけるのかな?」

「それは、まあ本人次第でしょうけどね」

「自分の娘だし、年も孫ほど離れてるし、正直分からないんだよ … 俺も年かな、娘に甘くてさ

まあ本人がやりたいようにさせるのが一番だって気がしてるんだ」


春子は一瞬ためらいましたが、功に話しました。

「何か、ユイちゃん見てると、昔の自分見ているみたいな気がするんですよ …

プライド高くて、自信家で、自分は周囲とは違う特別な存在なんだって、信じて疑わないあの感じ?」

「 … 何かわかるような気がする」


… … … … …

天野家の二階。

「テレビ出るの嫌い?」

ユイはアキに尋ねました。

「わかんねえ、ユイちゃんは?」

「私は出たいよ、ウソついてもしょうがないから、アキちゃんには本当の気持ちいうけど … 出たい、テレビ … 地方局でも何でも出たいよ、ただでさえ都会の子に比べたら遅れ取ってる訳じゃん。

だったらもう開き直って田舎を利用しなくちゃ」

「ユイちゃん … 」


ユイはつぶやくように言いました。

「おら、ミス北鉄のユイだあ、よろすぐ」

アキは体を起こしてユイを見つめました。

「急に訛ったらヘンかな?」

ユイは顔をアキの方に傾けて笑いました。

「ヘンじゃないよ!」

ユイも体を起こして、今度はハッキリと言いました。

「皆、北三陸さ来てけろ、じぇじぇ」

アキは無性に楽しくなってきました。

「わかった、出るべテレビ、ユイちゃん!」

「本当?」

「北三陸のためだ、ユイちゃんと一緒なら出てもいい」


その時、下から忠兵衛の声が聞こえてきました。

「ただいまあ」

「祖父ちゃん帰ってきた!」


… … … … …

一升瓶を手に少しふらつく足取りで忠兵衛は家に上がってきました。

食卓に用意されてある料理を見て、うれしそうに笑って一升瓶を抱きしめました。

夏は茶の間に背を向けてそっぽ向いたままです。

「祖父ちゃん、おかえり!」

アキとユイが一階に下りてきました。

「あ、ブリ大根も照り焼きもどっちもある!」

食卓を見て声をあげました。

「うまそ~!」

きちんと人数分用意されてあります。

「早く手洗え、ユイちゃんも」

「は~い」


夏の声はまだ不機嫌そうでしたが、ふたりは返事をして流しに向かいました。

声が掛らなかった忠兵衛は「待て」をされている犬のように夏の作った料理の匂いを一生懸命に嗅いでいます。

「 … お父さんも」

「は~い」


待ってましたとばかり、忠兵衛はアキたちと一緒に並んで手を洗い始めました。

アキがいたおかげで今年はいつもよりも簡単に仲直りができたようです。

一件落着 … めでたし、めでたし。

『卒業』収録 … 作詞:松本隆 作曲:筒美京平

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2013年05月08日 (水) | 編集 |
第33話

大吉から放課後に観光協会へ来るように呼び出されたアキとユイ。

そこで待っていた薄いサングラスをかけた男から差し出された名刺には、『岩手こっちゃこいテレビ 制作局ディレクター 池田一平』と書かれてありました。

「えっ、何?」

アキはユイの顔を見ましたが、彼女も首をかしげています。

「まんずまんず、そう固くなんねえで、ケーキでもけっ」

ふたりの目の前に置かれた甘そうで高そうなケーキを勧めました。

… 嫌な予感がします。

… … … … …

「インターネットで見たよ君たちのこと、今どき珍しく擦れてない感じが新鮮だった … 地元のために頑張っている姿にも感動したよ、エライねえ」

アキには池田が何を言いたいのか理解できません。

「『5時だべ、わんこチャンネル』って見たことねえ? グルメだの裏ワザ紹介している夕方の番組」

保が番組名を出すと、ユイが知っているらしく、そこに出ている女性タレントの名前を言いました。

「そうそう、ようするに夕方の情報番組で一度君たちを紹介させていただいて、その反応次第では番組内にレギュラーコーナーを設けて … 」

ふたりに説明を始めた池田の「レギュラーコーナー」という言葉で大人たちがざわめき出しました。

「 … 皆でこの北三陸を盛り上げようっていうコンセプトで、そのシンボルとして君たちふたりの力を借りたいわけ」

ヒロシがアキに聞きました。

「ど、どうかな、アキちゃん?」

「お母さんに聞いてみねえと … 」

「お母さんの許可が必要なのは知ってる、そしてお母さんが許可しねえのも知ってる、そこは俺たち大人がなんとかするすけ」


そうアキに言い聞かせたあとで大吉は吉田に目くばせしながら言いました。

「 … どんなに汚い手を使ってもな」

「要は、アキちゃんにその気があるのかないのか … 」


吉田にそう言われも、何と答えていいのか判断できないアキはユイはどうなのかと尋ねました。

「スタイリストさんはつきますか?」

「えっ?」


ユイの口から出たのが思ってもみなかったことだったらしく、池田は聞き返しました。

「ごめんなさい、海女の衣装と制服以外に何か私服的なものが必要なのかと思って」

「 … それは、基本自前でお願いします」

「メイクもですか?」


ユイは冷静に質問を続けます。

「メイクも … ですね」

「VTRは事前にチェックできるんですか?」

「それは、生放送だからねえ」

「でも、取材は事前に撮影しますよね、チェックできますか?」

「確認します … 」


たかが女子高生と侮っていた池田は、ユイがあまりにもしっかりしているので、ソッポを向いてしまいました。

… … … … …

「ねえ、どうする?

観光協会を後にして北三陸駅の待合室でユイがアキに尋ねました。

「えっ? どうするって、すっかりやる気なんだと思ってた。いろいろ質問してるから」

ユイは笑いながら否定して言いました。

「やるやらないに関わらず確認は必要でしょ。ネットと違ってローカル局とはいえ地上波だし、誰が見るかわかんないし …

実質デビューみたいなもんだよ。ダサく取り上げられて損するの嫌じゃん」


アキはそんなことまで全く考えてはいませんでした。

「なんか不安、あの池田って人も適当でボンヤリしてるし … 」

そうだった、ユイちゃんはアイドル志望なんだ … アキは少し冷静になりました。

たまたま今は仲良くやっているけど、目的は全然違う … ユイには夢がある、夢をかなえるチャンスをつかもうとしている … 私みたいに浮ついた考えじゃないんだ。


… … … … …

「ヒビキさんに相談してみようかな … アキちゃんは?」

「おらはやっぱりママに聞いてみる」


春子のことは大吉が任せろと言ってはいましたが、アキは以前にアイドル関連のことで、母にものすごく怒られたことを忘れてはいませんでした。

「アイドルになりたいって思ったことあるってママに聞いたら … 」

『いい加減にしなさい!』

『海女になりたいって言い出して、ちょっと壁にぶつかったら何、今度はアイドル?』

『あんたみたいなブス、なれるわけないじゃないの!』

「 … ひどい」

アキの話を聞いたユイは思わず絶句してしまいました。

「ひどいかあ、やっぱり」

「え、アキちゃんブスじゃないよ、全然ブスじゃないよ」

「いや、うん、それはもう乗り越えたんだ」


立ち直りや環境に順応するのが早いのがアキです。

「 … ブスじゃないのに」

「でもママ、チャラチャラしたこと極端に嫌いで」

「ブスじゃないからね」

「わかったから」


アキは笑い飛ばしました。

「わかってない、アキちゃんのママ、アイドルのことなんもわかってない、誤解してる!」

ユイのあまりの剣幕にアキは息を飲みました。

… … … … …

「アキちゃんはアイドルの素質あるよ」

「え、えっ?」


ユイは何を言いだすのやら …

「アイドルってね、可愛いだけじゃダメなんだよ、可愛いだけの子なんて掃いて捨てるほどいるんだから … 可愛いだけの子を可愛くない子が追い抜いていく世界なの。

… あれ、何かアキちゃん可愛くないみたいに言ってる?」


アキは頭を振りました。

「じゃあ、お母さん見返してやろうよ」

「見返す?」


ユイはうなずきました。

「テレビ出てさ、地元のアイドルになってさ、ただのブスじゃないって … あっ(また)」

… … … … …

「あ、アキ、お父さんは?」

タイミングよく、夏とリアスの店番を交代するために春子が電車から降りてきました。

「学校で別れた」

春子のことを見つめるアキとユイ。

「何?」

思わず目をそらしたアキにユイが耳打ちしました。

「言ってあげようか?」

「いい! … 何でもない、電車来ちゃうから行こう」


ユイが余計なことを言いだす前に手を引いてホームへ連れて行くアキでした。

… … … … …

リアスでは夏がすでに帰り支度を終えていました。

「父ちゃん待ってるから買い物して帰えんないと」

「仲良いねえ」

「今だけだ … ほんじゃお先」


あとを春子に任せると、鼻歌まじりでウキウキしながら帰って行きました。

… … … … …

春子がカウンター内に入ると、大吉、吉田、ヒロシ、保と一列に並んだ連中のただならぬ視線を感じました。

「何なのよ?」

大吉が口を切りました。

「あの … あ、お父さん元気?」

「今夏さんがそう言ってたじゃん … 何よ、何か言いたいことあるなら言って、ないなら変な空気出さないで!」


意を決した大吉。

「今日、テレビ局の人が来た。アキちゃんとユイちゃんを取材したいそうだ

すかさずヒロシが企画書を取り出しました。

「町興しに一役買う女子高生ってことで、まあ夕方の情報番組なんでそんな面倒な感じでは … 」

「いっらしゃいませ」


ヒロシが説明の途中でしたが、スナックタイムになったので、春子が注文を催促しました。

… … … … …

企画書に目を通している春子に大吉は話しました。

「遅かれ早かれこういうことになるとは思ってた。ここ最近の北鉄ブームの火付け役は明らかにあのふたりだ … インターネットで終わるわけはねえ、いや終わってもらっては困る … そういう意味では狙い通りだべ」

