NHK朝ドラ『花子とアン』『ごちそうさん』『あまちゃん』…ストーリーを勝手に解釈&裏読み … ほぼネタバレ…
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2014年06月30日 (月) | 編集 |
第79回

はなが思いを寄せていた村岡英治には病気療養中の妻がいた。

そのことを知ってしまったはなが受けた衝撃は決して小さくはなかった。

< まさか自分が道ならぬ恋をしていたなんて思ってもみなかった、はなでした >

* * * * * * * * * *

そんな心の傷は胸の奥にしまって、はなは仕事に打ち込んだ。

< はなたちは新しい雑誌の完成に向けて、大忙しの毎日を送っていました >

聡文堂の職員一同は慌ただしく創刊準備に追われていた。

はなの机にも校正を待つ原稿が次から次へと休む暇もなく回ってきた。

これだけ忙しいと落ち込んでいる時間もないので、はなには却ってありがたかった。

* * * * * * * * * *

社運を賭けた新雑誌、『にじいろ』の完成まであとひと息にみえたが … 

肝心の宇田川満代からは、連載小説に関する色よい返事は未だにもらえてはいなかったのだ。

「もうこれ以上待てません … 他の作家に頼んだらどうでしょう?」

須藤はそう進言したが、梶原は譲らなかった。

「宇田川満代の連載はこの雑誌の目玉になる。

あきらめずに口説き落とそう」


満代の担当のはなは、自分の編集者としての力不足に責任を感じてしまった。

* * * * * * * * * *

「いや ~ 宇田川先生、やっぱり今勢いがありますよ」

三田が手にしていたのは、満代の連載小説『逢引』が掲載されている、『文芸東洋』の最新号だった。

三田は物語の佳境の部分を読み始めた。

「 … 何故、あんな告白をしてしまったのだろう?

女の口から『あなたを好きです』と言ってしまったのだ」


何処かで聞いたことがあるような話だった。

「どしゃぶりの雨の中、男はハル子を追ってきた。

ハル子の胸は春の嵐のように轟轟と高鳴っていた」


何気なく聞いていたはなだったが、その一節を聞いて顔色を変えた。

「男は傘を差し出し、ハル子を抱きしめた。

だがあくる日、男はハル子に信じられない言葉を言い放った。

『昨夜のことは忘れてください』」

「 … はなさん、この小説ひょっとして?」


亜矢子が感づいた通りだ。

間違いない … 満代は、はなが苦し紛れに話した自身の失恋話を元に小説を書き上げたのだ。

「安東君、どうかしたのか?」

様子がおかしいはなを見て、梶原が声をかけた。

「あ、いえ … 」

何事もないよう装ったが、動揺を隠すことができない。

* * * * * * * * * *

そんな時、電話が鳴り響いた。

電話の主は、はなを指名しているらしい。

「はい、安東でございます」

気持ちを落ち着かせて受話器を取った …

「てっ、う、宇田川先生?!」

その名前を耳にして、梶原たちが一斉に注目した。

「はい!

… す、すぐに伺います!」


はなが受話器を置くと、すぐに梶原が訊ねてきた。

「宇田川先生、何だって?」

「う、うちの連載の第一話を今書いてくださってるそうです!」


一同が色めき立った。

「すごいわ、はなさん … お手柄よ!」

「行ってきます!」


はなは取るものも取りあえず、満代が執筆しているカフェー・ドミンゴへと駆けつけたのだった。

* * * * * * * * * *

「宇田川先生っ」

「話しかけないで!

… ここまできたら、一気呵成よ」


満代は何かが下りてきたように原稿用紙にペンを走らせている。

はなは一礼すると、カウンター席に腰かけ、満代を見守った。

「 … 今日は静かでいいな ~ 」

その様子を見た平祐が、新聞を読みながらつぶやいていた。

「お姉やん、よかったね ~ 苦労した甲斐があったじゃん」

かよに言われ、はなは満面の笑みを浮かべてみせた。

* * * * * * * * * *

時計は、午後1時を指している。

満代は、あれからずっと一心腐乱に原稿を書き続けていた。

やる時にはやる … 大した集中力だ。

更に1時間が過ぎ、時計が2時の鐘を鳴らしたとほぼ同時に満代はペンを置くと、原稿用紙を揃えた。

「 … できたわ」

はなは、慌てて満代の席に駆け寄った。

「宇田川先生、ありがとうございます!」

小説の題名は『銀河の乙女』。

「 … すぐに読んでもよろしいでしょうか?」

「それが編集者の仕事でしょ」


当たり前のことを聞くなと言わんばかりの満代。

はなは席に着くと早速、原稿に目を通し始めた。

読み進めるうちに『銀河の乙女』は、はなを物語の中へと誘っていった。

* * * * * * * * * *

一気に読み終えたはなは満代を絶賛した。

「素晴らしいです … 傑作です!」

「 … 簡単に褒めないでちょうだい。

作家に最高の作品を求めるのが編集者でしょ?

