NHK朝ドラ『花子とアン』『ごちそうさん』『あまちゃん』…ストーリーを勝手に解釈&裏読み … ほぼネタバレ…
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2014年05月31日 (土) | 編集 |
第54回

はなが振られる結果に終わった縁談だったが … この話を持ってきた甚之介は断られたのははなが早く返事をしなかったせいだと決めつけて激怒しているらしい。

リンからその話を聞かされた安東家の人々。

とにかく、甚之介のところへ謝罪してくるというはなを、吉太郎は自分が代わりに行くと言って引き留めた。

「わしゃもういつ命取られても惜しくねえ歳だから … 」

周造までもが自分が行くと言い出した。

そんな皆を制して名乗りを上げたのは吉平だった。

「ここは父親の出番じゃ、こぴっと話しつけて来るから心配するじゃねえ!」

あれよあれよという間に出かけていった。

「ここんちでいっとう心配なのは、婿殿じゃん … 」

頼りのない背中を見送りながらリンが不安そうにつぶやいた。

* * * * * * * * * *

「わしの顔に泥塗るようなことしやがって ~ 一体何考えてるでえ?!」

吉平の顔を見るなり、甚之介は頭ごなしに怒鳴りつけてきた。

「こんないい話、ぐずぐずしてさっさと受けねえから、向こうも業を煮やしたずら」

「うちの大事な娘の縁談断るような男はこっちから願い下げじゃ!」


吉平は謝罪するどころか、甚之介に食って掛かった。

「望月さんはな ~ 借金全額返して、おまんら家族の面倒までみると言ってくれてんだ!」

痛いところをつかれて、言葉に詰まった吉平だったが、負けじと言い返した。

「しゃ、借金ぐれえ … 俺が全国回って、耳揃えて稼いで払ってやらあ!!」

それを聞いて甚之介は鼻で嗤った。

「うちの品物がなけりゃ、売り物がなくて、稼ぐにも稼げねえら?!」

「 … とにかく、縁談断られたのは、はなのせいじゃねえ!

借金は、俺が返す ~ いいな?!」


言いたいことだけ言って、引き上げようとする吉平のことを甚之介は呼び止めた。

「ほれ、持ってけ」

ちょうど、武が店に運び入れていた生糸の束を指さした。

「せいぜい稼いで、ふじちゃん楽さしてやれし … 」

苦虫を噛み潰したような顔で言い捨てた。

元はといえば、望月家との縁談も勧めたのも、ふじを助けたい気持ちからだった。

一瞬怪訝な顔をした吉平だったが、武から商品を受け取ると、にこやかな笑顔を見せてぺこりと頭を下げた。

「ほれじゃあ、ごきげんよう ~ 」

* * * * * * * * * *

< そして、季節は巡り … いよいよ吉太郎の入営の日がやって来ました >

甚之介が祝だと用意してくれた紋付き袴を周造に着つけてもらっている吉太郎。

その様子をふじ、はな、ももは正座して見守っている。

「兄やん、本当にいっちまうのけ?」

幼い頃から、いつもそばにいてくれた兄が居なくなってしまうことをももは人一倍悲しんでいる。

息子の門出の日だというのに、吉平は行商に出かける支度を済ませていた。

「あんた、一緒に見送ってくりょう!」

ふじが懇願したが、吉平は言ってのけた。

「俺に見送ってほしくなんかねえら … 」

「あの子、本当は、あんたに認めてほしかっただよ。

ボコの頃からずっと … 」


しかし、吉平はぷいっと出かけていってしまった。

「お父 … 」

* * * * * * * * * *

「ほれじゃあ、行ってめえりやす」

正装した吉太郎は、見送るために集まってくれた徳丸親子や村人たちの前に立った。

「体に気つけるだよ」

ふじの言葉に微笑んでうなずくと、はなの方を見た

「はな、お祖父やんとお母のこと頼む」

「 … はい」


皆に向かって深く一礼をして力強く歩き出した吉太郎。

その背中を万歳の声が送り出した。

「万歳 ~ 万歳 ~ 」

涙を堪える安東家の女たち。

* * * * * * * * * *

小さな風呂敷包みひとつの荷物を手に道を行く吉太郎。

村外れの大きな樹を過ぎたところでふと足を止め … 今歩いて来た道を振り返った。

再び歩き出そうとした時、気配を感じた。

樹の下に人影 … 旅姿の吉平が立っていた。

「お父 … 」

離れた場所でしばし視線を交わす親子。

「 … 吉太郎、頑張ってくるだぞ」

父の口から出たのは激励の言葉だった。

吉太郎は姿勢を正して、吉平に向かって深く一礼した。

立ち去る吉太郎を吉平はいつまでも見送っていた。

* * * * * * * * * *

福岡の嘉納家では連日、蓮子が主宰するサロンが開かれていた。

昼間からブドウ酒を嗜みながら歌を詠み、短冊に書き留め、集まった客に披露しては、その感想に耳を傾ける蓮子だった。

「 … どう?」

蓮子はサロンの常連になった黒沢にも一首、感想を求めた。

『誰か似る 鳴けよ唱へと あやさるる 緋房の籠の 美しき鳥』

「 … あなたは、ご自分のことしか愛せない人だということがよく分かりました」

蓮子は黒沢を一瞥した。

「ええ、私可哀そうな自分が大好きなの」

その時だ。

外出していた伝助が戻ってきて、サロンに顔を出した。

「あら、どうなさったの?

こんな時間に … 」

「悪いか?!」


蓮子の言葉に、伝助は不機嫌そうに声を荒げた。

気まずくなったサロンの客たちは挨拶もそこそこに潮が引くように帰って行ってしまった。

ただひとりだけ残っていた黒沢が伝助の前に出た。

「嘉納さん、東西日報の黒沢と申します。

うちの取材はいつになったら受けていただけますか?」

「ああ、そのうちな ~ 」


面倒くさそうに返事をした。

「受けてくださるまで、何度でも伺います」

それこそが黒沢がサロンに顔を出し続けている目的だった。

* * * * * * * * * *

ソファーに腰かけた伝助はテーブルの上に置いてあった短冊を手にして、呆れたように言った。

「また短歌っちゅうやつか?

こげな紙切れ、一銭にもならんばい」

「あら、歌だってお金になるんですよ」

「ほう、そりゃあどげんしたら金になるとや?」

「本にして出版するんです … 当然でしょ」


伝助から腹の足しにならないものに金を出すやつの気がしれないと言われた蓮子は少し意地になった。

「じゃあ、もし私の歌集を出して、それが売れに売れたらどうなさいます?」

蓮子に挑発されて、伝助は何故だかうれしそうな顔になった。

生来、勝負事が好きなのだろう。

「おう、博多の街をすっぽんぽんで ~ 逆立ちして歩いちゃる」

さも愉快そうに笑った伝助から蓮子は軽蔑して目を背けた。

「 … どこまで下品な人なの」

「お前が作る本じゃき、さぞかし上品ぶった本が出来るっちゃろうね ~ 」


そこまで言われたら蓮子ももう後には引けない …

「じゃあ、作りますよ。

お金出してくださるんですね?」

「おう、この嘉納伝助の嫁が作る本ばい ~ やるなら金に糸目はつけんでよかっ!

とびっきり豪勢なもん、作っちゃれ!!」

「もちろんそのつもりです」


必ず伝助の鼻を明かしてみせる … きっかけは何だろうと、蓮子は久しぶりに目標を手にしたのだった。

* * * * * * * * * *

1914年(大正3年)・3月。

はなは教師になって初めて受け持った生徒たちの卒業式の日を迎えた。

式の後の記念撮影を終えたはなと朝市に本多校長は言った。

「ふたりともこの一年はよう頑張ったな。

特に安東はな、はじめは落第教師だったおまんが、どうにかよく持ちこたえたな。

… 卒業する生徒らにおまんらしい励ましの言葉を贈ってやれし」

「はい」


校長からはじめて教師と認められた … その思いを胸にはなは、卒業していく生徒たちにとって最後の教壇に立った。

「皆さん、ご卒業おめでとう。

5月にお引越しした小山たえさんから今日、お手紙が届きました」


ざわつく生徒たちを前に、はなは手紙を読み始めた。

* * * * * * * * * *

「はな先生、6年生の皆、お元気ずらか?

皆はもうすぐ卒業ですね、おらは今学校に行ってねえけんど、時々そこの教室に遊びに行きます」


生徒たちは、たえが座っていた席に目をやった。

「 … 想像のツバサを広げて、皆と一緒に笑ったり、勉強したり、お弁当食べたりしてるだよ。

こないだ、お父が一冊の本を買って届けてくれました。

ほこにはな先生の『みみずの女王』が載ってて、ドキドキしながら読みました。

読むと笑えて、胸の奥にポッと明かりが灯ったみてえに元気になるだよ」


はなには、子守をしながら、本を読んで笑顔になるたえの姿が目に見えるようだった。

「おら、元気で頑張ってるから … 皆も頑張れし。

アイ・ラブ・ユー、サンキュー、たえ」


* * * * * * * * * *

読み終えると、皆から拍手が起こった。

「たえさんは卒業できなんだけど、皆がこうやって6年間学校に来られたのは、家族の応援があったから。

遠くの町へ奉公へいく子、おうちの手伝いをする子、上の学校へ行く子 … これっからいっぺえ辛いことあるとは思うけんど、皆が何処に居ても家族が見守っててくれてることを忘れんように」


これがはなの贈る言葉だった。

「はい … じゃあ、皆さん、お元気で … ごきげんよう、さようなら」

目頭が熱くなるのを感じながら、最後を締めくくった。

生徒たちは一斉に立ち上がり、声をそろえてお辞儀した。

「ごきげんよう、さようなら!」

* * * * * * * * * *

挨拶を終えた生徒たちは、はなに寄って来るわけでもなく、さっさと教室から出て行ってしまった。

余りの呆気なさに、はなは少し拍子抜けだった。

「案外あっさりしたもんじゃん … 」

感傷的になっていたのは自分だけだったのか … ふっと自嘲気味に笑うと、黒板に書かれた『卒業おめでたう』の文字を寂しく消し始めた。

「はな先生!」

名前を呼ばれたはなが、驚いて振り向くと、生徒たちがめいめい野の花を手に教壇を取り囲んでいた。

そして、一斉にはなに差し出した。

「先生、ありがとうございました!

先生、アイ・ラブ・ユー!!」

「ありがとう、ありがとう」


ひとりひとりの手から花を受けとりながら、はなは感無量だった。

< アイ・ラブ・ユー … ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月30日 (金) | 編集 |
第53回

家族皆が寝静まった夜。

紡いだ生糸を束ねているふじ、その後ろに吉平がむすっとした顔で座っている。

「おまんは知ってただけ?

吉太郎が軍隊入って、もうここには戻らんてこと」


吉平がふじに尋ねた。

「 … ちっとも知らなんだ。

吉太郎は誰にも相談しなんで、全部自分ひとりで決めただよ」

「いいだか、ふじは?」

「今まであの子はずっと、家族のために頑張ってきただから … やりてえようにさしてやりてえさ」


うなだれて黙り込んだ吉平に今度はふじの方から尋ねた。

「あんた、本当は寂しいずら?」

「ああ?」

「はなの縁談も、頭ごなしに反対するのは、嫁に行かれたら寂しいからじゃねえだけ?」


図星だったのか、ばつが悪そうな顔をした吉平は、思い出したように行商の荷物の中から小さな赤い袋を取り出した。

「ずっとバタバタしてて渡しそびれてたけんど、これおまんに土産だ」

袋の中の櫛をふじに差し出した。

「てっ?! … いらん」

突き返されてしまった吉平は肩を落とした。

「まだ怒ってるだけ?

ほりゃほうだな … 4年もほったらかしで、本当にすまなんだ」

「 … ほうじゃなくて、櫛はいらん」


ふじは棚の引き出しに入っていた小箱を開けて吉平に見せた。

「おらにはこれがあるさ」

ふじが手に取ったのはふたりがまだ所帯を持つ前に吉平が贈った櫛だった。

「てっ、まだほんな古い櫛持ってただけ?」

「当り前さ ~ これはあんたからもらったたったひとつの贈り物じゃん」


ふじはにっこりと笑った。

「ふじ … 」

吉平がその手で髪にさして、よく似合うと褒めてくれたことをふじは決して忘れてはいなかった。

吉平はふじの手から櫛を取ると、あの時のように髪にさしてやった。

「やっぱし、ふじによく似合う」

ふじの肩に手を置いてセリフまで同じに言うと、ふじは吹き出した。

「これは、はなかももにあげてくりょう」

* * * * * * * * * *

土産の櫛を手にしてそう言った時、突然障子が開いてはなが入ってきた。

「おらはいいから、ももにあげてくれちゃ」

慌ててふじから離れる吉平。

「はな、まだ起きてただけ?」

「 … おらは今の話聞けただけで十分だ」


悪いとは思いながら、両親の会話をすべて聞いてしまったはなだった。

「てっ、聞いてただけ?」

「 … ああ、今日はくたびれた ~ もう寝るだ … 」


きまりが悪くなった吉平は、そそくさと寝床に入っていってしまった。

* * * * * * * * * *

ふじが頭から櫛を外して大事そうに箱にしまうのをはなは微笑みながら見ていた。

「お母はお父と結婚して、幸せだった?」

「ええ?

ほうだね ~ うん、お父と結婚したお蔭で吉太郎も、はなも、かよも、ももも生まれてきただし … 時々いなくなるお父だけんど …

うん、お母はこれでよかった ~ 幸せだ」


母の言葉を聞いてはなはうなずいていた。

「おらやっと分かった気がする …

おらもパルピテーションのある結婚がしてえ!」

「ぱ、ぱる、ぱ、ぱ … ?」


胸がどきどきときめくことだと、はなは説明した。

「ああ、よく分かんないけんど … 見っかるといいね、はなのぱ、ぱ、ぱ … 」

「お母は見っけたじゃん!

お父はお母のパルピテーションだよ」


< さて、はなのパルピテーションの人は一体、誰なのでしょう? >

* * * * * * * * * *

はなは想像のツバサを広げてみた。

目の前に望月啓太郎が現れた。

「あい・らぶ・ゆう」

「てっ、ありがとうございます」

思わず礼を言うはな。

< さて、次は誰でしょう? >

「アイ・ラブ・ユー、はなたれ」

徳丸武が現れた。

「ないないないっ!」

思いきりかぶりを振るはな。

< はいっ、次! >

生徒たちを背にした朝市だった。

「はな … あ、あい、あ … 」

「朝市、無理して言わんでいいから」

< さて … 次は? >

「アイ・ラブ・ユー」

ナマケモノの絵を手に持った、村岡英治だった。

「てっ … 何で、村岡印刷さんが?!」

「花子さん、こっちが聞きたいです」

< どうして、ここで彼の顔が浮かんだのか … はなは不思議でした >

空想の中、はなの身の回りにいる男性たちが次々に求愛しては消えていった。

しかし、その中の誰にも特別パルピテーションを感じることがなかった。

「武じゃないってことだけは分かったけんど … 」

* * * * * * * * * *

夏休みに入って、はなは教会の図書室で新たな童話の執筆にかかっていた。

しかし、なかなか筆は進まず、何かにつけまだ見ぬパルピテーションの人のことばかりに思いを巡らせてしまうのだ。

そこへ朝市が数名の生徒を引き連れてやって来た。

「はな先生、また想像のツバサ広げてるみてえだな … 」

朝市は生徒たちに静かにするように合図して、忍び足ではなに近づいて行った。

はなはまったく皆に気づかない。

「ごきげんよう!」

耳元でキヨシに声をかけられて、ようやく現実の世界に戻って来た。

「てっ、皆どうしたで?」

大笑いする生徒たちを見て目を丸くした。

「はな先生は本の部屋に居るって言ったら、皆ついてきただ」

「はな先生、お話聞かしてくりょう」

「みみずの女王みてえな面白れえ話が聞きてえ!」

「ええっ? ほうだね … 」


はなが考えていると、キヨシが机の上の原稿用紙を手に取った。

「新しい話、書えてるじゃんけ」

「ああ、そりゃあまだだめ!」


取り上げようとしたが、生徒たちは「読んで、読んで」とせがんできた。

* * * * * * * * * *

「 … では、安東先生が新作の童話を読みます」

「朝い … じゃなくて、木場先生?!」


はなは朝市を咎めたが、生徒たちはすでに机の周りを取り囲んで、期待満々はなのことを見つめている。

仕方なく肚をくくったはなは、書きかけの童話を読み始めた。

* * * * * * * * * *

「それじゃあ、読みます。

『お日さまとつゆ』

夏の朝でした。

青い草の葉の上につゆの玉が休んでおりました。

お日さまがつゆの玉の上に照りましたから、つゆはぴかぴか光りました。

青い草の葉とつゆの玉は、大層仲良しのお友達でした … 」


そこまで読み終えた時、朝市は人の気配を感じて入口を見た。

「ああ」

はなは会釈した朝市の視線の先を見て仰天した。

立っていたのは、望月啓太郎だった。

< 望月さんはしびれを切らして、はなの返事を聞きにきたのでした >

* * * * * * * * * *

「お返事遅くなって本当にすみません」

はなは啓太郎に頭を下げた。

先日も、街で甚之介に会ったももから、早く返事をするようにと催促されたと伝えられてはいたのだが … そのままになっていた。

「こちらこそ、こんなところまで押しかけて」

気を利かせて出て行ったはずの朝市と生徒たちだったが、やはり気になって、入口に近い本棚の陰で様子をうかがっていた。

「望月さん。

私は望月さんと結婚したら、幸せになれると思います。

私だけじゃなくて、うちの家族も幸せにしてくれると思います。

… こんなにいい縁談断ったら、罰が当たります」


はなは言葉を選んで話していた。

「ほれから、あの … 私、結婚にはパルピテーションが大切だと思うんです。

つまり、胸がときめくことです」


啓太郎も納得して笑いながらうなずいた。

「お会いするのはまだ二回目ですけんど、これからもっともっと色々お話をして、お互いのことをもっと知っていくうちに … そういう瞬間があるかも知れません。

その時が来たら、こぴっと決断したいんです」


はなは啓太郎の表情の変化に気づかなかったのか …

「 … そんな訳であの、もう少し考える時間をいただけますか?」

* * * * * * * * * *

「ほれは考えるものではなく、感じるものではねえでしょうか?」

「えっ?」


啓太郎は黙って何かを考えている。

「あの、望月さん?」

「はなさん。

この話は白紙に戻させてくりょうし」


予想しなかった啓太郎の言葉に驚くはな。

「てっ … どうして?」

「先日あなたにお会いした時、僕はときめきました。

だけんど、あなたの方はほうじゃなかった。

… 残念だけんど、ご縁がなかったようです」

「望月さん … 」


啓太郎は席を立って一礼すると出口に向かって歩き出した。

「ごきげんよう、さようなら … 」

はなはそう言うだけで精いっぱいだった。

* * * * * * * * * *

啓太郎は、本棚の陰にいた朝市たちに気づいて軽く会釈をして部屋を出て行った。

すると、はなが慌ててその本棚の前に飛んできた。

「てっ!

皆、ほんなところで何してるで?!」

「は、はな … お、落ち込むことねえじゃんけ」


そう言いながら朝市は顔がにやけるのを止められなかった。

生徒たちも一斉に笑い出した。

「何笑ってるで?!」

「てっ、はな先生振られちまった!」


子供は正直だ ~ キヨシが、そのものズバリを口にした。

「行き遅れても知らんよ!」

「こらああ ~ !!」


はなが声を上げると、クモの子を散らすように逃げ出した。

笑いながら、追いまわすはな。

ひとりきりだったら、本当に落ち込んでしまったかもしれない … 生徒たちがいたお蔭で、はなはきれいさっぱりとあきらめることができた気がした。

< こうして、はなの縁談は終わったのでした。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月29日 (木) | 編集 |
第52回

吉平が戻ってきて、数日が経った。

ふじからの許しはもらった吉平だったが、吉太郎との間に出来た溝はそう容易く埋まる訳もなく … 皆が集まる朝食も気まずい雰囲気に包まれていた。

「今日も暑くなりそうじゃん」

「すっかり夏じゃんね ~ 」

「本当にね」


はな、もも、ふじの女たちが何とか場を和まそうと話をするが、男たちはムスッとしたままで、一向に重苦しい空気を取り払うことができない。

「兄やんも何かしゃべってよ」

はなが吉太郎に無理に話を振ると返ってきたのは …

「ええ加減、見合いの返事しないでいいだけ?」

「て … 」


< … やぶへびでした >

* * * * * * * * * *

< 終業式の日がやって来ました … 明日からは学校は夏休みです >

はなは教師になって初めて評価した通信簿を生徒たちに配っていた。

「あれ、裏に何か書えてあるじゃん」

ミヨの言葉に他の生徒たちも自分の通信簿をひっくり返して確認した。

学校生活の中ではなが気づいた生徒それぞれの長所とほめ言葉を書き込んでおいたのだ。

「勉強がちっとぐれえ出来んでも、それぞれいいところはいっぱいあるだよ。

そのいいところを伸ばしながら頑張っていきましょう ~

それでは皆さん、よい夏休みを」


そんな言葉で一学期を締めくくろうとした時、キヨシが訊いてきた。

「先生、見合いはどうなったで?」

「てっ?!」

「地主さまと見合いしたって聞いたさ」

「すげえな ~ 先生、お金持ちと結婚するだな?」


生徒たちの間にもはなの見合い話は知れわたっていたのだ。

「まだ決まったわけじゃ … 」

「ふんでも、嫁に行ったら、学校辞めちまうだけ?」


皆が心配しているのはそのことだった。

「え ~ やだ、先生辞めなんでくりょう!」

「辞めなんでくりょう!」


生徒たちは口々にそう訴えた。

「先生、あいらびゅ~」

立ち上がって両手を広げたお調子者のマサル、他の生徒たちも同じように口を揃えて、はなから教わったその言葉を叫んだ。

「あいらびゅ~」

はなは感激していた。

胸がじ~んとなって、目にはうっすらと涙が滲んできた。

* * * * * * * * * *

「やっぱし、縁談断ろうかな ~ 」

教務室に戻って来たはなはご機嫌でそんなことを口にした。

「てっ?」

「あんなに慕ってくれる生徒がいるなんて … 私、意外と教師向いてるかも?」


はなの思惑とは別に、朝市もうれしそうな顔をした。

理由は何であれ、朝市にとっては願ってもないことだった。

「安東先生」

その時、本多校長がはなを呼んだ。

くどいようだが、はなが校長から呼ばれるのは、たいていがよからぬ理由がある時だ。

「 … おまんの通信簿を作っただ」

はなは校長から受け取った紙を怖々と開いた。

「てっ?!」

そこに書かれていた評価を見て、思わずめまいがした。

「指導力丙、勤務態度丙、協調性丙、裁縫丙 … 」

すべてが『丙』、これより悪い評価はない。

「こぴっと反省して、立派な教師になれし」

天狗になりかけた鼻を見事にへし折られたはなだった。

* * * * * * * * * *

その頃、福岡の嘉納家を珍しい客が訪ねていた。

蓮子の兄、葉山伯爵だ。

「やあ、蓮子 … 元気にしていたか?」

「お兄様?!

… こんなところにお出でになるなんて、一体どういう風の吹き回しかしら?」

「蓮子がどうしてるか様子を見に来たんだ」

「お兄様がまだ私のことを覚えていてくださったなんて … 感激して涙が出そうですわ」


蓮子には分かっていた、この兄がそんなことでわざわざ福岡まで来るような人ではないことを … 何か他に大事な理由があるのだ。

「まさか嘉納さんに対してもそんな風に皮肉たっぷりの口を利いてるんじゃないだろうな?」

「ご心配なく … お蔭様で私たち夫婦、大層うまくやっておりますのよ」


冷たく笑った蓮子の態度に、曲りなりにも兄である葉山伯爵はすべて察したようだ。

「お前分かってるのか?

今度また離縁でもされたら、それこそ葉山家の恥だ。

戻って来たとしても、葉山家の敷居は二度とまたがせんぞ」


どの面下げて口に出来た言葉だろう …

「それで、何のご用ですの?」

* * * * * * * * * *

やがて、伝助が戻ってきて、葉山伯爵は応接間に通された。

「やあ、お待たせしてすんまっせん」

「いや、こちらこそ突然押しかけてしまって … 申し訳ありません」


別人のように愛想がよい葉山伯爵。

「約束のものをここに … 」

伝助は、お付の者から封筒を受け取ると、葉山伯爵の前に置いた。

「では、確かに」

手をかけた伯爵から、蓮子は封筒を取り上げた。

「おい、止めないか!」

伯爵は慌てて咎めたが、構わずに封筒の中身を確認した。

大金を目にして驚く蓮子。

「このお金、一体どういうことです?」

「お中元たい」


顔色ひとつ変えず答えた伝助。

「 … ご冗談を!」

蓮子は封筒を突き返したが、伝助は、また葉山伯爵に渡してしまった。

「よかやろうが ~ 」

「何がいいんですか?!」


伯爵は今度はあっという間に封筒を懐に入れてしまった。

「では、私はそろそろ … 」

そう言って、伝助に頭を下げると慌ただしく席を立った。

「お兄様!」

「蓮子、くれぐれも … 分かってるな?」


蓮子は呼び止めたがさっさと出て行ってしまった。

* * * * * * * * * *

「兄にお金を渡すなんて一体どういうおつもりですか?!

… しかもあんなにたくさん」

「お中元ち言うとろうが」


伝助は涼しい顔だ。

「 … 甘い顔をしたら、兄は何度でも無心に来ますよ」

「金がかかるちいうことは前から分かっちょった」


葉山伯爵が蓮子の結納金で貴族院議員になり、その上事業にも色々手を出していることを伝助は知っていた。

「 … どれもうまいこといっちょらん」

もちろん蓮子にとって初めて耳にすることばかりだった。

「何故あなたが尻拭いをなさるんです?!」

「お前のために払う金と思うたら、惜しいこたない」


そう言ってはばからない伝助 … それが彼の愛情表現なのかもしれない。

そんな言葉に感激する女性もいるだろう。

しかし、蓮子には理解できなかった。

「お金?!

お金、お金 … あなたはいつもそうです。

私は芸者ではありません!」

「ふふふふ … 何を言いよるのか?

こげな高い芸者がおるか?!」


決定的な言葉だった。

高笑いしながら出て行く伝助。

呆然と立ち尽くしていた蓮子は、ソファーに座り込んでしまった。

信じていたもの、守り続けていたものがすべて絵空事に思えてきた。

堪えていた涙がとめどなく溢れ出した。

自分が堪らなく滑稽に見える … いつしか蓮子は声に出して笑いはじめていた。

* * * * * * * * * *

< それからといもの、教養がなく芸術を理解する心も持ち合わせていない伝助にあてつけるように、蓮子は頻繁にお屋敷でサロンを開くようになりました >

サロン … 地元の文化人を多く招いて、会話や酒を楽しむそんな社交の場。

ある日のこと、ひとりの若い男が蓮子に一冊の本を差し出した。

「これは?」

「お招きいただいたお礼にと思いまして」


受け取ると、それは竹下夢二の美人画集だった。

「何故、竹久夢二なのかしら?」

「彼の描く女性は素晴らしいですよ」

「あなた、こんな可憐な女性がお好きなのかしら?」

「絵としては素敵です」

「あらそう?

それじゃあ、私の様な女はどう思って?」


上目づかいに尋ねると、男は少し戸惑いながらも答えた。

「 … 竹久夢二に是非描かせたいですね」

この男に少し興味を持ったのか、蓮子は名前を尋ねた。

「あっ、申し遅れました。

東西日報の黒沢と申します」


新聞記者、黒沢一史は慌てて名刺を差し出した。

「嘉納伝助さんに取材をお願いしてるんですが、なかなかご承諾いただけなくて … 」

将を射んと欲すれば先ず馬を … それで蓮子に取り入ってきたのだろう。

* * * * * * * * * *

「主人の取材?

止めなさいよ、そんなつまらない記事」


蓮子はソファーに腰かけてワイングラスを手にした。

「ねえ、黒沢さん … いつまでそうやって突っ立ってらっしゃるの?」

飲み物を取ってくるという黒沢の手を引いて自分の隣りに座らせた。

テーブルの上の空いたグラスにブドウ酒を注ぐと黒沢に持たせ、自分のグラスと合わせた。

「乾杯」

一気に飲み干す蓮子。

* * * * * * * * * *

< 蓮子がそんなことになってる頃 >

徳丸商店の広間でも宴が催されていた。

吉太郎の軍隊入営を祝って、甚之介が宴席を設けてくれたのだ。

「吉太郎君、入営おめでとう!

お国のために、こぴっと頑張れし!」


この日のために吉太郎に羽織袴まで用意してくれた甚之介の音頭で皆盃を掲げた。

「お母まで、晴れがましいだよ」

安東家一同も全員招待され、慣れない席に居心地悪そうに座っていた。

「いやあ、めでたい ~ おめでとう!」

そう言いながら、酒まで注いでくれる甚之介に周造は恐縮して頭を下げた。

「今日は、こんな盛大なお祝いしてもろうて、ありがとうごいす」

「本当にありがとうごいす」

「ふじちゃんも立派な息子持って、鼻が高えら?」


ひとりふて腐れた顔で座っているのが吉平だった。

「まあ、ほう寂しがらんでも、兵隊暮らしは2年だけじゃん。

吉太郎君、兵役が終わったらまたこっち戻って来るずら?」


甚之介に訊かれて、口ごもる吉太郎。

「何でえ?

兵役が終わっても、何かやりてえことがあるだか?」


すると、吉太郎はおもむろに立ち上がった。

「おら、兵役が終わっても … そのまま軍体に残れるように頑張ろうと思ってるです」

「てっ?!」

「 … 職業軍人を目指すつもりでごいす!」

「兄やん?!」


吉太郎の宣言を聞いて、招待客から拍手が起こった。

「吉太郎君、よく言った!

職業軍人になって、お母さんたちを楽にさしてやれし!」

「はいっ、頑張ります!」


* * * * * * * * * *

「おらあ、ほんなの聞いてねえぞ!」

席を蹴って立ちあがったのは吉平だった。

「 … ずっとうちに居なんだのに、どうやって話せって言うだ?」

それを言われるとひと言も返せない吉平。

「お父に許してもらわんでも、もう決めただ。

おら、軍人になる。

金稼いで、家族に楽さしてやるだ」

「ほれは … 俺のせいか?」


対峙するふたりのことをはなが制した。

「お父も兄やんも止めてくりょう ~ せっかくのお祝いの席なんだよ」

「ほうだよ」


おろおろするふじ。

「俺は絶対に許さねえぞ!」

広間から出て行こうとした吉平に吉太郎は言葉を投げつけた。

「また逃げるだけ?

お父はいつもほうやって、おらたちから逃げるじゃんけ。

… おらはお父みたいにふらふら生きたりしねえ。

おまんみてえには絶対ならねえ」


我が子におまん呼ばわりされたが、吉平は何も返さず、寂しげな表情で立ち去って行った。

* * * * * * * * * *

場はすっかりしらけてしまったが、気を取り直した甚之介が声を上げた。

「さあ、仕切り直しだ ~ 新しい酒持ってこうし!」

吉平の後を追おうとしたふじもあきらめて席に戻った。

「吉太郎の祝いの席だ … わしらだけでも祝ってやろう」

そう言うと周造は料理に手をつけた。

はなは父と兄、どちらの気持ちも分かるだけにどうしたらいいの困惑していた。

< 父と息子の絆は切れてしまったのでしょうか?

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月28日 (水) | 編集 |
第51回

「お父なんか … こんなお父なんか … おらたち家族に必要ねえ!!」

突然、4年ぶりに帰って来た父に、吉太郎は溜まりに溜まっていた怒りをぶつけ …

何ひとつとして知らなかった吉平は言葉を失って、ただただ涙するだけだった。

< いつの時代も父と息子は対立するものなのでしょうか … >

その晩、蒲団に入ってもなかなか寝付けなかったはなは、何だか胸騒ぎがして家の外に出た。

縁側に回ると、吉平がしょんぼりとして腰かけていた。

そっと近づくはな。

「お父、グッドイブニング」

「びっくりした … こんな夜中にどうしただ?」


それはお互い様だろう。

「お父こそ、またどっか行っちもうのかと思ったさ」

「 … もう、何処にも行くあてなんてねえ … まあ、このうちにもお父は必要ねえだろうけんどな」


吉太郎から叱責されて、吉平は何ひとつとして言い返すことができなかった。

知らなかったこととはいえ、家族にどれだけ辛い思いをさせてきたかを考えるといたたまれなかった。

自分自身が情けなかった。

「ほんなこんねえよ ~

お父はこのうちのこと何も知らなんだから、大急ぎで勉強してもろうさ … 宿題だって出すよ」

「宿題もけ?

… ありがとな、はな」


吉平は、こんな自分でも家族の一員として扱ってくれるはながありがたかった。

* * * * * * * * * *

「ねえ、お父 … 4年も何処で何してたで?」

はなは少し躊躇したが、思い切って吉平に尋ねた。

「 … どうして一度も帰ってこなんだの?」

すると、吉平は訥々と話しはじめた。

「お父は、東京である人の演説を聴いて、心をつかまれてな ~ 行商しながら、社会主義っちゅう思想を広げる伝道行商ちゅうのをしてただ」

「てっ、社会主義って … 警察が取り締まってるあの?」


吉平はうなずいた。

「今の社会は、苦労して働いてる労働者が報われねえで、金持ちばっかがどんどん裕福になる仕組みだ。

ふんだから、世の中変えるために、日本中あっちこっち駆けずり回ってただ」


しかし、心酔していた社会運動家の浅野たちが逮捕されるのを目の当たりにして … 仲間の国松と共に逃げ出した。

「 … お父が警察に手配でもされたら、家族皆に迷惑がかかる。

ほう思って必死で身を隠してただ」


連絡も入れず、家に戻らなかったのも、吉平なりに家族のことを思ってのことだったのだ。

* * * * * * * * * *

「お父、まだ隠れなきゃならんだけ?」

はなの質問に吉平は複雑な表情を見せた。

「いや … 全部お父の思い過ごしだった」

それは、最近になってのことだ … 秘かに東京に戻った吉平は、街で偶然に浅野と出くわしたのだ。

「浅野先生 … よかった、出所なさったんですか?」

「ええ、一ヶ月ほど前にやっと出られました」

「じゃあ、もう安全なんですか?」

しかし、浅野は完全に自由になった訳ではなく、今も見張りがついていることを吉平に告げた。

「安心してください ~ 心配しなくてもあなたは捕まったりしませんよ。

連中が追っているのは、小説家や出版社の人間、それに我々新聞社のような世間に影響力を持つ人間です。

ですから、あなたが逃亡する必要はないんです」

浅野の言葉で吉平は目が覚めた … そして、思い知った。

「 … 所詮お父は警察に追われるような大物でも何でもねえ、ただの行商じゃ … 家族の苦労なんかこれっぽっちも知らんで … 自分が恥ずかしい」

うなだれた吉平にはなは言った。

「お父 … Go to bed.

今日は取りあえず、ゆっくり寝るさ」

「ああ、この話は … お母には黙っててくれちゃあ」


はなは怪訝な顔をした。

「自分の亭主がこんなあほうだって知ったら、お母も悲しくなるら?」

* * * * * * * * * *

その時、はなの背後から手が伸びてきて肩をつかんだ。

「てっ!!」

飛び上がって驚き振り向くと、そこにはふじが立っていた。

「ほんなに驚くことねえら?」

「 … 全部聞いてただか?」


吉平は恐る恐るふじに尋ねた。

「あんたの情けねえ話は全部聞いたさ ~ 」

気まずい空気が流れて …

耐えられなくなったはなは縁側から腰を上げた。

「おら、明日早いから … おやすみなさい」

逃げるように家の中に戻ってしまった。

* * * * * * * * * *

ふたりきりになると、ふじは吉平のことを見つめた。

目をそらす吉平。

ふじはため息をつくと、二三歩前に出て、黙って月を見上げた。

「 … ふじ、長えことすまなんだ」

吉平は、知らん顔をしているふじの横にひざまずくと土下座した。

「この通りだ … 」

「まったく、世の中変える前に … 自分の頭ん中、変えた方がいいずらよ」

「 … はい」


何を言われようが、返す言葉も見つからない吉平。

「ふんだけんど …

あんたが大物じゃなくってよかった ~ あんたが小物なお蔭で、こうして無事に帰って来られたずら?」

「ふじ … 」


ふじもしゃがみ込むと吉平の手を取った。

「 … お帰りなさい」

吉平もふじの手を握り返した。

「 … ただいま」

… 月だけが見ていた。

* * * * * * * * * *

< その頃、福岡の嘉納伝助の屋敷では、有名な演奏家を呼んで演奏会が催されていました。

嘉納家の教育改革のために蓮子が企画したのです >

伝助と冬子だけでなく使用人たちも広間に集められ、演奏のために呼ばれたのは著名なバイオリニストの面々だった。

蓮子が演奏に聞き入っていると、隣りから雑音が聞こえてきた。

目をやると、伝助が煎餅をかじっているではないか … 咳払いをしても知らん顔で、冬子にまで与えている。

何回目かの咳払いでようやく気づいたが、何を勘違いしたのか蓮子にまで勧めてきた。

蓮子は煎餅の入った器ごと取り上げた。

「おっ、何しようとか?」

「演奏中はものを食べないでください」


伝助は不満そうな顔をしたが、蓮子の言うことに従って、冬子からも煎餅を取り上げた。

しばらくすると今度は、湯呑を手に取って音を立てながら茶を飲み始めてしまった。

* * * * * * * * * *

演奏が終わり、蓮子は演奏家たちに平に謝罪していた。

「本当に申し訳ございませんでした。

… この家の者たちは、教養も礼儀もわきまえていなくて、本当にお恥ずかしい限りです」


その様子を襖の外で聞いていたのは、女中頭のタミだった。

* * * * * * * * * *

「一体何なのですか ~ あの振舞は?