春子は黙ったままでカウンターから出て歩き始めました。

「春ちゃんがこういう派手なことに拒絶反応あるのはわかってる、でも今回だけは … 」

ソファーに腰かけた春子がいきなり聞いたことは …

「スタイリストはつくの?」

ユイと全く同じことを聞いたので、顔を見合わせる男たち。

「何、自前?」

「あ、はい、基本的には海女さん姿と制服で … 」


ヒロシが答えました。

「メイクは?」

これもまたユイと同じ。

「あ、はい … あ、でも事前にVTRのチェックは」

「え、やってくれるのか?」


春子があっさり許可してくれるのかと大吉が聞きましたが、そんな簡単に許すわけがありません。

「聞いただけよ、どの程度の番組なのかなと思って」

「岩手ローカルだけど宣伝効果は絶大だ」


保がそう言いました。

まず県内で評判にして、口コミで北三陸の名を全国区にする目論見でした。

「本人は何て言ってるの?」

春子はヒロシに向かって尋ねました。

「お母さんに聞いてみないとって」

「アキじゃなくてユイちゃん」

「 … あいつは元々芸能界にあこがれてますから」

「そっか、やっぱそうなんだ … そうじゃないかなって思ってたのよね、アキとはモチベーションが違う。

あの子見てるとツラくなるのよ、昔の自分見ているみたいで」


… … … … …

「昔の春子さん? … いや、悪いけど全然違うよ」

スカートが長かった春子のことを思い浮かべて、保が苦笑いしながら言いました。

「どう見たって対極だべ」

大吉もそう言いましたが、春子が言ったのは見かけのことではありません。

「あの子、田舎嫌いでしょ?」

「嫌いって言うか、見えてないんじゃないですか、東京へ対するあこがれが強いから」

「そこがアキと全然違う」


… … … … …

「 … 田舎大好きだからねアキは、大好きな田舎の大好きな人に喜んで欲しくって、やってるだけだから」

母はそんな娘の気持ちがわかっていました。

「確かにユイは違いますね、あいつは卒業したら東京行くつもりだし」

何だかんだ言っても兄も妹の気持ちをわかっているようです。

「その辺のずれを北鉄の駅長さんはどう考えているんですか?」

特に考えてはいなかったようです。

「あのふたりを町のPRに利用するのは構わない、でもまだふたりとも子供なんだからね … これ以上エスカレートしたら取り返しのつかない事になるのよ、ちゃんと責任とれるの?!」

… … … … …

「僕がマネージャーになりますよ」

ヒロシが名乗り出ました。

「はあ?」

「何言ってんだ、足立」

「僕が窓口になります、僕が間に入ってふたりの希望を聞きながら、テレビ局の人がなんか言ってきても責任もって対応します。 … それでもダメですか?」


春子は却下しました。

「ダメよ … 何よマネージャーって、芸能人じゃあるまいし」

しかし、窓口は必要だと保が言いました。

「ちゃんと冷静に判断できる人じゃないとダメ」

「できます!」

「無理よ、あんたユイちゃんの兄だし … アキのこと好きじゃん!」


… … … … …

「 … それは、その気持ちは、いったん寝かせます」

「寝かせるってことはいつかは起こすってことだよね」


吉田が聞くとヒロシはあいまいにうなずきました。

「何、ストーブ君、振られたか?」

「って言うか、間が悪いって言われました」


保に聞かれてヒロシはアキに言われたことを話しました。

「何か潜水の勉強に集中したいって … 」

「ふ、違うね … 」


アキが種市のことを好きだと感づいている春子は思わず鼻で笑ってしまいました。

「えっ?」

「あ、ごめん、続けて」

「だから、今は … だめだ、続けられない。何が違うんすか?」


一同の視線がカウンター内の春子に集中しました。

何かを考えていた春子はつぶやくように言いました。

「るいがとひなきす … 」

呪文のようなその言葉、誰にも意味が分かりません。

春子はその呪文を唱えながら、またカウンターを出て、今度はステージに立ちました。

「るいがとひなきす、逆から読んでみ」

春子にマイクを通して言われて、男たちはその言葉を逆から一言ずつ口にしました。

「す、き、な、ひ、と、が、い、る」

「好きな人がいる?」

… アキには好きな人がいる …

「 … そういうこと」


呆然とするヒロシ、固まったまま目はうつろ …

春子はステージを下りました。

「何かごめんね … 」

… … … … …

北高潜水土木科、実習プール。

「今日は、種市とふたりで水中で単管を組み立ててもらうぞ」

潜水服を身にまとったアキはプールサイドで種市と並んで、磯野の指示を聞いていました。

「はい」

「初めての共同作業だ」

「落ち着いて、呼吸合わせればできるから」


初めての共同作業 … アキは別のことを考えてしまって、思わず顔がにやけてしまいました。

「何ニヤニヤしてるんだ、お前?」

… … … … …

ふたりで両手を取り合ってプールの底に沈んで行きます。

底に着くとそのまま、ゆっくりとした足どりで単管に近づいて行きます。

作業は続き、アキは次の動作に移ろうと振り向いた時、丸窓に人影 … 誰かが覗いているのに気がつきました。

… 人影はヒロシでした。何か思い詰めたような顔。

丸窓へ近づいていくアキ、ヒロシは汚れたガラスに指で何か書き始めました。

「るいがとひなきす」

窓の外に書かれた文字は反対向きで、アキが読めたかどうかはわかりません … ただアキはじっと見つめています。

「お兄ちゃん?」

偶然、実習場の前を通りかかったユイがヒロシを見つけました。

振り向いたヒロシ、丸窓から見えるプールの中には潜水服を着たアキがいました。

… アキは自分の体がゆっくりと水面へ浮かび上がって行くのを感じていました。

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2013年05月07日 (火) | 編集 |
第32話

「さあ、起きろ起きろ起きろ!」

アキとユイが眠っている部屋に入ってきた忠兵衛が手を叩きながら大声を上げ、ふたりの布団をはがしました。

今日から天野家は4人家族です。

しかもユイちゃんがお泊りしたので、朝ご飯は5人で食べます。

「いただきま~す」


アキがいつものクセで仏壇に忠兵衛の線香をあげようとして笑われました。

そこへ離れの作業小屋でウニ丼の仕込みを終えた海女クラブの面々、珠子とそのふたりの娘が入ってきて食卓に着きました。

… もとい、6、7、8、9、10、11人で食べる朝ご飯です。

… … … … …

「あら、夏さんよく見たらおしゃれなの着て」

美寿々が目ざとくみつけました。

「お父さんのおみやげ」

「スペインのマドリードさ、1週間よったんだ … あ、おめえらにはねえぞ、まさかいると思わなかったから」


忠兵衛が春子とアキに断りました。

「スペインで何してたんですか?」

「何ってえ、バカンスだべ」


ユイに聞かれて忠兵衛が答えました。

3ヶ月に1回、近くの港に船を泊めて休暇を取るのです。

「じゃあ祖父ちゃん、いろんな国に行ったことあるの?」

アキが尋ねました。

「インド、タイ、フランス、ノルウェイ、カナダ、アメリ … 」

指を折って数えていた忠兵衛がふと止めて、アキの顔をまじまじと見て言いました。

「お祖父ちゃんって呼ぶのか … 俺のことお祖父ちゃんって呼ぶのか?」

「孫なんだから当たり前でしょ」

「ダメかあ?」


不思議そうな顔の春子とアキ。

「ダメじゃねえが … ついこの間、家出したと思ったら、もう孫か」

「24年も前だ」


夏にそう言われても、ほとんど海の上にいた忠兵衛には実感がわかないようです。

「せめて、もうちっと小さかったら、抱っこして顔なめたりするんだけどなあ」

「やめてよお」


春子が物凄く嫌な顔をしました。

「 … なめてもいいよ」

アキが仕方なくそう言うと、忠兵衛は喜び勇んで立ち上がろうとしましたが、春子が必死に止めました。

「さあさあ、今日も100個売りさばくべえ」

そうこうしているうちに迎えの大吉がやって来ました。

一斉に立ち上がる一同。

… … … … …

アキとユイちゃんが一生懸命ウニ丼を売っている間、お父さんと私は束の間の休暇を満喫しました。

ウニ丼を売りきったアキがリアスに戻ると、忠兵衛と夏がカウンターでコーヒーを飲んでいました。

「ばっぱ、今日はふたりで何処さ行って来たの?」

「何処って、定番のデートコースだべっちゃ」

「ブティック今野で服買ってや、ちはる食堂で飯食ってや、それからえ~TATSUYA?」


レンタルショップでDVDを借りてきていました。

「なんだっけ、ほら、グラン、グラン・ブルー?」

「アキも見たい」

「ダメだ、ふたりで見るんだから、ガキは寝ろ」


口をとがらせるアキ。

「いつの間にか映画館つぶれてしまったもんなあ」

「じぇ、映画館なんて何処にあったの?」


ブティック今野の一本奥にあったと隣に座っていたヒロシが教えてくれました。

… 閉館したのも30年前の話でした。

… … … … …

「町でアキのポスター見たど、海女さんの … 人気あんだなあ」

忠兵衛が感心して言いました。

ヒロシが、自分がデザインした観光協会のポスターだとその場で広げて見せました。満面の笑みで海女姿のアキがどアップで写っています … いじらしいね、ヒロシ君。

「夏っちゃんもポスターのモデルやってたべ?」

「ばっぱが?!」


夏が恥ずかしそうに話しました。

「この人にとっちゃ昨日のことさ、なにしろ年に10日しか陸にいねえんだもん」

「結婚して何年ですか?」


ヒロシが尋ねました。

「44年でがす」

「年に10日、まだ440日しか一緒にくらしてないんだ」

「んだ、まだ1年半でがす」


… … … … …

「アキ、おらとばっぱの馴れ初め知ってるか?」

忠兵衛に聞かれてアキは以前海女クラブで聞いたことを話しました。

「ばっぱがおっぱい丸出しで海女やってたら、祖父ちゃん漁協さ怒鳴り込んだんだべ?」

「それは、結婚さ踏み切ったエピソードだべ」


夏が言いました。

「だいたい何でそんなの知ってんだ?」

「おらと忠さんはな、海ん中で出会ったんだ」

「高校出てすぐ、海さ潜ってウニ獲ってる夏っちゃん見つけて、こりゃヘルメット被ってる場合じゃねえべって外して声掛けたんだ」


しかし、その後すぐ忠兵衛はマグロ船に乗ってしまって …

「やっぱり男は広い海さ出ねえとな」

「結納だの結婚式だのこの人いなかったんだよ」

「じぇじぇじぇ」

「戸籍上のやり取りだけで、おら旦那のいない家さ嫁いできたんだあ」

「へえ、何かいいなあ」


ヒロシが口を挟みました。

「いいかなあ? 年に10日だよ」

「その分いつまでも新鮮なんだよ、お祖父ちゃんお祖母ちゃんになっても恋人同士みたいに仲いいのは海のおかげだべ」


コーヒーをすすりながら笑いあう忠兵衛と夏。

「パパとママが今別々にくらしてるのもそういうことなのかな … 」

… … … … …

アキのパパとママはその頃、電話中でした。

インターネットでアキの写真を見つけてすごい人気だと知ったとうれしそうに話す正宗に春子は言いました。

「って言うかさあ、ネットで娘の画像見てニヤニヤしてんでしょ、情けない … 他に楽しみないの?」

「 … あるけど、誕生日、もうすぐ」

「ああ、アキの? … それがどうしたの? … 来ないでよ、やめてよ、何しに来るのよ?!」


酷い言いようでした。

「親だからに決まってるだろ、電話もメールも我慢してるんだよ! せめて誕生日ぐらい … えっ? お義父さんって、えっ生きてたの … よかったね、じゃあご挨拶に」

「何で来るのよ? やめてよお … あんた、気許すとすぐこっち来ようとするよね?