ダメを出してちょうだい、ダメを」


いかにも満代らしい言い草だった。

「ダメなんて、そんな … 」

「 … まあ、みみずの女王にいわれても私は書き直さないけど」


言い方は相変わらず素っ気ないが、言葉にいつものとげとげしさがなかった。

「本当に素晴らしいです。

とくに、ここ … 

『スピカ、スピカ、おお私の美しい星よ』ルカはささやきました。

『二度とこの地球に帰って来られなくてもいいの』

その時、銀河の女王が見えない翼をルカにそっと授けました … 」


はながその一節を読み上げると、満代は微かに照れたような、それでいて満足げな顔で言った。

「そこ … 実は私も一番気に入ってるの」

「本当に素晴らしいです。

本当にありがとうございました … 第二話以降も楽しみにしています」


はなは、この宇田川満代という女性は苦手だったが、彼女が書く童話はスケールが大きくて好きだった。

* * * * * * * * * *

ふたりのやり取りを見ていた平祐が席を立った。

「君のお姉やんも、ようやく編集者らしくなってきましたね」

精算する時、そう、かよに耳打ちして帰って行った。

* * * * * * * * * *

はなはすぐに梶原に連絡を入れた。

「たった今、素晴らしい原稿が仕上がりました」

「そうか … 」


梶原が電話の周りに集まった職員たちに向かって大きくうなずいてみせると、皆は揃って胸をなで下ろした。

「もう時間がないんだ。

そのまま、村岡印刷に届けてくれ」

「 … 村岡印刷ですか?」


電話の声が急に曇ったので、梶原は不審に思ったらしい。

「安東君、何か問題でもあったのか?」

「あ、いいえ … わかりました … これからすぐに届けます」


* * * * * * * * * *

「村岡印刷か … こぴっと届けるしかねえ」

はなはドミンゴの前で重い気持ちでつぶやいた。

仕事と割り切らねば、そう自分に言い聞かせていると、店から満代が出てきた。

「あの男は結婚してたんじゃないかしら?」

「 … あの男って?」

「だから、抱きしめた翌日『昨夜のことは忘れてください』と、言い放った男よ」


何故満代はそんなことが分かるのだろう … はなはあ然としていた。

「作家の勘ではね、彼には妻がいたのよ。

… あなたも大変だったわね」


さすが売れっ子の作家だけあって、その思考は、はなが足元にも及ばないほど鋭かった。

「う、宇田川先生、だからそれは友だちのことで、私は大変なんか、ぜんぜん … 」

ムキになって否定すればするほど、自分のことだと白状しているようなものだ。

「まあ、頑張って … 原稿は失くさないで届けてね」

会心の作品を書き上げたからだろう ~ 満代はご機嫌で帰って行った。

「こぴっとしろし … 」

はなは自分自身に気合いを入れて、村岡印刷に向かって歩きはじめた。

* * * * * * * * * *

村岡印刷の社屋に足を踏み入れたはなは、ためらいながら、重役室のドアをノックした。

「ごきげんよう … 聡文堂です」

できれば、郁弥に出迎えてほしかったが、部屋に居たのは英治ひとりきりだった。

「あの … こ、この原稿を至急、『にじいろ』の頁に組版していただきたいんです」

事務的に告げると、英治は原稿を受け取って中身を確認した。

「あっ、宇田川先生、書いてくださったんですか … よかったですね」

「ええ … 」


はなが苦労していることを知っていた英治は顔をほころばせて喜んだが、はなは英治の目を見ることができずぎこちなくうなずいただけだった。

「では、よろしくお願いいたします」

そのまま目を合わせることなく、踵を返して出口へと急いだ。

「 … 出来るだけ早く組版して、弟に届けさせます」

そんな言葉にも背を向けたままうなずいて、部屋をあとにしてしまった。

* * * * * * * * * *

はなは夜寝床に着いても、昼間のことを思い出し、自己嫌悪に苛まれてなかなか寝付けなかった。

体を起こして、考え込んでいると、眠っているはずのかよが声をかけてきた。

「 … お姉やん、眠れんの?」

「て、ごめん … お越しちまったけ」


かよも少し体を起こした。

「今日、村岡印刷に行ったら?

… 大丈夫だったけ?」

「ああ、村岡さんのこと?

もう忘れた忘れた … 奥さんの居る人だって分かった途端、ただの物体に見えたさ」

「物体?」

「うん、大きくて邪魔な、壁じゃん」


おどけているが、姉の心の中が、かよには手に取るようにわかった。

「お姉やん、無理せんで」

「て … む、無理なんて … 」

「お姉やんのこんだから、きっと仕事場ではうんとこさ無理して頑張ってるら?

… おらの前まで、無理しんでいいら」

「 … かよ」

「お姉やんが本気で好きんなった人、ほんな簡単に嫌いになれる訳ないじゃん」


はながかよの顔を見つめると、にっこりと笑い返した。

「おやすみ」

「 … おやすみなさい」


* * * * * * * * * *

< 2週間後、ついに『にじいろ』の創刊号が完成しました >

「お待たせしました!」

郁弥が製本したばかりの『にじいろ』の創刊号の束を抱えて聡文堂にやって来た。

「皆、届いたぞ!」

ひとりずつ郁弥の手から『にじいろ』を受け取ると、皆すぐにその場で本を開いて、それぞれが担当した頁を食い入るように見つめている。

はなも真っ先に『王子と乞食』の頁をめくった。

「よし、いい出来だ!」

梶原が自信満々に創刊号の出来に太鼓判を押した。

* * * * * * * * * *

「『にじいろ』創刊号の完成を祝って … 乾杯!!」

勤務時間なので取りあえずは、サイダーで祝杯を挙げた。

「英治さん、こんな日にもいらっしゃらないなんて残念ね」

「あ、きっと忙しいのよ」

「でも、はなさんとは順調に愛を育んでいるんでしょ?」


英治のことはすっぱりとあきらめた亜矢子は、自ら宣言した通り、はなと英治のことを応援するつもりでいるのだ。

何も知らない亜矢子に訊ねられて、はなは返答に困ってしまった。

「 … 醍醐さん、それはもういいの」

「いいって?」

「そう言えばさ、ずっと英治君見ないけど … 奥さんの具合そんなに悪いの?」


梶原が訊ねると、郁弥は沈んだ表情でうなずいた。

そのやり取りを耳にして、仰天したのは亜矢子だ。

「奥様?

… お兄様、結婚なさってたんですか?!」


亜矢子だけでなく、他の職員にも英治が既婚者だとは知らないものが数名いた。

「兄と結婚してすぐに、義姉は胸を患って … 今も入院してるんです」

亜矢子はうつむいているはなの手を引いて部屋の隅へと引っ張っていった。

「 … はなさんも知ってたの?」

「ああ、ええ … 」

「はなさん、大丈夫?」


打ち明けてくれなかったことを咎めることもせず、亜矢子ははなの心情を思って心配している。

亜矢子にとって、はなこそが腹心の友なのかもしれない。

はなは気丈に笑ってみせた。

亜矢子は『にじいろ』を手に取ると、『王子と乞食』の頁を開いた。

「こんなにロマンティックな挿絵を描いてくれた人が … 結婚してたなんて」

< これからも、この絵を見るたびに、はなは切ない気持ちになるのでしょうか … >

* * * * * * * * * *

その頃、英治は妻の香澄を見舞うために病院を訪れていた。

看護婦とすれ違いに病室へと入った。

「香澄、今日はどう?」

ベッドの上に起き上がって外を見ていた香澄は、その声に振り向いた。

英治の顔を見てうれしそうに微笑んだ。

< この人が英治さんの奥さん?!

なんと美しい人なんでしょう … ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月29日 (日) | 編集 |
まずは、先週のおさらいを …



それでは、次週の「花子とアン」は?

はな(吉高由里子)は英治(鈴木亮平)に妻がいたことのショックを胸にしまい、新雑誌『にじいろ』刊行の仕事に打ち込んでいた。

素晴らしいです、傑作です

ある日、宇田川(山田真歩)からはなに電話が入り、『にじいろ』のための児童小説を書いてもいいと言う。歓喜にわく聡文堂。カフェーで宇田川の原稿を受け取り、内容について意見交換するはなの姿に、平祐(中原丈雄)は「ようやく編集者らしくなってきたな」と感じるのだった。

しかしかよ(黒木華)は、はなが無理をしているのではないかと心配をぬぐいきれない。梶原(藤本隆宏)に頼まれ、原稿を村岡印刷に届けるはなだが、英治とはぎこちないやりとりを交わすのみだった。

やがて、『にじいろ』がついに完成。英治(鈴木亮平)は雑誌を手に、妻・香澄(中村ゆり)を病室に見舞う。香澄は渡された雑誌を嬉しそうに眺めるが、ふと、はなが翻訳し英治が挿絵を書いた『王子と乞食』のページに目を止めるのだった。

本当に申し訳ありません

そんなある日、はなは仕事に打ち込もうとするあまり、大失敗をやらかしてしまう…。

蓮子さん、死ぬほど会いたかった

一方福岡では、龍一(中島歩)からの手紙を待ちわびる蓮子(仲間由紀恵)の様子に、女中頭・タミ(筒井真理子)が怪しいと感づき始めていた…

どんな道を選ぶか君次第だ

じっとしてても何も変わらんよ


失恋のあげく仕事でも失敗続きのはなは、梶原にしばらく休むよう告げられ、甲府へ帰ることに。吉平(伊原剛志)とふじ(室井滋)は突然帰ってきたはなに驚く。

離婚なんてしないでください、絶対にしないでください

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2014年06月28日 (土) | 編集 |
第78話

「あなた、はなちゃんに何か隠してることがあるんじゃない?

