NHK朝ドラ『花子とアン』『ごちそうさん』『あまちゃん』…ストーリーを勝手に解釈&裏読み … ほぼネタバレ…
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2013年07月31日 (水) | 編集 |
105話

数日後、水口は社長室に呼びつけられました。

「相変わらず来てるのか、あの女?

… あの鬱陶しい東北のステージママだよ!」


水口の顔を見るなり、太巻はものすごく不機嫌にそう吐き捨てました。

「ああ、春子さん」

「最近じゃあ、天野だけじゃなく他のメンバーにも口出ししてるそうじゃないか?」


あの日以来、春子は頻繁に奈落に訪れて、GMTのレッスンを見るだけでなく、口を出すようになっていました … もちろん誰の断りもなく。

「いやあ、指導が適切なんで助かってます」

水口の言葉が太巻の神経を逆なでました。

「助かってんじゃないよっ!

そのうち面倒くせえこと言われるぞ … 取材につき合わせろだの、ステージ衣装作れだの」

「 … もう言われました」


社長室のドアを開けて、アキを先頭に真新しい衣装に身を包んだGMTのメンバーが飛び込んで来ました。

「社長、見てこれ、この衣装でアー写撮ることになったど! … いぐねえ、これ?」

全員が太巻の前でうれしそうにくるくる回って見せました。

「はははははは … 似合う似合う、舞踏会に出れるよ」

ひきつった作り笑いの太巻、すぐに眉間にしわを寄せて席につきました。

「ところで水口さん、アー写って何?」

「アーティスト写真だよ。ホームページのトップ画面になるよ … あと、ステッカーも作る」


メンバーから歓声が上がりました。

「おらたちアーティストかあ … 」

ご機嫌で社長室から出て行きました。

「 … すみません、5人で12万円です」

水口は、苦虫をかみつぶしたような顔でソッポを向いたままの太巻の前に請求書を置きました。

「あの薄汚え、シンデレラの娘っ!」

舌打ちをして、万札を叩きつけた太巻でした。

… … … … …

「いくよ ~ GMT ~ 」

「ファイブ!」


今や売れっ子のアイドル評論家兼カメラマンのヒビキ一郎の手によるアー写の撮影が奈落で行われています。

一郎の掛け声に合わせて飛び上がるメンバー。

「ほら、元気出せよ、まだ若いんだろうが?! 息上がってんじゃないよ!」

口の悪さは相変わらず、どこで売っているのかわからないような派手な花柄のスーツ、しかし腕は確かなので、引っ張りだこのようです。

一郎は国民投票での得票数上位でセンターとなった薫子に年齢を尋ねました。

「15です」

「俺48、でも全然元気! 行くよ ~ 」


… 年齢不詳だった一郎の歳が判明、結構遅咲き?

撮影に立ち会っている太巻と水口。

「まあ、言ってみれば、思い出づくりだな」

「思い出づくり?」


太巻が妙なことを言ったので、水口は聞き返しました。

「デビューさせて、深夜の歌番組でも出せば、ステージママも納得して引き下がるだろう」

そう言って奈落を後にしようとした時に思いついたのか、太巻はとんでもないことも言いだしました。

「あ、そうだ!

… 1万枚売れなかったら、解散のパターンで行こう。それで見積もりよろしく」

「えっ、待ってください … 解散って?」

「 … 『地元に帰ろう』だよ。

ふふん、売れるわけないだろ、1万枚なんて」


解散を前提としたデビュー、それがGMT5、いやアキと春子にとっての『思い出づくり』ということなのでしょうか …

釈然としない気持ちで太巻の背中を見送った水口。

そんな陰謀めいた太巻の思惑なぞ知らずに、撮影は続いていました。

… … … … …

後日、アキは出来上がったステッカーを甲斐に渡すために純喫茶アイドルを訪れました。

「いいの?」

甲斐は震えるほど喜んでくれました。

「もちろん! … いっぺえ置いて行くから宣伝してけろ」

カバンからステッカーを束で取り出しました。

「やったあ、熱いよね ~ GMT」

「へへへ、じゃ!」


帰ろうとするアキを甲斐が呼び止めます。

「じゃって … いいのかい?」

甲斐はテーブル席を指差しました。

< 大吉っつあんがママを追っかけて東京さ来ました >

テーブルについているのは、春子と正宗、そして大吉と何故か小百合も一緒です。

「微動だにしないね、かれこれ30分になるよ … 吐きそうだよ」

「あ、動いた!」


大吉がおもむろにおしぼりで顔を拭きはじめました。

「ああ、東京は空気が汚ねえ … 見て見ろ、鼻の中まで排気ガスで真っ黒だ!」

隣に座っている小百合に向かって鼻の穴を広げて見せました。

「やめてよ、大吉っつあん」

「モータリゼーションの弊害がここにも … 」

「だったら、来なきゃいいじゃん」


あからさまに嫌な顔をした春子を正宗が諌めました。

「 … 何で来たのよ?」

「北鉄で」

「ばか、北鉄じゃ東京まで来れねえべ?」


小百合に笑われて、大吉は細かく説明を始めました。

「北鉄で宮古まで行って、宮古から山田線で釜石に出て … 」

「だから、一番時間のかかるコースで何しに来たのっつってるの!」


春子が声を荒げました。

「会いに来たんだべ、春子に!」

「春子?」


正宗は大吉の顔を見て、隣の春子の顔を見ました。

… … … … …

「じゃあ」

やっぱりアキは先に帰ることにしたようです。

「じゃあって?!」

「おらがいたら、しゃべりづれえこともあるべ?」


アキはニコニコしながら、一同に「ごゆっくり」とひとこと、店を出て行ってしまいました。

… … … … …

「だから説明したでしょ、ちゃんと … 今はアキのそばにいたいの」

『あの子のこと応援してあげたいんだ … 自分が見れなかった景色、あの子に見せてあげたいんだ』

「 … わかんねえ、アキちゃんは田舎が好きなはずだ。

北鉄の窓から見える、海や山、田んぼが好きなはずだ!」

「その景色じゃないの、そういう意味じゃないの!」


話が中々通じない大吉に、春子は焦れて来ました。

「春ちゃんだってそうだべ?

都会に嫌気がさして故郷さ帰ったのに、なしてまた戻る … 何が不満だ?!」

「嫌で出て来たんじゃないの、今回は。

こっちでやり残したことがあることを思い出したの、それをやるのアキと一緒に!

… やり遂げたら、帰るから」

「そうなの?」


尋ねたのは正宗です。

「 … そのうちにね」

「いつ帰ってくる?!」


しつこい大吉。

「2~3日かもしんないし … 2~3ヶ月かもしんない」

オブラートに包んで言ったのですが、正宗が余計なことを聞きました。

「あれっ、この間、2~3年って言ったよね?」

「2~3年っ?」


目を見開いた大吉。

「だから … もうっ!」

春子は席を立って、カウンターの甲斐に助けを求めました。

しかし、甲斐はテレビに出ているアメ女に夢中。

「あ、小野寺ちゃん、立ち位置変わった … 変わったよね?」

春子に確認しました。

「 … 知らないよ」

… … … … …

「大体さ、関係ないじゃん!

あんたとヨリ戻すつもりないし、大吉さんのプロポーズ受ける気もないからね、私は!」


いい加減面倒になった春子は、ぶちまけてそう宣言しました。

「プロポーズ?!」

正宗と小百合にとっては初耳でした。

「プロポーズ … したよ、したした。

… してもいいじゃん、幸せになってもいいじゃん!

だって俺たちバツイチ同志だぜ、足して2だぜ!」

「その理屈だと、僕は安部さんにプロポーズしてもいいことになりますが?!」


正宗の言葉に小百合は照れ始めました。

「しませんよ、しませんけど!」

慌てて否定する正宗。

… … … … …

「 … やり残したことってなんだろうな?」

不意にそう言った甲斐のひとこと。

「ああ、ごめんなさいね、聞こえちゃったもんだから …

春ちゃんがこっちでやり残したことってなんだろうなって」


大騒ぎしていた一同が黙り込んで春子に注目しました。

「それは …

言わない、やり遂げるまで言わない!」

< 決して言葉にしませんでしたが、おらをデビューさせるまで、ママはこっちにいるみたいです。

それは、うれしい反面、プレッシャーでもありました >


… … … … …

無頼鮨。

カウンター席に並んで腰かけている大吉と小百合。

「少ねえ、ウニ少ねえ … 詐欺だべこれ、軍艦詐欺だべ?」

結局、春子を連れ戻すことに失敗した大吉は不機嫌顔です。

目の前に出された軍艦巻きのウニの量にまで北三陸の感覚でケチをつけました。

「ちょっと、やめて!」

「酒だ酒だ、ウーロンハイに変更!」

「飲めねえくせに」

「飲めるようになったんだよ、春子のおかげで … 注げ!」


大吉は小百合にグラスを差し出しました。

「ストップって言ってよ」

小百合が大吉のグラスに焼酎を注ぎ始めた瞬間。

「ストップッ!」

「もう? 目薬ほどしか入れてねえよ」

「うるせえっ!

ああ、くやしい … 絶対連れ戻すって、大見栄切って、ブティック今野で背広しつらえて来たのによ」


ウーロンハイをあおりました。

「濃いっ!!」

… … … … …

「 … 私も帰ろうかな?」

小百合がつぶやくように言いました。

「もう限界、まめぶ大使として1年半がんばってきたけど、まめぶに対する都会っ子の警戒心計り知れねえ。

まさか、まめぶがケバブに負けるとは … 」


話しながら、泣き出した小百合。

「安部ちゃん … 」

「北鉄の窓から見える景色、おらも好きだ。

釣鐘洞、灯台、袖が浜の坂道 … 海女カフェにも行ってみてえし、今年の夏は久しぶりに潜りでえ」


元亭主の大吉にだからこそ漏らした弱音だったのかも知れません。

「帰って来い、安部ちゃん!」

「いいのか?」

「当たりめえだ、皆待ってる!

ただし … 別々に帰るべえ」

「 … なすて?」

「なすてっておめえ、考えてもみろ …

春ちゃん連れ戻しに来ておめえ、安部ちゃん連れて帰ったらおめえ、皆ぶったまげるべ?」

「そうがなあ? … 」


納得がいかない小百合。

「そうだよ、豆腐買いに行って電池買って帰るようなもんだ。

安部ちゃんに取っても損だ、単独で帰って来い」


本音は小百合というより自分に取って損ということでしょう。

たぶん別れる時もこんな風に自分本位の訳のわかんない理屈で丸め込んだのではないでしょうか …

「そうだよね、春子さんは学園のマドンナでおらなんか … 」

「お会計!」


話しがつけば、後はバッサリと切り捨て …

「深夜バス乗る前におみやげ買わねえと」

「もういただいてますんで」

「じぇじぇっ?」


種市にそう告げられて、大吉は小百合の顔を見ました。

首を振る小百合。

「だ、誰が?」

… … … … …

「遅くなりました」

その時、店を訪れたアキが、大吉たちの座っているカウンターの後ろの座敷に入って行きました。

「大丈夫、さっき来たとこ」

そこに座っていた女性 … ひろ美を見て、驚く大吉。

「じぇえええっ!!」

「あらら、大吉っつあん、まだいたの?」


大吉に気づいたアキ。

「おお、南部ダイバーの顔見てから帰ろうと思って」

そう言いながら大吉は、ひろ美を舐め回すように見ています。

「ファンです」

ひろ美は軽く会釈しました。

「大向大吉46歳、北三陸鉄道の駅長でがす。アキちゃんとは家も近くて、母親の春子さんとは幼なじみで … 」

「大体、聞こえてましたから」

「 … つうか、ファンです」


脂ぎった笑顔で馴れ馴れしく右手を差し出す大吉。

ひろ美は仕方なく握り返しました。

… まったく大吉っつあんときたら、アキがもの凄く迷惑そうな顔をしています。

… … … … …

こちらは梨明日。

大吉からの電話を受けた保。

「今、先輩、女優の鈴鹿ひろ美と飲んでるんだって」

全く信用してせずに皆に話しました。

「またまたまた ~ 」

店にいる連中も誰ひとりとして信用しません。

今夜の店番は吉田、女っ気が全くなく、お目付け役もいないので、皆相当出来上がっています。

「どうせ場末のスナックのオナゴだべ?」

組合長の言葉に大笑いする一同。

「 … ウソじゃねえって、ちょっと待ってろ!」

大吉は図々しくもひろ美に電話に出てくれるよう頼みました。

「声聞かねえと、信用できねえって … すみません」

アキが横から止めましたが、それでも大吉は自分の携帯電話をひろ美に差し出しました。

アキの手前、渋々受け取ったひろ美、スカートで携帯の画面をゴシゴシとこすって、脂汚れを落としました。

… … … … …

「 … 鈴鹿です ~ 」

「どちらの鈴鹿さんですか?」


携帯に出たのは吉田です。

「女優の鈴鹿です ~ 」

気が気でないアキはひろ美の横に移って電話に耳を傾けました。

「女優の鈴鹿です? 

このアマ、あのね、おら鈴鹿ひろ美のファンクラブさ入ってたの。

そう、ひろ美っ子クラブ、詳しいね … だから、本物か偽物か一発でわかる」

「本物です ~ 」

「 … このアマ、本物だって言ってますよ」

「いやいやいや ~ 」


揃って首を振る一同。

「いい加減にしろ、くぬやろ!」

「そこまで言うんだったら、『潮騒のメモリー』歌ってもらうべ」


失礼な発言がどんどんエスカレートして出てきます。

「『愛のメモリー』歌ってみろ!」

訳が分からないことまで言いだしました。

「 … 大島渚だべ?」

「大島渚は『愛のコリーダ』だべ?」


♪美しい人生よ ~ 限りないよろこ …

プ ~ プ ~ プ ~

… 電話は切れてしまいました。

ひろ美に軽くにらまれて、アキはすごすごと自分の席に戻りました。

大吉に携帯を返すひろ美。

「ファンです」

会釈した後、うんざりした顔をしました。

< 大吉さんは深夜バスで岩手さ帰りました >

… … … … …

< ヨリを戻すつもりはないと言いながら、ママはパパのマンションで暮らしています。

息が詰まるから帰って来いって、ママは言いますが … 敢えておらは帰りません >


… アキはメンバーと一緒に合宿生活を続けていました。

… … … … …

「食べながらでいいから、聞いてください」

その日、朝食の席で水口が皆に向かって改まって言いました。

「昨日、太巻さんに呼ばれてGMTの今後の方針について話し合いました」

「ついに解散? … なんつって」


茶々を入れたしおり、水口が黙ってしまったので、焦り出します。

「 … そうなんですか?」

「今度はなん?」


思わずアキの顔を見る真奈。

「おらなんもしてねえど!」

「 … デビューが決定しました」


水口は持っていた紙を皆に配りました。

そこには『地元に帰ろう』の歌詞が書かれていました。

「前に聞かせた『地元に帰ろう』を有馬のパートを5人で割り振って歌ってもらうことになった。

ただし … 」

やったあああっ!


しおりが大声を上げたため、水口は話の腰を折られてしまいました。

歓声を上げて抱き合うメンバー。

「た、ただし … 」

「本当ですか?」


喜屋武が飛びついて来たのでまた話しそびれました。

「ウソついてどうするんだよ? … ホームページにも発表した」

もう何となく、これ以上のことは話せる雰囲気ではなくなっていました。

「木曜日、歌入れだから、ちゃんと聞いておくように」

『まあ、言ってみれば、思い出づくりだな』

『あ、そうだ!

… 1万枚売れなかったら、解散のパターンで行こう。』

『 … “地元に帰ろう”だよ。

ふふん、売れるわけないだろ、1万枚なんて … 』

… … … … …

歓喜するメンバーに反して、水口が何となく浮かない顔をしているように見えたアキ。

目で追っていると、水口は無言でそそくさと先に出かけて行ってしまいました。


地元に帰ろう 地元で会おう

あなたの故郷 私の地元

地元 地元 地元に帰ろう …

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2013年07月30日 (火) | 編集 |
104話

じぇじぇじぇじぇじぇじぇじぇっ!

春子とひろ美が火花を散らし合う無頼鮨。

貸切りのはずの店に入ってきたのは … 太巻でした。

「社長?! … えっ、何で?」

驚く水口。

「 … こっちのセリフだ。

何で … 」

「はじめまして」


春子は太巻に白々しく挨拶をしました。

春子に気づき、驚愕の表情をする太巻。

「天野アキの母です … 娘が大変お世話になりました」

「 … 太巻です … 荒巻です … 太一です」


例のポーズを取った太巻、あきらかに動揺しています。

「私が呼んだの」

… ひろ美がいったい何のために?

… … … … …

微動だに動かない一同、まるで店内の時間が止まってしまったかのようです。

種市がタクシーが到着したことを告げに来ましたが、誰ひとり反応しません。

カウンター内の梅頭まで固まっています。

「大将!!」

種市の声で我に返った梅頭、皿に並べた寿司が全て裏返し、ネタが下敷きになっていました。

… … … … …

恐る恐る、裏返しに盛られた寿司をテーブルに出す種市。

冷たい視線を感じたのか …

「こちら、お包みしましょうか?」

「そうね … ネタ上にして」


ひろ美が梅頭に聞こえるように答えました。

「タクシー、キャンセルしましょうか?」

「いいわ、私乗るから」


春子は種市にそう言うと、帰り支度を始めました。

「 … どうしてクビなの?」

突然、ひろ美が太巻を問いただしました。

「重大なペナルティって何よ?

… 天野さん、何やらかしたの?」


不機嫌面の太巻は質問に答えずに黙ったままです。

「 … まさか、男?

いやだ、種市君! 天野さんがJリーガーと!!」


勝手に騒ぎ立てるひろ美に太巻は口を開きました。

「私のやり方に盾ついたんです」

… … … … …

「連帯責任だ!

… GMTは実力も知名度も足りない!

有馬がいなければ勝ち目がない、だから会社は金を出さない、それが現実だ … 以上」

「やってみなけりゃ、分かんねえべ?!

… やりもしねえで売れねえって、何で決めつける?」

… … … … …

太巻から解雇にした理由を聞いた途端、ひろ美は笑い出しました。

「 … そんなことで、はは … ちゃんちゃらおかしい。

… っていうか正論じゃない?

売れるって分かるもん売って何が面白いのよ?

太巻さんも守りに入っちゃったんだ … 」


太巻の横に座って顔を覗きこみながら言いました。

「昔は柔軟だったのに、歳とってもう若い子の意見とか聞かないんだ?」

「将来性のある子なら耳を貸します」


太巻は春子の顔を見ました。

「しかし、娘さんは未知数だ。

いや、そればかりじゃない、一度は解雇宣告を受けて繰り上げ残った、いわばポンコツだ」

「何ですって?」


容赦なくアキをこき下ろした太巻に春子は目を剥きました。

「GMTはポンコツとガラクタしかいないガラクタ市だ」

今度は水口もムッとした顔をしました。

「確かにポンコツね、40回もNG出すし」

笑って話すひろ美 … こんな席で失態の話を出されて、アキの顔は強張りました。

『島田さん、先週しっこしましたよ』

「 … だけど、地元じゃすごい人気みたいよ、お母さんの話だと。

アイドルなんですって、お友達とふたりで『潮騒のメモリー』歌ってたんでしょ?」

「んふふふふ … 知ってますよ。

だって、うちはその友達の方をくどいてたんですから」

「あら、水口さんはユイちゃんよりアキの方が有望だっておっしゃってますけど」


負けじと言い返した春子。

太巻は怖い顔で水口をにらみつけました。

「 … どっちも、どっちもです」

… … … … …

「とにかく天野の解雇は … 」

「天野さんクビにするなら、私も辞めますから」


ひろ美は太巻の言葉を遮って言いました。

「 … 辞めるって、鈴鹿さん、あんたはもうとっくにうちの所属じゃないでしょ?」

「女優を辞めるんです」


そう宣言をして、ひろ美は立ち上がろうとしました。

しかし、相当酔いが回っているようでふらついてしまって、水口の手を借りました。

「大丈夫ですか?」

「平気よ … それより、どうなの?

女優辞めてもいいの?」

「 … 辞めろって言っても、辞めないくせに」


口の中でつぶやく太巻。

「はい ~ ?」

「分かりました … 天野の解雇は撤回します」


… … … … …

「やったあ!」

喜びのあまり声を上げてしまったアキですが、無言でにらんでいる太巻の視線を感じました。

「 … すみません」

解雇撤回を確認すると、ひろ美はふらふらと立ち上がりました。

種市から寿司折を受け取り、座敷から出たところでまたよろけました。

「もう漫画の酔っぱらいみたいになってるじゃないですか?」

挙句の果て、春子のスーツケースにつまづいてひっくり返ってしまいました。

慌てて、ひろ美の元に駆け寄るアキと水口。

「送って行きます、送って行きます」

太巻は、そう言いながら、春子を座敷に残したまま席を立ちました。

存在を全く無視しているかのように会釈ひとつせずに …

「 … 逃げるの?」

太巻の態度や言動に対して腹に据えかねていた春子は追い打ちを掛けました。

しかし、すっかり落ち着きを取り戻している(或いはそう装っている)太巻。

「話があるなら、事務所までお越しください … 失礼」

そう冷ややかに言うとさっさとその場を立ち去ってしまいました。

座敷にひとり残された春子、深いため息をつきました。

… … … … …

「35歳?」

「惜しい、45です!

… 趣味は料理かな、今日も肉じゃが作ってるの」


ヘッドセットをつけた正宗がパソコンの画面に映った女性とビデオチャットをしています。

『お見合いWeb』と題されたサイト … いわゆる出会い系?

「彼女? … いませんいません、もうずいぶん前に別れちゃって」

「え ~ うっそお」

「ほんと、ほんと … 今は仕事が恋人かな?」


玄関でチャイムが鳴るのが聞こえました。

「ちょっと待ってね

女性を待たせて、パソコンの前を離れようとする正宗。

「ただいま ~ 」

いきなりリビングの戸が開いて春子とアキが入ってきました。

「 … あ、おかえり」

「ああ、よかった … カギ替えられてたら、どうしようかと思っちゃったじゃない!」

「えっ … 春子さん?」


春子は勝手にパソコンを覗きこみました。

「誰、このブス?」

「あ、ちょちょちょ … 」


慌ててパソコンを閉じる正宗。

「何? … どうしたの、急に?」

「その前にさ、お風呂いいかな?」


ひとことの説明もなく、我が物顔に振る舞う春子。

「ちゃんと説明してください!」

「おかえりって言ったじゃん?」

「ただいまって言ったじゃん!」

「うわあ、何かムカッとくるなあ ~ 」


部屋の中のものにケチをつけ始めました。

「何よ、カーテンの色ちょっと明るくしちゃってさ、モテようとしてるの?

わっ、間接照明 … ウケル ~ 独身かあ?」

「独身だよ! 

僕の部屋を僕がどうしようが、僕の勝手だ!」

「 … しばらく厄介になりやす、すいません」


そんな両親のやり取りをニヤニヤと見ているアキでした。

… … … … …

一方、こちら梨明日。

ここにも寂しい男がひとり …

「うううう … 」

春子に置いて行かれた(?)大吉、カウンターには涙を拭いたテッシュが山のように積まれています。

「泣かないの …

もう慰めなくていいすか? 先輩、涙っこ出てないし」


いい加減慰め疲れた保がようやく自分の席に戻りました。

「昼の2時から泣きっぱなしだもんな」

涙も枯れ果てたということでしょうか … あきれた弥生が言いました。

「冷てえな、ちくしょう! … ずっと待ってたんだど、俺は!

24年間、ずっと待ってたんだど ~ 」

「昼の2時からこればっかりだもんな」


同情するより、迷惑そうな弥生です。

「大体24年って、琥珀差比べたら、ねえ勉さん?」

「んだ、琥珀は8,500万年前の樹液の … 」

「樹液じゃねえべ、おらあ、大吉だ!! … 人間だもの!」


… 何故かもらい泣きする勉さん。

「ユイちゃん、何か歌ってくれよ。

何でもいい、84年の歌なら何でもいい」


大吉はユイにリモコンを渡しました。

「それ、結構な縛りですよ?」

吉田にたしなめられましたが、大吉は聞きません。

「84年は譲れねえ … 俺と春子のメモリアルイヤーだからさ!」

リモコンを受け取るユイ。

「頼むユイちゃん! 84年で1曲!!」

ユイはすかさず選曲を終えて、マイクを手にしました。

モニターに表示された曲名は杏里の『悲しみがとまらない』

「ああああああああ」

イントロが流れ始めると、大声を上げて泣き崩れる大吉。

「 … まだ歌ってません」

「春子ぉ ~ 」


♪あい・きゃん・すとっぷ・ざ・ろんりーねす …

横取りして歌う弥生。

「 … おめえが歌うな!」

… … … … …

ふたたび、正宗のマンション。

お手製の肉じゃがを春子によそる正宗。

何だかんだ言っても結局は、春子の世話を焼いています。

「 … わかった!」

ドライヤーで髪を乾かしていたアキが急に声を上げました。

「何よ、急に?」

「さっきの鈴鹿さん、誰かに似てると思ったんだよ」

「似てる?」


聞き直す正宗。

「んだ、とにかくおらのことクビにしたら、女優辞めるからなって、太巻さんにタンカ切ったべ?」

「そうなの?」

「 … ああ、もしかして夏さん?」

「んだ、夏ばっぱみてえだったべ」

「そうなの?」


いちいち聞いてくる正宗をウザく感じながら、春子は首をひねりました。

「どうかなあ?」

しかし、自分から夏の名前が出てきたということは、少なからずそう感じていたということなのでしょう。

「似てるよ、鈴鹿さんと夏ばっぱ」

「似てるかどうかは分かんないけど … あの人のおかげでクビ免れたんだから感謝しないとね」


そうアキに言い聞かせました。

「アキ、お前クビなのか? … どういうことだ、パパ聞いてないぞ!!」

「うるっさいな、今散々やってきたのそれ!」

「 … でも、僕聞いてないから」

「聞いてない僕のために一から説明しないといけないの?

根っからひとりっ子だよね、何かイライラするわ!」


都合のいい時だけ利用して、肝心なことは蚊帳の外ではさすがの正宗も怒らずにはいられません。

「意味わかんないよ、チャットしてたら急に押しかけて来てさ、ダメだしされて … 」

「チャットチャットチャットチャット … 」


からかう春子に向かって言いました。

「君だって … 君だってひとりっ子じゃないか?!」

「そうよ、だから何よっ?!」


アキを挟んでにらみ合ったふたり。

「おらもひとりっ子だべ?」

「 … そうだな、ここにはひとりっ子しかいない」


アキの言葉でお互いに矛先を収めてテーブルにつきました。

「ひとりっ子同志、仲良くやっぺ」

我が子には敵いません … 正宗は春子にビールを注ぎました。

… … … … …

「いつまでいるの?」

「まだわかんないけど、2~3日になるか、2~3年になるか … 」

「じぇじぇっ?!」


驚いたのはアキです。

「2~3日と2~3年では全然違うよ」

「 … 何よ、迷惑なの?」

「そうじゃないけど、滞在期間ぐらい知る権利はあるでしょ?

… ずっと待ってたんだから」


春子は正宗の顔を見ました。

「待ってたよ … 君が帰ってくる場面をずっとイメージしてた」

「でも、夏ばっぱは? … ひとりにして大丈夫か?」


いいところでアキが口を挟みました。

「人の心配じゃなくて、まず自分でしょ?

何よ、『帰りてえ、帰りてえ』って泣いてたくせに」

「おらなら大丈夫だ … しばらくは大人しくしてっから」

「アキ?」

「うん、反省してる … クビになりたくねえし、いい子にしてるべ」


ところが春子は怒り出したのです。

「何言ってるの、アキ?

いい子になんかならなくてもいいの、あんたは今のまんまでいいの!

そのためにママ、東京に出てきたんだから!」

「ママ … 」

「今回のことだってね、あんたひとつも悪くないからね。

悪いのは太巻なんだからね!

… あいつの理不尽ないじめと闘うために、ママ来たんだから!」


春子は力強く宣言しました。

「そうなの?」

「そうなのっ!!

だから、反省なんてしなくていいの!」


… … … … …

「大人しいアキなんかさ、肉の入ってない肉じゃがよ」

「『じゃが』だね、逆よりはいいね、『肉』よりは」


正宗がまたイラッとするようなことを言いましたが、春子はスルーしました。

「心配しなくていいからね、ママが絶対守ってあげるから」

「わかった、ありがとう!」


反対されると面倒ですが、味方にすれば心強い母です。

「パパは? … 何かパパにできることないかな?」

「チャットでもしてたらいいんじゃない?」


とことん人の弱みに付け込む春子です。

「おいっ?!」

「 … じゃあ、上野までやってちょうだい」


… … … … …

次の日、春子は自分とアキを正宗のタクシーで東京EDOシアターまで送らせました。

「ただいま ~ 」

奈落に駆け下りてくるアキ、メンバーが歓声を上げて迎えました。

「アキ、おかえり!!」

「いがったあ、もう戻って来ねえかと思った」

「リーダーなんか、嘆願書ば作って署名運動ばしよったとよ」

「じぇじぇっ?!」

「 … 新メンバーが加わるって噂あったとよ」


素っ気ないフリをしていたしおりが少し照れながら言いました。

「でもさ、奈落にはやっぱり、アキがいないと」

「いつまでも奈落じゃ困るけどね」


茶化した喜屋武。

「皆ありがとう、またがんばっぺ!」

アキはこのメンバーの元に戻って来られたことを心から喜びました。

「なあ、リーダー?」

「 … 」


不審な顔をしたしおり … その視線の先には … いつのまにか春子が、奈落の大きな鏡の前に立っていました。

… … … … …

「ああ、あれは … おらのママ」

アキの言葉に胸をなでおろした一同。

「そがんよね、新メンバーじゃなかよね」

春子は勝手に音楽をかけました。

「無駄口叩いてないで、ハイ! レッスンレッスン!!」

手を叩く春子。

「ハイ!」

しおりの合図でメンバーはフォーメーションを取って踊り始めました。

春子は奈落の壁を見上げます。

そこには腕を組んだ太巻の大きな写真が掲げてありました。

挑戦的な目でにらむ春子。

しばし、ガンつけた後 … 目線をアキたちのダンスに移しました。

< こうしてママと鈴鹿さんのおかげで、おらはGMTに復帰したのです >


ユイが歌おうとした『悲しみがとまらない』収録 … 全曲新録音、杏里80'sベスト …

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2013年07月29日 (月) | 編集 |
103話

事務所を解雇され、もう北三陸へ帰りたいと言うアキ。

しかし、春子はそれを跳ねつけました。

「 … だめよ!」

< そして、ママは上京しました >


無頼鮨の入り口を乱暴に開けて入って来たのは、たった今上野に着いたばかりの春子でした。

そうとは知らないアキはひろ美に北三陸の話を夢中でしています。

店内をゆっくりと進む春子、アキたちのいる座敷の前で立ち止まりました。

「アキ … 」

名前を呼ばれて振り向くアキ、信じられないといった顔で春子のことを2度見しました。

じぇじぇじぇじぇじぇじぇっ!

「ビール頂戴」


春子は梅頭にそう言うと座敷の入り口に腰かけました。

「 … ママです」

ポカンとした顔をしているひろ美にアキは春子のことを紹介しました。

サングラスを外し頭を下げた春子、取りあえず愛想笑いのひろ美。

… … … … …

ひろ美は向かい座った春子にビールを注ぎました。

「 … 鈴鹿さん、どうぞ」

春子が注ぎ返そうとしたのを断って、ひろ美は焼酎の入った自分のグラスを掲げました。

「はじめまして」

笑顔でそう言ってグラスのふちを合わせてきたひろ美。

「 … はじめまして」

春子は複雑な思いで応えました。

一気に自分のグラスを空ける、ふたり。

… … … … …

「逃げて来ちゃったんですか?」

カウンター席に移ってきた水口に種市が尋ねました。

「 … うん、何かあっち熱気がすごくて」

太巻から聞いて、ひろ美と春子の経緯を知っている水口は、ヒヤヒヤして見てられないといったところなのでしょう。

… … … … …

… それは、アキも同じでした。

「娘がお世話になって、本当はもっと早くにご挨拶に伺うつもりだったんですけど、なかなか … 」

畏まる春子にひろ美は言いました。

「いえいえ、お住まいは遠くていらっしゃいますもんね」

「遠いって言っても、盛岡まで出れば、新幹線で2時間半なんですよ、ええ」

「まあ、そうなんですか … 2時間半で?」

「ご存知かと思ってました … 静御前やってらっしゃいますよね?

あれって確か岩手が舞台でしたよね?」

「でも、京都で撮ってるんです … 第一、静御前の時代に新幹線なんてございませんもの!」


ふたりは可笑しそうに笑い合いましたが、どことなく空々しい感じがします。

お互いに様子を見合っているといったところでしょうか …

… … … … …

「ビール頂戴!」

ピッチが速く、春子はもう追加のビールを注文しました。

「 … ずっとビールでいく気かな?」

不安そうな水口に種市は言いました。

「鈴鹿さんも、ああ見えて焼酎1本空けてますからね」

… … … … …

「素敵な声だわ」

「えっ?」

「歌手目指してらしたんでしょ?」


春子ににらまれて、アキはビールを注ぐ手を引っ込めました。

「私と似ている気がする、声が … ねえ、天野さん似てるわよね?」

何も知らないひろ美は無邪気にそう言いましたが、アキは答えることができません。

「 … 似てませんよ」

春子は、思わず鼻で笑ってしまいました。

「似てるわよ」

「似てないと思いますけど … 」


ややキレ気味の春子。

しかし天然なのか、そんなことはお構いなしにひろ美は続けます。

「あれじゃない? 自分の声って、ホラ自分じゃ違って聞こえるじゃない?

… 客観的に聴いたら似てるわよ、ねえ大将?」


上の空だったのか、梅頭は外国人が「お手上げ」の時にするみたいに大きく両手を広げて肩をすくめました。

「何それ、デニーロのつもり? … 腹立つ」

「 … 何の話してたんでしたっけ?」


嫌そうな顔の春子。

「録音したら分かるわよ … 似てるわよ、きっと」

女優のひろ美本人に自分の声に似ていると言われたら普通だったら喜ぶところなのでしょうが …

「どうなの、アキ … ちゃんとやってるの?」

ひろ美の話をスルーして、春子はアキに尋ねました。

「ちゃんとやってるの? … ほらね、そっくり!」

春子のマネをしたひろ美、手を叩いて喜びました。

… 微妙な空気が流れました …

… … … … …

「 … ごめんね、しつこいわよね」

さすがのひろ美も何かまずいものを感じ取ったようで、ふたりに詫びました。

「やってましたよ、もちろん立派に … だから、辞められたら困っちゃうの。
天野さんがいないと私、迷惑メールの拒否の仕方も分からないんだもの … 」

「そんなこと褒められても、うれしくないんですよ。

… 付き人としてじゃなくて、アイドルとしての資質の話です!」


ひろ美はアキを見ました … 困ったような顔をしています。

「正直分かんないんですよね、親の欲目もありますし … 」

「自分の娘は可愛いものよね」

「まあ、離れて暮らしているしね。

だから、ちょっとその、安心してた部分もあって … 鈴鹿さんがそのアキの … 親代わりじゃないけど … 」


飲みかけた焼酎を吹くひろ美、顔色が変わりました。

「親代わり?」

「じゃないけど … 」

「私が天野さんの親? なんで?! 何の因果で?!」

「じゃないけど … って言いましたよね、ちゃんと!」

「困るんです … そういう過剰な期待。

あなたがそうだと言わないけど …

厚かましいのよね、ステージママって … 付き人なんだから、面倒みてもらって当然だと思ってる」


春子にとって聞き捨てならないことでした。

「ステージママぁ?」

「あなたがそうだとは言ってないけどね」

「私が、アキのステージママ?」

「だから、あなたは違うのよ」

「ステージママ ~ 」


… … … … …

「やめてけろ、ママ!」

見かねたアキが春子を止めました。

「鈴鹿さんとおらは確かに親子ではねえ … 何つうか、友達っつうか … 」
「友達っ?」


今度はひろ美がアキの言葉に咬みつきました。

「私のこと友達だと思ってたの? … だからずっとタメ口だったの?」

「いやいや … 友達っつうかって言ったべ?」

「だったら、払ってよ、たまにはお寿司おごってよ!

友達でしょ ~ ??」


寿司の盛られた皿をアキにつきつけました。

… もう滅茶ぶつけ状態です。

その皿を奪い取った春子、マジ顔でふたりに聞きました。

「 … つうか、辞めるの?」

「えっ?」

「さっき、辞められたら困るっておっしゃいましたよね?

あんた辞めるの? … 付き人辞めちゃうの?」


返事に困ってオドオドするアキ。

「そうですよ … だから、今日は労いの宴だったんです」

代わってひろ美が説明しました。

「辞めんの?!」

春子はカウンターからこちらの様子を見ている水口を問いただしました。

「ああ … ええ、元々太巻さんの紹介でいろいろ勉強させていただいてましたから」

「 … 太巻さんの所、クビになったら、こっちもお払い箱なんだ」


そう吐き捨てた春子にひろ美がまた無邪気に尋ねました。

「彼のことご存じ?」

「 … 知ってますとも」


目を剥いて答えた春子です。

… … … … …

春子にすべてぶちまけられては困る … そんな水口の視線を感じたのか、春子は少しトーンを落としました。

「有名人ですもんね … 本も読みましたよ。

『太いものには巻かれろ』とか『続・太いものには巻かれろ』とか『細いものには巻かれない』とか『巻かれて太くなれ』 … とかね。

… どれも自慢話でしたけどね」


大笑いするひろ美 … さっきから、手酌で相当飲んでいます。

「ビール頂戴!」

負けじと春子も注文しました。

「あ、俺が行く … 大将、悪いんだけど、今日貸切りで … 」

そう頭を下げた水口、梅頭が気を回してすでに手は打ってありました。

「 … こんなムードじゃ、握れねえよ」

「タクシー、呼んどこうか?」


いざという時のために万全を期する水口でした。

「 … っていうか、何なんすか、あのふたり?

何であんなにギスギスしてんすか?」


種市が不思議そうに言いました。

「それは … 神のみぞ知るだ」

… … … … …

「で、今日はどういったご用件で、はるばる東京まで?」

今更ですが、ひろ美は春子に尋ねました。

「昨夜、電話したんです … 虫の報せっていうか、何となく。

そしたら、この子泣いてたんです、もう帰りたいって言ったんです」

「帰ってらっしゃいって言わなかったんですか?

… 東京から2時間半なんでしょ?」

「帰ってきたら、後悔するって言いました」


意外だと言いたそうな顔のひろ美。

「私がそうだったんですよ … つまんない、本当につまんないことで、歌手の道をあきらめたんです。

それは、ある人に言われた、ここで話題にする気にもならない程、ささいなあるひとことがきっかけだったんですけど … 」


『ガッカリだなあ … 君にはプライドってものがないの?』

「その方のその言葉が私どうしても許せなかったんです」

『プライドなんて、あるに決まってるじゃない … なかったら、とっくにあきらめてます!

プライドあるから、このままじゃ終われないから、今日まであんたの言うこと聞いてきたんです …

バカにしないでよ!』

「 … ごめんなさいね、何のことかサッパリ分からないですよね?」

春子自身もはっきりと言えずにもどかしい思いでした。

「分かるわ」

それが癇に障ったのか、ひろ美をにらみつけた春子。

「誰に何を言われたか知らないけど、許せないことってあるわよ、誰にでも … ようするにあなたは、過去も傷を引きずってらっしゃるのね?

今も後悔してらっしゃるのね?」


勝手に納得しているひろ美に春子はひとこと返しました。

「 … ぜんぜん」

「あらっ?」

「1ミリも後悔なんかしてません … 」

「あらま、迷路だわ」

「あそこで見切りをつけたから、結婚してアキが産まれたんです。

… むしろあなたには感謝してます」


口が滑りました。

「あたしに?!」

… … … … …

わあ ~

突然大声を上げるアキ、窓からもう一度同じように叫びました。

わあ ~

呆気にとられる一同。

「 …な、何よ?」

「すいません … 何かもう極度の緊張で、叫ばずにはおられませんでした」


驚いているひろ美にはそう誤魔化しました。

「ああ、すっきりした」

ひろ美はアキの膝をピシャリと叩きました。

「それここではいいけど、現場でやったら一発で降ろされるわよ … ああ、ビックリした」

… … … … …

「 … 何の話してました?」

気を取り直したひろ美が尋ねました。

「電話したんですよね? 昨夜」

ビールを運んできたまま、傍に控えていた水口が話題を修正しました。

「ああ … そうそうそう、今あきらめたら後悔するって言いましたね」

「ご自身は後悔してないのに、娘は後悔するっていうの?」


ツッコミを入れるひろ美。

「娘がしなくても私がします」

「天野さんが?」


また話が迷路に? …

「はい、この子凄いんですよ … 少なくとも私とは全然違う。

ごめんなさいね、親バカで。

本人目の前にして言うのもあれだけど、この子凄いんです」

わあ ~ あ ~ あ


アキがまた同じような叫び声をあげました。

「えっ?」

「 … すいません、褒められ慣れてねえもんで」


… … … … …

「どんなふうに凄いの?」

ひろ美がわくわくした顔で尋ねました。

春子はまたマジ顔で話しはじめます。

「 … アイドルだったんですよ。

鈴鹿さんの前で言うのもヘンなんだけど、どんなに歌が上手くても、お芝居が上手でも、それだけじゃアイドルになれないでしょ?

何かこう … 私には分かんないんだけど、何かがある訳でしょ、ねえ大将?!」


いきなり振られて、驚いて握っていた寿司を飛ばした梅頭。

「その『何か』が何なのか … 私自身が知りたいんです。

アイドルって偶像だっけ、シンボルとかね … 

アキはアイドルだったの、小さい田舎のしょうもない町だけど、そこでは間違いなくアイドルだったんですよ、ねえ種市君?」


種市はしっかりとうなずきました。

「皆の期待を一身に背負って出てきたの … だから、皆私に声掛けるの今でも …

『アキちゃん、元気?』『どうしてる?』

… もうとっくにいないのによ。

それって、アイドルでしょ? … そこにいないのに皆に心にアキがいるってことでしょ?」


酒の勢いもあったのかも知れませんが … いやだから包み隠さずに、春子は夢中でアキのことを話して聞かせていました。

… 親バカと自嘲していましたが、何故か不思議と自慢話には聞こえません。

アキはそんな母を見るのは初めてでした。

自分のことをそんな風に思っていてくれていたことも …

ひろ美は目の前の母子のことを微笑ましく見つめて答えました。

「 … そうね」

「そうねって … 無理に分っていただかなくて、結構ですよ」


… … … … …

「確かにあなたの娘さんは、一緒にいて楽しいし、度胸もあるし … お顔だって、可愛いし」

ひろ美にまで褒められてアキは頭を抱えてしまいました。

「 … こんな感じだけど、アイドルの資質あるかもしれません」

春子は膝を正しました。

「でもね、お母さん … そんな子は5万といるんです。

原石なんかゴロゴロ転がってるの。

その中で磨いて光るのは … 」


ひろ美はテーブルをポンと叩いて言いました。

「たった1個なんです」

春子の前に指を1本突き出しました。

… … … … …

その時、入口の戸が開いて、貸切りのはずの店に誰かが入って来る音がしました。

ちらっと見たアキ、思わず立ち上がりました。

じぇじぇじぇじぇじぇじぇじぇっ!

入ってきたのは … 太巻でした。

「社長?! … えっ、何で?」

驚く水口。

「 … こっちのセリフだ。

何で … 」

「はじめまして」


座敷の入り口に腰を下ろしかけた太巻の言葉を遮って、春子は白々しく挨拶をしました。

春子に気づく太巻 … 驚愕の表情。

「天野アキの母です … 娘が大変お世話になりました」

お辞儀する春子に目が釘付けのまま立ち上がる太巻、例のポーズを取りました。

「私が呼んだの」

… ひろ美がいったい何のために?

春子の氷のような視線、見据える太巻。

… 20年ぶりの再会でした。


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2013年07月28日 (日) | 編集 |
さて、次週の「あまちゃん」は …

事務所を解雇されたアキ(能年玲奈)のもとに、春子(小泉今日子)が北三陸からやってきた。寿司屋での鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)と春子の対面に、秘密を知るアキや水口(松田龍平)はヒヤヒヤ。

私も辞めますから

そして、そこに太巻(古田新太)がやってくる。鈴鹿が、アキの解雇の理由を聞くため呼び出したのだった。ひろ美がアキを辞めさせるのなら自分も女優を引退すると宣言したため、アキの解雇は撤回される。

GMT5デビューシングル「地元へ帰ろう」

春子は正宗(尾美としのり)がいる自宅に戻り、アキはGMTに復帰、再び レッスンをスタートさせる。

解散のパターンで行こう

そして、太巻から「一万枚売れなかったら解散」と告げられる中、GMTのデビュー曲のレコーディングに臨む。なぜかレコーディングに立ち会った春子(小泉今日子)に何度もダメ出しをされ、悪戦苦闘。

ユイちゃんが海女さんやるって?!