やめてよ、もう別れたんだから」

「まだ、“紙の上”では夫婦だろ … 」

「“紙の上”でしかもう夫婦じゃないのよ」


電話の向こうから泣き声が聞こえて来たので春子は余計にイラッと来ました。

「泣くな!」

「泣いてない」

「この際だから言っておきますけどね … アキ、潜水士の資格取って地元で就職するって、あんたの出る幕なんてないから!」


… … … … …

その夜。

「なるほどなあ、春子も気が強ええからな」

離れで釣竿の手入れをしている忠兵衛にアキはここへやって来た経緯を話していました。

「そんな絶好のタイミングで大吉さんからメールが来たの、夏ばっぱが倒れたって … ウソだったんですけど。

… で、ママすっかりダマされて … いやダマされてはねえか、ママもこっちゃ帰るきっかけが欲しくて、大吉さんはママのこと好きだし、おらも学校で煮詰まってたし …

そういうことわざあるよね?」

「猫に小判だ」

「ちがう、もっとこうTシャツにGパンみてえな」

「破れ鍋にとじ蓋か?」

「ちがう、もっとこう寝る前に洗顔みてえな」

「ビールに枝豆か?」

「あ、渡りに船だ! … そんなわけで東京か北三陸か悩んだ末、夏からずっと居座ってる状態なんです」

「ふ~ん、そうかい」

「ごめんね、説明が下手で」

「う~ん、まあ半分もわかんねがったが … ここが好きなのはよくわかった」


それがわかってくれたらアキは十分でした。

「好きだ、海も人も電車もウニもまめぶも全部大好きだ」

「おらも好きだあ」

「だったら何で船さ乗るの? … 何で年に10日しか帰って来ねえの?」

「う~ん、なしてだべなあ」


忠兵衛はアキにそう聞かれるまで考えたこともありませんでした。

「生きていくため?」

「それもある … 海が好きなのはある! だが、敢えて言うなら

ここが良い所だっていうのを確認するためだな」


アキにはちょっと難しい答えでした。

「ほら、夏さんは北三陸から一歩も出たことねえべ、だからおらが世界中を旅して周ってよ、いろんな国のいろんな町を見て周ってよ … んでも、やっぱここが一番良いぞって、教えてやってんだ」

「東京よりも?」

「北三陸も東京も、おらに言わせれば日本だ」

「かっけえ … 」

「あん?」

他人とは違う時間がお祖父ちゃんの中には流れている … 世界を旅する男はスケールが違うんだ、アキはすっかりお祖父ちゃんに夢中になりました。


… … … … …

ある朝、アキとユイは北三陸駅で大吉に呼び止められました。

「今日、放課後空いてる?」

ユイは大丈夫、アキも潜水の実習が終わった後ならと …

「じゃあ、4時頃観光協会さ来てけろ … ケーキ用意して待ってるから」

… … … … …

潜水実習中のアキ、プールサイドでモニターを見ながら種市が無線で指示を与えています。

「もっと空気抜け天野、浮かんできてるぞ」

「はい」


素直に種市の言う通りに従うアキ。

「平行移動、排気しながら平行移動!」

横から磯野が口を出しました。

「わかっています」

返事からして種市に対するのとでは雲泥の差がありました。

「浮かんできてるってえ!」

「 … わかってるって、うるせえな」

「なぬ、今なんって言ったア?」

「一度にいろんなこと言われても無理です」

「 … くぬやろ」


意外と気が強いアキに種市は苦笑いしました。

そこに急にあらわれた忠兵衛が磯野を押しのけて無線を取りました。

「あせるな!ゆっくり空気抜け」

「誰ですか?」


種市が磯野に尋ねましたが、もちろん磯野にもわかりません。

「 … お祖父ちゃん?」

無線からいきなり忠兵衛の声が聞こえてきたので、アキは驚きました。

「浮かんで来たらバルブを少しずつ緩めろ」

「お祖父ちゃん?」

「天野ちょっと上がって来て … 」

「あんた何、先生? おお、アキがお世話になっております」


忠兵衛は帽子を脱いで、磯野に頭を下げました。

… … … … …

「へえ、昭和34年ってことは卒業生第1号ですね」

忠兵衛が北高の潜水土木科出身の大先輩だと知って磯野は敬服しています。

「まあな、おらの頃はあんな立派なプールなんかなかったべえ」

「なして土木関係さ進まねかったんですか?」


種市が質問しました。

「家が代々遠洋の漁師だったからな、それに … 」

「ここが一番良い所だって確認するために世界を周ってるんです」


忠兵衛に代わってアキが昨夜聞いた通りのことを種市に答えました。

「兄ちゃんは土木関係か?」

「はい、自分は卒業してすぐ東京さ行って、羽田空港の滑走路拡張工事をやります」

「おお、立派なもんだ! 頑張れよ」


忠兵衛は種市に握手を求めました。

「歌うか、南部ダイバー」

準備室にいた生徒も全員加わって、大先輩の忠兵衛の音頭で大合唱が始まりました。

♪白い鴎か 波しぶき、若い血潮が 躍るのさ …

この頃は、アキもすっかり抵抗なく歌えるようになっています。

ふと壁の時計に目をやると、大吉と約束した午後4時をとうに回っていました。

… … … … …

アキが大分遅刻して観光協会を訪れると、ユイひとりが椅子に腰かけて、大吉と保、吉田とヒロシがその後ろに立っていました。

そして、ユイの向かいに見知らぬ男が座っています。

「海女のアキちゃんだ、思ったより普通な感じですね」

アキを見るなり男が言いました。

「まあまあ、座って座って」

大吉がアキにユイの隣に座るよう促しました。

なんか裏がある、直観的にアキはそう思いました。

テーブルには甘そうな見るからに高そうなケーキ、紅茶、大人たちの薄ら笑い … そして、目の前にいる薄いサングラスの男性、その薄いサングラスの奥の目。


警戒心一杯のアキの表情。

「こちら、岩手こっちゃこいテレビの … 」

アキに紹介しようとした吉田の言葉を遮って、男が名刺を差し出しました。

「ディレクターの池田と申します、よろしく」

『岩手こっちゃこいテレビ 制作局ディレクター 池田一平』

… 嫌な予感がします。

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2013年05月06日 (月) | 編集 |
第31話

「じぇじぇじぇじぇ … じぇじぇじぇじぇ … ∞」

アキが驚くのも無理がありません。

ついさっき、アキからウニ丼を購入し、今それを目の前でむさぼり食う初老の男、それは紛れもなく死んだはずの祖父、天野忠兵衛だったのです。

ショックのあまり、アキは言葉を失い、「じぇ」しか言えなくなっていました。


アキの様子があまりにも変なので、ユイが心配して声を掛けました。

「じぇじぇじぇ、じぇじぇじぇ(お化け お化け)」

忠兵衛を指さしてアキはユイに教えましたが、まともな言葉になりません。

「じぇじぇじぇ、じゃわかんないよ」

アキの顔は怯えています。

「じぇじぇ、じぇじぇじぇじぇ(あの人 おじいちゃん)」

「え、あの人がどうかしたの?」


ウニ丼を平らげた忠兵衛は袖が浜の駅で電車を下りて行きました。

あまちゃん じぇじぇじぇ

… … … … …

ウニ丼を放り出し、アキは男の後をつけました。

その頃、天野家では …


春子が夏に『不適切な関係』の噂の真相を問い詰めていました。

「おとこ? … おらが」

夏は鼻で笑ってあきれたように言い捨てました。

「バカも休み休みに言え!」

「あたしだってそう思ってるわよ、だけど噂になってるのよ」

「ふん、言いてえ奴には言わせておけ!」


席を立つ夏を春子が引き留めました。

「おらも大事な約束があるんだ」

「約束、誰と?」


… … … … …

男は鼻歌まじりにどんどん天野家がある方を目指して歩いていきます。

「やばいやばいやばい … おらんちだ、おらんちさ行ぐ」

… … … … …

夏ともみ合う春子。

「誰と? … 組合長と?」

「組合長?! … 長内さんとおらが?」


夏は腹を抱えて笑い出しました。

「笑うことじゃないでしょ、あんたいくつよ? 64でしょ、しかもお父さん死んで1年しか経ってないんでしょ … 何笑ってるのよ!」

「ただいまあ!」


… … … … …

「お帰りって言うか … ただいま?」

その声に春子が振り向くのよりも早く、夏は玄関に向かって駆け出していました。

「やんだ、忠さん帰って来ちゃったあ」

「夏っちゃん逢いたかったあ」


玄関に上り込んできた男を見て、春子は我が目を疑いました。

「言ってくれりゃ、駅まで迎えに行ったのにい」

「びっくりさせるべと思って … ほれ、はぐはぐ」


抱きあうふたりを見て、何事が起ったのか春子の頭は混乱していました。家の外からは、やはりアキが困惑した表情で中の様子をうかがっています。

そのアキのことを忠兵衛が目に留めました。夏が忠兵衛に説明します。

「春子がね、帰って来たんだ」

「なんだそうか、どっかで見た顔だと思ったらおめえ春子かい?」


アキに向かってそう言った忠兵衛に後ろから当の春子が声を掛けました。

「こっちです」

… … … … …

「ん … おめえが?」

振り向いた忠兵衛は春子の方へ寄って来て、上から下まで舐めるように見てからひと言。

「年取ったなあ … 」

「出て行った時は高校生だもん」


夏とふたりで大笑いする忠兵衛。

「いくつになった、春子?」

忠兵衛は春子の頬をまるで小娘にでもするように両手で掴んだあと、抱きしめました。

お騒がせしてすみません … 我が家の主、天野忠兵衛は実は生きていたのです。

へへへ、びっくりしたあ?