美しい演奏の最中に煎餅は食べるは、大あくびはするわ … おまけにお酒まで持ってこさせて … 失礼にもほどがあります!」


厳しく咎め、なじる蓮子に伝助はうんざりした顔で反論した。

「金を出しちょるとは俺ぞ ~

俺が好きなごと聞いてなんが悪いとね?」

「演奏会には、演奏会のマナーというものがあります」

「そげなこつ俺は知らん!」


聞く耳を持たない伝助は盃の酒を一気に呷った。

「では覚えていただきます … 学んでいただきます!」

「もうよかっ!」


声を荒げて立ち上がった伝助、待ち構えていたようにタミが顔を出した。

「旦那様、お出かけですか?」

伝助の肩に羽織をかけながら、聞こえよがしに先ほどのことを言いつけた。

「お客しゃんに旦那様んこつを恥かしいとか言う方が、妻としてよっぽど、どげんかしちょるち思いますばいうちは」

腹に据えかねた蓮子も負けてはいなかった。

「どげんかしてるのはどなたでしょう?

毎日そうやって蔭口ばっかり叩いていらっしゃるの、私が知らないとでも思っているんですか?!」

「もうよかっ、せからしか … 俺は出て来る!」


伝助は一喝すると、出かけて行ってしまった。

* * * * * * * * * *

『寂しさの ありのすさびに 唯ひとり 狂乱を舞ふ 冷たき部屋に 白蓮』

その夜、蓮子が孤独な気持ちを詠んだ歌だ。

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月27日 (火) | 編集 |
第50回

「グッドアフタヌ~ン、はな!」

「てっ、お父?!」

「てっ、この変なおじやん … はな先生のお父け?」


廊下から授業を覗いていたみすぼらしい姿の男が実ははなの父親だと知って、生徒たちにどよめきが起こった。

「よっ、皆、グッドアフタヌ~ン ~

はな先生はいい先生ずら?」


子供たちがうなずくのを見て、吉平は当然だと言わんばかりに胸を張って自慢をはじめた。

「当たり前だ ~ はなは小っちゃい時から神童でな。

ほりゃあ勉強はよくできたぞ」

「お父、もう止めてくりょう!」


赤面して止めるはな、どっと笑い出した子供たち。

< 行方知れずだった吉平がひょっこり帰って来ました >

* * * * * * * * * *

放課後、子供たちを帰した後の教室で、はなは改めて父から話を聞いた。

「久しぶりにはなに会いに東京の秀和女学校へ行ったら、こっちへ戻って先生やってるって聞いて驚いただ ~

てっきりはなは東京で英語生かした仕事をしてると思ってただからな」

「お父、おら卒業したら甲府へ帰って来てえって、ずっと思ってただよ」


すると吉平は表情を曇らせた。

「何でだ?

こんな英語を使うこんな、まるっきしねえ田舎に帰って来たかったなんて … 何でだ?」

「お、おらのことなんかより … お父こそ、一体今まで何処で何してたで?

4年も帰って来なんで、お母も皆も心配してただよ」


すると、吉平は辛そうな顔をして立ち上がった。

「まあ、いろいろあっただ … 」

何をしていたか、多くを語ろうとしない。

「お母は、お父のこん怒ってるけ?」

「怒ってはないけど …

もう帰っては来なんもんだと思ってる」


はなが正直に話すと、突然吉平が泣きついてきた。

「はな、助けてくりょう ~

お父が帰っても、追い返されねえよう … なんとかしてくれちゃ!」


はなの手を握って「頼む頼む」と何度も繰り返した。

「お父 … 」

そこで、はなは自分が先に家に戻り、それとなく吉平のことを伝え … 本人は頃合を見計らって帰って来るという作戦を考えた。

* * * * * * * * * *

はなが家の中を覗くと、夕食の支度をしているふじの姿しかなかった。

あらかじめ母に話を通すことができる絶好の状況なのだが、はなは中々切り出すことができない。

着替えもせずに落ち着かないはなを見て、ふじは不審に思った。

「はな、どうしたで?

… 何だかそわそわして」

「あの … あのね、お父のことだけんど … 」

「えっ、お父が?」


ふじは料理する手を休めてはなの話に耳を傾けた。

「実は … 」

しかし、口を開きかけた時、吉太郎とももが戻ってきて、話の腰を折られてしまった。

* * * * * * * * * *

「 … ほいで、お父がどうしたで?」

ふじが改めて聞き直すと、吉太郎の顔色が変わった。

「お父だと?」

「ううん、元気にしてるかな~って … 」


はなは咄嗟に誤魔化してしまった。

「あんな奴どうなってっても今更関係ねえじゃんけ」

吉太郎は、嫌悪感いっぱいの顔で言い捨てた時、ちょうど周造が野良仕事から戻って来た。

「吉、あんな男でも、おまんの親父だ。

あんな奴なんて言うもんじゃねえ … 」

「 … ほうだよ」


吉太郎の気持ちを理解しながらも、周造とふじが嗜めた。

* * * * * * * * * *

「いやいや ~ 朝市まで先生になってるとはな」

その頃、吉平は教務室で呑気に茶を飲みながら、時間をつぶして待っていた。

「で、本多先生が校長になっとるとは思わなんだ ~

どうです、はなの先生ぶりは ~ 立派に教えてるでしょ?」


口ごもる本多校長の代わりに横から口を出したのは緑川だった。

「問題起こしてばっかしじゃん」

「そんなはずはねえ!

はなは東京の素晴らし女学校で人一倍頑張って … 」


気色ばむ吉平に構わず緑川は続けた。

「こういう父親だから、ああいう娘になったでごいすね、校長」

「ああいう娘?!」


つかみかかろうとする吉平を朝市が慌てて止めた。

* * * * * * * * * *

「校長先生、はなのこんどうぞよろしくお願えします」

「今まで何をしてたか知らんけんど、ちょうどいい時に帰って来た。

早く縁談話を受けろって、親父のおまんがそう言ってくれたら … はなもいうこと聞くら」

「縁談 … どういうことでえ?」

「はな、こないだ、地主の跡取り息子と見合いしたです」


朝市の話を聞いて、吉平は仰天した。

「てっ、徳丸んとこの倅と?!」

「ああ、違う違う ~ 徳丸さんの口利きで、望月さんとこの跡取り息子と見合いをしただよ」

「望月さんの?!

ほれではなは断っただけ?」


迷っているみたいだと朝市が言った。

「ぐずぐず勿体をつけてるけんど、これ以上ねえぐれえいい条件で断る理由もねえら。

さっさと決めろって、おまんからそう言って … 」


本多校長が振り向いた時にはもう吉平の姿は消えていた。

* * * * * * * * * *

ふじが料理をよそいはじめると、はながしまってあった吉平の茶碗を引っ張り出してきた。

「はな、どうしただ?」

「ああ … ひょっとしたら、お父がひょっこり帰って来るかも知れんし … 」

「さっきから、お父お父ってどうしたで?」


ふじだけでなく家族一度が首を傾げてはなを見た。

「いや、何となく … 」

その時だった。

いきまり戸を開けて、その吉平が家の中に飛び込んできたのだ。

「はな、見合いなん断れ!」

「あんた?!」

「お父 … 」


突然現れた吉平の姿を見て一同目を丸くして絶句した。

* * * * * * * * * *

「 … まだ早いじゃん」

はなの言葉で我に返った吉平。

「しまった … 」

帽子で顔を隠したが、後の祭りだった。

「信じられねえ … お父!」

ももは駆け寄って、吉平の帰宅を喜んで迎えた。

「おお、ももか?

大きくなったな ~ はははは」


吉平は、年頃の娘に成長したももを見てうれしそうに笑った。

「ああ、吉太郎 ~ 変わりはねえか?」

その吉平の言葉に、吉太郎の怒りが爆発した。

「変わりはねえかじゃねえ!

よくものこのこ帰って来れたもんだな?!」

「兄やん?!」

「吉太郎止めろし!」

「せっかくお父が帰って来てくれただから」


女たちが慌てて止めたが、吉太郎の怒りが治まるはずはなかった。

「今更何の用があって帰って来ただ?」

「 … 父親に向かって、ほの言い草は何だ?」

「父親だあ?

ずっと帰って来ねえで何が父親だ?!」


* * * * * * * * * *

「吉、落ち着けし!」

宥める周造、ふじは吉太郎と吉平の間に割って入った。

「 … 吉太郎の言う通りじゃん。

今まで何の便りもしなんで、一体何処で何してただ?」


まさか、ふじの口から吉平を非難する言葉が出るとは誰も思っていなかった。

「ほれは … 」

そう言ったきり、吉平は黙り込んでしまった。

ふじに責められたことが余程堪えたのだろう。

「どんだけ皆が心配してたか分かってるか?」

「すまない … いろいろあって … 」

「いろいろって?」

「ほのことは後でこぴっと話すから …

俺のことより、 はな、望月さんとの縁談な … もちろん、断るずらな?」


* * * * * * * * * *

今度は、はなが言葉に詰まった。

「はなを東京の学校で勉強させたのは、広い世界で英語を使って活躍して欲しかったからじゃん。

… 地主に嫁がせるためなんかじゃねえ!

こんな狭っ苦しい田舎で一生を終えてもいいだか?」


今から甚之介のところへ行って、縁談を断ってくるという吉平の胸ぐらを吉太郎がつかんだ。

「何も知らんくせに勝手なことするんじゃねえ!」

「勝手なこと?

おまんは、はなが好きでもねえ地主と結婚すりゃいいと思ってるだけ?」

「ふたりとも止めてくりょう!」


つかみ合うふたりをふじが懸命に引き離した。

「 … はなが見合いしたのは、何でだか知ってるだけ?

家族のためじゃんか!」


はなは止めたが、吉太郎はやめなかった。

「結婚したら、望月さんがこのうちの借金肩代わりして、家族の面倒まで見てくれるちゅうで … 

ほれではなは見合いしただ!」

「 … 借金?」

「かよが … かよがこせえた借金さ。

かよは製糸工場の女工の仕事が辛くって、東京のはなのところへ逃げ込んだだよ」


ふじの話に愕然とする吉平。

「かよが … 我慢強えかよが … 」

* * * * * * * * * *

「あんな明るいかよが、ひっどい痩せて … ひどい顔色してただよ」

「ほれで … かよは今?」

「東京の洋服店で奉公してるさ。

東京ならなんぼでも仕事あるから … 働いて借金返すって」


知らなかったこととはいえ、吉平が受けた衝撃は大きかった。

「はなが甲府に戻って来たんだって、何でだか知ってたけ?

帰って来ねえお父の代わりに金稼いで借金返すためじゃん!

はなだけじゃねえ ~ お父が帰って来ねえ間、皆がどんだけ苦労しただか知ってたけ?」


吉太郎は目にいっぱいの涙を溜めて訴えた。

「お父の代わりに、お母が徳丸さんに何べんも何べんも頭下げてること、お父は知ってたけ?

お母だけじゃねえ ~ お祖父やんは、腰も足も痛えの我慢して、人手が足りねえから休むこともできねえで、毎日毎日畑仕事してきたら。

ももは、ちっくい頃から友達と遊ぶのも我慢して、朝から晩まで畑仕事手伝ってきただ。

ほれでも、田んぼと畑だけじゃ食っちゃいけんから、皆で必死で夜なべもして …

こんなに働いても、ちっとも生活は楽になんねえって、お父は知ってたけ?!」


* * * * * * * * * *

堪え切れずに涙はとめどなく溢れ出していた。

「 … 何ひとつ知らねえくせに、知ろうともしなんだくせに …

お父なんか … こんなお父なんか … おらたち家族に必要ねえ!!」

「兄やん!!


気づけば吉平の頬にもいく筋もの涙の線が流れていた。

「 … 吉、もういい」

周造に制されて、吉太郎は外へと飛び出して行ってしまった。

「兄やん!!」

「 … あいつが怒るのも無理はねえ。

吉はおまんに代わって、家族のことを支えようと、ボコの頃から歯食いしばって頑張って来ただ。

こぴっと考えろ … ここに居るのは、おまんの家族だぞ」


周造はそう吉平に言うと、吉太郎を追って外へと出て行った。

* * * * * * * * * *

吉平もさめざめと泣いている。

見つめる、ふじ、はな、もも。

土間にしゃがみ込んでしまった吉平。

< お父、本当に何も知らなかったんですね … せめて今日から愛する家族のために、お励みあそばせ。

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2014年05月26日 (月) | 編集 |
第49回

< 故郷の小学校で落第教師の烙印を押されてしまったはなが、なんと童話を書いて賞を取りました。

はなは、東京で行われた祝賀会に出席しました >

「久しぶりの東京はどうだったで?」

「うん、行ってきてよかったさ ~ また頑張ろうって気持ちになれただよ」


甲府に戻ったはなが、いつものように朝市と共に登校すると、待ち構えていたように本多校長が手招きした。

「安東先生早く、こっちこっち」

「何でしょう、校長先生?」


校長の周りには緑川をはじめ他の職員も集まっている。

反射的に、何か叱られるのかと身構えてしまうはなだった。

「おまんにぴったりの見合いの話が来てるだ」

「見合い?!」

「甲府にこれ以上いい相手はいねえ ~ 地主のせがれだ」


甲府の地主のせがれ … はなが真っ先に思い浮かべたのは、徳丸武の顔だった。

「それだけはお断りします!」

思いきり嫌な顔をしながら首を横に振ると、緑川が非難した。

「選り好みしてる場合じゃねえじゃんけ ~ ねえ、校長」

「ほれに人の話は最後まで聞け ~ 相手は武じゃねえ」


そう言うと校長は見合い写真を差し出した。

「て … 武じゃねえ」

「くわしい話は徳丸さんとこ行って聞けし、あそこが持ってきてくれた話じゃん」

「ありがたく嫁にもらってもれえし … それでさっさと教師辞めちゃあ、ほれがこの学校の平和のためずら」


憎まれ口を叩いて大笑いする緑川。

< あらっ、なかなか素敵な青年じゃないですか … >

写真に写っていたのは、武など比べ物にならないほど、立派で男前の青年だった。

* * * * * * * * * *

< はなのお見合い相手というのは、徳丸家と肩を並べる大地主の跡取り息子でした >

「跡取りの啓太郎坊ちゃんが、おまんが童話で賞取ったって聞いて興味持ったそうで … 東京の女学校で英語も勉強したっちゅうたら、是非一度会わしてもらいてえとおっしゃっただ」

甚之介の言う通り、ありがたいような話なのだろうが、結婚のことなど考えたこともないはなは困惑していた。

「て ~ 小作のくせに、お父様が持ってきた縁談を断るだけ?」

「とにかく、会うだけあって見ろし ~  

いいかよく聞け、この縁談がまとまったら、望月さんはおまんちの借金全額肩代わりしてくださるとおっしゃってるだ … こんないい縁談ねえら?」


驚くはなに甚之介は、嫁に行ってふじを安心させるよう諭した。

* * * * * * * * * *

「お姉やん、お見合いするだと?  … 聞いただよ」

家に帰ると、家族の皆はすでにはなの縁談のことを知っていた。

「はなちゃん、望月さんとのお見合い、頑張れし!」

情報源は、言わずと知れたリンだ。

「すまねえな、またうちのおしゃべりお母が … 」

毎度のことながら、朝市が申し訳なさそうな顔をした。

「望月さんちゅうたら、徳丸さんよりちっとばっかしでけえ地主ずら」

「てっ、うちの地主様より偉えのけ?」


見合いの相手が徳丸家をしのぐ望月家の人間と知って、吉太郎とももも舞い上がっている。

「ふんだけんど … はなはこっち戻ってきたばっかで学校だって忙しいし、童話だって書かんきゃいけんし … 見合いなんかしてるひまねえら」

「もう、どうして朝市が口をはさむだ?」


はなには見合いなどしてほしくない朝市、リンは我が子の恋心になど少しも気づいていなかった。

「この縁談がまとまったら、周造さんもふじちゃんも楽できるじゃ~ん」

* * * * * * * * * *

「てっ、写真?」

ももははなの手元から見合い写真を取り上げた。

「て ~ 男前でよかったじゃ~ん!」

写真に見入るふじとももそしてリン。

本人そっちのけで盛り上がる一同。

「はな、粗相のないように見合い頑張るだよ」

吉太郎の言葉に、はなは思わずうなずいてしまった。

< 周りの勢いに飲まれ、後には引けないはなでした >

* * * * * * * * * *

あれよあれよという間にことは運び …

< そして、お見合いの日はやって来ました >

見合いの席は徳丸家の座敷で、甚之介ははなとふじにきれいな着物まで用意してくれた。

ふじは何から何まで世話になった甚之介に感謝していた。

「 … ふんだけんど、この着物はお亡くなりになった奥さんのもんずら?

おらたちなんかが着ちまってよかったずらか?」

「わしとふじちゃんの仲で堅苦しいこと言いっこなしだ。

よく似合ってる ~ わしがふじちゃんとお見合いしてえぐらいだ」

「何を言うですか ~ ご冗談を!」


いつもながら甚之介がふじに接する態度は優しく、あながち冗談でもないのだろう。

* * * * * * * * * *

そうこうしているうちに見合い相手の望月啓太郎がやって来た。

さわやかな笑顔で挨拶した啓太郎は写真で見た通りの折り目正しい好青年だった。

「啓太郎君は望月家のブドウ酒造りを任されてて、ブドウ酒造りの勉強のために外国へ行くことも考えておいでだ。

おまんが母親に苦労かけてまで勉強した英語も役に立つら?」

「はあ、外国ですか?」


ふじが不安げな顔を見せたが、甚之介は少しの間のこと … 啓太郎は甲府を離れるつもりはない、一生この土地で暮らすのだと安心させた。

「生まれ育ったこの甲府の町が好きなんです」

「ふんだから、はなが嫁いでも、帰りてえ時ゃあいつでも実家に帰れるだよ」


ただし、啓太郎は、この縁談がまとまった暁には、はなには教師を辞めて家に入ることを希望していた。

「 … ほうだけんど、聞いて驚け。

使用人を雇うから、家事や育児の苦労は一切かけねえ ~ 物書きや好きなこと何でもやっていいとおっしゃってくれてるだ」

「て ~ 本当ですか?」


心を動かされたのは、ふじだった。

「おい、はな、おまんにとってこんないい結婚相手はいねえら?」

そう言った後、甚之介は、ふじを連れて座敷を出て行った。

* * * * * * * * * *

ふたりきりになると、お互いにちらちらと見つめ合うだけで中々言葉が出てこない。

そう言えば、先ほどまでも話をしていたのは、ほとんど甚之介だけだった。

すると、啓太郎はお茶に手を伸ばした。

「 … 緊張するですね」

「あ、はい … 私もさっきから喉がからからで」


お茶を飲むと少しだけ緊張がほどけてきた。

「はなさんの書かれた童話 … 」

「『みみずの女王』ですか?」

「本当、面白かったです」

「てっ、読んでくださったんですか? … ありがとうごいす」


はなが喜んだのもつかの間だった。

「いいご趣味でごいすね」

「えっ?」


< … はなにとっては、趣味じゃないんですけれど >

* * * * * * * * * *

「ほれで、後は何話したで?」

家に帰ると、ももが興味津々で聞いてきた。

「望月さん、お父がもう何年もうちに帰って来ないの知ってただよ」

家族の面倒は全部見ると約束した上に、望月家の近所に新しく家を建ててもいいとまで言ってくれたことを聞いて、ももが嬉々として声を上げた。

「てっ、おらたち新しい家に引越せるだけ?!」

「 … この縁談がまとまったらの話だよ」

「よかったじゃん、おめでとう ~ 」


縁側では、早とちりのリンがふじを祝福していた。

「親孝行な娘持って幸せじゃんね ~ 」

はなは慌てて、まだ決まった訳ではないと言うと、リンは驚いてみせた。

「はなちゃん、迷ってるだけ?」

「迷うことねえら ~ おら賛成だ」


ももまではなのことを煽った。

「そうさよ ~

相手は金持ちで、一生金の心配しなんでいい … ほの上、顔もよくていい人なら、断る理由がねえ!」


確かにリンの言うことに何の間違いもない、啓太郎は見た目も、人物も非の打ちどころがなかった。

「いいことづくめだけんど、一等いいのは … 地元の人ちゅうことだ!」

よそ者と結婚したせいで大変な苦労していると引き合いに出されたが、ふじは笑い飛ばした。

「婿殿は家族ほっぽらかして、もう帰って来ねえんじゃねえかって、皆言ってるだよ」

悪気はないのだろうが、吉平の帰りを信じて待っているふじには酷ないい草だった。

「ほんなこんねえよ ~ 

お父は必ず、帰って来るだよ」


はなはそうは言ったものの、心のどこかであきらめかけている自分もいた。

* * * * * * * * * *

夕食後、はなが縁側で思案していると、吉太郎がやって来て隣に腰かけた。

縁側は安東家の兄妹が物思いにふける場所なのだろう。

「はな、見合いの返事どうするだ?」

「うん … いい話だと思う … いい人そうだったし。

望月さんと結婚すれば、甲府を離れなんでいい。

うちの借金もなくなる。

ほれにもうお金の心配しないで、自由に好きなものを書いて暮らせる。

勿体ねえような話だけんど … 」


はなは吉太郎にどう思うかと尋ねた。

「 … お祖父やんとお母残して兵隊行くのが気がかりだったけんど、はなが結婚しても近くに住んでくれりゃあ、安心して行けるじゃん」

吉太郎は、はなが何を迷っているのか不思議だった。

… はな自身も、何故自分が迷っているのか実際はよく分からないのだ。

「いい男じゃん?

おらが女だったら、すぐに結婚承知するぞ」


はなは吹き出した。

余りにも吉太郎が真面目腐った顔で言ったからだ。

「 … はな、旦那さんに愛想つかされねえように尽くすだぞ」

「気が早いら ~ 」


ももといい、吉太郎といい … もう嫁に行くことが決まったような口ぶりだ。

「おらは、はなの父親代わりだからな」

「兄やん … 」


* * * * * * * * * *

< はなの見合いから数日後のことでございました >

それは修身の授業時間、教科書を女子生徒に朗読させていた時のことだった。

まずは、キヨシが廊下から教室の中を覗いている見知らぬ男に気づいた。

「あれ誰ずら?」

隣りの席のミヨに尋ねたが、知る由もない。

「はな先生を見てるじゃんけ … 」

周りの子供たちの目が一斉に廊下を見た。

「怪しいじゃん」

浮浪者の様ないでたち、はなのことを一心に見つめている。

「 … 皆、どうしたの?」

俄かにざわつきはじめた教室、はなが不審に思って生徒たちを注意した。

「ちゃんと教科書を読んで!」

「ふんだって … 廊下に変なおじやんいるだよ」

「変なおじやん?」


キヨシの言葉に、はなは廊下に目をやった。

* * * * * * * * * *

突然、後ろの扉が開いて、その男が教室内に顔を覗かせた。

「グッドアフタヌ~ン、はな!」

片手を上げて、よく知っている素振り。

着ているものはボロボロ、髪はボサボサで髭面だが … 行方不明の父、吉平だった。

「てっ、お父?!」

< 行方知れずだった吉平が、何と4年ぶりに帰って来ました。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月25日 (日) | 編集 |
それでは、次週の「花子とアン」は?

見合い?

短編童話が入賞し、地元で有名になってしまったはな(吉高由里子)に、地主・徳丸(カンニング竹山)から見合い話が持ち込まれる。

結婚など考えたこともなく気乗りしないはなだが、さっそくリン(松本明子)によって安東家の家族たちも知るところとなり、あとに引けなくなってしまう。ただ朝市(窪田正孝)だけは、内心気が気でない。

こんないい縁談ねえら?

お見合いの日、はながふじ(室井滋)とともに赴くと、相手の実業家・望月啓太郎(川岡大次郎)は爽やかな好青年だった。同席した徳丸から、望月は縁談がまとまったら安東家の借金を肩代わりしてもいいと思っていると聞かされ、驚くはな。

学校やめちまうだけ?

その代わり、結婚したら仕事をやめて、家庭に入って欲しいという。話を聞いたリンは、いい話だからすぐ引き受けろと促すが、はなは、なかなか返事をできずにいた。

見合いなん断れ!

こんなお父なんか、おらたち家族に必要ねえ!

そんな折り、行方知れずだった吉平(伊原剛志)が、突然安東家に帰って来る。だが、長らく何の音沙汰もなかった父に吉太郎(賀来賢人)が食ってかかり、大ゲンカとなってしまう。

こげな高い芸者が居るか?!

一方、福岡の蓮子(仲間由紀恵)は、武骨な伝助(吉田鋼太郎)はじめ嘉納家の人々の意識改革をしようと、邸内に音楽家を招いての演奏会を開こうとしていた…

こんなにいい縁談断ったら、罰が当たります

花子とアン 公式サイト、YAHOO!テレビガイド他を参照)

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2014年05月24日 (土) | 編集 |
第48回

< はなは久しぶりに東京へ来ていました >

遠くの親戚に貰われていった教え子のたえのために書いた童話『みみずの女王』が雑誌『児童の友』の懸賞に入選し、その受賞者懇親会に招待されたのだ。

「皆さん、今年の児童の友賞に選ばれたのは、宇田川満代さんと安東はなさんのおふたりです」

編集者に紹介され、はなともうひとりの受賞者、宇田川満代が拍手を浴びた。
 
「宇田川さんは、どんなものがお好きですか?」

梶原の問いに、満代は物おじせずにはきはきと答えた。

「花袋の『蒲団』は面白かったですね。

もちろん、あなたも読んだでしょう?」

「え~と、それは … 固いお蒲団の話ですか?」


満代は見当はずれな返事をしたはなを意外という顔で見た。

「この人、田山花袋知らないんですって ~ 自然主義派の露骨なる表現よ」

そう説明されても、はなにはちんぷんかんぷんだった。

本が好きで、女学校の図書館で手当たり次第に読みあさっていたはなだったが … 秀和女学校にあったのは横文字で書かれた西洋の本だけで、日本文学にはまったく疎かった。

すでにいっぱしの作家きどりで、編集者や招待客たちと会話を交わしている満代に比べて、はなは話題についていくことができなかった。

< 久しぶりに味わう都会の空気に、すでに気おくれしているはなでした >

* * * * * * * * * *

自然と話の輪から外れて、ひとりになっているはなのことを、離れた場所から英治が気にしていた。

「村岡君、飲む?」

梶原にブドウ酒を勧められた英治は、グラスを2つ所望した。

「仲直りの乾杯してこい」

「はい」


英治は梶原から尻を叩かれて、グラスを手にはなに近づいていく。

「安東花子さん、乾杯しましょう」

手持無沙汰でぼんやりしていたところに声をかけられてハッとしたはな。

その上、英治が差し出したグラスに注がれているのがブドウ酒だと分かって困惑顔を見せた。

「 … せっかくですが、結構です」

「ああ、お酒は飲まれないんですか?」

「少しはいただきますが、ブドウ酒にはいい思い出がないんです。

あの、どなたか他の方と乾杯なさってください」

「それじゃ、乾杯にならないですよ ~ やっぱりまだ怒ってるんですね、名前のこと … 」

「そんな … 」


* * * * * * * * * *

またも気まずい雰囲気になりかけた時、思わぬ助け舟が現れた。

「ごきげんよう、はなさん」

「て ~ 醍醐さん?!

すっかり見違えて女優さんかと思ったわ」


洋装で見るからに職業婦人といった雰囲気に洗練された醍醐亜矢子だった。

亜矢子は英治に言った。

「村岡さん、はなさんはブドウ酒のせいで女学校を退学になりかけたことがあるんですよ」

「えっ?!」


< そうなのです ~ あのトラウマは消えません。

よりによって、ブドウ酒を持ってくるとは … つくづく間の悪い人ですね >

「はなさんの代わりに私がいただいてもよろしくって?」

英治からグラスを受け取った亜矢子ははなに向かって祝福の言葉を贈った。

「はな先生、受賞おめでとうございます」

「はな先生なんてやめて ~ 私は甲府のしがない代用教員よ。

醍醐さんこそ、素敵な職業婦人になられて」


久しぶりの再会を喜び、話が弾むふたり。

英治はすっかり存在を忘れられたようで、微笑むとその場から離れていった。

* * * * * * * * * *

「こっちこっち!」

亜矢子が手招きした入口の方を見たはなは目を丸くした。

桃色の着物を着たかよが花束を抱えて立っているではないか。

「てっ、かよ、どうしてここに?」

「醍醐さんが知らしてくれたの ~ お姉やん、おめでとう、よかったじゃんけ」

かよもすっかりと見違えてあか抜けていた。

「この着物、洋服店の女将さんが貸してくれたの。

おめでたい席だからきれいにして行きなさいって … 」


はながいい所に奉公させてもらったと喜ぶと、忙しいが製糸工場の女工に比べたら天国だと明るく笑った。

「お父はまだ帰って来ねえだけ?」

「うん … 」

「お姉やんの晴れ姿見たら、お父どんだけ喜んだか …

『ほれ見ろ、お父の言った通り、はなは天才じゃ』って大喜びしたずらね」

吉平の反応を想像するとおかしかった。

それと同時に伝えられないことが寂しかった。

* * * * * * * * * *

「小学校の先生辞めて、小説家になるのけ?」

「てっ … そんな大それたこと思ってねえよ!」


はなは慌てて否定した。

「なんで、せっかく賞に選ばれたずら?」

「そうよ ~ はなさん、もっと欲を出した方がいいわ」


亜矢子までもがけしかけてくる。

「 … 千載一遇のチャンスじゃない、もう一度東京に来て、小説家を目指したら?」

はなにしてみたら、考えてもみなかったことだが、決して悪い気はしなかった。

「私が小説家 … 」

はなが想像のツバサを広げようとしたその時だった。

「本気で小説家を目指すのか?」

梶原に話しかけられて羽ばたき損ねて現に戻された。

「梶原さん … あの、私なれるでしょうか?」

「あの童話はおもしろかったが、君が小説家になるのは難しいと思う」


賞をもらったばかりのはなを、余りにも見事に斬り捨てた。

「編集長、どうしてですか?!」

亜矢子が不満げに問い質した。

「僕は強烈な個性の小説家たちをたくさん見て来た。

安東君はそこらの人に比べると、個性的で常識外れのところもある。

だが、小説家になるには普通すぎる」

「 … あきらめた方がいいってことですか?」

「そうだ」


ほんの僅かな躊躇もなく梶原は答えた。

「はっきりおっしゃっていただいて … ありがとうございます」

頭を下げながら、はなの笑顔は引きつっていた。

< はっきりそこまで言われると、やはりショックなはなでした >

* * * * * * * * * *

しばらくすると、はなと満代は受賞の挨拶をするために壇上に呼ばれた。

「審査員の先生方、私を選んだことを後悔させないような売れっ子の小説家にすぐになってみせます。

ですから、早く仕事をください」


自信満々、堂々と『職業小説家』宣言した満代の挨拶が終わり、はなの番が来た。

「『みみずの女王』は、私が尋常小学校で受け持っていたたえさんという生徒と一緒に作った物語です。

その子はもう遠くに引っ越してしまったので、お話の続きを読んでもらいたいと思い応募しました。

そしたら、運よくこの賞を頂けました … ですから、半分はたえさんがもらった賞です」


はなはここでひと息入れた。

「この受賞は、一回きりのいい思い出として、甲府に帰って真面目に教師を続けたいと思います」

拍手する一同。

ただひとり、拍手することを忘れ、英治は壇上のはなのことをじっと見つめていた。

* * * * * * * * * *

懇親会も終わり、はなは会場の隅のイスに腰掛けて、『児童の友』に載った自分の作品を読み返していた。

「本当にこれ一回きりでいいの?」

亜矢子の問いかけに言葉もなく微笑みうなずいたはな。

小説家という淡い夢は一瞬で消えていた … 梶原の指摘は重かったのだ。

「 … 最初で最後だから、『花子』という名前で載りたかったな」

はなのつぶやきを耳にした亜矢子が思いもよらぬことを口にした。

「それ入稿する時に私が本名に直したの」

「えっ?!」

「やっぱり『安東はな』の方がはなさんらしいし、秀和女学校の先生方や同級生も気がついてくれると思って … 」


亜矢子は、はなの顔が俄かに険しくなったことに気づいた。

「醍醐さん、気が利きすぎです!」

声を荒げたはなに訳も分からず謝る亜矢子。

「私、あの人にひどいこと言っちまった!」

立ち上がって、英治の姿を捜したが、もう会場にはほとんど人がいない。

後始末をしている梶原に英治のことを尋ねた。

「さっき帰ったよ」

はなは外へと飛び出した。

* * * * * * * * * *

結局、英治は見つからず、あきらめたはなが会場に戻るともう誰も残ってはいなかった。

「 … どうしよう?」

途方に暮れていると、どういう訳か会場に英治が慌てて走り込んできた。

帽子を忘れて取りに戻って来たのだ。

「あれ … まだいらっしゃったんですか?」

「てっ、村岡さん?!」


呆気にとられたような顔をしていたはなだったが、突然頭を下げた。

「ごめんなさい!

私の早とちりで … 誤植じゃなかったんですこれ!

友だちの醍醐さんが『はな』に替えてたんです」

「ああ、そうでしたか … 」

「本当にごめんなさい!」


英治は腹を立てる様子もなく、却ってすっきりとしたような顔をしている。

「あの、ひとつ聞いてもいいですか?

『花子』という名前にどうしてそこまで拘ってたんですか?」


* * * * * * * * * *

「私、子供の頃から『花子』と呼ばれたかったんです。

『はなじゃねえ、おらのことは花子と呼んでくりょう』って、ふた言めにはそう言い返す子供でした」


目に浮かぶようだと、英治は笑った。

「女学校の頃、『腹心の友』ができて … 」

「腹心の友?」

「 … その人と約束したんです。

自分の作品を発表する時は、『花子』っていうペンネームを使うって …

だから、この受賞を知った時から舞い上がってしまって … 自分が本当に夢の中の『花子』のなれたような気がして。

そう … 『花子』は私の夢なんです。

でも、もう現実の『はな』に戻らないと」


想像のツバサも卒業しないと … はなはそう心でつぶやいていた。

* * * * * * * * * *

「あなたは『花子』になるべきです」

はなは思わず英治の顔をみつめた。

「 … 『花子』という名前で、これからも書き続けてください」

「いいえ、小説家はもうあきらめました。

梶原さんからも小説家になるには、普通すぎるって言われました」

すると英治は、ふうっと息を吐いた。

「あなたは断じて普通じゃない」

「はっ?」

「十分変な人です」


喜ぶべきなのか … いや、はなは英治に抗議した。

「ちょっと待ってください!