ちゃんと向き合わないで逃げるなんて卑怯よ」

蓮子に背中を押されて英治は、はなにすべてを話そうとカフェー・ドミンゴで6時に待ち合わせたのだった。

* * * * * * * * * *

仕事を終えた英治が今まさに事務所を出ようとしていた時、電話が鳴った。

電話を受けた郁弥は顔色を変えて、英治を呼び止めた

「兄さん、病院から … 義姉さんが喀血したって!」

* * * * * * * * * *

約束の時間よりも少し早く店に着いたはなは、胸のパルピテーションを抑えながら英治が来るのを待っていた。

柱の時計が6時になったことを報せた時、店のドアが開いた。

はなは英治が来たものと思って立ち上がったが、入ってきたのは別人だった。

* * * * * * * * * *

時刻は、すでに8時になろうとしていたが、英治は一向に現れなかった。

何の連絡さえもない。

「お姉やん、またあの宇田川先生に呼びつけられたの?」

見かねたかよが声をかけてきた。

「えっ?」

「もう2時間も待ってるじゃん ~ すっぽかされただよ」


かよは、はなの待ち合わせの相手がまさか英治だとは思わず、満代に腹を立てていた。

「もう許せんねえ、あの先生」

「ううん … 違うの」


はなは首を振った。

その時、客の一団が入ってきたので、かよは出迎えるために、はなの傍を離れていった。

* * * * * * * * * *

はなはただじっと英治が来るのを待ち続けていた。

目の前のサイダーもすっかり気が抜けてしまった。

時計を見ると、とうに9時を回っていた。

< ひたすら待っているはなを見て、かよは気づきました >

* * * * * * * * * *

はなが待っているのは宇田川なんかではない。

かよは村岡印刷に電話を入れた。

かよからの電話に郁弥は喜んでいたが、用事があるのは英治だと知ると、少し声を曇らせた。

「義姉さんの病院に行きました。

今日は戻れないと思いますけど … 」

「そう、ですか … 」


かよは、英治が来ることを疑いもせずに待ち続ける姉にはどうしても伝えることができなかった。

* * * * * * * * * *

結局、残った客ははなひとりになってしまった。

看板が取り込まれて、かよが帰り支度を済ませてやってきた。

「もう、お店閉店じゃん … 帰ろう」

それでも、なかなか立ち上がろうとしないはなの手をかよが取ると、ようやくあきらめて席を立った。

* * * * * * * * * *

会話もなく長屋の近くまで帰ってきた時、かよが口を開いた。

「 … お姉やん、もうあの人のこと、待ったりしちゃだめだ」

「えっ?」

「村岡さんにすっぽかされたずら?」


かよは、はなが急に足を止めたので振り返った。

「 … どうしたのかな?

何かあったのかも知れねえ … 事故にでもあったんじゃないかな?」


英治は人を呼び出しておいて、すっぽかすような人物ではないと、はなはよく信じていたのだ。

よからぬ事態を考え出すと、だんだん不安になってきた。

「ごめん、先帰っててくりょう ~ お姉やん、村岡印刷さんとこ行ってみる」

今来た道を急いで引き返そうとするはな。

「お姉やん!」

かよはその腕をつかんで止めた。

「何で、ほんなに好きになっちまったの?」

英治に対して微塵も疑念を抱かない姉のことが不憫に思えた。

「何でって … 」

誰も、人を好きになった理由なんて簡単に説明はできないものだ。

「村岡さん、事故になんかあってねえよ」

何故、そんなこと言い切れるのだろう … はなは、かよのことを見つめた。

「 … 奥さんの病院に行っただ」

かよはとうとう、はなに隠していたことを口に出してしまった。

「かよ、何言ってるで?

… 奥さんって?」


冗談だと思ったが、かよの顔は真剣だった。

「胸を患って、入院している奥さんがいるだ … 村岡さんは、結婚してるだ」

* * * * * * * * * *

はなは愕然とした。

「 … おら、知ってたのに、黙っててごめん」

かよは今にも泣きだしそうな顔ではなを見ている。

はなは混乱している頭の中で懸命に考えていた。

かよが言ったことが本当なら、英治に関するすべてのことが、つじつまが合う気がした。

「な~んだ、ほういうことだったんだ ~ ほうか、ほうか、ほういうことか … 」

無理に笑いながら、かよに背を向けた。

「 … かよ、教えてくれてありがとう。

お姉やん、本当にバカっちょだったね … お父からもあれだけ言われたのに …

まったく、東京の男は信じられんさ」


かよは見た … そう言いながら、姉の肩が小刻みに震えていたことを。

「さあ、帰ろう、帰ろう」

はなは長屋に向かって歩き出した。

かよはそっと、はなの手を握った。

そして、子供の頃のように手をつないで歩いた。

* * * * * * * * * *

深夜、はなは眠れずに寝床を抜け出した。

縁側に腰かけて、ぼんやりと外を眺めた。

英治に抱きしめられた時の記憶がよぎる。

… ふと、玄関の脇にあの日の赤い蛇の目傘が月の灯りに照らし出されていた。

「 … 忘れよう … 忘れるだ、今度こそ」

そうつぶやいた後、深いため息をついた。

* * * * * * * * * *

次の日、郁弥が『王子と乞食』のすべての頁の刷上り見本を持ってやってきた。

「わあ、挿絵が増えてますね」

物語の進行に合わせて、同じ画風の挿絵が描き入れられ、見違えるような仕上がりになっていた。

「はなさんの翻訳した頁、すごく素敵になったわね」

「村岡君に提案された時はどうかと思ったけど、凄くいいな ~

特に挿絵なんかいいな」


梶原が絶賛したように、挿絵の力が大きいのは確かだった。

「でもやっぱり、他の頁とは違いすぎますね」

須藤が懸念するのも最もだった。

それほど、『王子と乞食』の頁の出来栄えはよかったのだ。

「これくらい遊び心があった方がいいんですよ」

亜矢子は手放しに支持していた。

「こんな素敵なページに仕上げていただいて、本当にありがとうございます」

はなは郁弥に頭を下げて礼を言った。

「あ … それは、兄に言ってやってください」

「えっ?」

「その挿絵もすべて兄が描いたんですよ」


一同から驚きの声が上がった。

「英治さん、絵の才能もあるのね ~ 素晴らしいわ」

何度も割り付けしなおしたり、挿絵も描き直したことなど、英治の熱心ぶりを郁弥は語った。

自分がたまらなく惹かれていた挿絵が英治の手によるものだと知って、はなの戸惑いは大きかった。

* * * * * * * * * *

就業時間が終わり、皆が社を後にしていく。

残っているのは、はなと亜矢子のふたりきりだった。

はなは何度も何度も英治が作った頁を見返していた。

すると、亜矢子がはなの隣りの席に腰かけて、その中の一枚を手に取って眺めた。

「はなさん … 私、英治さんのことあきらめるわ」

「え?」

「だって、こんな素敵な頁を作っちゃうくらい、はなさんのことを思ってるんですもの。

私の入る隙なんてないわ」


はなは亜矢子の顔を見た。

さばさばとした顔で微笑んでいる。

はなに恋敵の宣言をしたほどだから、もしかしたら無理しているのかも知れない。

「私、あきらめて、次の恋に行くわ」

今までの言動からすると、亜矢子もきっと、英治が既婚者だということは知らないに違いない。

英治は何故、自分が既婚者だということを隠していたのだろうか?