… … … … …

「 … したわよ! ちゃんと説明しなさいよ!」

腰を落ち着けた忠兵衛にビールを注ぎながら夏は答えました。

「おめえが勝手に死んだと思い込んだんだべえ?」

「仏壇に写真飾ってあったら、誰だって死んだって思うでしょ?!」

「思うのは勝手だが、おらひと言も死んだなんて言ってねえからな」


開いた口がふさがらない春子。

「忠兵衛さん、帰って来たってか?!」

組合長をはじめ忠兵衛が帰ってきたことを聞きつけた連中がぞくそくと天野家にやってきます。

… … … … …

「なんで、なしておじいちゃん生きてるの?」

アキがようやく口を開きました。

「死んでねえからだ」

当たり前のことを言う忠兵衛。

「死んだあ? 誰が? 忠兵衛さんが?」

「バカこのアキ、縁起でもねえこと語んな!」


大笑いする一同。

「でも、いつ死んだのって聞いたら、ばっぱ去年って言ったべ!」

夏にダマされたと思ったアキが口をとがらせました。

「毎年そういう覚悟で送り出してるんだ」

「俺のことは死んだと思えって、毎年そう言って船さ乗るのさ」

「漁師の家さ嫁いだ女の宿命さ」


夏と忠兵衛の話を聞いて、そういうものなのかと、うなずいたアキですが、春子はそうはいきません。

「いやいや納得いかない … 」

… … … … …

「忠兵衛さん、お帰りい!」

春子の言葉をかき消すように弥生が飛び込んできて忠兵衛に抱きつきました。

続いて入ってきたのは何故か喪服姿の弥生の亭主、今野でした。

「夏さん、この度は … 生きている?!」

忠兵衛を見て、目を白黒させています。

… … … … …

「大吉さん、よくもダマしてくれたわね!」

今野の後から来た大吉を見つけて春子は詰め寄りました。

「だ、ダマしてはいねえ、黙ってただけだ … 最初はそんなわけねえと思ったさ、だけどそのあとも春ちゃん、死んだ死んだって、あんまり春ちゃんが死んだって言うから、

ひょっとしたら、生きてるっていうのは俺の思い込みで、死んだのかなって …」

「その割には葬式出した覚えねえなって」


弥生がつっこみました。

「いやいや、もはや俺の中では半分ぐらい死んだことになってたっぺ」

「半殺しかこの野郎!」


忠兵衛が豪快に笑いました。

「おらも人に聞かれた時、どうも死んだらしいって答えてた」

「なあんだ、おらなんか何の疑いもなしに喪服着ちまった、あはははは」


弥生と今野 … 何なんだ、この夫婦。

「まあ、生きてて何よりだな」

大吉のひと言でまた大笑いする一同。

アキも何だか楽しくなってきました。しかし、春子は …

「全然、笑うところじゃない … 全然、納得いかない!」

… … … … …

その夜、夫の慰労会が開かれました。

急遽、スナックは休みにしましたが、スナックの客のほとんどが家に来ました。


囲炉裏の周りを囲んでの宴、アキのことを心配して訪れたユイも輪に加わりました。

「おらと組合長が不倫だとやあ!」

「いやいや、おらじゃなくって勉さんが言いだしたんだ」


いやいや、きっかけは勉さんでも話を広げたのは弥生です。

「残念ながら、それは濡れ衣だべな」

遠洋の船が着く着かないの連絡はまず無線で漁協に入るので、夏はそれを確認に来ていたのでした。

「勉、くのやろこの! おめえは黙って琥珀でも磨いてろ!」

忠兵衛にどやされて、しきりに恐縮している勉さん。

「正確には不倫ではねえべ、おらたち今結婚はしてねえからな」

「んだな、夏さんさえその気なら」


組合長が悪乗りした冗談を言って忠兵衛に追い掛け回されています。

… … … … …

「誰も忠兵衛さんには敵わねえべな … どうだい春ちゃん、これで納得いったか?」

皆の輪に加わらず、ひとり別のテーブルで飲み食いしている春子に大吉が声を掛けました。

「いかない、無理、てんで納得できない!」

「相変わらず面倒くせえな春は … ところで、旦那は何処だ?」


むくれている春子に忠兵衛は尋ねました。

「旦那あ?」

「孫がいたってことは、おめえ旦那もいたべ、挨拶さ来ねえのはどういう了見だ?」


春子は畏まって座りなおして言いました。

「別れました … 東京行って、結婚して、娘を産んで、別れて … 帰ってきました」

「あっそ … そろそろ焼酎にするべ」


春子の話が終わるや否や忠兵衛は台所にいた夏にそう声を掛けました。

「あっそって、ちょっと待ってよ、何それ?!」

「人生いろいろあるさ」


焼酎を持って来た夏が忠兵衛に確認します。

「薄め、濃いめ?」

「濃いめで … まあ頑張れや」

「 … 焼酎の薄めと濃いめの間でなぐさめないでよ。

そんな単純な話じゃないじゃないよお!

「陸の上のことは天野家では全てかあちゃんまかせだ、1年のうち350日は海の上だすけな」


… … … … …

延縄漁は1年以上、帰ってこないことは当たり前なのです。

延縄漁とは長さ100キロもある縄に暖簾状に釣り針を垂らした仕掛けでマグロを釣る伝統的な漁法です。

冷凍技術の向上により、1年以上に及ぶ航海も可能になり …


… … … … …

「納得いきません!」

春子はテーブルを思い切り叩きました。

「ねえお祖父ちゃん、おらも潜水土木科なんだよ」

母の怒りはさておき … アキはこのことを忠兵衛に教えたくてたまりませんでした。

「じぇじぇ、北高のか? したらおらの後輩でねえか!」

夏が話していたように忠兵衛は喜んでいます。

「南部ダイバー歌うか?」

♪白い鴎か 波しぶき、若い血潮が 躍るのさ …

手拍子、合いの手も入り、盛り上がってきたところで、ついに春子が爆発しました。

「アキ、あんたユイちゃんと一緒に二階行ってなさい!」

「えっ、なんで?」

「祖父ちゃんと祖母ちゃんと納得いくまで話し合うからよ!」


… … … … …

アキとユイは、春子の隠し部屋 … 今はほぼアキの部屋に追い出されました。

「おもしろいね、アキちゃんち」

ユイに言われて、アキもつくづくそうだなと思いました。

「ばっぱだけでも強烈なのに、まさか祖父ちゃん生きてるとは … 」

でもアキは忠兵衛のことを嫌いではありませんでした。

「うん、相当変だよ」

「でも、ばっぱうれしそうだった」

「そりゃそうだよ、ずっとずっとひとりで暮らしてたんでしょ?」


そう言いながらユイは改めて部屋の中を見渡して …

「 … って言うかさ、何この部屋?!」

部屋の中にあるものを見て、表情が一変しました。

「あ、松田聖子のLPじゃん」

「うわぁ、『時をかける少女』のチラシじゃん」

「ええ、これ誰?!」


机の上にあった雑誌を手に取って表紙の少女の名前を聞きました。

… ちなみに雑誌は「BOMB!」、表紙は「つちやかおり」現在は元シブがき隊の布川敏和の奥さんです。

「ごめん、おら全然詳しくねえから」

「すごい、すごいよこれ … なんでこんなに宝の山なのお?!」


ユイのこのテンションは、アキに東京の話を聞いてきた時以上でした。

「ママの部屋だから、ママが高校生の時使っていた部屋そのまま残ってたの」

「すごい、これすごいよ、中野とか神田に行ったら絶対高く売れるよ … ちょっと、時々遊びに来ていい? って言うか今晩泊まっていい?」

「じぇじぇ」


こんなに無邪気でハイテンションなユイは滅多に見られません。

「明日も車内販売だし、ねっいいでしょ?」

「おらは全然構わねえが」

「やったあ … 」


… … … … …

一方、一階では …

春子は相当酔いがまわり目が据わって足どりはおぼつかなくなっています。

「 … 父親が死んで悲しくない娘なんている?

いくらさ、年に10日しか家にいなくてもさ、18の時から絶縁状態だとしてもさ、ショック受けるわそれなりに。

それなのに、あの人よ、夏さんよ。」


春子は階段に腰かけて夏のことを指さしました

「いつ、何処で、何故死んだかも言わない … って言うかさ、それどころかさ、死んでないじゃないのねえ!

町の皆で口裏合わせちゃってさあ」

「それは考え過ぎだって、春子さん」


美寿々がコップに酒を注ぎたしました。

「んだんだ、被害妄想だべ」

「違うね、皆であたしのことダマしてたんだね」

「だから、黙ってただけだ、ダマして何の得がある?」


大吉がなだめますが、春子は聞く耳持ちません。

… … … … …

「東京で暮らしてるとさ、『母の日にはカーネーションを送りましょう』とかさ『父の日にはネクタイを』とかさ、そういうのがこう目に入るじゃない?」

春子の話が続く中、忠兵衛と夏が何やら目くばせをして、そっと席を立ちました。

「だからね、ウソでも思い出すわけよ、ウソでも元気かな? どうしてるかな? って思うわけよ、わかるこれ?」

玄関の戸を静かに開けて外へ出ていくふたりに気づく者はいませんでした … ひとりを除いて …

「でね、帰ってきたら、仏壇に写真 … はいこれ、100人中100人が死んだと思います。そうでしょ、だってそうでしょ?」

「よかったべ、生きてて?」


組合長に言われて、春子の話が止まりました。

「それとも、死んでた方が良かったか?」

「 … そんなの、生きてた方が良いに決まってるじゃん」


そう答えた春子にかつ枝が言い聞かせるように言いました。

「生きてることに訳なんてねえべ、生きてるだけで儲けだべ?」

静かにうなずく春子。

「納得したか?」

「 … 納得した」


春子は答えました。

「そしたら、いつまでもむくれてねえで、素直におかえりなさいって言え、なあ忠兵衛さん … 」

かつ枝が振り返った席にはもう忠兵衛どころか夏の姿もありませんでした。

それに気づかず、春子は頭を下げます。

「おかえりさなーい … って誰?」

春子が頭を下げた相手は弥生でした。

「夏ばっぱ、今夜ユイちゃん泊めてもいい?」

下りてきたアキも夏がいないことに気づきました。

「あれ、夏ばっぱ何処さ行ったんだ?」

「消えた?」

「ふたりで手つないで、出てったべ」


ただひとりその様子を見ていた珠子が皆に教えました。

… してやられたと笑い出す一同。

「何なのもう! … やだあ、もうやだあ」

泣き崩れる(泣き上戸?)春子。

アキはこんな母を見るのは初めてでした。

「やられた」「流石だ」「完敗 … 」

… … … … …

その頃、忠兵衛と夏は手をつないで夜風に吹かれながら堤防を歩いていました。

灯台を見上げた忠兵衛は改めて夏の顔を見つめて言いました。

「ただいま」

「おかえり」


うなずきあうふたり。

なんかすみません、1年に10日しか一緒にいられない夫婦なもんで …

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2013年05月05日 (日) | 編集 |
さて、次週の「あまちゃん」は …

北鉄の車内でウニ丼を売っていたアキ(能年玲奈)は、意外な人物に出会う。

それは亡くなったはずの祖父・天野忠兵衛(蟹江敬三)だった。実は忠兵衛は遠洋漁業の漁師で、1年のうち10日間ほどしか家に帰らない。そのため、夏(宮本信子)が航海に出る夫を送り出す際、万が一のことを覚悟するつもりで仏壇に写真を飾っておいたことから、誤解が生じたのだった。

再会を喜ぶ夏と忠兵衛は、つかの間の休暇を満喫する。

一方、春子(小泉今日子)と正宗(尾美としのり)は離婚問題でもめていた。

5時だべ、わんこチャンネル!