あなたのような変人に言われたくありません!」

「あなたに比べたら、僕は極めて凡人ですよ」

「どうせまた私のこと、珍獣扱いしたいんでしょ?」

「そんな失礼なこと言いませんよ」


はなは英治の言うことが信用できずに首を傾げた。

* * * * * * * * * *

「どうか、その変な自分を大切にしてください」

はなは、何故だか今度は腹が立たなかった。

「 … 英語の翻訳も続けてください」

「それは無理です。

甲府に帰ってから、英語に触れる機会もないし … 小学校では英語禁止令も出されてしまって … うちのことも色々あるし …

英語どころじゃないんです!」


英治は優しく微笑みながら言った。

「何処に居ても、あなたなら大丈夫です」

この人は私の何を知っているの? … そう思いながらも妙に納得している自分に気がついたはなだった。

「 … ナマケモノが泳ぐ時のあの集中力を発揮すれば」

「ほらっ、また珍獣扱いして!」


顔を見合わせたふたりは吹き出していた。

* * * * * * * * * *

「じゃあ、お元気で」

英治の言葉にはなはうなずいた。

「あ、村岡さん … 」

会場を出て行こうとした英治を思い出したように呼び止めた。

「 … ありがとうございました」

「いや、お礼を言われるようなことは何も … 」


英治は今更ながら照れてみせた。

「ごきげんよう、さようなら」

はなはもう一度、丁寧に頭を下げた。

「 … ごきげんよう、さようなら」

立ち去る英治の背中を清々しい気持ちで見送った。

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月23日 (金) | 編集 |
第47回

< 夏休みが近づいた7月のある日のこと >

はなが朝市と共に学校から戻ると郵便物が届いてた。

差出人は東京の出版社、何かと思って開封してみると、中に雑誌『児童の友』の最新号が同封されていた。

「てっ?!」

頁をめくっていたはなが大声を上げて飛び上がった。

< なんと、はなが児童雑誌に応募した『みみずの女王』が賞を取ったのです >

はなは懸賞に出すように助言をくれた朝市にも開いたページを見せた。

『みみずの女王』は見事、児童の友賞を受賞して雑誌に掲載されていた。

< … もしや、いつもの妄想でしょうか? >

はなは自分の頬をつねってみた。

痛い … 妄想や夢なんかじゃなかった。

< おめでとう ~ >

* * * * * * * * * *

「今、うわさで聞いただけんど … はなちゃんが小説家の先生になっただとう?」

ちょうど野良仕事から戻って来た家族を追い越して、リンが大騒ぎで飛び込んできた。

「ほんな、小説家だなんて … 」

「はな、本の懸賞に応募して入賞しただ!」


皆、道具を慌てて下すとはなの周りに集まってきた。

「本当だ!

安東はなだって … 大変じゃんけ!」


雑誌を受け取って、はなの名前を確認したもものが興奮気味に言った。

「 … みみずの女王?」

「ほりゃ、どんな話で?」


< はなの書いた童話『みみずの女王』は、フト子さんという威張りん坊のみみずがお腹を空かせた小鳥たちに食べられてしまうというユニークな物語です >

はなに代わって、朝市が受賞作を読んで聞かせると、皆は大笑いしはじめた。

「へんてこな話だけんど、面白えなあ ~

こんな話を思いつくはなの頭ん中どうなってるだ?」


しきりに感心している周造。

誰もが愉快に笑っているが、何故だか当のはなは浮かない顔をしている。

「 … はな、どうしただ?」

「おかしいじゃん … おら、『安東花子』って書いて出したのに … 」


掲載されている作者名は『安東はな』と印刷されていた。

「どうして、『花子』が『はな』になっちまったんだろう?」

口をとがらせて眉をひそめるはな。

他愛のないことのようだが … 世に自分の作品を出す時には『花子』という名を使うと決めていた、はなにとっては重要なことだった。

「誤植じゃねえだけ?」

朝市に言われて、はなは雑誌の最後に載っている印刷所を確認した。

「てっ … 村岡印刷?!」

* * * * * * * * * *

ふじは、かよが作った … 製糸工場の手付金を立て替えてもらった借金を少しずつだが毎月、徳丸甚之介に返済していた。

「娘がやっとこさ教師になれたに、給料を借金の返済に回さんきゃならんとは … ふじちゃんも切ねえな」

ふじは毎月きちんと返すことができるだけでも助かっていると思っていた。

「吉太郎は今日、徴兵検査ずら?」

「はい、朝張り切って出かけて行きましたけんど」

「めでたく甲種合格して、入営となったらどうするだ?

… 亭主は帰っちゃ来んし、男手は祖父やんひとりだけになっちもうじゃん」


甚之介が何かと幼なじみの自分や家族のことを気にかけてくれるのはありがたかった。

しかし、無意識に目を背けていた事実をつきつけられて  … 却って気が重くなるふじだった。

* * * * * * * * * *

「遅いじゃん、吉太郎 … 」

寝た子を起こされたふじは吉太郎の帰りを待って気が気ではなかった。

家から出たり入ったり、外をうろついたりして落ち着きのない母のことを、はなとももが心配そうに見ていると …

「帰ったよ!」

はつらつとした声と共に頭を丸刈りにした吉太郎が戻って来た。

「吉太郎!」

女性3人に出迎えられた吉太郎は晴れやかな顔で言った。

「お母 … おら、甲種合格になった!」

「てっ … 」

「兄やん」

「冬になったら、入営だ」


めでたい報告のつもりだったのに、吉太郎は呆然としているふじに気づいた。

「 … お母、喜んでくれんだけ?」

ハッとしたふじは、慌てて笑顔を繕った。

「よかったじゃん … 吉太郎、おめでとう」

目を潤ませている母を見て、吉太郎は満足そうにうなずいた。

「兄やん、おめでとう」

はなの言葉に微笑んだ吉太郎。

納屋からは周造は複雑な顔で見ていた。

* * * * * * * * * *

その夜。

月明かりの縁側で吉太郎が読んでいるのは、蓮子が置いていった雑誌『明星』だった。

「君死にたまふことなかれ … 」

蓮子が口にした与謝野晶子の歌のその一節を吉太郎は胸の中で何度もつぶやきを繰り返していた。

すると、家の中からももが出てきて、吉太郎の横に腰かけた。

「 … 兄やんが居なくなったら、寂しいな ~ 」

「おらが軍隊に行くの家族のためじゃんけ … 皆にちっとでも楽さしてやりてえだ。

はなが帰ってきたし、兄やんもこれで安心して行ける」


ももは吉太郎の顔を覗き込んだ。

「兄やん、好きな人いねえのけ?」

「 … いたけんど、もう遠くに行っちまった」

「寂しいね … 」


吉太郎はふっと頬を緩めた。

「ボコのくせにませたこと言うな」

ふたりは微笑みあうと、月を見上げた。

* * * * * * * * * *

東京から取り寄せた文芸関連の雑誌を読みあさることは、いまだ嘉納家の人たちと馴染めない蓮子の数少ない楽しみだった。

その夜、偶然手にした雑誌『児童の友』のページに懐かしい友の名を見つけた。

夢中になって読んでいると、伝助が帰ってきた。

「冬子は?」

伝助が出迎えた女中に尋ねると、タミと風呂に入っていると答えた。

冬子は蓮子よりはるかに女中頭のタミに懐いている。

蓮子は、伝助が居間に足を踏み入れても気づかないほど雑誌に入り込んでいる。

伝助はしばし妻の顔を見つめた。

普段見せたことがない穏やかな微笑みを湛えて熱心に文字を目で追っている。

ソファに腰を下ろすとようやく夫の存在に気がついた。

「あっ、今夜はお早いこと … 」

本を閉じて、少し気まずそうに目を伏せた。

「あんたは本ば読んどる時が一番ご機嫌がいいちゃね」

しみじみと言った伝助の顔はどことなく優しく見えた。

「うれしいことがあったんですの。

女学校の友だちが童話で賞を取ったんです ~ それが大層面白いお話で」


今夜は何だか素直に受け答えができた。

蓮子は雑誌を開いて伝助に差し出した。

受け取ったまではよかったが、伝助の顔がふいに曇った。

「俺は、本は好かん … 」

素っ気なく言うと、まともに見もせずに雑誌を返した。

< 伝助は本が嫌いなのではなく字が読めないということに、蓮子はとっくに気がついていました。

無学であることをバネに裸一貫のし上がってきた男なのです >

うっかりして夫に恥をかかせてしまった蓮子 … ほんの少し近づきかけた夫婦の間がまた余計に広がってしまった。

* * * * * * * * * *

自室に戻った蓮子は、矢も楯もたまらずに、はなへの祝福の手紙をしたためはじめた。

『はなちゃん、ご無沙汰しております。

みみずの女王、たいへん面白く拝読しました。

本で知ったのですが、甲府に帰られたのですね。

お母様や、ご家族の皆さんはお元気でお過ごしですか。

ああ、はなちゃん、何もかもが懐かしくてたまりません … 』

そこまで書いて、はたと筆を止めた。

別れる時に自分がはなに投げつけた言葉を思い出したのだ。

「いい加減にしてくださらない?!

子供じみた友情ごっこはあきあきしました … 」

最後に見たはなの顔は涙をいっぱい溜めた悲しそうな顔だった。

「私から二度と連絡なんかできるはずないのに … 」

心ならずとはいえ、あんなひどい仕打ちをしながら、どの面下げて手紙など書けようか …

筆を置き、書きかけの手紙をくしゃくしゃに丸めてしまった。

* * * * * * * * * *

< その頃、はなは久しぶりに東京に来ていました >

児童の友賞、受賞者懇親会に招待されたのだ。

「ごきげんよう ~ この度はお招きありがとうございます」

編集者に挨拶をしていると、村岡英治とばったり出くわした。

「村岡印刷さん?!」

「安東はなさん、この度はおめでとうございます」

「はなじゃありません … やっぱり、あなたが間違えたんですね?」


はなは誤植は英治の仕業だと思っていたのだ。

「私の名前、間違えて載ってたんです」

「まさか?!」


はなは雑誌を開いて英治に見せた。

「ほら、ちゃんと安東はなさんになってるじゃないですか?」

「『安東花子』、『はな』じゃなくて『花子』 … 私は『安東花子』と書いて送ったんです!」


はなの抗議を聞いて、英治はあ然としている。

「お名前間違えるとは、大変失礼いたしました。

入稿した時は、たしか『安東花子』さんになってたのに」


傍らでふたりの会話を聞いていた編集者がはなに謝罪した。

「えっ?!」

「やっぱり … 」

「お宅の印刷所が間違えたんだろ?!」


英治には全く身に覚えがなかった。

「とにかく、ちゃんと謝っといてくれよ」

「え ~~~ ?」


* * * * * * * * * *

はなは、ふくれっ面で無言の抗議を続けていた。

「あなたを怒らせたのなら、謝ります。

でも、何故『花子』が『はな』になってしまったのか … 謎ですね?」


編集者の指示で取りあえず謝ってはみたが、英治自身は納得している訳ではない。

はなはそんな口先だけの謝罪を見抜いていた。

「えっ、それで謝ってるおつもりですか?」

「すいません … 」


どうもつかみどころがない男だ … 首を傾げたはな。

「それよりお会いしたら、真っ先に言いたいことがあったんです。

『みみずの女王』、最高に面白かったです」

「話をすり替えないでください」

「いえ … 本当にそう思ったんです。

みみずのフト子さんとセキレイの親子の対比が実にいい ~ あなたの想像力には脱帽しました」


しかし、今日のはなはやけに突っかかった。

「その言葉が本当なら、作者の名前間違えたりするかしら?」

「 … またそこに戻りますか?」

「当たり前でしょ ~ だって、村岡印刷さん?!」

「あの … その呼び方は止めていただきますか?

僕は村岡英治です」

「ほら、ご自分だって名前にこだわってるくせに …

私は、はじめて本に名前が載ったんです。

一生の記念なのに名前を間違えられるなんて … このくやしさがお分かりですか、村岡印刷さん」

「あ、また言った ~ 今のはワザとですよね?」

「あら、ごめんあそばせ ~ 村岡印刷さん」


* * * * * * * * * *

「安東はなさんも結構嫌味な性格ですね?」

「嫌味とは何よ!」


終わる気配を見せないふたりの言い争いをとりなしたのは、梶原だった。

「口喧嘩で女性に勝てる男はいないよ」

梶原に言われて、英治は仕方なく矛先を収めた。

「梶原様、ごきげんよう ~ ご無沙汰しております」

「安東君、おめでとう ~ 作品読ませてもらったよ。

なかなか面白いじゃない」

「ありがとうございます!」


ころっと態度を変えたはなに英治は不満顔だ。

「みみずのフト子さんとセキレイの親子の対比が実にいい」

何処かの誰かの批評と全く同じことを口にした。

「梶原さんにそう言っていただけるなんて感激です」

「 … 僕もそう言ったのに」


憤然となる英治。

お互いにまたソッポを向いてしまった。

< 何故、『花子』が『はな』になったのか … 真相はいかに??

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月22日 (木) | 編集 |
第46回

思いつめたはなはひとつの答えを出した。

そして放課後、再び学校を訪れて、本多校長に『退職願』を提出した。

解雇を言い渡される前に、潔く自ら辞める覚悟を決めたのだった。

「短い間でしたが、ご迷惑をおかけしてしまって … 本当に申し訳ありませんでした」

深く頭を下げた後、意気消沈した顔で教室から出て行こうとするはなを、校長は呼び止めた。

「ちょっと待てし!」

「 … な、何ですか、校長先生?」

「たったのひと月で退職願を出す教師がどこにいるだ?!」


校長ははなの退職届を机の上に置いた。

「だって、私が教師には向いてないっておっしゃったの校長先生じゃないですか?」

「だってもクソもねえ!

まあ、ほうはすぐ代わりの教員は見つからんから … 明日から心入れ替えて、こぴっとやれし!」


校長は一喝すると、退職届を懐へとしまい込んだ。

「これは預かっとく … でも、もし今度問題を起こしたら、本当に辞めてもろうぞ!」

あきらめていた教師を続けることができる ~ はなは無我夢中でまた頭を下げた。

「はい … ありがとうごいす!」

「おまんの生徒たちに感謝しろし …

『はな先生、辞めさせんでくりょう』って、皆で頭下げて来ただよ」

「てっ … 」


信じられないといった顔のはな、傍らにいた朝市が近づいてきた。

「 … 本当だよ」

「あの子たちが … 本当け?」

「本当だよ」

「本当け?」


何度も何度も念を押すはな … こみ上げてくる喜びを隠せなかった。

* * * * * * * * * *

あくる朝。

「大丈夫、今日は新しい日だ … 今日はまだ何ひとつ失敗していない新しい日だと思うと、少しだけ救われる」

心機一転、はなは自分にそう言い聞かせながら仕度を整えた。

「はなのことだから、またすぐ何かやらかすに決まってるら」

「ほうだね」


吉太郎とももが水を差すようなことを口にして、ふじに咎められた。

「ふんだけんど、失敗にもひとつだけいいことがある」

「お祖父やん、失敗のいいことって何?」


はなは周造の言葉に耳を傾けた。

「 … 同じ間違えを繰り返さないことだ。

ひとりの人間がする間違えには限りがある … ふんだから、失敗しつくしてしまえば、ほれでお終えだ」

「なるほど ~ !!」


さすが年長者の周造はいいことを言う … はなは何だか前向きな気持になって家を出た。

「 … おら、そろそろ失敗しつくしたかもしんねえ」

しかし、同じ失敗を繰り返すのも人間なのだが …

* * * * * * * * * *

それから瞬く間にひと月が経った。

< ようやく、はなも先生らしくなってきたある日 … 1通の手紙が届きました>

「村の人が届けてくれただ」

寅次から渡されたのは、封筒にも入っていないむき出しで折りたたまれた紙切れだった。

< それは、ひと月前に遠い親戚の家に行った、たえからの手紙でした。

切手を買うお金などないたえの手紙は、人の手から手へと渡り … 何日もかかって、はなのところにたどり着いたのでした >

『はな先生、ごきげんよう、お元気ずらか。

おらは双子の子守をしながら、ひもじい思いをすることもなくなりました。

でも、あんまし元気じゃありません。

ここは知らねえ人ばっかで、おらはひとりぼっちです。

お父や弟に会いてえです。学校にも行きてえです。皆に会いてえです。

はな先生に会いてえなあ』


日がな一日、子守と家の手伝いに追われているたえの姿が目に浮かんだ。

『 … 寂しくて、泣きたくなる時もあります。

ほんな時は、想像のツバサを広げて、あの本の部屋へ飛んで行くだよ。

先生が作ったお話の続きをいつか教えてくりょう。

楽しみにしています』


* * * * * * * * * *

たえの手紙を読み終えたはなは、その日の放課後、教会の図書室に立ち寄った。

机の上に原稿用紙を広げて書きはじめたのは、あの夜、たえに話して聞かせた物語だった。

題して『みみずの女王』。

夕日が差し込む頃、朝市がやって来た。

声をかけたが、熱心に執筆しているはなは気がつかない。

朝市は邪魔しないように黙ってそのまま待つことにした。

* * * * * * * * * *

「できた ~

てっ、朝市?!」


しばらくして、原稿を書き上げたはなは、知らぬ間に現れた朝市を見つけて驚いていた。

「はな、何書いてるで?」

朝市はにこやかな顔をして覗き込んできた。

「ああ ~ これは、小山たえさんのために書いただよ。

たえさん、遠い親戚の家で寂しい思いをしてるみてえだから … ちっとでも元気になってもらおうと思って」


しかし、たえの手紙には住所が書かれていなかったので、どこに送ればいいのかが分からなかった。

その時、朝市に妙案が浮かんだ。

「雑誌に投稿したらどうずら?

雑誌に載れば、たえさんもどっかで読んでくれるかもしれんら ~ ほらっ」


朝市は、本棚から児童文学の雑誌「児童の友」を取り、童話の懸賞応募規定の頁を開いて、はなに渡した。

< なるほど、その手があったか!

Good idea! 朝市 >

* * * * * * * * * *

久しぶりに福岡の嘉納家に目を向けよう …

伝助は所要で出かけているため、蓮子と冬子はふたりで夕食の食卓についていた。

いまだにナイフとフォークの使い方に慣れない冬子は、ステーキに悪戦苦闘している。

「塩、取っちゃんしゃい」

「 … お塩を取っていただけますか ~ でしょう?」


蓮子に言葉遣いを直されて、冬子は渋々オウム返しした。

すると、蓮子はそれを英語で言うように命じた。

「はあ? 英語やら分からんばい」

「昨日も教えたでしょう?

… 私の後に続いて言いなさい。

Could you pass me the salt please?」

「くじゅう、みいさる … 」

「違います、よく聞いて ~ Could you pass me」


冬子はナイフとフォークをテーブルに叩きつけて立ち上がってしまった。

「もう、よかろうもん!」

蓮子は冬子のためを思って躾のつもりなのだろう … しかし、食事の度にこれをやられたら、堪ったものではなかった。

「食事の途中で席を立つのは不作法です!」

腹を立てて食堂を出て行こうとする冬子を蓮子は呼び止めた。

「 … 戻って食事を続けなさい!」

しかし、冬子は蓮子をにらみつけると、自分の部屋に戻ってしまった。

「冬子さん!」

* * * * * * * * * *

「冬子お嬢しゃんのために握り飯ば、作っちゃんさい」

後ろで控えていたタミが若い女中にそう指示した。

「育ちざかりん子にゆっくりご飯も食べさせんで ~

はあ、旦那様も大概ひどい人と結婚したもんやね」


聞こえよがしに嫌味を言って立ち去った。

彼女たちと入れ違いに伝助が外出から戻って来た。

「今夜も何時に戻るか分かりませんでしたので、先に頂いています」

「よかよか ~ 

なんか、冬子はじぇんじぇん食うちょらんやんか?」


伝助は冬子が殆ど手をつけずに残したままのステーキを見て、手づかみで口に入れた。

行儀の悪さに呆れる蓮子に伝助は言った。

「わしはこれから、女学校の打ち合わせを兼ねて宴会するき」

肉をかじりながら食堂を出て行った。

「女学校の打ち合わせ … 」

蓮子が表情を緩めた。

< 福岡に理想の女学校を作る夢は、伝助との結婚に見出した、蓮子の唯一の希望の光なのでした >

* * * * * * * * * *

< ところが … >

翌日の朝食の席で伝助から聞かされた話に蓮子は愕然とした。

「 … どういうことですか?

女学校の教育方針はすべて他人任せだなんて、それでは約束が違うではありませんか」

「約束が違うも何も、学校には金は出すばってん、口は出さん … 端からそういう事になっちょる」


スープを皿ごとすすり、パンには醤油をかけて食らいながら伝助は吐き捨てるように言った。

「そんな …

また私をだましたんですね?」

「あ?」

「亡くなった奥様との間に子供はいないとおっしゃった上にまた!」

「もう、その話はよかろうが?!」


何か事あるごとにそのことを責められて、伝助はうんざりしていた。

「女学校のことは私あきらめません!」

「大体、こげん田舎に、英語とか、淑女とか … お前の言うげなん女学校やら作ったっちゃ、仕方なかろうが!」


そんな上等な女学校は要らないと言い切られ、蓮子は絶句した。

「おなごは勉強やらし過ぎん方が、可愛げがあっていいとたい」

舌打ちして席を立った。

「それは私に対して当てつけですか?」

伝助は一瞥しただけで何も言わずに立ち去ってしまった。

勝ち誇ったような表情でその後に続くタミ。

< 蓮子を支えていた夢は呆気なく砕け散ったのでした >

* * * * * * * * * *

< 一方、夢への一歩を踏み出さんとしていたはなは … >

朝市の手を借りて『みみずの女王』を『児童の友』の童話の懸賞に応募する用意をしていた。

束ねた原稿用紙の題名の下に署名を入れたら準備は完了だった。

はなは『安東』と書いたところで一瞬手を止めた。

「はなちゃんは、花子と呼ばれたいって言ってたわよね?

世に自分の作品を出す時に、その名前を使えばいいじゃないの」

蓮子とふたりで決めたペンネーム『安東花子』。

はなは迷うことなく『花子』と続けて書き入れ、満足そうな顔を見せた。

「 … 花子か?」

「そう、花子」


朝市の言葉にうなずいたはなは遠い目をして、そして微笑んだ。

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2014年05月21日 (水) | 編集 |
第45回

< はなが小学校の先生になって、1ヶ月が経ちました >

教師生活にもだいぶ慣れ、軌道に乗り始めてきた頃、あの小山たえの欠席が1週間続いた。

気になったはなは本多校長に放課後たえの家へ訪問することを願い出た。

「おまんに話すとまた余計なおせっかいをすると思って黙ってたけんど … 小山たえはもう学校へは来ん」

「てっ?」


もうすぐ親戚の家に引き取られることに決まったのだ。

* * * * * * * * * *

「もう学校に来んなんて … 」

はながやるせない思いで帰宅すると、なんと家の前でたえ本人が待っていた。

「たえさん、どうしてるか心配してただよ」

いつも背負っていた弟はすでによそのうちへ貰われていって、たえも明日親戚の家に行くのだという。

「親戚んちに双子が産まれて、子守が要るんだ。

… 最後におら、どうしても先生にお別れ言いたくて」

「よく来てくれたね … 」

「おらのこと分かってくれたのはな先生だけじゃん。

おらのために屋根にも登ってくれて、ありがとごいす」


たえは野で摘んできた白い花を一輪、はなに差し出した。

「たえさん … 」

「もう学校へは行けなくなるけんど、お父や弟にも会えなくなるけんど … そこんちはおっきい農家だから、たらふく飯が食えるら?

ほれに、おらには想像のツバサがあるじゃん。

いつだって翼を広げて、先生や皆に会いに帰って来られるじゃん!」

「ほうだね … 」


親戚の家といっても、きっと辛い暮らしが待っていることを、たえは子供なりに分かっているに違いない。

それなのに健気に振舞う彼女に、はなは胸が熱くなっていた。

* * * * * * * * * *

「上がってもらったら?」

ふたりに気づいたふじが外に出てきた。

「ああ … だけんど、おうちの人が心配するわ」

家まで送っていくと言うはなに、たえはうちには誰も居ないとかぶりを振った。

「ほれほれ、中入れし ~ 」

ふじはにこにこしながらたえを家の中へと招き入れた。

* * * * * * * * * *

たえは夕食を呼ばれ、はなの家族と一緒に囲炉裏を囲んで、ふじがこしらえたほうとうに舌鼓を打った。

「美味え、本当に美味えな ~ 」

「たくさん作っただから、腹いっぺえ食えし」


たえはふと棚の上にあった『親指姫』の本に目をとめた。

「先生、これ読んでもいいけ?」

「うん、もちろんだよ」


すると、たえは食べることも忘れて本に見入ってしまった。

その様子を見て、周造が笑った。

「ははは、はなのちっくい時とそっくりじゃん」

吉太郎とふじも、たえの姿に昔のはなのことを見たようだ。

「はなも三度の飯より本が好きだったじゃんな」

「本読んでいる時にゃ、飯腹いっぺえ食ってる時よりも顔がキラキラしてたじゃんね」


その時、はなはあることを思いついた。

「 … たえさん、連れて行きたいところがあるの。

先生の大好きな場所、きっとたえさんも気に入るから ~ 早く食べて行こう」

「ええっ、今っから出かけるだけ ~ 真っ暗じゃん」

「こんな時分に何処いくでえ?」

「また騒ぎになるじゃねえだか?」


家族の皆それぞれが止めるように口にしたが、はなはどうしてもその『大好きな場所』へたえのことを連れて行きたかった。

「今日しかないの … 」

* * * * * * * * * *

結局、はなはたえのことを『大好きな場所』へ連れてきてしまった。

教会の図書室、はながたえの手を引いて入ってきた。

「て ~ 本がいっぺえじゃん!」

ステンドグラスから差し込む明りに浮かび上がった所狭しと並んだ本棚、たくさんの本を前にして、たえは昔のはなのように目をキラキラと輝かせた。

「今夜は、ここにある本を思いっきり読みましょう」

「ここにある本、ぜ~んぶ読んでもいいだけ?」

「ええ、好きなだけ」


* * * * * * * * * *

同じ頃、血相を変えた朝市と寅次が安東家にやって来た。

「はな居るけ?!」

はながたえと出かけたことを知った朝市は、ふたりの行き先を尋ねた。

「 … お姉やんの大好きなとこって言ってたけんど」

ハッとして顔を見合わせた朝市と寅次は、脱兎のごとく飛び出して行った。

* * * * * * * * * *

そんなことになっているとは知らないはなとたえは図書室で本をよみふけっていた。

「先生、おらもここが大好きだ!」

「先生の夢はね ~ 子供も大人もわくわくするような本をいつか自分で作ることなの」

「へ ~ 先生、本作るだけ … どんな物語でえ?」


たえは尋ねたが、はなはまだ何も考えてはいなかった。

「聞かしてくりょう ~ 先生が作ったお話聞かせてくりょう」

「てっ、今け?」


たえにせがまれて、はなは思いつくがまま語りはじめた。

* * * * * * * * * *

「 … あるところに、大層太った長いみみずがおりました。

『私のように立派な体を持ってるみみずは何処にもいやしない。

お庭から、道端から、どこからどこまで探したって、あたしほどの器量よしは見つからないわ』

こんなことを口にするほどの威張りん坊でしたから、お庭中のみみずはこの太ったみみずが嫌いでした」


真剣に聞き入っていたたえは、そのみみずの名前を聞いた。

「  … ああ、まだ考えてなかったけんど」

「ほれじゃあ ~ 『フト子』さんは?」

「『フト子』け? … いいじゃんね」


はなが話の続きをはじめようとした時、床のきしむ音がして壁に大きな人影が写ったのが見えた。

* * * * * * * * * *

「て ~~~ 出た!!」

「きゃ ~ !!」


驚いて抱きあうふたり。

「はな ~ 何が出たで?!」

息を切らして飛び込んできたのは朝市と寅次だった。

「 … 何だ、朝市か」

ホッと胸をなで下ろしたはなに向かって、朝市は珍しく声を荒げた。

「何だじゃ、ねえら!!」

「たえの親父が夜遅く帰ったら、娘の姿がどこにも見当たらねえって …

校長も近所の人も必至で捜してるだ!」


寅次の説明を聞いて、はなはやっと事情を呑み込んだ … また『しでかしてしまった』ことを …

「 … ごめんなさい!」

「こんだ、校長の雷じゃ済まんら … 覚悟しろし!」


返す言葉がないはな。

「ボコ、お父が待ってる … 行くだぞ」

促されて立ち上がったたえに付き添おうとしたはなを寅次はきつい口調で制した。

「おまんは来んでいい!」

* * * * * * * * * *

たえは、はなのことを振り返った。

「 … はな先生、ありがとう。

この部屋のことも、先生のことも、ずっとずっと忘れねえ … 」

「たえさん … 」


はなは泣き出しそうな気持ちを抑えて、たえに笑顔を見せた。

「 … ごきげんよう、さようなら」

「ごきげんよう … 先生 … 」


< はなは祈りました。

辛い時、苦しい時、想像のツバサがたえさんを支えてくれるようにと … >

次の朝、たえは父親に連れられて、親戚の家へと旅立っていった。

* * * * * * * * * *

「あんだけ大事んなって、謝って済む問題じゃねえら!!」

昨晩の騒動について謝罪するはなのことを、緑川はここぞとばかり厳しく責め立てた。

「しおらしく謝りゃ何とかなると思ってるずら、おなごは困る!

こぴっと責任とれし!!」

「本当に申し訳ありません」


はなが口にした途端、傍らで苦虫を噛み潰したような顔をしていた校長が机を叩いて一喝した。

「おまんの『申し訳ありません』はもう聞き飽きた。

はっきし言って、おまんは教師に向いちゃいんら … 今日はもう、うち帰ってゆっくり考えろし」

「ほうだ、ほうだ ~ こんな落第教師居ん方が、生徒たちも大人しくするら!」


校長の尻馬に乗ってまくし立てる緑川。

はなは言葉もなく頭を下げると、教務室から出て行った。

* * * * * * * * * *

家に戻ったはなは、思いつめた表情で机に向かっていた。

頭に浮かぶのは、昨晩、教会から帰る時に朝市から言われた言葉だった。

「教師っていうのは … 子供の人生を預かる責任の重い仕事だと、おら思っている。

はなにも、その覚悟があるだけ?」

それは、相手がはなであっても決して譲れない朝市の矜持なのだろう。

「はなは、心のどっかで思ってるじゃねえだけ?

… 本当は、こんな田舎の学校の教師になんかなりたくなかったって … 」

自問自答したはなはつぶやいた。

「 … その通りかもしれない」

机の上、一輪挿しのたえからもらった白い花をじっと見つめている。

土間で作業している周造とふじが声をかけるのも憚るほど、はなの様子はいつもと違った。

* * * * * * * * * *

教務室では、こちらも思いつめた顔の朝市が校長にはなを許してくれるよう嘆願していた。

「校長先生、おらからもお願いします … 安東先生のこと許してやってください。

安東先生は、たえさんがお気に入りだから目をかけたんじゃないと思います。

今すぐ手を差し伸べなきゃいけねえ生徒だったから … 

10歳で甲府を離れて、ひとりっきりで東京の学校で頑張ってきた安東先生だから、たえさんがこれから経験する寂しさや辛さを分かってたじゃないでしょうか?」

「ほうは言ってもな … 」

「辛い時こそ夢を見る力が大切だから … どうしても昨夜、あの本の部屋へ連れて行きたかっただと思います」


校長は無言で思案している。

「お願えします … 安東先生を辞めさせないでください。

お願えします!」


朝市は深々と頭を下げた。

* * * * * * * * * *

< はなは、どうなってしまうのでしょう?

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2014年05月20日 (火) | 編集 |
第44回

< はなは新任初日にして、教師失格の烙印を押されてしまいました >

「ああ、おけえり、どうだったで、はな ~ 先生1日目は?」

学校から戻ったはなは、庭で作業していたふじたちから明るく出迎えられた。

「うん … 」

曖昧に笑っているはなの背中から声をかけたのは周造だった。

「はな … まあ、そう気にすんな。

のっけだからな … 」

「のっけから教師が廊下に立たされたじゃ、生徒にしめしがつかんら?」


後からついてきたリン、周造は彼女から学校で何があったのかを聞かされたのだろう。

「てっ、廊下に立たされた?」

あ然としているふじに向かってリンは嘆いてみせた。

「うちの朝市まで巻き添え食らって言い笑いもんじゃん」

「てっ、朝市さんも? … お姉やん、何したでえ?!」


朝市の名前を聞いた途端、ももは目の色変えてはなのことを責めた。

「ほれは … 」

「先生なのに立たされるって、よっぽど悪いことしたずら?」


吉太郎の問いに代わりに答えたのはリンだ。

「授業をそっちのけで、生徒と学校を抜け出して遊んでただと!」

* * * * * * * * * *

朝市が話したのだろうか … はなは、少し恨めしかった。

「何でほんなことしたで?

東京の学校では、あんなに立派に授業やってたじゃんけ ~ 」

「あれは、遊んでたんじゃなくて、校外授業で … 」


弁解する余地も与えず、リンはまくし立てた。

「村の人らが見てただよ ~

先生のはなが一等楽しそうに浮かれてたって」


情報源は朝市ではないようだ …

しかし、狭い村の中のことだとしても、数時間後にはすべて把握しているリンの地獄耳は大したものだ。

「 … は、花がいっぺえ咲いてたもんだから、ついウキウキしちまって … 」

「朝市ははなを庇って一緒に立たされただ」

「まったく朝市にも迷惑かけて … 」

「お姉やん、先生に向いてねえじゃねえけ?」

「ほうだ、ほうだ!」


弱り目に祟り目 … 実は結構凹んでいたはなは、兄妹たちからも咎められて、ますます落ち込んでしまった。

* * * * * * * * * *

「 … ちょっと言い過ぎたけ?」

「そうさな … 」


肩を落として、家に入っていくはなを見て、リンは慌てて励ましはじめた。

「おまんも大変じゃん ~ 

お父に代わって、このうちの暮らしを支えんといけんし、かよのこせえた借金もあるし、教師にまるっきし向いてなくてもやるしかねえずら!」


少しも励ましになっていないところがこの女だった。

* * * * * * * * * *

「今日は立たされんように、こぴっと授業やるだよ」

次の朝、母の言葉に見送られて、迎えに来た朝市と共にはなは家を出た。

リンに言われたことが気になっていて、元気がなかった。

「はなでも落ち込むことあるだな?」

「 … おら、先生に向いてねえと思う」


朝市は笑い飛ばした。

「たった1日やっただけで、何言ってるだ?

… たった1日で、あんだけ生徒と仲良くなれただから、結構向いてるかも知れんじゃんけ」

「 … ほうかな?」

「ほれ、早く行かねえと遅刻するら、先生が遅刻したら生徒に笑われちもうよ」


はなは朝市からもらった言葉を胸の中で自分に言い聞かせると学校へ向かって歩き出した。

* * * * * * * * * *

< さて … 今日は先生らしくできるでしょうか? >

寅次が鳴らす始業のベルを聞きながら、はなは廊下で足を止めた。

「よしっ!」

軽く深呼吸して、心新たに教室を目指した。

* * * * * * * * * *

算数の授業。

黒板に書いた問題を生徒たちに解かせていると、キヨシがまた校外授業へ行きたいと言い出した。

「おら、ヨモギがいっぺえ生えてる場所知ってるだよ」

「おらも!」


他の生徒も同様に騒ぎ始めた。

これではまた昨日の繰り返しだ …

「Be quiet!!」

その時、はなの脳裏に浮かんだのは、ざわつく教室を一喝して鎮めた富山の姿だった。

< はなは富山先生になりきることにしました >

「Be quiet … あ、じゃなかった … 静かにっ!」

大声をあげ、両手で教卓を叩いた。

鎮まりかえった教室を見渡して、毅然として告げた。

「今日は校外授業には生きません!

… 授業は教室でやります」


不満の声が上がりかけたが、間髪空けずに再び教卓をバンバンと叩いた。

「騒ぐ生徒は廊下に立たせますよ」

「 … 自分も立たされたくせに」

「キヨシ君、先生や目上の人に対しては、ていねいな言葉を使うのが礼儀です」

「ええ、ほんなのどうでもいいじゃんけ!」

「よくありません!