なんとか収録を終えたアキが、夏(宮本信子)に電話をすると、なんとユイ(橋本愛)が海女になるという。

そんなの茶番よ、普通にやって普通に売れるもん作りなさいよ!

しかし、太巻はレコーディングの出来を気に入らず、勝手にアレンジして全く違う印象の曲に作り替えてしまう。それを知った春子は、怒り心頭で太巻のもとに怒鳴り込む。春子と太巻が対立した結果、アキは再び解雇されることに。

天野がいなかったら、GMTは売れません!

水口はアキの代わりは他にいないとかばうが、そのことが太巻の逆鱗に触れてしまう。

アキは合宿所を出て自宅に戻ったものの、することもなく、春子がかつて働いていた喫茶店でアルバイトをしている。そんな状況を見かねた春子は、あることを決断する。

ここさ来る前から、おらママの娘だ
あまちゃん 公式サイト他を参考)

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あまちゃんこぼれ話

春子とひろ美が初対面する無頼鮨の場面は15分近くあるシーンを、長回しで一気に撮影されたそうです。

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2013年07月27日 (土) | 編集 |
第102話

アキが事務所を解雇された夜、久しぶりに母・春子から電話がかかってきました。

「 … クビになっちゃった」

「えっ?」

「事務所、クビになっちゃったんだ、今日 … 太巻さんに嫌われて」

「どうして?」


『うちにいる限り俺が潰すから。

何度這い上がってきても、奈落に落とすから … ごめんね』

「もう帰りたい。

ねえママ、アキそっち帰りたいよ、もう帰っていい?

… いいよね?」


しかし、春子から返ってきた言葉は …

「だめよ」

< この時、母の脳裏にある古い記憶がよみがえりました … >


… … … … …

< 平成元年。

東京で夢破れた母は、故郷へ帰るため、タクシーで上野へ向かいました >


上野でタクシーを降りた春子は電話ボックスから実家 … 夏へ電話をかけたのです。

夏が受話器を取ると、名前は名乗らずに「あたし」とひとことだけ言いました。

「 … どちら様ですか?」

「春子ですけど」

「はあ、そうですか … どういったご用件で?」

久しぶりの娘に他人行儀に答えた夏でした。

「もうそろそろ帰ろうかなと思って」

「なすて?」

「まあ、こっちで5年頑張ったし、年号も平成になったし」

「なすて?」

「だから … 私も23だし、そっちで役場さでも勤めてお見合いでもしようかな、みたいな」

春子が何を言っても夏はただ「なすて」と聞き返すだけです。

「だから、ひとりじゃ寂しいかなと思って …

ねえ、帰っていいでしょ?」

… … … … …

「だめよ、だめ、まだだめよ、アキ」

帰りたいと言うアキに春子はそう言いました。

「頑張りなさい」

「なすて?」


てっきり「帰って来い」と言ってくれるものと思っていたアキでした。

「『なすて』って、分かんないけど、ここで帰ってきたら後悔する」

「おら、後悔なんてしねえ!」

「あんたがしなくても私がする!」

「ママ … 」

「だから反対したんだよ、反対したじゃんママ、甘くないよって!

… 自信あったんでしょ? 行けると思ったんでしょ?

だったら、中途半端なところであきらめたらダメじゃん!」


… … … … …

「帰っていいか」と聞いてきた春子を夏は突っ跳ねました。

「 … そんなのわかってるよ」

「いいや、わかってねえ … おめえさん、大騒ぎして、周りさ迷惑かけて出てったんだ … おらや海女クラブや漁協や観光協会や北鉄や皆の善意踏みにじって、つばはいて出てったんだぞ」

「あんたが突き放したからだべ?!」

… … … … …

「 … 今帰ってきたら、ママと一緒だよ、腫れ物扱いだよ。

雑に慰められて、陰で噂されて、ジロジロ見られて、それでいいの?」

「 … やんだ」

「消したい過去を引きずって生きるって、しんどいんだよ!

… あんたそれでもいいの?」


時に叱責しながら、春子はアキを諭しました。

「やんだ!」

「アイドルになるんじゃなかったの?」


思わず厳しい口調で言うと、アキは電話を切ってしまいました。

「 … もしもし、もしもし?」

… … … … …

「うるせえなあ」

居間の隣の部屋で寝ていた夏が、春子の声で起きてきました。

「 … 何時だと思ってんだ?」

「あ、ごめん」

「どうした、春子?」


夏は随分前から目を覚ましていて、襖越しに布団の上でそれとなく電話の話を聴いていたのです。

「 … いやいや、何でもない」

春子は何も語らず、居間を出て行ってしまいました。

そして、縁側に座って外を眺めています。

… 春子は、あの日の夏の言葉を思い出したのです。

… … … … …

「アイドルさなるっていうから、親子の縁切ったんだぞ。

娘でもねえ、アイドルでもねえ … おめえ、何処の誰だ?」

「 … もういい」

春子は電話ボックスの中、泣いていました。

「たかが5年で気が済むんなら、最初から行ぐな!

… 役場さ勤めて見合いだ? この恥知らず!

ひとりじゃ寂しいって? のぼせんな、バカこの! … おめえなんかとっくに親でもなければ子でもねえ!

町であっても知らんぷりだ!」

「もうたくさん!!」

ただ母が憎らしくて、くやしくて電話を叩き切った若き日の春子でした。

… … … … …

ああは言ったものの、あれからアキのことが気になって仕方がない春子、リアスにいても心ここに在らずです。

「 … 春子」

誰が声を掛けてもボンヤリとしたまま、大吉に呼ばれてようやく気がつきました。

「えっ?」

「何してるんだ?」

「 … コップ磨いてるのよ」


しかし、春子がコップのつもりで磨いていたものは、勉さんの琥珀でした。

「琥珀の春子さんですね?」

吉田の冗談にも笑えない春子、唐突にヒロシに尋ねました。

「お風呂ないって言ってたよね?」

アキの寮のことです。

「汗かくでしょ? だって、毎日レッスンとかしてるんでしょ?」

「銭湯は高いから、劇場のシャワー使ってるって言ってました」

「ねえ、ご飯は? … ちゃんと食べてるのかしら?」

「それは心配なさそうです。

近くに安部ちゃんもいるし、あと種市君も … 」

「種市?!」


種市の名前に反応したのは、磯野です。

「あいつ、南部もぐり辞めて、板前になってました」

「じぇじぇじぇっ!」

「アメ横の一等地にアメ女の劇場があるんですけど、その裏の寿司屋で修行してます。

あっ、鈴鹿ひろ美も常連だって」

「それなら安心だ、アキちゃんはおめでた弁護士の付き人だもんな」


何も知らずにそう言った大吉、春子は声を荒げました。

「クビになったのよ、事務所を!」

「じぇじぇじぇっ?!」

「昨夜、電話があってあの子泣いてたの … どうしよう?」


頭を抱える春子を見て大吉は言いました。

「心配ねえって春子」

「んだ、いざとなったら帰って来ればいいんだ」

「んだんだ、ユイちゃんとふたりで『潮騒のメモリーズ』復活だ!」


吉田と保が代わる代わる言いました。

そして弥生も …

「んだんだんだ、海女カフェでバイトして、夏は海さ潜って!」

「んだんだんだんだ … 土日はウニ丼売って××」


… … … … …

「ダメよそんなの!

あの子にそんなしみったれたことさせたくないの!

帰ってくる時には駅前には黒山のひとだかり、サイン会、握手会、コンサートは市民ホールで!

どーーーんって」


… それはかつて自分が抱いていた夢だったかもしれません …

腕を大きく広げた時、店にユイが入ってきました。

「何、どうしたの? 春子さん」

ユイの顔を見た時、春子はもういてもたってもいられなくなっていました。

「ああ、ちょうどよかった、私出るから代わりに入ってくれない?」

急にあたふたと説明する春子。

「これレジのカギね。売り上げはこの金庫に … で、2日に一遍は銀行に行って、これ通帳ね、これ印鑑」

よく訳が分からないまま、受け取るユイ。

「で、これから夏になってビールが増えるから少しずつ増やしてね、ビールの注文」

「ちょっと出るには伝達事項が多いなあ」


誰もが吉田と同じように思いました。

「あ、毎月第3火曜日はガスの点検ね … うん、以上かな?」

それだけ言い終わると、大吉に車で家まで送るよう頼みました。

… … … … …

「えれえこった ~ !!」

突然、海女カフェに大吉が走り込んできました。

「うるせえぞ、大吉! ランチ営業中だ!」

大吉は構わず、一般客が座っているテーブルを抜けて、厨房へ。

海女たちは流行のラテアートを製作中でした。

「泡でイルカの絵なんて描いてる場合じゃねえって … 春子が東京さ行ぐって!」

「じぇじぇじぇっ!」

「足りねえ、『じぇ』が全然足りねえ、3つじゃ足りねえ!」


立場も違うし、多少の温度差はあると、かつ枝が言いました。

「プロポーズの返事は?」

すかさず訪ねたのは美寿々です。

「今聞いたら、間違いなく … 」

胸の前に腕で×マークを作った大吉。

「情けねえ … こら、ついて来い!」

かつ枝は大吉の腕を取ると海女カフェを出て行きました。

… … … … …

天野家。

旅立つ支度を終えた春子は、仏壇の忠兵衛の写真に手を合わせました。

そして、茶の間にいる夏の前に座って頭を下げました。

「お世話になりました」

「お構いもしませんで」

「 … 本当にいいの、ひとりで寂しくないの?」

「おらが寂しいってか? … のぼせんな」


夏はあの時の電話と同じ返事をしました … 比べられない程穏やかな口調です …

「どいつもこいつも勝手なこと言って」

ひとりごとのようにつぶやいた後、春子に言いました。

「ひとりには慣れてる … 出たり入ったりするから、寂しくなるんだべ」

本音を少しだけ覗かせました。

「確かに … 思ったより、長居しちゃったしね」

「なすてまた、急に気が変わった?」


夏も昨晩の電話のことが気になっていました。

「 … 思い出したのよ、夏さんに言われたこと」

「はあ?」

「『娘でもアイドルにもなってねえのに帰ってくんな』って … 」


あの時はその言葉の意味を理解することができずに、母を憎んだ春子でしたが、今ならそれが自分に対するエールだったことがわかります。

「 … 言ったかなあ?」

とぼける夏。

「いろいろありがとうございました!」

春子は、精一杯明るくそう言いました。

「ああ、やかましい、聞きたくねえ聞きたくねえ … お昼にすっぺえ」

夏は席を立ちました。

… … … … …

「お~い、待て春子っ!」

それと入れ替わりに、かつ枝と美寿々に引きずられて大吉が玄関から入ってきました。

ふたりに押されて春子の前に立った大吉。

「ど、どうしても行ぐのか、春子?」

春子はうなずきました。

「ごめんね、大吉さん。

あたしさ、やっぱりアキのそばにいてあげたいの」


「もう帰りたい」と言ったアキのことを、夏のように突き放したことは間違っていたとは思いません。

しかし、このまま放っておいたらアキは自分の二の舞になる … 同じようなつらい思いをするかも知れない。

「あの子のこと応援してあげたいんだ … 自分が見れなかった景色、あの子に見せてあげたいんだ」

… … … … …

「行かせねえ!」

大吉は春子の前に立ちはだかって両手を広げました。

「ちょっとどいてよ、何言ってるのよ?!」

春子の眼中にもう大吉はいません。

「行かせねえ! おら、今日は列車出さねえぞ … 同じ過ち犯してたまるか!

絶対発車しねえ! 運休だあ!!」


そんなタンカを切ると座り込みました。

「ようし、よく言った!」

後ろで焚き付けるかつ枝と美寿々。

「そんな言われてもさ、私には … 」

大吉をよけて玄関に向かおうとする春子をかつ枝たちも止めました。

「待て待て待て、春子早まるな」

「夏ばっぱ、何とかしてけろ!」


しかし、さっきまでそこにいたはずの夏の姿がどこにも見当たりません。

無造作に脱ぎ捨てられた服、夏の絣半纏は無くなっていました。

「ああ、また海かあ ~ 」

… … … … …

事務所を解雇された報告を鈴鹿ひろ美にするために、アキは水口と共に無頼鮨を訪れていました。

「何なのよ、重大なペナルティって?」

「あ、いやそれは、ちょっと … 」


言葉を濁した水口、ひろ美には本当のことは言えません。

「事務所クビになったからって、付き人間で辞めなくてもいいのに」

付き人としてのアキはお気に入りのひろ美は、しきりに残念がっています。

「私も続けるよう説得したんですけど … 」

「辞めたいの?」


ひろ美に聞かれてアキはただ頭を下げました。

「すみません … お世話になりました」

… … … … …

その頃、上野に着いた春子は、ある場所を目指して歩いていました。

サングラスをかけスーツケースを引きずりながら、アメ横の町を進んで行きます。

… … … … …

「お待たせしました」

握りを盛った皿を種市が運んできました。

「もう最後だから、どんどん食べちゃって」

「はい、いただきます」


厨房に戻る時に種市がアキに尋ねました。

「 … 帰るのか?」

「うん、こっちさ残る理由もねえし」

「北三陸か … 休み取って行こうかしら?」


そんなことを口にしたひろ美にアキは言いました。

「いい所ですよ、海は綺麗で温泉もあるし」

… … … … …

「いらっしゃい! … じぇっ」

出迎えた客の顔を見て驚く種市。

入ってきたのは … 春子でした。

春子の目的地は、ここ無頼鮨だったのです。

… … … … …

「ホテルは取らなくていいです … おらの家さ泊まってください、海近いから」

水口は今入ってきた客のことが気にかかっていました。

自分の知っている人に似ているような気がするのですが …

「7月から9月は海女のシーズンで海さ入ってます」

アキは、ひろ美に地元の話を夢中でしています。

話を聞くうちにひろ美もだんだん本気になりかけて …

「ウニ1個500円ですけど、鈴鹿さんなら300円で … 」

… … … … …

「アキ … 」

名前を呼ばれて振り向くと、そこに腕を組んだ春子が立っていました。

アキは2度見をしてしまいました。

紛れもなく母・春子でした。

「じぇじぇじぇじぇじぇじぇっ!」

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2013年07月26日 (金) | 編集 |
第101話

突然、GMTのデビュー曲のレコーディング中止を告げられて、納得できないアキ。

皆が止めるのも聞かずに太巻に迫りました。

「中止ってどういうことですか?! … デビューできないんですか?」

母・春子が太巻から受けた仕打ちに重ねてしまうアキ … 無理もないことでした。

「母のせいですか? … 天野春子の娘だからですか、私が?」

1歩2歩にじり寄る太巻の口から出た言葉。

「 … そうだよ」

… … … … …

太巻は否定しませんでした。

「 … うちにいる限り、君はデビューできない」

そう言った後、太巻は社長室のドアを開けて、アキに言いました。

「入りなさい」

「えっ?」

「水口も … ふたりきりだとしんどい」


… … … … …

太巻に従って部屋に入るアキと水口。

その場に残された河島とGMTのメンバーは理由も分からずに戸惑うだけです。

「な何、アキのママがどうしたの?」

春子と会ったことがあるのは喜屋武だけです。

「スナックのママさ、でじ綺麗な人だったよ」

「もしかして昔、できとったんじゃなかと?!」


勝手に不謹慎な推測をした真奈のことを河島が制しました。

「おいおい、何を根拠に?!」

「ってことは、アキ隠し子?!」

「うわああ、きつか ~ 太巻がばいよお」


一同は、社長室の入り口に貼りついて中の様子を窺がいました。

ガラス張りなので動きは丸見えですが、完全防音を施されているので話し声は一切聞こえてきません

… … … … …

「どこまで聞いてるのか知らないが … 面倒くさいから全部話そう」

席に着いた太巻はふたりに向かって言いました。

「確かに君のお母さんと過去にいろいろあったのは事実だ」

「えっ?!」


思ってもみなかった事実を初めて聞いた水口は、探るような目で太巻のことを見ました。

「そ、そっちのいろいろじゃないよ」

水口に『いろいろ』の意味を誤解されないように太巻は慌てて念を押しました。

「水口もこの業界にいるんなら、聞いておいて損はない。

… 何を隠そう、鈴鹿ひろ美のデビュー曲を歌ったのは、彼女のお母さんだ。

『潮騒のメモリー』を歌ったのは、天野春子だ … このことは鈴鹿さんも知らない」


アキの眉のあたりがピクッと動きました。

てっきりひろ美は承知の上のことだと思っていたからです。

しかし、彼女自身が影武者のことを知らないのであれば、先日の言動も合点がいきました。

「いや、意味わかんない … えっ?!」

太巻の話がよく理解ができない水口は混乱しています。

「そのことを知っているのは、天野春子とそのレコーディングに携わったスタッフ、それから … 」

無言で自分、アキと水口のことを指差しました。

「… の3人だけだ。

絶対、口外するなよ」


怖い顔をしてくぎを刺した太巻。

「しゃべったら … 」

机の引き出しから鍵を取り出すと、後ろにある金庫を開けました。

それを見て、何を思ったか水口は壁際に吊るされているハンガーを手に取ります。

そして、金庫の中から何かを手にして振り向く太巻めがけて振り上げました。

… … … … …

「うわあ!」

社長室の外で見ているメンバーから悲鳴が上がりました。

「何だ、武田鉄矢か?!」

口走る河島 … わかる人が分かればいい(謎)

… … … … …

太巻が手にしていたものは1本のカセットテープでした。

「えっ?!」

勘違いに気づいて振り上げた手を下ろす水口。

「すいません、殺気がすごくて … 殺されるかと … 」

「 … バカか?」


太巻はそのカセットをテープレコーダーにセットして再生しました。

流れ出したのは、アキが聞きなれたあの曲のイントロです。

しかし …

てよ その火を び越えて いた アイ ミス ユー

歌い出した瞬間から、酷く外れた音程 … 春子の声ではありません。

「うわっ、何すかこれ?」

思わず声を上げる水口。

「これが鈴鹿ひろ美のオリジナルヴァージョンだ」

太巻は平然としたまま答えました。

「 … わざとか?」

アキがそう思ったのも無理ありません、ひろ美のように歌う方のが難しいという程の外れ方でした。

「すごいだろ?

… 今なら機械でどうとでもなるが、25年前だ … どうにもならなかった」


北へ帰る 誰にも会わずに に乗って 北へ向かう

水口の顔色がみるみるうちに悪くなってきました。

「 … いいや、すみません … 俺、こう見えて絶対音感あるんで、少し音程違うと …

わあ、ちょっと?!」


面白がった太巻がテープレコーダーを手に取って、水口に迫って来たのです。

「と、と、止めてください」

「わははははは … 」


さっきの仕返しでしょうか、それともただのいたずら心? … レコーダーを印籠のように掲げて水口を追い詰めます。

フラフラしながら逃げ回る水口。

… … … … …

その様子を見ているしおりや真奈たち、音が聞こえないので理由は分かりませんが … まるで十字架をつきつけられて苦しむドラキュラのような水口を心配していました。

「がばいよ、超がばいよ ~ 」

「 … それがばいの使い方おかしいだろ?」


そのうちに太巻がテープをストップさせたようで騒動は収まりました。

… … … … …

「 … という訳で彼女のお母さんに歌ってもらった。

結果は知ってのとおりだ、60万枚の大ヒット …

現在の俺があるのは、半分は天野春子のおかげだ」

「半分?」


アキは聞き返しました。

「半分は鈴鹿さんだ。

… わかるだろう? 鈴鹿ひろ美伝説に傷をつけることは俺にはできない … どんなに小さく古い傷でも」


半分と言いながら、太巻にとって大切なのはひろ美だということをアキは理解しました。

「しかし驚いたよ、娘を送り込んでくるとはな」

「ママは関係ねえ」

「 … 関係ねえ?」


それは、母の誇りに賭けて決して譲れないことでした。

… それに元々、アキを見つけたのは水口ですし、東京に出て来るように誘ったのは、太巻本人ではありませんか?

「んだ、おらママの命令でこの世界さ入った訳でねえ … 自分の意志で来た。

だから、おらとママは無関係だ!」

「じゃあ、よそに行ってもできるよね?

… うちじゃなくて、別の事務所でもできるよね?」


アキの前に立ちはだかった太巻。

「うちは無理だよ、うちにいる限り俺が潰すから。

何度這い上がってきても、奈落に落とすから … ごめんね」


太巻は無表情でそう告げました。

それは紛れもなくアキに対する解雇通告でした。

… … … … …

合宿所。

アキを除いたメンバーがリビングに集まっています。

「どうしても話してもらえないんですか?」

水口の口から何の理由の説明もなくただアキの解雇を知らされたしおりたち。

「すまない … 重大なペナルティとしか言えない」

「アキちゃんじゃのうして、原因はお母さんなんやろ?」


真奈の質問にも水口は答えることはしませんでした。

… … … … …

アキは自分のベッドの上に座って、お座敷列車の時に夏と春子と並んで写した写真を手にしていました。

… … … … …

「デビューは流れたけど、ここにいる4人でGMTは続ける … 新メンバーは随時補充する予定だ」

「納得いかない」


しおりの言葉には耳を貸さず、水口はリビングから出て行こうとします。

「納得できません!」

声を荒げて後を追うしおり。

「有馬さんが卒業で、アキがクビなのも訳分かんないし、理由も聞かしてもらえないなんて!」

苦しそうな表情の水口、彼も決して納得した上でのことではないのです。

「リーダー、こう言ってるけど?」

他のメンバーの意見も聞きました。

「アキが辞めるなら、うちも辞めたい」

真剣な顔でそう言ったのは喜屋武でした。

… … … … …

スナック梨明日。

ヒロシが東京からの土産を配っています。

「アキが?」

「はい、ウニ丼食って泣いてました」


ヒロシからそんな報告を受けた春子はアキのことが心配になりました。

「無理もねえ、夏ばっぱのウニ丼のふっくら感は日本一だじゃ」

「 … 安部ちゃんの全然ふっくらしてないウニ丼ですよ」

「だとすると、ホームシックかもな? … 最後にしゃべったのはいつ?」


大吉に尋ねられて、春子は随分しゃべっていないことに改めて気がつきました。

「ユイちゃんは?」

「そう言えば、最近メール打っても返って来ないです」


何かあったのか? … 春子の不安は募りました。

「ちょちょ、ちょっと詳しく聞かして」

ヒロシは寮のことを話しました。

「それが、女子寮とは名ばかりのなんか古い木造のアパートで、風呂もねえ、トイレは共同で … 」

「じぇじぇ」

「四畳半一間の部屋さ2段ベッド置いて、3人で寝てました」


そんなことアキからはひとことも聞いていませんでした。

… … … … …

アキはまたベッドの上で眠れない夜を過ごしていました。

『おら、ママみてえな歌手になりでえ! … ちゃんとひとりさ届く歌っこ歌ったママみでえな歌手になりでえんだ!』

新たな目標ができたと母に語ったこと。

『自分の果たせなかった夢を、娘に叶えて欲しいのよ、お母さん』

『春ちゃん、娘に夢を託したんだな』

自分には母のかなえられなかった夢が託されていると知ったこと。

母の歌う『潮騒のメモリー』を聞いた日、初めてアイドルになりたいと思ったこと …

それが今、あっけなく潰えようとしているのです。

… … … … …

アキは1階に下りて、水口の部屋の戸を叩きました。

「 … 眠れません」

中からは反応がありません。

「水口さん、ねえ水口さん、おらやっぱり辞めたくねえです … もっと皆といたいです。

踊ったり、歌ったりしてえです … アイドルさ、なりてえです!

水口さん、水口さん!」


… 返事は返ってきませんでした。

「 … 腹減った」

そう言えば、合宿所に帰ってきて、何も食べずに部屋にこもってしまったのでした。

あきらめたアキは台所へ行き、冷蔵庫を開けました。

しかし、これといったものが入っていません。

ふと気配を感じて、リビングの方を見たアキ … 息が止まるほど驚きました。

その少女は、いつか写真で見たことがある、若い頃の春子でした。

春子はソファーに腰かけてアキのことを見つめています。

「こんばんは … 天野春子です」

「 … 知ってます」


余りにも驚きすぎたのか「じぇ」も出ません。

目を見開いているアキに春子は微笑みかけました。

脱兎のごとく台所を飛び出したアキは、水口の部屋の戸をさっきよりも強く叩き続けました。

「水口さん、水口さん!」

「お化けじゃないよ、私 … 死んでないし、生きてるし」


春子は廊下に出てきてそう言いました。

「駅前でスナックやってるし、時給1,000円で」

「そうか … そうですよね?」


恐る恐る春子に近づいてみるアキ。

「 … 何か飲みますか? 水口さんの缶ビールが」

「ごめんなさいね」


急に謝り出した春子。

「デビュー、決まってたんでしょ?

せっかくいいところまで来てたのに、あたしのせいで … 」

「いえいえ、そんな … 気にしねえでください」

「私のせいで、太巻にイジワルされてるの、かわいそう!

… あいつ小っちゃいよね器が、全然太くないの、細巻?

ははは、細巻!」


見かけは18歳なのに、今の春子みたいなことを言って自分で受けています。

「 … めんこいな」

若い春子を見ていたら、思わずそんな言葉がアキの口から出ていました。

「目がパッチリしてて、髪の毛くるんくるんで、親子とは思えねえ。

… おら、パパに似ちゃったのかな?」

「 … ブスだもんね」


若春子はアキの顔をまじまじと見て、容赦なく言いました。

「えっ?」

「奈落だもんね、繰り上げ当選のブスだもんね」

「ブスとか言うな!

… 親子だからって、いや親子だからこそ!!」


… … … … …

「お詫びに歌います!」

突然マイクを持って立ち上がる春子。

「じぇじぇじぇっ、マイペースだな」

大人春子そのままです。

何処からか流れ出す『潮騒のメモリー』のイントロ。

「春子さん、せっかくだけど、ここ住宅街だし、夜も遅いし … 」

歌うのを止めさせようとするアキ。

その時、水口の部屋の戸が開いたかと思ったら、中から出てきたのは、静御前に扮した鈴鹿ひろ美でした。

「とうとう、見つけたわよ!」

飛び出してきて、アキを突き飛ばすと、春子に向かって言いました。

「止めて、歌わないで!」

ひろ美はマイクを奪おうとしますが、春子は取られないように高く掲げました。

「鈴鹿さん、ダメ!」

アキはひろ美に抱きついて押さえました。

「私の歌、私の『潮騒のメモリー』を!」

ひろ美はアキを振りほどいて春子に飛び掛かりました。

瞬間、春子の姿は消えて、食堂の前に現れました。

マイクを持って高笑いする春子。

「逃がすもんか、返して!」

ふたりの追いかけっこが始まってしまいました。

素早く逃げ回る春子のことをひろ美は捕まえることができません。

「ちょっと、手伝いなさいよ … 天野さ~ん!」

… … … … …

「止めて、ふたりとも止めて!」

跳ね起きるアキ。

分かってはいたことですが … 夢でした。

ホッとため息をついた時、携帯が着信を知らせました。

… 春子からでした。

… … … … …

「あ、もしもしアキ … もう寝てた?」

ヒロシの話を聞いてアキが気になった春子は、帰宅した後に遅いことは分かっていながら電話をかけてきたのでした。

「いや、別に用はないんだけどさ、そろそろママの声が聞きたいかなあっと思って … 」

電話の向こうから何かすすり泣くような声がすることに気づきました。

「やだ、何あんた泣いてるの?」

… … … … …

「おっ、おっ、おっ、おっ … 」

泣いた後の子供のようにひきつけ気味に声をあげながら階段を下りてくるアキ。

「何よ? … あんた、オットセイなの?」

「おっかねえ夢見た … 途中まではママの、若え頃のママとしゃべっていい感じだったのに。

静御前があ!」


春子は、わが娘の精神状態が心配になってしまいました。

「大丈夫? … あんた疲れてるんじゃないの?」

「 … クビになっちゃった」

「えっ?」

「事務所、クビになっちゃったんだ、今日 … 太巻さんに嫌われて」

「どうして?」


何故、アキが太巻に嫌われなければいけないのか、春子には分かりませんでした。

「分がんねえ … 」

「分かんねえって何よアキ、何か理由あるはずよ!」

「おらよりママの方が分かるはずだ!」


問い詰められて、反対に母に当たってしまいました。

「 … ごめん、おらさっぱり分がんねえ、一生懸命やってんのに … もう帰りたい。

ねえママ、アキそっち帰りたいよ、もう帰っていい?

… いいよね?」


アキが東京に来てから、初めてはいた弱音 …

優しい返事を期待したアキ。

しかし、母から返ってきたのは意外な言葉でした。

「だめよ」

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2013年07月25日 (木) | 編集 |
第100話

太巻と鈴鹿ひろ美が昔つきあっていた … そのせいでデビューできなかった春子。

春子はアイドルの道をあきらめ、正宗と結婚して生まれた自分が今、ひろ美の付き人をしている …

結局は、ひろ美の言うように『運』なのか?

母には『運』がなかったということなのか?

… 果たしてこれでいいのか?

アキは何もかもが分からなくっていました …

… … … … …

< おらたちGMTは、岩手物産展の手伝いをしました >

アキたちは、お揃いの絣半纏を着て、北の海女の鉢巻を締め、上野のデパート前広場でチラシを配ったり、呼び込みをしました。

< 新曲は間に合いませんでした … だけど、楽しかった、懐かしい感じがした。

絣半纏のせいでしょうか、海女クラブさ入った日のことを思い出していました … >


… … … … …

< 物産展の合間にストーブさんとおらは原宿さ行きました >

地図を頼りにふたりが探し当てた場所は … かつて、若き日の春子がアルバイトをしていた純喫茶アイドルです。

20年経った今も営業を続けていました。

「やってる?」

入り口から店の中を覗きました。

灯りはついていますが人影は見えません。

「 … どうだべえ?」

アキはドアを開けました。

「ごめんください」

店に入ると、奥から年老いた店主が出迎えてくれました。

「お好きな席へどうぞ」

席について店内を見渡したアキ。

建物は新しくはなさそうですが、センスが良く、趣がある雰囲気の店です。

店主が立っているカウンターの壁にアイドルのCDが飾ってあって、アメ女の隣に『潮騒のメモリー』のジャケットも並んでいました。

アキは注文を取りに来た店主に思い切って話しかけました。

「 … あの、私以前ここでバイトしていた天野春子の娘です」

驚いた顔をする店主 … しかし、それは見当たらなかったテレビのリモコンを見つけたからです。

アキの話はスルーされてしまいました。

「覚えてないのかな? … 店の名前はあってるんだけど」

ヒロシがメニューで確認しましたが、間違いなく『純喫茶アイドル』と書いてありました。

… … … … …

とりあえず、ひと息ついたふたり。

「会えてよかった … 正月はゆっくり話せなかったもんね」

今回の帰省はいろいろあって慌ただしかったし、考えてみたらヒロシとアキが、ふたりきりでこうやって落ち着いて話すこと自体ほぼ初めてと言っていいくらいのことです。

「ああ … ユイちゃんは変わりないですか?」

「変わりないって言うか … 変わってから変わりないよ」


よしえからの連絡はいまだないそうです。

「 … そのうち帰ってくるんじゃないかな、待つしかないよ。

ユイも親父も俺も、だからその件は話さないんだ … 暗黙の了解で」


東京でよしえを見かけたことはアキ以外は小百合しか知らない秘密でした。

「アキちゃんは、東京来てもちっとも変わらないね」

「 … そうかな?」

「うん、あの寮の雰囲気なんて、昔の漁協みたいだよ」

「んだべ、そう思うべ?」


アキも同じようなことを感じていたのです。

「皆が勝手にしゃべって、勝手に笑って … 海女クラブみたいで面白いんだ。

水口さんは勉さんみたいだし、安部ちゃんもいつの間にか入り浸って、毎日のようにご飯作ってくれるし」

「アキちゃんがいるからだよ」

「えっ?」

「アキちゃんがいる場所は他の場所と違って、ちょっと温度が高くて明るいんだよ … アキちゃんのおかげだよ」


そんなこと人から言われたのは初めてのことでした。

「おいおい、よせやい、まるで人をストーブみてえに!」

照れるアキ。

「本当だって!

… 場所じゃなくて、人なんだよ、結局」

「場所じゃなくて、人か … いいごと言うな」


感心しているアキにヒロシは種明かししました。

「前に春子さんに言われたんだけどね … 」

『 … 田舎が嫌で飛び出した奴って、東京行ってもダメよね?

逆にさ、田舎が好きな人って言うのは、東京に行ったら行ったで、案外うまくやってけるのよ、きっと …

結局、場所じゃなくて、人なんじゃないかなって思う … 最近』

「確かに場所じゃねえ、自分をしっかり持ってれば、何処さ行っても大丈夫なんだ。

… 奈落だろうが、アメ女だろうが」


… … … … …

「アメ女?!」

カウンターの奥にいた店主がアキの「アメ女」という言葉に反応しました。

「お嬢ちゃん、アメ横女学園のメンバーなの?」

「あ、いや、アメ女じゃなくて、その妹分の××」

「GMT!!」

「じぇじぇっ?! 知ってんの?」

「熱いよね今、GMT! 有馬めぐがいるでしょ、あと小野寺ちゃん、彼女熱いよね、訛ってて … ブログも訛ってるよね?」


それまで物静かな老紳士といった風情でしたが、いきなりテンションが高くなっています。

「ヤケに詳しいですね?」

意外に感じたヒロシが尋ねると店主はドヤ顔で答えました。

「そりゃそうだよ、アイドルオタク歴40年だよ」

そう言いながら、ふと思い出したように、考え込む店主。

「じぇじぇ? … 何か聞いたことあるぞ、すっごい昔に」

「 … たぶん母です。

昔ここでバイトしてたことが××」

「まあいいや … 」


店主はまたもアキの話はスルー、考え込むことも止めて話題を変えてしまいました。

「太巻っているじゃん?

あのプロデューサーの荒巻太一、あいつね若い頃よくここに来てたんだよ」


少し面白くないアキは、素っ気なく言いました。

「知ってます」

「えっ?」

「天野春子の娘なんで、あたし!」

「じぇじぇっ!」


ようやく通じたみたいです。

「何、春ちゃんの娘なの? おいおいおい、早く言ってよ ~ 」

「言いました、3回言いました」


驚いた顔の店主。

「 … あ、そう?」

「そこはじぇじぇでしょ?」


ヒロシのツッコミにうなずきながら店主 … 甲斐は懐かしそうに話しました。

「そうそうそう、春ちゃん、普段は訛ってないのに、ビックリした時だけ『じぇじぇ』って言ってたんだよ」 

甲斐は春子の面影を重ねているのか … アキの顔を見ながら言いました。

「そうかい、GMTなんだ … 春ちゃん、娘に夢を託したんだな、そっか、そっか … 」

『自分の果たせなかった夢を、娘にかなえてほしいのよ、お母さん … がんばんなきゃねえ』

アキはひろ美にも同じようなことを言われたのを思い出していました。

… … … … …

アイドルを後にしたふたり。

< そして、ストーブさんは北三陸へ帰って行きました >

「じゃあ、ここでいいよ、わかるから」


上野駅前まで見送りに来たアキにヒロシはそう言ったあと、右手を差し出しました。

握手するアキ、その上からもう片方の手を合わせて、両手で握り返したヒロシ。

何かを念じるように目を閉じて頭を下げました。

一瞬戸惑いの表情を見せたアキですがそれは微笑みに変わって … 顔を上げたヒロシと笑顔を交わしました。

「じゃあ」

「じゃあな」


自転車を曳いて歩き出したアキの背中に向かって、ヒロシが声をあげました。

「皆、応援してるから」

振り向くアキ。

「 … しんどくなったら、帰って来いよ。

大吉さんが春子さんを待っていたように、俺もアキちゃん待ってるから」


うなずいたアキ。

「元気でな!」

そう言うと、今度はヒロシが駅に向かって歩き出しました。

その姿を目で追うアキ … 

「ストーブさんっ!」

怒鳴るような声で呼び止めました。

何も知らず手を振るヒロシにアキは続けました。

「おら、お母さんに会ったど!」

「えっ? … 」


ヒロシの顔色が変わりました。

「ストーブさんのお母さんとあったど、東京で … 男の人と一緒だった」

立ち尽くすヒロシ。

「ごめんな、黙ってて … ユイちゃん、傷つけたくなかったんだ。

だけど、もう限界だ。

ごめん、本当ごめん … でも、たぶん帰って来ねえぞ 」


ヒロシにしてみればショックだったことでしょう … しかし、気を取り直してアキに言いました。
 
「ありがとう … 聞かなかったことにするわ」

笑顔を作って、また駅へと歩き出しました。

… … … … …

< デビュー曲のデモが届きました … >

わくわくしながら、奈落に集まったメンバー、太巻本人が歌うデモテープを水口が聴かせました。

♪地元に帰ろう 地元で会おう

あなたの故郷 私の地元

地元 地元 地元に帰ろう …

「水口!」

曲の途中でしたが、河島に手招きされたので、水口は後について行きました。

< 最終的にミディアムテンポのとても素敵な曲になりましたが … おらがデビューすることはありませんでした … >

… … … … …

「有馬が抜かれた、いきなり事前の連絡もなく記事が出た!」

奈落から出てきた水口に河島はめぐの記事が載った写真誌のページを開いて見せました。

『元アメ女のセンター 有馬めぐ 「熱愛 ♥ お泊り愛の現場」ついに撮った!』

「太巻さんが呼んでいる」

… … … … …

太巻は開口一番言いました。

「レコーディングは中止だな … 河島、奈落へ行って伝えて来い!」

社長室を出ていく河島。

「中止にしなくてもよくないですか?」

珍しく水口が太巻に意見しました。

「もう3回目だぞ、かばいきれないよ」

「いや、そうじゃなくて、有馬がGMT脱退すれば済む話じゃないですか?!」

「有馬は卒業という形にする、ブログに謝罪文を載せて、劇場でファンに謝罪させる」


太巻の口から出るのは有馬めぐのことだけでした。

「じゃあ、奈落の子たちは? とばっちりでチャンス潰されて … また、また奈落でレッスンですか?」

「マメりんのいないGMTに商品価値はない」

「売る努力してないじゃないですか?!」


水口らしくない強い口調で手に持っていた雑誌を机に叩きつけました。

ムッとして振り向いた太巻。

「お前何言ってるの?」

「 … すみません」


無礼を詫びる水口。

「俺が今回の件で傷ついてないとでも思ってるの?

作詞して、作曲して、PVのプラン考えて、それ全部捨ててるんだよ!

ソロデビューのことなんて、とっくに考えてるよ、けどそれじゃつまらないからGMTと抱き合わせにしたんだろうがっ?!」


次第に激昂してくる太巻。

「全部、『運』なんだよ!

センター候補が奈落に落ちてきて、デビューが決まったのも『運』、それが流れたのも『運』なんだよ!」


不満そうな表情をした水口ですが、太巻に言葉を返すことができませんでした。

社長室を出ていく太巻。

… … … … …

しかし、その太巻に盾つく者が現れました。

「ちょちょちょ、待て天野!」

河島が止めるのも聞かずにすごい勢いで奈落から駆け上がってきたのはアキです。

「中止ってどういうことですか?!」

ちょうど社長室から出てきた太巻に向かって問いただそうとしました。

河島の後からメンバーも追いかけて来ました。

太巻は軽く振り向いただけで、請け合わずにそのまま行こうとします。

それでもアキは止めません。

「デビューできないんですか?」

「アキちゃん待って、今おれが話してるから」


止める水口を振り払いました。

その姿は、観光協会に押しかけた夏、あるいは漁協に乗り込んで行った忠兵衛を彷彿させました。

アキはやはりふたりの孫です。

「なしてですか、おらたち何も悪くねえのに?!」

「連帯責任だ!

… 良い悪いじゃない、GMTは実力も知名度も足りない!

有馬がいなければ勝ち目がない、だから会社は金を出さない、それが現実だ … 以上」


事務的にそう言うと踵を返し歩き出そうとします … まるでアキから逃げるように。

「やってみなけりゃ、分かんねえべ?!」

スタッフ、タレント含めて、この会社に太巻に逆らいこんな口の利き方をする者はひとりもいないハズでした。

太巻の足が止まりました。

「やりもしねえで売れねえって、何で決めつける?」

「 … 今じゃないってことだよ、タイミングが」


河島がとりなそうとしました。

「そうやって先延ばしにして、おらがママみたいにあきらめるのを待ってるんですか?」

ゆっくりと振り返った太巻、アキをにらみつけました。

「ああっ?」

… … … … …

「 … ようするに今じゃないんだ。

今いくら売り出しても、うちの事務所に圧力を掛けられる、潰される、君はデビューできない」

「もう、じゃあいつですか?」

「必ず … 僕に任せて」

… … … … …

負けじとにらみかえすアキ。

「母のせいですか? … 天野春子の娘だからですか、私が?」

『天野春子の娘』

これが何を意味するのか、この場にいる誰にもわかりませんでした … アキと太巻を除いて。

1歩2歩にじり寄る太巻の口から出た言葉。

「 … そうだよ」

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2013年07月24日 (水) | 編集 |
第99話

慌てて帰ってきた水口からの重大発表、それは …

「太巻さんが、GMTのデビュー曲作ってる!」

じぇじぇじぇじぇ、じぇっ!


… … … … …

地下のゴミ箱から太巻が詩を推敲したらしき紙切れを見つけた水口。

『地元に帰ろう 地元で会おう あなたの故郷 私の地元 地元地元地元 … 』

GMTの曲に違いない!

水口の話をチーフマネージャーの河島はまともに相手にしませんでしたが … すでに奈落ではダンスをしながら曲の構想を練る太巻の姿がありました。

「地元へ帰ろう … 地元で会おう … YAHHH!」

奈落に下りてきた水口は、その様子を圧倒されながら見ていました。

「すげえ、バラードじゃないんだ … 」

詞のイメージからてっきりバラードかと思っていた水口でした。

「 … デスメタルでサビ、テクノ」

ダンスを止めて、振り向いた太巻が言いました。

水口がいることに気づいていたようです。

「あ、すみません … 」

「 … バラードの方がよかったかな?」

「いや、全然 … あいつらのこと気にかけてくれて、ありがとうございます」


水口は頭を下げました。

しかし、太巻の口から出た言葉は、そんな甘いものではありませんでした。

「勘違いしないで、GMTのためじゃないから … これ、マメりんの曲」

「 … えっ?」


トレーニングウエアに着替えためぐが奈落に入ってきました。

「有馬めぐが奈落に落ちたことを逆手に取って、商売しなきゃプロデューサー失格でしょ?」

そう言い切ると、めぐにダンスを指導し始めました。

… … … … …

「 … やっぱり、マメりんだ」

水口から事の次第を聞いたしおりが言いました。

「あたしの読み当たったよ」

「マメりんのバックか … 」

「いきなりデビューとか、無視のよすぎるもんね」


ぬか喜び … デビュー曲の話を聞いた時のテンションが下がってしまったメンバーたちに水口は檄を飛ばします。

「何だよ何だよ、ようやく奈落に光がさしたんだぞ。

GMTの知名度を上げるには願ってもないチャンスでしょ?」


水口の言う通りでした。

これをチャンスと考えればいいのです。

「だってCDでるんですもんね」

自分自身にも言い聞かせるような、しおり。

「これから掛け持ちのメンバー忙しくなるぞ」

「立ち位置とかもう決まってんのすか?」

「まだでしょ、詞も曲もまだ全然だから」


薫子に聞かれて、水口が答えました。

「じぇえ?!」

「太巻さんは振り先やけんね … 踊ってるうちに曲が降りてくるとよ」

「ええっ? 気持ち悪い」


真奈に説明を聞いた小百合が信じられないといった顔をしました。

「ついでに有馬は事務所の借りてるマンションに移るらしいから、天野、2階使っていいぞ」

『今日から2階使っていいよ、当分彼んち泊まるから … 』

「 … ダマされた」

< あんなこと言って、仲間を油断させて、実は奈落で居残りなんて … やっぱ、すげえ世界だぞ、ここは! >


… … … … …

次の日から、奈落では、デビュー曲へ向けてのレッスンが始まりました。

「天野、ボサっとすんな!」

振りが皆から遅れたアキへ太巻の罵声が飛びます。

「はい、すみません!」

「じゃあ、天野のためにもう1回頭から」

< デビューが内定してから、太巻さんは頻繁に奈落にやって来ました >

「だあああっ!」


いきなり大声を上げてダンスを止める太巻。

「君たちの汗とエネルギーと息遣いにインスパイヤされるわけだからね!