その頃、観光協会に地元ローカルテレビ局のディレクター・池田(野間口徹)がアキとユイ(橋本愛)を訪ねてくる。二人を情報番組に出演させたいという申し出に、大吉(杉本哲太)ら町おこしに燃える大人たちは大喜び、さっそく取材や撮影が始まって、町は大騒ぎになる。

おらとデートしてけろ

一方、17歳の誕生日を目前にしたアキは、憧れの先輩・種市(福士蒼汰)からミサンガをプレゼントされ、胸をときめかせる。そして潜水士の試験に受かったらデートをしてほしいと、種市に言う。

♪はっぴい・ばぁすでぃ・とぅ・ゆう

誕生日の当日、アキを祝うサプライズパーティが行われるが、その席で忠兵衛が春子について爆弾発言をしてしまう。

おもしろいね、アキちゃんち
あまちゃん 公式サイトより)



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2013年05月04日 (土) | 編集 |
第30話

朝、仏壇にご飯と水を供え、線香をあげるアキ。

南部もぐりを始めてからアキは毎朝、仏壇に手を合わせるようになりました。

「お祖父ちゃん、今日も一日、アキを守ってね」


そうしないと安心できないほど、潜水土木科の実習はハードでした。

潜水実習。

潜水服に身を包み、重りを抱えて水中歩行の訓練中のアキがまた突然プールに浮かび上がってきました。

何事かと命綱を手繰り寄せ、慌ててヘルメットを外させた磯野。

「天野、大丈夫か?」

「ごめんなさい、鼻の頭がかゆくて … 」


… … … … …

帰宅後、アキは仏壇の祖父の写真に手を合わせて夏に尋ねました。

「ねえ、祖父ちゃんも海で死んだの?」

「うん … 」


あまり多くを語ろうとしない夏。

それでもアキは何年前のことかと聞きました。

「 … 一年前か」

「じぇじぇ、そんな最近の話なんだ … ごめん、ばっぱ辛かったら別にいいけど」

「辛くねえよ別に … 毎回漁さ出るときには、もう死んでしまうかもしれねえ、それくらいの覚悟で送り出してるんだ、それが漁師の嫁の宿命さ」


… … … … …

無謀にもアキは潜水士の資格試験を受けようとしています。

潜水土木科では、ほとんどの生徒が2年生で潜水士の資格を取ります。


2年の途中からの編入で、他に後れを取っているアキは、放課後、準備室で種市に試験対策の勉強をみてもらっていました。

「アキちゃんまだ帰んない?」

ユイがアキのことを迎えに来ましたが、勉強の続きがあるので先に帰ってくれるように言いました。

「今度の土曜日どうする、北鉄乗る?」

「わかんねえ … 」


アキは少し迷ってから答えました。

「頑張って」

何となく察したユイは、そう言うとひとりで帰って行きました。

今のアキには町興しより大事なことがありました …

… … … … …

北三陸駅、電車の待ち合わせの時間も惜しんで参考書を広げるアキに声を掛けたのはヒロシでした。

「潜水土木科に編入したんだってね、ユイから聞いたよ」

返事もそこそこに参考書に目を戻すアキ、何やら言いたげに覗き込むヒロシ。

「あのストーブさん、おら勉強に集中したいんで」

「その後、どうかな?」

「 … どうって?」

「えっ、忘れたの?」


『好きなんだよ、アキちゃんのことが好きなんだ!』

「 … 覚えてますけど、短編的に」

「で、そろそろ答えが聞きたいなと思って … で、これ」


ヒロシは先日の封筒を差し出しました。

「ユイに直接渡せって言われちゃってさ、読んでもらえないかな?」

「今ですかあ?」

「うん、こないだはホラ、アキちゃんテンパってて … 」


余り思い出したくない出来事でした。

「だって本気獲りの前の日だったから … 潜る時は脳みそ使っちゃだめなんです」

アキは手紙は受け取らずにカバンを肩にかけながら席を立ちました。

後を追おうとするヒロシにアキは少し強い口調で言いました。

「って言うか、ストーブさんって間が悪いですよね、何か!」

… アキちゃん訛ってないよ。

「ごめん … 」

謝ったヒロシにアキもぺこっと頭を下げてホームに急ぎました。

ヒロシは手紙を渡すことはあきらめたようですが、それでもまだアキの前に回り込みました。

「で、どうかな?」

… アキの態度で結果はすでに出ているのに …

「今は勉強に集中したいので、すみません」

そう答えるのが精いっぱいでした。

他に好きな人がいるなんて言ったら、ストーブさんはまたストーブのそばから離れられなくなってしまう …


… … … … …

案の定、その夜は眠れませんでした …

「ウニ1匹、ウニ2匹、ウニ3匹 … うにゃあ、ああもうストーブ!」


茶の間に下りて、のどを潤すアキ、春子はまだ帰っていないようです。

ふと仏壇に目をやると … アキは異変に気が付きました。

「ばっぱ、ねえばっぱ!」

夏の部屋に飛び込んで揺すり起こしました。

「 … うるせえなあ」

「お祖父ちゃんの写真がないよ、お祖父ちゃんの写真、仏壇にあったよね … ないよ」


夏はゆっくりと身を起こして言いました。

「かたづけたあ … 」

「片付けた、なんで?!」

「もう、なんだよ、こんな夜中に … さっさと寝ろ、わらし」


ふたたび横になるともう起きようとはしません。

「あやしい!!」直感的にアキは感じました。

… … … … …

そして、数日後 …

「ちょっと、ウチで話せないことってそれ?」

リアスでアキから一部始終を聞かされた春子はあきれて言いました。

「だってほら、ばっぱ海女のシーズンが終わってから元気なかったじゃない?」

「毎年のこった、9月になると一回燃え尽きるんだ」


弥生が言いました。

「それがここ最近妙にソワソワしてんだ」

ウニ丼を作る時も鼻歌まじりで小躍りしたり、ご機嫌なことが多いのです。

「そりゃあれだべ、アキちゃんユイちゃん効果でさ、もうウニ丼が売れて売れて笑いが止まらねえってパターンだべ」

商工会長の今野はそう言いましたが、よくよく考えてみると、春子にも思い当たる節がありました。

鏡の前で服を取っ換え引っ換え合わせてみたり、唇に紅をさしてみたり … そんな夏を幾度か見ているのです。

「化粧なんかさ、若い頃から一切したことない人だよ」

「ひょっとして、ばっぱ好きな人できたんじゃない?」


アキの推測をカウンターの大吉と今野は声を揃えて否定しました。

「いやいやいや … 」

… … … … …

「いや、ないことないよ、だってお父さん死んだのいつよ?」

春子がそう言うと、今野が変な顔をして聞き返しました。

「死んだ?」

女房の弥生が何故か慌てて今野をつねって止めました。

「去年って言ってた」

「去年? … えっ、そうなの?」


アキに聞いて、驚いた春子は大吉たちに確認しました。

「んだんだんだ」

何処か不自然にうなずく大吉と弥生。

「まだ一年しかたってないのに、やだやだ考えたくない、何それ … 」

頭を抱え込む春子を大吉がなだめます。

「春ちゃん春ちゃん、落ち着いて考えよう、いや、だって夏さんいくつ? 64でしょ、いくら忠兵衛さんが … 亡くなったからって」

「えっ、亡くなった?!」


弥生が今度は亭主の背中をつねりました … もんどりうってのけ反る今野。

「問題は相手が誰かってことよ!」

「春ちゃんってば!」


春子はもう夏が誰かと恋愛中だと決めつけています。

… … … … …

「ちょっといいべか?」

いつものように皆の話を黙って聞いていた勉さん、そのまま黙っていればいいものを …

「近ごろ私、内職で漁協にお邪魔してるんですけども … 」

「べ、勉さん、大丈夫か? … 爆弾発言飛び出すんじゃねえべな?」


勉さんの話では、ほぼ毎日、夏がやってきて …

「組合長と?!!」

全員が声を揃えて驚きました。

「いや、そうと決まったわけじゃないけど、やけに親しげだなあって思ってました」

しかも、帰りがけに夏は勉さんに向かって笑顔でこう言ったそうです。

「じゃあね、勉さん、はぶ・あ・ないす・でい」

… … … … …

「怪しい、『はぶ・あ・ないす・でい』は怪しい!」

断言する今野。

「いやいや組合長の奥さん、かつ枝さんだべえ」