… 言葉の乱れは精神の乱れです!」


< おや、何処かで聞いたフレーズです。

これは … ??  >

「 … 美しく正しい敬語を話せるように、努力なさってください」

はな自身が繰り返し注意され続けた『言語強制会会長』のお決まりのフレーズだった。

< 今度は白鳥様になりきっております >

かつての天敵によって厳しく躾けられた経験が、はじめての窮地から救ってくれたのだ。

はなは改めてふたりに感謝せずにはいられなかった。

「分かりましたね、キヨシ君?」

面白くなさそうな顔をしながらうなずいたキヨシ。

< まだ板にはついていませんが、どうにか先生らしくなってきました >

* * * * * * * * * *

昼休み、弁当を広げ始めた一同から離れて、ひとり窓から空を見上げている生徒がいた。

貧しいが故に弁当を持参できない小山たえだ。

弟を背負いながら空に浮かんだ雲を見つめているたえにちょっかいを出したのはキヨシたち悪ガキだった。

「おまんちは貧乏だから弁当持ってこれんずら?」

「ほうだ、ほうだ ~ 貧乏がうつるからあっち行けし!」


そんなたえにはなは小学校の頃の自分を重ねていた。

* * * * * * * * * *

「もも、見ろし ~ 白い米とおまんまがあんなにいっぺえ … 」

空想のツバサを広げて、空に手を伸ばしたはなは、おにぎりに見立てた白い雲をつかんで、口に頬張る仕草をした …

* * * * * * * * * *

まったくの偶然、たえも同じように空の雲をつかんではモグモグと口を動かしている。

「おまん、何をしてるだ?」

怪訝な顔で見ているキヨシに、はなが代わりに答えた。

「たえさんは、想像のツバサを広げてるの」

「 … 想像のツバサ??」

「ええ、その翼を広げれば … どんな鳥よりも高く飛べるし、雲のご飯だって食べることができるのよ」


悪ガキたちは全く信用していない。

「先生、どうして分かるで?」

不思議そうに尋ねたたえ。

「先生も小さい頃そうだったから …

毎日、想像のツバサを広げて、鳥と一緒に大空を飛んでいたの … 今でも時々、羽ばたいてしまうけど」


はなが少し照れくさそうに話すと、たえはうれしそうな顔をした。

「おらだけかと思ってたけんど、先生もほうけ?」

はながうなずいた時、たえの腹の虫が鳴るのが聞こえてきた。

すると、はなは自分の弁当を持ってたえに差し出した。

「これ食べろし」

「てっ、ふんだけんど … 先生は?」

「先生はお腹がいっぱいなの」


その言葉に安心したのか、たえは礼を言うとはなの手からおにぎりを受け取って頬張った。

だが、その様子を廊下から眉をひそめて見つめている人物がいた。

校長の本多だ。

* * * * * * * * * *

「小山たえのことだけんどな … 」

教務室に戻ったはなは、本多に呼びつけられた。

「教師がお気に入りの生徒を作ったらいかん」

はな自身はそんなつもりは一切なかったが、昔の自分と境遇が似ているたえのことが特に気になっていたのかも知れない。

「おまんの弁当をやるのも、たえのためにはならん。

… 1回弁当やったら、明日っから弁当がねえともっと辛くなる」


たえのうちは去年、病気で母親を亡くして、父親は借金を返すために出稼ぎに出ていた。

「たえはひとりでちっくい弟の世話をしながら留守を守ってるだ。

あんな生徒を考えもなしに、中途半端な情けをかけたら … けえって不幸んなる!

おまんみてえな甘ったるい同情心じゃ、救えんら!!」


はなは校長から自分の考えの浅さを厳しく叱責され、言葉をなくして立ち尽くした。

教務室を出て行った校長と入れ替わりに朝市がやって来た。

「はな、大変だ … 6年の生徒たちが!」

* * * * * * * * * *

ふたりが慌てて校庭に出ると … 離れの建物の前に6年生たちが集まって騒いでいた。

その屋根の上には、たえが両手を広げてバランスを取りながら立っているではないか。

「たえさん、どうして屋根になんか?!」

「キヨシたちがたえをからかっただよ ~ 」


本当に翼が生えているのなら屋根の上を歩いても怖くないだろうとキヨシから迫られたたえは「怖くない」と言い切った。

悪ガキたちは、それならば屋根の上を歩いてみろとけしかけたのだった。

「ほれ、できねえじゃんけ ~ ウソつきたえ!」

足がすくんで一歩も踏み出せないたえを見て、キヨシたちはまたもはやし立てた。

「たえさん、下りなさい!」

「怖くねえ … 」

「危ねえ、下りろし!」


たえも意地を張って、はなや朝市の言うことを聞かずに下りようとしない。

ふらつきながらも足を少しずつ踏み出しはじめた。

* * * * * * * * * *

「ほれ ~ おまんら何をしとるだ?!」

遂には、事態を知った緑川がやって来た。

「 … 分かったわ、私がやる!」

「えっ?」

「たえさんの代わりに私が歩きます!」


はなは屋根の上のたえにそう叫ぶと、止める朝市の手を振り切って梯子を上り始めた。

* * * * * * * * * *

たえを下したはなは屋根の上にあがって、四つん這いの体制からゆっくりと立ち上がった。

ふらつきながらも両手を広げた姿は、たえの時よりも危なっかしく見える。

一同、息を呑み静まり返った。
 
「はな先生 ~ 」

「大丈夫、先生には … 想像のツバサが生えてるから」


ゆっくりと歩き出したはなを見て、キヨシが声をかけた。

「いいぞ ~ 歩け!」

それをきっかけに生徒たちから声援が飛び始めた。

「どうかしてるら ~ 」

あきれ顔の緑川。

* * * * * * * * * *

「てっ?!」

もう一歩踏み出そうとしたはながバランスを崩した。

立て直すことができずに屋根の上に引っくり返って … そのまま傾斜を転げ落ちてしまった。

間一髪、 飛び出した朝市に抱きとめられて、なんとか命拾いしたはなだった。

* * * * * * * * * *

翌日、痛めた足を引きずり杖を突きながら登校したはな。

「 … 昨日はお騒がせして、申し訳ありませんでした」

緑川から返ってきたのは、負傷したはなに対していたわりの気持ちなど欠片もない強烈な嫌味だった。

「なんも無理して学校来ることねえら ~ ず~っと来なんでいいだよ」

* * * * * * * * * *

「ごきげんよう」

そして、教室に顔を出したはなを仰天させたのは …

「てっ … 何ですかこれ?!」

「はな先生と朝市先生、お似合いじゃん!」


黒板一面に描かれた大きな相合傘だった。

はなと朝市の名前と似顔絵、キヨシたちの仕業だ。

「結婚するだけ?」

「あいらぶゆ ~ !!」


女子生徒たちまで一緒になって、はなから教わった英語で冷やかした。

< てっ、なんて大きな相合傘。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月19日 (月) | 編集 |
第43回

1945年(昭和20年)・東京。

『私、もう決めたのよマリラ、ここに残って先生になるの。

だから、私のことは心配しないでね』


花子の翻訳作業、場面はアンが一度は手にした奨学金を辞退して、マリラと暮らすことを選択した件だった。

『でも、あんたには夢があったじゃないか?』

『今まで通り夢はあるわ。

ただ、夢のあり方が変わったのよ。

いい先生になろうと思っているの、ここで精いっぱいやってみるつもりよ。

そうすればきっと、最高のものが返ってくるはずよ』


そこまで書き終わえた花子は、ペンを休めて、ふっと頬を緩めた。

「私はちっともいい先生にはなれなかった … でも、最高のものが返ってきたわ」

花子は、『Anne of Green Gables』の物語の中のアンと自分の人生をなぞらえていたのだ。

* * * * * * * * * *

< 秀和女学校を卒業したはなは故郷に戻り、アンと同じように小学校の先生になりました >

1913年(大正2年)4月・甲府。

< 今日は、新任初日の朝です >

「 … い、いってまいります」

支度を終えて土間に出てきたはなは、家族のものが不安になるほど緊張しているのが分かった。

「はな、大丈夫けえ?」

「女学校じゃあんなに上手に生徒さんたちに英語教えてただから大丈夫ずら?」

「ほんだけんど … 何だか日本語の方が緊張しちまって、どういう生徒が居るか分からんし … 」


はなが取り越し苦労していると、朝市が迎えにやって来た。

「今日から朝市も念願の先生か」

吉太郎の言葉に朝市は笑顔でうなずいた。

その上、はなと一緒の職場だなんて、朝市には夢のようなことだった。

「 … はな?」

出かけようと立ち上がったはなが手にしていたのは、準備した荷物ではなく、草鞋の束だった。

「ほら、落ち着いて ~ こぴっとやるだよ」

ふじから風呂敷包みを渡され、家族に見送られ、はなは朝市のあとについて初出勤していった。

* * * * * * * * * *

阿母尋常小学校。

< はなたちの担任だった本多先生は、校長先生になっていました >

「ごきげんよう ~ 本多先生、またお世話になります」

朝市は3年生、はなは6年生を受け持つことになり、ふたりは職員たちの前で自己紹介した。

母校の教師になれてうれしいという朝市に続いて、はなの挨拶の番だ。

「安東はなです … 早く6年生のクラスに馴染めるように頑張ります」

「6年生のカラス?」


古株の教師、緑川幾三が怪訝な顔をした。

はなが「クラス」と言い直すと、校長が英語かと確認した。

「安東君は、東京のミッチョンスクールに通っていたから英語ができるずら、う~ん」

「 … Mission school」

「校長先生、こんな人を担任にして大丈夫ずらか?

… 西洋かぶれの代用教員が、生徒らにおかしなことを吹き込まんといいですけんど」


緑川は、聞こえよがしに嫌味を言い、他の同僚たちにも同意を求めた。

* * * * * * * * * *

「6年生に皆さん、ごきげんよう」

緊張した面持ちで教壇に立ったはなの挨拶を聞いた途端、生徒たちは大笑いしだした。

「ごきげんよう ~ ほれ何ずら?」

まるで武を思い出させるような悪そうな顔をした男子生徒、キヨシが大声で尋ねた。

「『ごきげんいかがですか』という挨拶です」

「ごきげんいかが?」

「て ~~ ?」


子供たちは更に首をひねっているが、はなは気にとめずに自己紹介を続けた。

「今日から皆さんの担任になった、安東はなです」

「先生は東京の女学校から来たって本当け?」


女子生徒のひとりに尋ねられて、はなはうなずいた。

「ええ、東京の女学校へ行ってました。

… ふんだけんど、10歳まではこの学校に通ってただよ」


はなが急にお国ことばを使ったので、こどもたちから歓声が上がった。

* * * * * * * * * *

「 … では、出席を取ります」

出席を取り始めてすぐ、後ろの戸が開いて、赤ん坊を背負った女子生徒が入ってきた。

「たえ … 」

「たえがまた、ボコ連れて遅刻してきたずら」

「小山たえさんですね?」


はなの問いかけにその子はうなずいた。

「すんません、弟が途中で小便漏らして … 」

するとキヨシをはじめとする悪ガキたちが騒ぎ立てた。

「くっせえ ~ !」

「ボコ連れてくるんじゃねえ!」

「皆もボコの頃、漏らしてたずら ~ 」


たえを庇うはな。

はなも幼かったももを背負って授業を受けていたものだったので、たえの苦労がよく分かった。

* * * * * * * * * *

教師はなの初めての授業は『綴り方』だった。

はなは『友だち』という題材を与え、作文を書かせて、それを発表させた。

「 … おれの友だちはキヨシ君です。

毎日ふたりで虫を採って遊びます。おれはバッタの次にキヨシ君が好きです … おしまい!」

「マサル君、よくできました、ありがとう。

では、次は … 」


はなはたえのことを指名した。

たえは立ち上がりはしたが、何故か読み上げることをためらっている。

「たえさん、どうかしましたか?

ちゃんと書けてるじゃ … 」


はながうつむいているたえの手元を覗くと、作文を隠してしまった。

「たえさん?」

「おまん、どうせまた変なこん書えたずら」


キヨシが出てきて、たえの手から作文をひったくると、代わりに読み始めてしまった。

* * * * * * * * * *

「私には河童の友だちがいます … 双子の河童です。

夕方、川へ水を汲みに行くと、いつもその河童たちに会えます。

… 何でえ、双子の河童、笑わせるじゃん!」


悪たれをつきながら、たえに作文を突き返したキヨシ。

「たえさん、いいから続きを読んで。

先生、続きが聞きたいさ ~ 」


はなが笑いかけると、たえは続きを読み始めた。

「 … 弟が泣き止まない時、河童たちはゆかいな踊りをして、弟をあやしてくれます。

ふたりは夕日の国に住んでいて、金色やあかね色のきれいな着物を何枚も持っています。

私も、いつかその夕日の国へ行ってみたいです」

「たえさん、素晴らしいわ ~

先生は想像をかきたてられて、ワクワクしました」


創造力あふれるたえの作文はいつもキヨシたちの格好の餌食になっていたのだろう。

はなという理解者を初めて得て、たえは少し照れくさそうに笑った。

* * * * * * * * * *

「てっ、河童なんてウソに決まってるじゃんけ!

こいつんちは貧乏で友だちなんていねえじゃん!!」


キヨシは、見た目だけでなく、しゃべることまで武そっくりだった。

「ほうだほうだ、ウソつき ~ 貧乏!」

取り巻きのマサルたちと一緒にはやし立てた。

「止めなさい、静かにしなさい!」

『ウソつき』『貧乏』の大合唱がはじまってしまって、はなが止めても黙らなかった。

「ほれ、うるさくて授業にならんら ~ 静かにしろし!!」

騒動を聞きつけた緑川が怒鳴り込んできたが一向に静まろうとしない。

「Be quiet!!」

はなのそのひと言でようやく静かになった。

「びーくわい??」

* * * * * * * * * *

「英語なんかで注意して、生徒らが聞くわけねえら ~ !!」

授業後、教務室ではなは緑川にきつく咎められた。

「東京のみっちゃんこーるだかなんだか知らんけど … 」

「Mission school です … Mission!」

「ほんなご大層な女学校出たなら、教員なんかならんで、早く嫁に行きゃいいものを!

… 何でえ、その目は?

これだからおなごは使えんだあ!」


今の時代だったら、セクハラで訴えられそうな言葉を並べた後、またも同僚たちに同意を求めた。

「うちは静かに授業やってるだから … 邪魔だけはしねえでくれちゃあ!」

* * * * * * * * * *

午後の授業が始まったが、生徒たちははなのことを舐めてかかって、それぞれが好き勝手なことをやり始めた。

机や石盤を叩くもの、椅子を揺らすもの、おしゃべりするもの …

「 … 静かに!」

はなは黒板を書く手を止めて注意したが、誰も聞く耳を持たない。

「勉強なんやりたかねえ ~ 」

キヨシが口走ると、取り巻きたちが次々とマネしだした。

「勉強なんやりたかねえ ~ 」

「お願いだから、静かにして!」


* * * * * * * * * *

その騒がしさは、朝市が授業している3年生の教室まで伝わっていた。

しまいにはたえの背中のボコまで泣き出した。

このままだと、また緑川が怒鳴り込んでくるだろう … 切羽詰まったはなは思い切った手に出ることにした。

両手で力を込めて机を叩くと、皆ははなに注目した。

「ほれじゃあ、今日の理科は生き物のお勉強をします!」

* * * * * * * * * *

「校長先生、大変です ~ 」

緑川が血相を変えて教務室に駆け込んできた。

「6年生の教室にひとっこひとり居ねえです!

… おなごの代用教員も消えちまった ~ 」

「なにい?!」


* * * * * * * * * *

「ハ~イ、グッドモーニング ~ グッドアフタヌーン ~ グッドイブニング!!」

そんな楽しそうな声が聞こえてきて … 廊下をはなと6年生たちが和気あいあいと帰ってきた。

その行く手に突然、大男が立ちはだかった。

「てっ?!」

はなはその男の顔に見覚えがあった。

子供の頃、朝市とふたりで教会の図書室に忍び込んだ時に追い回された使徒の合田寅次に違いなかった。

その後、熱にうなされた夢の中にも出てきて、怖い思いをさせられた相手だった。

「はな先生どうしたで?」

顔を強張らせているはなを見て女子生徒が不審に思ったようだ。

「小遣いさんじゃん」

「 … こ、こ、小遣いさん?」


どういう経緯かはわからないが、今はこの学校の小遣いさんをしているらしい。

「早く教室戻れ ~ 

今に校長先生の雷落っこちるから、おまんら覚悟しろし!」


仁王のような顔の寅次。

はなたちは、こそこそと急いで教室に戻っていった。

* * * * * * * * * *

教室へ戻ったはなたちを待っていたのは、怒り心頭の校長と、緑川、朝市の3人だった。

「おまんら授業をさぼって何処え行ってただ?」

「 … 校外授業です」

「校外授業だと ~ ?」


声を上げ、目を剥く緑川。

「はな先生と、野の花摘みました」

女子生徒たちが手にした花束を差し出してみせた。

「バッタも捕めえたさ ~

たえの友だちの河童を探しに行こうって … はな先生が」

「河童??」

「英語も教わったじゃん」


またも緑川が目を剥き、校長ははなを叱責した。

「おまんは何を考えてるだ?!」

「はな先生を叱らないでくりょう」


そして、一同が声を合わせて言った。

「校長先生、アイムソ~リ~」

* * * * * * * * * *

しかし、それが却って校長の怒りを買ってしまった。

「うるせ ~ !

金輪際、英語なん生徒に教えるんじゃねえ!

英語は禁止、河童も禁止 ~ 分かったけ?」

「 … も、申し訳ありませんでした」


頭から湯気を出して怒っている校長。

「校長先生、安東先生は生徒が騒いでうるさかったから、他の学年に迷惑かけねえように校外授業に出かけただと思います。

今日だけは許してやってください ~ お願いしやす」


朝市がはなを庇うと怒りは収まるどころか飛び火した。

「何でえ、お前まではなの肩持つだか?」

「生徒たちこんなに楽しそうだし … 」


確かに朝市の言う通りだったが、それが決定的なひと言になってしまった。

「楽しけりゃいいってもんじゃねえ、お前らふたりとも教師の自覚が足ら~ん!!

はな、朝市 … 立っちょれ ~ !!」


* * * * * * * * * *

こともあろうに、初出勤の日だというのに、はなと朝市は水の入った桶を両手に持たされて、教務室の前の廊下に立たされてしまった。

「ごめんなさい … おらのせいで朝市まで」

「さすがに河童探しに行くのはまずいら … 」


申し訳なさそうな顔をしたはなと苦笑した朝市。

「 … でも、あの森の向こうに双子の河童が居ると思うだけで、気持がワクワクして楽しくなるじゃん」

そんなはなを見ていた朝市は思い出し笑いしだした。

「あん時みたいじゃん」

< そう言えば、昔もこんなことがありましたね >

はなも思い出したらしく、ふっと吹き出した。

そんないい感じのふたりを廊下の陰から生徒たちがにやにやと見つめていた。

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月18日 (日) | 編集 |
まずは、先週のおさらいを …



それでは、次週の「花子とアン」は?

< さて来週からは … はなの山梨での教師生活です >

甲府に戻り、尋常小学校の代用教員となったはな(吉高由里子)は、ふじ(室井滋)や周造(石橋蓮司)に見送られ、緊張しながら朝市(窪田正孝)とともに初出勤する。

かつて担任だった校長の本多(マキタスポーツ)がはなを教師達に紹介するが、はなが英語を使うのを知った緑川(相島一之)は、西洋かぶれの女に教師が務まるのかと嫌味を言う。

Be quiet!

初めての授業、はなは教室で「ごきげんよう」と挨拶して子ども達に笑われ、まるで言うことを聞いてもらえない。困りはてたはなは校外授業を思いつき、生徒たちを外へ連れて行く。

自然に触れ、楽しげに帰って来る生徒たちとはなだが、無断で外出したことで校長や小使いの寅次(長江英和)に大目玉を食らってしまう。

想像のツバサを広げてるの

…そんな中ではなは、たえ(伊藤真弓)という生徒のことが気になっていた。たえは家が貧しくて学校を欠席しがちだが、作文で河童と出会ったことを書くなど、想像力の豊かな少女だった。

はなのちっくい時とそっくりじゃん

昼休み、お弁当を持たないたえが空を見あげているのを見て、はなは自分の幼い頃を重ね合わせる。だがある日、たえは男子たちに「嘘つき!」と責められ、校舎の屋根の上を歩かされることに。騒ぎを聞いて駆けつけたはなは…

はなちゃん、小説家の先生になっただと?!

教師になってひと月が経ったある日、はながたえのために書いた童話『みみずの女王』が、児童文学の賞を受賞したという報せが届く。

花子は私の夢なんです

花子とアン 公式サイト、YAHOO!テレビガイド他を参照)

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2014年05月17日 (土) | 編集 |
第42回

1913年(大正2年)・3月。

< はなたちの卒業の日が近づいておりました >

『はな、この間の依頼の件 … 我らが母校に代用教員の口があったので、お願いしときました。

幸い、今日採用の返事をもらいました。

はな、おらと一緒に母校で働くじゃん』


仕事の当てもなく甲府に帰ることを決めてしまったはなだったが、朝市の奔走で、ようやく就職先が決まった。

4月から故郷甲府の母校、阿母尋常小学校の代用教員として教壇に立つのだ。

< という訳で、卒業後の職場も決まり、ひと安心なはなでしたが … >

「安東さん!」

このことを亜矢子たちに少しでも早く知らせたくて廊下を走ってしまったはなを、見咎めたのはかをる子だった。

「 … あなたは、最初から最後まで!」

仁王立ちでにらんでいるかをる子を見ても、はなは就職が決まった喜びで自然と顔がほころんでしまう。

「笑って誤魔化さないっ!!」

* * * * * * * * * *

「はなさん、本当に甲府へ帰ってしまうの?」

亜矢子にとって、はなの就職が決まった喜びより、離れる寂しさの方が大きいようだった。

「ええ、やっと代用教員の仕事も見つかったし」

「それはよかったわね … 私は家に帰って花嫁修業させられますの」


鶴子もどこか浮かない顔をしている。

「もうすぐ皆バラバラになるなんて寂しいわ」

卒業式を数日後に控えて、亜矢子も鶴子もセンチメンタルになっているのだろう。

取り分け亜矢子はいつもと様子が違って見えた。

「どうしたの ~ 幸せいっぱいの醍醐さんが?」

「 … 結婚やめたの」

「ええっ?!」


はなたちばかりか、談話室にいた生徒が皆驚いて亜矢子の周りを取り囲んだ。

「大変いい方でしたけど、白紙に戻させていただいたわ」

「ど、どうして?」

「その方と一緒に居てもちっとも『パルピテーション』を感じないんですもの」


< パルピテーションとは、ビビビビっと胸がときめくことでございます。

そんなものは、結婚が現実になれば、たいがい消えてしまうものなのに … >

* * * * * * * * * *

一方、福岡で孤軍奮闘している蓮子。

夫や娘との距離はなかなか埋まらず、女中たちからも疎まれ … 孤独な日々を過ごしていた。

『キリストのむすめとよばれほこりもて 学びの庭にありしいくとせ』

彼女が気を紛らすことができるのは歌を詠む時間だけだった。

< 蓮子は、はなと過ごしたあの頃を思い出さない日はありませんでした >

* * * * * * * * * *

< そして … >

はなが、亜矢子を連れて訪れたのは … 向学館の編集部だった。

「編集長、その節は大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

平身低頭、謝罪するはな。

あの後、お偉いさんから嫌味を言われたり、散々な目にあった梶原だったが、さほど気にはしていないようだ。

「 … で、今日はどうしたの?」

「実は、私の代わりに紹介したい人がいるんです」


亜矢子は前に出て自己紹介をした。

「今、醍醐さんは人生の曲がり角にいるんです」

「そうなんです!

予定していた結婚を破談にしてしまい、両親を怒らせ、自活しなければならないのです。

この際、小間使いでも何でもいたします … どうかよろしく願いいたします!」


切羽詰まった顔で、頭を下げる亜矢子の勢いに飲まれて、あ然としている梶原に職員のひとりが口を挟んだ。

「編集長、こういう押しの強い人、入れた方がいいですよ」

「 … そうだな」


* * * * * * * * * *

梶原の計らいで、面接を受けた亜矢子は、ほどなく向学館編集部への就職を認められた。

「おめでとう!」

「はなさんのお蔭よ!」


手を取って喜び合うふたり。

そんな亜矢子を見て、下級生のひとりが意外な顔をして言った。

「醍醐様がまさか、職業婦人になられるとは思いませんでしたわ … 」

「あら ~ 私、結婚をあきらめた訳じゃなくってよ。

出版社で働きながら、パルピテーションを感じる方との出会いを待つの!」

「パルピテーション?」

「ときめきよ、ときめき … ねっ、はなさん」


* * * * * * * * * *

亜矢子の就職に沸く談話室に茂木と富山がやって来た。

「毎年卒業式で、ブラックバーン校長がスピーチをなさいます。

その通訳ですが … あなたやってみませんか?」


はなは、校長の通訳を務めてきた富山本人から思いもかけない大役を仰せつかった。

「 … やらせていただけるんですか?」

「すごいわ、はなさん ~ 有終の美を飾ってね!」

「有終の美になるとは限りませんよ。

皆にとって、一生に一度の卒業式を、あなたの通訳でぶち壊さないように … 」


重圧をかけるような言葉を残して富山は談話室から出て行った。

「 … これは、富山先生からはなさんへの餞別なんですよ」

茂木から富山の真意を聞かされたはなは、しっかりとうなずいてみせた。

「どうしよう … もう緊張してきた」

< プレッシャーで早くも心臓がバクバク … パルピテーションを起こすはなでございました >

* * * * * * * * * *

『お母、お元気ですか … かよも私も元気にしています。

茂木先生が、かよの奉公先を見つけて下さいました。

奉公先は、西洋人の先生たちの服を縫う洋服店です。かよはお針子さんの見習いとして、一生懸命頑張っています』


ただひとつの心配のタネだったかよの奉公先も無事に決まったことを、はなのハガキで知って、ふじは胸をなでおろした。

「 … 私も安心して、甲府に帰れます。

卒業式では、ブラックバーン校長の通訳を仰せつかりました。責任重大です。

こぴっとやるじゃん!」


ハガキを読み終えたももと顔を見合わせたふじは空を見上げて、はなへと声援を送った。

「こぴっと、はな頑張れし!」

* * * * * * * * * *

卒業式当日。

「ブラックバーン校長はじめ、先生方。長い間のお導きに、感謝申し上げます … 」

卒業生を代表して答辞を読む鶴子、いつも冷静沈着な彼女の声が震えていた。

涙を堪えているのだろう。

「 … ここで過ごした女学生時代ほど楽しい時代は、二度と来ないと思います。

私たちの生涯のうちで、一番幸せな時代は、この学校で過ごした日々です」


はなは校長の隣に座って、鶴子の答辞を通訳していた。

「 … 本当にありがとうございました」

鶴子がそう締めくくると、拍手が起こった。

式場内のあちらこちらではハンカチで涙をぬぐう卒業生の姿が見える。

* * * * * * * * * *

ブラックバーン校長は厳かに立ち上がり、はなはそれに従って壇上へと上がった。

「My girls.
Grow old along with me. The best is yet to be.」

「私の愛する生徒たちよ。

我と共に老いよ … 最上なものは、なお後に来る」

「If some decades later you look back on your time with us here and you feel that these were the happiest days of your life, then
I must say your education will have been a failure.」

「今から何十年後かに、あなた方がこの学校生活を思い出して … あの時代が一番幸せだった、楽しかったと、心の底から感じるのなら …

私はこの学校の教育が失敗だったと言わなければなりません」


はなは、校長の言葉に感銘を受けながら、そのメッセージを一字一句漏らさないように伝えようと必死だった。

「Life must improve as it takes its course.
Your youth you spend in preparation because the best things are never in the past, but in the future.」

「人生は進歩です。

若い時代は準備の時であり、最上なものは過去にあるのではなく … 将来にあります」


いつしか緊張と重圧は昇華され … 校長の言葉は、はなという口寄せを通して皆の心に伝わっていた。

「I hope that you pursue life, and hold onto your hope and your dream until the end of the journey. 」

「旅路の最後まで、希望と理想を持ち続け、進んでいくものでありますように」


はなが秀和女学校最後の大舞台で見事に大役を果たし有終の美を飾った瞬間だった。

* * * * * * * * * *

「(はなの通訳はどうでしたか?)」

ブラックバーン校長の問いに富山は迷うことなく答えた。

「(何も言うことはありません … 完璧でした)」

「(はな、私は心からあなたを誇りに思っています)」

「(ブラックバーン校長 … )」


無我夢中で努めた通訳を認められて、はなは感極まっていた。

「はなさん、立派でしたよ。

卒業しても、お励みあそばせ … 」

「茂木先生 … 」


はなのことを東京の母のように目をかけてくれていた茂木が微笑みうなずいている。

すると、富山ははなの前に歩み出てきた。

「あなたをこの学校の教師として迎えられなかったことは残念ですが … 」

「 … すいません」

「Every woman is the architect of her own fortune.

… 自分の運命を決めるのは、自分自身です」


はなのことを疎んじ、そして恐れ … ついには認めた富山からのはなむけの言葉だった。

* * * * * * * * * *

「安東はなさん!」

はなは今まで何百、いや何千回と数えきれないほど叱られ続けたその声に名前を呼ばれて身をすくめた。

「 … はい」

振り返ると、相も変わらずに鬼瓦の様な顔でかをる子が仁王立ちしていた。

しかし、今日は叱られるようなことはしていないはずだ。

思いを巡らせていると、かをる子は近づいてきた。

「私、ずっと黙っておりましたが、実は …

山梨の勝沼の出身でございます」

「てっ?!」


はなは仰天した … 勝沼といえば、甲府の隣りの町だ。

「おまんが最初に寄宿舎に来て、挨拶した時ゃあ、おらも『て』って思ったさ ~

訛りが懐かしくてたまらんで」


こてこての甲州訛り。

開いた口が塞がらないとはこのことだった … よくぞ10年間も隠し通したものだ。

茂木を始め、教師の皆も知っていたのに違いない。

「おらのしごきにも、華族のお嬢様たちにも負けんで、よく頑張ったじゃんね … 」

かをる子もはなと同じ給費生だったのだろうか?

「 … 甲府帰っても、こぴっとやれし!」

「はい」


ふいにはなは両腕を掴まれた。

「おまんは … 山梨の誇りじゃあ!」

力いっぱい抱きしめられて、はなは息がつまりそうだった。

「卒業おめでとう ~ 本当におめでとう!

本当におまんはよく頑張ったじゃんけ … 」


抱きしめながらも、かをる子はおいおいと泣きはじめた。

「白鳥様 … 」

彼女とも長いつきあいだった … はなも目頭が熱くなるのを覚えたが … とにかく苦しかった。

* * * * * * * * * *

皆に別れを告げて、はなは校門の外から改めて十年間過ごした学び舎を仰ぎ見た。

突然、鐘が鳴り始めた。

かをる子が去りゆくはなに手向けるために鳴らしているのかも知れない。

はなは前を向き、ゆっくりと長い坂を下り始めた。

< 卒業おめでとう、はな … ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月16日 (金) | 編集 |
第41回

< 製糸工場から逃げてきたかよのお蔭で、はなは思いがけず、親子水入らずで一夜を過ごすことになりました >

ふじとかよが布団に入ってもはなはまだ机に向かっていた。

「毎晩こんなに遅くまで勉強してるだけ?

えれえじゃんね ~ お父が言ってた通りだ、おまんは家族の希望の光じゃって」

「あっ、たまにハガキが … 」


はなは時々届く差出人不明のハガキを畳の上に並べてみせた。

筆跡は明らかに吉平のものだった。

「生きてただけ?!」

目を丸くするふじ。

音信不通になってから、甲府の家には2年と10か月も帰っていないのだ。

『はなグッドモーニング 勉強がんばれし こぴっと精進するだよ』

勉強のことばかり書いてあるハガキを見てかよは笑った。

「やっぱし、お姉やんはお父に似ただね」

「 … ほう言うかよだって、製糸工場逃げ出して、東京まで逃げちもうなんて、そんな無鉄砲なのお父にそっくりじゃんけ」

「ほうか?」

「はなもかよもお父の娘だね ~ 」


ふたりの会話を聞きながらふじはしみじみと語りはじめた。

「甲府に連れて帰ろうなんて、無理な話じゃん。

おまんらもお父みてえに、甲府に居ちゃあ見られんもんをいっぺえ見て … いつかおらに話してくりょう」

「お母 … 」

「はな、かよのこと頼むね ~ あとは、お前に任せたじゃん。

… ふんだから、はなも帰ってこなんでいい。

東京で頑張れし」


ふたりの娘たちに好きにするようことを許したふじだった。

* * * * * * * * * *

次の日、ふじは茂木に案内されて、授業するはなの姿を教室の外から窺った。

下級生たちを前にして、はなは活き活きと英語を教えている。

「はなさんがここに来た頃は、英語で話しかけられるのを怖がって、西洋人の先生たちから逃げ回ってたんですよ」

茂木は、自分自身も懐かしむように、そんな昔話をふじに話して聞かせた。

「それが、ある時から猛勉強初めて …

私も大勢の生徒を見てきましたが、秀和女学校ではなさんは一番の頑張り屋さんです」


母親のふじを前にしたお世辞ではなく、茂木の偽らざる本心だった。

ふじは茂木に向かってお辞儀をすると、はなのことを誇らしげに見つめた。

生徒に『はな先生』と呼ばれて、『花子先生』と言い直さているところなどは甲府に居た頃のままだった。

生徒たちもはなのことを慕っているようだ。

< ふじには、自分の娘とは思えないほど、はなが立派に輝いて見えました >

はなが輝ける場所はここなんだ … 甲府に連れて帰っちゃならない …

ふじはそう己に言い聞かせ、涙を隠して微笑んでみせた。

< ふじは本当の胸の内をはなには言わず、ひとり甲府へ帰っていきました >

* * * * * * * * * *

「ほうけ … はな、東京で働くだけ … 」

ふじの話を聞いて、朝市も落胆しているのが分かった。

「お母、本当にいいだけ?」

ももが尋ねてもふじは寂しくうなずくだけだった。

そんな母の後姿を見ているうちに、ももは何だか腹が立ってきた。

「お母の気持ち、お姉やんは分かっちゃいん!」

彼女が手にしていたのは、以前ふじがはなに出そうと書いたが、誤って湯をこぼして文字が滲んでしまったハガキだった。

* * * * * * * * * *

< 茂木先生のご厚意で、かよは取りあえず、学校の仕事を手伝うことになりました >

ももに出来ることといったら、掃除や雑用だった。

廊下の雑巾がけをするももの横を同じような年頃の生徒たちが授業を受けるために教室に急いでいく。

それでも、ももはまったく気にならずに一生懸命に働いた。

製糸工場に居た時に比べたら、ここは天国の様な場所だった。

* * * * * * * * * *

数日後、学校に一本の電話がかかってきた。

電話の主は、向学館の梶原で偶然受けたのは富山だった。

富山は、求婚を断って以来、久しぶりに聞く梶原の声に動揺を隠せなかった。

「 … ご用件をおっしゃってください」

「富山先生ですか?」


電話の相手が富山だと知った梶原の声も緊張しているように聞こえた。

「どうぞご用件をおっしゃってください」

努めて冷静を装う富山。

「 … はい、安東はなさんのことで」

* * * * * * * * * *

梶原からもたされたのは、はなの就職面接をしたいという吉報だった。

「はなさん、よかったわね ~ 

面接してくださるなんて、脈があるわよ、その出版社」

「はなさんなら、きっと選んでいただけるわ」


はなが鶴子や亜矢子と喜びあいながら、談話室に顔を出すと、かよがソファー席でスコットの隣に腰かけて彼女が焼いたクッキーを選んでいるのが見えた。

「かよ ~ また、スコット先生にクッキーご馳走になりに来たの?」

はなの帰郷土産だったクッキーの味をずっと忘れることができなかったかよは、この学校でその味に再会して飛び上がるほど喜んだ。

「召し上がれ」

「さんきゅうです!」


ひと口かじって、また幸せそうな顔をした。

* * * * * * * * * *

そんな時、はなは茂木から一通のハガキを渡された。

ふじが出し損ねていた件のハガキが届いたのだ。

ひらがなだけで書かれた拙い文章だったが、はなが卒業後に甲府に帰ってくることを信じて待ちわびているふじの気持ちが痛いほどよく分かった。

『このはがき おかあは出さなかったけんど おらが代わりに送ります』

そんなもものひと言が書き添えてあった。

はなは今やっと、母の真意を知ったのだった。

* * * * * * * * * *

「おらも、お姉やんに言おうかどうしっか、ずっと迷ってただよ」

ハガキを読んだかよが、少し後ろめたそうに打ち明けた。

「 … お母、お姉やんが帰ってくるもんだと思い込んでた。

ほれでも、おらは東京に居てもらいてえ!」


ももの気持ちも分かるはなは何も言えなかった。

「そうよ、はなさんは東京で夢を追いかけるべきよ!」

「せっかくここまで来たんだから … 面接頑張って」


亜矢子や鶴子もはなが夢をあきらめないようにと背中を押した。

「ありがとう … 頑張るわ」

そう答えたはなだったが、表情は冴えなかった。

* * * * * * * * * *

面接の日はやって来た。

はなの前には、面接官の向学館のお偉方がふたり並び、梶原がまず口を開いた。

「君は、この会社に入ったら、どんな本を作りたいの?」

「それは …

大人からも子供からも愛されて、読んだ人が思いっきり想像の翼を広げられるような … そんな素敵な物語の本を作りたいんです」


常日頃口にしていたことだった。

はなの答えは、どうやら面接官に好印象を与えたようだ。

「親御さんは、あなたが働くことに賛成ですか?」

面接官のひとりが尋ねた。

はなは一瞬ふじの顔が思い浮かんだ。

「はい」

しかし、躊躇なく答えてしまった。

「安東はなさん、卒業したらこの編集部で働いてください」

余りにもあっけなく採用を言い渡されて、俄かに信じられない心地だった。

* * * * * * * * * *

喜びは、じわじわと込み上げてきた。

梶原もうれしそうな顔をしている。

「おめでとう ~ 君はついてたね」

はなは満面の笑顔でうなずいた。

「これからは女性の意見を積極的に受け入れるべきだと、僕が提案して … 編集部に女性社員を入れることになったんだ。

安東君なら、ぴったりだと思うよ」


時代を読んで、いち早く女性にも目を向けた社の方針とはなの才能が上手く適合したのだろう。

「親御さんもお喜びになるでしょう?」

「おうちは山梨の甲府ですか?」

「ええ」


面接官はどんな場所だか尋ねた。

「 … ブドウ畑と田んぼしかない所ですが、うちの庭からは富士山が見えます」

「へえ、富士山が?!」

「盆地なので、冬は寒くて、空っ風が冷たくて … 母の手はいつもあかぎれだらけです。

いつも私たちの心配ばっかりしてます」


何故か口をついて出てくるのは、ふじのことばかりだった。

「風邪ひいてねえか? 腹空かしてねえか? こぴっとやってるかって … 」

* * * * * * * * * *

「母は字の読み書きができなかったのに、私の知らない間に一生懸命、字の練習して … 私に初めてハガキを書いてくれました」

『はなの帰りを楽しみに待っています … 』

はなの耳にふじの声が聞こえた。

ふいに黙り込んで、俯いてしまったはなを見て、面接側の3名が不審な顔になった。

「 … 安東君、どうかしましたか?」

「ごめんなさい … 」


梶原に声をかけられても、はなは顔を上げることができず、泣き声だった。

ますます首をかしげる梶原たち。

「 … ウソなんです」

涙をぬぐいながらようやく顔を上げた。

「両親が賛成してくれているなんてウソなんです。

母はずっと私の帰りを待っています … この10年間、ずっと待っててくれたんです。

なのに、お母の気持ち全然分かってなくて … ああ、ほうじゃねえ … 本当は心のどっかで分かってたはずなのに、自分の都合のいいように気づかんふりしてただけずら」


また涙が溢れてきて止まらなくなってしまった。

* * * * * * * * * *

面接官のふたりは顔を見合わせている。

突然、はなは立ち上がって … そして、深く頭を下げた。

「ごめんなさいっ、私 … やっぱり、ここで働けません。

甲府に帰ります。

本当に申し訳ありません!」


あ然としている梶原たちを残して、部屋を飛び出してしまった。

* * * * * * * * * *

< はなはどうするつもりでしょう?