インスパイヤ待ちだよ!」

「はいっ!」

< 曲も詞もない状態で、おらたちは踊り続けました … >

「止めよう … 違うな。

止めよう、忘れて … 何もかも忘れて、消去して!」

「じぇええっ?」


せっかくここまで覚えたものを無に戻すのです。

アキは思わず不満の声を上げてしまいましたが、他にそんな者はいませんでした。

「何となくでいいから皆ついて来てくれるかな?」

太巻は思いつくがままにダンスを再開しました。

< 覚えたり忘れたりするうちに、おらとしおりちゃん、真奈ちゃん、喜屋武ちゃんは高校を卒業してしまいました >

… … … … …

厳しいレッスンを終えて、シアターの出口に向かうGMTメンバー。

「アキちゃん、今日も鈴鹿さんの相手ねえ?」

真奈に聞かれてアキはうなずきました。

「大女優なのに、私生活寂しいんだな」

「適当に切り上げてくさ、帰って来んね」


真奈としおりはそう言いましたが、これも付き人の仕事だし、アキも決して嫌々ひろ美の相手をしている訳ではありませんでした。

「ああ、来た来た」

シアターから出たアキを思いがけない人が待っていました。

「アキちゃん!」

「じぇじぇ、ストーブさん、なして?!」


出口前に停めた安部そばの屋台、その前にヒロシが立っていたのです。

「前に話した物産展の担当になったんだと」

屋台の奥から小百合が顔を出して言いました。

「えっ、岩手県の? 大出世だ!」

アキは、しおりと真奈にヒロシのことを紹介しました。

「足立ヒロシさん、ユイちゃんのお兄さん … 何でストーブさんがっていう説明は面倒くせえからしねえ」

「 … ミドルネームだ

足立・ストーブ・ヒロシです」


笑い飛ばすしおり、真奈に耳打ちしました。

「何か残念なんだけど?」

「黙ってたら、カッコよかとに … 」


… 見事にスベったようです。

「それでさ、今からウニ丼の試作作るんだけど … 寮のガスコンロ貸してほしいなと思って」

「それってうちらも食べれる?」

「もちろん、感想も聞かせて!」


小百合の申し出に歓声が上がりました。

… … … … …

屋台の片づけを手伝う一同。

向かいの無頼鮨から種市が出てきたのを見て驚くヒロシ。

「あっ?」

「あっ、種市君 … 何してるの?」

「自分、転職してここで板前の見習いを」

「 … 聞いてないけど」

「 … 言ってねえがら」


シアターの目と鼻の先にある寿司やで見習い …

「近いなあ … えっ、南部もぐりは?」

シアターと無頼鮨の間を行ったり来たりするヒロシ。

「どういうこと? これ近っ! ねえ近すぎるでしょ?!」

種市はヒロシの疑問には答えずにアキにひろ美からの伝言を伝えました。

「 … 天野、鈴鹿さんが様子見て来いって」

「じゃあ、先に寮さ行ってて、すぐ帰るから!」


アキは皆を残して、店内のひろ美の元に急ぎました。

「 … 近すぎますよね?」

… … … … …

「お待たせしました」

アキが座敷に上がると、ひろ美はひとりで嗜んでいました。

「ごめんね、故郷から若い衆が出て来てるのに」

「いえいえ、しばらくいるみてえだから」

「そっか、天野さんも隅に置けないわね … 三角関係じゃない、ねえ種市君?」


種市は、ひきつったような笑い顔で誤魔化しました … それが大将の梅頭が困った時にする笑顔と似ていたので、ひろ美は声をあげます。

「やっだあ、大将の真似して … 」

「種市先輩には、随分前にフラれましたから」


アキは小声でひろ美に話しました。

「でも、好きなんでしょ?」

そう言いながら、ひろ美は水割りを作るようにグラスを差し出しました。

「でも、おらたちGMTは恋愛御法度ですから」

「バレなきゃ平気よ、皆やってるわよ。

… お盛んよ、もう合コン三昧。

合コンのために仕事しているようなもんよ!」

「じぇじぇえっ」


減滅するアキ。

「バレてもね、しらばっくれてればいいの … 男性がいるとは知りませんでした、とか。

ははははは、ちゃんちゃら可笑しいそんな言い訳。

… でも通用するのよ、それが芸能界なの」


アキが作った水割りを奪い取るように受け取るひろ美。

「ちょっと飲み過ぎじゃねえですか?」

… … … … …

「太巻さんが恋愛御法度にこだわる理由、教えてあげようか?」

含み笑いしながらひろ美が言いました。

「えっ?」

「あたしのせいなのよね、実は … 」

「ちょ、ちょっと待ってけろ!」


アキは慌てて窓や襖を締め始めました。

「その話、おらが聞いても … 」

「私たち、昔つきあってたの」

「うわあ、聞いちゃったあ ~ じぇじぇじぇじぇっ!」


耳を押さえて大声を上げるアキ。

「 … もう遅い、どうすべ?」

「大丈夫よ、割と有名な話だから … ねえ、大将?」


しかし、さっきから梅頭は腕を組んでカウンターの上を見上げたまま微動だに動きません。

その視線の先は … プロ野球中継でした。

「大将、大将!」

種市に肩を揺すられてようやく、ひろ美の冷たい視線に気がつきました。

小林薫を意識したらしい、あの笑顔で返しました。

アキはカウンターからも見えないように御簾を下ろしました。

… … … … …

「デビューも間もない頃、まだ大きな事務所にいた頃ね … 彼、下っ端のマネージャーだったんだけど。

ほら、『潮騒のメモリー』が大ヒットして、あっという間にチーフに昇格して … その頃、あたしの方から交際を申し込んだんです」


うれしそうに、話したくてしょうがないと言った感じで続けるひろ美でした。

「 … 断れないよね、事務所も公認だったのよ、ヘンな虫がつくよりマシだって。

当時、私は歌なんかサッサと辞めて女優に転向したくて … 元々彼は音楽畑だったんだけど、私が独立したいって言ったの。

随分迷ったみたいよ彼、ずっと目を掛けていたアイドル志望の子がいたみたいだし」


もしかして、それは … ??

「ちょっと待ってけろ、それいつの話? … 思い出してけろ、なるべく正確に」

「 … 」


ひろ美の頭に『平成』と書かれた額を掲げる小渕官房長官(当時)の姿が浮かびました。

「平成元年だわ」

< ママだ、間違いねえ … >

「 … でも、その子は結局、デビューはできなかったみたい」


… … … … …

「 … もうちょっと、やってみないか?」

「だったら、お願いがあります」

「何、何?」

「 … 『潮騒のメモリー』を歌わせてください。

私のデビュー曲です … もう一度、あの歌を歌わせてください、今度は自分の名前で」

… … … … …

「厚かましい女よねえ、そんなの私が許可するわけない!

聞くまでもないって、彼よく分かってたわ」

< 違う、ママには歌う権利があったんです … >


アキは喉まで出かかっている言葉を飲み込みました。

「だから、私に代わって太巻がNOを出した訳」

… … … … …

「君にはプライドってものがないの?」

「プライドなんて、あるに決まってるじゃない … なかったら、とっくにあきらめてます!

プライドあるから、このままじゃ終われないから、今日まであんたの言うこと聞いてきたんです …

バカにしないでよ!」

… … … … …

「はあ … 結局は、『運』よねえ」

ひろ美はため息をついて言いました。

「『運』がなかったのよ、その子は … 」

< 違う … >

「でも彼、ずっと気にしてるの、今も … 恋愛なんて、個人的な感情に流されて、有望なアイドルの卵をひとつ潰しちゃったって …

そういう自戒の念を込めて、恋愛御法度なんじゃない?」


最後に憶測だと付け加えました。

… … … … …

黙り込み伏目がちなアキを見てひろ美は謝りました。

「ごめんね、聞きたくもないのに無理やり … 」

「いえ、聞けてよかったです」


決して、ウソではありませんでしたが …

「『運』か … 『運』ですよね … 」

… やるせない思いに苛まれるアキでした。

… … … … …

合宿所。

「できたよ ~ 」

小百合の作ったウニ丼の試作をヒロシがリビングに運んできました。

待ち構えたメンバーがテーブルを囲みました … 何故だか、全員海女の衣装に着替えています。

「いただきま~す!」

ウニ丼をかっ込む一同。

「うん、で~じ美味しい、夏ばっぱのとほとんど一緒!」

夏のウニ丼も食べたことがある喜屋武が絶賛しました。

皆も満足そうに箸を進めています。

「いや … ウニのふっくら感が足りねえ」

しかし、小百合自身はまだ出来に満足していませんでした。

「こんなもんだと思うけどな … こんなもんでしょ?」

北三陸に潜入していた頃にやはり夏のウニ丼を食べたことがある水口が言いました。

しかし、その言葉を聞いた小百合が激高しました。

「こんなもんなんて言うな! 夏ばっぱのふっくら感を舐めるんでねえ!」

「まあまあ、本物は実際に北三陸で食べてくださいってことで … 」


ヒロシがなだめましたが、くやしそうな小百合、納得がいかないようです。

「いくらで売るとですか?」

「こんなウニ丼じゃ、500円も取れねえ」


人にやさしく自分に厳しい小百合でした。

「自信持ってよ、安部ちゃん」

ヒロシが手を焼いているところにアキが戻ってきました。

… … … … …

「お帰り~」

ひろ美の話のせいで、アキが落ち込んでいることに気づかないメンバーが海女の衣装で出迎えました。

「似合うべ?」

無邪気に聞く薫子。

「 … いい匂い」

ポツリとアキ。

「ああ、食べる? ウニ丼、美味しいよ」

匂いに誘われるようにテーブルに着いたアキは、すかさず茶碗を手にウニ丼をかっ込み始めました。

「そうだ、天野に値段決めてもらおうか?」

水口の提案に皆がうなずきました。

「んだんだ、毎日食べてたんだもんな!」

ヒロシがアキの後ろに控えます。

ひとしきり食べたアキの箸が止まりました。

「やべえ … 」

アキはつぶやきました。

「美味しいね?」

尋ねる喜屋武、他の皆も注目する中、アキは次第に泣き顔に …

「 … 美味え」

< 太巻さんと鈴鹿さんが昔つきあってた … そのせいでママはデビューできなかった。

ママは、アイドルの道をあきらめ、パパと結婚して生まれた娘が今、鈴鹿ひろ美の付き人をしてる … >


「結局は、『運』よねえ … 『運』がなかったのよ、その子は … 」

< いいのか? 果たしてこれでいいのか? … 分がんねえ。

今はもう何もかも分がんねえ … >


アキは茶碗をヒロシに差し出しました。

「おかわり … 」

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2013年07月23日 (火) | 編集 |
第98話

♪来てよ その火を 飛び越えて 砂に書いた アイ ミス ユー …

とある朝。

合宿所の廊下をぞうきん掛けしているアキ、CDプレイヤーでエンドレスで流している『潮騒のメモリー』に合わせて口ずさみながら …

ドスン!

前を見ていなかったので、2階から下りてきためぐのスーツケースに頭をぶつけてしまいました。

「あ、ごめんなさい」

「この歌、誰?」


めぐはアキの頭より、聴いたことがない曲の方が気になったようです。

「鈴鹿ひろ美の『潮騒のメモリー』でがす」

< 本当は、天野春子のだけどな … >

「ふ~ん、この人歌も出しているんだ」


テーブルの上のCDケースを手に取って簡単に眺めただけ、それ以上の興味は示さないで、すぐに元に戻しました。

「あ、天野さん、今日から2階で寝ていいよ」

「じぇじぇっ?!」

「当分、彼んち泊まるから」


そのためのスーツケースですか …

「あ、有馬さん … 余計なお世話だけども、奈落にも一応門限はあるし、恋愛御法度だ」

遠慮がちに注意したアキに、めぐは少しも悪びれることなく答えました。

「バレなきゃいいんでしょ?」

< すげえ、この子、おらのこと敵ともライバルとも思ってねえんだな … >

「じゃあねえ ~ 」


颯爽と出かけて行きました。

… … … … …

こちら、天野家の朝食。

どういう訳だか、大吉が家族に混ざって食卓を囲んでいます。

「おかわりっ!」

元気よく茶碗を差し出しました。

「大吉さん、あんたちょっと太ったねえ」

夏に指摘されて、照れる大吉。

「いやあ、バレた? … 1日5食なもんで。

朝朝、昼、晩晩だ」


朝と晩は実家とここで2回ずつ食べているのです。

「正直、ぜんぜん腹減っていない」

「バカだな、おめえ … ここで食うのになして家で食うんだよ?」


忠兵衛があきれました。

「 … 食わねえと母ちゃんに悪いし、角が立つべ?」

大吉なりの気配りでした。

「忠兵衛さんも少し太ったねえ」

夏は忠兵衛のことも指摘しました。

「バレタか? … 食っちゃ寝、食っちゃ寝だからよ ~ 」

照れる忠兵衛。

「今年の検診は、どこも悪くねがったんだから、もうそろそろ漁さ出てもらわねえと、困りますよ」

「やんだ、行かねえ! … おら絶対、行かねえぞ!」


行くなと言われれば行きたくなり、行けと言われたら行きたくなくなるもの … あまのじゃく忠兵衛は、その場にひっくり返りました。

こうなったら、放っておくのが一番 … 夏は食卓を片付け始めました。

< この3日後、お祖父ちゃんは漁さ出ました … 今度は、南半球だそうです >

… … … … …

さっきから何か考え事をしている春子、どうしても思い出せないことがあり … 思い余って台所の夏に尋ねました。

「お母さんさ、あん時さ、私に何て言ったか覚えてる? 

… 私が上野から、電話した時」

「いつの話だ?」

「20年前」


覚えている訳がないと言う夏に春子も最もだと思いました。

「 … アキにさ、聞かれちゃったのよ電話で」

『何で1回上野まで行ったのに、また世田谷まで戻ったの?』

「上野でね、電話ボックスに入ったのは覚えているわけ。

と、いうことはさ、夏さんに何か言われて … やっぱ帰るの止めたってなった訳じゃん?」

「そんな昔のこと、どうでもいいべ」


こっそりと窺がっていた大吉が口を挟みました。

「いやよくねえぞ、夏ばっぱ … その電話の中身次第じゃ、春ちゃん20年前に帰って来たかも知んねえ!

そしたら、あのタクシー野郎じゃねぐ、おらと一緒になったかも知んねえ!

… 1日3食で済んだかも知んねえ!」

「おめえさん、安部ちゃんと婚約してたべ?」

「じぇじぇっ! … んだった、朝昼晩まめぶ生活だった」

「何しゃべったんだろうね … 」


… 思い出せないとなると余計に気になるものです。

… … … … …

「それでは、番組をご覧の皆さんにひとことお願いします」

主演映画のPRでTV収録中の鈴鹿ひろ美。

女性司会者が話を振ると、カメラはひろ美を正面から捉えました。

笑顔で話しはじめるひろ美。

「岩手こっちゃこいテレビをご覧の皆さん、ご機嫌いかがですか?

映画『猫に育てられた犬』、実話を元にした感動的なストーリーです。

今回は主人公の母親を演じた訳ですが、演技じゃなくて泣いちゃいました。

猫の気持ちも犬の気持ちもわかるんです …

『犬に育てられた猫』 … ん? じゃなくて『猫に育てられた猫』 … あっ!」


カットが掛かりました。

「天野さ~ん … 」

うわべは落ち着いて静かにアキを呼んだひろ美でした。

… … … … …

「何よ、あの司会者! まだ5分も残っているのに最後のひとことって、どういうこと?」

楽屋に戻る通路、ひろ美はトチったことを司会者のせいにして八つ当たりです。

「あんなつまんない映画の宣伝、5分もできません!」

「えっ、つまんないんですか?」

「最悪よ、猫の気持ちも犬の気持ちも分かんない! … 猫アレルギーだもん。

実話を元にすりゃ、ヒットすると思ったら大間違いよ。

… 現実なんて退屈!」


… … … … …

仕事が終われば、例のごとく無頼鮨で反省会です。

「あ~あ、もう最近母親役ばっかりだよ」

アルコールが入ったひろ美は愚痴りはじめました。

「やりたくねえのか?」

「だってつまんないじゃん、ドラマの中の母親ってさ。

『肝っ玉』か『良妻賢母で、ちょっと病気がち』、2パターンしかないわけ。

それって男の勝手な願望じゃない?

… 開店前の寿司屋で、飲んだくれてるお母さんとか絶対出てこないわけでしょ、ねえ大将?」


梅頭は作り笑いでうなずきましたが、たぶん何を聞かれたのか分からずに答えているのでしょう。

… … … … …

「ねえ、天野さんのお母さんってどんな人?」

「じぇっ!」

「肝っ玉、病弱、どっちのパターン?」


まさかここで母のことを聞かれるとは思ってもみなかったアキでした。

< い、言えねえ … あんだの影武者で、『潮騒のメモリー』歌ってたなんて … >

「ねえ、どんな人?」


アキの強張った顔を見て、聞いてはまずかったのかと察したひろ美は気まずそうに謝りました。

「 … 歌が、歌がうめえお母さんです」

考えあぐねた結果、アキはそんなことを口にしていました。

「へえ、そうなの?」

ひろ美は感心しています。

「はい、歌がうめくて、かっけえ母ちゃんです … 今は、地元でスナックやってます」

「海女さんじゃないのね?」

「海女は祖母です … 母は、海女になるのが嫌で東京さ出て …

か、歌手を目指してた時期もあります」


… 言っちゃいました。

「はあ、そうなの」

益々感心したようなひろ美、目がキラキラしてきました。

「じゃあ、お母さんに“夢を託されて”来たのね」

「 … えっ?」

「そうでしょ? … “自分の果たせなかった夢を、娘に叶えて欲しいのよ”お母さん。

がんばんなきゃねえ ~ 」

「は、はい」

< そうか … 考えもしねがったが、確かにそうだ。

そしたら、なして最初はあんなに反対したんだ? >


『おら、アイドルになりでえ!

歌って踊って、潜ってウニ獲って、上がって食わせる … そんなアイドルになりでえ!』

初めてアイドルになりたいと口にした日、アキは春子に頬を思い切り叩かれたことを思い出していました。

< 痛かったあ … だが無理もねえ、この世界でやって行く難しさを、誰よりも知ってんだもんなあ … >

… … … … …

< そんなママの期待を背負ってるとしたら … >

「 … 重でえ」


ひろ美に解放されて店の裏から出てきたアキ … そんなことを考えていたら、思わず口から出ていました。

「天野 … 」

種市が声を掛けましたが、気づかないのか … そのまま自転車を曳いて歩き出しました。

< あんなに歌が上手くて、器量が良かったママですら、通用しねがったのに、おらなんか … >

「おっ、天野 … 無視すんなよ、天野」

「 … 無視じゃねえ、聞こえたけど聞こえねえフリしただけだ」


… やはり聞こえてはいたような … 北三陸時代では考えられなかったことです。

「いやだから、それが無視だべ?」

「何すか、先輩?」


振り向いたアキはややキレ気味に尋ねました。

「手短にお願いします」

「 … ユイに会って来たんだべ?」

「そっちも重でえ … いや、元気だった … スナック手伝ってた」

「スナック? ユイが?!」


たまげる種市。

アキは携帯を渡して、ユイとのツーショット写真を見せました。

脱色した髪の毛にヤンキーファッションのユイがいます。

「おっ、だせえだせえ … 」

狼狽えて、そんな言葉しか出てこない種市です。

アキは携帯を奪い返して言いました。

「だせえぐらい我慢しろ!

… ようやく立ち直ったんだぞ」

「あ、そうか … そうだよな」


納得する種市 … 同時に自分は何もしてあげれなかった後ろめたさが …

… … … … …

スナック梨明日。

ユイが手慣れた手つきで水割りを作って、カウンターの吉田と磯野の前に置きました。

「先生、ガールズ・バーって知ってる?」

「ああ、東京で流行ってるっぽいね」


そういう情報には敏感なふたりです。

「何、それ? 知らない」

ユイが興味を示しました。

「カウンターの向こうにガールズがいて … 一緒にお酒飲んだり、しゃべったり、カラオケ歌ったりするんですって」

「すっごく楽しいんですって」


吉田と磯野の説明をユイの横で聞いていた弥生。

「それ、スナックだべ?」

「んだ、スナックだ」


その隣の美寿々 … 

「スナックと何が違う訳?」

春子が尋ねました。

カウンター内に並んだガールズたちの無言の圧力 …

「 … な~んも言えねえ」

… … … … …

アキが合宿所に戻ると、しおりが開口一番。

「遅いっ!」

リビングにメンバーが集合して待っていました。

「じぇじぇ、また反省会ですか?」

「またとか言うなよ、奈落にいる限り日々反省だよ!」


すごすごと席に着くアキ。

「じゃあまず昨日の反省から××」

「まめぶ食べる?」


台所から小百合が顔を出して、しおりの話の出鼻を挫きました。

… ちょいちょい合宿所を訪れては何かと世話を焼いてくれているようです。

… … … … …

「有馬さんは今日も無断外泊か?」

「連絡も来ないよ」

「どうせ夜遊びやろうもん、やれ麻布のクラブ … 」


反省会とはかけ離れた話題に流れていきます。

「だんごいくつ?」

そして、お構いなしの小百合。

「3つ!」

そう言えば、薫子の姿も見当たりません。

「起こした方がいいかね?」

喜屋武がしおりに聞きましたが、

「寝かしとこう、受験も近いしな」

… … … … …

気を取り直したしおりが反省会を再開させました。

「 … 昨日も言ったけど、年末のファンミーティングの成果が生かされてないと思うんだよ」

「七味入れますか?」


またまた小百合、今度はまめぶをよそったお椀をリビングまで運んできました。

「じゃあ、ストップって言ってください」

まめぶの椀に七味唐辛子の小瓶を振りはじめます。

「国民投票の結果で満足しちゃってるって言うかさ … 特に真奈とか、小野寺ちゃんもだけど、アメ女と掛け持ちでやってる子はさ、自分でGMTなのかアメ女なのか××」

「ストップ!」

声を上げたアキ。

七味を振るのを止めて、台所に引っ込む小百合。

「 … ハッキリしてほしいって言うかさ、その辺どう考えてるの?」

邪魔されてもメゲずに話を進めるしおり、真奈に聞きました。

「元々、佐賀なのか博多なのか、ハッキリせんとばってん」

「佐賀だろ、佐賀のがばいキャラで行くんだろ?

… そもそも『がばい』って何だよ、どういう意味?」


白黒つけないと納得できない性格のようです。

「そいも、ハッキリせんとばってん … 『すごい』とも違うし、『やばい』とも違うし」

マイペースの喜屋武が自分もまめぶを食べたいと小百合に言いました。

「だんごいくつ?」

「4つ、七味もね」

「じゃあ、ストップって言ってください」


… … … … …

東京EDOシアター。

「河島さん、河島さん!」

慌てて飛び込んできた水口が会議中の河島を無理やりに引っ張り出しました。

「うるせえな … 何だよ?」

水口は1枚の紙切れを手にしています。

「これ、地下のゴミ箱で見つけたんですけど、何だと思います?」

「 … ゴミだろ!」

「ゴミになる前ですよ、見てっ!」


会議に戻ろうとする、河島を引き留めてその紙を手渡しました。

「んっ? 歌の歌詞か … お、社長の字?」

水口は河島に読むように指示しました。

渋々読みだす河島。

「地元に帰ろう 地元で会おう あなたの故郷 私の地元 地元地元地元 … 」

「GMTの曲ですよね、ですよね?!

… 地元地元言ってますもんね!」

「捨ててあるんだから、ゴミだろう」


興奮気味の水口に反して河島は冷めた口調で言いました。

… … … … …

ふたたび合宿所。

「チャンスだと思うんだよな … アメ女の元センターがGMTにいるわけじゃん、ってことは今イベントをやれば、ファンが確実に集まる訳じゃん!」

熱く語るしおり。

「マスコミも取材に来るかもな」

パジャマ姿の薫子が下りてきました。

「なんか、面白そうな話してるから」

そう言って話の輪に加わりました。

「どうした喜屋武ちゃん?」

「ううん、何もないよ」


実は、小百合がまめぶに振っている七味のことが気になっている喜屋武でした。

「 … 路上はちょっと厳しか?」

「もうちょっと派手にやりたいよな … 公園とか、デパートの屋上とか」

「デパート?!」

「何、安部ちゃん?」

「4月に上野のデパートで、岩手物産展やるから手伝ってけろって頼まれたんだあ ~ 」


せっかく皆が話に乗ってきたところでまた小百合です。

半ばあきらめ顔のしおり。

「観光協会の菅原さ、北三陸からはまめぶ汁と … あっ、夏ばっぱのウニ丼も出品するって!」

「じぇじぇっ、東京でウニ丼食えるのか?」


夏は来ないけど、レシピを知っている小百合が冷凍のウニを使って作るのだそうです。

こういう時アキはひらめきます。

「じゃあ、物産展手伝うってのはどうだべ?

手伝う代わりに1曲歌って … いぐねえ? リーダー」


アイデアはいいのですが、生憎持ち歌がありません。

「そうか … いつまでも、ディセンバーって訳にもなあ」

「そこなんだよな、何て言うかさ××」


… … … … …

もの凄い勢いで帰ってきたのは、水口でした。

「水口さん?」

「どうした? … 慌てて」


切れ切れの息の中、水口は言いました。

「重大発表がある … 落ち着いて聞いて」

注目するメンバー。

「 … ついに××」

「ストップ!!」


喜屋武が大きな声で止めました。

「えっ?」

「まだ何も言ってないぞ?」


唖然とする水口の目の前を泣き顔の喜屋武がフラフラと通り過ぎました。

そして、小百合の前にあるまめぶ汁の椀を悲しそうに見つめます。

「うちのまめぶがああ … 真っ赤になってるう」

七味唐辛子で埋め尽くされたまめぶ汁、椀を手に取りました。

「やんだあ、ストップって言わねえから ~ 」

… 程度ってもんがあるでしょ、安部ちゃん …

… … … … …

「 … で、何?」

しびれを切らせたしおりが水口に聞きました。

「あっ …

太巻さんが、GMTのデビュー曲作ってる」


やっと言えました。

じぇじぇじぇじぇ、じぇっ!

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2013年07月22日 (月) | 編集 |
第97話

「新助、その火を飛び越えて来い!」

< おらが何度も繰り返し見た、鈴鹿ひろ美主演の映画『潮騒のメモリー』、その主題歌を歌っていたのは … なんと、おらのママでした。

ママは鈴鹿さんの影武者だったのです。

しかも、黒幕は太巻さん … しかし、チャンスに恵まれないまま2年が経ち … >


春子は、もう一度『潮騒のメモリー』を自分名義で歌わせてくれと、太巻に頼みましたが …

「君にはプライドってものがないの?」

「プライドなんて、あるに決まってるじゃない … なかったら、とっくにあきらめてます!

プライドあるから、このままじゃ終われないから、今日まであんたの言うこと聞いてきたんです …

バカにしないでよ!」

< … という、今週は割とヘビーな幕開けですが、徐々にいつものバカみたいな感じに戻ると思います >

田舎に帰る決心をした春子、止めたタクシーの運転手は … 黒川正宗でした。

… … … … …

ミラーで春子の顔を見た正宗は、驚いて振り向きました。

見覚えのある顔 … 以前にも乗せたことがある客だったからです。

その時、一緒に乗っていた太巻にタクシーでの会話を口外しないように脅されて口止めされたことが強烈な記憶として残っていました。

「 … お客さん、どちらまで?」

「上野って言ったよね?」

春子は少しイラッとして答えました。

それが、1989(平成元)年のことでした。

… … … … …

「 … 驚いたよ、同じお客さんを偶然乗せること自体珍しくないけど、ママの印象は強烈だったからね」

春子からの手紙の内容を確認するためにアキは世田谷の実家のマンションに正宗を訪ねていました。

夕食のすき焼きを作りながら、正宗は話を続けます。

「だけどパパ印象薄いだろ? … 向こうは全然覚えてなくて … 」

「言えばよかったべ、その節はどうもって」


かぶりを振った正宗。

『もしアホンダラ、どっかに漏れたらアホンダラ、おどれの仕業やからなアホンダラ … 自分、東京湾に沈められたいんか? アホンダラ、アホンダラ、アホンダラ … 』

「苦手なんだよ、関西弁 … 全部脅し文句に聞こえるでしょ?

大体、英語のYOUに相当する単語が多すぎる … 『われ』とか『おんどれ』とか『アホンダラ』とか『自分』とか … 『自分』はYOUじゃなくてMEでしょうが?!」

「懐かしい … パパのそういう、理屈っぽい、学級委員ぽい、近所のおばちゃんぽい感じ、久しぶりだ」


決してほめられている訳ではないようですが、正宗は少し照れながら言いました。

「たまにはいいもんだろう?」

「うん、イラッと来る」

「 … 野菜食べなさい」


アキの器にネギを取って入れました。

… … … … …

「きれいだね、ママといた頃より片付いてる」

アキは整頓された部屋を見渡して、以前ここで出会った女性のことが一瞬よぎりました。

「 … 掃除ぐらいしかやることないんだよ」

寂しそうにそう答えた正宗、ウソではないようです。

「ごめん」

「野菜食べなさい … 野菜食べたら、泊まって行きなさい」

「いい、帰る … 門限あるし」

「部屋ないのに、門限あるのか? … 理不尽だな」

「ベッド取られただけだよ … 最下位だもん、しょうがないよ」

「天野春子の娘だからじゃないのか?」


春子の手紙を読んでからアキが気にしていたことを正宗が口に出しました。

しかし …

「そんなあ、いくら何でも、そんな露骨な嫌がらせ」

「太巻ならやりかねないよ」


アキは笑い飛ばそうとしましたが、割とマジな正宗の言葉が水を差します。

不安そうなアキの顔を見て、正宗は春子とのことに話を戻しました。

「 … とにかく、ママを乗っけて上野まで行ったんだ」

… … … … …

「上野ってことは、ご旅行かなんかですか?」

「 … 東北の方です」

「東北、いいですねえ」

… … … … …

「思い出してほしくて、いろいろと話を振ってみたんだけど、全然ダメで … 結局、上野駅で降ろして、ロータリーで車まわして、世田谷へ引き返そうと思ったら … 」

… … … … …

正宗の車を止めたのは今降ろしたばかりの春子でした。

「世田谷まで … 」

「お客さん、さっき世田谷から乗りましたよね?」

「えっ?」

… … … … …

「じぇじぇ、なして、どうして?」

「2度あることは3度あるだよ、何か運命感じちゃってさ … もう、何か東京湾に沈んじゃってもいっかなんて」

「いいから早く声掛けろよ!」

「急かすなよ ~ アキ … デザート食べなさい」

「いらねえっ!」


何となくご機嫌な正宗と裏腹に急にアキの機嫌が悪くなってきました。

「どうした?」

「だって、パパとママがくっ付かねえと、おらがこの世さ生まれて来ねえべ!」


真剣な顔のアキを見て正宗の頬が緩みました。

「 … くっ付いたから、生まれたんだよ」

… … … … …

世田谷に向かって走る正宗のタクシー。

度重なる偶然に『運命』を感じた正宗ですが、そのうち会話も途切れて … 半ばあきらめかけていた時、原宿か表参道あたりで奇跡が起こりました。

カーラジオから誰かがリクエストした『潮騒のメモリー』が流れ始めたのです。

♪来てよ その火を 飛び越えて 砂に書いた アイ ミス ユー …

「北へ帰るの ~ ふんふんふん … 」

正宗の鼻歌は鈴鹿ひろ美に負けないくらいに調子っぱずれでした。

「 … 懐かしいなあ、いいですよね、この曲?

確か、鈴鹿ひろ美でしたっけ? … 好きなんだよなあ」

黙ったままの春子、正宗は懸命に話しかけました。

「歌うまいっすよね?」

しかし、春子が口を開いた言葉は …

「 … 止めて」

「えっ?」

「っていうっか戻って上野に … やっぱ帰る!」

「いやいや、お客さん」

「と・め・て!」

「いや … これ歌ってるの、お客さんですよね?」

… … … … …

路肩にタクシーを止めた正宗は春子を振り返りました。

「 … 知ってますよ、覚えてませんか?

あの時の運転手です」

「どの時の?」

「ほら、あの時のアホンダラです … 私」

ようやく、春子も思い出しました。

… … … … …

その後、ふたりは喫茶アイドルに入りました。

「もう3年も前ですが … じゃあ、ずっとひとりで秘密を抱えてたんですか?」

「誰にも打ち明けられなくて … しゃべったら楽になりました。

もう思い残すことはないです。

帰ります … 上野まで送ってください」

席を立ってレジに向かう春子に正宗は思い切って言いました。

「ずっと応援してたんです … あなたを」

戸惑ったような顔の春子に正宗は続けました。

「あの時まだ、鈴鹿ひろ美もデビューする前だったでしょ … だから僕、先にあなたのファンになったんです。

ファン第1号なんです、あなたの。

だけど、あなたは表に出てこない、絶対出て来れない … しょうがないから、レコード買いましたよ。

鈴鹿ひろ美の『潮騒のメモリー』も『縦笛の天使』も『Don感ガール』も」

正宗は甲斐がカウンターに飾ったシングルのジャケットを次々に指差しました。

「あなたが歌ってる、あなたの歌声だって思いながら、運転しながら聴いた、聴いた、聴いた …

リクエストハガキだって送りましたよ … あなたの声が聴きたくて、何かそのうち、あなたのことが好きなのか、鈴鹿ひろ美のことが好きなのか分からなくなって来て … 今じゃ鈴鹿ひろ美の大ファンなんです。

いやもちろん、春子さんのファンであることは変わりがないんですけど … だけど、誰にも言えないからさ!

鈴鹿ひろ美の声をやっている人が好きだなんて言えないじゃん、言えないじゃん、言えないじゃん!」

春子に答えるスキも与えないように、止めどなく一気にまくし立てる正宗。

… 不幸中の幸いとでも言うのか、店にはふたりの他に客はおらず、聞いていたの店長の甲斐だけでした。

その甲斐が、見るに見かねて口を挟みました。

「警察、呼ぼうか?」

「あ、お構いなく … すぐ正気に戻りますんで」

… … … … …

水を一杯飲み干して、気を落ち着かせた正宗は改めて春子に向かって言いました。

「ファン第1号として、ひとことだけいいですか?」

うなずく春子。

「あのね、ここであきらめたら、モッタイないですよ … あなたの歌に励まされて、僕はここまでがんばってこれたんです。

横柄な客に罵らえても、酔っぱらいに絡まれても、後部座席ガンガン蹴られても … あなたの歌を聴いて、彼女もがんばってるんだからって … 」

正宗は、自分だけじゃないタクシー業界みんなファンだとまで言いました。

「 … 鈴鹿ひろ美のファンでしょ?」

「だけど、歌ってるのはあなたです!

全国のドライバーがあなたの歌に癒されて、安全運転を心がけるから事故が減る … 春子さんの歌声にはそういう力があるんです。

… 送りますよ、世田谷まで。

行きましょうよ、歌いましょうよ … 東京にはあなたの歌必要としている人が一杯いるんですよ」

春子は正宗に微笑みを返して言いました。

「ありがとう … 」

… … … … …

「 … それから、その喫茶店の常連になって …

春子さんは歌手にはなれなかったけど … 僕のお嫁さんになったんだ」


正宗の話を聞き終わったアキ、じわじわと感動がこみ上げてきました。

かっけえ … かっけえよ、パパ!

「そうか?」

「初めてかっけえと思ったよ、パパのこと、マジでリスペクトだよ、パパ!」


それこそアキに初めて認められた正宗、有頂天にならない訳がありません。

「そうか、よしよしビール注いでくれよ」

「 … でも、何でだべ?」


肩透かし。

アキには、すでに次の疑問がわいていました。

「なしてママは1回上野まで行ったのに、電車さ乗んねえで、パパのタクシーで世田谷さ戻ろうとしたんだ?」

「ああ、そりゃママに聞いてみないと分からないよな」


… … … … …

スナック梨明日。

今宵、残っている客は、大吉と勉さんだけです。

アキからの電話を受けたユイは、春子に受話器を渡しました。

「何か手紙読んだって … 」

「もしもし」


正宗は食後の食器洗い、アキはテーブルの片づけを手伝いながらの電話です。

「読んだよ、感想?

びっくりして、とにかくびっくりして、パパとご飯食べてた」

「何それ? 意味わかんないんだけど」

「『じぇ』が10個じゃ足りねえ程びっくりで、ちょっと理解するのに時間かかると思う。

でも、ひとつだけ言わせて … 

ママ、かっけええ!


ふいをつかれた春子は、少しぎこちなく答えました。

「あははは … ああ、ありがとう」

「こちらこそだ、『潮騒のメモリー』がママの歌だったなんて」

「 … いや、ママの歌ではないけどね」

「ママが歌ってるんだから、ママの歌だべ!」


そう言われても … 複雑な心境の春子、話題を変えました。

「 … パパ元気?」

その言葉に素早く反応したのは大吉でした。

「相変わらず、イラッとくる程元気だ」

… … … … …

「あのさ、おら目標ができた。

今までは、ユイちゃんがこっちゃさ来るまでとか、鈴鹿ひろ美みてえになりでえってがんばって来たべ?

… でも、もうひとつ新しい目標ができた」

「何よ?」

「おら、ママみてえな歌手になりでえ!」

「ダメよ、ママなんて顔も出せない影武者だよ?」


娘には自分と同じような思いはさせたくありません。

「だけど、ママの歌がパパの心さ響いて … それでふたりが結婚して、おらが生まれたんだもん。

ママの歌がねがったら、おらこの世さ生まれてねえんだぞ。

だから、おら、そういう人の心さ響く歌っこ歌いでえ … 何万枚も売れなくていい、その代りちゃんとひとりさ届く歌っこ歌ったママみでえな歌手になりでえんだ!」


アキの言葉にうるっと来てしまった春子は、何も言えなくなっていました。

「ママ … 聞いてるか、ママ?」

「ああ、ごめん … 大吉さんのゴーストバスターズがうるさくて聞こえなかったわ」


… 大吉のせいにして誤魔化しました。

「もう1回言ってよ!」

「やんだあ」

「ケチっ」


電話で繋がっているふたりは笑い合いました。

話を聞いていた正宗もキッチンで微笑んでいます。

アキは部屋に飾ってあった写真立てを手に取りました。

若い正宗と春子に抱かれた自分のお宮参りの写真です。

『かっけえ』両親を誇らしく思って … 幸せを感じていたアキでした。

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2013年07月21日 (日) | 編集 |
さて、次週の「あまちゃん」は …

ストップって言ってください

太巻(古田新太)と秘密を抱えてしまった春子(有村架純)は、デビューできないまま3年が経ち、東京を去ることになった。そのとき上野駅に向かうために乗ったタクシーの運転手こそ、若き日の黒川正宗(森岡龍)だった…。正宗は、以前も春子と太巻(古田新太)を乗せたことがあり、二人の重大な秘密についても知っていたのだ。

わあ、聞いちゃった! … じぇじぇじぇっ!

アキ(能年玲奈)は、正宗(尾美としのり)から、そんな両親の馴れ初めを聞き、思いを新たにする。

重大発表がある … 遂に

ストップっ!


そんな折、マネージャーの水口(松田龍平)からGMTのデビューが決まったと伝えられる。着々と準備が進む中、メンバーの有馬めぐ(足立梨花)のある行動がきっかけで、またもやGMTの前に大きな壁が立ちふさがる。

天野春子の娘だからですか?

うちにいる限り、俺が潰すから


納得のいかないアキは、自分が天野春子の娘であるせいなのかと太巻に詰め寄る。その問いに、口を開いた太巻は…。

もう帰りたい …

居場所を失ったアキは、春子(小泉今日子)に「帰りたい」と電話をする。

アイドルになるんじゃなかったの?!

しかし春子は大反対。かつて、自分が夢破れて帰郷しようと母の夏(宮本信子)に電話をしたときの記憶がよみがえったのだ。当時の夏と今の自分を重ね合わせた春子は…。

春ちゃん、娘に夢を託したんだな …
あまちゃん 公式サイトより)


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2013年07月20日 (土) | 編集 |
第96話

< おら、また鈴鹿ひろ美の付き人に復帰しました。

鈴鹿さんとママと太巻さんの過去をもっと深く知りてえ、知る必要があると思ったからです … >

「鈴鹿さんの夢って何?」

「世界征服と結婚 … は、無理だから、上野に銅像でも建てようかしら? 西郷どんの隣に」


そう言って、ひろ美はひとり楽しそうに笑いました。

… … … … …

その日、いつものようにアイドルを訪れた太巻は、浮かない顔で春子に言いました。 

「鈴鹿ひろ美がテレビで歌いたいって言いだした」

「えっ?」

「しかも生意気にも口パクは嫌だって … 参った、どうしよう?」


… … … … … 

タマネギ司会者のベストテン番組で『潮騒のメモリー』が4週連続1位に輝いたその日、ついに鈴鹿ひろ美がスタジオに現れました。

待ちに待ったひろ美本人の登場に大いに沸くお茶の間。

「可愛い ~ な!」

もちろん、アイドルの店長、甲斐もです。

視聴者たちの目はテレビに映るひろ美の姿にくぎ付け …

「それでは、今秋の第1位『潮騒のメモリー』鈴鹿ひろ美さんです」

司会者がコールするとイントロが流れ始めました。

… … … … …

太巻はミキシングルームで息を飲みながら待機していました。

♪来てよ その火を 飛び越えて …

ひろ美が歌いだした瞬間、太巻がミキサーに慌てて指示しました。

「こっちじゃない、そっちだよ!」

♪ … その火を 飛び越えて 砂に書いた アイ ミス ユー

それは、春子の声 … 胸をなでおろした太巻は、隣のブースを小窓から覗きました。

ブースの中には、店を腹痛で休んだはずの春子がいました。

ヘッドフォンをつけた春子が振り向くと、太巻はOKサインを出しました。

春子はまた、モニターを見ながらマイクに向かいます。

♪北へ帰るの 誰にも会わずに 低気圧に乗って 北へ向かうわ

「鈴鹿ひろ美の影武者として、ママはいくつかの歌番組に出た。

出た?出てはいません。声だけです。

鈴鹿ひろ美より早くスタジオに入り、人目につかないブースに閉じ込められる。

本番、鈴鹿ひろ美の口の動きをモニターで見ながら歌い、鈴鹿ひろ美が帰ったことを確認してスタジオを出る。

絶対に顔を合わせないことが鉄則でした。」

… … … … …

「1回歌うと3万円貰えました。

もちろんその中には口止め料も含まれています。」

「大丈夫、君の経歴に傷がつくようなことは絶対にないから」

太巻のその言葉を信じて、春子は影武者を続けていくのでした。

… … … … …

「 … 歌番組?」

「出たんですよね? アイドル時代は」


アキは付き人の仕事をしながら、ひろ美にそれとなく聞いてみました。

「なんか、うっすら記憶があるわね … でも2、3回よ、『潮騒』の時、一番忙しかった頃」

「歌ったんですか?」

「そりゃそうよ、歌番組だもの」

「 … 中には、口パクの人もいるべ?」

「私ダメなの、バレちゃうの、合わせらんないの」


合わせていたのは春子の方ですし、ひろ美のことですから、春子の存在どころか、自分の声がオンエアされていないという事実など知らなかったのかも知れません。

… … … … …

「昭和61年夏に発売されたセカンドシングル『縦笛の天使』は3週連続1位、サードシングル『Don感ガール』は惜しくも1位を逃しましたが、B面のバラード『私を湖畔に連れてって』が翌年の春の甲子園の入場行進曲に選ばれました。」

… … … … …

「ファーストアルバムの話が来ている」

ある日、アイドルでコーヒーを運んできた春子に太巻はささやきました。

「 … 私の?」

春子は太巻の向かいに腰かけました。

「バカな、鈴鹿ひろ美だよ … 」

思わず吹き出して笑ってしまった太巻ですが、がっかりした春子の顔を見てすぐに謝りました。

「本人はそれほど乗り気じゃない、元々歌はそんなにやりたがる女の子じゃなかったから …

ただ、社長が出すんなら、早く出そうと言ってる、セールスの方も落ちて来てるし、本人もそれはわかって」

「いやです … やりたくありません」


太巻が最後まで話す前に春子は拒否しました。

「ホントにこれが最後だから」

何度聞いた言葉でしょう … 春子は席を立って太巻から離れました。

「このまま1曲3万円で影武者をやってたら、永遠にデビューできない。

田舎者で世間知らずな私でもわかりました。」


春子の後を追う太巻を甲斐が不審な顔で見ています。

「春子ちゃん、いずれ君がビューする … 必ずデビューできるように、僕が後押しするから」

「もう20歳になっちゃったんですよ」

「それは … それは、おめでとう」


我慢できずに春子は太巻に問いただしました。

「私、アイドルってもうキツイですか? … だったら、そう言ってください!」

「全然 … だって20歳に見えないもん、せいぜい … 19だよ」

「デモテープ、社長に聴かせるって約束してくれましたよね?」


太巻は少し困ったような顔を見せましたが「聴かせたよ」と答えました。

「本当ですか? … 反応は?」

「似てるって … 鈴鹿ひろ美に、鈴鹿ひろ美の声に似てるって、社長が」

「はあっ?」


何言ってるんだ、この男は …

… … … … …

「うん、分かる分かる、うん分かるよ」

「何言ってるの? バカなの、お宅の社長、バカ社長なの?!」


春子はキレました。

太巻は必死に丸めこもうとします。

「落ち着こうか春子ちゃん … 一旦、落ち着こうか?」

「似てるよ、だって私じゃん! どっちも私じゃん、似てて当然じゃん!」


店内の客が注目し始めましたが、構わずに大きな声を出す春子。

手を焼いた太巻も声を荒げました。

「落ち着け、うるさいよもう、おっぱい触るぞ!」

不穏なセリフにポットを持ったまま飛び出して来た甲斐に気づく太巻。

「あっ … ウソです、ごめんね」

太巻は、ひとまず春子を店の外に連れ出しました。

「だってさ、社長知らないじゃん、君が歌ってるって」

「じゃあ何ですか、声変えて歌えばいいんですか … ワザと下手に歌いましょうか?」

「 … できる?」

「できるけど … やりたくないです」

「だよね、それじゃあバレちゃうもんね?」

「他人が歌ってもバレませんけどね!」


春子の声が聞こえないように、必死に声を張り上げる太巻。

「 … ようするに今じゃないんだ。

今いくら売り出しても、うちの事務所に圧力を掛けられる、潰される、君はデビューできない」

「もう、じゃあいつですか?」

「必ず … 僕に任せて、ね、ね?」


「だまされている … だけど、当時のママは他に頼る人もなく、ただ太巻さんを信じるしかなかったのです。」

「 … わかりました」

… … … … …

合宿所、深夜。

部屋の戸を叩く音で水口は目を覚ましました。

眠い目をこすりながら戸を開けると、案の定、アキが立っていました。

「眠れません … 」

寝袋から上半身を出した格好のアキは訴えました。

「私、本当にデビューできるんでしょうか?」

「そうか、ごめん … 二段ベッド、マメりんが使っちゃってるんだよね」


そう答えた水口、ふたりの会話は少し噛み合っていません。

「はい … それはいい!」

アキは戸を締めようとする水口を止めて、そのまま部屋に入り込んできました。

「急に不安になったんです … おらがいる限り、GMTはデビューできねえんじゃねえかって」

春子の手紙を読んだせいでした。

「そうなのか? … 水口さん、おらが邪魔なら、そう言ってけろ!なあ?!」

「落ち着いて、落ち着いてアキちゃん … こないだも言ったけど、君を売り出すことに、僕は … あの …

無理、だめだ、あの、睡魔と闘いながら、いいこと言うの難しいよ … 」


水口は布団に潜り込んでしまいました。

「言ってけろ、水口さん、言ってけろ!」

しつこく揺り起こすアキ。

「 … わかった、わかったちょっと待って」

水口は、目を閉じたまま立ち上がりました。

「絶対デビューできるから、夢は叶うから!」

「はいっ」


アキはうなずきました。

「 … おやすみ」

部屋を追い出されたアキ、寝袋のまま居間のソファーに横になりました。

… … … … …

「あっという間に2年が経ちました。

年号が昭和から平成に変わり、『オバタリアン』『セクハラ』という流行語が生まれた年です。」

1989(平成元)年。

「太巻さんは、チーフマネージャーに昇格していました。

… まだ29歳でした。」

アイドルで待つ春子、太巻は肩にかけたショルダーフォンで電話をしながら遅れてやって来ました。

「そうそうそう、ザギンでし~め食い~の、酒飲み~の、腹下し~の … 」

「後で分かったことですが、彼はその2年間、私のことを真剣に売り込んでいてくれたようです。」

「イカ天ブーム来ちゃったねえ、どう春ちゃんもバンドやってみる?」

テーブルに着くなり太巻は軽いノリで春子にそう言いました。

「 … 田舎に帰ります」

春子は、いきなり切り出しました。

「お世話になりました」

それだけ言って、席を立とうとする春子のことを太巻は引き留めました。

「もうちょっと、待ってみないか?