大吉が話を収めようとしましたが、火に油を注ぐその女房。

「あのふたり、今は別れてるはずだ」

「やめて、弥生さん … 」


しかし、弥生は止まりません。

「組合長が八戸だ北海道だって走り回ってウニば調達してたのも … そうだったのか、ふたりが『不適切な関係』と考えれば合点がいくというわけだね」

… 弥生さん訛ってないよ。

「やめて、アキちゃんが聞いてるから」

大吉が止めましたが、もう全部聞いてしまった後でした。

「職権乱用だべや」

「泥沼交際だべや」


… 何なんだ、この夫婦。

そこへ、当の本人たち … 夏とかつ枝が笑いながら仲良くリアスに入ってきました。

一同がやけによそよそしく、おかしな雰囲気だと感じたふたり。

「なんだ、おめえら? おっかねえ顔して」

しかし大して気にせず、話の続きで手を叩き合って笑い合う夏とかつ枝でした。

… … … … …

その夜。

夏が完全に寝入ったのを確認したアキは春子に合図を送りました。

「寝てる寝てる」

「あんたさ、明日ウニ丼売りに行きな … その間にママが問い詰めるから」


使命を帯びた顔でうなずくアキ。

春子は夏の持ち物をチェックしましたが、『不適切な関係』の証拠らしきものは何一つ見つかりはしませんでした。

… … … … …

翌日。

言われた通り、アキはウニ丼を売りに行きました。

その頃、春子は …


海女クラブの面々の手を借りてウニ丼を作る夏の様子を母屋からうかがっていました。

今日も朝からご機嫌のようです。

… … … … …

「北鉄名物ウニ丼はいかがですか~」

「好評につき、10月以降も販売しま~す」


北三陸駅に電車が着いて、ウニ丼が入った番重を下げた海女姿のアキとユイがホームに現れると、いつものようにオタクの群れが一斉にふたりの周りを取り囲みました。

その騒動を珍しいものでも見るような顔で眺めている男性がいました。

壮年期をやや越えたくらいの年齢でしょうか、船員帽を被って顔にはひげを蓄え、手には古ぼけたトランクを提げて、北鉄に乗り込んでいきました。

… … … … …

「ああ、くたびれたくたびれたあ」

予定数のウニ丼を作り終え、仮眠をとるために寝床に入ろうとする夏を春子は呼び止めました。

「お母さん、ちょっと座って」

「何だよ、寝かせてくれよ」

「大事な話があるの、いいから座って!」


春子は渋る夏を無理やりに座らせました。

… … … … …

アキは残りわずかになったウニ丼を車内で販売していました。

「おい姉ちゃん、1個けれや」

先ほどの男性がアキに声を掛けました。

最後の1個が売れました。

「やっと完売だあ」

「お疲れ様」


ユイの隣に座り込むアキ。

アキが座った席から今ウニ丼を買ってくれた男性の顔が目に入りました。

「 … 」

どこかで逢ったことがあるような顔、アキは目を凝らして身を乗り出しました。

ウニ丼を頬張るその顔 … アキが毎日見て、手を合わせていた顔 … ひげこそ生えていますが、仏壇にあった写真の祖父・忠兵衛に瓜二つでした。

… … … … …

思わず立ち上がるアキ。

「じぇじぇじぇじぇじぇじぇじぇ … 」

不審に思ってユイが声を掛けましたが、アキは男を見つめたまま固まっています。

アキに見られていることに気づいた祖父に似た男が訝しげに言いました。

「何だよ?」

まさか、幽霊?

「じぇじぇじぇじぇ … じぇじぇじぇじぇ … ∞」

こぼれ落ちそうなくらい目玉を丸くして、ただただうわ言のように「じぇじぇじぇ」と繰り返すアキでした。

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2013年05月03日 (金) | 編集 |
第29話

朝、天野家の女性三代が揃って作業小屋でウニ丼の仕込みをしています。

「アキが南部もぐりやるってっかあ?!」

アキが潜水土木科に編入したいと言っていることを、何処で聞きつけたのか血相を変えた長内元夫妻が美寿々と何故かしら珠子を従えて飛び込んできました。

アキの顔を見るなり、かつ枝は問いただしました。

「アキ、おめえ本気で言ってるのか?」

うなずくアキ。

「普通科から潜水土木さ編入するのか?」

「おめえ、南部もぐりやりてえのか?」


組合長と美寿々にもアキはうなずいて答えました。

「やりてえ!」

顔を見合わせた春子と夏。

… … … … …

緊急の招集がかかり、K3NSPのメンバーが観光協会に集まりました。

「ねえ、なんで観光協会の許可が必要なんですか?」

アキが不満そうに尋ねました。

「アキちゃんが観光協会の未来を背負っているからだよ」

「北鉄の未来もな … 」


ヒロシが説明すると、大吉が付け加えました。

「今や町興しのシンボルだすけな、そのアキちゃんがよりよってこの南部もぐりって … 」

保も困惑しています。

「そんなに本格的に潜らなくてもいいんじゃないか?」

「んだ、浅瀬でピッチャピッチャやってればいいんじゃない?」


しおりと吉田 … アキのことをちょっと舐めすぎ。

「海女は、海女はもうあきたか?」

大吉に聞かれたアキは答えました。

「そう言うわけじゃねえけど、海女は夏しか潜れねえべ … しかも海女の格好して北鉄さ乗って、ウニ丼売ったり撮影会したり、何だか違うんでねえかって」

「そのおかげで観光客が増えてるんだよ」

「だけど、ジロジロ見られて、こっ恥ずかしい」


「皆の役に立てればそれでいい」と言っていたアキですが、思わず本音を口にしました。

「そんなこと言ったら、ユイちゃんの立場どうなる?」

吉田が言うと、一郎が利いた風な口をききました。

「彼女は平気ですよ、プロ意識が高いですから」

「おらだって、海女としての誇りがある、プロ意識もある!」


納得いかないアキが声を荒げましたが、春子に諌められました。

「ようするに、ウニ丼は売りたくねえと … 」

夏の言葉にアキは頭を振りました。

「いやいや、車内販売は好きだ … ただ海女の格好はやんだ … 南部もぐりの格好じゃダメですか?」

アキの思いつきの提案には無理がありました。

「いやいやいや … 」

「普段着じゃだめかね?」


夏の提案も一郎がダメ出しをしました。

「肌の露出減は収入減に直結しますよ、皆さん!」

部屋に貼ってある海女クラブ勢ぞろいのポスターを指さしながら声を張り上げました。

「このコスチュームはね、これ着ると三割増しで可愛く見えるんです … 誰でも!」

… 言わなきゃいいことをと吉田が舌打ちしました。

その上、一郎はアキの前に立ってまくし立て始めました。

「でも、君さあ、普通じゃん! 普通の子が普通の格好したら、意外と普通だってバレちゃうじゃん … わざわざ7時間も8時間も掛けてさ、地味な女子の地味な私服見るために来る? … 来ないよ!

こんな寂れた老人とヤンキーとキツネしかいない過疎の町にさ!」


一郎の言いぐさが腹に据えかねた老人とヤンキー … 夏、春子、かつ枝が立ち上がって睨みつけ詰め寄って来ました。

「言いすぎました … 」

その迫力に怯えて、土下座する一郎。

… … … … …

「気にするなアキちゃん、ヒビキさんは君のためを思って … 」

ヒロシが取り繕うとしましたが、アキは構わずに一同に向かって尋ねました。

「で、おらは潜水土木さ編入していいの、ダメなの?」

… 全然気にしていません。

「北鉄としては、週末に海女の格好で列車さ乗ってくれさえすれば、応援する」

大吉の返答に春子は口を出そうとしましたが、それよりも早く …

「乗る乗る、そしたら南部もぐりやっていいんだね」

… さっきまでのやり取りは一体なんだったのでしょう … 最終の目的がかなうなら、途中のことは目をつぶっちゃうってこと?

「勝手に決めないでよねえ、普通科辞めるってことは、進学しないで潜水士になるってことだよね?」

今度は、春子が納得がいきません。

実際そこまで考えていなかったアキに春子はブチ切れました。

「ちゃんと考えないとダメ、自分の将来なんだから!」

春子の怒りは大吉たちにも向けられます。

「あんたたちもさ、二言目には町興し町興しって、人の娘何だと思ってんの?!