甲府に帰ったところで、仕事の当てもないのに … >

廊下をとぼとぼと歩いていると、向かいからきた男性とすれ違った。

「安東はなさん」

ぼんやりしていて気がつかなかったが、声をかけてきたのは村岡英治だった。

「あ … 村岡印刷さん」

「どうしたんですか?」


余りにもはなが沈んでいるので英治は心配そうに顔を覗き込んできた。

「 … まるで樹から落ちたナマケモノみたいな顔をしてますよ」

はなは抗議する気力もなかった。

落ちた? … そう、私は落ちたんだ …

「落ちたんです …

今日、面接をしていただいたんですけど」


はながそれしか話さなかったので、英治は面接官に落とされたものと勘違いしたようだ。

「ああ … そうでしたか … 」

はなのことを気の毒そうな顔で見つめた。

「いつぞやは、英英辞典ありがとうございました」

はなはそんなことを口走っていた。

あれ以来、会う機会に恵まれず、そのままになっていたことを不意に思い出したのだった。

本来ならば、このような場でついでのように礼を言うのは失礼なことなのだが …

「あの辞書を持って甲府に帰ります」

甲府に帰れば、英治とはもう二度と会うこともないだろうと思ったのだ。

「えっ、甲府に帰ってしまわれるんですか?」

意外そうな顔をした英治に言葉もなくうなずいて別れを告げ歩き出したはな。

* * * * * * * * * *

「 … ナマケモノは、樹にぶら下がりながら、夢を見てるんだろうと思います」

はなは首を傾げながら、振り向いて英治のことを見た。

「だから、あなたも夢を忘れないでください」

英治は、真剣なまなざしではなのことをじっと見つめていた。

< つくづくトンチンカンな人だとはなは思いました。

でも、どういう訳か … 少しだけ、はなの心は明るくなりました >

自分でも何を言っているのか自信がなくなったのだろう … 英治は照れ笑いしはじめた。

しかし、はなが吹き出して笑顔になると、ホッとしたように、今度はひときわさわやかな笑顔を見せた。

「ごきげんよう … さようなら」

はながお辞儀すると、英治も同じように頭を下げて返した。

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月15日 (木) | 編集 |
第40回

製糸工場で女工として働いているはずのかよが突然、秀和女学校の校門の前に現れた。

「 … 会いたかった、お姉やん!」

ボロボロの姿をしたかよは驚いているはなの腕にすがってただ泣き続けた。

* * * * * * * * * *

「かよが?!」

一方、甲府の安東家には、かよの行方を捜して仕事をあっせんした男が怒鳴り込んでいた。

「かよ、いつ工場からいなくなったですか?!」

「一週間前だ!

前金の分もまだ働いてねえだに、見つからなんでも金は利子つけて返してもろうぞ!」


男は凄むとひとまず引き上げていった。

「お姉やん何処へ行ったずら?」

「かよ、かよ ~ !!」


狼狽して、かよの名を呼ぶふじを吉太郎は必死に宥めた。

* * * * * * * * * *

はなは取りあえず、かよを寄宿舎へ … 亜矢子の好意で彼女の個室に連れて行った。

かよは出された食事を平らげると、ようやく落ち着きを取り戻したようだった。

「 … こんな美味えもん食えるなんて、生きててよかった」

「かよ、痩せたね … 」


顔色も青白く、やつれた妹を目にして、はなは胸が痛んだ。

「朝の5時から夜の8時まで、機会の前に立ちっぱなしで … 死ぬほどしんどかったけんど、おれが辛抱できたのは、さっちゃんがいたからじゃん」

「さっちゃん?」

「1日中、機械の前に居ると、立ったまま眠りそうになるだよ。

ふんな時、さっちゃんと歌歌って、眠気を吹き飛ばしただよ」


さっちゃんという友達も、かよと同じように貧しい家のために働きに出たのだろう。

「ふんだけんど … さっちゃん、病気になっちまって、働けんくなって、田舎に帰されただよ」

劣悪な労働環境の中、胸を患ってしまったのだ。

かよは僅かな給金の中からクッキーの缶の中に溜めておいた小銭を餞別としてさっちゃんへ渡したそうだ。

「さっちゃん、おらの手握って言っただよ … おらみたいになる前に、こっから逃げろって」

さっちゃんがいなくなってから、1日中ただ黙って機械の前に立ってると … 自分が生きてるのか死んでるのかよく分からなくなって … 

「プツッと、辛抱の糸が切れちまっただよ … 」

ある晩、皆が寝静まったのを見計らって、工場から逃げ出してしまったことを涙ながらに語った。

* * * * * * * * * *

「かよ … 」

頼れるものは姉の自分しかいないと、必死にここまでたどり着いたかよの気持ちを考え、はなは身につまされる思いだった。

細くなってしまった手を取り、背中を優しくなでた。

「おら、死んでも工場には戻らねえ … ふんだけんど、女工は5年の約束だから、借金がまだ残ってる。

うちに帰ったら、工場に連れ戻されるだよ。

おら、東京で仕事見っけて、必死に借金返すつもりだ」


うちには知らせないでくれと泣きながら懇願した。

* * * * * * * * * *

「かよ、今日はゆっくり体休めて … 先のことはまたゆっくり考えよう」

亜矢子は、かよが今夜この部屋に泊まるように告げて実家に戻っていた。

はながそのことを伝えると、かよは安心して笑顔になった。

「本当け … このふかふかの布団で寝ていいだけ?」

「いいだよ」


工場から逃げてくる途中、まともに寝てもいなかったのだろう。

死んだように眠るかよの寝顔を見ながら、はなはある決心をしていた。

「かよ、お姉やん、決めた。

もう二度とかよを工場に行かしたりはしねえ … お姉やんも東京で仕事捜すから、一緒に頑張ろう」


翌朝、かよが目を覚ますのを待ってその決意のほどを伝えたのだ。

* * * * * * * * * *

亜矢子が用意して来てくれた朝食のサンドウィッチ。

「美味えな ~ 」

生まれて初めて口にした西洋の食べ物、かよはその余りの美味しさに幸せそうな顔をした。

ところが、かよの存在はほどなく茂木の知るところとなってしまった。

頭隠して尻隠さず … 突然、亜矢子の部屋を訪れた茂木にかよの草鞋を目ざとく見られてしまったのだ。

* * * * * * * * * *

『カヨブジ アンシンセラレタシ』

茂木から届いた電報を見て、安東家の人々は一応は安堵の胸をなでおろした。

「とにかく無事でよかったよ ~ 」

うなずき合うふじと周造だったが、ももは首をひねっている。

「ふんだけんど、なんでお姉やんの学校に居るで?」

「 … そうさな?」


迎えに行くといきり立つ吉太郎だったが、それを制してふじが自分が行くと言い出した。

「おらに行かしてくりょう ~ ここは、母親としてこぴっとしないとな」

周造は仰天した。

ふじは、生まれてこの方、甲府を出たどころか汽車にも乗ったことがないのだ。

* * * * * * * * * *

その上、安東家の家計ではひとり分の汽車賃でさえままならない。

ふじは地主の徳丸甚之介に頭を下げて借金を申し込んだ。

甚之介は渋い顔をしながらも、往復の汽車賃どころか製糸工場の前金の残りまで立て替えてくれたのだ。

この男が時々見せる幼なじみのふじに対する優しい一面だった。

「子を思う気持ちは、わしにもよく分かる」

「本当に恩に着ます … 」


ふじは仏様でも見るような目で甚之介に礼を言った。

「だけんど、おまんの亭主は一体どうなってるだ?

行商に行ったきり、もう3年も帰っちゃねえちゅうじゃん」

「いいえ ~ 2年と10ヶ月です」

「 … ふじちゃんも苦労するじゃん。

ほんな薄情な亭主とは別れた方がいいら ~ なんなら … わしが面倒みてやっても??」


いつの間にか、ふじの姿は跡形もなく消えていた。

* * * * * * * * * *

< 福岡の石炭王に嫁いだ蓮子は、夫や娘たちを教育しなおそうと、孤軍奮闘しておりました >

ふたりにテーブルマナーを覚えさせるため、朝食も洋食を用意させた。

慣れないナイフとフォークに焦れた伝助は、皿を手で掴むと目玉焼きに直接口をつけて黄身をすすり始めてしまった。

その音に顔をしかめる蓮子。

冬子もフォークを箸のように持ち替えてしまっている。

「さあ、どうぞ ~ 冬子さん」

蓮子はコップに牛乳を注いで、冬子の前に置いた。

「うちは牛乳は好かんと … 」

… この時代はまだ牛乳は一般的にはあまり飲まれてはいなかった。

鼻をつまんでいる冬子に伝助は言った。

「頑張って飲め ~ 牛乳を毎日飲みよったら、西洋人のごと色が白うなるそうじゃ」

「それは違います。

身体は丈夫になりますが、色が白くなるなんてどの本にも書いてありません」


蓮子の言葉に伝助は舌打ちした。

「俺は … 本は読みよらんきね」

「間違ったことを子供に教えるのはよくありません」


理路整然とした蓮子の物言いは伝助を閉口させた。

「 … ごちそうしゃん。

おとっちゃん、行ってきます」

「おお、行って来い」

「おとっちゃんではなく、お父様と呼びましょう。

冬子さんはもう大きいんですから … 」


蓮子は躾と思っているのだろうが、冬子にしてみれば口やかましいだけだった。

振り向いた冬子は蓮子のことを無言でにらみつけると食堂から出て行ってしまった。

* * * * * * * * * *

「ほんなこつ、旦那様がお気の毒じゃ ~

あげな気取った人と居ったら、息が詰まるし、オナラもできん」


タミを頭とする女中たちも裏では蓮子のすることを笑っていた。

「お姫様は何でん自分の思い通りにせにゃ、気が済まんとやき」

そんな蔭口が蓮子の耳に届かない訳はなかった。

… 孤独だった。

* * * * * * * * * *

< はなはかよと東京で暮らすことを考え、本腰を入れて就職活動を始めました >

「そう、もう卒業か?」

出版社で働くことを望んだはなは、かつて高等科の頃にアルバイトしたことがある向学館に梶原を訪ねていた。

「でも、女の子にはお勧めできないね ~ 何しろ出版社っていうのは忙しいからね」

「構いません、私体力には自信ありますし … 小間使いでも何でもします!」


『小間使い』という言葉で梶原は当時の記憶がよみがえったようだ。

「そう言えば、君は翻訳もできる優秀な小間使いだったね」

ニッコリとうなずいたはなに梶原は、上層部に掛け合うことを約束した。

「よろしくお願いします!」

* * * * * * * * * *

< 一方、初めて東京にやって来たふじは … >

茂木に案内されて、かよと談話室で再会を果たした。

「かよ、痩せたじゃん、色も白くなっちまって … 」

「お姉やんにも同じこと言われた。

お母、おらもう工場には戻らねえ … あんなとこ死んでも戻らんから」


製糸工場での過酷な日々を想像して、ふじは沈痛な面持ちでかよを見つめた。

「よっぽど、つれえ思いしただな ~

ほれじゃあ、うちに帰ってこうし … お母やお祖父やんたちと百姓やれし」


しかし、かよは母の言葉にかぶりを振った。

「帰らねえ … おら、もう貧乏はやだ!

東京で仕事見っける」


かよの口から思いもよらぬ言葉を聞いて、ふじは驚いている。

「東京でえ??」

「東京なら、なんぼでも働き口があるし … お姉やんもいるし」


すると、ふじは冗談でも聞いたかのように笑い出した。

「何を言うだ?

はなはもうすぐ卒業するだから、甲府に帰ってくるだよ」

「えっ?」


* * * * * * * * * *

その時、ふじの上京を知ったはなが談話室に飛び込むように入ってきた。

「お母 ~ ひとりで来ただけ?」

「ほうだよ、かよが心配で記者に飛び乗っただ!」


抱き合って喜ぶふたりを見ながら、かよは少し複雑な気持だった。

「よくひとりで来られたじゃんね ~ 」

かよははなに何処へ行っていたのか尋ねた。

「出版社に雇ってもらえるかお願えしに行ってきただ」

「出版社?」


今度はふじが不思議そうな顔をしてはなに尋ねた。

「 … 何のことでえ?」

話の順番が逆になってしまったが、はなはふじに卒業後、東京で働きたいことをこの時初めて伝えたのだった。

「出版社に働くこんになったら、甲府には帰れねえけんど … お母、ほれでもいい?」

しばし呆然としていたふじだったが、すぐに笑顔を作ってうなずいた。

「ああ、いいに決まってるじゃんけ」

ハッとしてふじを見つめるかよ。

「はなの好きにしろし!」

笑っているけど、無理をしているのが手に取るように分かった。

「ありがとう!」

だが、はなにはそれが分からず、嬉しいばかりでふじに抱きついた。

< はな … お母の本当の気持ちを分かってやれし … 

ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月14日 (水) | 編集 |
第39回

< 嘉納伝助と蓮子は東京で盛大な結婚式を挙げた後、炭鉱のある福岡へやって来ました >

福岡での祝宴は、嘉納邸で三日三晩続いた。

金屏風の前に用意された高砂席に伝助とふたり並んで座らされた目の前で、繰り広げられる飲めや歌えや踊れやの饗宴 … それは、蓮子がこれまで見てきたのとは、余りにもかけ離れた世界だった。

「なんとまあ、きれいな博多人形んごたるな ~ 」

「なんとまあ、見事な着物ばい」


東京から来た華族出身の美しい花嫁を始めのうちは遠巻きに見ていた招待客たちだったが、酔いが回った勢いで高砂の前に集まってきた。

「冥土の土産にもうちっとよう見せてくれんな!」

酔客の注文に伝助は勢いよく新妻の名を呼んだ。

「蓮子! … しゃん」

しかし蓮子に見据えられて、思わず敬称をつけてしまった伝助を皆が大笑いした。

「自分の嫁ごに『しゃん』ばつけるとは、おかしかろうもん!」

「皆、お前の着物を見たがっちょるきに、立ってくれんね」


伝助は、しくじりを取り返すかのように強い口調で言った。

蓮子の顔色が変わった … それではまるで見世物ではないか?!

* * * * * * * * * *

はやし立てる一同、一向に腰を上げようとしない蓮子に伝助は立つように促すと、まず自らが立ち上がった。

「さあ、立て立て立て ~ !」

扇を持って両腕を大きく広げたのを合図に三味線が鳴り始め、それに合わせるように手拍子が起こった。

これで立たなかったら、伝助の面子は丸つぶれだということは蓮子にも理解できた。

戸惑いながらもゆっくりと立つと、大きな歓声が上がった。

「後ろん帯も見せてくれんね ~ 」

「回ってくれ … 回れ回れ回れ ~ !」


蓮子は屈辱を感じながらも、伝助に言われるがまま、ぎこちなくその場で身体を一周させた。

* * * * * * * * * *

取りあえず、客たちは満足したのか、それ以上の注文はせずに、それぞれ飲み食いの場所に戻っていった。

憮然とした顔で座りなおした蓮子。

伝助は手酌で酒を呷っているが、そんな蓮子が気になるのかチラチラと見ている。

その時、奥から赤い着物を着た少女が現れて、伝助の横に座った。

「飲むか?」

少女に向かって冗談を言った伝助は今まで見せたことがないような優しい表情になった。

膳の上の料理をつまみ食いされても笑って見ている。

「 … あの、そちらの可愛らしいお嬢様は?」

蓮子は何となく気になって、伝助に尋ねた。

「ああ ~ まだ紹介しちょらんやったな。

娘の冬子ばい」

「娘?!」


< 蓮子は耳を疑いました。

伝助には子供がいないと聞いていたのです >

「こん人が今日からお前のおっかしゃんたい」

そう言われて、冬子の顔がとたんに強張った。

「 … ほれ、挨拶せんか?」

「こげなお姫様、おっかしゃんとか呼べんばい!」


敵意丸出しで蓮子のことをにらみつけるとぷいっと引っ込んでしまった。

* * * * * * * * * *

延々と続いていた宴も終わり客も引き上げて、蓮子はようやくさらし者のような席から解放された。

「くたびれたか?」

蓮子の仏頂面は変わらない、返事さえしない。

「 … くたびれて口もきけんとね?

何べんもくるくる回らして、すまんやったね」


伝助なりに悪いことをしたと、気にしていたのだろう … しかし、蓮子が腹を立てている理由はそのことではなかった。

「私は騙されていたのでしょうか?」

「騙された?」


意外という顔をして驚く伝助を蓮子は問い質した。

「亡くなった奥様との間に子供はいらっしゃらないと伺いました」

「ああ ~

女房との間には、子供はおらん … 冬子は、外ん女に産ませた子たい」


一切悪びれることなくそう答えた。

「ウソは言うとらんばい?」

伝助は、愉快そうに声を上げて笑った。

< 何故ここでこの人は笑えるの?

… 頭が真っ白になる蓮子でした >

* * * * * * * * * *

「旦那様、博多んお客さんが大層お迎えに来ちょりますばい」

女中頭の山元タミからの報告を聞いて、伝助は席を立った。

「今日はゆっくり休んじょけ」

蓮子にそう言い残すと、居間から出て行ってしまった。

「あの … 博多のお客様とはどなたですの ~ 私もごあいさつした方がよろしいですか?」

蓮子に尋ねられたタミは笑いながら答えた。

「奥様、挨拶はいらんとですよ ~ 迎えに来たとは、馴染みの芸者衆やき」

「芸者?」

「旦那様、今夜は帰って来んしゃれんですばい」


< どうやら、嘉納伝助との結婚生活は、蓮子の想像を絶するものになりそうでございます >

* * * * * * * * * *

時は流れ … 1913年(大正2年)・1月。

< 年号は明治から大正に替わり、はなは高等科の最上級生になりました >

更に英語力に磨きをかけたはなは、教育実習で初等科の後輩たちの前で教壇に立つ姿も様になり始めていた。

* * * * * * * * * *

「はな、あと2ヶ月で卒業ですね … はなの帰りを楽しみに待っています」

娘たちに手紙を出したい一心で手習いを続けていたふじも何とかひらがなで手紙を書くことができるまでになっていた。

ずっと懲りずに指導して、つき合ってくれていた朝市のお蔭だった。

「はあ ~ 朝市、字間違ってねえけ?」

ふじが書き上げたはなへのハガキを見て、朝市は微笑んだ。

「完璧じゃん」

「ははは … やっとこさ書けたよ ~ 」

「あっ!」


気を緩めた途端、ハガキの上にお茶の入った湯呑を倒してしまった。

「せっかく書けたに ~ もうハガキないだよ」

ももが、びしょびしょになってしまったハガキを手にして眉をひそめた。

「 … またこんだ書くさ ~ 朝市、勉強忙しいだに悪かったじゃんね」

「いいえ ~ ほんじゃまた」


* * * * * * * * * *

ふじはあのように書いてはいるが、朝市ははなが本当に甲府に帰ってくるかどうか不安だった。

「朝市さん!」

気がつけば、ももが朝市を見送りに外まで出てきていた。

「何でえ?」

朝市に見つめられると、ももは少し恥ずかしそうに言った。

「もうすぐ学校の先生ずら ~ こぴっと頑張れし!」

「 … ありがとう」


< 朝市は念願がかなって、師範学校に通っていました。

一方、小さかった末っ子のももも、すっかり娘らしくなりました >

* * * * * * * * * *

はなの教育実習の指導係は富山だった。

「安東さん、卒業後はどうするか決まりましたか?」

「いいえ、まだ何も決まってなくて … 少し焦ってます」


すると富山は思いもよらぬ提案をした。

「ここに残って、英語の教師をやる気はありませんか?」

「えっ?!」

「あなたは給費生にもかかわらず、何度も問題を起こして、ブラックバーン校長や先生方を困らせ … おまけに私の授業も散々邪魔してきました」


はなは恐縮して、頭を下げた。

しかしそれは、容易くはなのことを褒めない富山の本題に入る前の前置きの様なものだった。

「ただ、英語の実力だけは確かです。

あなたにやる気さえあれば、私からブラックバーン校長に推薦しましょう」


富山もまたはなの才能を認めているひとりだったのだ。

あ然としているはなに富山は尋ねた。

「 … 私の同僚になるのは嫌ですか?」

「いえ、そんな … 勿体ないようなお話です。

けど …

10年間、東京で勉強させてもらった家族のことも気になって、山梨に帰ろうかとも … 」


はなが進路に迷っている最大の理由はそれだった。

「山梨に帰っても、あなたがここで身につけたものを生かせる仕事は … ないと思いますよ」

* * * * * * * * * *

「英語の教師か … 」

中庭に出てぼんやりとつぶやいたはな。

「それだけはやめた方がいいわ … 富山先生みたいに生涯独身を通すことになってもいいの?」

振り向くと亜矢子が笑っていた。

「醍醐さん?!」

「やっと決まったわ ~

醍醐亜矢子、この度、お医者様と婚約いたしました!」

「ええっ?! おめでとう!」


裏庭に居た生徒たちが亜矢子を取り囲んで祝いの言葉を贈った。

< 婚活に命を賭けていたあの醍醐にしては、遅すぎるくらいです >

* * * * * * * * * *

「両親に頼み込んで寄宿舎に戻ることにしたの。

最後に皆さんと楽しい思い出が作りたくて」


はなと同室になることを望んだのだが、生憎以前の部屋は鶴子の他にすでに『小さい人』たちが入っていて叶わなかった。

そんな亜矢子が入ることになったのは、蓮子が使っていた個室だった。

< そこは、はなにとって、蓮子との思い出がたくさん詰まった部屋でした >

はながこの部屋に足を踏み入れたのは、『あの日』以来初めてのことだった … なるべく近づくことさえ避けていたのだ。

「はなさん、そう言えば … 葉山様どうされてるかしら?

あれから一度もお便りしてないの?」

「ええ … さあ、急いで片付けましょう」


曖昧な返事をしたはなは意図的に話題を変えた。

心の傷が癒えたわけではなかった … しかし、蓮子のことを思い出す回数は確かに減っていた。

* * * * * * * * * *

同室の後輩ふたりは、はながこの学校にやって来たころと同じ年代の初等科の生徒で … はなも鶴子も時間が許す限り、後輩たちの勉強を見る心優しい先輩だった。

「分からない単語があった時は、すぐに辞書を引くクセをつけましょうね。

そうすればどんどん英語が好きになりますから … 」


はなが抱えるようにして英英辞典を机の上に置くと、後輩たちは目を丸くした。

「はなさんの辞書、大きくて立派でしょ?」

「これはね、出版社で翻訳のお仕事をお手伝いした時にいただいたの」


今のはなにとってこの辞書が掛けがえのない相棒だった。

「出版社のお仕事は大変でしたか?」

後輩のひとりが無邪気な質問をした。

「いいえ、ちっとも … 本を作るお仕事は、好きな本を読む時と同じぐらいワクワクして、時間があっという間に経つの。

あんな仕事につけたらな ~ 」


そんな話をしているうちに、はなはいつの間にか想像の翼を広げていた。

* * * * * * * * * *

「編集長!」

はなは向学館の編集長になっていた。

「何だ?」

髭を生やしてパイプをくわえたはなが偉そうに振り向くと、そこには格下げになった梶原聡一郎がいた。

「次の企画、恋愛特集はいかがでしょうか?」

はなは梶原が差し出した企画書にざっと目を通した。

「悪くないな。

… が、もっといい案はないか?」

すると、梶原を押しのけて顔を出したのは村岡英治だった。

「編集長!」

「何だ、また君か?」

「僕は『珍獣』の本がいいと思います」

「 … そうくると思ったが、却下します!」

「どうしてですか?

バカが読んだってわかるし、可愛いですよ!」

しつこく食い下がる英治は、はなにナマケモノの絵を差し出した。

はなはそれを振り払うと席から立ち上がった。

「私はもっと、ワクワクした素敵な本を作りたいの!

子供からも大人からも愛されて … 読んだ人が思いっきり想像の翼を広げられるような … 」

* * * * * * * * * *

目をつぶって両手を一杯に広げ羽ばたかせながら、満面の笑みを浮かべるはなを見て、鶴子と後輩たちは顔を見合わせて笑っている。

「はな先輩はね ~ 時々こうなってしまうのよ … ねっ」

鶴子に肩を叩かれて、ハッと我に戻ったはなは、少し気まずそうな顔をして見せた。

「はなさん、出版社って女の人がお勤めするのって、難しいわね?」

「そうよね … 」


はなは完全に現実の世界に連れ戻されてしまった。

* * * * * * * * * *

その若い女性は、薄汚れたボロボロの着物をまとい、髪は乱れ、青白い顔で虚ろな目、胸には西洋のお菓子の缶のようなものを大事に抱えて、ふらつく足取りで秀和女学校の校門の前に近づいてきた。

生徒たちから不審な目で見られていることに気づいて顔を伏せた。

休み時間の終わりを報せる鐘の音が聞こえる。

「このきんつばも卒業したら食べられないでしょ、この際太ってもいいわ」

そんな話をしながら、亜矢子とはなが校門へと続く緩やかな坂道を上ってきたその時だった。

目の前で若い女性が倒れてふたりの足元に缶が転がってきた。

「しっかりなさって、大丈夫ですか?」

慌てて駆け寄るふたり。

倒れている女性の顔を見たはなに衝撃が走った。

「 … かよ?」

それは妹のかよだった。

「お姉やん … 」

蚊の鳴くような声がかよの口から漏れた。

「かよ、どうしたの?」

… 製糸工場で働いているはずのかよがどうして東京に?

突然、かよははなの胸にすがって泣き出した。

「会いたかった ~ お姉やん、お姉やん … 」

< かよの身に一体何があったのでしょう?

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月13日 (火) | 編集 |
第38回

自分にひと言も話さずに、嘉納伝助との結婚を決めてしまったことを責めるはなに蓮子は言った。

「この結婚は私が望んだんです」

「 … 蓮様が?!」

「あの方と結婚すれば何不自由なく暮らせるわ … もう、兄たちの世話にならなくて済むわ。

これでやっと、私も自由の身になれるのよ」

「お金のために結婚するの? … そんなの自由って言える?

蓮様、私に言ったじゃないですか?!

これからは男の人に寄りかからずに自分の足で歩ける時代がくるって、蓮様が教えてくれたのよ!」


必死に訴えるはなに蓮子は冷たく言い放った。

「はなちゃんは、頑張ってそっちの道へ行けばいいでしょ?

私はもう24だし、出戻りよ … もう頑張ったってしょうがないわ」


はなはその手で蓮子の両腕を掴んで自分の方へ向き直させた。

「本気で言ってるの?!」

すると、蓮子は微笑みながらはなの手を解いた。

「これからは石炭王の妻として、新しい土地で楽しくやっていくつもりよ」

* * * * * * * * * *

「 … お金があるって素敵ね。

あの方は福岡に女学校を建てようとしてるの。

きっとここよりも立派な学校になるわ … そういう人の妻になるのよ。

どこが恥ずかしいのかしら?」


はなは平然と口にする蓮子のことが情けなかった。

「それじゃあ、お金で買われていくのと同じじゃない!」

はなの口から放たれた言葉は蓮子の心を激しく揺さぶった … それは彼女自身が兄のことをなじった言葉だった。

蓮子は心の内の動揺を悟られないように背を向けた。

「世間の誰もがそう思ってるのは知ってるわ。

新興成金の石炭王が、莫大な結納金で伯爵家の娘を妻に迎えようとしている … お金で買われた花嫁だって、三面記事にも書いてあるもの。

でも、それがどうかして?!」


* * * * * * * * * *

「やっぱりおかしい … 蓮様、何か大事なこと誤魔化そうとしている。

だって、ちっとも蓮様らしくないもの」


はなの知っている蓮子だったら、決して口に出さない … それどころか、本人が一番忌み嫌い軽蔑する様なことを婚約の理由に挙げている。

余りの豹変ぶりは、何か特別な理由があると考えなければ、到底納得できるものではなかった。

「あら、はなちゃんは私のこと、そんなによく知っているの?

… 私はずっとこうよ」


しかし、蓮子は悲しい演技を続けるしかなかった。

「純情で世間知らずなはなちゃんに、これまで合わせてただけ」

それがはなのためであると信じているからだった。

「 … よく分かったでしょう?

これは私が望んだ結婚なの ~ 今の私には、この結婚しかないのよ。

私は上手くやったのよ」


* * * * * * * * * *

「だからはなちゃんも祝福して」

蓮子は鞄から一通の封筒を取り出した。

「東京で盛大に披露宴をやるから是非いらしてね」

「いやよ!」


差し出された招待状を叩き落として、今度ははなが背を向けた。

「披露宴なんか行かないわ … おめでとうも絶対に言わないからっ!」

はなの肩が小刻みに震えている。

「はなちゃん … 怒るか泣くか、どっちかにしたら?」

「泣いてなんかないわ!

寒くて、鼻水が出てきただけ … 蓮様、どうしてそんな冷静でいられるの?

もう会えなくなるかもしれないのに」


この時、もしはなが振り向いてさえいたら、蓮子の悲しげな顔を見て、彼女の本心に気づくことができたかもしれない。

涙を堪えて、帰り支度を始めた蓮子は、はなが叩き落とした招待状を拾ってテーブルの上に置いた。

「 … ごきげんよう」

背を向けたままのはなに挨拶すると部屋をあとにした。

* * * * * * * * * *

部屋を出た蓮子は唇をかみしめて歩き出した。

気を抜くとその場に泣き崩れてしまいそうだった。

「蓮様、待って!」

ハッとして振り向くと、はなが後を追いかけてきた。

「やっぱり、そんな結婚間違ってるわ。

結婚式なんてすっぽかして、どっかに逃げましょう ~ ねえ、私もつき合うから!」


はなは蓮子の鞄に手をやった。

「しばらくどっかに隠れるの … そうだ、山梨のうちはどうかしら?」

蓮子が一番恐れていたことだった。

はなが真実を知ったら、自分のためにどんなことも厭わずに行動を起こすだろう … それが分かっていたから、ひと言も相談しなかったのだ。

兄の許しを得てこうしてやって来たのだ。

「はなちゃん何言ってるの … 私がいつそんなこと頼んだの?」

「蓮様が夢をあきらめてしまうの私どうしても嫌なんです。

… 言ってたじゃないですか?

一度でいいから、誰かを心から愛したいって … 蓮様、まだその方と巡り合ってないじゃない!」


涙ながらに訴えるはな。

「今結婚したら、きっと後悔する。

… 今ならまだ引き返せるわ」


* * * * * * * * * *

はなの言うように、今この場所からふたりで逃げ出せたらどんなにかいいだろう … しかし、それははなの人生も巻き込んでしまうことになるのだ。

そんな葛藤を断つために、蓮子ははなの手を振り切った。

「いい加減にしてくださらない!

子供じみた友情ごっこはもうあきあきしました」

「友情ごっこ?!」

「 … まさか本当に私と腹心の友となれたと思った訳じゃないでしょうに!

そもそも、伯爵家で育った私と山梨の貧しい農家で育ったあなたでは、住む世界が違いすぎるんです!

… さようなら!」


* * * * * * * * * *

「蓮様 … 」

はなは、もう蓮子の後を追うようなことはしなかった。

早足で廊下を去って行く彼女の後姿をただ茫然と見送るだけだった。

* * * * * * * * * *

数日後、蓮子からクラスメートたちに披露宴の招待状が届いた。

「さぞかし盛大なご披露宴でしょうね」

「きっとご招待者は、政界や財界のお偉い方ばかりよ」


< おやおや ~ ついこの間、怖そうなおじさまだとか新郎の悪口を言っていたのに、随分な変わりようですこと。

いつの時代も女性は、パーティがお好きですからね >

皆の話の輪に加わらず、ひとり蚊帳の外で沈み込んでいるはな。

「はなさん、もちろんいらっしゃるわよね?」

「お気持ちは分かるけど、皆でお祝いして差し上げましょうよ」


亜矢子たちが気にして声をかけてきたが、はなはとてもそんな気持にはなれなかった。

「 … 私は着ていく着物もないから」

そんな口実で、浮かれた雰囲気の教室を出て行ってしまった。

* * * * * * * * * *

< そして、結婚式の日がやって参りました >

「まあ、きれい」

「お美しいわ ~ 」


控室を訪れた茂木、亜矢子と鶴子の3名は、文金高島田を結い、豪華な花嫁衣装を身にまとった蓮子のあまりの美しさに目を見はった。

「蓮子さん、ご結婚おめでとうございます … 心からお祝い申し上げます」

茂木の祝辞に会釈をした蓮子の目がはなの姿を探していることを亜矢子は察していた。

「はなさん、今日は来られなくなってしまったんです」

「 … そうですか」


蓮子は、あんな風に別れたのだからと、期待はしていなかった … しかし、平静を装っても心のうちはひどく落胆していた …

「蓮子さんの花嫁姿、眩しいくらい美しかったと伝えておきます」

茂木たちが出て行った後、蓮子は改めて鏡に映る自分の顔を見つめた。

これほど悲しい顔の花嫁がいるだろうか …

< その時、蓮子は思い知ったのです。

掛けがえのない親友を得た喜びと、それを失うことの悲しみがどんなに大きいか … >

* * * * * * * * * *

はなは誰もいない女学校の中庭に立ち、蓮子がいた寄宿舎の部屋を見上げていた。

そっと目を閉じると …

初めて蓮子と出会った日のことが鮮明に浮かんできた。

あれは春、桜吹雪の中、校門の前に停まった自動車から下りてきた蓮子。

その気品ある美しさにしばし目を奪われてしまったはな。

「ごきげんよう … 校長室は何処かしら?」

* * * * * * * * * *

「ご案内し … 」

思わず口走って、ハッと現に戻ったはなだった。

… 蓮子はもういないのだ。

部屋に戻ったはなは、読みかけの本に挟んである栞をそっと引き抜いて見つめた。

* * * * * * * * * *

「はなちゃんは、花子と呼ばれたいって言ってたわよね?