君には、恩がある … 君のおかげで出世ができた。

もちろん、才能も認めている … このまま埋もれさせてしまうのは惜しい」


春子を席につかせた、太巻。

「せめて、あと1年 … せめて、携帯電話がもう少しコンパクトになるまで … 頼む」

春子に頭を下げました。

「だったら、お願いがあります」

「何、何?」

「 … 『潮騒のメモリー』を歌わせてください」


太巻の顔色が変わりました。

「私のデビュー曲です … もう一度、あの歌を歌わせてください、今度は自分の名前で」

「 … それは、カヴァーするってことなの?」

「もともとは私が歌って … 」

「世間はそう取らない、リバイバルだと思うよ … 鈴鹿ひろ美の知名度に頼るってことなんだよ、それは」

「そんなの分かってます!」


「 … そんなの分かってる、だけどママは、それほど追い込まれていた。

そのことを太巻さんに知って欲しかったのです。」

今度は春子が太巻に頭を下げました。

… … … … …

「ガッカリだなあ … 君にはプライドってものがないの?」

顔を上げた春子に太巻は強い口調で言いました。

「『潮騒のメモリー』歌えば、ヒットするよ … そりゃ、当るよ。

けどさ、それなしでしょ?

禁じ手じゃん、それをやらないために、あらゆる … 」


どの口が言うのでしょう … 禁じ手を使って、春子のプライドを踏みにじり続けた張本人が …

春子は思い切りテーブルを叩くと立ち上がりました。

「プライドなんて、あるに決まってるじゃない … なかったら、とっくにあきらめてます!

プライドあるから、このままじゃ終われないから、今日まであんたの言うこと聞いてきたんです …

バカにしないでよ!」


店を飛び出して行く春子、甲斐が呼び止めましたが、間に合いませんでした。

太巻はあとを追うこともなく、沈痛な顔で席に着いたままでした … 親指を立てて腕を組む得意のポーズで。

「 … それ以来、太巻さんとは会っていません。

その日、私は荷物をまとめて東京を出ました。」

春子はスーツケースを曳き、通りに出るとタクシーを止めました。

「上野まで … 」

そう運転手に告げた春子。

ミラーで春子の顔を見た運転手が、驚いたように振り向きました。

… 運転手は、黒川正宗でした。

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あまちゃんニュース

『潮騒のメモリー』のCD化&配信が発表されました。

あまちゃん挿入歌「潮騒のメモリー」ファン待望のCD化

連続テレビ小説「あまちゃん」の挿入歌「潮騒のメモリー」が、7月31日にシングルとしてリリースされることが明らかになった。

シングルの初回限定盤は「1986年の大ヒット曲」というドラマでの「潮騒のメモリー」のコンセプトにちなんでアナログEP風の紙ジャケット仕様。ジャケットには、ドラマの中で使用された映画「潮騒のメモリー」の名シーンを描いた鉄拳によるパラパラマンガが採用されている。さらに初回限定盤には「潮騒のメモリー」のプレミアムアナログEPが当たる応募抽選ハガキも封入されるなど、「あまちゃん」好きにはたまらない特典も用意される。

CDのリリースに先駆けて、本日7月20日よりレコチョク、NHK SOUND、iTunes Storeにて楽曲の配信がスタート。発売まで待ちきれない人はダウンロードしてみよう。

最新音楽ニュース ナタリー 2013年7月20日 6:00

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2013年07月19日 (金) | 編集 |
第95話

♪来てよ その火を 飛び越えて … 砂に書いた アイ ミス ユー

カーステレオから流れてきたその歌の音程はカラオケから大きく外れていました。

「彼女、音痴なんだ … で、もう時間がないんで、誰か歌える女の子を探して来てって上司に言われて、君のことを思い出したんだよ。

歌ってくれないかな? … 鈴鹿ひろ美の代わりに」


春子に懇願する太巻。

「ママは、その日、マイクの前に立ちました。

鈴鹿ひろ美の影武者として … 」

「じぇ じぇ じぇじぇじぇじぇっ?!」

… … … … …

ふたりを乗せたタクシーはスタジオに到着しました。

「お客さん、あの0が1個多いんですけど?」

メーターが示す運賃は2,510円、太巻が支払ったのは25,000円でした。

「知っとるわボケ、アホンダラ!」

太巻は、タクシーの運転手をいきなり怒鳴りつけました。

「われアホンダラ、今車の中で話してたことアホンダラ、誰にも言うなよアホンダラ!」

ネームプレートを確認して太巻は運転手を名指ししました。

「 … 大江戸タクシーの黒川正宗さんよ!」

… ふたりを乗せたタクシーの運転手は、若き日の正宗だったのです。

「太巻さんは、パパを恫喝しました。得意の関西弁で … 」

普段は腰の低い優しげな口調の太巻ですが、元々実際の年齢よりも老けて見えるその強面の顔、関西弁で凄まれたら迫力がありました。

「もしアホンダラ、どっかに漏れたらアホンダラ、おどれの仕業だからなアホンダラ!

自分東京湾に沈められたいんか? アホンダラ!」


アホンダラ、アホンダラ、アホンダラ …

正宗は怯えた顔で固まって、太巻の言うことを聞いていました。

「よし、行こうか?」

太巻はコロッと元の優しい口調に戻って、春子に車から降りるよう促しました。

… ふたりが降りた後、ガタガタと震えが止まらない正宗 …

… … … … …

「スタジオに着くと、ちょうど帰ろうとしていた鈴鹿ひろ美とすれ違いました。」

「お疲れ様でした」

頭を下げる太巻 … 春子には「知らないフリ」をするように耳打ちしました。

… … … … …

ボーカルブースに入った春子、ミキシングルームから声を掛ける太巻。

「軽く歌ってみようか?」

ヘッドフォンをつけて、マイクの前に立った春子、『潮騒のメモリー』という曲名の譜面が置かれていました。

イントロが流れ出します … しかし、春子は緊張のあまり、歌いだしのタイミングを逸してしまいました。

「すみません」

謝る春子に太巻は言いました。

「大丈夫大丈夫、リラックスして … どうせ、人の歌なんだから」

「そのひとことで、スッと気持ちが楽になりました」

ふたたびイントロが流れ出しました。

♪来てよ その火を 飛び越えて … 砂に書いた アイ ミス ユー

春子の歌声を聴いて、スタジオ内のスタッフ、クライアントからどよめきが起こりました。

「いいじゃん」

「いけるよ」


♪北へ帰るの 誰にも会わずに 低気圧に乗って 北へ向かうわ …

… … … … …

春子の手紙を夢中になって読んでいるうちにアキは上野に戻って来ていました。

携帯プレイヤーに入っている『潮騒のメモリー』を聴き返してみます。

「 … これ、ママなのか?」

… … … … …

♪来てよ その川 乗り越えて 三途の川の マーメイド

友達少ない マーメイド マーメイド 好きよ … 嫌いよ …

見事、歌い終えた春子。

プロデューサーから、一発でOKが出ました。

スタッフから拍手が起こり、春子も歌い切った充実感を感じていました。

… … … … …

「そんなバカな?!」

アキは思わず声に出してしまいました。

< ママが歌ってたなんて … 天野春子が鈴鹿ひろ美のフリをして歌ってたなんて、『じぇ』がいくつあっても足りねえ … にしても、なして今まで黙ってたんだべ? >

そうこうしている間にアキは東京EDOシアターに着きました。

自分の名札を裏返して、休憩スペースに荷物を下ろしました。

「あれ、実家に帰ったって聞いたけど?」

チーフマネージャーの河島が声を掛けましたが、アキはヘッドフォンをつけたまま、春子の手紙のことで頭の中が一杯で気がつきません。

< やっぱり、消したい過去だったんだべか … >

あっ!

「えっ?」


アキが突然大声を上げたので、自販機で飲み物を買おうとしていた河島は誤ったボタンを押してしまいました。

出てきたのは … しょうが湯。

『お母さんがよろしぐって』

『 … お母さん?』

『天野春子って言います』

『なに、なに … えっ? 君、天野春子の娘?』

< あの反応 … 動揺 … 太巻さんにとっても消したい過去に違いねえべ? >

… … … … …

ちょうどその時、太巻が劇場入りして来ました。

「おはようございます」

太巻には気づいたアキは、ヘッドフォンを外して挨拶をしました。

振り向く太巻 … アキのことを見ても、表情ひとつ変えずに言いました。

「あれ、君辞めたんじゃなかったっけ?」

「いや … 今日からまた、お世話になります」


頭を下げるアキにただひとことだけ。

「あそ … 」

冷たく言い放つとさっさと行ってしまいました。

< そうかそうか、あの日から急に態度が変わったのも … そう考えれば、辻褄が合うべ。

太巻さんにとって天野春子は、過去に犯した不正を知る、ただひとりの存在。

その娘が今、アイドルの卵として目の前に現れ … >

「あれっ、手紙?」


春子の手紙が見当たりません … 辺りを見回すと、河島がそれらしき手紙を手にして、今まさに読もうとしていました。

「こらあっ!!」

「はっ、ごめんなさい … あの、落ちてたんで … 」


アキの剣幕に思わず謝った河島の手から手紙を奪い返しました。

「落ちてたからって、読むか? 普通?!」

目を剥いてにらみつけたアキ、おどおどする河島。

「 … 読みません、まだ読んでません」

「当たり前や、アホンダラアホンダラ … 」


完全に立場逆転です。

アキにかかると、チーフという肩書もかたなし … 何の意味も持たないようでした。

… … … … …

「アキ!」

奈落から上がってきたしおりがアキがいるのを見つけ、メンバー全員がアキの周りを取り囲みました。

「もう会われんと思っとったよ、いつ戻って来たと?」

真奈が抱きついて尋ねました。

「ついさっき」

「もう!」

「あ、お土産!」


アキが『ゆべし』を差し出すと、喜屋武が真面目な顔で言いました。

「この『ゆべし』さ、歯にくっつくよ」

笑顔で迎えてくれた仲間 … アキはGMTに帰ってきたことを実感していました。

「帰って来なくてもよかったのに」

水を差したのは有馬めぐでした。

「 … まあいいや、私すぐ上行くし、そしたらまたシャドウやってもらうからさ … 私のダンス、よく見てて」

… … … … …

「あと1分、あと1分!」

次の曲が始まるまでに衣装を着替えるため奈落は騒然としています。

アキは、レギュラーに昇格した薫子の衣装を直しました。

「ありがとう!」

奈落組に降格してしまっためぐですが、皆の手伝いをするわけでもなく冷ややかな視線で眺めているだけです。

♪暦の上ではディセンバー でもハートはサバイバー

しかし、曲が始まると、センターの位置に立って踊り始めました。

… … … … …

「鈴鹿ひろ美の主演映画『潮騒のメモリー』は、昭和61年の正月映画として公開され大ヒット。

主題歌もヒットチャートをにぎわせました。」

当時高視聴率を上げていた、タマネギみたいな髪型の司会者のベストテン番組でも『潮騒のメモリー』は、何週も1位を獲得していましたが …

「当初、鈴鹿ひろ美は頑なに歌番組に出ませんでした。」

自分の本業は女優であり、役を演じることでファンと関われる … 歌番組に出ることはポリシーに反し、歌手を本業とする人にも失礼 … というようなことを欠席の理由に挙げていました。

「そのことが、鈴鹿ひろ美をミステリアスで神秘的な存在に仕立て上げました。

でも、ママだけは本当の理由を知っていた … 」

♪来てよ その火を 飛び越えて … 砂に書いた アイ ミス ユー

映画の名場面やイメージをバックにして曲を掛けるだけの歌番組。

「いい ~ 何か健気、もう最高!

芝居も歌も上手くてさ、こんなに可愛いんだもんなあ … がんばんないとね、春ちゃんも」


何も知らない甲斐にそう言われて、春子は肩をすくめながらうなずくだけでした。

「うれしかった、鈴鹿ひろ美がほめられているのに、自分がほめられているように恥ずかしくて、ちょっと誇らしくて …

あの頃、街中何処へ行っても、ママの歌声が聞こえてきました。

鈴鹿ひろ美の『潮騒のメモリー』 … でも、本当は自分が歌っている、それを知っているのは、太巻さんと数人のスタッフ、それとあの運転手だけ … 」

… … … … …

「本当にいいの? … 私に付いてても女優にはなれないわよ」

無頼鮨のカウンター席、ひろ美はアキにそう尋ねました。

「いい … 」

「面倒くさいでしょ、私? … しかも、この先どんどん面倒くさくなるわよ、いいのそれでも?」

「いい … おら、鈴鹿さんさ一生ついていぐ」

< おら、また鈴鹿ひろ美の付き人に復帰しました >


何だかんだ言っても、ひろ美もアキがそばにいてくれることがうれしようです。

「一生はウソだ、当分はついて行ぐ … これお土産!」

アキは、ミサンガをひろ美に差し出しました。

「海女のミサンガ、お揃いだ」

腕をまくって、自分のミサンガを見せるアキ。

「ああ、切れると夢がかなうってやつ?」

アキはうなずいて、ひろ美の腕にミサンガを巻いてあげました。

他愛のないお土産ですが、ひろ美は喜んでくれました。

< もちろん鈴鹿さんを尊敬してるが、理由はそれだけじゃねえ … 鈴鹿さんとママと太巻さんの過去をもっと深く知りてえ、知る必要があると思ったからです >

「鈴鹿さんの夢って何?」


唐突にアキに聞かれて、ひろ美は少し考えて答えました。

「はあ … 世界征服と結婚!」

冗談なのか真面目なのか …

< 鈴鹿さんは知ってんのだろうか? … 自分の影武者がいたことを >

… … … … …

その日、太巻はいつものようにアイドルを訪れました。

しかし、浮かない顔 … 甲斐が声を掛けても返事もしません。

「無視か … 」

席に着いた太巻に春子が尋ねました。

「どうかしました?」

太巻は甲斐には聞こえないぐらいの小さな声で春子に言いました。

「鈴鹿ひろ美がテレビで歌いたいって言いだした」

「えっ?」

「しかも生意気に口パクは嫌だって … 参った、どうしよう?」



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2013年07月18日 (木) | 編集 |
第94話

アキの携帯に残されていた16件もの留守電のメッセージ。

「 … 皆、君の帰りを待ってる。だから、一緒に帰ろう!」

水口の言葉にアキの心が少し揺らいだ時 … 庭先に姿を現したユイを見て、アキは反射的に作業小屋に飛び込んで、内側から心張棒をかませてしまいました。

ひざを抱えてうずくまるアキ。

「何だよ、もう少しだったのに … 」

忠兵衛が母屋へと誘いましたが、11時の新幹線に乗らないと劇場のオープンに間に合わない水口には、あまり時間の余裕がありませんでした。

「おい、アキ、水口さん帰るってよ」

声を掛けてもソッポ向いたままです。

「やっぱり、ユイちゃんじゃないとダメみたいだな」

忠兵衛はそう言うと、後のことをユイに委ねて、組合長と一緒に出掛けて行きました。

「えっ?」

「アキちゃん」


作業小屋の戸を叩くユイを見て、驚いたのは水口です。

「えっ?」

今の今までそこに立っていた少女がユイだとは気づいていなかったのです … 無理もありませんが …

水口はユイの顔を覗きこみました。

「 … ユイちゃんなの、眉毛どうした?」

… … … … …

しばらくして … アキは内側にかませてあった心張棒を外しました。

扉を開けるユイ、入口の所で素直に謝りました。

「こないだ、ごめんなさい … 海女カフェで」

背中を向けたまま椅子に座っていたアキがユイを振り返りました。

「 … お互い様だ」

そう言って、アキの表情が緩みました。

「アキちゃんに当たっても仕方ないってことは分かってるんだけど … アキちゃんに当たるしかなかったの、やってらんなかったの」

「それもお互い様だ … アイドルも奈落も我がまま女優の付き人も、ユイちゃんのためと思わねえと我慢できねっていうか … ユイちゃんのせいにしねえと、やってらんねえっていうか … 」


ユイは、小屋の中に入って来ました。

「それなのに、冷めたとか言われて … 」

『あきらめた訳じゃなくて、冷めたの完全に … だって、ダサいじゃん』

「 … ダサいとか言われて、何か目的を見失ったっていうか … モチ、モチが」

「モチベーション?」

「んだ … あれれ、おら何のためにやってんだっけ? って考えちまったんだ」

「 … ごめんなさい」


… … … … …

水口は、取りあえず母屋に招かれて春子と話を聴いていました。

「まあ、ようするにさ … 今の自分を正当化するために、過去の自分を否定するしかないのよ。

ユイちゃんの眉毛がどっか行っちゃったのもきっとそうよ … 芸能界にあこがれてた、過去の自分を否定しないと乗り越えられなかったのよ。

私の場合はね、それが夏さんだったんだけどね ~ 」

「あ ~ ? 何でおらが出てくんだ?」


夏は囲炉裏でモチを焼いています。

「どんなにツラいことも、全部親のせいにして乗り越えて来たって話 … 夏さんが突き放してくれたおかげで」

「はあ、おめえさん方、随分複雑にできてんだな。

… 誰かのせいにしたり、自分を正当化しねえと右にも左にも曲がれない。

おらもっとシンプルだ。

海のそばさ生まれたから、潜る … それだけだ」


焼きあがったモチを水口に差し出しながら、そう言いました。

「立派立派、夏さんはご立派ですわよ」

… … … … …

「 … 海女さんは?」

イスに腰かけながら、ユイは尋ねました。

「アキちゃんは誰のために潜ってたの? … 私のため?」

「いや … 」


アキは心の中で自問自答しました … 答えはすぐに出ました。

「いや、おらのためだ、自分のために潜るんだ」

「じゃあ、自分のために歌ったり、踊ったりできない?」

「 … どうかな?」

「私のためにじゃなくて、自分のためにやってみなよ」


アキはユイの顔を見ました。

先日とは違って、優しい目でまっすぐにアキのことを見つめています。

「できる?」

アキには確かな自信がありません。

「やってみなよ … 私見てるから … 」

「ユイちゃん … 」

「冷めたんじゃなくて、あきらめた … その代りちゃんと見てるから、やってダメならまた帰ってきなよ」


『あきらめた』と口にしたユイの気持ちを考えると切なくなるアキでしたが … 今は、『見てる』と言ってくれたユイの言葉にただうなずきました。

「うん」

すると、ユイは持っていた袋から、色紙とマジックを取出しました。

「サインして」

微笑みながらアキに差し出しました。

一瞬戸惑いの表情を見せたアキでしたが、受け取って、慣れない手つきでサインをしました。

「 … あるんだ」

照れくさそうに笑ったアキ、それは2年前の北三陸秋祭りの時、ミス北鉄に選ばれたユイにサインをねだったアキが言った言葉でした。

「ありがとう、大事にする」

… … … … …

「 … 正直、ふたりともブレイクするのは無理だって、初めから思ってました。

で、どっちかって言ったら、ユイちゃんが … 」


夏と春子に話す水口。

「とうとう本音が出たな、水口」

夏はツッコミを入れました。

「でも今回、改めて自分の中でアキちゃんが、アキちゃんの存在がこう … クローズアップされてることに気づきました、ハイ」

水口は言葉を慎重に選んでいるように見えます。

「 … 何だろう … 何かこう、可愛いですよね?」

… 以前アキのことを、おたまじゃくしが可愛いとか、チンパンジーが可愛いとかと同じ可愛さだと例えた者もいましたが …

「気持ち悪いぞ、水口」

春子もツッコミました。

「だから東京帰ったら、ちゃんと本気で、戦略練って売り出そうと思ってます」

手放しでは喜べない … と複雑な表情の春子です。

「時間いいのか?」

「 … よくないです」


夏に言われて、水口は慌てて帰り支度を始めました。

「 … ああもう、お土産も買いたいし … お邪魔しました」

母屋から出た水口、作業小屋にはもうアキとユイの姿はありませんでした …

… … … … …

ふたりは、浜へ続く長い坂道を自転車で下っていました。

「アキちゃん!」

「何、聞こえねえよお! … ユイちゃん待って ~ 」


… … … … …

「夏ばっぱ!」

息を切らして帰ってきたアキ、夏の元に飛んできました。

「おら、やっぱり東京さ行ぐ!」

「そうか、せいぜいガンバレや」


内心は寂しいのでしょうが、それでも何かを吹っ切った孫に笑顔でエールを送りました。

「あれっ、ママは?」

… … … … …

… 春子は、2階の部屋で机に座り腕組みして考え込んでいました。

「あ ~ 面倒くせえ!」

舌打ちしたかと思うと、おもむろに机の上の便箋をめくってペンを取りました。

「こないだの続き … 」

… … … … …

北三陸駅。

発車のベルが鳴るホームに荷物を抱えたアキが走り込んできました。

< 1月10日、天野アキは再び、東京さ向かいました … >

駅舎には北三陸の人たちが見送りに集まってくれました。

「アキちゃん、やっぱり行ってまうのか?」

大の男どもがわんわん泣いていました。

「春ちゃんのことはおらさ任せろ、悪いようにはしねえ … 今度来るころには、おらと春ちゃんはきっと … 」

♪俺は海の底 ~

忠兵衛と並んで泣いていた磯野が『南部ダイバー』を大きな声で歌いだしたので、大吉の言葉がかき消されてしまいました。

「うるせえっ、南部ダイバー!」

♪南部ライダー ~

「ライダーつっちゃった … 南部ライダーか? このバカたれ!」

いつものことながら、泣いて笑っての賑やか過ぎる見送りでした。

「これはアキちゃんに、私が作ったの」

ユイが手渡したのは、琥珀のブレスレットでした。

「ありがとう!」

アキはそのブレスレットをミサンガの上にはめました。

… … … … …

走り出した列車。

アキはふと、手荷物の中に1通の封筒が入っていたのを見つけました。

手に取ると … 『アキへ』と書かれています。

「ママ?」

母の文字でした。

前回のこともあるので、すぐに封を開けてみます。

… … … … …

「こないだの続きです」

いきなり本題から始まりました。

「この手紙を書こうと思ったのは、アキのひとことがきっかけでした。」

『ちょっと疑ってたんだ … ママと太巻社長の間に何かあって、それでおら芽が出ねえんじゃないかって … 』

「事実として正確に知っておいてほしいから、正確に包み隠さず全て書きます。

昭和59年夏、アイドルを夢見てママは開通したばっかりの北鉄に乗って上京しました。

その頃、親身になってくれてたのが、マスターの甲斐さんとまだ駆け出しスカウトマンだった荒巻太一さん。

80年代半ば、アイドルは試行錯誤の時代でした … 」

橋幸夫プロデュースのセイントフォー、秋元康のおニャン子クラブ、女子プロレスリングのアイドル、クラッシュギャルズ …

… … … … …

「女子プロか … 春ちゃん、プロレスやれば?」

甲斐も冗談半分で言ったのかも知れませんが、春子は相手にしませんでした。

「無視か … 」

その時、カーディガンをディレクター巻きした太巻が慌てて店に駆け込んできました。

「春ちゃん、悪い … ちょっと来てくれるかな?」

「えっ?」

「甲斐さん、ごめん … 1時間だけ春ちゃん貸して」


太巻は甲斐の返事も待たずに春子を店の外へ連れ出しました。

… … … … …

乗り込んだタクシーで太巻は春子に事情を説明しました。

「鈴鹿ひろ美?」

「知らない? … 知らないか、まだデビュー前なんだけどね。

今うちが社運を賭けて売り出そうとしている清純派アイドル」


太巻は春子に鈴鹿ひろ美の写真とプロフィールを見せました。

「 … 可愛い」

「歳は君よりもひとつふたつ上じゃないかな … 主演映画が正月に公開される。

間違いなくブレイクする子だ」

「そうだ、運転手さん、カセットテープかけれます? … これ流してほしいんですけど」


太巻は取り出したカセットテープを運転手に手渡しました。

「 … で、今日はその映画の主題歌のレコーディングなんだけど … ちょっと問題がね」

「カーステレオから流れてきたのは、『潮騒のメモリー』のイントロ … そう、アキがお座敷列車で歌ったあの『潮騒のメモリー』でした … 」

… … … … …

♪来てよ その火を 飛び越えて … 砂に書いた アイ ミス ユー

しかし、その歌の音程はカラオケから大きく外れていました。

怪訝な顔をした春子に太巻は言いました。

「そう … 彼女、音痴なんだ」

「 … こういう歌かと思いました」

「そうだよね、逆に誰もこんな風に歌えないよね」


♪北へ帰るの 誰にも会わずに … 低気圧に乗って 北へ向かうわ

「ちょっと止めて、具合悪くなる … こっちかけて」

太巻はもう1本別のカセットを運転手に渡しました。

「 … で、もう時間がないんで、誰か歌える女の子を探して来てって上司に言われて、君のことを思い出したんだよ」

「私っ?」

「歌ってくれないかな? … 鈴鹿ひろ美の代わりに」

「ええっ … 」


カーステレオから流れ出したのは、男性が仮歌を歌っている『潮騒のメモリー』でした。

「あ、これ俺が歌ってます … あと30分あるから、繰り返し聴いて覚えて」

「覚えてって … 私の声がレコードになるんですか?」


太巻はうなずきました。

「 … 鈴鹿ひろ美の名前で?」

「頼むよお … 」


太巻は泣きを入れてきました。

「 … 断れなかった。

ううん、断る理由がなかったというべきかしら?」

… … … … …

「すみません、お待たせしました!」

太巻は春子を連れてスタジオに入りました。

「OK! よし行こう!」

「ママは、その日、マイクの前に立ちました。

鈴鹿ひろ美の影武者として … 」

「じぇ じぇ じぇじぇじぇじぇっ?!」

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2013年07月17日 (水) | 編集 |
第93話

スーツケースを曳き、地図を片手に足早に急ぐ若い女性、サングラスをかけていますが、一般人とはどこか違うオーラのようなものが感じられます。

女性が立ち止まった場所は、『まごころ第2女子寮』 … GMTのメンバーの合宿所です。

サングラスを外したその顔、アメ女の元センター、有馬めぐでした。

「マジかよ?」

古ぼけた建物を見上げてそう吐き捨てました。

… … … … …

合宿所に上り込んだ、めぐはズカズカとアキたちの部屋に足を踏み入れると、もの凄い勢いで、アキの私物を段ボールに詰め込むと廊下に出してしまいました。

メンバーは、有無をも言わさぬ雰囲気でテキパキと処理するめぐのことを遠巻きにながめていましたが、ベッドの布団まで片付けようとした時、流石に見かねたしおりが口を出しました。

「有馬さん、ここ天野アキちゃんのベッドでして、あんまりそういう … 」

「辞めたって聞いたけど」


めぐの言葉にしおりたちは顔を見合わせました。

「そうなの?」

松の内も明けたのに連絡もなく、今だに帰って来ないアキですが、他の3人も辞めたなんてことは耳にしていません。

「どいて、邪魔邪魔!」

めぐは構わずにアキの布団を廊下に運び出してしまいました。

「 … っていうか、アキちゃんいつ帰ってくるんだろう?」

不安いっぱいのしおりはつぶやきました。

… … … … …

「大変だ、大変だ! 菅原、栗原 ~ 」

大騒ぎの大吉が観光協会に飛び込んできました。

ヒマなのか、保とヒロシはストーブを挟んでモチを焼いている最中でした。

「じぇっ、ストーブがストーブでモチ焼いてる」

「うるさい、正月早々大雑把なこと言わないでよ」


お茶の準備をしていた栗原がにぎやか過ぎる大吉に眉をひそめました。

「これ聞いて『じぇ』って言わなかったら、お年玉やるぞ!」

今日の大吉は自信満々で言い切りました。

「楽勝じゃん」

「俺、絶対言わない自信ある」

「絶対大丈夫だ、さあ来い先輩、何?」


大吉が大変だということなど、たかが知れてる … 3人はなめてかかっています。

「よしっ、いくど …

アキちゃんが、海女カフェで働いてる!」

「 ……… じぇえっ!」


我慢しきれずに保が声に出してしまいました。

… … … … …

早速、様子を窺がいに海女カフェを訪れた大吉、保、ヒロシ。

フロアを覗くと、海女姿のアキが生き生きとカフェの中を動き回っています。

客の方も会えるとは思っていなかったアキがいるので大喜です。

「これは、ひょっとしたら、ひょっとするべ?」

「えっ、何がだじゃ? 先輩」

「鈍いな、潮騒のメモリーズ再結成に決まってるべ!」

「じぇじぇ、それは … じぇじぇ!」


客との記念撮影にも笑顔で応えているアキ。

「アキちゃん、東京では中々芽が出ねえで伸び悩んでいるようだが …

見ろ、地元じゃ断トツだべ?!」


確かにかつ枝やカタカナ言葉に弱い弥生などに注文を取られるより、アキに接待された方がどれだけいいことか。

「こりゃ、掃きだめにツルだべ?」

思わず口にした保 … いつの間にいたのか組合長もうなずきながら言いました。

「んだ、昨日まではツルもいねえ、掃きだめだった」

「 … 掃きだめカフェか?」


若い海女見習いも何人かはいますが、それでもアキがいるだけでカフェの雰囲気が全く違いました。

「これで、ユイちゃんが復活してくれたらなあ」

ヒロシにプレッシャーを与える大吉。

… … … … …

梨明日、閉店の時間。

春子が表の灯りを落としました。

ひとり残っている客の勉さん、一心不乱に琥珀に磨きをかけています。

「それ、綺麗 … 」

ユイがポツリとつぶやきました。

「 … 貸して、やりたい」

ユイが琥珀に興味を持ったのは初めてです。

一瞬驚いた勉さんですが、隣の席に腰かけたユイに持っていた琥珀と道具一式をうれしそうに手渡しました。

ユイは勉さんのやっていたように琥珀を磨き始めます。

「あんたさあ、今日どうするの?」

テーブルの上を片付けながら、春子がユイに尋ねました。

「友達んちに泊めてもらいます」

「 … 本当に友達?」


春子はユイの顔をのぞきこんで聞き直しました。

「はい … 友達っすよ」

琥珀を磨きながら、ユイは答えました。

「 … いいけど別に、あんたの親じゃないしさ」

洗い物を流しに運んだ時、春子はふと思い出しました。

「そうだ … アキが気にしてたよ、ユイちゃんのこと傷つけちゃったって」

「えっ?」


顔を上げるユイ。

「あの子ね、大分凹んでるみたい … こっちに来て随分鍛えられたと思ったけど、東京行くとダメね。

なぐさめてやってよ」


… … … … …

「しばらくは、ユイも全然まともだったんだよ」

こちらも閉店後の海女カフェ。

アキとふたりでフロアの掃除をしながら、ヒロシが話しはじめました。

「親父が倒れた時も至って冷静で、あきらめてないどころか、いつでも東京行けるように荷造りもしてたし … 俺が職場に復帰して、親父がリハビリ始めた頃だったかな、ユイが観光協会飛び込んできてさ …」

… … … … …

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、歩いた、お父さん歩いたよ!」

「じぇじぇっ?!」


息を切らしながら、それでもうれしそうに笑顔でユイは報告しました。

「病室からエレベーターまで壁に手をついて歩いたの、しかもしゃべったの!」

「うんうん、ユイちゃんごめんね … 一応これでも、今会議中だから」


ジオラマ製作会議とでもいうのでしょうか …

保はそう言いましたが、興奮しているユイは、話し続けました。

「ダジャレ言ったんです」

「じぇじぇれっ?!」


驚いたのは保です。

「『美空りはびり』って言ったんです。

そして、看護師さんが『えっ?』って聞いたら、『前田リハビリ』って言ったんです、かぶせて来たんです」


電話でもいいものを、少しでも早く誰かに直接話したくて、急いで走ってきたのでしょう。

兄妹が顔を見合わせて笑ったのは、いつ以来でしょう?

「ははは、先生だな … 良くも悪くもそれは、足立先生だな」

「ずっと考えてたんだよ、きっと … 」


ユイは涙ぐみ言葉に詰まりました。

… … … … …

「あの頃がひょっとしたら、足立家の一番幸せな時期かもね … 今思えば」

1日も早い、功の病気の回復を願って、家族の気持ちがひとつになっていた頃 …

「ユイもアキちゃんからこんなメールが来たとか、アキちゃんのおかげで私も頑張れるとか、精一杯前向きだったし … 」

「やっぱり、お母さんですか?」


アキは遠慮がちに尋ねました。

「うん … いなくなって、完全に道が断たれたと思っちゃったみたい」

「やっぱり …

一緒に行くべきだったんだ、おらが待っててやればよかったんだ」

「アキちゃんは何も悪くないよ」


しかし、アキの後悔の気持は大きくなるばかりです。

「ふたりで行けたら、100人力だったのに … おらが抜け駆けしたから、だから … パッとしねえんだ」

ヒロシはかける言葉が見つからずに目を伏せました。

その時、アキの携帯に着信が … 水口からでした。

「ああ、もう … うるせえ!」

アキは携帯を思い切り閉じました。

… … … … …

次の日の朝。

アキが夏がさばいた魚が入った桶を持って母屋から出ると、作業小屋で忠兵衛が何か一生懸命にやっているのが見えました。

「何してるの?」

「おおアキか、タコ生け捕りにする仕掛け作ってるんだ」


黙々と手を動かす忠兵衛。

「祖父ちゃんはさ、漁さ出たくねえなって思ったことはねえの?」

アキはふと忠兵衛に尋ねてみました。

「行ったら、1年は行きっ放しでしょ?

『やんだなあ、行ぎたくねえな』って思わねえの?」

「まさに、今がそうだべ」

「ああ、そう言えば、去年も行くだの行かないのだの大騒ぎしてたな」


昨日も組合長に「イカ釣り船の人出が足らないから」と乗船を頼まれたのですが、「人数合わせはごめんだ」と断ってしまったと、祖父は話しました。

「 … 今、激しく後悔してる」

身につまされる思いか … 考え込んでいる孫の顔を見て、忠兵衛は言いました。

「アキもか?」

「 … んだ、海女カフェでバイトしてるのも、現実逃避だ」

「おらも現実逃避中だ … 今の季節、タコなんかいねえし」

「現実はつれえなあ」


共感しあった忠兵衛とアキ、ため息をつきました。

「お互いにな、行けば行ったでなんとかなるんだが … 行くまでがつれえ」

… … … … …

その時、作業小屋の戸が勢いよく開きました。

「じぇっ?!」

驚いたアキ、血相を変えた水口が立っていました。

「何故、何故出ない電話に君は?」

坂を駆け上がって来たのか、呼吸の荒い水口。

「出て、電話に! … 出れなかったら、すぐ折り返して!」

「すみません … 」

「頼むよ、ホント」

「えっ、そのためにわざわざ東京から来たんですか?」

「いや … 明けましておめでとう」


気を取り直した水口は、アキに続けて、忠兵衛にも新年のあいさつをしました。

「いつまでいるの?」

そして単刀直入に尋ねました。

「分がんねえ」

しかし、素っ気なく答えたアキは、桶を持って庭に出ました。

「皆、待ってるよ」

「おらの代わりなんていくらでもいるべ?」


さばいた魚を吊るした網に干しはじめました。

「 … 何ですか?」

何か用があるのか、さっきから水口の後ろを組合長がウロウロしています。

「いや、急ぐ用事でねえから」

「 … 気になるから」


水口に譲られて、組合長は前に出て忠兵衛に言いました。

「忠兵衛さんよ、いつまで陸さいるつもりだ?」

忠兵衛はアキを手伝って魚を干しながら答えました。

「分がんねえ」

「そろそろ船に乗ってもらわねえと、若えもんから文句が出る」

「おらの代わりなんてなんぼでもいるべ?」


… どこかで聞いたようなセリフです。

… … … … …

「バカなこと言ってるんじゃないよ!」

「すみません」


水口はアキに言ったのですが、勘違いして謝ったのは忠兵衛でした。

「いや … アキちゃんね、GMTには君の力が必要なんだよ」

「ウソだ、頭数さえそろえばいいと思っているクセに」


アキはへそを曲げはじめています。

「そんなこと … 」

「思ってねえよ、忠兵衛さんよお」


絶妙のタイミングで口を挟んだのは組合長です。

「 … うるさいなあ、こっち先に済ませていいですか?」

「はいはい」


取りあえず、後ろに引っ込む組合長。

水口はアキに面と向かいました。

「わざわざ来たんだから、おらじゃなくユイちゃん連れてったらどうだ?」

「えっ?」

「可愛い方が目当てなんだべ? … だったら、可愛い方連れてって、可愛くプロデュースすればいい!」

「 … 留守電、聞いてないの、君?」


… 聞いていません … 留守電が入っていることさえ確認していませんでした。

「マネージャーからの電話に出ない、折り返さない、留守電聞かない … タレント失格!」

「 … すみません」


流石のアキも自分の非を認めました。

「すいませんじゃなくて、早く聞いて! 今聞いて、今!」

「直接しゃべったらいいべ?」


組合長じゃなくてもそう思うでしょう、でもそれなりの理由がありました。

「嫌だ、同じことなんて言えないし、昨日のテンション、到底持ってけないし … 」

アキは渋々、留守番電話につなぎました。

『メッセージは、16件です … 』

「じぇじぇっ!」

… … … … …

『もしもし、天野? … 水口です。今は1月7日の夜です … 1回しか言わないからちゃんと聞いてくれ。

ここ数日、君のことを考えてる … 正確には君のいないGMTの未来を考えて、激しく落ち込んでる。

俺はずっとユイちゃん派というか、ユイちゃんをセンターに抜擢しようとしてきた。

でも … 』


(ピーッ)

最初のメッセージはここで切れました。

アキは水口の顔を見つめました。

「そんな見るなよ … 」

水口はきまり悪そうに顔をそらしました。

そうしているうちに次のメッセージが始まります。

『もしもし、水口です … さっきの続き。

そんな逆風の中で君は、4ヶ月かけて自分の立ち位置を獲得した … もう君は、ユイちゃんの相方じゃないよ、GMTの天野アキだ!

訛ってるけど、40位だけど、最下位だけど、それが … 』


(ピーッ)

『水口です … それがどうした?