アキは観光や町興しのために海女やってるんじゃないんです … 自分のために自分が潜りたくて潜ってるのよね、そうよね? … 考えてちゃんと!!」


母の迫力には、アキはうなずくしかありません。

「イジリさんも本人の前で露出とか、そう言うの止めてくれる?」

「ヒビキです … 」


「アキは、観光協会や北鉄のオモチャじゃないの … そういうね大人の事情に振り回されるぐらいだったら、海女なんか辞めさせますから!」

聞き捨てならないと夏が口を出しました。

「辞めさせてどうするんだ、南部もぐりやらせるつもりか?」

… … … … …

「いや、それは … 」

怒りにまかせて、まだそこまでは考えていなかった春子ですが、引っ込みがつかずに …

「そうなってもいいと思っていますよ、さらし者にされるくらいだったらね」

「本当?!」


アキの表情がぱあっと明るくなりました。

「いや、えっ、えっと … 明日、ほら、学校に行って、ちゃんと先生と話すから … だから、今日はお邪魔しました」

アキの手を掴むとそそくさと出て行ってしまいました。

してやったり、役者の違いを見せた夏は静かにお茶をすすりました。

… … … … …

翌日、春子はアキを伴って潜水土木科の磯野の元を訪ねました。

「潜水土木科と言ってもそればっか勉強するわけでねえんです」

普通科と同じように国語や数学もカリキュラムに組まれていました。

「ただ、女子はいねえです … ゼロです、もう7、8年男子校状態です。男臭いでしょ?」

春子はアキに本当にいいのか、平気なのかと聞き直しました。

当然のようにうなずくアキです。

「潜水士の資格も取ろうと思えば取れますし、何しろ女子は珍しいですからね、学校にとっても明るいニュースだっぺ」

そういうことは、もううんざりしていると、春子は磯野にくぎを刺しました。

… … … … …

「失礼します。磯野先生、実習初めていいですか?」

種市浩一でした。

種市はアキだとわかると軽く会釈して、春子には礼儀正しく挨拶をしました。

「はじめまして … じぇじぇ、おめえ本当に潜水土木科さ入えるのか?」

「はいっ」

「はいって、まだ決めたわけでは … 」


慌てる春子ですが、種市はアキに向かって言いました。

「すげえな、いい度胸だ、頑張れよ!」

「じゃあ、お母さん見学されていかれます? ちょうど実習始まりますから」


… … … … …

プールの中、潜水服を着た何人かの生徒たちが共同で足場を組み立てていきます。

「よくあんな冷静に作業できるねえ」

丸窓からその様子を見学している春子が感心して言いました。

「怖くないのかな?」

春子が話しかけてもアキは返事もせずにその視線はある一人、赤い潜水服を着た生徒だけを追っていました。

その真剣な横顔を見て、アキが南部もぐりに興味を持った本当の理由がわかったような気がしました。

「種市君だっけ?」

不意に言われてアキは母を振り返りました。

「 … さっきの感じの良い子、あの子が一番器用だね」

「わかるの?」


アキは不思議そうに尋ねました。

「だって、あの赤い服の子でしょ?」

素人目で見ても、ひときわ器用で動きも機敏でした。

「潜水土木も変わったねえ、ママのころはさ、ごっつい熊みたいな男子ばっかでさ … あんなシュッとした男の子いなかったもんね」

「へえ、そうなんですか?」


声を掛けたのは、プールの中にいるはずの種市でした。

「そろそろ、先生上がってくるんでどうぞ」

… … … … …

赤い潜水服の男は、教師の磯野心平でした。

… さすが親子、同じ勘違い …

ヘルメットを外すと、ごっつい熊みたいな顔が現れて、どや顔で親指を立てて言いました。

「いかがですか、お母さん? … このように我が潜水土木科はですね、確かな技術指導と精神的な鍛練を目的として … うっ」

急に顔をゆがめた磯野。

「足攣ったあ、てててててて … 助けてえ!」

… … … … …

実習場を後にして校内を歩くふたり。

「懐かしい?」

アキは母に尋ねました。

春子にとってここを訪れるのも24年ぶりでした。

「う~ん、あんまりいい思い出ないけどね」

「でもモテたんでしょ?」

「えっ、誰に聞いたの?」


ユイの家に遊びに行った時に父親の足立功から聞いた話でした。

「足立先生か … 大したことないけどね」

「スケバンだったって言ってた」

「それも大したことないよ」

「夜な夜な包丁持って、泣いてる子供脅かして周ったりした?」

「なまはげ? … って言うかあんたさ、スケバンの意味わかってないでしょ?」


その時、春子がふと足を止めました。

「どうしたの、ママ?」

校舎の二階の渡り廊下で男子生徒ふたりと女子生徒がひとり、楽しそうに話をしているところが春子の目に留ったのです。

… … … … …

1982(昭和57)年、春子が北高の1年生の時のことです。

春子は同じように男友達ふたりとこの渡り廊下から夕陽を眺めていたことがありました。

「春ちゃん」

振り向くと心配そうな顔をした大吉が立っていました。

「最近、帰りが遅えって、夏おばちゃん愚痴こぼしてたぞ」

「関係ないじゃん」

「誰だよ、こいつ?」


隣のリーゼントの男子生徒が尋ねました。

「ただの幼なじみ、行こう」

立ち去ろうとする春子、それでも大吉はあとを追って来ました。

「春ちゃん、スカート長すぎるんでねえか?」

「うるせえな、しゃんべえこと言ってるんじゃねえよ」

「3年だからって手出さねえと思うなよ」


前を遮った男子生徒、ひとりは大吉の胸倉に掴み掛ってきました。

「ただの幼なじみなんかじゃねえ!」

大吉が振り払うとその男子生徒は吹っ飛びました。

投げられた奴だけでなくもうひとりも大吉に恐れをなして一目散に逃げてしまいました。

驚いた顔で立ち尽くす春子の方に向き直った大吉。

「春ちゃん、おら北鉄さ就職決まったんだ … 北三陸鉄道リアス線、北鉄が走れば町も変わる、もう過疎の町なんて言わせねえ

おらも春ちゃんが高校卒業する頃には、車掌か運転士だ … そしたら、乗してやるからな、待ってろ」


不器用に笑った大吉はそれだけ言うと振り返り去って行きました。

… … … … …

それは、春子にとって決して嫌な思い出ではありませんでした。

「 … 懐かしい、もう一度ここ通ると思わなかったよ … あんたのおかげだね、ありがとうね」

「ねえママ、おらやっぱり南部もぐりやりてえ」

「 … 好きにしなさい、どっちにしろスケバンよりましだから」

「やったあ! ありがとう、ママ!」


春子に抱きついたアキ。

「やったあああ!」

自転車に飛び乗るとそのままものすごい勢いで走って行ってしまいました。

「 … っていうか、置き去り?」

… … … … …

その夜、スナック梨明日。

「本当に南部もぐりやらせるのか?」

大吉は春子に聞きました。

「言い出したら聞かないし、どっちみちあと1年ちょっとで卒業だしね」

「まあ、俺たちは土日に電車さ乗ってくれればいいもんな」

「んだ、海女さんの格好でな」


保と大吉はうなずき合いました。

「まだ言ってるの?」

ほとほとあきれる春子でした。

しかし、実際に問い合わせが後を絶たないのです。

「町興し、町興しって、言うけどさ、そんなに観光客を呼ぶことが大事?」

「そりゃ大事だべ、なあ観光協会」

「うん、この北三陸はこれといった産業がない、だから観光収入でもっている町だもの」

「んだんだ、寂れてる場合でねえ」

「 … 変わっちゃったね、大吉っあん」


あの時の大吉は凛々しく見えたのに …

… … … … …

「私がね、田舎を嫌いなのは寂れてるからじゃなくて、寂れてることを気にしてるからなの」

「気にしてる?」

「ふたりはまあ仕事だからね、何とかしなきゃいけないと思っているのかもしれないけど、そんなに卑屈にならなくてもよくない?

海女や鉄道以外にもいいとこあるでしょ」


今まで黙って聞いていた勉さんが身を乗り出しました。

「白樺とかさ、まめぶとかさ、たつみ公園から眺める景色とかさ … 琥珀とかさあ、そういう“つまんない”もんでも地元の人が愛すれば、外から来た人間にも良く見えるもんよ

そういうね、根本的なところを忘れないでもらいたいね」


大吉も保も返す言葉がありませんでした。

… … … … …

潜水土木科に編入してアキの生活もまた変わりました。

朝は今まで通り、ユイと待ち合わせ登校しますが、学校に着いたら別々です。


「え~、本日から正式にこのクラスの仲間になった天野アキだ!」

磯野に紹介されて、アキは新しいクラスメイトに向かって頭を下げました。

「天野アキです、よろしくお願いします」

種市先輩とは学年が違いますが、進路も決まったので、後輩の指導に当たってくれています。

「頑張れよ」


笑顔でうなずくアキ。

「仲良くなるのは後回し、まずは今日も歌うぞ!」

「歌う?」

「南部ダイバー! … 南部もぐりの精神を謳ったいわば応援歌だ!」


磯野がラジカセの再生ボタンを押すと、威勢のいいイントロが流れ出して、生徒たちが一斉に立ち上がりました。

「よいしょお!」

気合を入れる磯野。

「誰が一番でっけえ声が出るか競争だあ!」

「おう!!」


生徒たちは雄たけびを上げて応えました。

「南部だいばあああ!」

全員そろって腕を振りながら声を合わせて歌い始めました … もちろん種市も。

… … … … …

南部ダイバー

(安藤睦夫 作詞・作曲)

白い鴎か 波しぶき

若い血潮が 躍るのさ

カップかぶれば 魚の仲間

俺は海の底 南部のダイバー

… … … … …

エライところに来てしまった … 正直、アキはドン引きでした。

潜水土木科のモデルになった高校らしいです。種市の名前もここから?

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2013年05月02日 (木) | 編集 |
あまちゃん はじめての南部もぐり

第28話

「よし、決めた! ユイちゃん、おら普通科辞めて潜水土木科編入する!」

「えっ?!」

「種市先輩さ教わって、潜水士の資格さ取る!」


アキがユイにそう宣言した時、偶然にも種市浩一が通りかかりました。

「じぇじぇっ」

「何かようか?」

「え~と、あのお … 」


もじもじしているアキ、先を急ぐ種市、ユイが機転を利かせました。

「あの、この子、南部もぐりに興味があるんです。ヘルメット潜水やってみたいんですって」

ユイに種市の前に押し出されたアキは思わずうなずきました。

「いいよ、体験実習のセットあるから、ついて来い」

あっさりと許可すると、すたすたと歩きだしました。

顔を見合わせるアキとユイ、急いで種市のあとを追いかけました。

… … … … …

思いもよらず体験実習することになったアキ、体験といっても装備は本番そのまま、何人もの生徒の手にかかって潜水服を装着してもらいました。

横で見ていたユイはだんだん心配になってきました。

「いきなり素人がやって危なくないんですか?」

「危ねえからこれ巻いてるの、何かあったらこれ引っ張るから大丈夫だあ」


アキの腰に命綱を付けながら磯野が言いました。

「心配するな、体験実習は浅いプールで潜るから」

一緒に潜ってくれる種市の言葉で、アキの不安は吹き飛びました。

… … … … …

「このホースを伝って、カップに空気が入ってくるからな」

磯野はアキにヘルメット内にある弁を見せながら、これを頭で押して上手く空気を抜くように指示を与えました。

「あのさ、他になんか質問ねえか?」

質問 … いろいろありすぎて、何から聞こうかと思う間も与えず、磯野が「おっけぇ]と言うと、アキはヘルメットを被らされてしまいました。

ヘルメットだけで20キロ、潜水服を合わせた総重量が何と70キロ、陸上では一人では歩けない程です。

種市に手を引かれて、アキはまずプールに腰まで浸かりました。

そして、種市に倣って徐々に体を沈めていきます。

「ええっ、ちょっと大丈夫なんですか?!」

「うん、大丈夫だあ」


素人のユイの目にはどうみても大丈夫なようには見えないのですが、磯野はのん気に構えています。

実習プールの中に作られた段差をゆっくりとアキは下りていきます。

でも、水中ではその重さのおかげで深く潜られるのです。

地上から空気を絶えず送り込んでもらい、ヘルメットの横に付いた穴から吐き出す … だから、苦しくはありません。


先に下りていた種市がアキに後ろを見るよう手振りで教えました。

振り向くと、いつもアキたちが実習を覗いていた丸窓があって、そこから心配そうな顔でユイが見ていました。

指でOKサインを出したユイの口が『大丈夫?』と動いたのがわったので、アキも同じようにOKサインを返しました。

… … … … …

体験実習、水中歩行の時、種市がアキの両手を掴んで引いてくれました。

お互いの会話は、筆談で行います。

『くるしくないか?』

ボードを見せた種市にアキはOKサインを出しました。

ただ種市先輩と目がうたびにドキドキして胸が苦しくなります。

天にも昇る心地 … 実際にアキの体が急に浮き始めました。

完全にプールの中央の水面に浮かび上がったアキ、異変と感じた磯野が慌てて命綱を曳き手繰り寄せました。

「大丈夫か、大丈夫かあ? 落ち着け、落ち着けよ!」

水面を滑るようにプールサイドへ引きずりあげられたアキ、急いでヘルメットを外されました。

「おい、おいどうした?」

心配して覗きこむ磯野。

「すいません、なんか胸が苦しくて … 」

「当たり前だ、くぬやろ、空気抜いてねえべ?!」

「空気?」


きょとんとした顔のアキに磯野はあきれながらも説明しました。

「自分で抜かねえと、空気が溜まって体が浮いてくるんだ! … そしたら、おめえ何かあったと思うべ」

… 胸の苦しさは恋のせいではなかったようです。

… … … … …

「珍しいな、女子で南部もぐりさ興味持つなんて」

実習後、用具を片付けながら種市はアキに尋ねました。

「海好きか?」

「はい、祖母ちゃんが海女クラブの会長で海さ潜りたくて東京から転校してきたんです」


アキはウキウキしながら答えました。

「じぇじぇっ、東京から? … おめえ、えれえ訛ってるな」

「はい、海女のおばちゃんとばっかりしゃべってるから」

「ああ、袖が浜は訛りきついもんなあ」


… そういう種市も相当訛っています。

「先輩はなして潜ろうと思ったんですか?」

種市は先祖が南部潜りの家系で祖父は今も現役の潜水士、真冬でも潜っていると言いました。

「ま、親は大学さ行けって反対したけど、自分は勉強好きでねえし、海で育ったからな」

「東京さ、就職するんですか?」

「んだ、羽田空港新滑走路拡張工事さやるんだ … 潜水士が潜って石積み上げるのさ、なんぼ技術が進歩しても基礎工事は人間が潜ってやんねばなんねえ … そういう仕事に自分は誇りを感じてるんだ」


種市は今までアキの周りにいなかったタイプの男性でした。

「かっけえ!」

「かっけえか?」

「自分のこと自分って言うんですね」


… そこかい?