世に自分の作品を出す時に、その名前を使えばいいじゃないの」

『翻訳者 安東花子』と蓮子は栞に書いた。

「蓮様の夢は燃えるような本物の恋 … ですよね?」

「ええ … そして、恋の歌をたくさん作るの」

『歌人 白蓮』とはなのペンネームの隣に書き添えた。

決してもう戻ることのない幸せな日々。

… 栞はそんな思い出深い大切なものだった。

* * * * * * * * * *

ひとりの控室、蓮子の目にあふれる涙。

「はなちゃん … ごめんなさい」

はなを傷つけてしまった。

悲しそうな顔をして泣いていた …

大切な友だから、こんな別れ方を選ぶことしかできなかった蓮子だった。

* * * * * * * * * *

ふたりは離れた場所でお互いのことを思ってただただ涙を流していた。

* * * * * * * * * *

控室の外で披露宴が始まることを報せる声がした。

蓮子は涙を堪え、顔を上げて席を立った。

* * * * * * * * * *

『筑豊の炭鉱王嘉納伝助氏 葉山伯爵令妹と挙式』

< 新聞はこぞって、婚礼の記事をかきたてました。

ふたりの結婚式は東京で200余名の客を招き、盛大に執り行われました。

… 式の後、福岡での祝宴は三日三晩続きました >

目の前で繰り広げられる饗宴、蓮子はただ虚ろな顔でじっと宴が終わることを待ち続けるだけだった。

< そこは、蓮子がこれまで見てきた世界とは、余りにもかけ離れていました。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月12日 (月) | 編集 |
第37回

< はなの蓮子への友情は、初恋にも似た感情でございました。

ふたりが甲府から戻った直後のこと … >

はなは、亜矢子から見せられた新聞で、蓮子が筑豊の石炭王・嘉納伝助と婚約したことを知って愕然となった。

「 … 蓮様、どうして?」

「まさか、はなさんも何も聞いてなかったなんて … 」

「こんなのウソよ、何かの間違いよ!」


はなは蓮子の部屋へと走った。

「蓮様、はなよ … 開けて!

あんな記事、でたらめよね?!」


ドアには鍵がかかっていて、必死に叩いたが返事はなかった。

「蓮様、答えて! 蓮様!」

取り乱して、ドアを壊さんばかりのはなを止めたのは茂木だった。

「 … 蓮子さんはいませんよ。

ご婚礼の支度でおうちにお帰りになりました」


茂木も辛そうにそう伝えた。

唇をかみしめたはな。

< これほどの裏切りがあるでしょうか …

腹心の友と思っていた蓮子は、結婚のことをはなにひと言も打ち明けてくれなかったのです >

* * * * * * * * * *

教室も蓮子の婚約の話題で騒然としていた。

新聞に蓮子と並んで載っている伝助のいかつい顔の写真、誰の目にも不似合いなふたりに映って見えた。

「葉山様、こんなに歳の離れた方と … 九州一のお金持ちだとしても、よく嫁ぐ気になられたこと」

鶴子たち同級生には蓮子の気持ちがとても理解できなかった。

「 … 政略結婚ですわ」

亜矢子が漏らした言葉に驚愕する一同。

「私、はなさんのことが心配で … 」

「ひどく取り乱していらしたわね」


* * * * * * * * * *

蓮子に会って事実を確認したいはなは、ブラックバーン校長に外出許可を願い出ていた。

「 … 葉山さんが黙って出て行った理由が、私には分かります

あなたに話せば、そんなふうに取り乱して何をしでかすか分からないと思ったんですよ」


富山は静かにはなのことを諭した。

その上、学校の外は新聞記者がいっぱいで、今外出することは危険なのだ。

「(はな、外出は許しません!)」

どんなにはなが外出を請うてもブラックバーン校長は許可を与えなかった。

* * * * * * * * * *

「何ですか、あなたは?」

中庭で生徒たちの悲鳴があがった。

新聞記者がひとり、校内に入り込んできたのだ。

「ここは男子禁制ですよ、出て行ってください!」

「怪しいものではありません。

葉山蓮子さんのことを2、3お尋ねするだけですから」


記者は取材のためだと、綾小路の言葉に従おうとせずに近づいてくる。

「無礼者!」

なぎなたを手にした茂木が生徒たちの前に立ちはだかった。

「葉山蓮子は大切な生徒です。

あなたがたにお話しすることなどありません ~ 出て行きなさい!」


それでも、しつこくあきらめようとしない記者に向かって茂木は威嚇のためになぎなたを振り下ろした。

「 … 暴力は止めましょう」

その時、茂木は記者の後方にはなの姿を見つけた。

「はなさん?」

茂木が一瞬気を緩めたのを見て、逃げ出そうとした記者 … なぎなたが一閃、足を払ってひっくり返した。

倒れた記者を気合で一喝すると、茂木ははなに向かって叫んだ。

「はなさん、行きなさい!」

はなは、お辞儀すると校門に向かって走り出した。

* * * * * * * * * *

< はなは矢も楯もたまらず、学校を飛び出し、そこに立っておりました >

葉山家に赴いたはなは、蓮子の部屋と思しき窓を見上げて、声を振り絞った。

「蓮様、はなよ! … 蓮様!」

屋敷の周りで待機していた記者たちがその声を聞きつけて、はなはたちまち取り囲まれてしまった。

「葉山蓮子様のご友人ですか?

お話聞かせてください、学校ではどんな生徒さんでしたか?」

「あなたは石炭王との縁談をご存知でしたか?」

「お見合いはこれ以前にもなさってましたか?」


矢継ぎ早に容赦なく、はなに質問を投げつけてきた。

逃げ出すこともできないはな。

「お前たち何やってるんだ?!」

駆けつけた警官に保護されて、学校に連れ戻されてしまった。

* * * * * * * * * *

「あれほど外出を禁じたのに … 警察に保護されるとは言語道断です!」

富山は、はなの行動を厳しく非難した。

「申し訳ございません」

結局、蓮子から真意を聴くどころか、姿を見ることさえできなかったはなはすっかり消沈していた。

そんなはなに校長は、「Go to bed」を言い渡した。

「 … 今日はゆっくり休みなさい」

慈しみある声でそう付け加えた。

< ブラックバーン校長も、はなのやるせない気持ちを分かって … それ以上のお咎めはありませんでした >

* * * * * * * * * *

「私何やってるんだろう … 蓮様 … 」 

はなは布団の中でただただ泣いていた。

* * * * * * * * * *

< 蓮子の婚約のニュースは甲府にも届きました >

「 … 蓮子さん、九州の石炭王と婚約したんです!」

安東家の一同にも衝撃が走った。

何が書いているかは分からないが、ふじたちの目は朝市の持ってきた新聞の記事に釘づけだった。

「石炭王と伯爵様じゃ、どっちがエライずらか?」

「ほりゃあ、身分は伯爵様が上で … お金は石炭王の方が何十倍も持ってるだよ ~ 」


ももの無邪気な疑問にリンがおどけて答えている。

「てっ、蓮子さん、大金持ちのお嫁さんになるだけ、いいな ~ 」

「ほんのちょこっとの間、おらたちの仲間かと思ったけんど … やっぱし、住む世界の違うお姫様だっただね」

「そうさな … 」


しかし、ふじの思いは複雑だった。

「蓮子さん、あん時ゃもう決心してただね … 誰にも打ち明けずに、自分の胸にしまい込んだ … 」

我が胸の中で少女のように泣いていた蓮子。

そのぬくもりがまだ残っているような気がしていた。

「あの日の魚釣りは楽しかったじゃんね ~ 蓮子さん、独身最後の思い出を作りに来たずらか?」

朝市が話しかけても、吉太郎は虚ろな顔をしている。

* * * * * * * * * *

4人で釣りを終えた帰り道に、はなは蓮子に言った。

「こういうの英語で『beginner's luck』っていうんですよ」

大物のウナギを釣り上げた蓮子以外、全員釣果なしだったのだ。

「 … 初めての人にだけ訪れる幸運のこと」

「じゃあ、1回きりってこんけ?」

朝市が尋ねると、はなは笑いながら答えた。

「ほういうことになるね」

「 … 最初で最後の幸運 … 」

そうつぶやいた蓮子の顔はどこか寂し気だった。

* * * * * * * * * *

皆の話の輪から抜け出した吉太郎は、納屋で蓮子からもらった雑誌『明星』を見つめていた。

「君死にたまふことなかれ … 吉太郎さんが持っていてください」

あの夜の蓮子の声が耳によみがえる。

< ここにもひとり、淡い初恋を打ち砕かれ … 胸が張り裂けそうな若者がいたのでございます >

* * * * * * * * * *

一方、葉山家の屋敷では、伝助から贈られた豪華な結納品を前にして、伯爵夫妻は上機嫌だった。

「嘉納様と亡くなった奥様との間にお子様がひとりもいらっしゃらなかったのも幸いでしたわね。

蓮子さんはまだお若いから、跡継ぎを何人でも産めるじゃありませんか」


蓮子の気持ちなど一切おかまいなしで園子は無神経な発言を続けた。

「こう言ってはなんですけれど … その子が嘉納家の莫大な財産を引き継ぐんですからね」

「まさに金の卵だな」


身分はあれど、この夫婦は下衆の極みだった。

「そんなに素晴らしい結婚ならお譲りしましょうか?」

傍らでふたりの会話を無表情で聞いていた蓮子が口を開いた。

「 … お兄様と離縁して、お義姉さまが金の卵をお産みになったらいかが?」

子供のできない園子に対する痛烈な嫌味だった。

「蓮子さんたらそんな面白いご冗談をおっしゃって … ほほほほ」

園子の目は笑っていない。

ふたりに対して負い目がある伯爵は、どちらを諌めることも出来ない。

重苦しい雰囲気に話題を変えた。

「昼は記者たちがうるさかったが、静かになったな」

「警察に通報しましたの ~

あっ、そう言えば … 秀和女学校の生徒がひとり保護されたそうですよ。

家の前で記者に揉みくちゃにされてたんですって」


途端に蓮子の顔色が変わった。

< 蓮子は、はなだと確信しました >

「 … お兄様、学校に行かせてください。

置いてきた本を取ってきたいんです … 1時間でいいから、行かせてください」


* * * * * * * * * *

< 蓮子の婚約報道から1週間、はなの心には大きな穴が開いたままでした >

授業を受けていても集中できず、蓮子の席を見てはため息をつくようなことばかりだった。

その日、富山の授業中に亜矢子からこっそりと渡されたメモを読んだはなは思わず立ち上がってしまった。

蓮子が今、寄宿舎に来ているというのだ。

「安東さん?」

怪訝な目で見つめた富山。

「 … すいません、私 … あの … 」

言葉に詰まってしまったはなに亜矢子が助け舟を出した。

「先生、はなさん、急にお腹が痛くなったそうです」

しかし、見え透いた作り話に騙される富山ではなかった。

「仮病を使って誰に会いに行くんですか?

… ずっと授業に身が入っていませんね。

そんな様子で教室に座ってられても迷惑です。

Go to bed!」


すべてを察した富山からの粋なはからいだった。

はなはお辞儀をすると教室をあとにして、蓮子の部屋へと急いだ。

* * * * * * * * * *

部屋のドアのカギはかかっていなかった。

「蓮様 … 」

思いきり開いた。

「蓮様!」

きれいに荷物が運び出されて片付いた部屋、日差しが差し込む窓から外を見ていた蓮子がゆっくりと振り返った。

「御機嫌よう」

逆光に浮かび上がったシルエットの蓮子が言った。

「 … お久しぶり」

ほんの1週間しか経っていないのに … 長い歳月を経て会ったような気がするふたりだった。

まったく悪びれることのないの態度の蓮子にはなは詰め寄った。

「蓮様、本当に結婚なさるの?」

「ええ」


涼しげな顔の蓮子だった。

「どうして何も話してくれなかったの?

ずっと隠してたなんてひどい!」

「 … 新聞、ご覧になったでしょ?

とてつもない玉の輿なのよ」

「その方のこと愛してるの?」

「一度しかお会いしてないから分からないわ …

でも、彼には有り余るほどのお金があるのよ」


* * * * * * * * * *

蓮子の口から出てくるのは、はなが耳を覆いたくなるような話だった。

「そんな結婚なさるなんて … 恥ずかしくないの?!

お兄様が持ってらした、あの縁談は断ったんじゃなかったの?!

自分は操り人形じゃないって、蓮様言ってたじゃないですか?!

… それもウソだったの?」


声を荒げて、思いつくままの言葉で蓮子を問い質していた。

< 蓮子が家の犠牲になって結婚させられるとは知らず … 怒りをぶつけることしかできないはなでした。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月11日 (日) | 編集 |
まずは、先週のおさらいを …



それでは、次週の「花子とアン」は?

蓮子(仲間由紀恵)が石炭王・嘉納伝助(吉田鋼太郎)と婚約したという新聞記事に、何も聞かされていなかったはな(吉高由里子)は大きなショックを受ける。

急いで蓮子の部屋へ向かうはなだが、もはや蓮子の姿はなかった。

いい加減にしてください!

女学校では、取材と称して男の記者が入り込み騒ぎとなるが、茂木(浅田美代子)が毅然と対応する。

はなは、ブラックバーン(トーディ・クラーク)や富山(ともさかりえ)が止めるのも聞かず、学校を飛び出し蓮子の実家・葉山邸へ向かう。だが記者たちに取り囲まれ、ひと目会うこともできない。

私は騙されていたのでしょうか …

葉山邸では、伝助からの豪華な結納品に晶貴(飯田基祐)と園子(村岡希美)が目を細める中、蓮子はうつろな思いに沈んでいた。だが「表で女学生が記者ともめていた」と聞いた蓮子は、あることを思い立つ…。

婚約は大々的に報じられ、甲府の安東家にも知れ渡ることに。ふじ(室井滋)は甲府へ来た時の蓮子に思いをはせ、彼女に恋心を抱いていた吉太郎(賀来賢人)は深く傷つくのだった。

数日後、憔悴したままのはなが授業を受けていると、醍醐(高梨臨)から「蓮子さんが寄宿舎に来ている」との情報が。駆けつけたはなに、蓮子は思いも寄らぬ言葉を投げかける。

卒業したら東京で働きてえ

4年後、はなは高等科の最上級生になっていた。下級生に英語を教えながら、自分の卒業後についてまだ決められずにいる。

はなの帰りを楽しみに待っています …

片や甲府ではふじが、はなが卒業後に帰って来るのを心待ちにしていた…

自分の運命を決めるのは自分自身です

夢を忘れないでください

… ごきげんよう、さようなら


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2014年05月10日 (土) | 編集 |
第36回

1945年(昭和20年)東京。

「 … アンは涙ながらに言った。

『ああ、ダイアナ、汝の若かりし頃の友を忘れないと固く約束してくださる?』

『しますとも』

ダイアナはすすり泣いた。

『それに、またと腹心の友を持たないわ。

どんな人だって、あんたを愛したようには愛せないもの』」


村岡花子が今、翻訳のペンを走らせていたのは、アンと腹心の友、ダイアナの別離の件だった。

ひと息ついた花子は、原書に挟んである栞を引き抜いてまじまじと眺めた。

『翻訳者 安東花子

歌人 白蓮』

花子と葉山蓮子、ふたりのペンネームが並べて書いてある … 遠い日に蓮子から手渡された思い出深いものだった。

< はなにとって、『腹心の友』蓮子さんとの思い出は楽しいだけでなく、辛いものもあったのでございます >

* * * * * * * * * *

話を1909年(明治42年)の甲府に戻そう …

「私にも何かお手伝いさせてください!」

翌日、はなの実家で朝を迎えた蓮子は野良仕事に出かけようとするふじに強くねだった。

「え ~ こんなきれいな着物で野良仕事なん、させられっこねえら」

着物など脱いでくるという蓮子にふじは何もしなくていいと笑っている。

「無理しないで ~ 蓮様はついこの間まで、お掃除も何もできなかったんだから」

水汲みを終えて帰ってきたはながそう諭しても蓮子は言うことを聞かない。

「今はそんなことなくってよ!」

口を尖らせていたと思ったら、今度は周造の顔を見た。

「お祖父様、私にも何かさせてください」

「そうさな … 蓮子さんに頼めそうなこんったら …

ああ!」


* * * * * * * * * *

周造が思いついたのは、魚釣りだった。

釣竿を担いで、近所の池に繰り出したはなと蓮子は切株に並んで腰かけて、垂らした糸の先の浮きをぼんやりと眺めていた。

暖かい日差しが降り注ぎ、鳥のさえずりが聞こえる穏やかな陽気だった。

「この時間が永遠に続けばいいのに … 」

キラキラと輝く水面に目を細めながら蓮子が言った。

「何言ってるんですか ~ 永遠に1匹も釣れなくていいの?」

「私、はなちゃんとこうして一緒に居られることが、たまらなくうれしいの」

「蓮様 … 」


そんなふうに改めて口に出されると何だか照れくさかったが、はなも同じ気持ちだった。

「私には青春なんて一生ないと思ってたわ。

でも、はなちゃんと出会って、失われた時間を取り戻したの。

この半年間、本当に楽しかったわ。

このキラキラした時間を私決して忘れない … 遠く離れても」

「 … 遠く離れても?」


はなは眉をひそめた、それは別れる時に言うセリフではないか …

「今日の蓮様、おかしい」

「そんなことないわよ ~

いくら生涯の友情を誓い合っても、お婆さんになるまで、ず~っとくっついてる訳にはいかないでしょ?」

「それはそうだけど … 」


蓮子は屈託なく笑った。

「何があっても、今日のことは絶対に忘れない … はなちゃんも忘れないで」

そう言ってじっと見つめている。

「じゃあ、私も忘れない。

… 釣りに来たのに1匹も釣れないで、お尻が痛くなったこと!」


顔をしかめたはなに蓮子は吹き出した。

「私もさっきから痛かったの ~ 」

ふたりは顔を見合わせて、笑いながら立ち上がった。

* * * * * * * * * *

「はな ~ !」

吉太郎が朝市を連れ立ってやって来た。

蓮子ははなの話から、朝市ははなの手紙を代読しているせいでお互いに初対面の気がしないふたりだった。

「1匹も釣れんだけ?

ほんなこんだろうと思って、手伝いにきただよ」


空のびくを覗いた吉太郎が呆れたように言った。

「兄やんは釣りの名人なのよ」

「へえ」


感心して見た蓮子の眼差しにまたも吉太郎の胸は高鳴った。

* * * * * * * * * *

はなと朝市、蓮子と吉太郎に分かれ、改めてそれぞれに釣り糸を垂らした。

「 … 朝市は師範学校に行って、先生になるの?]

[うん、お母と大喧嘩したけんど … どうしてもあきらめられなんで」


笑いながら話しているが、あのリンを説得するのは並大抵のことではないだろう。

「はなも上の学校に行くら?」

はながいまだ迷っていることを知ると、吉太郎の方を気にしながら小声で話した。

「吉太郎さんやかよちゃんに気兼ねしてるだけ?」

「 … 正直言うと、自信がないの。

家族に苦労かけて、私だけ好きなこんさせてもろうて … もし期待に応えられなかったらどうしようって」


幼なじみの朝市だからつい本音を漏らしたはなだった。

「おらだって師範学校の試験受かる自信なんねえだ。

ふんだけんど、一生懸命やるしかねえじゃん。

一生懸命やって勝つことの次にいいことは、一生懸命やって負けることだ」


朝市の言葉は、進路に迷い立ち止まっているはなの背中を大きく押してくれた。

* * * * * * * * * *

「あっ、蓮子さん、引いてるじゃん!」

「えっ?」


吉太郎が指さした先、蓮子の浮きが大きく揺れ、波紋を起こして水中に沈んだ。

「早く、魚が逃げちもうら!」

「どうしましょう ~ 」


釣竿から手応えは伝わっているが、蓮子にはどう処理したらいいのか分からなかった。

「引っ張れ、引っ張れ!」

はなと朝市も駆け寄ってきた。

「兄やん、兄やん、手伝って!」

「おうっ!」


吉太郎は蓮子と一緒に釣竿をつかんだ。

「引けし、引けし!」

ふたりがかりで竿を引いているのだがなかなか水面に姿を現さない … 手ごわい相手だ。

吉太郎は歯を食いしばって釣竿を高く起こした。

「おおっ!」

皆の歓声とともに釣り上げられたのは、見事なウナギだった。

「釣れたわ、釣れたわ ~ 」

大はしゃぎする蓮子。

「てっ、こんなにでっけえのおらも釣ったことねえ」

目を丸くする吉太郎。

「て、本当に? うれしい ~ 」

「蓮様、すご~い!」


< 蓮子にとって、それが青春の最後の一頁になりました >

* * * * * * * * * *

その頃、福岡に帰郷した嘉納伝助は …
 
まるで宮殿のように巨大な建築物、嘉納鉱業の本社に戻って来た。

「お帰りなさいませ!」

社長の帰りを社員は総出で整列して出迎えた。

「東京はどげんやったですな?」

「別に … 変わったことはなかった」


伝助は、番頭の問いにも素っ気なく答えた。

彼の帰る時間を見計らっていたかのように、久保山から電話が入った。

* * * * * * * * * *

電話は、先日の縁談の返事を報せるものだった。

結果は聴くまでもないと伝助はあきらめていた。しかし、電話を受けて我が耳を疑った。

「はあ? あん娘が … 何かの間違いやないと?」

「本当だ … 蓮子さんご自身が、是非お受けしたいと言ってきたそうだ」


* * * * * * * * * *

「ああ、楽しかった ~ 」

甲府での休日を終えて、寄宿舎に戻ったはなと蓮子を出迎えたかをる子はその手に分厚い紙包みを手にしていた。

「あなたの留守中に先日の闖入者がこれを」

ずっしりと重い包みを受け取って、その場で開封すると、中から向学館にあったのと同じ英英辞典が出てきた。

「これ、私が一番欲しかった辞書よ!」

思わず声を上げたはな。

頁を開くとメッセージカードが挟まっていた。

『安東はな様

先日の翻訳のお礼です

英語の勉強 こぴっと頑張ってください

村岡英治』

短い礼文が書かれてあった。

微笑んではなを見ていた蓮子だったが、やはり留守中に彼女宛てに届いていたという封書を受け取ると顔を曇らせた。

「蓮様、私こんな高価な辞書いただいてもいいのかしら?」

蓮子は笑顔を繕ってはなに言った。

「その辞書の送り主も、はなちゃんの才能を認めたのね」

思いもよらない贈り物に有頂天になっているはなは、蓮子の表情の変化を見落としてしまった。

「やっぱり、はなちゃんは高等科へ行って、翻訳の才能を磨くべきだわ」

「 … 蓮様はどうするの?」


不安げに尋ねたはなに蓮子は微笑んで答えた。

「もちろん、行くわ … 」

「ありがとう ~ 私、やっと心が決まったわ!」


* * * * * * * * * *

ひとり、部屋で蓮子は、先ほどの封書を取り出した。

差出人は、兄の葉山伯爵だった。

ためらいがちに封を開けて、便箋を広げた。

蓮子の目に『結納』『挙式』『嘉納家嫁入』の文字が飛び込んできた。

日取りは、十二月 … もうひと月もないではないか?!

* * * * * * * * * *

ようやく自分の進路を決めたはなは、報告するために校長室のドアを叩いた。

「はなさん、気持ちは固まりましたか?」

ブラックバーン校長の前に立ったはなは、茂木の質問にうなずいた。

「はい、私は高等科へ進みたいと思います。

家族に仕送りをしながら、勉強を続けたいんです。

そしていつか、翻訳の仕事をしたいんです。」


並大抵の努力では敵わないという茂木にはなはきっぱりと言い切った。

「覚悟してます」

その返事を聞いたブラックバーン校長は立ち上がった。

「(はな、やってみなさい … 力を尽くして)」

「(ありがとうございます、ブラックバーン校長)」


校長の瞳がうるんでいるように見えた。

チビで問題児だったあのはなが、よくぞここまで … 教育者冥利に尽きる思いだった。

「あなたならきっとできるでしょう … 」

富山からの予想もしなかった言葉がはなを驚かせた。

「 … 富山先生」

「安東さんの唯一いいところは、根拠がない自信があるところです。

… まあ、無謀な自信ともいえますが、それだけは認めます」

「ありがとうございます!」

「褒めてません!」


礼を言ったはなをすかさず突き放した富山のことが可笑しくて、茂木は隣で笑いを堪えている。

富山はそんな茂木の態度が不満なようだ。

「一生懸命頑張ります!」

はなは3人に向かってお辞儀をして校長室を後にした。

3人三様、はなの成長の過程を見守ってきた彼女たちは、その背中を感無量で見つめていた。

* * * * * * * * * *

教室へ向かうはなを見つけて、新聞を手にした亜矢子たちが血相を変えて廊下を駆け寄ってきた。

「はなさん、大変大変!」

「 … どうしたの?」

「これをお読みになって!」


はなは亜矢子から渡された新聞に目をやった。

そこには …

『筑豊の炭鉱王嘉納伝助氏 葉山伯爵令妹と婚約』の文字が躍り、ふたりの顔写真が並んで載っていたのだ。

「あっ、蓮様?!」

愕然とするはな。

「25歳も年上の石炭王ですって、葉山様どうしてそんなまた年配の方と … 」

にわかに信じられないはな、きっと何かの間違いだと思いながら、その目は新聞の記事に釘づけだった。

* * * * * * * * * *

その時、すでに蓮子は婚礼の準備のために葉山の屋敷に居た。

園子が呉服屋を呼びつけ、高価な反物を部屋中に広げさせて物色している最中だった。

「お色直しは何回でも、多ければ多いほどいいそうよ ~ お金に糸目はつけない方だから」

「はい、そのように嘉納様より仰せつかっております」


呉服屋の亭主はにこやかにそう言うと蓮子に似合いそうな反物を取替えひっかえ肩に合わせてみせた。

しかし、蓮子はひと言も発せず無表情、まるで魂のないマネキンのようにただされるがまま立っているだけだった。

* * * * * * * * * *

「蓮様、どうして?」

< これほどの裏切りがあるでしょうか?

腹心の友と思っていた蓮子は、はなに結婚のことはひと言も打ち明けてくれなかったのです。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月09日 (金) | 編集 |
第35回

< 九州の石炭王とのお見合いのあと、蓮子は突然、山梨のはなのうちへ行ってみたいと言い出しました。

蓮子が人生の大きな曲がり角にいることを、まだ知らないはなでした >

ふたりを乗せた汽車は一路、甲府を目指していた。

トンネルを抜けると、車窓には甲府盆地に広がるブドウ棚が見えてきた。

「 … たくさんのおブドウから、蓮様の好きなブドウ酒が生まれるんですよ」

はなは指さして蓮子に教えた。

ほどなくすると車掌が、まもなく甲府に到着することを告げた。

網棚から荷物を降ろそうと、立ち上がったはなは、前方の席からこちらの様子をうかがっている学生がいることに気づいた。

「武 … 」

「えっ?」

「蓮様、あっち見ちゃだめです ~ 変なのが見てるから!」


見てはいけないと言われると、見てしまうのが人情だ。

振り向いた蓮子は武と視線を合わせてしまった。

「て ~~~ ♥」

武は、だらしのない顔を尚更だらしなくしてフラフラと立ち上がった。

* * * * * * * * * *

何とか武のことをまいたふたり、家へと続くのどかな田舎道を歩いていると、前方の大きな樹の下に吉太郎の姿が見えた。

「兄やん、迎えに来てくれただけ」

「ああ」


はなから蓮子のことを紹介された吉太郎はその美貌と気品ある振る舞いに飲まれてしまった。

「お兄様の吉太郎様ですね ~ お目にかかれて、うれしゅうございます」

< 吉太郎は、空から天女が舞い降りたかと思いました >

吉太郎は言葉を発することも身動きをとることもできず、心を奪われて、ただただ蓮子に見惚れていた。

* * * * * * * * * *

「皆、ただいま ~ 」

はなに促された蓮子が家に入ってくると、薄暗い家の中がそこだけ光がさしてるかのように輝いて見えた。

「女学校の友達の葉山蓮子さん」

「ごきげんよう ~ 」


蓮子は、周造、ふじ、ももとはなの家族ひとりひとりに丁寧にそして親しみを込めて挨拶をした。

はなから何度も何度も数えきれないほど家族の話を聞いているので、初めて会った気がしないのだ。

「 … お目にかかれて、うれしゅうございます」

「いつもお世話になっておりやす ~~ 」


裏返った声で挨拶を返したふじ … 迎える家族の方は完全に舞い上がっていた。

「本当のお姫様け?」

ももがまぶしそうに蓮子のことを見た。

うなずいたはなの袖をふじが慌てて引っ張った。

「なんで?」

「 … ひょっとして、いつかはなのハガキにあった伯爵様のご令嬢じゃねえだけ?」

「そうよ … 」

「て ~~~ ?!」


* * * * * * * * * *

「さあ、上がって」

家の中は家族総出で掃除をしてきれいに片付けてはあるのだが、それでもみすぼらしさは変わらなかった。

「この通り、むさ苦しい所ですけんど … 」

「随分広い玄関ですこと」


にこやかな顔で蓮子はそう言った。

悪気はなかった … この空間で家族全員が生活しているとは思わなかったのだ。

それは蓮子が育ってきた環境ゆえに仕方がないことだった。

* * * * * * * * * *

ふじは引け目を感じていたが、蓮子自身はまったく気にしてはいなかった。

大事なことは、はなの家族と過ごすことだった。 

「ありがとうございます … これは何ですか?」

蓮子はふじが運んできた料理の名を尋ねた。

「お母が作ったほうとうよ」

常日頃、はなが話して聞かせている料理だった。

「 … お口に合わんと思うけんど」

ほうとうはこの家にしてみれば最高のご馳走なのだ。

一同が息を呑んで見守る中、蓮子はひと口食べた途端、顔をほころばせた。

「美味しゅうございます!」

ホッと、安堵するふじ。

「はなちゃんが言った通り、お母様のほうとうは日本一です」

「 … お母様だなんて … 一杯こしらえたから、お替りしてくりょう」


蓮子ははなの母が自分のために用意してくれた精一杯のもてなしを心から喜んでいた。

その素直な感謝の気持ちは家族にも伝わって、誰もが蓮子に好感を抱いた。

* * * * * * * * * *

「伯爵様のうちじゃ、毎日甘いクッキーを腹一杯食ってるだけ?」

ももはお姫様の様な蓮子に興味津々だった。

「私はクッキーよりね、きんつばの方が好きなのよ」

目を丸くしたももは蓮子の胸元に鼻を近づけてにっこりと笑った。

「いい匂いじゃん ~

伯爵様のうちじゃ、いっつも舶来のシャボン使ってるずらか?」

「もも、ほんなに一杯聞いたら、葉山様が食べられんら!」


ももを嗜めた吉太郎に蓮子は言った。

「 … 蓮子でいいです ~ 蓮子と呼んでください」

蓮子に見つめられると、吉太郎は固まってしまった。

「兄やんもちょっこも食べてねえじゃんけ」

はなの目から吉太郎はいつもと様子が違って見えた。

「兄やんは兵隊さんになるだよ」

「兵隊?

えっ … 志願するの?」


無邪気に口走ったももの言葉に家族の雰囲気が気まずくなりかけた時、入口の扉が勢いよく開けられた。

* * * * * * * * * *

「ちょっくら、ご免なって ~ 」

顔を出したのは、武を伴った甚之介だった。

武から蓮子のことを聞きつけて、わざわざやって来たのだ。

リンを始め村の衆も集まってきている。

「これはこれは、葉山伯爵のお嬢様 …

私はここいらを取り仕切ってる地主の徳丸甚之助でごいす」


蓮子は甚之介たちを訝しげな目で見た。

「私に何かご用でしょうか?」

食事中にずかずかと入ってくる不躾な態度が気に入らなかった。

「今夜は、うちにお泊りになって … こんなあばら家にお泊めする訳にはめえりやせん」

「そんな貧乏くせえほうとう何ぞ出して、失礼じゃねえだけ?!」


父親の尻馬に乗って得意顔の武をはなはにらみつけた。

「うちの料理人にご馳走を作らしておりやすから ~ どうぞ、我が屋敷においでくだせえ」

縁も所縁もない徳丸家に行く理由などなかった。

「 … せっかくですけど、結構です」

「遠慮なさらず、どうぞ!」

「さあさあ、どうぞ ~ 」


自分の本位の徳丸親子には蓮子が遠慮しているように見えるらしい。

「分からない人たちね … 」

蓮子は立ち上って、きっぱりと宣言した。

「私は、今夜ここに泊まりたいんです!