誰が何と言おうと、君の代わりは君しかいないんだよ … そんな君を売り出すことが、マネージャーとして、僕の … 』


(ピーッ)

『水口です … 入間に代わります』

「えっ?」

『しおりです … 一緒に天下取るって約束したじゃん、アキちゃん、アキっ!』


(ピーッ)

『真奈です … アキちゃんがおらんとくさ、奈落のお通夜んごと静かやけん、早う帰ってきて』

(ピーッ)

『小野寺です … 早く帰って来ねえと私、有馬めぐと相部屋になっちゃうから』

(ピーッ)

『♪ざわわ、ざわわ、ざわわ … 』

(ピーッ)

… 喜屋武でした。

メッセージはまだ続きます。

『 ……… 』

(ピーッ)

『今のは大将の梅頭さんだ … 天野、皆待ってるぞ、頑張れよ!』

種市からでした。

(ピーッ)

『 … 帰ってくる時、磯汁の缶詰。3つばかり買ってきて … いらっしゃい、そばですか? うどんですか? まめぶですか?』

小百合でした、仕事中にかけてくれたようです。

(ピーッ)

そして、思いがけない人からもメッセージが …

『天野さん、明けましておめでとう … 』

「鈴鹿さんだ!」

『あなた、田舎帰っちゃったんですって? … はっ、ちゃんちゃらおかしい、ははは … 』


『 … メッセージは以上です』

… … … … …

「ねっ、俺だけじゃないんだ … 皆、君の帰りを待ってる。

だから、一緒に帰ろう!」


水口の言うようにこれほど多くの人が自分の帰りを待ってくれているなんて … 思いもしなかった。

アキの心が少し揺らいだ時 … 庭先に姿を現したのは、ユイでした。

その姿を見て、アキは反射的に作業小屋に飛び込んでいました。

そして、内側から心張棒をかませてしまいました。

うずくまるアキ。

「何だよ、もう少しだったのに … 」

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2013年07月16日 (火) | 編集 |
第92話

2010年1月2日

< ユイちゃんと大ゲンカした翌日1月2日、喜屋武ちゃんはやっぱり沖縄に帰ると言いだしました >

アキの家族や地元の人に触れ、里心がついて、自分も故郷に帰りたくなったのでしょう。

アキと夏は喜屋武を北三陸駅まで見送りに来ました。

取りあえず、駅務所に腰を下ろした3人。

「何かごめんね、おかまいもしませんで」

「ううん、でえじ楽しかった … おじいからさ、外国の話もいっぱい聞けたし」


アキと夏は顔を見合わせて笑いました。

「苦手なウニも克服できたし」

「ほら、電車ん中で食え」

「ありがとう、夏ばっぱ」


夏お手製のウニ丼を喜屋武はうれしそうに受け取りました。

… … … … …

「アキ、いつ帰ってくるの?」

「ああ … 決めてねえけど、2、3日かな?」


そんな話をしていると、吉田と観光協会の栗原がやってきました。

「取れたよ、航空券 … 花巻空港発那覇行」

栗原は喜屋武にチケットを手渡しました。

「ありがとうございます」

「いいか、1回しか言わねえぞ」


吉田が勿体ぶって始めたのは、喜屋武が北三陸から花巻空港へ行く経路の説明です。

「北三陸鉄道リアス線で宮古まで行き、宮古から盛岡まで山田線、そっから花巻まで東北本線、そっから … 」

… … … … …

喜屋武の見送りを終えて夏とアキが家に帰ってくると、忠兵衛と春子が茶の間のテレビを片付けていました。

「何してるの?」

「何ってさ、今日あんたのドラマの放送日でしょ?」


すっかり忘れてた、アキです。

「これを機会に我が家もなんだ … ハードなんとかディスクなんとかレコーダーを導入することにしたべ」

ビデオデッキを外しながら、忠兵衛が言いました。

「プラズマテレビもな」

大吉の後について電気屋が32型のプラズマテレビを運び込んできました。

「記念すべき女優デビューだ。いい画像で録画しねえと」

「そんな止めてよ、チョイ役だってば!」


大吉に言われて、アキは恥ずかしがりましたが、やはり悪い気はしません。

… … … … …

「アキさあ、ちょっとちょっと … 」

春子が小声でアキを台所の方へ連れ出しました。

「あんたさ、昨日さ … ユイちゃんと何かあった?」

「えっ、ああ … 」


『おらじゃなくて、ユイちゃんが東京さ来ればよかったのにって … ユイちゃんの夢も叶う … 』

『そんなこと軽々しく言わないでよ! … 母さん蒸発して、病気の父さん置いて行ける訳ないでしょ?!』

「ちょっと … 」

言葉を濁すアキ。

「ちょっとって何よ?」

「 … ひどいこと言って、傷つけてしまった … 謝っておいてけろ」


それだけ言うと2階へ上がって行ってしまいました。

「えっ?」

春子はユイからも同じようなことを聞いていました。

『私、アキちゃん傷つけちゃった … 』

そう言いながら、春子の腕の中でただ泣いていたユイ …

… … … … …

『どんだけ不幸か知らねえが、ここで過ごした思い出まで否定されたら、おらやってらんねえ!』

売り言葉に買い言葉とはいえ、ユイを傷つけるようなひどいことを言ってしまった … ベッドに横たわって昨夜のことを思い出すアキ …ものすごく後悔していました。

「アキ?」

部屋に入ってきた春子はベッドに腰かけました。

「何だよお?」

「東京の話聞かせてよ … どうなの、芸能界?

何かないの?

裏話とかさ、誰と誰ができてるとかさ、誰の年収がいくらとかさ、そういうゲスいのちょうだいよ!」


春子はアキにまとわりついてきます。

「知らないよ!」

「じゃあ、誰の年収なら知ってるのよ?」

「誰の年収も知らないよ!」


それでもまだあきらめない春子。

「鈴鹿ひろ美って、性格悪いんでしょ? … 酒癖も悪いんでしょ?

悪いって言ってよ、お願いお願い!」

「何なんだよ!」


アキはベッドから逃げ出しました。

「うれしいんだよ、久しぶりに会えて … だってさ、4ヶ月も会わないのなんて、あんた産んでから初めてじゃん」

春子はアキに抱きつきました。

「ああ懐かしい、東京の匂い、東京メトロ銀座線の匂い ~ 」

じゃれあうふたり。

… … … … …

「あっ、太巻さんと話したよ … ママがよろしくって」

「そう … 何か言ってた?」

「びっくりしてた」

「びっくりするわよね、そりゃあね」


意味ありげに笑った春子。

アキは思い切って聞きました。

「 … ねえ、どんな関係だったの?」

「どんなって … 喫茶店のウエイトレスと客だよ。

見た目老けてたけど、26って言ってたな … 」


… … … … …

「いろいろ相談に乗ってもらってたの … 」

1985(昭和60)年、春子は原宿にある純喫茶「アイドル」のウエイトレスとして働いていました。

ある日、春子が店に出勤すると、店主の甲斐がカウンターに座っている男性を紹介してくれました。

その男が若かりし頃の太巻こと荒巻太一だったのです。

太巻はまだ駆け出しですが、スカウトマンでした。

「荒巻さん、この子、アイドル目指してる」

「へえ、そうなんだ?」


春子は以前にも店でみかけたことのある太巻を芸能関係の人間であると知っていました。

「はい、天野春子です。あっ!」

春子は、自分のデモテープがあったことを思い出して太巻に渡しました。

「ああそう、プロフィールとかないの?」

「 … そういうのは、まだなくて」

「そっか、じゃあ今度撮ってあげるね … 写真と履歴書ぐらいいつでも持っておかないとね」


春子は舞い上がり気味にうなずきました。

「それから、その髪型 … 」

「はい、これ聖子ちゃんカットです!」

「うん、知ってる … でもね、もう聖子ちゃんもそんな髪型してないよ」


太巻はカウンターの後ろに貼ってある松田聖子のシングルレコードのジャケットを指差しました。

「じぇっ!」

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… そのシングルは『天使のウインク』、1985年1月にリリースされた松田聖子20枚目のシングル。

シングルとしては初めて作詞作曲に尾崎亜美を起用した作品でした。

松田聖子がいわゆる聖子ちゃんカットをバッサリと切って、ショートヘアになったのは、1981年の年末、翌年1月発売の『赤いスイートピー』のイメージに合わせてのこと。

春子が家出、上京した1984年には、もう聖子ちゃんカットはしていなかった … ことになります。

… 閑話休題。

… … … … …

「 … それで?」

「えっ、それだけ」


春子の話はそれで終わりでした。

「その気になってねえの?」

「なってたら、今ごろこんなとこにいないよ」


… ごもっともでした。

アキは、ホッと息をつきました。

「なあんだ、そっか、そうだよね … ごめん!」

「何よ、ごめんて?」

「 … ちょっと疑ってたんだ。

ママと太巻社長の間に何かあって … それで、おら目が出ねえんじゃねえかって」

「はあ、何それ?」

「ダメだダメだ、思うように行かねえからって … 人のせいにしちゃダメだよね?

んだ、おらのせいだ、実力だ」


自分自身に言い聞かせるように何回も何回もうなずくアキ。

春子はその様子を見て、少し不安になってきました。

「アキ?」

「ああ、腹減った … 夏ばっぱ、モチ焼いてけろ!」


アキは下へ降りて行ってしまいました。

… … … … …

その夜。

天野家には、新年会を兼ねてアキが初出演した『おめでた弁護士』を一緒に観るために長内元夫妻、今野夫妻、海女クラブの面々が集まって来ました。

< 北三陸地方の正月といえば、『煮しめ』と『なもみ』です。

『なもみ』のルーツは秋田の『なまはげ』と一緒で、見た目も限りなく『なまはげ』なので、地元の人でもたまに間違えます >


『なもみ』に扮した忠兵衛と組合長、訪れる人訪れる人に向かって、飛び出して脅かそうとします。

なりきっている本人たちはそれなりに楽しんでいるようですが、脅かされる側は、イマイチ、薄い反応 …

「『なまはげ』、もういいからそろそろ座ってテレビ見ろ!」

「『なまはげ』でねえよ、『なもみ』だよ!」


夏にまで『なまはげ』と呼ばれてしまった忠兵衛でした。

… … … … …

『おめでた弁護士』の放送はすでに始まっていました。

「あっそうだ、アキ、おめえ何時に出るのだ?」

「まだ先だ。島田って男が行方不明になってからだ」

「よし島田が行方不明になってからだと」


皆、続々と席について飲み食いしながら、アキの出番を待ちました。

『島田さん、先週引っ越しましたよ』

… たったひとことのセリフ、この数分いや数秒のワンシーンに40回もNGを出して女優失格の烙印まで押されてしまいましたが、それでも放送されるのを楽しみに待っているアキでした。

「あれ、春ちゃん、今日スナックは?」

この時間になっても春子が家にいるので、今野が尋ねました。

「ああ、ユイちゃんに任せてきたの」

… … … … …

スナック梨明日。

ユイが無愛想に水割りを出した相手は、磯野でした。

他に客は勉さんだけです。

それもそのはず、ほとんどの常連は天野家の新年会に行っているからです。

磯野はヘンに緊張しているし、勉さんはいつものように琥珀を磨いていて、お互い離れた席に座っているので会話もありません。

お通夜の席でももっと賑わっているでしょう。

「いらっしゃい」

入ってきたのは、吉田です。

「 … 静かだな、違う店みてえだ」

吉田が水割りを注文すると、ユイは返事もせずに作り始めました。

… 沈黙 …

「ごめん、限界!」

耐え切れなくなった吉田はテレビを点けました。

映ったのは『おめでた弁護士』。

… … … … …

ふたたび天野家。

「こんばんは!」

美寿々が連れてきたバングラディッシュ人の彼氏カマールが、忠兵衛たちの『なもみ』に驚いて、悪霊だと言って棒を振り回しています。

「俺だ、組合長だ!」

「カマール、カマール、悪霊じゃないの! ナマハゲ、ナマハゲ!」


怯えるカマールをなだめる美寿々。

「だから、『なまはげ』じゃねえって、『なもみ』だよっ!」

あくまでこだわる忠兵衛。

… … … … …

「春子、酒!」

囲炉裏端、それも上座に腰かけた大吉が春子を呼びました。

「じぇじぇ、大吉っつあん飲めるようになったのか?」

一滴も飲めなかったはずの大吉、かつ枝が驚いています。

「薄いカシスオレンジだったら、飲めるんだって」

酒を造りに奥へ引っ込んだ春子、入れ替わりで寄ってきた弥生が大吉に尋ねました。

「どうなの、プロポーズの返事は?」

「まだだ … でも、ノーと言われない限り、イエスだと思ってる」


プラス思考の大吉でした。

「いつの間にか亭主みていな顔して、上座さ座っているっつうのは、大した度胸だど」

「んだんだ、この間までは、この玄関先が定位置だったもんな」


感心する長内夫婦。

「んだんだ、ちょっとずつ、ダマしダマし移動して … 上座まで!」

今野が身振り手振りで乗せると、大吉は大きくうなずきました。

「長え道のりだった、もう動かねえぞ!」

… … … … …

「あっ、アキだ!」

ふとテレビに目をやった弥生が大声をあげました。

一同、慌ててテレビの前に集まります … 一番慌てたのは、テレビの前で控えていたアキ本人でした。

まだ当分自分が出る場面ではありません。

♪いらないバイク、買い取るぞう ~ いらないバイク、買い取るぞう ~

「CMじゃねえか、もう! … 弥生さん、ちゃんと見てて!」

いつもの早とちりでした。

「あの子ね、女優さんなのよ」

美寿々がカマールにアキのことを教えました。

「女優? … アクトレス! 濡れ場、最高!」

「 … 濡れ場はまだなんだけどね」


突然、大吉がアキの横に座りました。

「アキちゃん、あのな … 」

真剣な顔で何か言おうとしています。

「R指定、最高!」

「黙ってろ!」


カマールに話の腰を折られた大吉が怒鳴りました。

「アキちゃん、もし … もしも、俺が春子と再婚したら、『パパ』って呼んでくれるかい?」

「じぇっ?! … いや、今ちょっとテレビ」


それでもしつこく食い下がる大吉。

「じぇっ?! … それ今じゃないとダメですか?」

鬼のような顔でうなずく大吉。

「待ったなしだぞ、アキ」

横からもかつ枝が迫りました。

「あっ!」

また大声を上げた弥生。

「どこだ、どこだ、今度こそどこだ?」

今度こそアキが映ったのかと集まる一同。

「 … 年賀状、ポストさ入れるの忘れでた」

自分のバッグから葉書の束を取り出した弥生。

がっかりしながらも、あきれて大笑いの一同。

… … … … …

「あっ!」

アキが声をあげました … 今度こそ、アキが出るシーンです。

「どこだ、どこさいる?」

「まだ … もうすぐ出てくる」


鈴鹿ひろ美がマンションの廊下を歩いてきます。

「やっぱ美人だな、鈴鹿ひろ美は」

組合長の言葉に、春子が返しました。

「でも、絶対性格悪いよね?」

「いや、こんだけ美人だったら … 性格はどうでもいいべ」


ひろ美の手が被疑者の部屋のチャイムに伸びて …

「あっ!」

鳴らしました … 次がアキの出番です。

向かいの部屋のドアが開いて、アキが顔をのぞかせました … 次にセリフ … 

のはずが … 再び、ひろ美の顔が映って、数回チャイムを鳴らし続けて … 

♪いらないバイク、買い取るぞう ~ いらないバイク、買い取るぞう ~

CMに入ります。

呆気にとられる一同 …

「いや … ど、どこさいた?」

夏が皆に尋ねました。

「向かいの部屋から出てきた … だよね?」

美寿々に聞かれてアキはうなずきました。

「 … 今ので終わりか?」

キツネにつままれたような顔の忠兵衛。

「そんな、わけねえべ? … なあ?」

「 … うん」

< セリフ、カットされた … 1個しかねえセリフ、カットされてた。

言えない、もう出てこないなんて … >


… 春子だけは、どういうことか理解したようでした。

… … … … …

梨明日。

ドラマはすでにエンドロールが流れ始めています。

「あらあら、終わっちまった … 」

「アキちゃん、どこさ出てた?」


結局、吉田と勉さんには、あの一瞬は分からなかったようです。

「おらあ、わかったど!」

「どこっ?」


磯野に注目するふたり。

「バイクのCM?」

… ユイもどういうことか理解したようで、目を伏せました。

… … … … …

新年会もお開きになった後、アキに水口から電話が入りました。

水口はすでに合宿所に戻って来ています。

「見たよ、セリフなかったね … でもそういうのはよくあることで」

「 … そうなんですか?」

「台本ちょっと長かったから、カットされちゃう気がしてたんだよね」


茶の間では、夏がハードディスクに録画したアキが出る数秒のシーンを何回も再生、停止を繰り返して見ては喜んでいます。

その様子をチラッと見たアキは階段に腰かけて電話を続けました。

「やっぱり私の芝居がよくなかったんですよね?」

「違う違う」

「40回もNG出したからですよね?」


アキはいつの間にか標準語で話しています。

「アキちゃん、いちいちそんな風に考えてたら、芸能界でやっていけないよ」

「すみません」

「 … で、元気? 皆いつもと変わらない?

で、いつこっちに帰って来れるかな?」

「 … 」


… 電話はすでに切れていました。

… … … … …

玄関から誰かが出ていく気配に気づいた春子。

戸を少し開けて覗くと … 作業小屋で、灯りも点けずにイスに座っているアキの背中が見えました。

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2013年07月15日 (月) | 編集 |
第91話

< おら、4ヶ月ぶりに北三陸に帰って来ました。

… はじめてのドラマ出演ではNGを連発して、あこがれの鈴鹿さんがら見放され … >


『女優はダメ、向いてない』

< 人気投票ではGMTの最下位、繰り上げ当選で解雇は免れたものの … >

『次なんかないよ、君を必要とする人間はここにはいない!』

< でも、地元の皆は温かく迎えてくれました。

… ただ一人を除いて >


… … … … …

アキをメールで呼び出したのは、ユイでした。

閉店後の薄暗い海女カフェ、ステージに腰かけてユイは待っていました。

マニキュアを塗っているユイは、アキが来たことに気づいて、少し顔をあげましたが、また元のように続けています。

< これは、どういうつもりだ? … 夜中にわざわざ呼び出して >

「あの ~ 」


アキが声を掛けても、チラッとにらんだだけで、そのままで話すこともしません。

< 爪が渇くまで、待てってことか? >

手持無沙汰のアキは、ステージをぼんやりと眺めていました。

こうしていると、潮騒のメモリーズの歌声が空耳のようによみがえります …

… … … … …

「 … 懐かしい?」

ようやくユイが口を開きました。

「えっ? … ああ、んだな、4ヶ月しか経ってねえのに … もっと長く行ってた気がする」

「ここでイベントやったよね … 何だっけ?」


何だか気だるそうに話すユイ。

「海女~ソニックだ」

「そうそう … テレビで生中継もされたよね」


ユイが鼻で笑ったように聞こえました。

「んだんだ、楽しかったよね?」

「全然 … 楽しくなかった、私は全然 … あんなの消したい過去」


出鼻を挫かれたような、思ってもみなかったユイの言葉 … アキはどう反応したらいいのか分からずに、少し離れた位置に背中を向けて腰かけました。

「忙しくて、帰って来れないって聞いたけど … 」

「ああ、何かヒマになっちゃって … ひとりで正月迎えるのも寂しいし … お父さん、退院したんでしょ?」

「うん? … ああ、そうみたいだね」


ユイは他人事のように言いました。

… … … … …

梨明日では、久しぶりに顔を見せた功を囲んで、和やかな宴が続いていました。

「それでは、死の淵から見事生還した足立先生から新年のご挨拶ば」

保に指名されて功はビールを注がれたグラスを手に挨拶を始めました。

「え~ ご心配をおかけして、なんかすみません」

死の淵から生還した割には軽い挨拶だとヒロシがつっこむと、功は笑いながら言いました。

「ピンとこないんだよ、意識なかったからさ」

「危なかったんだぞ、もしユイがリビングに下りてこなかったら今頃 … 」

「ま、もう大丈夫 … とにかく皆さんね、健康にはくれぐれも気をつけて … 」


拍手、そして乾杯 … 

… … … … …

「家帰ってないの、最近。

友達んちとか泊まり歩いてるから … 」


アクビまじりに話すユイ。

「じゃあ、来れば? … 東京おいでよ、皆待ってるよ」

「皆って誰?」


振り向いたユイは薄笑いを浮かべていました。

「水口さんとか、太巻さんとか … あとメンバーも会いてえって」

「メンバア?」


アキは噛み合わなくなっているユイとの歯車を元に戻そうと、懸命に話し続けました。

「沖縄の子は駅で会ったべ? … あと宮城の子もいるし」

「もういいわっ!」


ユイは携帯の待ち受けにしている集合写真を見せようとしたアキの手を叩きました。

… … … … …

「もういい、やめた … 行かない、やりたくない」

フラフラと立ち上がるユイ。

アキは我が耳を疑いました。

「えっ?」

「もうアイドルとかどうでもいい、関わりたくない」


アキはそれでも気を取り直し、携帯を拾うとユイに言いました。

「大丈夫だよ、皆性格いい子だし、ユイちゃんのことセンターに相応しいって言ってるよ」

ユイはアキの顔をじっと見てから答えました。

「 … あきらめたんじゃなくて、冷めたの完全に。

だって、ダサいじゃん」

「ダサい?」

「ダサいよ、あんなの … オタク相手に生足出して、媚び売って、真ん中に立って、それがなんなの?」


笑いながらカフェの中を歩き出しました。

「『暦の上ではディセンバー』、だから何? … 絶滅危惧種、下町アイドル … 知らねえよ」

… ダサいと言う割には結構くわしいユイ、ディスプレイされているアメ女のCDを手で弄びました。

「その下でしょ、ようするに … ダサいアメ女のダサい妹分がGMTなわけでしょ? ウケル!!

今となっては、あんなものに夢中になってた自分が恥ずかしいっていうか … もう汚点だよ」


ユイは帰り支度を始めました。

「昔の自分を知ってる人に会うのが本当に嫌。

… ミス北鉄とかホント無理、勘弁してほしい!」


ユイは思い切り言い捨てました。

… … … … …

「そりゃねえべ?」

黙って聞いていたアキですが、我慢ができなくなりました。

「せいぜい頑張ってよ、応援してますんで」

軽くお辞儀してカフェを出て行こうとするユイの腕をつかんでアキは引き留めました。

「そらねえべ、ユイちゃん、あんまりだ!」

アキとユイは今日初めてまともにお互いの顔を見つめ合いました。

「 … ずっと待ってたんだぞ、ユイちゃんのこと。

必ず行ぐって、すぐ行ぐって言うから待ってたんだぞ」


『アキちゃんは行って … 大丈夫、すぐ良くなるから、必ずすぐ行くからね … 

すぐ行くからね!』

「 … その言葉だけを、ずっと信じてたんだぞ。

それなのに何だよ、冷めたって、やめたって … おら何のために東京で奈落で、風呂もねえ合宿所で … 」

「知らねえし … 」


笑い飛ばしたユイ。

「ダサい? … そんなの知ってるよ、やる前からダサいって思ってた … ユイちゃんがアイドルなるって言いだした時から」

『東京行って、アイドルになるの』

「ダサいから聞こえねえ振りしたんだぞ … そしたら、ユイちゃん、もう1回言ったんだぞ」

『アイドルになりた~い!』

「 … 私のせいだって言いたいの?」

「違う!」

「じゃあ、何? アキちゃんは何でやってたの?」


ユイは声を荒げました。

「楽しいからに決まってるべ! … ダサいけど、楽しいから、ユイちゃんと一緒だと楽しいからやってたんだべ …

ダサいぐらいなんだよ、我慢しろよ!」


負けじと大声をあげたアキ。

ユイはうつむいてしまいました。

… … … … …

「東京でおら、嫌というほど思い知らされた … 皆が待ってたのは、おらじゃねくて、ユイちゃんだって … 」

アキがひとりで来たと知った時の水口の落胆ぶり、会う人会う人に「可愛い方」かと聞かれ、そのたびに「訛ってる方」だと訂正され …

「初日から、その調子だった … いくら、おらだって傷ついた。

逆だったら、いがったのにって」

「はっ、逆?」

「おらじゃなくて、ユイちゃんが東京さ来ればよかったのにって … そしたら、皆喜ぶし、ユイちゃんの夢も叶う … 」

「そんなこと軽々しく言わないでよ!」


食って掛かってきたユイ、何かを破り捨てアキに投げつけました。

「母さん蒸発して、病気の父さん置いて行ける訳ないでしょ?!」

… ユイは泣いていました。

破り捨てたのは、あの日アキから手渡されていた、東京行きの乗車券でした … 期限が切れても捨てずに持っていたのです。

… … … … …

「美味い … 」

グラスのビールを飲み干す功。

数ヶ月ぶり、知人と過ごす酒の席にご機嫌でした。

店にいる常連たちも、功の回復を心から喜んでいます。

「まさかね、自分が要介護状態になるとはねえ … まあ、本当に家族には迷惑かけた。

特にユイはなあ … 」

「奥さんからまだ連絡ないんですか?」


皆がわざと避けていた話題を磯野が見事に口にしました。

「ダメダメ先生、それは私まだ知らないことになってるんだから!」

父の言葉に驚くヒロシ。

一同が功に注目します。

功は一瞬「しまった」という顔をしましたが、続けました。

「 … まあ知ってるんだけどね」

「えっ?」


隣に座っているヒロシを指差して功は言いました。

「言わないんですよ、こいつがなかなか …

『母さんどうしたの?』って聞いてね、『いや、リフレッシュしに温泉行ってる』とか『同窓会』だとか、そんなバカなって話ですよ。

それまで毎日来てたんだから、いくら死にかけてても分かりますよ ははは」


朗らかに笑う功を見て、何と言っていいか分からずに静まる一同。

「言えねえだろ、バレてると分かっててもさ」

お互いに気づかっていた訳です。

「倒れる前からね、その兆候があったような気もするんだ」

今にして思えばということでしょう。

「最後にここさ来たんだべ?」

弥生が春子に尋ねました。

「そう、お財布だけ持って、駅の所にいたから … だから、中入ってお茶でもどうぞって」

「そうか、そうだったのか … バカだなあ、何もできなくても全然いいのに、バカだよ」


功は、よしえを責めるというより、自分のことを責めるように「バカ」と繰り返しました。

「心配するなよ親父、そのうちフラッと帰ってくるよ」

… … … … …

「退院したからって、安心できない … 再発の恐れもあるし、母さんいないし、兄貴ひとりには任せるわけにはいかないでしょ?」

アキの脳裏にまた、男性と歩いていたよしえの姿がよぎりました。

「わかる? … アキちゃんみたいな気楽な身分じゃないの。

代わってほしいのはこっちだよ」


ユイは毒づき、カフェを出て行こうとしました。

「お母さん、帰って来ないよ … 」

無意識にアキの口からこぼた言葉。

「えっ?」

足を停めて、振り向いたユイ。

ごめん!」

我に戻ったアキ。

「帰ってくるよ、必ず」

叫んだユイ。

「 … だけど、おらだって、おらだって必死に踏ん張って這い上がろうとしてんだ!

気楽な身分だなんて言われたくねえ!」

「40位の繰り上げ当選のくせに自慢しないで!」


忘れたいと言いながら、ユイは情報をくまなく把握していました。

「自慢じゃねえ、それがおらの現実だ!」

お互いに涙が止まりません。

「ダサいなんて、そんなの自分が一番分かってる。

… どんだけ不幸か知らねえが、ここで過ごした思い出まで否定されたら、おらやってらんねえ!」


アキは逃げるようにカフェを飛び出して行きました。

悲しげな顔で見つめるユイ …

… … … … …

足立父子が帰った後の梨明日。

春子は見送りに出ていて、気が抜けたような男衆だけが残されていました。

… 磯野がポツリとつぶやきました。

「結局、おらたちはどうしたいんでしょうかね … 」

「どうした、いっそん? … 切ねえ顔して」


吉田に尋ねられて磯野は答えました。

「ユイちゃんを … おらたちはどうしたいんでしょうね … 」

「おい、変なこと言ったらぶっ飛ばすぞ!」


大吉にたしなめられましたが、磯野は決して不純なことを言っている訳ではありませんでした。

「だって、東京さ行ぐって言ったら切なくなるし、行けなくなっても切なくなるし … 何とかしてあげたいけど、おらたちにはどうしてあげることもできねえ。

… ただここで、切なくなってるだけなんですよね」

「わかる … この距離は永遠に縮まらねえんだ」


勉さんが琥珀も磨かずに、いつになく真剣な眼差しでそう言いました。

「おらたちにとって、ユイちゃんって … 結局何なんでしょうね?」

磯野の問いかけに大吉は言い切りました。

「アイドルだべ」

「んだ、アイドルに決まってるっぺ」


吉田もうなずきました。

しかし、どこか無理をしているようにもみえます。

「う~ん、アイドルかあ?」

「アイドルなんでしょうね … 」


… … … … …

ユイは …

この時間に海女カフェからどうやってここまで来たのか、駅舎の待合室のベンチに腰かけていました。

「うう、寒っ … 」

足立父子を見送って戻ってきた春子がユイを見つけました。

「あ、ユイちゃん?

お父さん、今タクシーに乗って帰ったよ」


振り向きもせずにうつむいているユイ。

「 … どうした、ユイちゃん? … 中入れば?」

ようやく顔を上げたユイ、目に涙をいっぱい溜めて、か細い声で言いました。

「アキちゃんを傷つけちゃった … 」

「 … うん?」

「私、アキちゃん傷つけちゃった」


立ち上がって、春子の胸に寄りかかってきました。

「どうした? … 大丈夫大丈夫、どうした?」

春子は幼子をあやすようにユイを抱いて、背中を叩きました。

… 春子の腕の中でただただ泣くユイ。

… … … … …

アキは …

家の前まで帰ってきましたが、今の自分の顔を家族に見られたくない … 誰にも会いたくない … 離れの戸を開けました。

ユイはあんなことを言うためにわざわざ自分を呼び出したのだろうか?

何故、ユイを傷つけるようなことを言ってしまったのだろう?

… ふたりとも同じくらいに傷つき、そして後悔していました。

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2013年07月14日 (日) | 編集 |
さて、次週の「あまちゃん」は …

ユイちゃんと一緒だと楽しいからやってたんだべ、ダサいぐらいなんだよ、我慢しろよ!

北三陸に帰省したアキ(能年玲奈)は、ユイ(橋本愛)と会う。ユイはアイドルを目指し、上京を夢見ていたが、父・功(平泉成)の病と母・よしえ(八木亜希子)の失踪で、すっかり投げやりになっていた。冷たい言葉でアキを突き放すユイ。アキも思わず本音をぶつけてしまう。

そんな中、アキが初めて出演したテレビドラマの放送日がやってくる。しかし、アキの出番はほとんどカットされていた…。

もう君はユイちゃんの相方じゃないよ、GMTの天野アキだ!

落ち込むアキは、東京になかなか帰ろうとせず、海女カフェで働きはじめる。アキを呼び戻そうと、水口(松田龍平)が東京からわざわざ来て説得を試みるが失敗。

しかし、ユイに素直な気持ちを打ち明けられたことでアキは勇気づけられ、再び東京へ向かう。

去り際に、アキは春子(小泉今日子)から手紙を渡されるが、そこには衝撃の事実が書かれていた。

ママはその日、マイクの前に立ちました …

1985年秋、甲斐(松尾スズキ)の喫茶店でウェイトレスをしながらアイドルになることを夢見ていた春子(有村架純)と、駆け出しのスカウトマンをやっていた太巻(古田新太)、そしてデビューを目前に控えていた鈴鹿ひろみ(薬師丸ひろ子)との間に、一体何が起きたのか?

君の経歴に傷がつくようなこと、絶対にないから …

このままじゃ終われないから、今日まであんたの言うこと聞いてきたんです!


春子が長年封印してきた秘密が、今、明らかになる。

そんな馬鹿な?!
あまちゃん 公式サイトより)



あまちゃんニュース

本日は、「あまちゃん」の前半を振り返る、故郷編(第1週~第12週)の総集編が放送されます!
7月14日(日)総合/午後1時05分~2時35分


「あまちゃん」次は「ベストテン」!?糸井重里&清水ミチコで

「スタ誕」の次は「ベストテン」!?NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(月~土曜前8・00)で、糸井重里(64)と清水ミチコ(53)が歌番組の名司会者役で登場する。

小泉今日子(47)演じるヒロインの母、春子の回想シーンで、80年代に人気だったという架空の「夜のベストヒットテン」に登場。TBSで78~89年まで放送された「ザ・ベストテン」の久米宏(68)と黒柳徹子(79)をほうふつさせる設定だ。

スポニチアネックス 7月13日(土)7時1分配信



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2013年07月13日 (土) | 編集 |
第90話

年末に降った雪が残る北三陸駅のホーム。

到着した列車から下りてきたアキは胸いっぱいに深呼吸しました。

「ただいま!」

< 2010年元旦、おらは4ヶ月ぶりに北三陸さ帰ってきました>

「喜屋武ちゃん、起きて!」


… … … … …

改札を抜けて駅舎内を懐かしそうに見渡すアキ。

そのアキを見つけた吉田は、何度も目をこすりました … 見間違いや幻ではありません。

「じぇじぇっ! じぇ、じぇきちょう(駅長)!」

「誰が、じぇきちょうだ? ばかこの新年早々」


その時、駅務室の扉を勢いよく開けてアキが入ってきました。

「あけましておめでとう!」

「じぇじぇじぇじぇっ、アキちゃんでねえか?!」

「んだ、おら帰ってきた!」

「お帰り!」


大喜びの大吉、吉田。

アキは一緒に連れて来た(着いて来てくれた?)喜屋武のことを紹介しました。

「はいさい」

「 … 誰?」


… … … … …

「あそう、沖縄の方ですか?」

「はい、東京より北は初めてです」


大吉は喜屋武に振る舞いの甘酒を渡しながら尋ねました。

「寒いですか? 寒いでしょう? … わざわざ遠いところを」

南国育ちの喜屋武は、丸々と着ぶくれしていました。

「リアスは休みか?」

「いやいや、初詣のお客さんもいるから通常営業だ」


昨晩思い立って。急遽帰って来たので、まだ夏や春子にも連絡を入れていないアキでした。

「そしたら、ビックリするべ? … ほれ、来た!」

ちょうど、春子が改札を抜けて入って来たので、大吉が指差しました。

母の雰囲気が何か以前と違いました。

「ただいま」

「おかえり … じぇじぇっ!」


ニコニコ笑っているアキを見て、春子は眉間にしわを寄せながら言いました。

「何よ、あんだ … 帰ってこねえって言ってたべ?」

「気変わった … 急だったから、お土産もねえ」


あきれた顔で見返す春子にアキは喜屋武のことを紹介しました。

「はいさい」

朗らかな笑顔でお辞儀する喜屋武。

… … … … …

喫茶リアス。

「アキちゃん、帰ってきたってか?」

アキが帰って来たことを聞きつけてリアスに駆けつけて来る人もいました。

「あっ、菅原さん、勉さん!」

「あけましておめでとう」


アキは喜屋武にふたりのことを紹介しました。

「観光協会の菅原さん。この人は、水口さんの師匠で … 」

「勉アフレック!」


吉田の掛け声で、勉さんはポーズを取りました。

分かる人が分かればいい。

… … … … …

「アキ、ねえヤンキー。

見るからにヤンキーがこっちにらんでる」


喜屋武がそう耳打ちするので、アキはその視線の先を振り返りました。

まだらに脱色した髪の毛、ピンクのパーカーにグリーンのダウンジャケットを羽織ったヤンキーの女の子がカウンターの中から、鋭い目つきでにらんでいました。

アキにも、一瞬誰だかわかりませんでしたが … よく見ると … ユイでした。

「ユイちゃん?!」

思わず立ち上がるアキ。

しかし、ユイの方は微動だにせず、ひとことも発せず、じっとにらんでいるだけです。

「店、手伝わせてんだ」

「じぇじぇじぇじぇっ … いつがら?」

「11月だよね、大変だったんだ、お母さん蒸発して … 」


吉田が小声で説明しました。

… アキの脳裏に、上野で見かけた、男性と談笑しながら歩いていたよしえの姿がよぎりました。

< 忘れでた … おら、東京から、でっけえお土産持ってきたんだ … でも、とても言えねえ … >

「ここで働くようになって、ちょっとマシになったんだよねえ ~ 」

「おらの目見て、挨拶してくれるもの … 今日はまだだけど」


アキは『お土産』のことが気になりだして、そんな春子や勉さんの言葉も耳には入りませんでした。

「どうしたの、アキ? … ユイちゃんも! 久しぶりなんだから、しゃべれ!」

… アキとユイ、ふたりの間に見えない隔たりができているようでした。

「いや … 何か、ママがえれえ、訛ってるね」

気まずいアキは、別の話題を振りました。

「じぇじぇっ、そんなに?」

本人は自覚がないようですが … 相当訛っています。

「じぇじぇって … へへへへ」

「じぇじぇでしょ?」

「何もおかしくねえべ」


春子は何故か大吉とうなずき合いました。

「春子は袖が浜のおなごだもの、訛ってるのは当然だべ」

立ち上がった大吉は、気軽に春子の肩に手を置きました。

「あれっ … あれあれあれ?!」

「何よ?」


呼び方も「春ちゃん」から「春子」になっていますし、春子も黙って肩に手を置かせたままです。

「何かふたり、前と違う … 」

わざとらしくハッとして手を放す大吉、春子も照れくさそうに立ち上がって大吉の横に並びました。

「さすがアキちゃん、するどいな」

「そこら辺は、デリケートな問題だから、本人らに聞いてみろ」


保と吉田が冷めたように言いました。

「何、何、何っ?!」

「 … 実は、プロポーズしたんだじゃ!」

「じぇじぇじぇっ?!」

「去年のクリスマスに … ほれ、春子離婚して、ちょうど1年だし、そろそろいかっぺと思って」


… 今度は、実家のマンションでバスローブ姿の見知らぬ女性、正宗の同級生を見かけたことが、脳裏をよぎりました。

< やべえ、お土産はひとつでねがった … >

「返事はまだしてねえの … 」


春子はそう言いましたが、アキにはまんざらでもないように見えました。

… … … … …

ところで、この歳になってもサンタを信じているというアキ、去年のクリスマスはどう過ごしたのでしょう?

今年は余り良い子じゃなかったから、サンタが来なくても仕方ないとあきらめた?

まさか、合宿所に正宗サンタが現れたとか?

… 閑話休題。

… … … … …

「おとなしいね、喜屋武ちゃん … 琥珀のピアスあげようか?」

「いいです、ピアス開いてないし」


気を利かせた勉さんですが、ここでも遠慮されました。

「楽しんでる?」

吉田に聞かれて首をかしげる喜屋武。

「楽しんでは … ないですね。

○▽■×◎※▲☆(何言ってるかわからんし) … けど、×◎※▽■×(そこそこは)楽しめてると思います」


喜屋武も沖縄の言葉を取り混ぜて話したので、皆ポカ~ンとした顔になりました。

「分がんねえ! … 言葉の壁」

どっと、笑った一同。

… … … … …

「よし、正月だからカラオケでもやっか?!」

大吉が立ち上がってステージに向かいました。

「んだんだ、BEGIN聴きてえ、BEGIN歌えばひとつになれる!」

保がそう言うと、喜屋武もうれしそうにうなずきました。

しかし、大吉が選曲したのは、バカの一つ覚え … 「GHOSTBUSTERS」です。

「言ったそばから、これだもの … 」

「そしたら、私踊りましょうね!」


喜屋武も本領発揮、ステージ上がって、大吉の横で踊り始めました。

「ゴーストバスターズ!」

「いやあ、さあ、さあ、ああ、いやあ!」

「沖縄とGHOSTBUSTERSの融合だ!」


盛り上がるステージ、アキはふとユイが気になってカウンターを振り返りました。

ユイはいつの間にかいなくなっていました。

… … … … …

店の外に出て、駅舎内を見渡すと、ユイの姿が目に入りました。

「ユイちゃん!」

声を掛けましたが、ユイはちょうど、例の小太りの愛犬家の男と連れ立って何処かへ行こうとしているところでした。

思わず、後ずさりしてしまったアキ。

ユイたちはそのまま駅舎から出て行ってしまいました。

「初詣かな?」

入れ違いに駅舎に入ってきたヒロシがそう言いました。

「 … 高校辞めちゃってから、交友関係変わったんだ。

前は、あんな連中、鼻にもかけなかったのに … 」


何回も言い争ったかもしれない、ヒロシはあきらめたように言いました。

「種市先輩、まだユイちゃんとつきあってるつもりだ」

「内緒にしておいて、そのうちあいつも目が覚めると思うし … 」

< なんてこった … 人に会うたび、お土産が増える一方だ … たった4ヶ月しか経ってねえのに … >


ヒロシはストーブに掛かっている振る舞いの甘酒をよそってアキに渡しながら言いました。

「おかえり」

「あ、どうも … ただいま」


… … … … …

雪がちらほらと舞い始めた袖が浜。

アキは喜屋武を海女カフェに連れて行きました。

「いらっしゃい … じぇじぇじぇっ、アキちゃんでねえか?!」

「組合長、あけましておめでとう!」


受付にいた組合長は、アキが帰ってきたことをカフェ中に知らせて回りました。

「お~い、アキちゃんが、帰って来たぞ!」

「じぇじぇっ、アキでねえか?!」


いの一番に飛び出てきた弥生がアキに抱きつきました。

かつ枝、美寿々と代わる代わるにアキを抱きしめます。

「いやあ、何にも変わらないね」

「アキ先輩!!」


桜庭をはじめとする後輩海女たちもアキを取り囲みました。

「繰り上げ当選、おめでとうございます」

「よくやった、よくやった」


… … … … …

「花巻さん!」

「おうっ」


カフェ内に入ると厨房内で珠子が渋い顔をしています … 朝から機嫌が悪いのだそうです。

「元旦そうそう、まめぶの味が決まらねえ」

「あっ、まめぶと言えば … 東京で安部ちゃんに会ったよ」

「じぇじぇじぇじぇじぇっ!」

「車でまめぶ汁の移動販売やってんの、ひとりで … 」

「そうか、頑張ってるんだなあ」


… … … … …

「なんだおめえ、沖縄なのに静かだな?」

皆の様子をおとなしく見ていた喜屋武に弥生が話しかけました。

「あらん、ウチナーじゃなくても、こんなもんですよ … 皆さんが、やかましすぎるんです」
(いやいや、沖縄じゃなくてもこんなもんです … みなさんがうるさすぎるんです)

「何言ってるか分かんねえ」

「お互い様だ ~ 」


きょとんとする喜屋武。

… … … … …

「アキ、アキちゃんは東京で彼氏できたの?」

美寿々たちが聞きましたが、世代の近い桜庭たちが言いました。

「それどころじゃねえですよね、レッスン厳しいんでしょ?」

「んだ、それにアメ女は恋愛御法度ですもんね」

「まあな … 」


適当にお茶を濁しました。

アキは、ステージに置かれたままの潮騒のメモリーズの看板に目をやりました。

北鉄のユイと海女のアキ … 4ヶ月前の海女フェスでのステージが目に浮かびます。

… … … … …

「喜屋武ちゃん!」

アキは庭先で喜屋武を手招きしました。

我が家の前に立った時、中から夏の怒鳴り声が聞こえてきました。

「もうたくさんだ!」

アキは、入口の戸をそっと開けて中を覗きます。

「雑煮が食いてえって言うからわざわざこさえたのにっ!」

「雑煮が食いてえなんて、語ってねえべえ … 雑煮もいいなって、語ったんだ」


夏と怒鳴り合っているのは、忠兵衛でした。

アキはしばらく様子を窺がうことにしました。

「ああ一緒でねえか?! おら、雑煮を作って今年は頑張っておせちも作ったのに、ハムが食いてえとは何たることか!!」

「あああ、うるせえ嫁だ! 出て行けこの!」

「いいのか? おらが出てったらこの家ほぼ空き家だど!」

「ああ、そんならおらが出てく!」


外へ出ようと、戸を開けた忠兵衛 … そこに立っていたアキを見つけました。

「アキ!」

「祖父ちゃん!」


アキを抱きしめる忠兵衛。

「どけどけ!」

家の中から飛んで来た夏が忠兵衛をどかせて、アキに抱きつきました。

「アキ、アキ、アキだあ!」

「久しぶりだな、この野郎!」

「やっぱ帰ってきた」


横で微笑んでいる喜屋武に夏が気づきました。

「 … 誰だ?」

… … … … …

スナック梨明日。

元旦なのに、梨明日はいつもと同じ顔ぶれです。

たった今やって来たのは潜水土木科の教師磯野です。

「あれ、天野が帰って来たって聞いたんですが?」

「もう帰ったよ」


カウンター内で晴れ着姿の弥生が言いました。

「なんだサインもらうべと思ったのに … あけおめ!」

最近、ほぼ常連と化している磯野が残念そうに席に着きました。

「 … 先生」

春子が口にしたのは磯野のことではありません。

「じぇじぇっ、足立先生!」

皆、驚いてカウンターから立ち上がりました。

ヒロシに介添えされながら、店に入ってきたのは足立功でした。

「いやあ、久しぶり」

「大分調子いいんで連れてきました」

「近くまで来たもんでね」


いつもと同じセリフ、朗らかに笑う功。

「何なんだ、今日は! え~!! 何だあ!」

興奮する大吉、梨明日は笑い声が溢れていました。

… … … … …

天野家もアキと喜屋武の歓迎会です。

< 祖父ちゃんは、去年の暮れまで漁さ出てて、ちょっと前に帰って来たんだそうです >

「 … そうか、あんたウチナンチューか?」

「はい」

「いいよねえ、こっちの海とは全然違うもんねえ」


美寿々が忠兵衛と喜屋武の話に加わりました。

「行ったことあるの?」

「半年ぐれえ住んでたさあ」

「ははは、男どか?」


かつ枝がからかうと、美寿々は当然のように言いました。

「ひとりで済む訳ねえべ」

「すげえな美寿々、男がらみのエピソード、どんどん出てくるな」


組合長が感心して言うとかつ枝が自伝を書けと勧めました。

「書けねえことばっかりだ … 」

… … … … …

「おらたちも行ってみるか、沖縄?」

腹を抱えて笑っている夏に忠兵衛が聞きました。

「いや、おらいい … 東京さ行ったこともねえのに」

「じぇじぇ、そうなんですか?」


驚いた喜屋武が尋ねました。

「ここが一番いいとこだって知ってるからだよね?」

そう言いながら、アキは夏にお酌しました。

「まあな … はははは」

「どうだアキ、東京は? … 友達いっぺえできたか?」


アキに訪ねた忠兵衛。

「うん、友達って言っていいか分かんないけど … 」

< 本当は、もっと言いたいことあったんだけど … しゃべり出したら、止まらない気がして、黙ってました … >


… … … … …

「でもすごいねアキ」

喜屋武はアキに言いました。

「何処行ってもさ、アキ、アキって … こっちでは本当にアイドルだったんだね」

アイドルというか、皆アキのことを愛している … 今日半日一緒にいて、つくずくそれを感じた喜屋武でした。

「地元帰ったら、喜屋武ちゃんだってそうだべ?」

照れながら聞き返すアキ。

「どうかなあ? … でもさ、ちょっと帰りたくなった」

北と南、地元こそ違えど、喜屋武もアキと同じように地方の純朴な少女でした。

だからすぐに袖が浜の人たちとも打ち解けていました。

… … … … …

その時、アキの携帯がメールの着信を知らせました。

確認したアキは、慌てて上着を手にしました。

「喜屋武ちゃん、ちょっと出てきてもいい?」

… … … … …

アキがやってきたのは、閉店した後の海女カフェです。

ステージに腰かけて待っていたのは … ユイでした。

アキが来たことに気づき、顔を上げるユイ。

その顔には、さっきリアスで見せた険しさはありませんでした …

アキはゆっくりカフェの扉を押しました。

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2013年07月12日 (金) | 編集 |
第89話

< 天野アキ18歳 … ごらんの通り、ズタズタです。

はじめての現場で40回もNGを出してしまったのです。

しかも、国民投票の結果は42位で、解雇。

そして、更なる事件が待っていたのです … >

「大変ばい、アユミさんがGMT辞めるってよ!」

「じぇじぇじぇっ?!」


… … … … …

シアター内の会議室。

チーフマネージャーの河島と水口を前にして、国民投票29位の宮下アユミが神妙な面持ちで座っています。

「メールで送られて来た、匿名で … 」

河島はアユミの目の前にノートパソコンを開いて置きました。その画面には …

アユミと同年代の青年の仲睦まじいショットが、数枚映し出されていました。

「正直に答えろ、この男誰だ?」

「友達、バイト仲間とか … あれ、年子のお兄さんいたっけ?」


水口の助け船には乗らず、アユミは答えました。

「彼氏です」

「 … だよね、だと思った」


あっさりと白状したアユミ。

「うちの恋愛御法度三大原則、言ってみろ!」

河島は壁の貼り紙を叩いて、アユミに言いました。

「撮らない、撮られない、ついていかない … 」

「正直、驚いてる … メンバーならともかく、奈落組の色恋沙汰まで管理しなきゃならないとはな。

だって、君ら無名じゃん、ほぼ一般人じゃん … ということは、これ撮ったの内部の人間なんじゃねえ?