「醍醐さん、あの … 」

「はなさんたちのことは応援するから」


亜矢子はそう告げると、席を立った。

彼女にとって、はなは間違いなくかけがいのない友達であり、それははなにとっても同じことなのだ。

「ごきげんよう」

しかし結局、その日は、亜矢子に英治が既婚者だということも、振られた上に昨晩はすっぽかされたことも話す機会を逸してしまった。

* * * * * * * * * *

いろいろ複雑な思いを抱えて、はなが長屋へ戻って来ると、長屋の前で英治が待っていた。

「昨夜はすみませんでした … 僕の方から時間を作っておいてもらいながら、本当にすみません」

頭を下げて、はなに詫びた。

「ああ、別に気にしてませんから … 」

はなは愛想笑いをして、そのまま家に入ろうとした。

「あの、昨夜話そうと思っていた … 」

「奥様のことでしょ?」


はなは英治の言葉を遮った。

「聞きました。全部 … 」

「そうですか …

言いそびれてて、すみません」

「 … どうぞ、お大事になさってください」

「ありがとうございます」


* * * * * * * * * *

「こちらこそ、『王子と乞食』の挿絵、ありがとうございました」

英治の顔を直接見て話すことができなかった。

「 … これからも、花子さんが翻訳する頁は手伝わせて下さい」

はなはハッとして英治の方を振り返った。

夕陽を背にした英治の姿が目に沁みた。

「どうしてですか?」

英治は答えをためらっているように見えた。

「お願いしたでしょ … もう優しくしないでって」

はなは責めるような口調で言った。

「 … 優しさなんかじゃないんです。

今の僕には、それしかできないから … あなたのためにできることは、それしかないんです」


そう言って、英治は今一度、深く頭を下げ … そして帰って行った。

英治の言葉をかみしめ立ち尽くすはなの顔を夕焼けが真っ赤に染めていた。

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月27日 (金) | 編集 |
第77話

はなをカフェー・ドミンゴに呼び出したのは蓮子の夫、嘉納伝助だった。

「 … 蓮子さんがそうおっしゃったんですか?」

「今日、こん店で『はなちゃん』と会うち … 」

蓮子はそう言って、上京したらしい。

< なんとその頃、蓮子は龍一と会っていたのです >

路地裏の屋台の飲み屋、ふたりは安酒を注いだグラスのふちを合わせた。

「乾杯 … 」

* * * * * * * * * *

様子がおかしいはなのことを伝助は訝しげな顔で見ていた。

はなは肚をくくった … 何とかこの場を言い逃れなければと。

「ああ、あれそういえば今日だったわ ~

確かに蓮子さんと約束しました。

明日と勘違いしていたけど、金曜日の約束だから … 今日です、今日です!」


いかにも見え透いたはなの三文芝居だった。

もう少し上手に立ち振る舞えないかと自分でも情けなかった。

「ばってん、蓮子は何ばしようとな?」

伝助は、はなのグラスにサイダーを注ぎながら訊ねた。

「 … あっ、きっと蓮子さん、本屋さんです!

蓮子さん本がお好きだから、本屋さんに入ると時間を忘れて本を読みふけってしまうんです」


声が裏返ったはなの言い訳を聞きながら、伝助は自分のグラスにもサイダーを注ぎ、そして口に含んだ。

< はなは心臓がバクバクしていました。

こんな誤魔化しが通るのでしょうか? >

カラカラののどを潤すためにサイダーをごくりと飲んだ。

< … 何しろ相手は、石炭王の嘉納伝助です >

* * * * * * * * * *

「 … サイダー、お好きなんですか?」

何故だか自分でも分からないが、全然関係ないことを口走っていた。

すると、伝助は穏やかな顔になった。

「サイダーは夢の水たい」

「えっ?」


伝助は手招きすると、テーブルの中央ではなに自分の顔を近づけた。

「はじめて飲んだ時に、世の中にはこげな美味いもんがあるかと … 腰抜かしそうになった」

真顔で声を潜めて言うと、さも愉快そうに笑いはじめた。

はなも何となく緊張が解けて、笑顔を見せた。

「あ、私もそうです」

伝助はグラスに残ったサイダーを飲み干すと、席を立った。

「勘定してくれ!」

「えっ、もうお帰りになるんですか?」

「 … 俺は、あいつと本の話はできん。

あんたが話し相手になっちゃって」


そう言い残して、颯爽と引き揚げていった。

「あ、ありがとうございました」

第一印象と違って、はなは意外にも気さくな伝助に好感を抱いていた。

* * * * * * * * * *

「 … 屋台なんか連れてきて、怒られるかと思いましたよ」

「あら、あなたがいつも行くお店に連れてって欲しいと頼んだのは、私だもの。

このおでんもお酒も美味しいわ」


龍一の言葉に、蓮子はまったく気にしていないような口ぶりで答えた。

「お替りいただけますか?」

蓮子がそう言うと、店の主人は苦笑いをして、龍一に向って顎で合図した。

笑い出した龍一は、蓮子の顔を見た。

「『いただけますか』なんて客は、ここにはいませんよ」

「 … じゃあ、何と言うの?」


困惑顔で尋ねた蓮子。

龍一は自分のコップ酒を飲み干し、主人に向かってひと言。

「おやじ、冷!」

「はいよ!」


威勢よく返事した主人は、龍一の空になったコップに一升瓶から直接酒を注いだ。

「 … 世の中には私の知らないことがたくさんあるのね」

こんな他愛のないことに感動している蓮子。

龍一はその素直な心と美しい横顔に見惚れていた。

* * * * * * * * * *

蓮子は龍一の視線を感じた。

「 … 何か?」

すると、龍一は少し照れたように、傍らにあった原稿用紙の束を手に取った。

「まさか、1週間で描き上げてもらえるとは … 思いもしませんでしたよ」

『音楽家の妻』

龍一が蓮子に依頼した芝居の脚本だった。

「 … お気に召して?」

「あなたの激情がひしひしと伝わってきました」


自信があったのだろう、蓮子は満足げにうなずいた。

「 … だが、後半は変えるべきですね」

「えっ、どうしてよ?」

「なかなかいい脚本ですが、最高にいい脚本ではない」


蓮子の顔に不満の色が浮かんだ。

「 … 今のままだと、主人の居る女が道ならぬ恋に溺れて心中するという、もう何100回と書き古された話で終わってしまう」

「私、一度書いたものは、推敲しない主義なの」


龍一の指摘が的を射たものだとしても、蓮子のプライドが推敲することを許さなかった。

「白蓮の最高傑作になりそうなんだ!

… そんな主義は捨ててください」


食い下がる龍一。

ムッとした蓮子は、自分のコップ酒を飲み干すと、主人に向かって叫んだ。

「 … おやじ、冷!」

「はいよ!」


主人はニコリ笑うと、蓮子のコップに酒を注いだ。

「ほら、私でも注文できたわ!」

得意顔ではしゃいでいる蓮子に隆一は追い討ちをかけるように言った。

「じゃあ、その調子で推敲にも挑戦してください」

「 … 強情な人」


そう容易く人の意見を受け入れるのはしゃくだ … 龍一を睨みつけてソッポを向いた。

「そっちこそ」

子供じみたやり取りに、ふたりは思わず吹き出してしまった。

そんな様子を、少し離れた柱の陰から、冷ややかな目でじっと見つめる吉太郎の姿があった。

* * * * * * * * * *

長屋に戻ったはなは、伝助の土産物を前にして考え込んでいた。

一体、蓮子は何処へ行ってしまったのだろう?