… 皆さんと枕を並べて寝るのを楽しみにしているのに、邪魔しないでください!」


人の心をないがしろにして権威を振りかざす行為を蓮子は一番嫌った。

はなの家族を蔑む態度は決して許せなかった。

「では、ごきげんよう」

軽蔑を込めて微笑んだ。

憤然として立ち去る徳丸親子。

ふたりの姿が見えなくなると、リンが手を叩いて大喜びした。

「いい気分じゃんね ~ 」

「そうさな」


甚之介がやり込められる場面など滅多に拝めはしない。

胸のすくような思いのあと、大笑いする一同。

* * * * * * * * * *

「はなは女学校終わったらどうするだ?」

食後、吉太郎ははなに卒業後の進路を尋ねた。

「まだ分からん …

兄やん、ほんなに兵隊さんになりたいだけ?」


はなは、さきほど徳丸親子の訪問でうやむやになっていたことを反対に聞き返した。

「うん、今すぐじゃねえが … 心は決まってるだ。

ほん時が来たら、おらはこのうちを出てく」

「そう … 」


家族 … 特に母の気持ちを思うと、胸が痛んだが、はなから吉太郎に何か言える立場ではなかった。

すると、突然傍らでふたりの会話を聞いていた蓮子が口を開いた。

「君死にたまふことなかれ … 

あゝをとうとよ、君を泣く、君死にたまふことなかれ、

末に生れし君なれば、親のなさけはまさりしも、

親は刃をにぎらせて、人を殺せとおしへしや、

人を殺して死ねよとて、二十四まで育てしや … 」


それは、蓮子が敬愛する与謝野晶子が詠んだ歌の一節だった。

「これ差し上げます」

蓮子は、この歌が掲載されている雑誌『明星』を吉太郎に差し出した。

常に持ち歩いていたものだった。

「私はもう暗記するほど読んだので … 吉太郎さんが持っていてください」

* * * * * * * * * *

蓮子がどのような意図で、与謝野晶子の歌を詠み、『明星』を進呈してくれたのか、吉太郎にははかり知れないことだった。

ただ、天女に見間違うばかりの美貌を持ち、甚之介をやり込める凛々しさも兼ね備えた凛子に好意以上の感情を抱きそうな自分に戸惑っていた。

同じ部屋で一夜を明かすことは彼にとって刺激が強すぎた。

「お祖父やん、おら今夜こっちで寝ていいけ?」

逃げるように周造がいる納屋に行ってしまったが、その胸には蓮子からもらった『明星』がしっかり抱かれていた。

* * * * * * * * * *

はなとももが寝入ったあと、布団をこっそりと抜け出した蓮子は、ひとり外で甲府の月を見つめていた。

東京から彼女が大事に抱えてきたのは、寄宿舎にあった鳥カゴだった。

今、蓮子の掌にはカゴから出した小鳥が包まれていた。

カゴに閉じ込められていた小鳥は蓮子の分身だ。

指の隙間から愛おしそうに小鳥を見つめた後、両手を広げて夜空へと解き放った。

ふっとため息をついた蓮子が、視線を感じて振り向くと、ふじが驚いたような顔で見ていた。

* * * * * * * * * *

眠れないのだろうと、ふじは囲炉裏の火を起こして、蓮子を座らせた。

「蓮子さん、今ひとりじゃ抱えきれねえようなこん … 抱えてるじゃねえだけ?」

娘を持つ母であるふじの勘は鋭かった。

「 … やっぱしほうだね」

蓮子は何も答えなかったがその表情の変化を読んだのだ。

「ほれは、お母様にも言えねえようなことけ?」

すると、蓮子は静かに語り始めた。

「 … 私の母は、早くに亡くなったんです」

ふじは申し訳ないことを聞いてしまったというような顔をした。

「芸者だったそうです」

「 … 蓮子さんのお母様だったら、さぞかしきれいな人だったずらね」

「私は、顔も知らないんです … 生まれてすぐに父の家に引き取られて、乳母に育てられたので」


訥々と話す蓮子の顔をふじは優しげな目で見つめていた。

「 … 一度でいいから、会いたかった」

蓮子の悲しみがひしひしと伝わってくるようだった。

* * * * * * * * * *

「はなちゃんがうらやましいです。

こんなに優しいお母様がいらして … 」


寂しそうに笑った蓮子にふじは言った。

「蓮子さんはもう、うちの家族じゃん」

思いもしなかった言葉に蓮子はふじのことを見た。

ふじは少し照れたように笑いながら、蓮子の傍に座り直した。

「こんな煤けたお母でよければ ~ うん、いつでもほうとう作って待ってるだよ」

蓮子は胸の奥から熱いものがこみ上げてくるのを感じていた。

「お母と … 呼んでもいいですか?」

その熱いものを懸命に抑えながら尋ねた。

ふじは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに満面の笑顔を見せた。

「 … お母と呼べし」

そのひと言で、蓮子の目から涙腺が決壊したように涙がとめどなく溢れだした。

腹心の友のはなにも見せたことがない涙だった。

「蓮子さん、大丈夫だ ~ 大丈夫だよ、蓮子さん」

蓮子を抱き寄せたふじも涙が止まらなかった。

「つれえ時にゃあ、いつでもここへ帰ってきて、泣けし … 」

母に抱かれた記憶がない蓮子は、ふじの腕の中で少女のように泣き続けていた。

< 蓮子はこの時、ある大きな決断をしていたのです。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月08日 (木) | 編集 |
第34回

< はじめてのお給料で、蓮子にきんつばを買ってきたはな。

ところがその頃、蓮子はお見合いをさせられていたのです >

優雅なヴァイオリンの生演奏が流れるレストランの個室に用意された見合いの席。

< お見合いの相手は九州の石炭王、嘉納伝助です。

日清戦争、日露戦争で石炭の需要が急速に伸びた波に乗り、裸一貫一代で巨万の富を築いた事業家です >

「蓮子さんは、お勉強が大層お好きなんですのよ」

「もう一度しっかり学び直したいと言うので、今、女学校の寄宿舎に入れております」


葉山夫妻は、自分たちに都合がいいように話を作り変えていた。

「そうですか ~ ははは」

見合いだというのに言葉を交わしているのは付き添いばかり、主役であるふたりはひと言も口を利いていない。

伝助はただただワインをがぶ飲みしている。

その表情は不機嫌にも見えた。

料理を口にする時もマナーなどないに等しく、ナイフで切った肉を貪るように食らうだけだ。

ただ視線だけは片時も蓮子から外そうとはしない。

蓮子は何だか気味悪く感じて、食事もまともにのどを通らなかった。

* * * * * * * * * *

「おい、飲んでばかりいないで何かしゃべったらどうだ?」

久保山はそう伝助を促したが、飲んでは食べる、食べては飲むその繰り返しだ。

「いつもはもっと賑やかな男なんですがね … 」

苦笑いする久保山。

「妹もいい歳をして緊張しているようで」

伯爵も口を利かない上に無表情を貫いている蓮子のことを弁解した。

* * * * * * * * * *

「実にご立派な方でしたね ~ 裸一貫で成功なさった方はやはりどこか違いますわね」

見合いを終えて、ホテルを出る時、園子が心にもない空々しいことを口にした。

「蓮子、今日はうちの方に泊まりなさい」

伯爵はそう勧めたが、蓮子は断った。

見合いの間、一刻も早くはなが待っている寄宿舎に戻ることばかり考えていたのだ。

解放された今、飛んで帰りたい気分だった。

「もう外泊届けを出しておいたから」

しかし、伯爵は有無を言わさず、車に乗り込んでしまった。

* * * * * * * * * *

「とうとう、ひと言もしゃべらなかったな」

蓮子たちが去った個室で、久保山はあきれ顔で伝助に尋ねた。

「 … 気に入らなかったか?」

伝助は見合い中とは打って変わって、リラックスした表情で煙草を一服している。

「 … 筑豊弁でしゃべったら、バカにされるやないな」

その風貌には、およそ似つかわしくない理由を語り始めた。

「この世んものとは思えんばい ~

白粉できれいに飾り立てちょる中洲あたりのおなごとはじぇんじぇん違うちょる。

… よか匂いのする花んごとあった」


蓮子の美貌に心を奪われ、それ故に田舎者とばかにされたくなくて、口をつぐんでしまったというのだ。

「 … せやき、どうせ断ってくるに決まっちょる。

さっさと、福岡に帰るばい!」


煙草の火を灰皿で消すと、粗暴に席から立ち上がった。

* * * * * * * * * *

はなは蓮子の部屋で帰りを待ち続けていたが、待てど暮らせど、戻ってはこなかった。

あきらめて部屋から出た時、ちょうど通りかかった茂木から蓮子は今夜、葉山伯爵のところに泊まることを聞かされた。

「え?」

不安の渦がはなの胸に広がっていった …

* * * * * * * * * *

< 吉平は久しぶりに東京へ戻ってきました >

相棒の国松と共に浅野の著書を積んだ大八車を引きながら、労民新聞社の前まで帰ってくると、すごい人だかりがしていた。

「下がれ下がれ、これ以上前には出てはいかんぞ!」

中で怒号が飛び交っている。

吉平たちは何事かと、人込みをかき分けて前に出た。

「もたもたするなっ!」

その時、ふたりが目にしたのは、社屋を取り囲む警官と囚われて連行されていく浅野たちの姿だった。

「浅野せんせ … 」

声を上げそうになった国松の口を吉平は慌てて塞いだ。

その気配に気づいた浅野がこちらにチラッと目線を合わせた。

まずいっ!

吉平と国松は人込みを抜けて逃げ出した。

< この頃、社会主義は危険思想と見なされ … 場合によっては、活動家が警察に捕まり、取り調べを受けることもありました >

* * * * * * * * * *

夕食後のひととき、談話室ではなは鶴子から本科が終わった後の進路について尋ねられた。

「まだ迷っていて … 畠山さんはどうするの?」

鶴子は高等科へ進むことを決めたという。

シェークスピアの戯曲をより深く勉強してみたくなったのだと言った。

大文学会で進行役を任されたことがきっかけだろうか?

大倉澄子は、かねてより決まっていた、許婚と結婚するそうだ。

「決まってないのは私だけか … 」

その日、はなの元に吉平から電報が届いた。

* * * * * * * * * *

『ケフ アヒタシ オトウ』

消灯後、はなは部屋を抜け出して、以前毎晩のように父と落ち合ったガス灯の下へと向かった。

「グッドイブニング、はな」

「おとう、どうしたで?」


久しぶりの親子の対面だった。

「 … 何か変わったことなかったけ?」

何処か意味ありげに吉平は尋ねた。

「お父にしゃべりたいこといっぱいあるだよ ~ 」

はなは、出版社で働いてはじめての給料を手にしたこと、翻訳もさせてもらえたことをいの一番に伝えた。

「英語の翻訳か ~ ほりゃ、すげえじゃん」

「ほれから … 腹心の友が出来た」

「ふくしんのとも?」

「心から分かり合える親友のこと」


吉平はニコニコしながらどんな友だと聞いた。

「私より8つ歳上で、葉山蓮子さんっていうの」

その名を聞いて、吉平は顔を曇らせた。

「 … まさか、いつだかはなにブドウ酒を飲ませた生徒じゃねえずらな?」

「そう、その蓮子さん!」

「はな、ほんな不良とつき合っちゃいけんら!」


咎める父に、はなは真顔になって諭すように言った。

「お父、私も最初はほう思った。

ふんだけんど、人は心を開いて話してみんと分からんだよ」


* * * * * * * * * *

すると、吉平に笑顔が戻って、しみじみと語った。

「はな、大人になったじゃんけ … お父の知らんうちに、はなはうんとこさ成長しとる。

歯食いしばって、頑張ってきたからずら」

「お父 … 」


心から喜んでくれていることが手にとるように分かった。

「お父、しばらく会いに来れんけんど」

吉平は、浅野の活動を支援していた自分にも警察の手が伸びることを恐れて身を隠すつもりだった。

「どうして? … また来てくりょう」

「こんだ、ちょこっと長い旅になるだ」


吉平は柵越しにはなの手を握った。

「はな、こぴっと頑張るだよ」

今生の別れでもあるまいに、父の顔は悲痛な面持ちに見えた。

「さあ、もう遅せえ … 行けし」

はなは何となく不安になって、その場から離れ難かった。

「ふんじゃあな」

促されて、仕方なくうなずいたはなは父の言葉に従った。

一度だけ振り返って手を振ってから、走り去った。

「達者でな … 」

はなの背中につぶやいた吉平だった。

* * * * * * * * * *

蓮子が見合いに臨んだのは、園子の叔父でもある紹介者の久保山のメンツをつぶさないためだと伯爵に懇願された故で、その後の判断は蓮子に任せるというのが約束のはずだった。

「こんな、いい縁談は金輪際ないぞ」

ところが、屋敷に戻ると兄夫婦はこの縁談を受けるように執拗に迫ってきた。

「多くの慈善事業をなさってらして、新しく出来る女学校の経営にも関わるご予定だとか」

「 … 女学校?」


園子はいかにも蓮子が好みそうな理由を上げたが、心を動かすまでには至らなかった。

「何しろ巨万の富を築いた名士だからな」

「蓮子さん、お返事は早い方がいいと思うんですのよ」


こんな風に徐々に外堀を埋めていき、なし崩しにことを運ぼうというのが魂胆なのだ。

* * * * * * * * * *

「ちょっと、ふたりにしてくれ」

伯爵は園子を部屋の外に出すと、態度を一変させて遜って蓮子に尋ねた。

「蓮子、どうだろう?」

「お兄様は、本当に私があの方と夫婦になれるとお思いになるんですか?」


蓮子はなじるように伯爵に聞き返した。

身分の違いは別としても、親子ほど離れた歳の差、相手に対する敬意もなく、品位を感じられない粗暴なふるまいは、蓮子は嫌悪感さえ抱いていた。

それが分かりながら尚も縁談を勧める兄が許せなかった。

しかし、伯爵はまたもや蓮子に向かって頭を下げてきた。

こんな姿を妻には見せられなかったのだろう。

「頼む …

先方にはお前を必ず説得するという約束で、もう結納金も受け取ってしまった」


何という恥知らずな兄だろう … 蓮子は愕然とした。

* * * * * * * * * *

翌朝早く、蓮子が寄宿舎に戻ると、早起きしていたはなが迎えてくれた。

「蓮様、おかえりなさい!」

蓮子ははなの顔を見れば、一瞬であっても嫌なことを忘れることができた。

「ただいま、はなちゃん」

* * * * * * * * * *

はなが自分のためにきんつばを買ってきてくれていたことを知った蓮子は、朝食前だというのにお茶まで用意して、金つばのご相伴に与った。

「固くなってしまったかしら?」

「ううん、美味しい」


今まで食べた中で一番のきんつばだと蓮子は思った。

「お兄様のところへ行ったと聞いて心配したわ」

はなが浮かない顔をしていたのはそのためだ。

「 … また何かひどいことでも言われたんじゃ?」

「大丈夫よ」


自分のことを心配してくれる友が居る、蓮子はそれだけで幸せだった。

見合いのことを隠しているのは、はなに嘆いたり悲しんだりしてほしくないからだった。

「はあ、よかった」

ホッとしたはなは、ようやく自分のきんつばに手を出した。

* * * * * * * * * *

「ねえ私、甲府のはなちゃんのおうちに行ってみたい」

「えっ?!」

「ご家族にもお会いしたいの ~ お願い、ねっ?」


突然言い出した蓮子の願いごとを聞いて、はなは困惑してしまった。

「ああ … でも、うちボロ家だから、びっくりすると思うわ」

「構わないわ」


いつになく蓮子は言い出したら聞かなかった。

はなが折れて、正月にと口にすると、何と蓮子は、今度の週末に行きたいと言った。

「えっ?!」

肚を括ったはなは、早速ふじに電報を出した。

* * * * * * * * * *

電報を受け取ったふじ、ひらがなやカタカナであれば朝市の助けがなくても読めるようになっていた。

「ドエウトモトカヘル。

うん?

… 土曜 友と 帰る?!」

「お姉やん、帰ってくるだけ?」


ももが声を上げて喜んだ。

「友って誰で?」

周造が尋ねたが、電報でそこまでは分からない。

「まさか、男け?」

家族の一員のようにして家にあがっているリンが口走った。

「まさか … 」

「あら、分からんじゃんけ ~ はなちゃんだって、お年頃ずら?」


こういう話は大好物のリンだった。

「そうさな … 」

「まさか、きっと女学校の友達ずら。

あ、あそこはお嬢様しかいねえじゃん!」


笑い飛ばしたふじだったが、それもまたそれで一大事なことだった。

「お嬢様がここに泊まるだけ??」

「お嬢様、何を召し上がっていただくだ??」


吉太郎と周造の疑問に一同が慌てだした。

「てえへんだ、てえへんだ ~ 」

取りあえず、わら仕事の手を止めて、家の中を手当たり次第に片付け、掃除を始めた。

* * * * * * * * * *

その週末、はなと蓮子は甲府を目指す汽車の中にいた。

もちろん、ふたりきりで旅することも初めてだ。

蓮子もはなもさっきから笑ってばかりいた。

「好き合って結ばれたお父様とお母様にお会いできるのね」

はなは生憎、父の吉平はまた旅立ってしまったことを伝えた。

「お母とお祖父やんと兄やんと妹が待ってます」

「そう賑やかで楽しそうね」


< こうして、ふたりは甲府に向かいました。

蓮子は胸の内に大きな秘密を抱えたまま … >

* * * * * * * * * *

蓮子は車窓に流れる田園風景や甲斐の山々を見ながら、初めて訪れるはなの家に思いをはせていた。

この旅行の間は他のことはすべて忘れてしまおう …

ほどなくすると、乗客たちが立ち上がって窓を閉めはじめた。

「蓮様、大変 ~ トンネルです」

はなも慌てて自分の横の窓を閉めた。

「はなちゃん、どうしましょう?!」

ところが、どういう訳か蓮子の横の窓が閉まらない。

「大変、大変、ススだらけになってしまいますわ!」

「ええ?!」


トンネルはもう間近に迫っている。

ふたりは力を合わせて窓を引き上げた。

* * * * * * * * * *

間一髪、窓は閉まって事なきを得た。

大笑いするはな、蓮子もつられて声を上げて笑い出した。

トンネルを抜ければ、甲府はもうすぐだ。

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月07日 (水) | 編集 |
第33回

「頼む、助けてくれ … 」

こともあろうに葉山伯爵は、蓮子に向かって深く頭を下げた。

「 … お兄様??」

「この縁談を受けて、葉山の家を救ってくれ」


< 蓮子の運命が、大きく動き始めていることを … まだ露ほども知らぬはなでした >

「葉山の家を救う … どういうことですか?」

蓮子は伯爵の口から衝撃の事実を知ることになる。

「うちにはもう財産は残っていない。

父親が亡くなってから、何もかもが狂ってしまったんだ … 」

「そんな?!」

「私も力を尽くした。

だが、投資していた貿易会社が潰れて、もうどうにもならない。

このままでは、家屋敷も手放さなければ … 」


伯爵は見栄も誇りもかなぐり捨てた。

「蓮子、頼む … この通りだ。

見合いだけでもしてくれ。

先方は九州の石炭王だ … この縁談がまとまりさえすれば … 」

「莫大な結納金でも入るんですか?」


伯爵は質問には答えず、哀願するような目で蓮子の顔を見た。

「 … お兄様は、私をお金で売るおつもりですか?」

余りにも情けなくて、蓮子は涙さえ出てこない。

それでも、伯爵はただただ頭を下げ続けるだけだった。

* * * * * * * * * *

< 蓮子に励まされたはなは、こぴっと張り切っておりました >

ある日のこと、編集部に印刷物を届けに来た英治が、突如何か思いついたような声を上げて、はなの顔をじっと見つめた。

「何か?」

「 … 最初にここであなたを見かけた時から、どうしても初めて会ったような気がしなかったんです」


使い古された口説き文句の様なことを言いながら近づいてくる。

「ああ、今やっと分かった ~ 似てるんですね」

「似てる … 誰にですか?」

「ナマケモノに」


言うに事欠いて『怠け者』とは、何て失礼なことを言うのだろう?!

あ然としているはなに気がついた英治は説明し始めた。

「あ、ナマケモノというのはですね ~

南アメリカと中央アメリカの熱帯林に棲息していて、一生のほとんどを樹にぶら下がって過ごす珍獣です」

「 … 珍獣?!」


言い直したつもりらしいが、尚更失礼ではないだろうか?

英治は本棚から百科事典を取り出しページをめくり始めた。

「その姿から、ナマケモノと呼ばれていますが … 実は泳ぐとそれは早いという意外な一面も持っています」

はなが憤慨しているのが分からないのか、得意になって話し続けている。

「あなたも一見のんびりしているように見えて、翻訳をしている時の集中力は別人のようだ。

それにほら、よく見ると外見もちょっと … 」


ナマケモノについて書かれたページをはなの目の前で開いた。

「もう結構です!」

はなは一瞥しただけで席を立ってしまった。

「 … 何が珍獣よ、失礼な人」

ブツブツ言いながら応接席の上を片付け始めた。

「こんなに可愛いのに … 」

樹の枝にだらりとぶら下がったナマケモノの挿絵 … どこをどう見たら、はなと似ているのだろうか?

* * * * * * * * * *

< ひと月が過ぎ、はなの最後の出勤日のことでした >

原稿の翻訳の確認をしていたはなは、何か焦げ臭い匂いに気がついた。

ふと前方の席を見ると、職員が席を外した机の上の原稿が燃え上っている。

この席の主が不注意に灰皿に置きっ放しにした喫いかけの煙草が落ちたのだろう。

「燃えてますよっ!!」

発見が早かったので、大事に至らず事なきを得たが、その日に入稿しなければならない翻訳の原稿の一部が台無しになってしまった。

あいにく梶原は留守だ。

途方に暮れる職員たちと英治。

「あ、あの … 英語の原文ありますか?」

はなの言葉に英治は慌てて原書を差し出した。

ざっと目を通したはな、何とかなりそうな気がした。

「私に翻訳させてください!」

職員のひとりが今日中に出来るかと確認したが、はなはうなずいた。

「やってみます!」

「お願いします!!」


一同に頭を下げられ、はなは早々に原書を手に席に着いた。

* * * * * * * * * *

「あの、辞書をください!」

しかし、本棚にあるはずの英和辞典が見当たらない。

外回りの職員が持ち出してしまったらしいのだ。

自社にある辞書を取りに戻ろうとした英治をはなは呼び止めた。

「それなら、学校の方が近いです!

秀和女学校の図書室なら、ヘボンの英和辞典がありますから!」

「学校?!」


脱兎のごとく編集部を飛び出した英治。

「 … はっ、男子禁制!!」

はなが、そのことを思い出した時、英治の姿はもう見えなかった。

* * * * * * * * * *

やむを得ず、はなが学校に戻ると、不審者に間違われた英治は武道の心得もあるかをる子に投げ飛ばされ、締め上げられ、ブラックバーン校長の前に突き出されているところだった。

必死に事情を説明しようとしたのだが、かをる子は聴く耳持たず、英治のカタコト英語ではブラックバーン校長にはさっぱり通じなかったのだ。

警察に通報される寸前にはなが駆けつけた。

「(申し訳ありません、私がお願いしたのです … 仕事で辞書が必要なんです。

急いでいたので、男子禁制のことも忘れて … 本当に申し訳ありません!)」


必死のはなの弁明で事情を理解した校長は、特にお咎めなしで、辞書の貸し出しを許可してくれた。

「翻訳だけじゃなくて、英会話もできるんですね ~ 何よりも通じるところが素晴らしい」

英治は、はなの英語力を目の当たりにして、改めて感服していた。

この男、思ったことは即、口にしないといられない性質のようだ。

* * * * * * * * * *

「 … これでよろしいんですね?」

「白鳥様、お騒がせしました」


はなに辞書を差し出しながらかをる子は念を押した。

「また侵入したら、本当に警察に引き渡しますから … そのおつもりで」

「本当にご迷惑をおかけしました」


英治は苦笑いしながら頭を下げた。

「もっと離れて!

男女7歳にして、席を同じゅうせず!!」


肩を並べて社に戻っていくふたりの背中にかをる子の叱責が飛んだ。

* * * * * * * * * *

そんな騒動が起きていたことなど、知る由もない編集長の梶原は … 富山と逢引きの最中だった。

「生徒たちから見られた?!」

無言でうなずく富山に、梶原は申し訳なさそうな顔をした。

「それはすまなかった」

梶原は、ようやくはなが自分に対して見せたおかしな態度に合点がいった。

「 … でも、僕はいい加減な気持ちであなたに会ってる訳じゃない」

やはり、亜矢子の読み通り、梶原は富山の『ひどいロミオ』だった。

「僕たちはそんなに若くはない。

もうこれ以上、人生の時間を無駄にするのは止めよう … 今度こそ、あなたを幸せにする」


梶原は改めて富山の方を向き直した。

「僕の妻になってください」

* * * * * * * * * *

職員一同が注目する中、はなは何とか翻訳を終えた。

「できました!」

原稿を受け取り、礼を言う英治。

皆から拍手が起こった。

そこへ、梶原が編集部の扉を開けた。

「編集長、もう大変だったんですよ!」

* * * * * * * * * *

はなの翻訳の最終確認をする梶原を一同は息を呑んで見守った。

「 … いいじゃない」

梶原に合格をもらったはなは胸をなでおろして笑みを浮かべた。

「よしっ、すぐ印刷回してくれ!」

原稿を受け取った英治は、もう一度はなに頭を下げた。

「本当に助かりました ~ どうもありがとうございました。

あの、お礼はまた今度改めて … 」


そんな言葉を残して、大急ぎで出て行った。

* * * * * * * * * *

「君、今日までだったね?」

梶原は、はなの労を労いながら、報酬の入った封筒を差し出した。

「はい、お給料」

「あ … ありがとうございます!」


うれしくて仕方がない … はなが生まれて初めて手にした給料だった。

「帰りに友達にきんつば買って帰ろうと思います!」

ひと月はあっという間だったが、貴重な体験をした。

翻訳家になるという夢も確信した。

今日で終わりと思うと胸にこみ上げるものがある。

「本当にお世話になりました」

ところが、梶原は、はなの挨拶も耳に入らないのか、ぼんやりとしたままだ。

「 … 編集長?」

「うん?」


やっと顔を上げたが、いつもの梶原の元気がない。

「どこかお加減でも悪いんですか?」

「いや、結構堪えたかな …

今日、君の学校の先生に求婚したら、あっさり断られたよ」


もう、はなに隠すこともないと思ったのだろう。

梶原は、ありのままを話して聞かせたのだ。

* * * * * * * * * *

学校に戻ったはなは、廊下で富山を見かけた。

「あの、富山先生 … 出版社の仕事、今日までだったんです」

「そう、ご苦労様でした」


富山はいつもと変わりはなかった。

そのまま立ち去ろうとする富山にはなは続けた。

「 … 梶原編集長、元気なかったです」

富山は足を止めたが、何も言わない。

「あの … これでいいんですか?」

差し出がましいことは百も承知の上だったが、どうしても口を出さずにはいられなかった。

しばしの沈黙の後、富山は振り向いた。

「つかみ損ねた幸せは、もう取り戻せないんです」

はなが意外に思うほど、穏やかな顔をしている。

「 … 教職という仕事が、今の私の幸せです」

そう毅然と言うと、踵を返して去って行った。

はなはその背中を見つめるだけだった。

* * * * * * * * * *

その頃、蓮子はとあるホテルのロビーにいた。

見事な晴れ着に身を包んだ蓮子、しかしその表情は曇っていた。

傍らに控えている葉山伯爵夫妻に押し切られるような形で件の石炭王と見合いすることを承知してしまったのだ。

「遅いわね … どうなさったのかしら?」

しかし、約束の時間を過ぎても見合い相手は姿を見せなかった。

「やはり、私 … 」

思いつめた顔の蓮子が席を立とうとした時、入口の方を見ていた園子が先に立ち上がった。

「お見えになったわ」

* * * * * * * * * *

園子の叔父である久保山に案内されて、見合い相手の嘉納伝助がロービーに姿を現した。

「申し訳ない、仕事の話が長引いてしまって」

「叔父様、今日はよろしくお願いいたします。

… 義理の妹の蓮子です」


紹介された蓮子はうつむいたままでお辞儀をした。

「いや、噂通りお美しい … あっ、こちら嘉納さんだ」

顔を上げた蓮子の目に映ったのは、紋付き袴に黒い帽子を被って、口ひげを蓄えたいかにも頑固そうな初老の男性の姿だった。

< 九州の石炭王、嘉納伝助です >

伝助は、葉山伯爵の挨拶をすり抜けて、鋭い目つきで蓮子の方へと進んでいった。

そして、息がかかるほど顔を近づけるとまじまじと蓮子のことを見つめた。

< 蓮子が、親子ほど歳が離れた人と見合いをしてるとは夢にも思わず、帰りを待っているはなでした >

「きんつば買ってきたのにな … 」

こんな日に限って、蓮子が帰ってこない。

昨日、外出のことなどひと言も言っていなかったのに … 少しだけ肩透かしを食った気分だ。

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月06日 (火) | 編集 |
第32回

< はなは臨時雇いの小間使いとして、出版社で働くこととなりました。

そんなある日のこと、編集長と富山先生の逢引きを目撃してしまったのです >

「あの真面目な富山先生が編集長と … 」

はなにとっては、あまりにも衝撃的なツーショットだった。

「白昼堂々と逢引きなさってたそうね?」

次の日、教室で顔を合わせた蓮子は、どういう訳か昨日のことを知っていた。

「えっ、蓮様どうしてそれを?!」

「とっくに皆さんご存知よ」


そう言って、蓮子は前の方の席でクラスメートに囲まれておしゃべりをしている亜矢子を見た。

『富山の逢引き』は彼女を通じてクラス中に広まっていたのだ。

* * * * * * * * * *

「それでね、富山先生の逢引きの相手に心当たりないか、富山先生と同級生だった従姉妹に聞いてみましたの」

亜矢子が仕入れてきた新たな情報に級友たちは興味津々だ。

「富山先生は、高等科の学生時代、ある青年と大恋愛をなさって、ふたりは永遠の愛を誓い合ったの。

… だけど、家同士の複雑なご事情から、その恋は実らなかったの」


ロミオとジュリエットを地で行くような話だった。

「まさか、富山先生のロミオ様も毒をあおって死んでしまった訳じゃ … 」

鶴子の推測に亜矢子は首を振った。

「いいえ、彼は何と富山先生を捨てて、親が決めた裕福な財閥のお嬢様と結婚してしまったのよ」

昨日、逢引きしていた人物こそ、その『ひどいロミオ』だと亜矢子は言い切った。

「 … 富山先生の昔の恋人に間違いないわ。

彼の方も財閥の娘とはとっくに離婚されたそうだし、富山先生と再会して、再び燃え上ったのよ!」

「ちょ、ちょっと待って醍醐さん … そこまで決めつけなくても」


はなが慌てて嗜めたが、亜矢子には確信があった。

「従姉妹の話だと、彼は昔から文学青年で出版の仕事をされてるって … ねっ、間違いないでしょ?」

* * * * * * * * * *

ちょうどその時、教室の扉が開いて、富山が顔を出した。

「始業のベルが聞こえなかったんですか?」

ざわついている生徒たちに席に着くよう促した。

ところが、授業が始まっても、クラス中どこか浮き足立っていた。

あちらこちらからこそこそと話声が聞こえ … 授業に集中していない。

黒板に向かっていた富山が、キッとなって振り返った。

「(静かに、私語は止めなさい!)」

注意しても、一向に納まる様子がない。

「そんなに騒ぐことかしら?」

意外にも級友たちを諌めたのは、富山とは折り合いがあまりよくない蓮子だった。

「富山先生は教師である前に、ひとりの女性なんですから」

ただ、当の富山は何故凛子がそのようなことを口にしたのか理解できなかった。

「 … 何のことですか?」

「逢引きぐらいなさって当然ですよね」


蓮子の言葉に富山は顔色を変えたが、その件について否定も肯定もしなかった。

しかし、動揺しているのは誰の目からも明白だった。

* * * * * * * * * *

編集部に働きに出ても、はなは梶原のことが気になって落ち着かなかった。

< はなは、ついよからぬ想像の翼を広げてしまいました >

想像の中、はなはひとり芝居をはじめた。

互いに向かい合う梶原と富山。

「僕がバカだった … 君のいない人生なんて、何の意味もない!

まるで香りのないバラと同じだ」

「そんなことおっしゃっても、もう遅いわ」

「もう一度、僕を信じてくれ! … 二度と君を離さない!」

* * * * * * * * * *

「梶原さん … 」

はなは思わず言葉を漏らしてしまった。

「何、小間使い君?」

「てっ、てっ … 編集長」


我に返ってうろたえるはな。

「どうしたのよ ~ 大丈夫?」

梶原は心配そうな顔をして近づいてきた。

説明できるようなことではない … 曖昧な返事をしていると、背後で人の気配がした。

「おはようございます」

聞き覚えのある声にはなは振り向いた。

「編集長、原稿いただきに参りました」

編集部に入ってきたのは、はなが仕事初日にひとりで留守番をしていた時に見かけたあの背の高い青年だった。

* * * * * * * * * *

応接席にはながお茶を運んでいくと、原稿を前にして梶原と青年が難しい顔をしていた。

「ここ、百科事典とはいえ、分かりにくいですよね … 」

「偉い学者に翻訳頼んだんだが、この先生、文体が固すぎるんだよな」


湯呑を置くはなを見て、青年はようやく先日のことを思い出したのか、軽く微笑んで会釈した。

「小間使い君、これ読んでみて」

梶原は件の原稿をはなに読むように指示した。

「ラクダの体構造は乾荒原に適合せり、すなわち背部の大瘤には脂質を蓄蔵し … 」

「意味分かる?」


はなは首を横に振った。

「さっぱり分かりません … 」

ふたりは考え込んでしまった。

「 … 君、英語できるんだよね?」

「はあ … 」


梶原は自分の隣にはなを座らせ、今度は原文を取り出して、はなに読ませた。

英文を流暢に読み上げるはなの発音を聞いて、ふたりは軽く驚きを見せた。

「ああ、こっちはよく分かります」

* * * * * * * * * *

「あの、試しにこのお嬢さんに訳してもらったらどうでしょう?」

青年の提案に梶原もうなずいた。

「そうだな ~

君、このページ訳してみてくれるかな?」

「私がですか?!」


突然のことにはなは目を丸くした。

「急いで!」

早速、机を与えられて、はなは翻訳に取り掛かった。

すると、青年は気を利かせて、英英辞典を本棚から取り出して、何も言わずに机の上に置いた。

「あの方って、どなたなんですか?」

「村岡英治、村岡印刷の二代目だ … 昔からうちに出入りしている印刷屋だよ」


* * * * * * * * * *

梶原と会っていたことが生徒たちの知るところとなってしまった富山は、ことのほか沈んでいた。

「あの方が離婚なさっていたなんて … 分からないものね」

「今更そんなこと言われてもどうしたらいいのか … 」


こんなことを相談できるのも、当時のことを知っている茂木ぐらいしか富山にはいなかった。

「私は富山先生を見直しました」

生徒たちの姿が消えた放課後の談話室、突然現れたのは蓮子だった。

「いつぞやは恋愛経験が乏しいなどと、失礼なことを申し上げて … すみませんでした」

「あなたは失礼なことしか言わないじゃありませんか」


そう返した富山だったが、大文学会以降、生徒たちに対する態度がどこか丸くなっていた。

以前の富山なら、蓮子のことを怒鳴って追い返していたに違いない。

「蓮子さんもお茶をいかが?

スコット先生の焼いたクッキーもありますのよ」


茂木に勧められて、蓮子もテーブルについた。

* * * * * * * * * *

「富山先生 …

私は、愛のない結婚をして、こんなにひねくれた女になってしまいました。

… ですから、失礼ながら言わせていただきます」


ふいに話し始めた蓮子、富山は黙って聞いている。

「本当にその方が好きなら、過去に拘らず愛を貫くべきです」

立場は教師と生徒だが、年齢も近い蓮子の言葉は富山の心に強く響いていた。

* * * * * * * * * *

「 … できました!」

はなが懸命に書き上げた翻訳を梶原は真っ先に村岡英治に渡した。

「拝読します」

彼が目を通している間、緊張気味のはなに梶原は、翻訳する際の心構えのようなものを語り始めた。

「あのね、翻訳とは原文との距離感が大事なんだ。

原文に引きずられて、直訳や不自然な日本語になってもいかんし … 読みやすさを重視して、端折り過ぎてもいかん。

その制約の中の勝負なんだ」


はなはうなずいたが、英治の反応の方が気になってほとんど耳に入っていなかった。

「で、君の翻訳だけど … 」

梶原は英治に感想を尋ねた。

「これは … バカが読んでも分かりますね」

* * * * * * * * * *

「 … バ、バカ?」

酷評されたと思ったはなは絶句してしまった。

「いや、あなたがバカだと言ってる訳じゃないんです」

英治が慌てて取り繕った。

「 … 褒めたんです」

「最上級のほめ言葉だね」


梶原も満足そうに笑っている。

「言い換えると … とても素直できれいで読みやすい翻訳だと思います」

どこか他人事のようにポカンとしているはなに梶原からうれしい提案がされた。

「小間使い君、本気でやってみないか?」

「えっ?」


はなは我が耳を疑った。

「これを叩き台にして手を入れれば、使い物になりそうだ」

どうやら、梶原は本気で言っているらしい。

途端に喜びが込み上げてきた。

「 … こぴっと頑張ります!」

「こぴっと?」

「それ、どこの国の言葉?」


* * * * * * * * * *

寄宿舎に戻ったはなは誰よりも先に蓮子に報告した。

「小間使いから翻訳者に昇格ね ~ おめでとう!」

それは蓮子にとっても、この上なくうれしい報せだった。

お互いの喜びも悲しみも我がことのように共有できる腹心の友なのだ。

「ありがとう!」

「でも、忘れないで … 最初にあなたの才能を認めたのは私よ」


蓮子の得意げな顔。

「ええ、もちろん! … 忘れませんとも」

ふたりは顔を見合わせて、愉快そうに笑った。

* * * * * * * * * *

「これからは、女も自分の才能を伸ばして、仕事をして …

男の人や権力に寄りかからずに、自分の足で歩いて行ける時代が来ると思うの」


そう生き生きと話す蓮子は輝いて見えたが、はなは少し不安だった。

「それって、仕事一筋で生きるってこと?