こわっ、アメ女こわっ!」

「それはない! アメ女に限ってそれはないっ … と思いましょう」


水口の言葉に少しまずかったと思ったのか、河島は一応うなずきました。

「 … で、どうするよ、これ?」

アユミ本人に尋ねました。

「5秒、考えていいですか?」

「うん」

「辞めます」


ほぼ即答でした。

「 … 彼のこと好きなんで」

アユミは躊躇なく、そう言いました。

「いやいやいや、いいのかよ?

奈落じゃねえぞ、上行けるんだぞ?!」

「いいっすわ … 平気で他人の足引っ張る連中と頑張るぐらいなら、彼のために頑張ります」


立ち上がってそう言った後、頭を下げて、サッサと会議室を後にしました。

「宮下!」

… … … … …

奈落。

真奈に呼ばれたアキをはじめ、GMTのメンバーが集まってきました。

アユミはプリントアウトした写真を見せながら、メンバーに報告しました。

「何それ、どういうこと?」

しおりは顔色を変えて、アユミに問いただしました。

「写真撮られました … 彼と一緒におるところ。

ほなけん辞めます、アイドル … もう21やし、彼のこと好きやし … 」

「水口さん、まだ分かんないってこういうこと?」


アユミの話を聞いたしおりは、水口に詰め寄りました。

「アユミが辞めると、29位以下から1個ずつ繰り上がるから … しおりは40位でギリクビにならずに済む」

説明を聞き終わったしおりはとても悲しそうな顔をしました。

そして、いきなりアユミを突き飛ばしました。

倒れたアユミの上に覆いかぶさりながら、大声を上げます。

「そういうの気持ち悪いからやめてよ!」

他のメンバーに止められながらも、しおりは続けました。

「ねえ、バカにしてるの? … ねえ、自分が辞めれば、私が繰り上がって、それで私が喜ぶと思った?」

黙ったままのアユミ。

「ふざけるなよ、そんなつもりであんたとつきあってなんかない!」

… … … … …

「 … こういうとこか、こういうウザいキャラだから落ちるんだよね、あたし … 」

ふと我に返ったしおり、すると自己嫌悪でいっぱいになりました。

「ごめんリーダー、ほんまごめんっ」

アユミはしおりに向かって土下座をしました。

「私、疑っとったんよ … これ撮ったの、しおりちゃんちゃうんって。

だって、彼氏おるのリーダーにだけ言っとったし … ごめん」


そんな疑惑も今のしおりの態度を見て、吹き飛んだのです。

アユミは泣きながら、もう一度頭を下げました。

「仲間疑うなんて最悪 … 」

今度はアユミが自己嫌悪 …

… … … … …

「どうした、天野?」

「何でいるんですか?」


アキのことが心配になって、奈落に顔を出したのですが、思い切りにらまれて … 恐縮する種市。

… … … … …

「その人、仕事何してるの?」

喜屋武が尋ねました。

「調理師 … 新宿の忍者居酒屋でバイトしよる」

『忍者居酒屋』をイメージして、思わず吹き出してしまって、思い切りにらまれて … 恐縮する水口。

… … … … …

「好きなんよ … 結婚してもいいと思っとる。

いつか徳島帰って、ふたりでお店やろうと話しよんよ … ほなけ、ずっと悩んどって」

「だったら、辞めなよガール、辞めちまえ!」


ステージに続く通路にいきなり現れた太巻。

「じぇじぇっ!」

「何ねこれ? … 社長、ニューヨークじゃなかと?」


一同の視線を浴びながら、らせん階段を下りてくる太巻。

「あんなもんは録画だ! もっと言えば、合成だ! … 僕は寿司屋にいた!」

片手に甘海老の握り寿司を掲げて見せました。

「はあ、ダマされた ~ 」

「恋愛御法度は君たちを縛り付けるために作ったルールではない!

若くて可能性を秘めた君たちに、考えるきっかけを与えているんだ …

アイドルとして、ストイックに生きるか?

彼氏とズブズブの恋愛に溺れるか?

… もっぱら、ズブズブの方だろ?」


アユミの顔を見ました。

「はい」

「はいって言われちゃった … ははっ、ね?

健康な女子ほど恋がしたい、そんな分かりやすい感情を抑圧してステージに立つ、それがアイドルだ … 選ばれた一握りの人間の業だ。

… ねえ、海女ちゃん?」

「はい」


うなずいたアキに太巻は声を荒げました。

「はいじゃない!

… 今日現場でNG40回出したんだって?」


アキに詰め寄ってくる太巻。

「じぇじぇ、マジか?」

思わず声を出してしまった種市

「マジですよ ~ 逆に才能だよ、40通りのNG出すなんて」

「 … すみません、次は必ず!」

「次なんかないよ、君はこれからいいことなんか何もない!」


唖然とするアキに向かって、太巻は冷たく言い切りました。

「答えは出た … 君を必要とする人間は、ここにはいない!」

容赦なくそう言うと、手に持っていた握り寿司を一気に頬張りました。

そして、『みんなで当選、みんなでお寿司!』とある貼り紙をはがして、書いた本人のアキに持たせました。

「君たちもちゃんと落ち込め! 若さに誤魔化されるんじゃないぞ!」

… … … … …

< アユミさんは合宿所を出て、彼氏と暮らすことになりました … >

アユミが出ていく日は、生憎の雨でした。

見送りの時、喜屋武の発案で、合宿所の入り口で皆で並んで記念撮影するGMT6。

「お世話になりました」

そう頭を下げたアユミにしおりは言いました。

「借りができたけどさ、お礼は言わない … 天下取ったらさ、ありがとうって言うからさ」

「応援しよるけん … 皆もなあ」


アユミは一人ずつ肩を叩きました。

「ほなな … 」

スーツケースを引きずって歩き出した時、突然傘を放り捨てて、アユミに抱きつきました。

少女たちにとって、東京に出てきてから初めて訪れた別れでした …

… … … … …

< 小野寺ちゃんは、アメ女のレギュラーメンバーに大抜擢、でも春にお母さんが上京するまでは、合宿所で暮らします。

佐賀の真奈ちゃんは、リザーブに昇格、年越しライブにも出演します … でも、貯金が溜まるまでは合宿所暮らし。

沖縄の喜屋武ちゃんとリーダー、そして、アメ女のトップだったマメリンなどが奈落組。

そして、おらは … 奈落に落とされ、フェードアウトしたアメ女の子に代わって、何とか40位に滑り込みました。

うれしいとか、ホッとしたというより、こうなることを期待していた自分に腹が立ちました。

そして、太巻さんの言葉 …

「君を必要とする人間は、ここにはいない!」

… 耳から離れませんでした … >


… … … … …

< そして大晦日 …

奈落は年越しライブの控室になり、おらたちGMTは追い出され … しおりさんは実家に帰りました。

ひとりぼっちで年を越すおらを気遣って、喜屋武ちゃんは寮さ残ってくれて … >


寮の大掃除をするふたり。

「ごめんね、喜屋武ちゃん」

「別にいいよ、だって往復の飛行機代、もったいないさね … アキ、世田谷の実家には行かんの?」

「世田谷は … 実家であって、実家じゃねえ」


よく分からないでしょうが、喜屋武はうなずいています。

その時、庭の方で声がしました … 種市でした。

「いやあ、迷った迷った … これ食べて」

手にしていた包みを差し出しました。

「じぇじぇっ、どうして?」

「うちの大将が届けろって」

「あ、あのキモイ板さん?」


喜屋武が梅頭の顔マネをしました。

「ふたりだけで寂しい思いしてるだろうって … え、大将キモイ?」

「あ、はい … 何か、質感がハブっぽいっていうか、目つきとか動きとか、ハブ系ですよね、あれ」


結構言う、喜屋武ちゃん … 考え込んでしまった種市。

… … … … …

「先輩いつ帰るの?」

店に戻ろうとする種市にアキは尋ねました。

「ああ、それが年明け宴会が入って、帰れなくなった」

… もしかして、本当はアキが残っているのに自分だけ帰ることができないとか?

「頑張っぺ … 俺が言えた義理じゃねえけど、このタイミングで田舎さ帰ったら、負けだもんな」

「うん、ありがとう」


… … … … …

大掃除を終え、新年を迎える準備も終わったアキと喜屋武。

種市が届けてくれた寿司を食べながら、アメ女の年越しライブの中継を見ています。

「あ、小野寺ちゃんいる!」

「どこにいるどこ?」


♪師走は忙しい 町は慌ただしい …

この音楽が流れると、アキたちは条件反射のように一緒に歌って踊り始めました。

♪ … あてどなく ラララ 暗躍暗躍 …

突然、歌も踊りも止めるアキ。

「 … 出たかったなあ」

沈んだ表情のアキを見て、喜屋武が言いました。

「アキ、ウニ食べない?」

「いいの?」

「いいよ、苦手な訳さ」


自分の寿司桶からウニの軍艦巻きを取ってよこしました。

「その代りにカッパちょうだい」

欲のない … いや、喜屋武は優しい子です。自分だってアキと同じくらいにくやしいのに …

「美味しいね」

「うん」

< その日のウニの味は、何だか特別身に沁みました … >


… … … … …

ウニの味 …

夏に初めて会った時、獲れたてのウニを手づかみで食べさせてもらったウニの味。

『あなた、女優は無理ね』

本気獲りで初めて自分の手でウニを獲った日のこと。

『女優はダメ、向いてない!』

『次なんかないよ、君を必要とする人間は、ここにはいない!』

海女クラブの仲間と「いつでも夢を」を歌いながら浜へ繰り出したこと。

『このタイミングで田舎さ帰ったら、負けだもんな … 』

東京へ旅立つ日、大漁旗を振って見送ってくれた夏のこと。

『皆に好かれたね、こっちに来て皆に好かれたね … あんたじゃなくて、皆が変わったんだよ』

♪いつでも夢を いつでも夢を ~

北三陸での思い出と、東京に来てからの出来事が交互にフラッシュバックしました。

何故か、北三陸は幸せな愛された記憶ばかり、反対に東京はツラいことしか思い浮かびません。

… おらはなんのためにここさいるんだろう?

… … … … …

「だめだ … 」

どうしようもなくなって立ち上がったアキ。

「 … アキ?」

「おらやっぱ帰る、帰りてえ!」


そう思ったら、もういてもたってもいられません。

「今から出れば、宮古行の深夜バスさ乗れるべ!」

そう言うと自分の部屋へ。

「ま、待って、アキよ!!」

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2013年07月11日 (木) | 編集 |
第88話

2009年12月12日、アメ女の国民投票当日。

東京EDOシアター前には沢山のファンが詰め寄せて … いよいよカウントダウンが始まりました。

「 … 5、4、3、2、1 … ゼロ!」

< その頃、奈落では、GMTのメンバーに審判が下されようとしていました >

「プロデューサーの太巻こと荒巻太一です … 私は今、ニューヨークにいます」


国民投票の結果は、何故かニューヨーク滞在中の太巻がひとりずつ読み上げ、リアルタイムでネットで配信されるのです。

… … … … …

一方、こちらは「おめでた弁護士」撮影スタジオ。

「はい、ボールド!」

「シーン40、カット2、テイク1!」


スタッフの声が響き渡ります。

隣人Cに扮したアキはドアの内側で待機しながらその声を聴いていました。

< 私、天野アキ … ついに女優デビューしました! >

「用意、スタート!」

おめでた弁護士こと寿蘭子 ~ ひろ美が、メモを頼りに被疑者の部屋を訪ねて来るシーンです。

ドアのチャイムを鳴らそうと …

向かいの部屋から顔を出した隣人C ~ アキがひろ美に声を掛けました。

「島田さん、先週引っ越しましたよ」

「カ~ット! … 早いよ、小池、まだチャイム押してねえだろ?!」


しくじったアキの代わりに監督に怒られたのはADの小池でした。

「あの、僕ここでキュー出してるんですけど、見えないですか?」

小池はアキに尋ねました。

「キューって何だべ?」

「きっかけッスね」

「はいはい … きっかけって何だべ?」

「ドア開ける合図です」

「合図かあ、合図なら合図って言ってけろ」


ドアを閉めるアキ。

「はい、ボールド!」

「 … ボールドって何だべ?」


… … … … …

テイク2 …

チャイムを鳴らすひろ美。

何の反応もなく、もう一度鳴らしました。

アキに合図を送る小池 … しかし、一向にドアが開きません。

ひろ美はもう一度、チャイムを鳴らしました。

「カ~ット! … 小池どうしたあ、何で出てこない?」

小池がドアを開けると、アキが突っ立っていました。

「ごめんなさい、全然見えませんでした」

「じゃあ、あの … ご自分の『間』でゆっくり5秒数えてからドア開けてもらってもいいですか?」


うなずくアキ。

「はい、ボールド!」

「ボールド!!」


どういうわけかアキも負けじと大きな声で復唱しました。

「 … ご自分のま?」

… … … … …

ふたたび、EDOシアター前。

「 … これは、公正な投票です。

やらせ、組織票、一切ありません … ですから、いかなる結果が出ようと、真摯に受け止めてほしい」


太巻はまず、30位から21位のリザーブメンバーの発表から始めました … 補欠として、年越しライブに参加できる10人です。

「第30位 … 」

… … … … …

アキの現場に来ていますが、国民投票の結果も気になる水口は、携帯で中継を確認しています。

撮影はテイク3のスタートです。

しかし、またアキは中々出てきません。

ひろ美が3回鳴らした時に、ようやく顔を出しました。

「小池っ!」

立ち上がる監督。

「すいません … 自分の間で、ゆっくり5数えたんですけど」

小池に謝るアキ。

「自分の間だと、18秒でした」

… … … … …

投票結果は次々に発表されていきます。

「第29位 … GMT6、宮下アユミ」

ついにこの時が来ました … 奈落の仲間の中から名前が呼ばれたのです。

歓喜に沸くメンバーに送られて、アユミはステージに向かいました。

… … … … …

テイク4 …

チャイムを鳴らすひろ美。

今度は、タイミングよくアキがドアを開けました。

「鈴鹿さん、先週引っ越しましたよ」

「カ~ット! 名前が違う!」

「 … おら何て言いました?」


アキが小池に尋ねると代わってひろ美が答えました。

「鈴鹿さん」

笑い出すアキ、それに合わせてひろ美も笑いましたが、目が笑っていません。

「はいっ、ボールド!」

NGを出している本人が仕切り出す始末 …

… … … … …

「 … 第26位、GMT、遠藤真奈」

アユミに続いて、名前を読み上げられた真奈。

本人は緊張のあまり、ベンチに横になっていました。

「ウソやろ … 」

喜び合うメンバー。

… … … … …

テイク?(もう分かりません) …

「小池さん、先週引っ越しましたよ」

「カ~ット!」


ついに小池が引っ越したことになっていました。

「小池、次テイクいくつだ?」

「 … 32です」


その数を聞いて、監督は絶句しました。

「本番、用意 … 」

携帯の呼び出し音が鳴り響きました。

「誰だあ?!」

水口の携帯でした。

開票結果を聴いていて、電源を切っていなかったためでした。

慌ててスタジオの外へ出ていく水口。

… … … … …

「 … 続いて、20位から9位、レギュラーメンバーを発表します」

シアターのスクリーンの前に集まったファンから歓声が上がりました。

その人込みの最後列に種市の姿もありました。

… … … … …

奈落で、祈るようにモニターに映された中継を見つめる、しおり、薫子、喜屋武の3人。

「第20位 … GMT、小野寺薫子」

思わず泣き出す薫子、座ったままで立つことができません。

「おめでとう、ほら行かないと、レギュラー」

「はい … 」


… … … … …

「島田さん、先週引っ越しました … 島田さん、先週引っ越しました … 」

ドアの前に立って、何度も口の中で繰り返すアキ。

「用意、スタート!」

チャイムを鳴らすひろ美。

「島田さん、先週引っ越しましたよ」

… タイミングもセリフも完ぺきでした … しかし …

「笑っちゃだめだよ!」

上手くできた喜びで、カットが掛かる前に笑ってしまったのです。

… … … … …

「劇場、戻るわ … ちょっと、問題発生、ごめんね」

今の電話は、そのことについての連絡だったのでしょう … 水口の表情から、結構深刻な問題だとわかります。

しかし、アキは急ぐ水口を呼び止めて尋ねました。

「あの、私呼ばれました?」

「 … まだみたい」

「そっか … 大丈夫ですよね? ミサンガ切れたし」


… … … … …

「八賢伝の発表の前に、31位以下のビヨンド、つまり奈落組を発表します」

< 地道な宣伝活動の成果だべか、GMTのメンバーは予想外の大健闘 … その影響で思わぬ番狂わせが! >

「 … 第31位、有馬めぐ!」


どよめきの声が上がりました。

< アメ女のセンターだった、マメりんこと有馬めぐちゃんが、まさかの奈落落ち! >

その後も太巻は淡々と結果を発表し続けました。

しかしまだ、しおりと喜屋武、そしてアキの名前は呼ばれていません。

「第38位 … ?? … 何て読むの? … 喜屋武エレン、GMT沖縄」

しおりを見つめる喜屋武。

「ごめんね … 」

精一杯の笑顔で返した、しおり。

「なんくるないさあ」

「まだ、分からんよ … あとふたり、絶対しおりとアキだからね

絶対クビになんかならんからさ」

「もういかないと」

「あんなに頑張ったから、大丈夫だからね」

「ありがとう」


しおりは中々自分のそばを離れようとしない喜屋武を立たせると笑顔で見送りました。

「早く来てよ、待ってるからね」

… … … … …

奈落にひとりになると、しおりの顔から微笑みが消えました。

それでも、開票を聞くためにモニターの前に正座しました。

「続いて、39位 … 成田りな」

残ったふたつの枠のひとつが埋まってしまいました。

… … … … …

「集中 … 」

アキは左手首のミサンガを見つめました。

「用意、スタート!」

… … … … …

モニターの画面を見つめる、しおり。

残った枠はひとつ … 自分とアキ、もうふたりが一緒に選ばれることはありません。

名前を呼ばれなかったら、即解雇なのです。

どちらが選ばれるのか、それとも …

「第40位 … 」

シアター前のファンからは「あとひとつ」コールが起こりました。

祈るように目を閉じる種市。

… … … … …

ひろ美がチャイムを鳴らしました。

「島田さん、先週引っ越しましたよ」

振り向いて会釈する、ひろ美。

「あ、そうですか … 」

「カ~ット、OK!」


この数秒のカットを撮影するために何テイク、どれだけの時間を費やしたのでしょう …

泣き出すアキ。

「やったあ!」

ADの小池が飛び上がって、アキとハイタッチを交わしました。

その脇を仏頂面の監督が、アキに軽くひじ打ちを入れて通り過ぎて行きました。

「お疲れ様です!」

小池がアキの手を取って高く掲げてくれました。

「ご迷惑をおかけしました」

アキはスタッフに頭を下げて回りました。

… … … … …

「鈴鹿さん」

「あら、お疲れ」


ひろ美はそう言いましたが、立ち止まることはしませんでした。

「今日は、ご迷惑をおかけしました」

後を追いながら、アキは頭を下げました。

「いいのいいの別に、明日もよろしくね」

叱られると思ったのに、ひろ美はひとことも咎めるようなことは言いません。

「えっ、来ていいんですか?」

「もちろんよ … 付き人としてね」


ひろ美は立ち止まりました。

「ただ … 」

振り返って、ようやくアキの顔を見ました。

「あなた、女優は無理ね」

「えっ?」

「話し相手としては面白いし、いてもらえると助かる … でも、女優はダメ、向いてない」


ハッキリそれだけ言うと、また歩き出しました。

アキはひろ美の前に回り込みました。

「昔の私みたいって言ってくれましたよね?」

「 … 勘違いだったわね、ちゃんちゃら可笑しい。

だからもう、役あげられない … それでもよければ、いらっしゃいな」


デビューの日に女優失格の烙印を押されたアキ。

「今日みたいなことされたら、私まで仕事無くなっちゃうから … お疲れ様 ~ 」

そうです … アキは、才能を認められて抜擢された訳でなく、ひろ美のバーターとして役をもらっただけの存在でした。

何回もNGを出しても誰も表だって文句ひとつ言わなかったのは、ひろ美の付き人という身分があったから …

しかし、それは何回も通用することではないのが、この世界なのです。

… … … … …

「第40位 … 高幡アリサ」

太巻の口から出た最後の一人の名前は、しおりでもアキでもありませんでした。

「 … 以上です」

モニターの前で固まったまま動けないしおり。

太巻は非情にもそのまま続けました。

「尚、以下のメンバーについては、公約通り解雇といたします。

GMT、入間しおり、同じく天野アキ … 」


… … … … …

とぼとぼとシアターまでの道を歩くアキ。

昨日まで、GMT6でファンミーティングを行っていた通りです。

橋の欄干に寄りかかって、川を見つめました。

… … … … …

シアターの楽屋口。

しおりは自分の名札を手に取りました。

名残惜しそうに上の段を見てから、出口に向かいました。

出待ちの間をすり抜けて歩き出した時、戻ってきた水口に呼び止められました。

「短い間でしたけど、お世話になりました」

深くお辞儀をした、しおり。

「ちょっと待て、行くな … まだ分かんないんだ」

水口はしおりの手を取ると、シアター内に入って行きました。

… … … … …

アキは、酔っぱらいにぶつかられて転んだりしながら、重い足取りでようやくシアター前まで帰ってきました。

「おうっ!」

… 種市でした。

「 … 残念だったな、投票」

「えっ?」


アキはまだ、投票の最終結果を知らなかったのです。

「じぇっ、それで落ち込んでるんじゃねえのか?」

種市の早とちりでした。

「じぇじぇっ、わっ、ごめん … 悪かった、ごめん、天野ごめん」

慌てて手を合わせて謝る種市。

… 遅かれ早かれ知ることですが。

「ミサンガ切れたのに … 昨日、ミサンガ1本切れたのに、何もいいことねがった。

… そりゃそうだ、かつ枝さんだの弥生さんだのが、居眠りしながら編んだミサンガだ … 願い事なんか、叶う訳ねえんだ」


アキは座り込んでしまいました。

「いや、そうとも限らねえぞ」

「何が?」


種市をにらみつけるアキ。

「さっき、ユイから初めて折り返しメール来て … ユイの父ちゃん、退院したって」

種市は携帯の画面を開いてアキに見せました。

「じぇじぇじぇじぇ、足立先生が?!」

「んだ」


アキの顔がパッと明るくなりました。

「そしたら、ユイちゃん来れるんか? 東京さ来れるんだよね、そうだよね?」

「んだ!」


深くうなずいた種市。

「そうか … 」

アキは手首のミサンガを見直しました。

「それで切れたのか … やるなあ、海女のミサンガ」

泣き笑いのアキ。

… … … … …

「アキちゃん、大変ばいっ!」

楽屋口から飛び出してきたのは、真奈でした。

「アユミさんがGMT辞めるってよ!」

「じぇじぇじぇっ?!」



『暦の上ではディセンバー』を歌っていたのは …

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2013年07月10日 (水) | 編集 |
第87話

「じぇっ!」

その女性は男性と談笑しながら、横断歩道をこちらに渡ってきました。

「じぇっ!」

向こうは気づかずにアキの目の前を通り過ぎます。

< それは、紛れもなく … ユイちゃんのママでした。 >

慌てて小百合の屋台に駆け込むアキ。

「安部ちゃん、安部ちゃん、来て来て!」

小百合の手を取ると、歩いていくよしえの後ろ姿を指さしました。

「いいから見て!」

「見える … 三又又三!」

「じぇじぇっ、うそ、どこどこ?」


タレントの三又又三が丁度、よしえたちとすれ違ったところでした。

「あの人、岩手県出身なんだよ。花巻市の医者の息子なんだよ。コロッケの付き人だったこともあるんだよ」

三又又三は女性連れでこちらに向かって歩いてきます。

「あっ!」

それどころではありません … 三又又三に気を取られていて、よしえたちの姿を見失ってしまいました。

「ああ、もうどっか行っちゃった … 安部ちゃん、三又について詳しすぎっ!」

… … … … …

その夜 …

アキはベッドに入っても、目が冴えて中々眠りにつくことができませんでした。

< えれえもん、見ちまった … ユイちゃんとストーブさんのママが、北三陸で一番恵まれてると言っても過言ではねえ、幸せの代名詞、足立家の奥様が … あんな楽しそうな笑顔はじめて見た >

昼間見かけた、男性と談笑しながら歩くよしえの横顔が頭をよぎりました。

「いやいやいやいや」

思わず声を発してしまいました。

< 人違いかもしんねえ … ユイちゃんの身をあんずるばかり、幻を見たんだ … そうに違いねえ、だって … >

『私はただ、帰ってきた子供たちを温かく迎えたいなって思うだけ … 美味しいご飯と笑顔で』

かつて、よしえはアキにそう話しました。

< あれは、ウソだったんだべか … >

『全部ウソだよ、声も言い方もウソ臭いでしょ、原稿読んでるみたいでしょ?』

しかし、あの時ユイはそう言っていました。

「いやいやいやいや!」

声を出して、ベッドの上で体を起こしたアキ、同室のふたりは眠りついています。

< ユイちゃんの言うとおり、全部ウソだったんだあ! >

「んだんだんだんだ!」


掛け布団を払いのけたアキ。

< そしてついに、病気の夫を見捨て、娘の夢を犠牲にしてまで、東京さ来たのだ …

あららららら、恐ろしい女、鬼嫁だあ >

「知らせなきゃ!」


アキは携帯を手にして、ユイを呼び出しましたが … 出る気配がありません。

「痛っ、痛い痛い … 」

腹痛に襲われて、うずくまるアキ … 薫子が心配そうに覗いてみています。

< 言えねえ、これ以上ユイちゃんを傷つけたくねえ>

携帯を閉じて立ち上がりました。

「いやいやいやいや … 」

いつまでも暗がりでゴソゴソしていたかと思うと、急に声を上げたりで、うるさいアキ。

我慢しきれなくなったしおりが起き上がって、アキをにらみつけて言いました。

「うるっせえな、お前、この野郎! 何時だと思ってるんだよ? … 寝ろ!」

… … … … …

一方、ユイは …

リアスでバイトを始め、立ち直りかけているとはいえ … 学生の時とは比べようにならない不規則な生活を送っていました。

散らかったままの部屋に横たわっていたユイは携帯に手を伸ばしました。

アキからの着信があったようです … 携帯を開くと、着信履歴はほとんどアキからのものでした。

アキにコールしようとしましたが、すかさずキャンセルしてしまいました。

… … … … …

再び合宿所。

水口の部屋の戸をノックする者がいました。

返事をしても、ドアを開けずにもう一度ノックしました。

そのうち、かすかな泣き声が聞こえてきます。

戸を開けると、枕を抱えた泣き顔のアキが立っていました。

「 … 眠れません」

うらめしそうな顔で水口のことを見上げています。

「君はいくつだ? … もう寝なくていいから、布団の中でじっとしていなさい」

あきれた水口が戸を締めようとするのを、アキは止めました。

「じっとしてたらウルサイって言われました … 気配がウルサイって、出てってくれって」

… … … … …

「えっ、ユイちゃんのお母さんが?」

うなずくアキ。

「あの上品な奥さんが? … 浮気とか絶対しなさそうな、風邪薬のコマーシャルに出てそうな奥さんが?」

取りあえず、部屋に入れたアキの口から、失踪中のよしえを見かけたことを聞いた水口。

「男と上野で?!」

「はい」

「 … それは、確かに『じぇじぇじぇ』だ」


アキが眠れないのも理解できました。

「どっちにしろ、警察に届けだしているわけだから、似た人見かけたって通報した方がいいかもね」

「ユイちゃんには?」

「それは、絶対言っちゃダメだよ … ただでさえ心が折れかけてるのに、蒸発した母親が東京でしかも男と一緒だなんて聞いたら、完全に折れるよ」


… … … … …

「どうなの、最近連絡取ってる?」

よしえの件以来、メールも返って来ない、留守電入れても折り返しもないという状況でした。

「何か責任感じるなあ … 」

「水口さんが、なして?」


水口は部屋を出て、食堂へ行き、冷蔵庫から飲み物を取りながら言いました。

「だって、ふたりを引き裂いた元々の原因は俺だし … あんなに仲良かったのに」

アキにも1本渡しました。

「んだな、あっちさいた頃は毎日何時間でもしゃべれたのに … 今は電話繋がっても、正直何しゃべっていいか分がんねえ

… せめて、おらとユイちゃんの立場が逆だったら」

「そういうもんかもしれないね …

前に言っただろう、ユイちゃんの方が可愛くて華があるのにって … でも、ひょっとすると、世の中動かしてるのは、一番かわいい子や一番才能のある人間じゃなくて、2番目なんじゃないかって思うんだ」

「2番目?」

「2番目の人間が一番の人間に対して、恥ずかしい姿見せたくないって、頑張ったときに成功するんじゃないかって」

「ユイちゃんに対して、恥ずかしくねえ仕事をしろってことですか?」


水口はうなずきました。

『ユイに恥ずかしくない仕事をする』、その言葉を声には出さずにもう一度繰り返したアキでした。

… … … … …

「あっ、君が2番って意味じゃないけどね」

すかさず、水口は言い直しました。

「そこは、『うん』でいいじゃないですか?!」

「それは、ダメでしょ? … 今40位に入れるかどうかの崖っぷちなんだから … ドラマの撮影もあるし」

「あっ、そうでした」


アキは立ち上がって、たったひとつだけ与えられているセリフを言いました。

「島田さん、先週引っ越しましたよ」

訛りは取れていますが棒読みでした。

「いやいや、今のは本気じゃねえし」

「本気でやってよ、この扉使って」


水口は居間に移って、食堂の扉を締めました。

「はい、ピンポーンピンポーン」

ソファに腰かけて、チャイムを鳴らす口マネをしました。

「島田さん、先週引っ越しましたよ」

「 … もう1回」

「島田さん、先週 … 引っ越しましたよ」

「 … ちょっと、表情が硬いかな?」

< 考えてもしょうがねえし、取りあえずおらは、仕事さ打ち込むことにしました … 隣人Cになりきることに >


… … … … …

< 生まれて初めてカメラの前で演技することに、緊張していたのはもちろんですが … 今は余計なことを考えたくなかった、というのが本音です >

< 幸い、土日はイベントだし、考える余裕もありませんでしたが、気を抜くと思い出してしまう … >


歌の途中、幾度となくダンスをつかえてしまうアキ … その度に、しおりの表情が険しくなりました。

… … … … …

「しっかりしてよ!」

イベントを終えて、合宿所に着くなり、しおりはアキを咎めました。

「反省会? もう反省会?」

食事を作ろうと、一緒に帰ってきた小百合が、勝手が分からずに驚いて聞きました。

「ごめんなさい … 」

「もうすぐドラマの収録だから、集中できないのかもしんないけどさ、ちょっと酷すぎ!」

「ダンスはともかく、握手会のあれはマズイわ」


アユミが指摘したのは … ファンと握手する時、アキはずっとひとりひとりに「島田さん、引っ越しました」と笑顔で繰り返していたのです。

ほとんどのファンが意味が分からずに戸惑っていました …

「誰? 島田とかいうメンバーおらんし!」

「ごめん、無意識 … 完全に無意識!」

「うちらは、もう後がないんだよ! … やる気ねえなら、辞退してくれないかな?

目障りだから!!」


そう言い捨てると、しおりは皆を残して部屋に行ってしまいました。

… … … … …

「さすがにピリピリしてんなあ」

薫子が苦笑いしました。

「無理なかよ、国民投票のしめきりまでくさ … あと1週間なかけんね」

「じぇじぇっ」


真奈の言葉に驚くアキ、カレンダーを確認しました。

「忘れてた訳?」

逆に驚いて聞き返す喜屋武。

「暦の上ではディセンバーさ」

「ごめん … おら、自分のことしか考えてねがった。

っていうか、開票日とドラマの収録かぶってる、どうすべえ?!」

「アキちゃんは大丈夫たい、ファンもおるし … 仕事も順調やもんね」


真奈にそう言われて、謙遜したアキ。

「あれ、笑ってるな … 余裕ある証拠や!」

喜屋武と薫子がアキを捕まえてくすぐり始めました。

「やめてけろっ!」

「できたら、6人皆残りたいな」


アユミの言葉を聴いたアキは言いました。

「残れるよ、残れるようにやるしかねえべ!」

… … … … …

その様子を部屋の隅で黙って見ている水口、少し浮かない顔をしています。

『戦略として国民投票はする!

… けど、これはリストラじゃない、ただ … 』

『何ですか?』

『あの海女の子いるだろ? 岩手の』

『はい、天野アキですね』

『あの子はなあ … 何か違う、何か違う』

… あの日のやり取りを思い返して、太巻の態度が心に引っ掛かっていました。

… … … … …

「ねえ、水口さん」

アキに声を掛けられて、水口は我に戻りました。

「6人全員で年越せたら、安部ちゃんに年越しそば作ってもらうべ」

「まめぶも作るか?」


夕餉の支度をしながら、小百合は笑っています。

「もっと美味いもん食わしてやるよ」

ぼそっと失礼なことを言うと立ち上がりました。

「とにかく、皆ここまで頑張ったんだから、悔いのないように、正々堂々戦い、どんな結果も受け入れ、ちゃんと前を向いて … 」

そのまま自分の部屋に入ってしまったので、最後の部分は皆聞き取れませんでした。

… … … … …

その時です。

アキの足元に何か落ちました。

… それはミサンガでした。

左手首にしている5本のうちの1本が切れて落ちたのです。

「じぇじぇじぇっ!」

アキは切れたミサンガを拾い、腕をまくって、うれしそうに小百合に見せました。

「見で、安部ちゃん、ミサンガ1本切れた!」

「じぇえ、じぇじぇっ … 願い事叶うべや!」


メンバーにもミサンガを見せるアキ。

「それってもしかして、6人皆合格ってこと?」

薫子が言うと皆飛び上がりました。

「しおりちゃんば呼んできて!」

… … … … …

『何か違う、何か違う』

『鬼が何か違うっつってるんだから、何か違うんだろ、違う?』

… 確かにアキは他の子たちとは少し違うところがあるかも知れない。

しかし、それはアイドルにとって決してマイナスなことばかりではないはず。

あの時、太巻の態度から感じられたものは … 水口の思い違いでなければ、アキに対する恐れや嫌悪感のようなものでした …

… … … … …

不機嫌面のしおりを喜屋武が部屋から連れてきました。

「見て、リーダー … ミサンガ切れた!」

アキが切れたミサンガを目の前に差し出すと … 一転、笑顔が戻ったしおり。

「あっ、天下取れる … 天下取ろうね、皆っ!」

「天下、よしっ!」


円陣を組むメンバーに小百合も加わって、声を合わせました。

「天下取ろうね … GMT6!」

歓声、皆でハイタッチ。

ミサンガが自然に切れた時、願い事が叶う … それが迷信であっても、今は少女たちの不安を少しの間だけ吹き飛ばしてくれました。

… … … … …

2009年12月12日。

その日は、アメ女の国民投票当日でした。

東京EDOシアター前には沢山のファンが詰め寄せて … いよいよカウントダウンが始まりました。

「 … 5、4、3、2、1 … ゼロ!」

歓声と共にシアターの正面に掲げられた大きなスクリーンに『結果発表』の文字が映し出されました。

アキを除いたGMTのメンバーは、それぞれの衣装に着替えて奈落に集合しています。

スクリーンに太巻の姿が現れました。

「プロデューサーの荒巻太一です … 私は今、ニューヨークにいます」

太巻のバックには、摩天楼の灯りが見えます。

… … … … …

< そして、ついに女優デビューの日がやって来ました >

「ドライ前に紹介します … 隣人C役の天野アキさんです」


ADが紹介するとスタッフから拍手が起こりました。

ひろ美に促されて前に出たアキ。

「よろしくお願いします」

繰り返し繰り返し、スッタフたちに向かってお辞儀をしました。

「よろしく、今日は共演者だからね … 対等に行きましょう」

ひろ美はアキの手を取ってそう言いました。

うなずいた後、アキは慌ててひろ美に尋ねました。

「ドライって何だ? … ドライなんて、教わってねえど、何? 今すぐ教えろ!」

「お芝居の段取りを決めるんだよ」


いつの間にか後ろに控えていた水口が代わって答えました。

「じぇじぇじぇ、水口さん、なしているの?」

「マネージャーが現場に来るの、当たり前だろ」


素っ気なく言うとスタジオの隅に向かいました。

… … … … …

「鈴鹿さん、今日まで色々とありがとうございました」

改めてひろ美に挨拶をするアキ。

「えっ、引退?」

戸惑い気味のひろ美にアキは答えました。

「はいっ、そのつもりで当たって砕けます!」

< 前略 … ユイちゃん、ママ、夏ばっぱ、あと大吉っつあんとか、そこら辺の皆さん。

ついに私、天野アキ、女優デビューでがす! >


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2013年07月09日 (火) | 編集 |
第86話

人通りが多い道路、ハッピを着た水口が行き交う人たちを呼び込みます。

「新世代アイドルGMT6、どうかよろしくお願いします!」

< ついに、GMTが動き出しました >


会社の協力が得られず、自分たちの手で、それも路上でファンミーティングを開催することになった我らがGMT6。

「GMT6、来年必ず来ますよ!」

しおりの合図でメンバーは円陣を組みました。

「天下取ろうぜ! GMT!」

「奈落から出ようね! GMT!」

「バイト辞めようね、仕送りもらうの止めようね!」

We are GMT6!


… … … … …

< GMTは当初予定していた47人のメンバーは集まらず、今の6人のメンバーでGMT6として、国民投票に臨むことになりました。

でも、ここで踏ん張らないと『解雇』 … 知名度のないGMTは、危機感を持って活動を開始したのです >


路上ライブに集まるのは、コアなファン数名だけ … ほとんどの通行人は足を止めることもなく、横目で通り過ぎて行ってしまいます。

< 安部ちゃんにも協力してもらいました。

まめぶはもちろん、他のメンバーの郷土料理も作ってもらって、劇場周りでPRしてもらいました >


ずらっと並んだ、宮城・ずんだ餅、沖縄・サーターアンダギー、埼玉・行田フライ、徳島・フィッシュカツ、佐賀・ムツゴロウの蒲焼 …

「出待ちの皆さん、毎日ご苦労様 ~ 」

メンバーがそれぞれの地元料理を手に有権者(ファン)にアピールしました。

< そんな地道な活動が実を結んだのか … GMTで初めて雑誌の取材を受けることになりました >

… … … … …

東京EDOシアター。

水口がメンバーを集合させました。

「はい聴いて、週刊プレイガイの人気コーナー、『ヒビキ一郎の俺は認めねえ』というページの取材です」

「えっ、ヒビキって … 」


部屋に入ってきた趣味の悪い派手なジャケットを着た男、髪型も変えましたが、間違いなく少し前まで北三陸に頻繁に出没していた“あの”ヒビキ一郎でした。

「よう、まだやってんだ?」

「じぇじぇっ!」


アキを見つけて声を掛けてきました。

「知り合い?」

「うん、何かおらたちがイベントやると必ず最前列さ来る」

「ユイちゃん目当てだし、ブス眼中に入ってないし」


相変わらずです。

「ブスじゃねえって!」

「おい、ヒビキさんは今じゃ第一線のアイドル評論家なんだから」


水口がつかみ掛かりそうになったアキをたしなめました。

「 … 兼カメラマンね」

自分でカメラをセットしながらそう言ったヒビキ、何か以前にはなかった余裕が見られます。

「知ってます、アメ女もヒビキさんが取り上げてからブレークしたんですよね?」

薫子にそう言われて、ヒビキはにやけながら、レコーダーのスイッチを入れました。

「自己紹介とかやっとく? … お前から」

エラそうにしおりのことを指しました。

「お前?」

「悪気はないから」


今度はアキがなだめましたが、ヒビキは構わず続けて言いました。

「お前がリーダーだろ? 違うのかよ、ブス」

「ブス?」


さすがにムッとして身を乗り出すしおり。

「口グセだから、言うほどブスだと思ってねえから」

わざとヒビキに聞こえるように大きな声で言うアキ。

「 … 毒蝮三太夫のババアみたいな感じで大丈夫?」

小声でアキに確かめるしおり。

「時間ないんですけどお」

いかにも自分は売れっ子だとアピールするヒビキ。

水口にも促されて、しおりはカメラの前に立ち、いつもの自己紹介を始めました。

「はいっ、海はないけど、夢はある … 」

「海も夢もねえよ!」


シャッターを切りながらも、とことん毒づくヒビキです。

… … … … …

ヒビキの取材はファンミーティングの現地に場所を移しました。

「 … 埼玉在住アイドル、入間しおりです!

今日も東武東上線に乗って、元気いっぱい!!」


しおりの挨拶が終わり、次は薫子の番です。

「宮城県から来ました、小野寺薫子、15歳でがす」

少ないながらも観客から拍手が起きました。

「小野寺ちゃん、イエ~イ!」

しおりの時は、お役目に写真を撮っていただけのヒビキが調子よく声を掛けました。

「宮城と言えば?」

「♪ずんだずんだ ~ 」


水口の合いの手をみて、顔色を変えるヒビキ。

「わたすの名前は?」

「小野寺ちゃ~ん!」


両手を耳に当てる薫子。

「えっ、呼んだ?」

「呼んだ呼んだ、イエ~イ!」


水口は顔の前でVサインを横に流しました。

再び観客から拍手 …

ヒビキがすかさず水口に駆け寄ります。

「今の後で教えてよ」

… … … … …

アキの番が来ました。

「岩手県は北三陸市で海女やってます … 潜水士の資格も持ってます。

海女ちゃんこと、天野アキです!」

< これが大都会東京 … 立ち止まってくれる人は、わずか2、3人。

それでも冷ややかな視線に耐えながら頑張った … >


続いて、握手会。

今日、集まっている観客は皆、薫子が目当てらしく、彼女の前だけ握手を待つ列ができました。

他の5人は、握手している薫子の横で虚しく笑顔を合わせるだけでした …

… … … … …

合宿所に戻ったメンバー。

上着を脱ぎ捨てるしおり、ソファにどっと倒れ込むアユミ。

「ああ、もうやだ … もうなんかたまらんっ、あんなんしたって票なんか集まらんもん!」

「うちもあがん恥ずかしか思いばするために東京へ出てきたんやなかと」


口をとがらせる真奈。

「もういいから、座って座って!」

それでもリーダーのしおりは皆を席につかせて、反省会を始めました。

「まず … 何故マイクが3本しかなかったの?」

「発注ミスさあ」


しおりに聞かれて、喜屋武が答えました。

「まあ、幸い歌入りのCD流しとったけん、口パクで行けたけど」

「いやいや … 何でそもそも歌入りのCD持って来ちゃったの?」

「発注ミスさあ」


また答えたのは喜屋武です。

「もう、誰の発注ミス?!」

皆の顔を見渡すしおり。

「 … 喜屋武ちゃんさあ」

申し訳なさそうに本人が答えました。

「ちゃんとしよう、人前だよ … 奈落じゃないんだよ?!」

… … … … …

水口は、ファンミーティングのことを太巻に報告しました。

「だから言ったじゃん、まだ早いんじゃないかって」

「すいません … しかし、何のアクションも起こさないままクビになったんじゃ、浮かばれないし」

「俺だってさ、鬼じゃないんだからさ、水口? … いやまあ、鬼なんだけどね。

鬼の業界じゃ、優しい方の鬼っつうか、気さくな鬼だよ」


頭を下げる水口。

「戦略として国民投票はする!