そうしていると、戸を叩く音がした。

「 … ごめんください」

蓮子の声だった。

はなは慌てて迎えに出た。

「 … 蓮様?!」

「はなちゃん、ごきげんよう」


いつもと何ひとつ変わらない蓮子の笑顔だった。

「 … ごきげんよう」

長屋に招き入れたが、不安が顔に出てしまった。

「突然来て、びっくりさせようと思ったのに … あんまり驚いてくれないのね?」

少し拍子抜けして、足を踏み入れた蓮子は、ちゃぶ台の上に置いてある土産物を見て、理由を察したようだ。

「はなちゃん、主人と会ったの?」

「ええ …

心配したわ、何処にいたの?」

「 … ちょっとね、お友達と会っていたの」

「お友達?」


ウソをついてまで会う友達が蓮子に居るはずがない … はなは尚更不安になった。

* * * * * * * * * *

その時、閉めたばかりの戸が開いて、カフェーに現れた時と同じ鳥打帽に背広姿の吉太郎が入ってきた。

「邪魔するぞ」

「兄やん?!」


その男が吉太郎だと分かると、蓮子は懐かしそうに声を上げた。

「まあ、お久しぶり!

ごきげんよう、吉太郎さん」


姿格好だけでなく、態度や身のこなしもあの日と同じ吉太郎は挨拶もなく感情を抑えた声で切り出した。

「蓮子さん … もう、あの男とは関わらない方がいい」

「兄やん、いきなり何でえ ~ あの男って?」

「 … 宮本龍一だ」

「吉太郎さん、どうして?」

「あなたとあの男じゃ、住む世界が違う!」


吉太郎が少し声を荒げた。

「吉太郎さんは、宮本さんのことをそんなによくご存じなんですか?」

頭ごなしに止めても従う蓮子ではない。

「 … とにかく、もう会わないでください」

そう言って、吉太郎は長屋を出て行ってしまった。

「あ、兄やん … どうして?」

* * * * * * * * * *

「蓮様、私に会うってご主人にウソをついて、その男の人と会っていたの?」

「ええ、宮本さんは演劇をやっていて、脚本を頼まれたの。

それだけのお友達よ」


蓮子は悪びれることなく話したが、はなの不安は消えない。

「その人のことは嫌いじゃないわ ~ 今日もすごく楽しかった」

「あんな立派なご主人がいらっしゃるのに、何を言っているの?

石炭王なんて、どれだけ威張ってる方かと思ったら、気さくでいい方だったわ」

「はなちゃんが褒めるなんて意外だわ」


蓮子は本気で驚いていた。

「じゃあ、少しはいいところもあるのかしらね … 」

皮肉にも聞こえる、意味深な物言いだった。

「蓮様 … 」

はなは改めて蓮子に釘をさすように言った。

「とにかく、道ならぬ恋だけはしてはいけません」

余りにも深刻なかおのはなを見て、蓮子はおかしくなってしまった。

「考え過ぎよ!

そんな愚かなことはしないわ」


笑っている蓮子に後ろめたさなど微塵も感じられなかった。

* * * * * * * * * *

「 … 私のことより、はなちゃんこそ、村岡さんとの恋は順調?」

英治の名前が出た途端、はなは口をつぐんで、顔を強張らせてしまった。

「どうしたの?」

「 … 私、あれから思いを伝えて … 」

「まあ ~ 」

「その日のうちに、いろいろあって … そして、次の日に …

『忘れてください』って言われたの」

「えっ?!」


蓮子の顔色が変わった。

「つまり … 振られたの」

「えっ?!」


蓮子は我が耳を疑った。

はなと英治が相思相愛だということをいち早く見抜いて、ふたりに気づかせたのは蓮子だった。

「 … どうして?!」

「どうして … こっちが聞きたいわ。

今、私の胸には、こんなに大きな穴が開いているの」


はなは、泣き出しそうな顔で胸の前に両掌で円を作ってみせた。

「はなちゃん … 」

そんなはなの姿を見て、蓮子はあることを決意したのだった。

* * * * * * * * * *

「若社長、お客様です」

社員に案内されて、村岡印刷の重役室に入ってきたのは蓮子だった。

「ごきげんよう」

「 … 蓮子さん?!」


蓮子は、部屋に居た郁弥と平祐にも丁寧に挨拶した。

初対面の平祐は蓮子の気品ある美しさに息を呑んだ。

「村岡さん」

蓮子に呼ばれて、同じ名字の3人が返事をした。

「こちらの村岡さんと、ふたりで話がしたいのですが、よろしいですか?」

蓮子は英治を指名して、ふたりに伺いを立てた。

「 … 本のことでご相談をあって」

「どうぞどうぞ」


郁弥が愛想よく、応接席へと誘導した。

「白蓮さん、次の歌集を出す時には是非弊社で刷ってください」

「白蓮?!」


『踏繪』の愛読者である平祐は、目の前にいる女性が白蓮だと知って驚愕した。

「あなたが … 」

「お父さん、見惚れてないで」


郁弥に促されて、名残惜しそうに部屋から出て行った。

* * * * * * * * * *

「 … 単刀直入におうかがいします。

『忘れてください』なんて、 どうしておしゃったの?」


あまりにも直球の質問に英治の顔からす~っと笑みが消えた。

「はなちゃん、今胸にこんなに大きな穴が開いてるそうです」

蓮子ははながやったように胸の前で両掌で円を作って見せた。

「いいんですか、このままで?」

黙ったままの英治にイラついたのか、少しきつい言い方になった。

「はなちゃんを傷つけたままでいいの?」

* * * * * * * * * *

「 … これ以上、傷つける訳にはいかないんです」

英治は、ようやく重たい口を開いた。

「あなた、はなちゃんに何か隠してることがあるんじゃない?」

その悲しげな目を見て、蓮子はそう思ったのだ。

英治は決して答えはしなかったが、蓮子は確信を持った。

「ちゃんと向き合わないで逃げるなんて卑怯よ。

… はなちゃんのためにこぴっと向き合ってあげて」


* * * * * * * * * *

「 … この挿絵、本当に素敵です」

郁弥が届けた『王子と乞食』の頁の刷上り見本を手にしたはなは、これ以上ないほどの笑顔をみせた。

決して達者な絵ではないが、描いた人の優しさが伝わってくるようで、この挿絵がたまらなく好きだった。

「これ、誰が描いたと思います?」

「え?

… 無名の絵描きさんですか?」

「まあ、そんなところです」


郁弥は意味ありげに笑っている。

その時、電話が鳴り、はなは梶原に言われて、受話器を取った。

* * * * * * * * * *

「あっ、花子さんですか … 村岡です」

電話の主は英治だった。

いきなりはなが出たので、声が緊張しているように聞こえた。

「はい … ご用件は?」

はなは動揺していることを悟られないようにわざと事務的に訊ねた。

「今夜、仕事が終わってから会えませんか?」

早鐘のように激しく高鳴る鼓動を抑えて、懸命に平静を装った。

「 … お話なら今伺います。

何でしょうか?」

「いえ、会ってお話ししたいんです … 今夜、ご都合悪いですか?」


これ以上、つれない演技を続けることは出来なかった。

「いえ … 」

「では、6時にカフェーで」

「 … 分かりました」


* * * * * * * * * *

電話は切れたが、はなは受話器を持ったままぼんやりと佇んでいた。

「電話、終わったんじゃないの?」

梶原に声を掛けられて、ハッと我に戻った。

「あっ … すいません」

< 再び、はなの心臓はパルピテーションの嵐を起こしていました。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月26日 (木) | 編集 |
第76話