「で、自分そろそろ帰る」

種市がまた『自分』と口にしたので、思わず顔を見合わせてお互いに笑ってしまいました。

「気いつけて帰れよ」

最初は種市の容姿にひとめぼれしたアキでしたが、今日初めて話をしてその人柄にも魅かれ始めていました。

… … … … …

ユイは北三陸駅の待合室でアキのことを待っていました。

しあわせな気分のアキと裏腹に振り向いたユイは何とも言えない憂鬱そうな顔をしていました。

「どうしたの? 怖い顔して」

ユイはアキに一通の封筒を差し出しました。

「これ、兄貴から渡せって頼まれた … 」

まるで汚いものでも扱うように封筒を摘まんでいるユイを不思議に思ってアキは尋ねました。

「何でそんなに端っこ持ってるの?」

「だって嫌じゃん、親友に兄貴からのラブレター渡すなんて」

「らぶれたあ?」


目を丸くして驚くアキ。

「 … 久しぶりにメールしてきたと思ったら … いやだもう!」

我慢の限界が来たように立ち上がると「こんなの読まなくていいから」とゴミ箱に投げ込んでしまいました。

そして、アキの手を引っ張ってその場から立ち去ってしまいました。

… … … … …

その一部始終を偶然(?)盗み見していた吉田、ゴミ箱からユイが捨てた封筒を拾い上げました。

「読むよねえ … 」

その場で勝手に開こうとした瞬間、足音が聞こえたかと思うと、ものすごい勢いでユイが吉田の手から封筒を奪い返しました。

「ごめんね、兄貴には直接渡せって言っておくから」

アキにそう言いながらふたたび立ち去りました。

… … … … …

「 … という訳で中身は確認できませんでしたが、足立の野郎あきらめてないですね」

梨明日のカウンターで大吉と保に報告する吉田です。

「母親としては、これ気が気じゃないでしょ?」

保が春子に尋ねましたが、何かこの前と様子が違います。

「まあね、でもあの子良い子だからね」

「ちょっと、この間は大反対してたべ?」


『ダメえ、絶対ダメえ! あり得ない、絶対ダメえ … 金輪際、ダメえ!!』

大吉に言われても春子はそのことを覚えていませんでした。

「言った言った、けちょんけちょんだったべ」

弥生にもそう言われてもまだ思い出せません。

… 宮古島の晴海さんと同じ病気?

「うそうそ、だって反対する理由ないじゃん」

『ヒロシ君じゃ、アキを幸せにできないからよ … 』

「あら、ちょっと思い出してきた … 言ったね、あたしね

… でももう気が変わったのよ、なんか最近アキ、変に人気が出てきちゃったじゃない?」


今や海女のアキちゃんと言えば、北鉄のユイちゃんと並んで北三陸市の観光の二枚看板になっていました。

「勘違いしたり、ヘンな虫がつくくらいだったらさ … 」

「いやいやあ、足立君も相当ヘンな虫だよ」


そう言いきった保に、昨日はあんなに褒めていたのにと春子があきれました。

「昨日はホラ、お父さんがいたから … ロクなもんじゃねえべ、女子高生にラブレターなんて」

自分の言葉がこの後ブーメランのように返ってくるとは知る由もない保でした。

… … … … …

「あ、ラブレターで思い出しちゃった」

いたずらっぽく笑った春子が取り出したものは …

「交換日記、持ってきたの」

「じぇっ!」


すかさずノートを手に取る大吉、奪い取ろうとする保を吉田が羽交い絞めしました … 北鉄の連携プレーです。

「高校時代に交換日記やってたの菅原君と、三日間だけ」

経緯を知らなかった弥生に説明する春子。

「じぇじぇじぇ!」

弥生もカウンターを出て大吉たちの仲間に加わりました。

「春ちゃんへ、今日から交換日記を始めます。」

大吉が大きな声で読み上げ始めました。

「 … 付き合っているわけでもないのに、こんなのヘンだなと思うかもしれないけど、僕は気にしない。

男女の間にだって、友情は成立するよね … なんでも好きなこと書いてね」

「で、それに対して春ちゃんは … 」


大吉に代わって弥生が読み上げました。

「髪を切った私に、違う人みたいと … アナタは少し照れたよう … あれっ?」

「松田聖子の『夏の扉』だ」

「何でも好きなこと書けって言うからさ」


悪びれずに春子は言いました。

引き続き大吉。

「春ちゃんへ、僕も松田聖子大好きです … でも春ちゃんの方が可愛いと思います」

「もう死んでしまえばいいのに、俺 … 」


保はノートを取り上げるのをあきらめてへたり込んでしまいました。

一方、春子の方には恋愛感情がなかったことがわかった大吉はノリノリです。

「それに対して春ちゃんは!」

「どれどれ … 」

「何で弥生さんが読むの?」


春子のパートは弥生の担当です。

「紅茶の美味しい喫茶店 … 」

「柏原よしえだ」

「よっぽど書くことなかったんだな」


保へのおしおき(?)はまだ終わりません。

「春子ちゃんへ、涙のリクエスト、最後のリクエスト!」

「ああ、菅原さんも歌詞書いちゃった」


吉田は楽しくてしょうがないみたいです。

「そして、ついに最後の日記です」

大吉はノートを弥生に渡しました。

「ラブ・イズ・オーヴァー!」

… これにて一巻の終わり …

… … … … …

カウンター席に戻る3人。

「ごめんね、持ってこなければよかったね」

「もう遅いんだよ … 」


春子は謝りましたが、保の顔は一気にやつれて見えました。

「菅原は足立君のこと、とやかく言う資格ねえってことがよぐわかった … でも、この大事な時期にスキャンダルはちょっと困るんでねえか?」

「何それ、芸能人じゃあるまいし」


大吉の言葉を大げさだと言う春子に吉田がこの男には珍しく真顔で言いました。

「いや、ネットユーザーにとってアキちゃんとユイちゃんは芸能人と一緒ですよ」

「だからまあ、できれば当分の間、恋愛の方は控えてもらって … 」

「足立君にはそれとなく注意しておくか」


大吉と保、すべて大人の都合でした。

… … … … …

恋をしてからアキは、春子の隠し部屋に入り浸っていました。

「自分、自分 … てへへっ」

春子のカセットの曲の中でも自分のお気に入り、「君に、胸キュン。」をヘッドフォンで聴きながら、学校案内に載っている種市の写真を見るアキ。

知らず知らずに笑顔がこぼれてくる …

「キュン。」

… … … … …

潜水服を着たふたりは手を取り合ってプールの底に沈んでいきます。

筆談用のボードにアキは書きました。

「好きです♥」

それを見た種市も同じようにボードを見せました。

「自分も♥」

… 相思相愛?

目を閉じるアキ、種市が近づいてきます。

コツン!

… ヘルメット同士でした。

目を開けると、アキの体はプールの水面に浮かび上がりました。

「今度は何を?! いい加減慣れてよお!!」

プールサイドで磯野が大声でわめいています。

… 当然、夢でした。

… … … … …

春子のベッドの上でうなされているアキ、ドアをノックする音がしましたが目を覚ましません。

「入るよ」

アキの返事を待たずに、そう断って春子は部屋に入ってきました。

「何うなされてるの?」

春子は持ち出していた交換日記をしまうために机の引き出しを開けました。

そこに入っていた見慣れない書類、春子は手に取りました。

転科願書と学校案内。

「何これ? … アキ、アキ起きなさい、うなされている場合じゃない、起きて」

… … … … …

茶の間に下りたふたり、春子はアキの目の前に先ほどの書類を置いて問いただしました。

「何これ、これどういうこと?」

春子の剣幕で隣の部屋で寝ていた夏も起きてきました。

「何だよ、こんな夜中に大っきな声出して」

「いいから、お母さん黙っててくれない? ほら早く!」


春子はアキを促しました。

寝起きの顔でアキは説明し始めました。

「あのね、普通科から潜水土木科へ編入しようと思うの」

「せんすいどぼくかあ?」

「そう、潜水服着て海に潜って … 」

「南部もぐりでしょ、それ?」


アキは母が南部もぐりを知っているとは意外でした … 考えてみれば祖父は北高潜水土木科の出身、母も2年までは通っていた学校でした。

「何これ? ちょっとわかんないんだけど … 何で潜水土木科に?」

「 … 潜りてえから」


潜りたい … アキの答えは、それが全てでした。

「温水プールがあるから1年中潜れるんだって、あっ、海女は海女でつづけるよ … 夏場は海女やって、それ以外は南部もぐりやりてえ」

春子は何か言い聞かせようとしましたが、構わずにアキは続けて言いました。

「って言うか、もう決めてきた … 親御さんがOKなら明日からでも来いって」

… … … … …

「知ってたの?」

春子は夏に尋ねました。

「まあな … ああ、もう母ちゃんと相談して決めろって言っただけだ」

夏はとぼけて自分の寝床に戻ってしまいました。

「相談って … あ~あ、逃げたよまた」

アキに向き直った春子。

「本当にやりたいの? 南部もぐり」

アキはしっかりとうなずきました。

アキの決意の固さは、その目を見ればわかりました。

それにしても、海女の次は潜水士、まったく目の離せない子です …
 


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