… けど、これはリストラじゃない、緊張感のないメンバーに喝を入れつつ、やる気のある新人にチャンスを与える、それが目的だ。

ただ … 」

「何ですか?」

「あの海女の子いるだろ? 岩手の」

「はい、天野アキですね」

「あの子はなあ … 何か違う」


太巻は不快な顔をしました。

「何か違う」

二度繰り返しました。

「違うって、何が違うんでしょう?」

「何か? … 鬼が何か違うっつってるんだから、何か違うんだろ、違う?」


太巻にしては珍しいキレ方です。

「すみません … でも、今回のイベントも彼女の発案ですし、やる気だけは人一倍 … 」

「そこが、問題なんだよなあ … 」


… … … … …

無頼鮨。

カウンターでひろ美がアキ相手に台本のセリフ合わせをしています。

「 … 被告に殺意があったという検察側の主張は、信憑性のないものであり、被告は … あれっ、被告 … 」

セリフに詰まったひろ美は、アキの顔を見ました … 居眠りしています。

「被告人っ!」

飛び起きたアキは思わず叫びます。

「裁判長!」

「寝てたでしょ?」


ひろ美に聞かれてアキは答えました。

「寝てません、裁判長!」

「弁護人よ! … 『おめでた弁護士・寿蘭子』」


ひろ美は台本の表紙をアキの目の前に突きつけました。

「すいません … 今日は朝からイベントで、立ちっぱなしで」

「じゃあ、辞める? … 付き人」

「やだっ!」


アキはテーブルの上にあったガリを思いっきり口に放り込みました。

「だったら、ちゃんと起きてて … セリフ合わせになりません!」

「はいっ、ガリ食って目が覚めました!」


… ガリより、ワサビをもらった方が良かったのでは?

… … … … …

ふたたび再開。

「被告に殺意のあったという検察側の主張は … 」

… 寝息が聞こえてきます。

ひろ美に気づかれないように、カウンターの中からアキの顔をのぞきこむ梅頭。

「裁判長!!」

飛び起きたアキ。

ひろ美はテーブルを叩きました。

「もう帰って!」

… … … … …

アキは店の裏に停めてある自転車に乗ろうとした時、出てきた種市に呼び止められました。

「天野、忘れ物」

そう言って差し出したのは、「おめでた弁護士」の台本でした。

「それ、おらのじゃ、ねえです」

「いや、鈴鹿さんのは表紙にマジックで鈴鹿ひろ美って書いてある」

「 … じゃあ、おらのです」


アキは話すのも面倒な感じで、台本を受け取るとペラペラとめくりました。

「大変そうだな、明日もイベント?」

「まあね」


自転車のかごに無造作に台本を放り込みました。

「あ、見に行ってもいいか?

大将とふたりで、ファンのフリして握手会さ並んでやるから」

「 … 気持ちはうれしいが、遠慮するべ」


昔のアキなら手放しで喜んでいたかもしれません。

「そうか … まあ、頑張れ」

店に入る種市、アキも自転車を走らせようと …

「じぇっ?!」

ペダルを数回漕いだ時にふと気づきました。

かごから台本を取り出して、慌ててページをめくります。

お目当てのページはすぐに見つかりました。

「じぇじぇじぇっ?!」

… … … … …

「じぇじぇじぇじぇっ!」

慌てたのは、種市です … 大将は目を剥いて絶句しています。

帰ったはずのアキが自転車のまま、店の中に飛び込んできたのです。

「鈴鹿さん、帰っちゃった?」

一足違いでした。

「何、どうしたの?」

「見でこれ!」


種市はアキから渡された台本の開いてあるページを見ました。

「マンション隣人C 天野アキ!!」

「先輩、ねえ、おらのことだよね!」

「ほんとだ、すげえな天野!!」


喜び合うふたり。

… … … … …

「バーターってやつだね」

合宿所に戻って、水口に報告するとそう言われました。

「バ、バーター?」

「鈴鹿さんが『うちの付き人使ってくれ』って監督かPに掛け合ってくれたんだよ … ちゃんとお礼言わないとね」

「監督かピーにか?」

「鈴鹿さんにだよ、鈴鹿さんのおかげで出れるんだから」


うなずくアキ。

「で、セリフは … お、あるじゃん!」

「あるんですよ、それが … ひとつだけ!

すまだ(島田)さん、先週引っ越すますたよ」

「 … 訛ってんなあ」

「だめかなあ、東北出身の隣人ってことで … わあ、どうすべえ?

夏ばっぱさ電話しねえと!」


うれしそうに自分の部屋へ戻って行くアキの背中を見る水口。

昼間の太巻の態度が少し気になっていました …

… … … … …

「なぬっ、ドラマさ出るってか?」

アキからの電話を受けて夏は喜んでくれました。

「そんな大きい役じゃねえから、まだ内緒にしてね」

同室のしおりと薫子は就寝しているので、小声で話すアキ。

「わかった、誰にも言わねえ、絶対言わねえ!」

「いや … 誰も見ねえと、それはそれで悲しいんだけど」

「へへへへ、何だよ、ほんとは見てほしいんだべ?」


その通りでした。

「なあ、正月帰えってくるのか?」

「いやあ、忙しいからな … あ、じゃあ切るね」

「 … 何だや、せわしねえなあ」


夏は抱いた猫に話しかけ、ため息をつきました。

… … … … …

「ドラマ、おめでとう … 」

二段ベッドの上から顔を覗かせて、薫子がそう言いました。

「あ、ごめん … 聞こえてた?」

「うん、今度から外で電話した方がいいかも … 」

「えっ?」

「ドラマ出たいのは、アキちゃんだけじゃないから … 」


寝返りを打つしおりが目に入りました。

迂闊でした … 有頂天になっていて、人のことにまで気が回りませんでした。

それを年下の薫子に指摘されるなんて …

「そっか、そうだよね … ごめん」

「 … おやすみ」


… … … … …

♪暦の上ではディセンバー でもハートはサバイバー

< ヒビキさんが、雑誌で取り上げてくれた効果だべか … 次第に立ち止まって写真を撮る人も増えてきて >

♪今宵の私はディセンバー さまよう気分はハンター

そうなってくると、握手会も盛況で薫子以外のメンバーの前にも列ができるようになりました。

アキの前に並んでいたのは、いつかシアターの楽屋口で会ったふたりの少年でした。

「あの、ふたりとも小野寺ちゃん推し(ファン)だったんですけど … 話し合いの結果、今日から俺たち、アキちゃん推しで行くことに決めました」

「そうか、ありがとう!」

< 何だか、運が向いてきたのかも … >


その時、アキの目によく知っている顔が飛び込んできました。

「じぇっ!」

キャリアウーマンのような出で立ちで颯爽と歩くその女性は男性と談笑しながら、横断歩道をこちらに渡ってきました。

「じぇっ!」

向こうは気づかずにアキの目の前を通り過ぎました。

< それは、紛れもなく … ユイちゃんのママでした。

うわあ、えらいもん見ちまった … >


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2013年07月08日 (月) | 編集 |
第85話

「国民投票を行います!」

< 太巻さんの鶴の一声でおらたち60人はいぎなり崖っぷちさ立たされました。

国民投票で20位までに入るとアメ女のレギュラーメンバーに昇格。

30位以内はリザーブ、年越しライブに出演できます。

40位までがビヨンド、つまり奈落組。

ただし、40位以下の6人は … >

解雇!!


… … … … …

東京EDOシアター、朝のミーティング。

それぞれの趣向を凝らせた衣装を着たGMT6のメンバーは水口に引き連れられて、スタッフの前に並びました。

資料を配布して水口は説明を始めます。

「アメ横女学園の妹分として結成されたGMT6のお披露目を兼ねて、ファンミーティングを企画しています。

握手会、撮影会はもちろん、地元の名物料理を振舞うなど、地方色を前面に出して認知度を上げていく作戦です。詳しくは … 」


アメ女のチーフマネージャー、河島耕作が口を挟みました。

「ちょ、ちょっと待って水口 … これ、太巻さんなんて言ってるの? 太巻さんのGOは出てるの、出てないの?」

「社長には … 皆さんの感触を確かめてから」

「まず社長だろう? … うちの会社は、太巻さんが『やれ』と言ったことをやる、太巻さんが描いたビジョンを形にするのが俺たち社員の役目だろ、水口」


河島は資料を突き返しました。

そこへ出社してきた太巻。

「挨拶も訛った方がいいんじゃないか?」

GMT6にそう言いながら、テーブルの上に置いてあった資料に目を付けました。

「何だこれ?」

「GMTのファンミーティングです … 2階のアイドルカフェでフェアを展開しつつ、認知度を上げていく作戦で … 」


水口の説明を聞きながらパラパラと捲りました。

「う~ん … まだ早いんじゃないか?」

そうひとこと言うと社長室に入って行ってしまいました。

「まだ早いんじゃないか … はいっ解散!」

太巻の言葉を忠実に復唱する河島、太巻が取り上げない以上、この話はこれでお終いです。

… … … … …

< 考えすぎだべか? … あの日から社長のおらを見る目が変わった気がする >

『お母さんがよろしぐって』

『お母さんが?』

『 … 天野春子っていいます』

『えっ、何っ、えっ?! … 君、天野春子の娘?』

確信はないのですが … あの日以来、太巻が自分と視線を合わせないようにしている、自分のこと避けているような気がしてならないアキでした。

< 考えすぎだべか? … >

… … … … …

楽屋口。

カリカリしながら、あゆみが出てきました。

「まだ早いって何よ、遅すぎるわ」

もう時期、国民投票は始まってしまいます。

「水口さん、てっきり食い下がると思ったんだけど」

当てが外れたしおりも不機嫌です。

「やっぱり社長には逆らえんとばいね」

ドアに貼られた国民投票のポスター、太巻の顔をぼ~っと見ているアキに喜屋武が声を掛けました。

「どうした、アキ?」

「何でもないさあ」


急いで皆に追いついてくるアキ。

「ラーメンでも食べてく?」

しおりの提案でメンバーは楽屋口の前にいつもいる屋台のラーメン屋の席に着きました。

… … … … …

「あの、すいません」

出待ちしていた連中の中からふたりの少年が近づいて来ました。

「GMTの皆さんですよね?」

「あ、えっ、そうですけど」

「ネットで見て、何かビビッと来ました」


喜色満面、メンバーは席を立って少年たちと相対しました。

「今度の国民投票もGMT押します」

少年Aが手を差し出しながら言いました。

「ありがとうっ」

真奈が両手を出して握ろうとしたのですが、サッと引っ込めてしまいました。

「小野寺ちゃんは?」

「 … 何かテスト近いから、勉強みたいな」


取り繕うしおり。

「あ、これ … 」

少年Bがカバンから小さな包みを取り出して渡してきました。

「ありがとうっ」

今度こそしっかり受け取った真奈に少年Bは言いました。

「 … 小野寺ちゃんに渡してください」

… … … … …

合宿所。

「小野寺ちゃんにプレゼント、捨てちゃっていいい?」

先ほどの包みを手に、居間に先頭で入ってきたしおりの足が止まりました。

ソファに男が腰かけて、パソコンをいじっています。

「じぇっ?」

… 正宗でした。

「誰ね、ここでなんばしよっと? あんたくさあ!!」

棒を振り上げて威嚇する真奈をアキが慌てて止めました。

「うちのパパ!」

目の悪い真奈が、改めてよくよく見直して、正宗だとわかりました。

「ほんとだ … その節はどうも」

アメ女のメンバーの代役で急遽呼び出しがあった時、偶然居合わせた正宗にシアターまで送ってもらったのです。

「ほな、こっちはママ?」

アユミが指さす方、廊下に見知らぬ女性が立っていました。

「あ、うちの母ちゃん … 」

トイレから出てきた薫子が申し訳なさそうに言いました。

女性は、薫子の母親、小野寺さとみでした。

… … … … …

「仕事の合間に彼女のブログをずっとチェックしてたんだ」

正宗はパソコンで薫子のブログを開いて、皆に見せました。

『どうすっぺ、40位に入んねえど、クビだ … 』

「これは果たしてどうなんだと、大事な娘同士を大人の都合で競い合わせて優劣をつけるようなことが許されるのかと … 」

「私が書いてるんです … この子のフリして」


暴露するさとみ。

「それじゃあ、一緒に抗議しましょうっと」

「抗議?」


正宗はうなずきました。

… … … … …

報せを受けて合宿所に戻ってきた水口、正宗の顔を見るなり頭を下げました。

「あれっ、あんた?」

「ご無沙汰してます」


ふたりは北三陸で何でも会っていました。

しかし、何処かで会ったことまでは分かるのですが、誰だか思い出せない正宗。

「琥珀の勉さんの弟子だ」

アキにそう言われても、勉さんのこと自体、まったく思い浮かばないと、頭を抱える正宗に水口は言いました。

「あ、もう結構です、勉さんは … 弟子じゃないし」

「じゃあ、何なんだよ、今の話は?! 時間の無駄!!」


実際のところは短気なのか、正宗は立ち上がって大声をあげました。

「スカウトマンだ、弟子に成りすましてたんだ」

「はい、今はマネージャーです … 水口と申します」


… … … … …

水口が要件を聞くと、まず正宗は薫子のブログの件を話し始めました。

「国民投票を止めさせろって、お母さんブログに書いてましたよね?」

水口はブログのことも、それをさとみが書いていることもすでに承知していました。

感心する正宗。

「ええ、マネージャーとして当然でしょ」

「理不尽です … こったの、体の良いリストラじゃねえですか?

ろくな芸能活動もしてねえのに」

「なるほど」

「まだ15歳ですよ … 高校受験も控えてます。

クビになったら、親子ともども路頭に迷うんです!」

「なるほど、なるほど … 返す言葉もありません」


低姿勢の水口ですが、その言葉には心がこもってないように聞こえます。

「聞けば、お母さん、旦那さんと離婚して上京する準備を … 」

正宗が説明すると、さとみは声を大にしました。

「必死なんです、私たち! … この子に賭けているんです!!

こった中途半端な形で解雇だなんて、納得いかねえ」


… … … … …

「40位以下ならね … その代り20以内に入れば、レギュラーに昇格します」

「まさか … 」


冗談で言われたかと思って、さとみは笑ってしまいました。

しかし、水口は真剣でした。

「まさかって何ですか? … いくら可愛い娘さんでも、そこまでは可愛くないという意味ですか?」

「おいっ!」


水口の言葉に正宗は立ち上がりました。

「水口さん、言い過ぎ!」

たしなめる、しおり。

「40位以下、すなわち解雇になる前提で抗議にいらっしゃったんですか? … そんなの、徒競争の順位を発表するなって言ってる親と一緒じゃないですか?

小学校の運動会じゃあるまいし、芸能界はそんなに甘いところじゃないんです。

うちのやり方が気に食わないなら、辞退してもらっても構いません … 参加しないでください、そうしたら他の子にチャンスが回りますから」


さとみは聞き返しました。

「それは … 田舎さ帰れって意味ですか?」

「あるいは、もっと生ぬるいプロダクションで飼い殺しにされるかですね」


キツ過ぎるひとことに、さとみの顔は強張り、メンバーの視線も水口に集中しました。

… … … … …

水口はさとみに頭を下げました。

「すみません …

僕も始めはフェアじゃないと思いました … アメ女と同じ土俵で戦うにはこの6人、経験値も知名度もなさすぎる。

でも … だからこそ、ランクインしたら『こいつ誰?』ってなる訳ですよ。

ねえ? ねえ?

田舎者で訛っている無名の新人が揃って上位に食い込んだら面白いだろ?

なあ? なあ? なあ?」

「はいっ!」


水口の夢物語をワクワクしながら聞いていたアキは思わず立ち上がっていました。

「あれっ?」

しかし、それはアキだけ … 他の皆は深刻な表情で考え込んでいます。

「じぇっ … 今の『はい』は合いの手だと思ってください」

へたれのアキは座りなおしました。

「わかった …

じゃあ、この中からひとりでもクビになる奴が出たら、俺も一緒に辞める」


ざわめく一同。

「責任とって、俺も解雇にしてもらう。

… どうですか、お母さん? 6人全員40位以内に入れるように自分も死ぬ気で頑張りますから」


それでも、不安は解消されない、さとみでしたが、仕方なくうなずきました。

< 知らねがった … 水口さんが、そこまでおらたちに賭けてたなんて。

無表情で分かりづれえけど、そこそこ熱い人なんだ >


… … … … …

正宗のタクシーの中。

「ごめんな」

「何が?」


いきなり父に謝られても、アキには何のことかわかりませんでした。

「近くにいるのに、何もしてあげられなくて … 」

「いいよ別に、パパにはパパの生活があるもんね」


深い意味はなくそう答えたアキ。

「別れた … こないだマンションにいただろう? 女、同窓会の女 … 別れたよ」

父の言葉でエライことを思い出したアキ。

「じぇじぇじぇっ!」

「振られたんじゃないぞ … かと言って、パパが振ったわけでもない」

「いわゆるフェードアウトってやつ?」


いきなり客席に乗り込んできたのは … 鈴鹿ひろ美でした。

「いや、ちゃんと話をしました … それで、別れたんだ」

「“同窓会の魔法”が解けてしまったんでしょうね?」

「そうでしょうね … そして、やっぱり妻を愛してるんでしょうね … !!!」


ようやく、自分とアキ以外の誰かが乗っていることに気づいて振り向いた正宗。

アキもひろ美だと気づいて、ペコリとお辞儀しました。

「月島方面にやってください」

「この人、父です」


アキはひろ美に正宗のことを紹介しました。

「あら、そうなの?」

「おら今この人の付き人してるんだ」

「へえ、そうですか?」


正宗はミラー越しに軽く会釈しました。

タクシーを降りるアキ。

「じゃあね、またねパパ … 気をつけてね」

正宗は改めて行く先を確認しようと、振り向いて … 更に驚きました。

「 … す、鈴鹿ひろ美じゃん」

ひろ美は熟睡していました。

… … … … …

合宿所に戻ったアキは水口の部屋を訪ねました。

「お仕事中ですか?」

「仕事って程じゃないけど、イベントの場所探し」


会社が協力してくれないからといって止めるわけにはいかないと水口は言いました。

「お父さんの手前、あんなこと言っちゃったけど … クビになって一番困るの俺だし」

「すみません」

「何かさ、途中から勉さんに言われたこと思い出しちゃったよ」

「琥珀の?」

「そう、琥珀の勉さん … 俺の師匠」


… さっきとは言っていることが違いました。

水口が指差した場所に琥珀の塊が置いてありました。

それを手に取るアキ。

『こんなもの、元はただの樹液だべ … 磨いて磨いて、やっと価値が出る。

お前の仕事もそうだべ?

どんないい原石もよ、磨かねかったら、宝石にはなんねえ!』

「 … ようやく、ピンと来たっていうか … 俺は今、6つの原石を持っているんだなって、それを勉さんみたいに磨いて磨いて、宝石にするのが俺の仕事なんだなって」

「それ言えばよかったのに、皆の前で」


水口は苦笑いしました。

「 … 言えねえよ」

しかし、誰かに話したかった … 共通の知人であるアキにポロリと話してしまったのでした。

… … … … …

「ダメだ、何処も高いわ」

イベントのためにネットで調べた会場、それなりの場所はどこもそれなりの金額が必要でした。

「路上でやったらどうですか?」

「えっ?」

「お披露目なんだし、駅前とかロータリーとか … どうせなら、人目に付く場所の方がいいべ?」

「路上か … 」


考えてもみなかった発想でした。

「北三陸でもそうだった … でっけえ声出せば、人は皆集まってくる」

「それは田舎だからだろう? … 東京は違うよ、怖いよ、コンクリートジャングルの冷たさ、なめんなよ」


… … … … …

しかし、水口はアキの案を採用しました。

人通りが多い道路。

メンバー自ら「GMT6ファンミーティング」と書かれたノボリや看板を設置します。

ハッピを着た水口が行き交う人たちを呼び込みます。

「新世代アイドルGMT6、どうかよろしくお願いします!」

「GMT6、来年必ず来ますよ!」


知名度が低く、チラシを受け取る人も足を止める人もまだほとんどいません。

「おっしゃ、円陣組もう!」

しおりの合図でメンバーは手を合わせました。

「天下取ろうぜ! GMT6!」

< 前略、ユイちゃん …

おらたち、GMT6は、ここからスタートします! >

「We are GMT6!」


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2013年07月07日 (日) | 編集 |
さて、次週の「あまちゃん」は …

ファンの人気投票で40位以内に入らないと解雇されることになったアキ(能年玲奈)たちGMTのメンバーは、マネージャーの水口(松田龍平)とともに必死にイベントを行う。

女優はダメ、向いてない

そんな中、鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の紹介で、アキにドラマ出演のチャンスが舞い込む。しかし、撮影現場で連続してNGを出し、鈴鹿からは女優失格の烙印を押されてしまう。

第20位、GMT …

同じ頃、プロデューサーの太巻(古田新太)から投票の結果が発表されていた。GMTのメンバーは意外にも健闘するが、アキは合格圏内に入れずに解雇されることになってしまう。

以下のメンバーについては、公約通り解雇といたします

しかし、上位に入ったアユミ(山下リオ)に恋人がいることが発覚するなどして、アキは繰り上げ当選でなんとか解雇を免れる。

しかし、すっかり自信をなくしたアキは、メンバーの喜屋武(蔵下穂波)を連れて北三陸に帰ってくる。

突然の帰省に春子(小泉今日子)や夏(宮本信子)らは驚くが、町の人々みんなに歓迎され、にぎやかな正月を過ごす。

ユイちゃん?!

懐かしい面々との会話に心を和ませるアキだったが、ユイ(橋本愛)とだけは話ができないままでいた。実は、失踪したユイの母・よしえ(八木亜希子)が東京で見知らぬ男といるのをアキは目撃していたのだ。

答えは出た、君を必要とする人間はここにはいない …



あまちゃんニュース

「あまちゃん」東京編キャストポスター完成!
東京編キャストポスターは、故郷編ポスターと対の絵柄になっています。
故郷編では、ゆったりと時間が流れる北三陸の魅力を表現するために、キャストの方々に大らかで屈託のない表情をしていただきました。
東京編は、それとは対照的に、全員決めポーズで、カメラ目線。ひと癖もふた癖もありそうな東京の大人たちや、アキと夢をともにするアイドルの卵たち。彼らの緊張感あふれる表情で、東京の厳しさや華やかさを表現しています。

公式サイト(2013.7.6 更新)

「あまちゃん」総集編放送決定!
「あまちゃん」の前半を振り返る、総集編の放送が決定しました。
7月14日(日)総合/午後1時05分~2時35分

公式サイト(2013.7.6 更新)


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2013年07月06日 (土) | 編集 |
第84話

ついに『国民投票』について、太巻からマスコミに発表されました。

記者会見に着物姿で現れた太巻、金屏風の前に座り、横には国民投票と書かれた捲りが置かれています。

「2009年、国政も政権が代わりました。

アイドル界でも政権交代があるかも知れない … ないかも知れない。

アメ女も結成3周年。

日頃、陽の当たらない場所でがんばっているメンバーにもチャンスを与えてあげようじゃないかという訳で …

『国民投票』を行います!」


早い話が人気投票です。

アメ横女学園の全メンバー40人、GMTの6人を合わせた、計46人が対象です。

… … … … …

合宿所。

水口がGMTのメンバーに国民投票のシステムについて、説明をはじめました。

「ランキングで20位以内に入ると、アメ女のレギュラーメンバーに昇格します」

テーブルの上に積まれたビスケットの山から、ほぼ半分よけました。

「30位以内がリザーブ、恒例年越しライブに参加できます」

残った半分からまた半分よけました。

「で、40位以内がビヨンド … まあ、補欠?」

… … … … …

再び、記者会見場。

「 … ただし、40位以下の6人は?!」

太巻は立ち上がると、腰の日本刀を抜き放ち、捲りに向かって振り下ろしました。

そこには、真っ赤な文字で『解雇』!

ざわめく記者たち …

… … … … …

「解雇?!」

GMTのメンバーからも驚きの声が上がりました。

「うん、まあそういうことだからゴメンね」

水口は最後に残ったビスケットをかじりながらそう言いました。

「ああもう、絶対無理さ、うちらみたいな地下アイドル」

いの一番に嘆く、喜屋武。

「どがん方法で投票ば、すっとですか?」

「ネットとちゃう、携帯とか?」


真奈が聞くと、アユミが答えました。

「えっ、それだったら、自分で投票できちゃうじゃん」

しおりが言うように、組織票の入れ放題 …

「何でもマイナスに考えるなよ、社長はお前らにチャンスを与えてくれたんだよ」

水口がたしなめました。

「でも、6人クビになるんですよね?」

不安そうに尋ねるアキ。

「それも優しさだろう。

ここで40位以内に入らないような奴はさっさとあきらめて、違う道探した方がいいっていう親心 … だと思う」


何にせよ、もう決まったことでした。

「 … 生き残る方法を考えてください。

はい、以上! … おやすみ」


… … … … …

水口が出て行ったあとのリビング。

リーダーのしおりが言いました。

「どうする? 喜屋武ちゃんの言うとおり、うちら圧倒的に不利なんだよ … メンバーじゃないし、シャドウだし、誰かが休まない限り、ステージに立てないし!」

「アピールしたくてもできない訳よ」

「 … あのう、イベントやったら、いいんでねえのか?」


アキの提案で喜屋武が思いつきました。

「路上ライブはどうね?」

「何、歌うの?」

「BEGINとか」


すかさず答えた喜屋武にしおりがダメ出しです。

「出たよ、沖縄の人ってすぐBGIN歌う!」

「BEGINは沖縄の誇り、『島人の宝』さ!」


そう言って、クッションを投げつけました。

しおりも負けていません。

「所ジョージ、小柳ゆき、尾崎豊、冠二郎、アルフィー … 皆、埼玉出身、『埼玉んちゅぬ宝』さ。

でも自慢しない!」


クッションを投げ返します。

「福岡もくさ、武田鉄矢さんの海援隊とか、甲斐バンドとかくさ」

真奈も地元出身の有名人をあげると、しおりがツッコミました。

「あんた、佐賀じゃん?!」

「 … 佐賀もくさ、はなわさん」

「はなわの出身地は埼玉県春日部市ですから、親の都合で佐賀に引っ越したんですから!」


決して後に引かないしおり … しかし、話は全く関係ない方向へ進んでいます。

「もうやめような、リーダー、ここではなわ取り合ってもしゃあないで?!」

アユミの言うとおりでした。

「潮騒のメモリー!」

満を持したかのようにアキは言いました。

… … … … …

アキはパソコンを開くと、ネットにアップされている、海女~フェスタの時の「潮騒のメモリーズ」のライブ映像をメンバーに見せました。

「よか歌なと思うばってん … 」

「 … ピンとこない」


真奈としおりがハッキリと言いました。

「じぇっ! … そうですか?」

アキは不満でした。

「でもこの子、でえじ可愛いなあ」

喜屋武がディスプレイに映ったユイを見てそう言いました。

「んだべ、めんこいべ?」

「水口さんが、この子センターって言うの分かるわ」


アユミもそう認めています。

自分のことを褒められたよりうれしいアキでした。

… … … … …

そのあと、アキは久しぶりにユイに電話しました。

留守電にしか繋がりませんでしたが、メッセージを入れます。

「もしもし、夜中にごめんなさい。

何かうれしくて電話しました。

皆がね、ユイちゃんのこと、めんこいって、センターにふさわしいって言ってるよ。

あとね、知ってると思うけど、種市先輩が板前さんになりました。

まだ見習いで出前と皿洗いだけど … 」


二段ベッドの上から、泣き声が聞こえてきました。

アキはそれが気になって、電話を終わりにしました。

… … … … …

「小野寺ちゃん、眠れねえの?」

ベッドを覗き込んで声を掛けました。

「 … ごめんなさい、不安で … 40位に入れねえんじゃねえかって、どうすっぺ?」

アキは薫子のベッドに入り込みました。

「母ちゃん、こっちゃ出てくる予定なんです」

「お母さんだけ?」

「はい、離婚したみてえです … 」

「うちと一緒だ」


元々、父親は芸能界入りを反対していて、乗り気の母親とは意見が合わなかったようです。

「どうすっぺ、解雇されたら? … ごしゃがれる」

「ごしゃっ … 何?」

「怒られるという意味です」

「大丈夫だよ、小野寺ちゃんめんこいし」

「でも、歌もダンスも苦手だし … 何も誇れるもんがねえ」


枕を抱えてべそをかく薫子の肩にアキは手を置きました。

「まだ14歳だべ、これからだって!」

「ビビル大木も埼玉 … だから天下取ろうね … 」


ベッドの横に布団を敷いて寝ているしおりの寝言でした。

「ねっ、リーダーもこう言ってるし、明日また相談するべえ」

「うん、ごめんね」


ひとりっ子のアキですが、薫子のことが妹のように愛おしく思えました。

「 … ダイヤモンド✡ユカイ、照英も埼玉 … 」

「うるせえな ×」


… … … … …

天野家。

掃除機をかけていた春子が、電話を取るとアキからでした。

「じぇっ! ビックリしたあ、ママ出ると思わねがった … 夏ばっぱは?」

「まだお店、今日ママ遅番なんだもん」


自分ではなく夏を名指されて、春子は少し不貞腐れました。

「何よ、ママとしゃべりたくねえの?」

「いや、そうじゃねくて … 声聞くと帰りだぐなるから」

「だめよ、あんたあ、まだ2ヶ月しか経ってねえでしょ?」

「あれれっ?」


母の言葉が何かヘンです。

「何よ?」

「 … 何でもねえ、あ、社長に会ったよ」

「ああ、太巻さん?」

「うん、何考えてるか分かんねえけど … おもしれえ人だ」

「ああそう … よろしぐ伝えて」


手紙に知り合いと書いてあった割には、素っ気ない春子。

「やっぱりっ! … ママ、ちょっと訛ってっぺ?」

「うっそ、そんなことない、やんだもう … 」


自分では全く気づいていませんでしたが … 確かに訛っていました。

「 …っもう! 田舎もんの相手しってから、しょうがねえの!」

… … … … …

「どうなのよっ?!」

リアスでは大吉が夏に声を大にして … 伺いを立てていました。

「どうって何が?」

いきなりそう聞かれても夏にはさっぱりわかりません。

「先月も何とか黒字で乗り切った、町全体が活気にあふれた …

そろそろ俺自身が幸せになってもいいんでねえの?

今度は俺が潤う番でねえの? … 潤い足りねえんでねえの?」


何を言いたいのか何となく察した夏が勉さんと顔を見合わせて笑いました。

「ハッキリ言えって、大吉っつあん!」

「そろそろ正式に春ちゃんさ、プロポっ … 」


絶妙の(?)タイミングで電話が鳴りました。

… … … … …

「夏ばっぱ? … こっちでイベントやるんだけども、海女のコスチュームどこで売ってるべ?」

春子との電話を終えたアキからでした。

「買う事ねえべ、おめえが着てた春子のお下がり、あれ送ってやっぺ」

「本当に? ありがとう!」


その時、ひろ美の呼ぶ声が聞こえて、アキは急いで電話を切りました。

… … … … …

先ほどの続きを言おうと待ちかねていた大吉。

「そろそろ正式にプロ、プロ、プロ … 」

しかし、夏は勉さんとアキの電話のことを笑って話していて聴いていませんでした。

「 … プロ、ポーションビデオ … 」

勢いをそがれてへたり込んだ大吉でした。

… … … … …

奈落。

イベントのためにメンバーがそれぞれ趣向を凝らした衣装に着替えて、水口の前に並びました。

「う~ん、どうなんだ … これは」

何と答えればいいのか、思案する水口。

徳島の宮下アユミは阿波踊り、アキは海女、宮城の小野寺薫子は牛、沖縄の喜屋武エレンはエイサー、埼玉の入間しおりは深谷のネギだそうです。

「あ、ネギか? … 言われなきゃ、わかんねえよ」

佐賀の遠藤真奈は … がばい婆ちゃんに扮しています。

「佐賀で検索ばしたら、一番で出てきたもんやけん」

「おかしいでしょ? アイドルだっつってるのに … おばあちゃんいたら、おかしいでしょ?」

「 … じゃあ、佐賀牛で」

「牛が2頭いたらおかしいでしょ?」


気を取り直して、水口は言いました。

「まあ、衣装はもう少し考えるとして、問題は何を歌うかだな?」

♪君への想い、涙そうそう …

歌う、喜屋武。

「歌わない、BEGIN歌わない … あんたたちBEGINに印税払った方がいいよ、マジで!」

即、却下するしおり。

「やっぱ、アメ女の歌がお客さん的には盛り上がるんとちゃう?」

アユミ。

「ディセンバーとか?」

「ほうよ、間奏で私は阿波踊り踊って、喜屋武ちゃんはエイサー踊って、アキちゃんはウニ割って … 」

「ちょっと待て待て待て … ウニ必要か、海女の要素いらなくねえ?」


不満顔のアキ。

< 皆、必死でした … でも、おら何だか懐かしかった。

海女カフェやお座敷列車思い出して、楽しかった … だからこそ余計にこごさユイちゃんがいないのが、悲しかった … >


… … … … …

功の病室。

本日のリハビリと世話を一通り終えたヒロシが帰宅する支度をしています。

「じゃあ、明日また寄るから、欲しい物あったら、今日中にメールして」

「ああ … 」


ヒロシが病室を出ようとした時に功が尋ねました。

「 … 母さんは?」

「えっ?」

「よしえ、最近来ないけど、具合でも悪いの?」


よしえどころか、ユイも全く病院に訪れなくなったことに、さすがに不審に思い始めたようです。

「うん … ちょっと、疲れているみたい。

何だよ、俺じゃあ、不満かよ?」


ヒロシはわざとおどけてみせました。

その不自然さに何かを感じたかもしれませんが、功は言いました。

「 … いやいや、助かるよ」

… … … … …

いつまでも父をダマせるわけではない、重い気持ちのヒロシでした … 今、彼が全ての問題をその肩に背負いこんでいました。

梨明日の前を通りかかった時、ふと笑い声が聞こえてきました。

思わず、店に入るヒロシ。

「いらっしゃい」

カウンターの中 … ユイがいるのを見て、驚くヒロシ。

「何、ボーっとしてるのよ? 座んなよ」

春子が声を掛けました。

「ご注文は?」

尋ねるユイ。

「 … ビールでいい?」

ヒロシはユイの顔をマジマジと見ました。

一時期の荒んでいた頃の雰囲気は消えています。

「何やってるのお前?」

保が取りあえずヒロシを席に座らせました。

週3で入ってもらってるの、高校辞めたって言うし … ブラブラしてるよりはマシでしょ?」

春子が事情を話しました。

「ここさいれば悪い虫がつくこともねえべ?」

「そもそも、おらたちが悪い虫だって話もありますけどね」


大吉と吉田が言うと一同が笑いました。

「いいのかよ?」

真顔のヒロシはユイに尋ねました。

「私もう18だよ、お兄ちゃんには関係ない」

ヒロシの前にビールを置きながら、ユイはそう言いましたが、決して投げやりな感じではありません。

「リハビリよ、心の … 腫れ物はスナックで再生するのよ」

春子の言葉を聞いて、ヒロシはもう一度、ユイのことを見ました … 少しホッとしたような顔をして。

… … … … …

東京EDOシアター。

「よう、海女ちゃん!」

退出するため、アキが自分の名札を裏返している時、偶然通りかかった太巻に声を掛けられました。

「どう、やってる? 付き人」

「はい、今日もお寿司屋さんです」


これから反省会のようです。

「毎日つきあってるんだ、ふふ、大変だな」

「いえいえ、勉強させてもらってます」

「なかなか面倒臭い人だけど、悪気はないから、よろしく」

「はいっ」


その場を辞しようとしたアキですが、ふいに春子の言葉を思い出しました。

「あ、お母さんがよろしぐって」

「お母さんが?」

「 … 天野春子っていいます」

「えっ、何っ、えっ?!」


急に太巻が動揺し始めました。

「君、天野春子の娘?」

「はいっ」


アキはカバンから、海女の衣装を取り出します。

「これ見てください、ママのお下がり」

天野春子と縫い込まれた名前を見せました。

「は、そ、そう … そうなんだ、ふ~ん」

声が上ずる太巻、みるみるうちに顔から血の気が引いていきます。

「 … お先に失礼します」

何か変だと思いながらも、アキはひろ美の待つ無頼鮨へと向かいました。

「お、お疲れ」

アキを見送った太巻は自分の名札を裏返そうとしますが、手が尋常でないほどに震えて、うまくいきません。

震える手をもう片方の手で必死に押さえました …

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2013年07月05日 (金) | 編集 |
第83話

「地元の友達とか後輩から、よくねえ噂聞くんだ。

悪い仲間とつるんで夜遊びしてるとか、暴走族の車さ乗ってるとか … ま、どこまで本当か分かんねえけどな」


種市から聞いたユイに関する悪い噂話に心が痛むアキでしたが …

「そういう姿、ユイちゃんはおらに見られだぐねえはずだから … おらも見だぐねえし …

ツラいけど、聞かなかったことにする」

< おらたちは、ユイちゃんを信じていました。

でも … >


ショッピングセンター、フラフラとした足取りでユイが化粧品売り場にやって来ます。

周りを軽く見渡し、陳列された口紅のひとつをつかむとそのままパーカーのポケットにしまい込みました。

「ふふっ、ダメダメ、もっと上手くやらなきゃ」

近づいてきたのは、春子でした。

ユイは、ポケットの中の口紅を放り捨てて逃げ出そうとしましたが、一瞬早く、春子が腕をつかみました。

「いいからおいで!」

そのまま首根っこをつかんでユイを何処かへ連れて行きます。

… … … … …

喫茶リアス。

勉さんが入口に顔をつけて中の様子を窺がっています。

「勉、この野郎、何してんだ?」

後ろからいきなり声を掛けて、驚かしたのは吉田でした。

ビクッとした後、勉さんは入り口に掛かっている『貸切』の札を指さします。

「 … ?」

吉田も勉さんと同じように中を覗きました。

… … … … …

店内。

ふて腐れたように壁にもたれてユイがテーブル席に座っています。

「ほら、アバズレの食いもんだよ」

ブティック今野の服に着替え、ケバい化粧をした春子が、テーブルの上にケチャップで真っ赤なナポリタンが盛られた皿を置きました。

ユイの向かいの席に腰かけながら、春子は言いました。

「昔のドラマや映画の不良はさ、皆ナポリタン食べるんだよね … 粉チーズ掛けてさ。

いいから食べなよ、唇テッカテカにしてさ」


春子に勧められても、ユイは手を出そうとはしません。

「ふっ、あんた見てると昔の自分見てるみたいだわ」

… 奇しくも、鈴鹿ひろ美がアキに言ったことと同じ言葉を春子がユイに言ったのでした。

… … … … …

「つうか何それ、えっ?」

春子は立ち上がって、ユイの髪の毛をつかみました。

「ブリーチ、脱色、これ?」

春子の手を払いのけるユイ。

「警察電話してもいいんだよ? … それとも、アキに電話しよっか?」

無言のままのユイの顔を覗きこむ春子。

「 …っ、そっちの方が嫌なんだ?」

カウンター席に腰かけて、携帯を取り出した春子

「そっかそっか、警察よりアキの方が嫌か … 」

「 … 何なんですか?」


ユイはようやく口を開きました。

「おっ、やっと声出した」

「放っておいてください … 誰にも迷惑かけてないし … 」


鼻で笑う春子。

「『東京行く!』って大騒ぎしたくせに?」

「大人が勝手に騒いだんじゃん」


春子は、もう一度、ユイの向かいに座り直しました。

「ま、どっちでもいいけど … ひとつだけ約束して。

お母さんのこと恨んじゃダメだよ。

… お母さんの家出とあんたの脱色は無関係!」


うつむいたまま何も言わないユイに春子は急に語気を強めて言いました。

「行きたきゃ行けばいいじゃん、東京に!

どうせ学校行ってないんでしょ? … お父さんの世話もしてないんでしょ?」


ユイは春子のことをにらみました。

「 … 何?

そんで、昼間プラプラして、万引きして、夜は先輩の車でスピード違反してんでしょ?

だったら、行きゃいいじゃん! … こんな田舎でくすぶってないでさあ?!

… 親のせいで夢あきらめたとか、誰も同情しないからね」


… … … … …

「いまさら … 今更行ってもしょうがないじゃないすか … だってもう18ですよ、20歳までにデビューできんのかって話しじゃないすか?」

「 … だよね、アキより遅れてスタートするなんて、プライドが許さないよね?」

「プライドなんてハナっからないすけど」


ユイは否定しました。

「熱冷めちゃったんです。

なんか … 芸能界とかアイドルとか言ってた自分がもうダサいなって。

ほら、東京行ったってダサい奴はダサいまんまじゃないすか?」


突然饒舌に話しはじめるユイ。

「キャラ作って、男にこび売って、超ダサいじゃないすか?」

これからという時に悲運が重なった自分を慰め、あきらめるために作り上げた理由 … そんなユイを春子は悲しげな眼で見つめていました。

「 … アキも?」

アキもダサいのかと尋ねました。

「 … まあ、そうっすね … 」

少し間をおいて、無表情で答えたユイ。

… … … … …

「やっぱ電話しようっ」

春子は立ち上がって、携帯を取りました。

「 … もしもし、アキ? … うん … 今さ、リアスにユイちゃん来てるんだわ。

あんたのことダサいって、アイドルなんかダサくてしょうがないっ」


ユイは春子に飛びついて携帯を奪いました。

その携帯を握りしめてうつむくユイに向かって春子は言いました。

「プライドあるじゃん!」

泣き出しそうなユイ。

「カッコつけてるんじゃねえよ、18の小娘が!!」

春子はそう言い捨てると、出口に向かいました。

ドアの前では、勉さんと吉田に加えて、大吉と保も心配して様子を窺がっていました。

「今だよ … 慰めてやんなよ」

… … … … …

恐る恐る店内に入ってきた4人の男たち。

しかし、こんな場面に慣れていない者ばかりで、何と言って慰めていいやら … 分からずに譲り合います。

ユイは、春子が作ってくれたナポリタンを黙々と食べています。

頬を一筋の涙が流れました。

「チーズ掛ける?」

やっとのことで勉さんがそう聞くと、ユイはうなずきました。

ぎこちない手つきで粉チーズを振る勉さん、その様子を心配そうに見つめる他3名。

ユイの目から続けて落ちていく涙。

ホッとした表情をする春子 …

… … … … …

法廷のセット。

弁護士役のひろ美がつらそうに立ち上がりました。

「異議を申し立てます … うっ、ああ、ああ!」

苦しそうな顔でうずくまるひろ美。

「はい、カットです!」

モニターを見ていたアキがひろ美の元へ駆けつけます。

… … … … …

メイクルームに向かうひろ美に従うアキ。

「見てた、今のラストカット?」

「はいっ」

「またアップよ、ちゃんちゃら可笑しい! … 大体何よ『おめでた弁護士』って、毎回法廷で産気づくのよ!」


そう言いながら、ひろ美は台本の表紙を確認しました。

「 …っ、パート14! いつそんなに産んだの?」

ひろ美の当り役のひとつ、人気シリーズでした。

「おめでたさんから、手作りクッキーの差し入れいただきました!」

スタッフ一同が頭を下げて礼を言っています。

笑顔で応えながら、ひろ美はつぶやきました。

「おめでたさんじゃないし … 」

… … … … …

無頼鮨、撮影の後の反省会 …

「読みあわせしようか?」

「じぇじぇっ!」


ひろ美にいきなりそう言われて慌てるアキ。

「女優志望なんでしょ?」

アキに台本を手渡しました。

「演技はズブの素人で … 」

演技『も』の間違いでは?