カフェー・ドミンゴに突然現れた吉太郎。

「兄やん」

「本物の兄やんじゃん」

思いがけない再会に喜ぶはなとかよに対して、吉太郎は声を潜めて言った。

「 … 任務中だ。

悪いが知らねえふりをしてくりょう」

< なんと5年ぶりの兄妹の再会でしたが、吉太郎の様子が変です >

* * * * * * * * * *

「あんなブルジョアに脚本を頼むなんて、お前どうかしてるぞ!」

演劇かぶれの帝大生たちの席、田中が声を荒げて龍一のことを非難した。

「あの女は俺たちの敵そのものだろ?!」

荒井も憤慨している。

「 … もっともな意見だ。俺もそう思ってた。

でも、これを読んで気持ちが変わった」


龍一はテーブルの上に蓮子の歌集『踏繪』を置いた。

「それにあの人に会いに行って、よく分かった。

あの人はまるで『籠の中の鳥』だ … 本当の自由を知らない。

あの人こそ、俺たちが救う被害者だ!」

「お前、ただあの人の色香に当てられただけじゃないのか?」


田中が嘲るような口調で言った。

「 … 確かに美人だ。

だが、俺は彼女の文学的な才能の方にはるかに惹かれる」


龍一は店中に聞こえるような声で熱く語った。

しかし、はなたちはまさか龍一の話に出てくる女性が蓮子だとは夢にも思わなかった。

「あの人は不思議な人だ。

強さと弱さと共存している … その落差によって、彼女の文学は光を増しているんだ」


龍一は出会った時のことがウソのように、すっかり蓮子に心酔していた。

「彼女は脚本を書くと約束してくれた。

それを読めば、きっと皆にも分かる!」


* * * * * * * * * *

長屋の朝。

「兄やんの任務って何ずらね?」

朝食を取りながら、はなが尋ねると、かよは不安げな顔をして言った。

「おら、何だか怖かった … 兄やんがおらの知らねえ人みたいになってて」

はなも同じ気持ちだった。

その時、誰か戸を叩く者がいた。

「てっ、こんな朝っぱらから誰ずら?」

応対に出たかよが驚きの声を上げた。

早朝の訪問者は、今話題にしていた兄の吉太郎だった。

「て ~ 兄やん?!」

昨日の背広とは打って変わって、軍服を着た吉太郎が立っていた。

「何でえ、ふたりとも … 幽霊でも見たような顔をして」

目をまん丸くして棒立ちのふたりを見て、吉太郎はフッと頬を緩めた。

憲兵の姿をしているが、それは以前と変わらない優しい兄の笑顔だった。

「昨夜はゆっくり話もできなんで悪かったな」

その言葉にふたりの緊張が一瞬で解けた。

「兄やん、立派になったね ~ 」

はなは玄関から出て吉太郎を見上げた。

「会いたかったよ ~ 」

かよが言うと、吉太郎はまた笑った。

「昨日も会ったじゃん」

「こんなとこに立ってねえで、早く入って入って」


ふたりは、大はしゃぎで兄を家の中へと招き入れた。

* * * * * * * * * *

「ほれにしても兄やん、昨日は驚いたじゃん」

「おらの方が驚いただ ~ 偶然入ったカフェーにおまんらがいるなんて」


はなとかよは顔を見合わせて笑った。

「かよ、おまんあんな店で働いてるだけ?」

「大丈夫、心配しんで」


兄として妹が水商売の店で働いてることを知ったら、心配するのは当然だろう。

「あそこ、夜は酒も出すずら?」

「ほうだけんど … 」


かよははなを助け舟を求めるような目で見た。

「初めはおらも心配したけんど、かよは真面目に頑張ってるだよ

… ほれより兄やん、お店に来たのは憲兵の仕事け?」


はなはそれとなく話題を変えた。

「 … いや、コーヒー飲みに入っただけじゃん。

仕事中にカフェーで休んでるのが見つかったら、体裁悪いから話しかけんなって言っただけだ」


とてもサボタージュしている雰囲気ではなかったが、はなとかよはすっかり信じて、取り越し苦労していたことを笑い合った。

* * * * * * * * * *

「かよ、あの店いつから働いてるだ?」

「半年ぐらいかな?」

「昨日、奥の席で小難しい話をしていた帝大生たちはよく来るだけ?」

「ああ、あの人らならよく来るよ ~

不平等な世の中を変えねばとか、いっつもお父みてえなこと言ってるさ」

「親しいのか?」

「世間話くらいはするけど、特に親しいって訳でもねえ … どうして?」

「兄やん、 ほの人たちがどうかしたの?」


吉太郎が余りにも根掘り葉掘り訊ねるので、はなは何かあるのかと不安になった。

「いや … かよにちょっかい出してねえか、気になっただけじゃん」

かよは笑っているが、はなは何となく違和感を感じて、吉太郎の顔をまじまじと見てしまった。

「何だ?」

はなの視線に気づいた吉太郎は、変な顔をした。

「ううん … あ、兄やん、当分東京にいるの?」

「ああ、おまんら何か困ってることねえけ?

兄妹なんだ ~ 何かあったら、遠慮しんでいつでもおらのこと頼ってこうし」

「兄やんが傍にいると思うと、心強いじゃんね」


東京でひとりきりだったかよは、はなに続いて吉太郎までやって来たので、とてもうれしそうだ。

「本当だね」

それは、はなも同じだった。

* * * * * * * * * *

「ほれじゃあ、朝の忙しい時に悪かったな」

名残惜しそうな顔をした妹たちに吉太郎は言った。

「ふたりの元気な顔見られて、安心しただよ」

「兄やん、今度はゆっくりご飯でも食べよう」


うなずく吉太郎。

「約束じゃん」

「ああ、ふたりとも気つけてやれし」


ふたりには、立ち去る吉太郎の背中が甲府に居た時に比べると何倍も頼もしく見えた。

「兄やん、また来てくりょう!」

吉太郎は振り返って微笑んでみせた。

* * * * * * * * * *

「お先に … 」

就業時間を終え、郁弥は事務所を後にした。

英治は『王子と乞食』の割り付けを取り出すと、入念に見直し始めた。

「あなたの翻訳する言葉は、本当に素直で美しい … そのよさが読書にも伝わるような誌面にしますから」

今の英治が、それだけがはなのためにできることだった。

鉛筆を持つと、割り付けに合わせた位置に挿絵の下描きをはじめた。

はなの翻訳を読んで湧いてきたイメージを表現する … 英治は無我夢中で鉛筆を動かした。

* * * * * * * * * *

そして、ひと晩かかって、その挿絵を描き上げた。

「へえ、兄さんが描いたのか?

… いいじゃないか」


出社してきた郁弥がその描き上げたばかりの絵を褒めた。

「その頁、随分拘ってるね」

「児童雑誌ではじめての翻訳ものだからな」

「それだけじゃないだろ?