ブラックバーン校長や富山先生のように … 」


自分は仕事はしたいけれど、ひとりで生きていく覚悟はない。

結婚して、子供も欲しい … 故郷の母のように。

はなの疑問に対して、蓮子の返事は単純だった。

「両方やればいいじゃない ~ 」

「えっ?」

「与謝野晶子をご覧なさい。

鉄幹と結婚をして、精力的に仕事続けながら、子供を何人も産んでるのよ」

「へえ ~ 」


蓮子は、はなの知らないことをたくさん知っている。

はなの不安は一瞬で払しょくされた。

* * * * * * * * * *

「そう言えば … はなちゃんは『花子』と呼ばれたいって言ってたわよね?」

「ええ」

「世に自分の作品を出す時に、その名前を使えばいいじゃないの」

「ペンネームね!」


素敵なアイディアだった。

蓮子は本に挟んでいた栞に『翻訳者 安東花子』とペンで書いてみせた。

「うん、悪くないわ」

はなはそのしおりを受け取ってうなずいた。

「こぴっと、やる気が出てきたわ」

蓮子は吹き出しながら言った。

「頑張って」

「 … 蓮様の夢は燃えるような本物の恋 … ですよね?」

「ええ、そして … 恋の歌をたくさん作るの」


そう話したあと、蓮子は先ほどのはなのペンネームに並べて『歌人 白蓮』と書き加えてみせた。

「これが、私のペンネーム」

「白蓮! 素敵 ~ 」


< 蓮子は、はなと過ごしながら、失われた青春の時間を取り戻していました。

そして、このキラキラした時間がず~っと続いてほしいと、蓮子もはなも思っておりました >

* * * * * * * * * *

はなと別れて、自分の部屋に戻った蓮子は、ドアの隙間に書置きが挟まっているのを見つけた。

何やらよからぬ予感がしながら開いた。

『至急、面談室へ

葉山伯爵様がお待ちです』

* * * * * * * * * *

面談室を訪れると、いつになく沈痛な面持ちの葉山伯爵が待っていた。

「蓮子 … 」

蓮子の姿を見ると、どういう風の吹き回しか直立して迎えた。

「お兄様どうなさったんですか?」

「例の縁談のことで … 」


前置きもなく切り出したが、蓮子はきっぱりと拒否した。

「それはお断りしたはずです」

すると、蓮子の目の前であり得ないことが起こった。

姿勢を正した伯爵が、蓮子に向かってゆっくりと頭を下げたのだ。

「頼む、助けてくれ … 」

「 … お兄様??」


訝しがる蓮子に伯爵は続けた。

「この縁談を受けて、葉山の家を救ってくれ」

< 運命の歯車は、蓮子の知らないうちに回り始めていたのです。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月05日 (月) | 編集 |
第31回

「ねえ、蓮子さん … 私の腹心の友になってくれて?」

「ええ」

< 大文学会をきっかけに生まれも育ちも全く違う蓮子と『腹心の友』になったはな。

… それから半年が経ちました >

1909年(明治42年)・11月。

学校の廊下を滑るように走って中庭に出たはなはベンチで読書している蓮子を大声で呼んだ。

「蓮様!」

本から顔を上げた蓮子は、はなの姿を見てにっこりとほほ笑んだ。

はなは隣に座り込むと、大事そうに抱えていた蓮子にノートを差し出した。

「これ、蓮様が読みたがっていたテニスンの詩集です」

少しでも早く蓮子の喜ぶ顔が見たくて走ってきたのだ。

「はなちゃん、もう翻訳してくれたの?」

ふたりは、お互いに『蓮様』『はなちゃん』と呼び合うほど仲良くなっていた。

「ええ、私ね、蓮様と出会ってから今までよりも一層英語のお勉強に張り合いが出て楽しみになったの」

早速、はなが翻訳してくれたノートに目を通す蓮子。

* * * * * * * * * *

「あと半年もしないうちに本科もお終いですわね」

亜矢子や鶴子、級友たち数名も中庭にやってきて、反対側のベンチに陣取った。

< 級友たちはそろそろ、卒業後のことを真剣に考え始めていました >

「私は、本科の卒業までに必ず結婚相手を見つけますわ」

亜矢子が皆の前で宣言した。

< 醍醐は寄宿舎を出て、自宅から通う通学生になりました >

元々、結婚願望が強い亜矢子だったが、はなと蓮子の友情が深まるにつれ、自分との距離を感じて … 寂しさを紛らわすかのように、両親のもとに帰ってお見合い三昧の週末を過ごしていた。

* * * * * * * * * *

「はなちゃんは、本科を卒業したらどうするの?」

蓮子の質問にはなは表情を少し曇らせた。

「まだ考えてるの …

勉強は続けたいけれど、兄も妹もうちのために働いているのに、私だけ好きなこと続けていいのかしら?」


小さなため息をついた。

* * * * * * * * * *

その日、はなは突然、校長室に呼び出された。

心当たりはないこともない … しかし、呼び出されるような大きなしくじりはなかったはずだった。

ドキドキしているはなにブラックバーン校長は尋ねた。

「(はな、学校の外で働いてみませんか?)」

「( … 今、何と?)」


思わず聞き返したはなに茂木が詳細を説明した。

「うちの学校とご縁のある出版社に頼まれたのです。

事務員が辞めてしまったそうで、臨時に放課後だけでも働いてくれる生徒はいないかと …

特に英語が優秀な人に来てほしいそうです」

「是非やらして下さい、お願いします!」


願ってもない話にはなはふたつ返事で飛びついた。

「(何事も経験です … 頑張りなさい)」

< という訳で、はなは学生アルバイトとして働くことになりました >

* * * * * * * * * *

ブラックバーン校長から渡されたメモを手に、はなは向学館という出版社の編集部を訪ねた。

「御機嫌よう … 」

入口で声をかけたが、皆忙しそうに働いていて誰ひとり気づいてくれない。

気を取り直して、もう一度大きい声で言うと、付近の席の職員が数名振り返った。

「 … 秀和女学校から参りました。

安東と申します」

「ああ、君か?」


体格のいい、いかにも学生時代スポーツで鳴らしたといった感じの男性がにこやかな顔で応対に出た。

編集長の梶原聡一郎と名乗った。

「 … 君、小間使いじゃないか?」

梶原ははなの顔を覗き込んだ。

「えっ?」

「ほら、あのジュリエットに薬のビンを渡す時にすっ転びそうになった小間使いだろう?」


梶原は大文学会の舞台を客席から観ていたのだ。

「いやあ、あのロミオとジュリエットはよかったよ」

ワンシーンしか出ていない自分のことを覚えているなんて、余程あの失敗の印象が強かったのか … 。

はなは知らない … 舞台の後、講堂の外で富山が呆然と見つめていた、何やらいわくがありそうな男性こそが彼だった。

「ああ、紹介しとこう」

梶原がその大きな手をパンパンと叩くと、部屋中の職員が注目した。

「今日からひと月、臨時で働いてもらうことになった『小間使い』さんだ」

「はじめまして、安東花子と申します ~ 花子と呼んでください」

「よろしく、小間使いさん!」


毎度のことながら、『花子』とは呼んでくれなさそうだ。

しかも、こともあろうに『小間使い』だ。

* * * * * * * * * *

取りあえずということで、お茶を淹れていると、編集部の電話がけたたましく鳴った。

「小間使いさん、電話に出て!」

そう言われても、はなは電話に出た経験などなく、どうやって出たらいいのかも分からなかった。

「早く出て、切れちゃうよ!」

仕方なく、電話の前に行き、横のハンドルを回してみた。

その反動で受話器が外れてしまう。

机の上の受話器を慌てて手にすると、そこから声が聞こえてきた。

『そちら麹町2525番ですか?』

「はっ、ごきげん … ごきげんよう!」


受話器に向かって返事をしたが、仕組みが全く理解できない。

『もしもし? ~ もしもし? ~ 』

「 … 何か言ってますよ!!」


< ふふふ … 何しろ電話に出るのも、生まれて初めてなので、お許しくださいませ >

『もしもし、お繋ぎしますか?』

交換手が尋ねているが、取り乱したはなは『ごきげんよう』を繰り返すだけだ。

ようやく梶原が、はなの手から受話器を受け取った。

「はい、もしもし、向学館編集部でございます … 」

* * * * * * * * * *

梶原は電話の相手に礼を言って、受話器を置いた。

「よしっ、中村教授の翻訳終わったぞ!」

梶原の号令と共に職員たちが一斉に上着を手にして立ち上がった。

全員で出かけるようだ。

「小間使い君、留守番を頼む」

はなは留守の間の指示を仰いだが、まだ何もできないということで、本棚に備えてある本を読んでいていいと許可された。

「はいっ、いってらっしゃいませ!」

はなは、俄然わくわくして皆を送り出した。

* * * * * * * * * *

皆が出払うのを待ちきれなかったように、はなは本棚の前に立った。

棚を見上げて、一冊の分厚い本が目に留まった。

「EDWARD'S THIRD NEW INTERNATIONAL DICTIONARY … 」

それは、英英辞典だった。

「 … こんなの学校の図書室にもないわ!」

嬉々として手を伸ばしたが、一番上の棚にあるため、はなの身長では手が届かない。

背伸びをしても僅かにまだ上にある … 飛んでも跳ねてもダメだ。

すると、はなの頭の上からヒョイと手が伸びて、その辞典をつかんで本棚から引き抜いた。

「てっ?!」

振り向くと、背広姿の背の高い青年が手にした辞典をはなに差し出した。

「はい」

青年の顔を見て、はなは一瞬固まった。

「えっ?」

「 … どうも、ありがとうございます」


お辞儀したはなに青年は笑顔で会釈すると出口に向かって歩き出した。

青年は扉の前でふと足を止めて振り返った。

はなはもう彼のことなど忘れたかのように辞典に見入っていた。

それでも視線を感じたのか、顔を上げて青年の方を見た。

「 … あっ、何か?」

「あ、いや … じゃあ」


今度こそ青年は編集部を後にした。

「 … 今の誰?」

* * * * * * * * * *

同じ頃、蓮子は兄の葉山伯爵から屋敷に呼び出されていた。

「お待ちしてたんですのよ、さあどうぞお入りになって」

義姉の園子がやけに愛想よく蓮子のことを迎えた。

「お兄様、ご無沙汰しております」

挨拶もそこそこ、蓮子が椅子に腰かけるや否や、伯爵はいきなり切り出した。

「実はお前に縁談がある」

「いいお話なんですのよ ~

久保山の叔父様からのご紹介で、相手は九州の石炭王で、炭鉱の他にもいろいろな事業をなさっていて、地元では大変な名士なんですって」


伯爵の隣に腰かけた園子が相手の嘉納伝助の身上書を蓮子の前に置いた。

「歳は大分離れているが、出戻りのお前でもいいと言って下さっている」

むすっとした顔で伯爵が言った。

身上書に書かれた生年月日は蓮子と親子ほどの差があった。

「見合いは来週だ、分かったか?」

一方的に告げた伯爵だったが、蓮子はほんの一瞬も考えることさえせずに即答した。

「お断りします」

「何?」


葉山夫妻の顔色が変わった。

「 … 私はやっと自分の居場所を見つけたのです。

あの学校に入って、学ぶことの本当の楽しさを知りました。

今後は高等科に進み、ひとりで生きていく術を身につけます」

「何を言ってるんだ?!」


伯爵の動揺は大きかった。

「そんな身勝手な真似が許されると思ってるのか?」

「私は、お兄様たちの操り人形ではございません」


* * * * * * * * * *

重苦しい気分で寄宿舎に戻った蓮子は、ちょうど仕事を終えて帰ってきたはなの姿を目にしてホッとした。

「はなちゃん、おかえりなさい!」

駆け寄って来る蓮子に、はなも笑顔を見せた。

「ただいま ~

あら、蓮様も何処かにいらしてたの?」

「ええ、ちょっと … ねえ、出版社のお仕事どうだった?」


* * * * * * * * * *

「 … 小間使い?」

蓮子の部屋で蓮子が淹れてくれた紅茶を口にしながら、はなはアルバイト初日の出来事を話して聞かせていた。

「そうなんですよ ~

誰も名前を呼んでくれなくて … 『小間使い君、お茶入れて』『小間使いさん、電話出て』って」

「はなちゃんの得意の英語は生かせなかったの?」

「ええ … でも、ひと月、小間使いとしてこぴっと頑張ります!

自分で働いたお金で、自分の好きなものを買えるなんて夢みたいだもの」


蓮子はそんなはなの前向きさが好きだった。

「はなちゃんの一番欲しい物って何?」

「英語の辞書」


はなは迷うことなく答えた。

「 … 自分の辞書があったら、どんなに幸せかしら?」

「はなちゃん、いつも図書室まで辞書引きに走ってるものね」


* * * * * * * * * *

「蓮様の欲しいものは?」

はなは反対に蓮子に質問した。

「私は物じゃなくて …

燃えるような心が欲しい。

一度でいいから、本気で誰かを愛したいの」


時として少女のように見える蓮子だったが、彼女が語った夢は16歳のはながまだ知らない大人の匂いがした。

こんな時、はなはやはり蓮子は24歳の女性なのだと実感してしまう。

「 … それなのに兄は、今度はお金持ちと再婚させようとしているの」

「えっ?」


はなが眉をひそめた。

「父親みたいに歳の離れた人とお見合いをしろって」

「それで?!」

「もちろん、きっぱり断ったわ」

「ひどいお兄様だこと!

蓮様の人生を何だと思ってるの?! … 信じられない!」


まるで我がことのように腹を立てているはなを見て、蓮子はうれしそうに笑った。

「はなちゃん、何でも打ち明けられる友達がいるって … 幸せね」

「蓮様 … 」


蓮子は生涯初めて無二の親友を得た喜びをかみしめていたのだ。

* * * * * * * * * *

「はなちゃんに訳してもらった詩集、読んだわ」

蓮子は、傍らからノートを取り出した。

「 … 素敵ね」

「ね、ドラマティックでしょ?」

「人の世に背くくらい激しく誰かを愛するって、どんな気持ちなのかしら?」


そう口にした蓮子は先ほどとは打って変わって夢みる乙女のようだった。

< ふたりはこれからどんな男の人に出会い、どんな恋愛をするのでしょうか?

… それはまだ、神様しかご存じありません >

* * * * * * * * * *

< そんなある日のことでございました >

出版社での仕事を終えたはなが公園の橋のたもとを通りかかった時、身を屈めるようにして対岸を見つめている亜矢子たちに出くわした。

「ごきげんよう、醍醐さん」

「はなさん、大変大変!」


亜矢子ははなに気づくと、慌てて手招きした。

「 … どうしたの?」

はなは亜矢子が指さした先、対岸に架かっている橋の上に視線を合わせた。

並んで立っている男女の姿があった。

「あ、富山先生?」

女性の方は富山だった … 俯いているようにも見える。

「どう見ても逢引きですわね」

何故かしら亜矢子はうれしそうだ。

その時、背を向けて欄干に寄りかかっていた男性が体の向きを変えて … こちらから顔が見えた。

「てっ?!」

はなが驚いたのも無理はない … よく知っている人物だった。

「 … 編集長?!」

富山の相手は梶原聡一郎に間違いなかった。

< はなにとっては、あまりにも衝撃的なツーショットでございました。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月04日 (日) | 編集 |
まずは、先週のおさらいを …



それでは、次週の「花子とアン」は?

激しく誰かを愛するってどんな気持ちなのかしら?

大文学会で「ロミオとジュリエット」を上演して以来、はな(吉高由里子)と蓮子(仲間由紀恵)は「腹心の友」とも言える仲となり、好きな文学や将来の夢などを日々語り合っていた。

はなは茂木(浅田美代子)の紹介で、梶原(藤本隆宏)が編集長を務める出版社でアルバイトを始める。

初めは失敗してばかりだが、出入りする印刷会社の村岡英治(鈴木亮平)と出会ったことがきっかけで、はなは梶原に英語の才能を認められる。翻訳の手伝いをすることになり、初めての「英語を翻訳する」という仕事にやりがいを感じるはな。

どうしても初めて会ったような気がしなかったんです

そんな彼女に英治はトンチンカンなほめ言葉を投げかけ、はなを戸惑わせるのだった。

一部始終を聞いた蓮子は、はなは翻訳を職業にすれば良いと告げて、あるペンネームをはなに授け、自分は歌人になると宣言する。

男女7歳にして、席を同じゅうせず!

そんな折り、はなは学校の外で、富山(ともさかりえ)が男性と密かに会っているのを目撃。相手は、なんと梶原編集長だった。醍醐(高梨臨)らによって、噂が学校中に広まってしまう。

兄様は私をお金で売るおつもりですか?

一方、蓮子は兄・晶貴(飯田基祐)に呼び出され、驚くべきことを告げられる。「九州の石炭王」と呼ばれる男と見合いをしろと言うのだ。蓮子はきっぱりと断るが…

このキラキラした時間を私決して忘れない、遠く離れても …

花子とアン 公式サイト、YAHOO!テレビガイド他を参照)

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2014年05月03日 (土) | 編集 |
第30回

家の名を守るためだけに仕組まれた結婚、16歳での出産 … そして、その子を取り上げられてしまったこと。

蓮子はすべてはなに告白した。

「はなさんとは住む世界が違うの。

友達なんかなれっこないでしょ、これ以上、私に近づかないで … 」

「嫌です、そんなの!

何故だか分からないけれど … 放っておけないんです、蓮子さんのこと … あなたは空っぽなんかじゃない!」

観客席からのひときわ大きい拍手に迎えられて舞台へ上がって行く蓮子、はなはその背中を見送った。

< さあ、ロミオとジュリエットの幕が開きました >

* * * * * * * * * *

< 皆様にロミオとジュリエットのストーリーをざっとご紹介しておきましょう。

この物語は互いに憎しみ合うふたつの家に生まれたロミオとジュリエットが深く愛し合いながらも、その運命に引き裂かれる悲劇でございます >

舞台へ上がった蓮子はすっかりと落ち着きを取り戻して、ジュリエットを演じていた。

芝居は第一幕が終わり、第二幕、三幕と順調に進んでいった。

「おお、ロミオ様 … どうしてあなたはロミオなのでしょう?

ロミオ・モンタギュー、あなたの家と私の家は互いに憎しみ合う宿命 … その忌まわしいモンタギューの名前をあなたが捨ててくださるなら、私も今すぐキャピレットの名をお捨てしますわ」


< ロミオはケンカを仲裁しようとして、ジュリエットの従兄弟のティボルトを殺してしまい、追われる身となります >

* * * * * * * * * *

< 一方、ジュリエットは父親が決めた侯爵との結婚を迫られ、何とかそこから逃げようとするのです >

舞台は、ロミオがジュリエットには父親が決めた許婚のパリス侯爵が居ることを咎める場面だった。

「 … それは、父が勝手に決めたこと。

父が考えているのは、私のことではなく、キャピレットという家のことだけですわ」


ジュリエットと自分の境遇を重ねた蓮子の迫真の演技に客席は息を飲んだ。

「私は … 私は父の操り人形ではありません!」

蓮子は舞台の上から憮然とした表情の葉山伯爵を鋭い視線で見据えた。

* * * * * * * * * *

客席の片隅には、あれだけ頑なにこの芝居を拒絶していた富山の姿があった。

* * * * * * * * * *

第四幕、いよいよはなの出番が来た。

小さな役だが、ジュリエットに睡眠薬を渡すという重要な役だった。

はなは舞台のそでで心臓が口から出そうなほど緊張していた。

「頑張って!」

亜矢子に励まされて、はなは舞台に上がった。

「ジュ、ジュリエットお嬢様 … 」

蓮子に向かって一歩踏み出そうとした時、スカートのすそを踏んでしまって前のめりに転倒してしまった。

「てっ … すいません!」

客席はどよめき、大爆笑。

蓮子ははなを抱き起しながら、セリフを続けるように小声で促した。

「ジュリエットお嬢様、ご神父様より秘密のお薬を預かって参りました … さあ、お飲みください」

蓮子は、手渡されるはずだった薬のビンを足元から拾った。

「そのお薬を飲めば、42時間眠ったままになり … 死んだと思われて … お墓に埋められます」

はなのセリフのぎこちなさに、また客席から失笑が起こった。

「そこにロミオ様が助けに来て … 参ります」

はなは過度の緊張のあまり胃が痛くなってきた。

「 … どうかお幸せに」

* * * * * * * * * *

「ごめんなさい、失敗しました!」

何とか自分のセリフを終え、半泣きで舞台そでに駆け込んできたはなを亜矢子と鶴子は慰めた。

「大丈夫よ」

「気にしないで … さあ、最後の幕よ」


鶴子は亜矢子に向かってそう指示した。

* * * * * * * * * *

第五幕。

舞台中央、棺に横たわるジュリエットの蓮子。

ロミオの亜矢子がやって来る。

「おお、私のジュリエット!

私も今すぐ行く … 二度とこの暗黒の宮殿は去ることはない!」


取り出したビンの中の液体を飲み干したロミオ。

「ジュリエット、いつまでも愛するそなたのそばに … 」

ジュリエットの横に並ぶように倒れこんだ。

< ジュリエットが42時間の眠りから覚めた時、ロミオはすでに息絶えていました >

* * * * * * * * * *

ロミオの傍らに転がっていた空のビンを手に取るジュリエット。

「可哀そうなロミオ様。

私が本当に死んだと思い、毒薬を飲んでしまわれるなんて … 」


嘆き悲しむジュリエット。

「ロミオ様と私が出会った時から、こうなることは定められていたのでしょうか?」

その演技に魅了され、客席のあちらこちらで涙をぬぐう仕草が見受けられた。

富山もその中のひとりだった。

彼女が怒り以外の感情を露わにするのは珍しいことだ。

* * * * * * * * * *

客席は水を打ったように静まり、蓮子の演技に惹きこまれていた。

「 … 結局、私たちは家の名前に負けてしまったのですね。

このまま運命を呪って生きていくことに何の意味がありましょう?

家に閉じ込められたまま生涯を送ることなど、私には耐えられません!」


はなには、まるで蓮子自身の心からの叫びのように聞こえた。

「それよりは、家の名前などない天上の国でロミオ様とふたり、永遠の愛を手にしとうございます」

富山はまるで祈りを捧げる少女のように手を合して、舞台の蓮子のセリフにうなずいていた。

* * * * * * * * * *

ジュリエットはロミオの懐刀を引き抜くと自らの胸に突き刺した。

「ロミオさま … 」

ロミオの上に覆いかぶさるように倒れ、こと切れるジュリエット。

大団円、幕が閉まる。

そして、真っ先に拍手を始めたのは、富山だった。

割れんばかりの拍手が瞬く間に広がっていった。

立ち上がるブラックバーン校長、くしゃくしゃの顔で泣いているかをる子。

感動に包まれた客席の中、葉山伯爵夫妻だけが蚊帳の外にいた。

* * * * * * * * * *

幕が下りた舞台では、演技を終えて起き上がった蓮子と亜矢子が目と目を合わせて微笑んだ。

すると、仲間たちがふたりの名前を呼びながら駆け寄ってきて周りを取り囲んだ。

はなは笑顔で蓮子の手を握った。

少し戸惑いの表情を見せた蓮子だったが、もう拒むようなことはしなかった。

蓮子もすでに紛れもなくクラスの一員だった。

* * * * * * * * * *

廊下のイスに座って富山が舞台の余韻に浸っていると、茂木がそっとハンカチを差し出した。

「いいお芝居でしたね」

涙をぬぐいながら、富山は茂木の言葉に素直にうなずいた。

「あなたが演じたジュリエットも素敵でしたけど … 」

富山の顔から笑みがこぼれた。

「でも、私を舞台で見初めたあの人は、ロミオのように愛を貫く人ではありませんでした。

あんな人のためにロミオとジュリエットを避けていたなんて、バカみたいですね … 」

「富山先生 … 」


茂木は富山の膝に手を置くと静かに立ち去った。

ひと息ついて席を立った富山は、講堂から出てきたひとりの男性と目が合った。

果たして … 富山は呆然と立ち尽くした。

* * * * * * * * * *

舞台終演後、校庭では生徒たちと招待客の懇親会が開かれた。

「(どうです?

蓮子のジュリエットは最高でしょう)」


ブラックバーン校長に尋ねられたが、葉山伯爵は不機嫌な顔で返事さえしなかった。

嫌味だとでも勘ぐっているのかも知れない。

「伯爵様、何故か虫の居所がお悪いようですわね」

伯爵のことなど、綾小路の他には気にかける者はいなかった。

* * * * * * * * * *

「醍醐様のロミオ様、本当に素敵でしたわ」

「私のお姉さまになってください」


ロミオを演じた亜矢子は、その凛々しい演技が大好評で、下級生たちからの黄色い声援に囲まれて、持ちきれないほどのプレゼントや手紙を抱えていた。

* * * * * * * * * *

「はなさんが言ってた通りね ~ 思いきりやってよかったわ」

舞台前とは別人のように晴れやかな顔をしていた蓮子だったが、兄夫妻の姿を目にすると笑みが消えた。

蓮子の視線の先に目をやったはなは、悪戯っぽく笑いながら耳打ちした。

「蓮子さん、私いいこと思いついたんですけど …

復讐してやりましょう」

「えっ?!」


* * * * * * * * * *

一向に自分たちの前に姿を見せない蓮子に葉山伯爵のイライラは募るばかりだった。

ここに居れば居るだけ不愉快になってくる。

「 … 帰るぞ」

園子に告げると、伯爵は席を立った。

「失礼!」

見計らっていたように、はなが背中にぶつかって追い越して行った。

憤慨して歩き出した伯爵だったが、何故か周りの人たちが自分のことを笑っているような気がしてならない。

「皆、どうしたのかしら?」

並んで歩いている園子も怪訝な顔をした。

ふたりは気づいていないが、伯爵の背中に貼り紙がしてあった。

『我輩は伯爵様なるぞ、エッヘン』

* * * * * * * * * *

「誰ですか、こんな悪戯したのは?!」

慌てて駆け寄る綾小路。

「まあ、伯爵様 ~ 申し訳ございません」

貼り紙をはがすとその下からもう一枚現れた。

『家の名は大事だぞ、エッヘン』

きょとんとしている伯爵、ようやく気づいたのは園子だった。

「申し訳ございません!

もう ~ 誰ですか?!」


金切り声をあげた綾小路の目に懇親会の会場からこそこそと抜け出そうとしているはなと蓮子の姿が見えた。

「待ちなさいっ!!」

ビクっとして足を止めたふたりだったが、次の瞬間はなは蓮子の手を取ると、横幕をくぐって走り出していた。

笑いながら校門の外まで来ると、ちょうど目の前の停留所に路面電車が停車していた。

「すいません、乗ります!」

* * * * * * * * * *

「ああ、面白かった」

こんなに笑ったのはいつ以来だろう … あの気取った兄のうろたえた顔ときたら!

… 悪戯に加えて脱走だ。

学校に戻ったら、ふたりを待っているのは「Go to bed」だろう。

はなとならそれも悪くないかな … そう思ったら、蓮子は何故かまたおかしくなってきた。

しばらくすると、はなと蓮子は乗客の視線が自分たちに集中しているのを感じた。

ふたりが舞台衣装のままだったからだ。

顔を見合わせてまた吹き出した。

お腹の皮がよじれるほどおかしくて仕方ない。

人の目など構わずひと笑いした後、ふいにはなが口にした。

「ねえ、蓮子さん … 私の腹心の友になってくれて?」

「ええ」


< この日はふたりにとって、生涯忘れられない記念日になりました。

… ではまた来週。ごきげんよう、さようなら >

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2014年05月02日 (金) | 編集 |
第29回

< ロミオとジュリエットの公演はいよいよ明日に迫っておりました。

はなは、脚本家と演出助手に加えて、風邪をひいてしまった小間使い役の梅田の代役も急遽務めることになり、目の回る忙しさです >

衣装を梅田の部屋へ取りに行ったはなが稽古場に戻ると、入口から中の様子を窺っている富山がいた。

舞台稽古は佳境に入り、衣装も着て本番さながらの通し稽古が行われている。

ロミオの亜矢子の熱がこもったセリフに続き、ジュリエットの蓮子の番だ。

すると … 富山が何やら小声でつぶやき出した。

「ロミオ様、それはなりませぬ … 満ち欠けを繰り返す月のごとく、あなた様のお心も変わってしまうではありませんか」

聞き覚えのあるセリフだった。

「 … 富山先生?」

はなに声をかけられ、富山はハッとして振り向いた。

「今のジュリエットのセリフですよね?」

まずいものを見られたというような顔をした富山は、動揺を隠して、その場から足早に立ち去ってしまった。

< そんな富山先生を見たのは、はじめてでした >

* * * * * * * * * *

はなが稽古場に戻って来たのを知ると、蓮子が近づいてきた。

「はなさん、セリフの言い回しを少し変えてもよろしいかしら?」

「どこですか?」


ふたりは並んで腰を下ろした。

舞台の上では、亜矢子がティボルト役の大倉澄子と剣を交えた決闘の場面を演じている。

「『私は、父の決めた通りになど生きたくありません』のところ、こうしたいの …

『私は、父の操り人形ではありません』」


はなが断然そちらの方がよいと口にすると、蓮子はうれしそうに微笑んだ。

* * * * * * * * * *

亜矢子はふと舞台の上からふたりの話し込んでいる様子が目に入った。

「醍醐さん、集中してください!」

そちらに気が取られて、鶴子から注意を受けてしまった。

稽古は再開したが、亜矢子はふたりのことが気になって仕方がない … 次第にイライラし始めた。

カッときて容赦なく振るった剣が澄子の衣装の袖を切り裂いてしまった。

転倒する澄子、周りの生徒たちから悲鳴が上がった。

「ごめんなさい、つい力が入ってしまって … 」

* * * * * * * * * *

幸い誰にもケガはなかったが、はなに衣装の直しという仕事が増えてしまった。

夕食後、談話室で茂木の手を借りて、その他の衣装と合わせて繕った。

「明日、お父様はいらっしゃらないの?」

「ええ、仕事でまた遠くに行ってしまって … ご家族を招待して、見てもらえる皆がうらやましいです」


茂木とふたりきりだと、本音が漏らせるはなだった。

はなは気になっていた富山のことを思い切って茂木に尋ねてみた。

「あの、富山先生のことなんですけど …

もしかして、ジュリエットを演じたことがおありなのではないでしょうか?」


茂木は少し驚いた顔をして理由を聞き返した。

「今日お稽古見にいらっしゃった時に、ジュリエットのセリフを完璧につぶやいていらっしゃったんです」

「 … 彼女がここの学生だった頃、ジュリエットを演じたことがあったの。

今のあなたたちと同じように、元気でよく笑う明るいお嬢さんだったわ」


茂木は微笑ましい昔話のように語った。

しかし、それなら何故、演目を決めた時にあんなに反対したのかはなは不思議に思った。

「何かつらい思い出でもあるんでしょうか?」

はなの疑問に茂木は答えを何となくはぐらかしてしまった。

「 … 相変わらずお裁縫が苦手ね、私が代わりましょう」

はなのおぼつかない手元を見てそう言うと、縫いかけの衣装を引き取った。

* * * * * * * * * *

屋敷でくつろいでいた葉山伯爵は、夫人の園子に蓮子から届いた封書を渡された。

「何だこれは?」

秀和女学校で開催される大文学会への招待状だ。

園子は、怪訝な顔をする夫から手紙を受け取ると声を出して読み上げた。

「まさか蓮子さん、お芝居に出たりなさらないわよね?」

「 … 何?」

「あそこの大文学会には、華族のご父兄も大勢いらっしゃりますわ。

… また悪い噂でも立ったら」


不安をあおるようなことを言われた葉山伯爵は手紙を取り上げて確認した。

「5月16日 … 明日じゃないか?!」

* * * * * * * * * *

< ついに本番の日を迎えました >

翌日、大文学会の当日は気持がいいほどの五月晴れだった。

生徒たちは楽屋代わりの食堂で衣装に着替えて準備をしている。

亜矢子と蓮子は、髪を結ってもらいながら最後のセリフ合わせをしていた。

「 … そなたには父上が決めた許婚のパリス侯爵というお方がいるではないか?」

「それは、兄が勝手に決めたこと … 兄が考えているのは … 」

「違う!

兄なんて、台本の何処にも書いてありません」


亜矢子からセリフの誤りを厳しく指摘された蓮子。

「 … ごめんなさい」

はなは、どこかいつもの蓮子ではない、彼女の微妙な変化を感じていた。

* * * * * * * * * *

開演の時間が刻々と近づき、楽屋から消えた蓮子の姿をはなは中庭で見つけた。

そっと近寄ると、ベンチに座った彼女は緊張のためか呼吸も荒く、子犬のように小刻みに震えていた。

「 … 蓮子さんも人並みに緊張するんですね」

蓮子は、強張った顔ではなのことをチラッと見ただけだった。

「練習通りやれば、きっと大丈夫ですよ … って、私すごくあがり症でさっきから足がガタガタ震えてるんですけど」

隣に腰かけながら、はなは人のことを言えた義理ではないなと思った。

顔を見合わせたふたり。

はなはどこか引きつったような笑顔を見せたあと切り出した。

「あの ~ 

例の復讐の件、私でよければつきあいます」

「えっ?」

「舞台に上がって家の人たちに復讐するって言ってたじゃないですか?

どうせやるなら、本気でとことんやりましょうよ」


* * * * * * * * * *

「それで … その復讐の相手は、今日はいらっしゃるんですか?」

「招待状は送ったわ … 」


ぎこちなくうなずいた蓮子。

「よし、負けるもんか ~

客席から怖い顔でにらんで来てても、絶対に怯まないで頑張りましょうね」


そんなはなに蓮子は不安そうな顔をして尋ねた。

「 … どうして、私の復讐につきあってくれるの?」

「それは … 」


理由なんて考えてはいなかったはなだったが、答えはすぐに出た。

「 … 友達だから」

ニッコリ笑ったはなの顔を蓮子は大きな目で見つめていた。

* * * * * * * * * *

「一時はどうなることかと思いましたが、無事にこの日を迎えることができましたね。

お客様も大勢いらしています」


校長室に控えている茂木と富山。

朗らかに話す茂木、対照的に富山はやはり浮かない顔をしたままだ。

「(では行きましょう)」

ブラックバーン校長が席を立ったが、富山は仕事が残っていると、後には従わずに講堂とは反対方向へ行ってしまった。

* * * * * * * * * *

生徒の家族や招待客で客席は埋まっていった。

当然、ジュリエットになり損ねたかをる子の姿もあった。

オペラグラスを片手に客席を物色しているように見える … お眼鏡にかかる殿方を捜しているのだろうか?

はなと蓮子は舞台の上、幕の隙間から様子を窺った。

「 … 来たわ!」

蓮子の視線の先に目を向けたはな、葉山伯爵が妻の園子と連れ立って講堂に入ってくるのが見えた。

仏頂面で辺りを見回した葉山伯爵は一番後ろの席に陣取った。

配役の書かれた栞を開いて、愕然としている。

「 … ジュリエットだと?」

「あなた、どんな役なんですか?」


呑気に尋ねた園子に葉山伯爵は目を剥いた。

「主役だ!

あの恥さらしが … 」


* * * * * * * * * *

「(お隣、空いてますか?)」

声をかけてきたのは、ブラックバーン校長だった。

苦虫を噛み潰したような顔をしていた葉山伯爵だったが、咄嗟に笑顔を装った。

「(ブラックバーン校長、どうぞお座りください)」

伯爵は、傍らにいた茂木に「品行方正であるべき生徒に相応しくない」演目だとそれとなく抗議したが … 茂木は答えずに向かいの席に腰かけてしまった。

何としても、蓮子を人目にさらしたくない伯爵。

「(舞台、中止にしませんか?)」

今度は校長に談判しようとしたが、一瞥されただけだった。

* * * * * * * * * *

開演を報せるベルが鳴り響いた。

「何故、私がこの役をやりたかったか分かりますか?」

幕が上がる寸前のことだ … 舞台のそでで蓮子がふいにはなに尋ねた。

「えっ?」

「私もジュリエットのように、家に縛られて不幸になったから …

兄が決めた人と、無理やり結婚させられたの。

その時、私はまだ14で、右も左も分からなかった」

「14歳 … 」


はなは絶句した。

自分の年齢よりも2歳も若い頃のことだ。

そればかりか同じ16歳の時には、出産をしたと蓮子は打ち明けた。

「でも、その子も奪われて …

元々、家の名を守るためだけに仕組まれた結婚だったの」


彼女の表情を見れば、その結婚が決して幸せなものではなかったことはすでに明白だった。

「今の私は、空っぽ … 生きていてもしょうがないの」

「そんな … 」


はなは胸が締め付けられるような思いだった。

「はなさんとは住む世界が違うの。

… 友達なんかなれっこないでしょ」


* * * * * * * * * *

その時、もう一度ベルが鳴り出した。

「これ以上、私に近づかないで … 」

はなは蓮子の腕をつかんだ。

「嫌です、そんなの!

何故だか分からないけれど … 放っておけないんです、蓮子さんのこと」


ベルが鳴りやむと、静かに幕が開いて、客席から拍手が起こった。

「 … あなたは空っぽなんかじゃない!」

しっかりと見据えたはなは蓮子の言葉を否定した。

すでに芝居が始まっている。

蓮子ははなの手を解いた。

はなは心痛な顔で蓮子を舞台へと送り出した。

* * * * * * * * * *

観客席からのひときわ大きい拍手に迎えられて、ジュリエットの蓮子は舞台の中央に立った。

< さあ、幕が開きました >

「ああ、どうすればいいの ~ パリス侯爵の愛を受け入れることなど、私には到底できませんわ」

すっかりと落ち着きを取り戻した蓮子はもう震えてなどいなかった。

< … ごきげんよう、さようなら >

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