「見込みがあるかどうかは、私が決めますから! … はい、シーン67のセリフ、読んで」

台本を開いてセリフを読むアキ。

「 … おめでとうごぜえます、ぬんすん(妊娠)4ヶ月です」

座敷の外で聞いていた梅頭と種市が思わず吹き出してしまいました。

ひろ美も笑いをこらえながら止めました。

「 … わざとだよね?」

「すみません … 」


極めて真剣なアキです。

「標準語しゃべれないの?」

「そんなことねえです」

「妊娠4ヶ月」


アキは復唱しました。

「訛ってみて」

「ぬんすん4ヶ月」

「あはは、訛ってる方がいいね」


アキはうれしそうにうなずきました。

「マネージャーの水口さんからも、訛って行げと言われてます … 地方色を出して行げって」

「ご当地アイドルだから?」

「はいっ、まだ6人ですけど、いろんな訛りが飛び交って、おもしれえです」

「アイドルとしてはね … 」


ひろ美は真顔に戻りました。

「まあ、顔が売れるまでは、いいかもしんないけど … 女優としてやっていくんなら、標準語でもお芝居できるようになんなきゃね」

「なして?」

「なしてって、訛った役しかできないでしょ?」


ひろ美もつられてイントネーションがおかしくなっています。

「訛ってる役だけやる訳には、いがねっすか?」

「無理よ、それが通用するのは … あき竹城さんだけよ」

「ダブルあきだな!」


上手いこと言って能天気に笑うアキ。

ため息をついてひろ美は言いました。

「そんなに訛りたきゃ、あき竹城の付き人になんなよ!」

「そしたら、鈴鹿さん、寂しくなりますね?」


ああ言えば、こう言うアキ。

ひろ美は口をとがらせましたが、否定はしませんでした。

「ひとりぐらい訛ってたっていいべ? … テレビだからって、皆が皆同じ言葉しゃべんなくたっていいべ?!」

黙って聞いているひろ美。

「それにおらが標準語しゃべってるの、夏ばっぱや海女クラブの人が聞いたら、残念な気すっぺ?」

「あんた、お祖母ちゃんや海女さんのために女優やんの?」

「そしたら、鈴鹿さんは何のために女優やんだ?」


アキは逆に聞き返しました。

「 … わがんね」

… … … … …

「ただいま~」

アキが合宿所に戻ると、メンバーと水口が車座に座って待っていました。

「遅いぞ、一応門限もあるんだ」

アキも遊んでいたわけではありませんが、水口は注意しました。

「11時だけどね … おみやげ?」

しおりがアキが無頼鮨の寿司桶を抱えていることを目ざとく見つけました。

「あるよ!」

「ミーティング終わってから!」


席を立ってテーブルに集まろうとするメンバーを水口が制しました。

「ミーティングって何の?」

何か重大発表があるようです。

「え~、年末に『国民投票』を行うことになりました」

そう言われても、ピンとこない一同。

「 … 国民投票?」

薫子が聞き返しました。

「まあ、早い話が人気投票だな … アメ横女学園の全メンバーとお前らGMTの6人合わせた46人が対象です。

今日、首脳会議で太巻さんが発表しました」


水口は皆にチラシを配りました。

『決戦 アメ女国民投票! 12.12』

「じぇじぇじぇっ!」

… … … … …

スナック梨明日。

「琥珀の」

「勉さん」

「じぇじぇっ!」


大吉、吉田、保、今野夫妻、勉さん、そして春子、店にいる全員でいわゆる『せんだみつおゲーム』をアレンジした『琥珀の勉さんゲーム』を楽しんでいました。

簡単にルールを説明すると …

まず、最初の人が「琥珀の」と言いながら誰かを指さします。

指された人は「勉さん」と言いながら、また他の誰かを指さします。

そして次、指された人の両隣が「じぇじぇ」とポーズをとりながら言う …

その後はまた「勉さん」で指名された人が誰かを「琥珀の」と言いながら指す … これを繰り返すだけ、動作や言葉に詰まったり、自分の番でもないのに動いた人が負けという単純なゲームです。

「琥珀の」

大吉に差されて、やはり弥生のところで詰まりました。

「えっ?」

「はいダメ!」

「まだルール把握してねえべ」

「じゃ、入んないでよ!」


もめる一同、吉田が提案します。

「そんじゃあ、ブティック今野でやるか?」

「ああいいね、ブティック、今野、ダサダサって?」


春子がコマネチのポーズを取ると弥生を除いた一同が大笑いしました。

当の今野が一番受けているのを見て弥生が腹を立てます。

「おめえが爆笑することねえべ、このっ!」

カウンターから出て亭主を追いかけようとした時、ドアが開いて … ユイが立っていました。

… … … … …

「あっ、いらっしゃい」

春子が声を掛けると、一同が快くユイを招き入れました。

「どうぞ、ユイちゃん座って」

素直にカウンターにつくユイ。

「じゃあ、『ブティック今野ゲーム』だよ」

「ブティック」

「今野」

「ダサダサ」


何回か繰り返すうちにまた弥生のところで詰まりました。

思わず笑いがこぼれるユイ。

「じゃあ、ユイちゃん」

自然と皆の輪に打解けていくユイ、その顔には … ほんの少しですが、元の笑顔が戻ってきました。

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2013年07月04日 (木) | 編集 |
第82話

< 病気で倒れたお父さんが、やっと退院できると思ったら、今度はお母さんが蒸発 … 次々に不幸が襲いかかり、1ヶ月後、ついにユイちゃんは …

壊れました。 >


… … … … …

夢遊病患者のような足取り、強張った顔で、梨明日に入ってきた吉田は無言で窓側のテーブル席に座りました。

店内では、春子がブティック今野の商品を着て、ステージに立っています。

「春ちゃんがブティック今野の服を着る日が来るとはな!」

大吉が興奮して大騒ぎしています。

「なっ、着る人が着たら、ハイカラなんだよ、お前」

そう言った今野の隣には春子と同じ服を着た弥生がいます。

「とても同じ服には見えねえ」

美寿々が変な褒め方をすると、弥生もステージに上がって、春子の横に並びました。

「ま、おらのメリハリ・ボディには敵わねえべな?」

ふたりでポーズを取りました。

「春ちゃん、これも着てみて!」

紙袋から、もう1枚別の服を出して渡す弥生。

「いいぞいいぞ、ファッションショーだ!」

美寿々が囃し立て、皆も拍手しました。

「ちょっと、待ってて!」

着替えるために店の外に出て行く春子、それを見て、大吉がうれしそうに言いました。

「いやいやいや、これでやっと春ちゃんが俺らのレベル下りてきた!」

笑い合う一同。

皆の輪にも加わらずに、席に座ったままで様子がおかしい吉田に今野が気づきました。

「おっ、どうした、吉田君?

背中を向けて立ち上がった吉田から嗚咽が聞こえてきます。

「泣いてるのか?」

大吉が尋ねると、吉田は振り向きました。

「おらたちのユイちゃんが … 北鉄のユイちゃんが … ううううっ

俺らのレベルさ、落ちてしまったあああ」


堰を切ったように大泣きし始める吉田。

「お待たせぇ!」

着替えた春子が入ってきましたが、皆それどころではなくなっていました。

「 … 誰も見てねえや」

… … … … …

< 潮騒のメモリーズの可愛い方、足立ユイの生活は荒れる一方でした … 改造車を乗り回し、小太りの愛犬家と腕を組み、歩く姿がスーパーやショッピングモールで連日目撃されました >

そんなユイを偶然見かけた磯野、商品の棚の陰から覗き見ながら、うわ言のようにつぶやきました。

「ユイちゃん … 何故だ、ユイちゃん??」

< 当然、家には帰らず … お父さんの世話もストーブさん任せ >


ヒロシの手を借りて歩行訓練していた功が、ゆっくりと手すりから手を離して、誰の介添えもなしに立ちました。

驚く息子に向かって笑顔で応えました。

「手すりを持たないでね、少しだけ階段が昇れたんだ … でも、母さんには内緒だぞ、びっくりさせたいから」

一歩一歩、歩む功、確実に介抱に向かっています。

… よしえとユイのことはまだ知らされていないのでしょうか?

… … … … …

< 変わり果てたユイちゃんの姿は、ネットの掲示板に流出しました … >

観光協会。

保と栗原しおりに加えて、大吉と吉田も一緒にユイのことがアップされた掲示板を見ていました。

「『これが、あの北鉄のユイちゃん、やばくね?』、だって … 」

栗原が書き込みを読み上げました。

「やばいから、騒いでるんだよ … 削除できないの、それ?」

パソコンの画面に映った、別人のようなユイの写真にオロオロする大吉。

『コンビニの前に座り込んで、通りかかった中学生を恐喝』 … 『夜中にバールのようなもので、自動販売機をこじ開けて』 … 『バールのようなもので、コンビニ店員を脅して』 … 

流石に「それはウソだろ?」という、あり得ないことまで書き込まれています。

「やめてけろっ!」

大吉が大声を出して耳をふさぎました。

「 … バールではないですよ、駅長 … 『のようなもの』ですから」

… … … … …

< 片や、潮騒のメモリーズの訛っている方、天野アキは … 女優、鈴鹿ひろ美さんの付き人として、テレビ局のスタジオにいます >

「静御前」の撮影中。

源頼朝に命じられた安達清経に、静が生まれたばかりの義経の子を取り上げられるシーンです。

「お許しください、義経様 … 」

「カット、OK!」


シーンの撮影が終わると、ひろ美はアキの名を呼びました。

「天野さ~ん!」

「はいっ!」


モニター画面でひろ美の演技にくぎ付けになっていた、アキは慌てて駆けつけます。

… … … … …

楽屋へ戻るひろ美の後に従うアキ、その手にはスタッフへの差し入れを抱えています。

「飯押しなら、飯押しって言ってよ … ああ、腹減った、腹減った」

「すみません」

「私、夜9時以降は、何も食べないようにしてるの … だから、9時までに死ぬほど食べるの、食い意地張ってるの、覚えておいてね」

「はいっ」


迷路のような通路を抜けて行くふたり。

「大体、静御前って嫌いなのよね … 辛気臭いし、感情移入できないでしょ? あっ」

渋い顔をしていたひろ美ですが、パッと笑顔に変わって、通りかかったADにアキが抱えていた差し入れを手渡しました。

「すずか御前様より、ワッフルの差し入れいただきました!」

「 … すずか御前って誰だよ?」


… … … … …

ようやく楽屋にたどり着きました。

「ワッフルいくらだった?」

「あ、1万円ちょっと … 」

「領収書は?」


アキが領収書をもらうのを忘れたことを知ると、ひろ美は声を荒げました。

「何やってるのよ、領収書は絶対もらわなきゃダメ … 私たち高額納税者にとって、領収書は命の源なのよ!

領収書、領収書、領収書!」

「 … はい」


… … … … …

< 付き人になってみて分かったのですが … 鈴鹿さんって普段はごく普通の、年相応の、庶民的な … あ、もう言っちゃいます … おばちゃんです。

服装はすごく地味、っていうか黒しか着ません >

「ダサいと思ってるの?」

「そんなことねえです … さっき、同じの着て、おすぎさんが廊下歩いてましたけど、全然違いました」

「それどっちホメてるの?」


アキは少し考えてから笑顔で答えました。

「鈴鹿さんです」

… … … … …

「ねえ、GMTってさ、CD出してるの?」

< Tを「てー」と言うし、Dを「でー」と言うし … >

「とぅ~す!」って何、流行ってるの?」

< 知らないこと、いっぱいあるし … >

「9時以降は何も食べないの」

< 同じ話を何度もするし … >

「やだ、お味噌汁にお砂糖入れちゃった … 甘いっ!」

< こんな感じなのに、ひとたびカメラの前に立つと … >

「なまじ生きながらえて悩むより … 一緒に連れて行ってください」


撮影が再開され、ひろ美の演技をモニターで見るアキの目には今にも溢れそうな涙が …

< 完璧です!

こんなの見せられたら、多少の無知やわがままなんか気にならない … >


… … … … …

< 夜7時以降は、奈落でレッスン … >

♪上野から御徒町に 棲息 … 絶滅危惧種 下町アイドル

会いたい でも会えない 脳内自由恋愛集団

男子禁制 選手宣誓 … 毎日会いたい 下町アイドル

We are GMT6!! You are GMT6!! …

「OK!」

リーダーのしおりが声を掛けると、一同どっと倒れ込みました。

「どうも、無頼鮨です!」

寿司桶を抱えた種市が奈落に下りて来ました。

「あ、先輩!」

「鈴鹿さんからGMT6の皆さんにって」


歓声が上がって、ひっくり返っていたメンバーが飛び起きて寿司の周りに集まりました。

「いいの、アキ?」

親指を立てて得意顔のアキ。

もう一度上がる歓声。

「天野、鈴鹿さん、無頼鮨で待ってるって」

種市がひろ美からの伝言をアキに伝えました。

… … … … …

< レッスンが終わったら、反省会です >

無頼鮨の座敷、ひろ美の前に畏まって正座するアキ。

「ちゃんと見てた?」

アキはうなずきました。

「赤ん坊取り上げられる時にさ、着物の裾なんか気にしてられないでしょ? … だから、直さなかったのよ」

「はい」

「全身で芝居してるんです、こっちは … なのにあの監督、アップばっかりねらって … ははは、ちゃんちゃら可笑しい!」


でも、顔は笑っていません。

「清経役のなんつったっけ? あの大根役者、大根でいいか … 何の深みもないのよねえ、そう思わない?」

< 9時過ぎると、鈴鹿さんは攻撃的になります >


黙ってうなずくばかりのアキにひろ美は言いました。

「いいのよ、反論して … 思ったことは何でも言いなさい」

「 … いいのか?」

「どうぞ … 足崩しなさい」


アキは言われた通り、思っていることを話しはじめました … まるで友人に話すような調子で。

「鈴鹿さんってあれですよねえ、根っからお芝居が好ぎなんだなって思って … お芝居の話している時、生き生きしてるもんね … つうか、お芝居の話しかしないもんね」

ひろ美は持っていたグラスを置いてしまいました。

「 … 何よそれ、まるで私が他に取柄のない面白みのない人間みたいじゃない?」

「面白みはねえべ?」

「あるわよ!」

「いや、ねえべ?」

「あります! … こう見えて、多趣味なんです」

「またまたあ … 」


ムキになって話すひろ美。

「本当よ! … セーター編んだり、お菓子作ったり、クッキー焼いたり … 」

取ってつけたようなことを答えるひろ美にアキは言いました。

「いや、鈴鹿さんは芝居だけやってりゃいいと思う … 趣味とか面白みとかいらねえと思う」

… … … … …

「ごちそうさま … タクシー来てる?」

ひろ美はグラスを飲み干して、種市に尋ねました。

「はいっ」

いきなりお開きにしたひろ美。

アキは何かしくじってしまったのか、心配になってきました。

「 … ごめんなさい、何か失礼なこと言いましたか?」

「うふふふ、失礼なことしか言ってないよ」


実際、座敷の外で聴いていた梅頭や種市の方が冷や汗をかいてしまうようなアキの物言いでした。

しかし、そう言いながらも、ひろ美は決して気分を害しているようには見えません。

アキは思い切って尋ねました。

「すいません、ひとつ聞いていいですか?」

「何?」

「 … 何で、おらなんだべ? … 何でおらに優しくしてくれるんだべ?」


ひろ美は、微笑みながら言いました。

「昔の私みたいだからよ … じゃあね!」

… … … … …

「やっぱ、天野すげえなあ」

「何が?」


アキは、仕事を終えた種市と無頼鮨が入っているビルの屋上にいました。

「いや、有名な女優相手に全然引かねえ … あの押しの強さは、東北人にはねえべ?」

「インチキ東北人だもんな、へへっ」

「訛りでごまけてたけども、後半ため口だったもんな」

「うそお?!」


本人は気づかずに、無意識にやっていたのが『すごい』ところなのかもしれません。

「正月、帰んのか?」

「正月? … いやあ、こないだ来たばっかりだし」

「もう、11月だぞ」

「じぇじぇっ」

「あっという間に『暦の上ではディセンバー』だぞ?」

「じぇじぇじぇっ、いつの間に!」


毎日が慌ただしく過ぎて、種市に言われるまで、思ってもみませんでした。

「ま、こっちは季節感ねえもんな … 田舎さいたら、本気獲りだの稲刈りだの、初雪だの」

「 … んだな、寒いもんな」

「ああ、皆元気かな? … 吉田さんだの、駅長だの」


まだ1年も経っていませんが、何故か懐かしく思えました。

「海女クラブのかつ枝さんとか弥生さんとか、まだミサンガ編んでるのかな?」

そう言ってアキは自分の左手首を眺めました。

種市にもらったものも含めて、5本のミサンガが巻かれています。

… … … … …

「先輩は実家で年越すんですか?」

「んだな、転職の報告もしてねえし … ま、ユイのことも気になるし」

「そっか … 」


あれ以来、全く連絡が取れないユイのことをアキも気にかけていました。

「地元の友達とか後輩から、よくねえ噂聞くんだ。

悪い仲間とつるんで夜遊びしてるとか、暴走族の車さ乗ってるの見たとか、高校辞めて、男と同棲してるとか … 」


初めて耳にすることばかり、アキは心が痛みました。

「ま、どこまで本当か分かんねえけどな」

アキの気持ちを察してか、何となくはぐらかしました。

努めて平静を装うアキ。

「でも、高校辞めたのは本当っぽい … 」

無口になってしまったアキに種市は言いました。

「どうする、気になるなら一緒に帰るべ?」

「いや … だったら、尚更、帰れねえ」


種市が考えていなかった返事がアキから返ってきました。

「なして?」

「そういう姿、ユイちゃんはおらに見られだぐねえはずだから … おらも見だぐねえし …

ツラいけど、聞かなかったことにする」

「いいのか、励まして立ち直らしてやるのが親友でねえのか?」

「親友にも緊張感は必要だ … ユイちゃんには、常におらの先を走っててもらいてえんだ」


無理して眉をそびやかし、夜の町を見つめたアキ。

種市はそれ以上何も聞くことはできませんでした。

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2013年07月03日 (水) | 編集 |
第81話

アキの元にユイから、「もうすぐ東京に行けそう」というメールが届きました。

『 … アキちゃんとの約束、やっと果たせそうです。

潮騒のメモリーズ完全復活まで、もうちょっと待っててね。

☆CATCH A DREAM!! Yui☆』

「いがったあ … 」

… … … … …

梨明日に駆け込んで来たヒロシ。

息を切らしながら店内を見渡しましたが、まだ客は大吉と保のふたりきりしかいません。

「あ、ヒロシ君 … 今日、お母さん来たよ」

「えっ?」

「聞いてない? 何か家に帰る途中って言って寄ったよ、ここに」


考え込むヒロシ、どこか様子が変です。

「何、どうしたの?」

「帰って来ないんです … オフクロが、財布だけ持ってどっか行っちゃって」


驚く、春子。

「何か変わった様子なかったですか?」

そう言えば、待合室のベンチにぼんやり座っていたり、話をしていても少し元気がなかったようにも思えます。

< 1週間経っても、ユイちゃんのママは姿を見せず、ついに警察が動き出しました … ストーブさんが捜索願を出したのです >

駅の待合室には尋ね人の貼り紙、最後に会った者として春子も警察の事情聴取を受けています。

… … … … …

「魔が差したんだべなあ、介護が一段落してさ、『おらの人生これでいいのか』って考えたんだべな … 」

待合室の現場検証をリアスの中から窺がいながら組合長が言いました。

「まあ、もともとあの嫁はこっちの人でねえべ?」

「んだ、山の手のお嬢様だって話だ」


かつ枝に弥生、久しぶりに海女クラブの皆がリアスに勢ぞろいしています。

「盛岡で女子アナやってて、20歳そこそこでお見合い結婚して」

美寿々の言葉にうなずきながら弥生が言いました。

「ねっからのサブレだ」

「 … セレブだと思う」


間髪を入れずに珠子がツッコミます。

「鳩セレブだ」

弥生の照れ隠し(?)のギャグに笑ったのは、組合長と今野、親父たちだけでした。

「まあ何にしろ、最近の嫁っこは根性が足りねえ」

「んだんだんだ、お高く留まって、近所づきあいしてねえから、こういうことになるのだ!」


失踪したよしえに批判的な昔の嫁のふたり。

「でもな、あんなに若くてきれいな嫁ごもらったら、おらだって外さ出さねえって」

「何だと、この野郎!」


今野の冗談に弥生が怒って掴みかかっているところへ、事情聴取を終えた春子やヒロシたちが店に入ってきました。

「おめえらみたいな夫婦ならいがったんだがなあ … 普段から誰にも憚らず、つかみ合う夫婦なら心配ねえ。

… ところが、おめえの母ちゃん、完璧主義だべ?」


弥生たちのことを見ながら、夏はヒロシに向かって言いました。

「才色兼備にして良妻賢母か … そういう女は案外もろいんだよ」

春子は夏のことをたしなめましたが、ヒロシは答えました。

「確かに、母の口から不満も愚痴も聴いたことないです … だから、てっきり幸せなんだと思っていました。

父の介護も進んでやってるとばかり … 何で気づかなかったんだ?」

「そう自分を責めるな、ストーブ。そのうちひょっこり帰ってくるべ」


がっくりと肩を落としたヒロシをなぐさめる大吉。

「お父さんは、足立先生は知ってるのか?」

保が尋ねました。

「まだです … 様子見て、もうちょっと回復したら、話そうと思います」

「ユイちゃんは?」


春子が尋ねました。

「東京行きあきらめたのか?」

「親父の面倒は俺が見るから行けって言ったんですが … あいつもそこまで子供じゃねえがら」


… … … … …

ユイは … 散らかった部屋でうずくまっていました。

携帯に着信がありましたが、相手も確認せずに放り捨ててしまいました。

そして、深いため息 …

留守番電話に繋がって、メッセージが聞こえ始めます … アキからでした。

『ユイちゃん、お母さんのこと聞きました。

何か … 何て言っていいかわかりません … 』

… … … … …

「でも、なんくるねえぞ!

… 今のは沖縄の言葉で『どうってことねえ』って意味です。

水口さんに代わります」


アキは携帯を目の前にいる水口に渡しました。

「どうも、GMTのプロデューサー … 」

そこで留守電が切れてしまいました。

「あ、切れた? ごめんなさい」

「なんくるないさ」


水口は肩をすくめながら、そう言ってアキに携帯を返します。

… … … … …

「なして、なして神様はユイちゃんにばっか意地悪すんだべな … 」

あまりにも理不尽と感じたアキは、水口にそう愚痴りました。

「大丈夫、この逆境乗り越えたらユイちゃん強いよ … 無敵のアイドルだよ」

「だども、不憫だべよ … ユイちゃんの方がおらよりめんこいのに、華もあるのに … 」

「 ・・・ 」


水口の顔をじっと見つめ、何かを待っているようなアキ。

「そんなことないよ … とは、言わないんですね?」

「 … ああ」


正直な水口、思い出したかのように言いました。

「社長が呼んでる」

「じぇっ!」


… … … … …

水口に伴われて、アキは社長室を訪れました。

「有馬めぐのシャドウだよね?」

「あ、はい、マメりんの」

「マメりん言うな、センターだぞ!」


注意する水口。

「そのマメりんが昨夜事故を起こした」

「じぇっ!」

「信号で追突されたらしい … ムチウチ、全治2週間だそうだ」

「じぇじぇ … 」


太巻はそのまま黙り込んでアキの顔をじっと見つめています。

取りあえず、愛想笑いするアキ。

「笑った、水口、この子笑った!」

急にはしゃぎはじめました。

「いやいやいや … 」

アキは何が何だかよく分かりませんが、否定しました。

「そりゃそうだよな、シャドウだもんなあ … この日のために、ずうっと奈落でがんばってるんだもんなあ」

「はい … じゃあ、今日から?」

「今日から何?」


意地悪く聞き返す太巻。

「今日からステージに立てるんですか?」

アキがそう言うと、太巻から笑顔は消えて、立ち上がりました。

「ケガ自体は大したことない、問題は隣にいた男だ」

「男?」

「男の車に乗ってたんだよ、俳優のイケメンの … 何かゴルフのミュージカルに出てる奴」


水口が説明しました。

その記事が女性誌に載るという情報が入ったのです。

「相手はあっさり事実を認めた … 事故の30分後にファックス流して …

『大切なお友達の一人で お互いを高めあい 刺激を求め合う 特別な存在の知人です』」

「全然わかんないっ … という訳で、しばらく体調不良で休ませることにした」

「じゃあ、やっぱり今日から … 」


改めて太巻の言葉を聞いたアキ、チャンスが訪れたかに見えました …

突然、社長室のドアが開いて … 当の有馬めぐがものすごい勢いで入ってきました。

その首は痛ましくコルセットで固定されています。

「私、出ます!」

「マメりん … 」

「シャドウなんかいりません … 休みたくない、穴開けたくないんです!

お願いします!!」


頭を下げましたが、ムチウチの首が痛み声をあげました。

「落ち着いて有馬、頭上げなさい」

首を押さえながら、顔を上げためぐに太巻は尋ねました。

「今日ステージに立つと、マスコミが殺到するぞ、釈明を求められるぞ、いいのか?」

「構いません! … 私にはやましいところありませんから」

「相手の男は?」

「会ったことありません!」

「本当なのか? … 俺の目を見て言えるのか?」

「はいっ」


毅然と返事をしました。

「よし出ろ、俺が責任を取る」

めぐは太巻に礼を言い、アキのことをにらむ社長室から出て行きました。

… … … … …

「予想通りの展開だな … ごめ~ん、マメりんのシャドウをやってる限り、君は奈落から這い上がれない」

やはりアキは、噛ませ犬だったのでしょうか …

目の前で起こった出来事と太巻から受けた通告 … アキの頭は混乱していました。

「それじゃ可愛そうだから、社長がチャンスをくれるそうだ」

すべて太巻の筋書き通り??
 
… … … … …

アキは水口に無頼鮨へ連れていかれました。

カウンターには、鈴鹿ひろ美がいてふたりを見るなり、手招きしました。

並んで座っている数名の客にアキのことを紹介しました。

「こちらが今話してた … 」

「天野アキです」

「ここにいるのがBS時代劇『静御前』のスタッフです」


アキにもそう紹介しました。

「というわけで、明日は8時回しだから、6時半西口玄関、よろしくね」

「えっ、えっ、えっ? … 水口さん?」


アキは、ひろ美の言っている意味が分からずに水口に助けを求めました。

「すいません、彼女まだ何も … 」

「あら、そうなの? … 付き人を探してたの」


アキにそう言いました。

「えっ、おらが?」

「『おら、付き人になるだあ … 』の巻よ」


そう言えば、先日、この店でひろ美と太巻を見かけた時、つい立越しだったので聞き取りにくいところもありましたが、そのような話を聞いた覚えがありました。

「 … お願いね」

「あらら、どうすべえ … ちょっと、考えさせてもらっていいですか?」

「じょじょっ」


意味不明な言葉を口走って、表情が曇るひろ美。

「すみません、まだ子供なんで … 」

ひろ美は、頭を下げる水口とアキを席につかせました。

「あの、何で私なんですか? … ひょっとして同情してんのですか?」

怖いもの知らずというか、アキは単刀直入にひろ美に質問しました。

「じょじょっ」

またあの言葉を口走り、ひろ美の口調がきつくなりました。

「何で私があんたに同情しなきゃなんないの?」

「ごめんなさい … 2回もご馳走になったから」

「あんた、私より可愛そうだっていうの? … 冗談じゃない、私だって随分可愛そうよ、負けないよ!」

「でも、だって有名な女優さんじゃないですか?」


ひろ美は思いっきりアキの方を向きました。

「それが何? … 有名な女優さんだから、幸せだとおっしゃるの?

あはは、ちゃんちゃら可笑しい … あんたに私の何が分かんのよ?」


水割りを一気に煽りました。

「すいません、まだ子供なんで」

とりなす水口、しかしアキはまだ続けました。

「今日は何だか、いろいろあったんです … 親友が、田舎から出てくる親友が出てこれなくなったりとか」

「お父さん、倒れちゃったんでしょ?」

「えっ?」

「 … しかも、お母さんが失踪して」

「やだ、何で知ってるんですか?」

「彼から聞いたのよ」


… … … … …

ひろ美が顎で指したのは … ちょうど買出しから戻ってきた … 種市でした。

それも、寿司屋の身なりをしています。

「じぇじぇっ!」

「じぇじぇ、か … だよね、『じょじょ』は『奇妙な冒険』よね … あははははは」


ひろ美はひとりで可笑しそうに笑っています。

「あれ、君確か潜水土木の?」

水口も北三陸で何回か顔を合わせているので、種市のことは知っていました。

「どうも … 」

「どうもじゃねえべ先輩、田舎さ帰るんじゃなかったのか?」

「やめた。ここで働くことにした」


きっぱりと答えました。

「何でだよ? ユイちゃん、今大変なんだぞ … 帰ってやったらいいべ!」

「うるせえな、俺にはおれの考えがあるんだよ」


そういうと調理場の奥へ行ってしまいました。

「こないだの説教が効いたみたいだよ」

梅頭がアキにそう言いました。

「せ、説教?」

『 … エリートでプライド高えのは、先輩の方でねえか?!

… 何だよ、おらの初恋の相手はこんなちっちえ男だったのかよ?!』

「 … あれから、2、3日後かな、訪ねてきたの、ここで働きたいって … まあ、うちもちょうど若いのが辞めたとこ … いらっしゃい!」

「いらっしゃいませ」


入って来た外国人の客を案内する種市と目があったアキは思わず逸らしてしまいました。

「じぇじぇじぇじぇじぇ、参ったな … 」

「で、どうするの? … 付き人、やるの、やらないの?」

「あ、え~と … 」


… … … … …

「やんなよ、アキ」

寮に帰って、仲間に話すと、しおりは付き人になることを勧めました。

「でも … 」

まだ決めかねているアキ … どちらかというと乗り気ではありません。

「だって、奈落で踊ってたって、チャンス回ってこないんでしょ?」

「有馬めぐって干されてた時期があってさ」


恋愛ご法度のアメ女、有馬めぐは元彼と撮ったプリクラが出回ったことで、半年以上も休業に追い込まれたことがあるのです。

「そういう苦い経験があるから、根性座ってるんだよ」

水口は、そう言いました。

「だったらさ、鈴鹿ひろ美の付き人やった方が勉強になるじゃん」

しおりの言うこともアキにはわかります。

「またお寿司おごってもらえるし」

呑気な喜屋武。

「ただ天野、鈴鹿ひろ美、かなり面倒くさいからね」

「 … はい」


水口の忠告にアキはうなずきました。

… … … … …

『ご用件がある方は、メッセージをお入れください … 』

ユイの携帯は相変わらず留守電にしか繋がりません。

「もしもし、ユイちゃん、元気? … 元気ないのは分かってんだけど … おら、鈴鹿ひろ美さんの付き人になりました」

結局、アキは承知したのです。

「 … ちょっとね、アイドルからはちょっと離れちゃうけど」

アキが迷っていたのは、それが大きな理由でした。

「鈴鹿さん、面白いし、やってみようと思います … また電話します、おやすみ」

< その後、ユイちゃんから連絡が来ることはありませんでした … >


… … … … …

1ヶ月後 …

北三陸駅、いつもと変わらない朝の風景。

駅舎内の掃除をしながら、通勤通学の乗客を見送る吉田。

改札を抜けてきた見るからにヤンキーっぽいカップル、男が持っていた空き缶を適当に放りました。

「おい君たち、空き缶はちゃんとくずかごに … 」

「ああっ?」


振り向いた女の顔を見て、吉田は息を飲みました。

「 … んだよ?」

凄みを利かせてにらんだのは … 紛れもなくユイでした。

髪の毛はまだらに染めて、かつてのユイならダサいと嫌ったであろうファッションに身を包んでいます。

「何でもないです … 」

そう答えるのが精いっぱいの吉田。

「いくぞ、ユイ」

同じようなスタイルの男に促されて、ユイはフラフラと駅舎を出て行きました …

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2013年07月02日 (火) | 編集 |
第80話

思いもよらず種市と再会したアキ。

ふたりで訪れた無頼鮨にあとから入ってきたのは、鈴鹿ひろ美と太巻でした。

「じぇじぇっ!」

『 … その話、会社でしない方がいいよ … 鈴鹿さんと太巻さん、いろいろあったらしいから … 』

… … … … …

ひろ美たちは、つい立1枚で隔てただけの隣の座敷に座りました。

こっそりと様子を窺がうアキ。

「 … ウチの社長と大女優」

「じぇっ、だったら、挨拶した方がいいじゃん?」

「ダメ、ウチの事務所は恋愛ご法度なんです」

「れんあい?!」


思わず大きな声を出してしまった種市。

「 … 俺らそういう風に見えるか?」

… … … … …

「よく来るんですか?」

ひろ美に尋ねた太巻。

「帰ってご飯作るの面倒だし … ねえ、大将?」

カウンターの中で大将の梅頭が微笑んでうなずきました。

「ひとりでこんな店に来て、誰が見てるかわかりませんよ」

太巻はひろ美の水割りを作りながら言いました。

「平気よ、店の前までタクシー呼ぶし」

「えっ、運転手は?」

「辞めてもらった。

だってウチまで送るって言うのよ、耐えられない! … 朝はマンションの下で待ってるし … 」

「それが運転手なんですよ」

「そうなの? … 怖くて通報しちゃった」


驚く太巻にひろ美は言いました。

「ダメなのよ、最低限のプライバシーは守りたいの」

「まあ、私も1年でクビになりましたけどね」


半分呆れ顔で太巻がそう言うとひろ美は愉快そうに笑いました。

< もしかして社長、鈴鹿さんのマネージャーだったのかな? >

つい立に身を潜めて、アキは聞き耳を立てていました。

… … … … …

「付き人ぐらいつけたらどうです?

紹介しますよ、ウチにも女優志望の子いるから … ちょっと面白い新人がいるんです。

グループ名がね、『潮騒のメモリーズ』っていうんです」


飲んでたお茶を吹くアキ。

「岩手のご当地アイドルなんですが、その名の通り『潮騒のメモリー』歌ってるんです」

「潮騒の … あれっ? こないだも誰かに言われたわね … まあいいや、どんな感じ?」


ひろ美にしてみれば、その程度の出来事でした。

「歌全然ダメ、お話になりません … ふたり組なんですが、可愛い子の方はまだ東京に来ていません。

この子は素質的には申し分ないです。

もうひとりの訛ってる方は … 訛ってます」


種市が吹出しました。

「『潮騒のメモリー』、懐かしい … っていうか、覚えてない」

「デビュー作なのに?」

「たまにカラオケで入れてみるんだけど、何でだろう? … “全然、歌えないの”」


目を伏せてお茶をすする太巻。

「忙しすぎたのよね、あの頃は … 2時間睡眠、当たり前だったもの」

「鈴鹿さん、そろそろ」


急に慌ただしく席を立つ太巻をひろ美は引き留めましたが、

「会議、抜け出してきてるので … 」

「ああそう、じゃあ私も帰るわ」


ひろ美がタクシーを頼むと、梅頭がまたさっきみたいに微笑んでうなずきました。

その顔が気に障ったのか、ひろ美はつぶやきました。

「何あれ、小林薫のつもりかしら?」

太巻が帰るとひろ美は、少しさみしそうな表情で水割りを口に含みました。

< それから、30分ほどで、鈴鹿さんは帰って行きました >

… … … … …

「すげえ世界にいるんだな、天野」

さっきまですぐそこにいた、大物女優や売れっ子プロデューサーと同じ世界にアキは曲がりなりにもいるのです。

「 … はい」

「やっていけるのか?

アメ横女学園だってすげえ人気だけど、俺ぐらいだと顔分かるのせいぜい7、8人だべ」


アメ女八賢伝でした。

「 … その他にメンバーが4、50人はいるらしい」

「その下ってことだろう?」


アキはうなずきました。

「まさに下(奈落)で踊ってる … 」

「いいのか、それで?」

「いいわけじゃねえが、今はそれしかねえし … せめてユイちゃんが来るまでは」


… … … … …

「 … 来ねえんじゃねえかな?」

「えっ?」

「あいつ、もうあきらめてるんじゃないかな?」

『すぐ行くからね、すぐ行くから待っててね … 待っててね、アキちゃん!』

「 … そんな、やめてくださいよ。縁起でもねえ!」


しかし、種市は続けました。

「出鼻挫かれたっつうの?

もう遅れ取っちゃってるわけだべ、来ても舞台の下からスタートだべ? … 耐えられねえと思うんだ。

天野と違って、ユイはプライド高えし、エリートだし、この年まで挫折を経験したことねえし … 」


種市の口から出てくるのは聞きたくもないことばかりでした。次から次へと …

「やめてよ」

「いっそこのまま田舎で地元でアイドルやってた方が … 」

「分がったようなこと語るな!」


先輩に何が分かるんだ?!

我慢できずに声を荒げたアキ、他の客も何事かと振り返りました。

「ユイちゃんは来る、絶対に来る!

そんな簡単にあきらめねえし、弱くねえし、中途半端なことはしねえ!」

「お客様 … 」

「落ち着け、天野」


店員の伊東が注意をして、種市もなだめましたが、アキの怒りは収まりません。

「しっかりしてけろ、先輩!

こないだまで70キロのヘルメットかぶってもシャンとしてだのに … 」


種市はアキの勢いに飲まれていました。

「縮こまって、情けねえ … 南部もぐりの精神忘れたのか?!」

黙ってうつむいたままの種市です。

「田舎さいる頃は田舎の悪口、東京さ来たら東京の悪口 … そういうの一番嫌いだったでねえか?」

アキはくやしくて情けなくて涙が滲んでくるのが分かりました。

「何だよ、エリートでプライド高えのは、先輩の方でねえか?!

… 何だよ、おらの初恋の相手はこんなちっちえ男だったのかよ?!」

「お客さん」


見かねた梅頭がアキに注意しました。

しかし、アキはそれでも…

「自分が挫折して帰るのは構わねえが、おらとユイちゃんを巻き込むのは止めてけろ!」

「お客さんっ」

「ユイちゃんは来る、絶対に来る!」

「お客さん!!」

「分がった、分がったから … 」


梅頭の声が一段と大きくなり、慌てている種市を見て、アキはようやく口をふさぎました。

… … … … …

久しぶりの再会は気まずいものになってしまいました。

「 … そろそろ帰るべ」

清算をするために席を立った種市にアキは食べ残っている寿司を指して言いました。

「これ持って帰ってもいいですか? … 勿体ねえから、寮の友達さおみやげだ」

こんな時でも思い出すのは、仲間のことでした。

「 … じゃあ、お会計」

「もう済んでますよ」

「えっ?」


鈴鹿ひろ美が一緒に勘定を済まして行ってくれたのでした。

< あの人、気づいてたんだ … >

… … … … …

北山医大附属病院、リハビリルーム。

ユイの手を借りて、功が懸命に歩行訓練をしています。

「いやあ、すごいなあ、発症から1ヶ月半でここまで回復するとは … 」

担当医が感心したように、功の回復ぶりは目を見張るものがありました。

「本当にありがとうございました」

礼を言うよしえに医師は答えました。

「いやいやこれからですよ、奥さん … 頑張り過ぎずに、ご家族の心が折れたら、元も子もないからね」

よしえの視線に気づいた功がうなずきました。

それに微笑みで応えるよしえ。

… … … … …

北三陸駅。

準備中の札が掛ったリアスの前に立っているのは、よしえでした。

その表情は、先ほどとは打って変わってひどく疲れているように見えます。

「足立さん」

しばらくして店を開けるためにやって来た春子が待合室のベンチに腰かけているよしえを見つけて声を掛けました。

春子が傍に寄って行くと、気づいたようで会釈しました。

「あ、どうも … 」

「病院の帰り?」

「何だか、まっすぐ家に帰りたくなくて … 」


春子はよしえの手を取って店に招き入れました。

… … … … …

「ヒロシ君がね、お見舞いにはまだ早いって言うから、遠慮してたのよ」

コーヒーを注ぎながら春子は言いました。

「いえもう大分いいんです、本当に … 早ければ来月にも退院して」

「そんなに?!」

「もちろん、リハビリは続けますけども、通いで … 」

「へえ、じゃあまたフラッとお店に来たりしてね」


よしえは、春子のような年の近い同性の話し相手がほしかったのかもしれません。

「 … 何か今回のことでは、私もいろいろ考えちゃって」

「うん、老後のこととか?」


春子の軽口が結構、図星だったようで、返事に困ったような顔をしました。

「やだ … ごめんなさい」

「ええ、何か、1ヶ月半緊張しっ放しだったから … 糸が切れたみたいになっちゃって」

「ちょっと、休んだ方がいいわよ」

「うん、お医者さんにもそう言われたんです … 頑張り過ぎちゃだめだって、でも加減が分からなくて … 」

「頼ればいいのよ、皆ヒマでお節介なんだから。

私も大吉さんも菅原君も、皆先生の教え子なんだから … 当てにしてよ」


微笑みうなずいたよしえ、話題を変えました。

「アキちゃん、元気?」

「ああ、それが全然連絡ないの … おばあちゃんとは、たまに電話でしゃべってるみたいだけど」


… … … … …

その頃アキは、GMTのメンバーと奈落でレッスンに励んでいました。

「ちょちょ待って、リズム感悪すぎじゃわ!」

アユミが歌と踊りを止めて、喜屋武に注意しました。

「うちのリズムは沖縄のリズムよ」

心外といった顔の喜屋武。

「いや、リズムっていうか、滑舌がやばいよ」

指摘するしおり。

「絶滅危惧種」

真奈が振ると喜屋武が続けて言いました。

「ぜつめちゅきぐちゅ」

「 … 言えてないじゃん」


♪上野から御徒町に生息、絶滅危惧種、下町アイドル …

… … … … …

「天野!」

水口がいい知らせを持って、奈落へ降りて来ました。

「ユイちゃんからメールが来たよ! … お父さん、来月に退院できそうだって」

心なしかうれしそうな水口。

「じぇっ!」

… … … … …

ユイは自分の部屋でアキから手渡された東京行きの切符を見つめていました。

切符の有効期限は11月22日まで … まだ十分間に合います。

上京するための荷造りをするユイ。

… … … … …

『 … ずっと連絡できなくて、ゴメンね。

アキちゃんが頑張ってるから、ユイもこの試練を乗り越えられました。

アキちゃんとの約束、やっと果たせそうです。

潮騒のメモリーズ完全復活まで、もうちょっと待っててね。

☆CATCH A DREAM!! Yui☆』

アキの元にもユイからメールが届いていました。

「いがったあ … 」

… … … … …

レッスンが終わったアキは、行かなければならない場所がありました。

無頼鮨。

一度ならず二度までも鈴鹿ひろ美にご馳走になったお礼を言うためです。

客でもないのに表から入ることは憚って、裏口で店の誰かが出てくるのを待ちました。

少し経つと、梅頭が顔を出しました。

お辞儀するアキを見て、何のためにここにいたのかを察したようです。

「来てるよ」

「ひとりですか?」

「入んな」


… … … … …

店に通されると、ひろ美は今夜はカウンターに座って、隣の客と何か楽しそうに話していました。

「じゃあ、あれ知ってる? 卑弥呼が現代にタイムスリップする奴?」

「今時卑弥呼?」


アキは思い切って声を掛けました。

「あのっ!」

「はいは~い … あらあらっ、アイドルの卵だ!」

「先日は連れの分までご馳走様でした」

「やあだ、いいのよ … さ、座って、食べなさい」


朗らかに笑うとアキを隣に座らせました。

「私、天野アキっていいます。

岩手県北三陸っていう所で『潮騒のメモリーズ』っていうグループ組んでました」

「あら、あなただったの?」

「はい … すみません、勝手に歌って」

「そうよ、あんた … 裁判したら、私の勝ちよ … しないけどね、ふふふふ」


少しアルコールが入っているようで、ご機嫌でした。

「あの、もうひとりの子がもうすぐ東京さ来るんで、そしたら、おらの歌っこ聴いてください!」

ひろ美は、一瞬いぶかしげな顔をしましたが、うなずくと手拍子を始めました。

「 … いえ、今でねくて、来月です」

勘違いしていたようです。

「なんだ … 何でも頼みなさい」

「ありがとうございます」

「私はカッパ」


ひろ美はカッパ巻きを頬張りました。

「じゃあ、おらはウニ!」

「 ・・・ 」


遠慮を知らないアキが振り向くと、ひろ美は大女優らしく微笑み返しました。

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