兄さん、本当に好きだよな ~ 」


挿絵を封筒に収めようとしている英治の手が止まった。

「 … 何が?」

「だから、安東さんの翻訳だよ」


郁弥のことだから、ひねりもなにもなく本心から言っているのだろう。

ホッと、ひと息ついた英治は、手に持った封筒を郁弥の前に差し出した。

「今日から、聡文堂の担当はお前が代われ」

「 … 兄さん、そこまで思い入れがあるのになんで?」

「父さんもお前に早く独り立ちして欲しいと思ってるし … 創刊号が刷り上がるまでは俺も手伝うから」


英治は、郁弥が引き受けやすいようにもっともらしい理由を付け加えたのだ。

「わかった、しっかりやるよ!」

「うん、頼んだぞ」


郁弥はやる気満々で聡文堂へ出かけていった。

* * * * * * * * * *

「村岡印刷さんの打ち合わせ、何時からですか?」

「もう来るはずだけど … 」


打ち合わせの準備中の須藤から聞いた亜矢子は慌てて手鏡を出して髪を整えている。

はなはどこか浮かない顔で仕事を続けた。

すると、ドアが開いて、郁弥が入ってきた。

「こんにちは、村岡印刷です」

迎えに出た亜矢子は、郁弥ひとりだと知ると怪訝な顔をした。

はなも郁弥の後ろを気にしたが、英治の姿は見えなかった。

「この度、聡文堂さんの担当を引き継ぐことになりました。

弊社の都合で申し訳ないんですが … 今後は、兄の代わりに僕が伺いますんで、よろしくお願いします」


郁弥は梶原に担当変更の挨拶をした。

「兄は印刷所の方で、責任を持ってやりますから」

梶原としても新雑誌立ち上げの途中で英治が居なくなるのは予定外であり残念だった。

しかし、会社の都合だったら仕方がない。

「分かった、よろしくね」

* * * * * * * * * *

亜矢子の顔にひどい落胆の色が見えた。

「 … ということはもう、お兄様はここにはいらっしゃらないのね」

平然を装っているが、はなにとっても寝耳に水の話だった。

「これ見てください … 『王子と乞食』の頁にどうでしょうか?」

郁弥は梶原たちに早速、英治が描いた挿絵を見せた。

目にした途端に満足そうな顔をした梶原は、すぐさまはなを呼んだ。

そして、その挿絵をはなに手渡した。

はなの顔が見る見るうちに輝き始めた。

「わあ、なんて素敵な挿絵なんでしょう … 」

王子と少年が描かれたそのペン画は、はながイメージした物語の景色そのものだった。

< その挿絵が英治が描いたものとは知らず、心惹かれるはなでした >

* * * * * * * * * *

夕方、はなが帰宅する仕度をしていると、息を切らしたかよが飛び込んできた。

「お姉やん、大変!」

「てっ、かよ … どうしたでえ?」

「お店に髭を生やしたおっかねえおじさんが来て、お姉やんのこと呼べって」

「てっ?」

「こ、こんなにチップくれただよ」


かよはその『おっかねえおじさん』からもらった紙幣をはなに見せた。

「誰、おっかねえおじさんて??」

はなにはまったく心当たりがないのだ。

「とにかく来て ~ 」

* * * * * * * * * *

「 … あの人じゃん」

ドミンゴに駆けつけたはな、かよは店の中央の広い席にどかっと座った紋付袴姿の男を指さした。

その傍らにはお付の者らしきおとこがひとり控えている。

紋付の男はグラスに注がれたサイダーを一気に飲み干した。

「知ってる人け?」

はなは首を傾げた。

その男の顔にどこか見覚えがあるのだが、すぐに思い出せない。

はなは分からないままに恐る恐る男の前に立った。

正面で改めて見ると、かよの言う通り、髭を生やしたいかにもおっかねえおじさんだ。

「あ … あの … 安東はなです」

「あんたが、はなちゃん?」

「はい … はなちゃんです」


やはり、この男の顔何処かで見たことがある … はなは記憶の糸を懸命に手繰っていた。

「まあ、座りんしゃい」

 … はなは言われるがまま、男の向かいの席に腰を下ろした。

「何でん好きなもん食べんしゃい」

男ははなにそう言うと手を叩いてかよを呼びつけた。

「 … 同じものを」

はながおどおどと注文すると、男は大きな声を出した。

「遠慮せんでよか!

酒でん、飯でん … 好きなもん頼め!」


顔は怖く、口調もきつかったが、どこか憎めない大らかさがあった。

「あ、いえ … 見ず知らずの方にごちそうになる訳には!」

「嘉納伝助ばい!」


口にしたその名を聞いて、はなは仰天した。

「てっ?!

… 蓮子さんのご主人の?」


道理で見たことがあるはずだ … 新聞に載っていたふたりの結婚の記事でその顔を目にしていたのだ。

* * * * * * * * * *

「こないだは、うちのが泊めてもろうて世話んなったね。

これはそのお礼たい」


伝助がテーブルの上の包みを指さすと、お付の者がはなの前にそれを置き、風呂敷を解いて中のものを見せた。

海苔やスルメ、福岡の特産物が入っていて … ひと目見て、値が張る物ばかりだとはなにも分かった。

「こんなにいただけません!」

「よかとちゃあ ~

うちのがものすごう楽しかったっち、話しよったばい」


伝助は余程、サイダーが気に入っているのか、話ながら何杯もがぶ飲みしている。

「あげん、機嫌のよか蓮子ははじめてみたき、そのお礼たい」

* * * * * * * * * *

「それに … どうせ今日もまた世話んなるきね」

「 … 今日?」


はなはポカンとした。

「いや、あんたと会うっち聞いて、こっちへ来るついでがあったき、迎えに来たとばい」

「 … 蓮子さんがそうおっしゃったんですか?」

「今日、こん店で『はなちゃん』と会うち … 」

「あっ」


はなの様子がおかしいことに気づいた伝助は訝しげな顔で見ている。

< はなは頭の中が真っ白になってしまいました。

蓮子はご主人に何故そんなウソをついたのでしょう? >

* * * * * * * * * *

一方、蓮子は龍一とふたりで路地裏の屋台の飲み屋の止まり木に腰かけていた。

< 蓮子が会っていたのは、はなではなかったのです >

「乾杯 … 」

ふたりは安酒を注いだグラスのふちを合わせた。

そんなふたりを、柱の陰からじっと監視するかのように見つめる目が合った。

吉太郎だ。

< 危険な香りが致します。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月25日 (水) | 編集 |
第75話

「結婚? … 英治さん、結婚なさってたですか?!」

かよは郁弥との話の中で、英治が既婚者であることを知ってしまった。

はなの恋は道ならぬ恋だったのだ。

* * * * * * * * * *

次の朝。

かよは昨夜からずっと、はなに英治のことを告げるべきか迷っていた。

傷つけることにはならないか、却って寝た子を起こすようなことにはならないか …

「何?」

じっと見つめていると、はなが怪訝な顔をした。

かよは肚を決め、膝を正した。

「お姉やん、村岡さんのお兄さんの方どう思う?」

「 … どうって?」

「お姉やん、あの人のこと好きずら?」

「てっ、何言うで ~ ほんなこん … 」


いきなり確信をつかれ、はなは狼狽えてしまった。

「 … おら、あの人は止めた方がいいと思う」

理由は言わないで、先ずはそれだけを告げた。

「かよ … 」

はなは思った。 … かよがそんなことを言い出すには何か訳があるのだろうと。

「止めるも何も、言われただよ」

「何て?」


かよは心配そうな顔で訊いた。

「『忘れてください』って … 」

「てっ、本当け?

… お姉やん、振られたのけ?」


はながうなずいたのを見て、かよの顔に安堵の色がみえた。

「何だ ~ ほうか、よかったよかった」

思わず笑顔になって、口に出して喜んでしまったが … 慌ててはなに謝った。

「 … ごめん」

「ううん、もういいの」


かぶりを振ったはなはさばさばとした顔で笑いはじめた。

「本当にお父の言う通りさ ~

まったく、東京の男は何を考えてるだか分からん」

「ほうだよ … おらたちみてえな田舎もんはこぴっと気つけんと」


振られた後遺症もそれほど感じられず、改めて胸をなで下ろしたかよだった。

* * * * * * * * * *

昼下がりのカフェー・ドミンゴ。

件の老紳士がコーヒーを飲みながらくつろいでいる。

ポケットの懐中時計を確認して、勘定に立った。

「ごちそうさま」

「もうお帰りですか?」


いつもより随分早い時間に退店するので、かよは気になった。

「今日のコーヒー、お口に合いませんでした?」

「いやあ、大変美味しかったよ ~ ちょっと約束があってね」

「てっ … 逢引きですか?」

「てっ … だといいんだけどね」


老紳士は、口調をまねて微笑んだ。

かよの子供のような素直な反応が気に入ったみたいだ。

* * * * * * * * * *

ドミンゴを後にした老紳士が向かった建物は村岡印刷だった。

重役室のドアを開けると、仕事中の英治と郁弥が出迎えた。

「おはようございます、社長」

英治が老紳士のことを『社長』と呼んだ … 彼は、村岡印刷の経営者であり、英治と郁弥の父親、村岡平祐その人だった。

「またドミンゴでコーヒー飲んできたんですか?」

郁弥がうらやましそうに訊ねた。

「可愛い女給さんの友だちができてね ~ てっ!」

そう言うと、愉快に笑った。

「て? … かよさんだ!

父さんずるいですよ、僕だって行きたいの我慢してここで働いてるのに … 」


ふくれっ面の郁弥の相手はせずに席に着いた。

* * * * * * * * * *

「じゃあ、はじめようか?」

かよに話した約束というのは、息子ふたりからの営業報告を兼ねた経営会議だった。

「郁弥の挨拶回りは済んだのか?」

「はい、兄さんの打ち合わせにも同行させてもらっています」

「梶原君の立ち上げた聡文堂の新しい雑誌はどうなってる?」

「目玉となる作家先生の原稿の目途が立っていないようで … 校了までにはまだしばらくかかるかと」


矢継ぎ早に訊ねる平祐に村岡兄弟はテキパキと答えた。

「それで … よりよい割り付けを思いついた頁があるので、今日その提案に行ってきます」

「へえ ~ 兄さんが割り付けするなんて珍しいね」

「そんなことないさ」


英治は否定したが、かなり思い入れがある頁なのだろう。

「 … 引き続き、しっかり頼む」

「はい」


* * * * * * * * * *

打ち合わせが終わり、仕事に戻ろうとした英治を平祐は呼び止めた。

「昨日また、香澄さんの見舞いに行ったそうだな?」

「はい」

「向こうの父親から連絡があった。

こんなに頻繁に病院に来てもらっては申し訳ない … いつ治るのか分からないのだから、英治君のためにも離縁を考えて欲しいと言ってた」


英治が表情を曇らせた。

「あちらもそう言ってることだし、お前もそろそろ … 」

「父さん」


平祐の言葉を遮った。

「病気の義姉さんを見捨てろと言うんですか?」

横で聞いていた郁弥も口を挟んできた。

「英治。

お前はまだ若い … 健康な人と一緒になって子供を育てる、そういう家庭を持つことだってできるはずだ。

お前のためにも、この会社のためにも … 考えてみなさい」


諭すように平祐は話した。

「そんなこと考えられません」

しかし、英治はきっぱりと拒否したのだった。

* * * * * * * * * *

英治は、仕上げた割り付け案を収めた封筒を郁弥に差し出した。

「これ聡文堂に届けてくれないか?」

「何で兄さんが行かないの?

… 今、手が離せないよ」


当然、郁弥には郁弥でしなければならない仕事があるのだ。

「 … 分かった」

気が進まない顔をしながら、英治は出かけていった。

* * * * * * * * * *

聡文堂の入口の前までやって来たが、その先へと足が動かない。

ドアを開ける勇気が出てこないのだ。

考えあぐねていると、外出先から亜矢子が戻って来た。

「まあ、英治さん ごきげんよう」

亜矢子はドアを開けて、英治を促した。

言われるがまま部屋に入ると、入口のすぐ横は、はなの席だ。

「昨日はいらっしゃらなかったから、どうされたのかと思いました」

英治は、はなを避けるように素通りしてそのまま梶原の元へと行ってしまった。

「お茶は私が!」

亜矢子は、はなを出し抜いたはずだったが、運悪く担当している作家の岡田から電話が入ってしまって、仕方なくその役を明け渡した。

ただ、はなも決してうれしい訳ではなかった。

* * * * * * * * * *

「こういう感じはどうかと思いまして」

英治から新しい割り付け案を見せられた梶原は唸ってしまった。

「ちょっとな、他のページと違いすぎるな … 」

「だからこそ目を引いていいと思うんですよ」


英治はそう勧めるが、藤原の感性にはない提案だった。

「違いすぎますね」

意見を求められた三田も同意見だ。

「安東君、これどう思う?」

英治にお茶を入れただけで席に戻ろうとしていたはなを梶原が呼び止めた。

「君が翻訳してくれた頁の新しい割り付け案だ」

梶原ははなに英治が書いた割り付けのラフを見せた。

頁が飾罫で囲んであり、左上と右下に挿絵のスペースが設けられて … それは、今まで見たことのない斬新な割り付けだった。

ひと目見てはなは気に入ってしまった。

「物語の世界に合っていて、素敵だと思います」

目をキラキラと輝かせながらそう言った。

「そう?」

はなの意見を聞いても、梶原と三田にはピンと来ないらしい。

* * * * * * * * * *

「村岡君が新たに考えてくれたんだ」

はなは英治の顔を見たが、英治の方は目を合わせずに梶原に向かって説明した。

「この方が読者により物語が伝わると思いまして … 」

「そうかな ~ ? 」

「あの、翻訳ものの連載はまだどこもやっていませんし、せっかく新しい児童雑誌を作るんだったら、これぐらい遊び心があった方がいいと思うんです」


英治は、いつになく熱心で引き下がらない。

すると、電話を終えた亜矢子が割って入ってきた。

「編集長、絶対にこの方がいいと思います!

… 上品で洗練されていて、まるで村岡さんみたい」


歯が浮くような言葉も臆面もなく言えるのは亜矢子の持ち味だった。

「醍醐君の感想は私情が入り過ぎてます」

三田に見透かされても亜矢子は心外という顔でとぼけている。

「 … 分かった!

この割り付けで、一度組み版してみて」


梶原は英治の熱意と、女性陣の感覚に試しに乗ってみることにしたのだ。

「はい、すぐに!」

割り付け案を封筒にしまって、一刻も早く社に戻ろうとする英治を亜矢子があざとく引き留めた。

「村岡さん、他の割り付けも少し変更したいんですけど」

「ええ」


英治は、はなを一瞥もせずに亜矢子に着いていってしまった。

* * * * * * * * * *

打ち合わせを終え、聡文堂から出て行く英治。

はなが慌てて後を追うように飛び出してきた。

「あっ、村岡印刷さん!」

立ち止まり振り向く英治。

「 … 僕また何か忘れ物しましたか?」

「いえ、お礼が言いたくて」


はなの言葉に英治は戸惑いの顔をした。

「あの … 素敵な割り付け考えてくださって、ありがとうございました」

お辞儀したはな、英治もホッとした顔になって頭を下げた。

「では、よろしくお願いします」

部屋に戻ろうとしたはなの背中に英治は声をかけた。

「花子さん」

「 … はい」

「続き、楽しみにしてます。

あなたの翻訳する言葉は、本当に素直で美しい … そのよさが読者にも伝わるような誌面にしますから」


* * * * * * * * * *

「 … どうして急にそんな優しいこと言うんですか?

いつもみたいにバカでも分かるでいいのに … そんなこと言われたら、また勘違いしちゃうじゃないですか?」


はなは笑顔を繕っている。

「これでも … こぴっと頑張ってるんです。

あなたを忘れなきゃって … 」


今にも泣きだしそうな気持ちを一歩手前で我慢しているのだ。

「 … もう優しくしないでください」

「すみません」


英治は力なくうなずいた。

* * * * * * * * * *

「どういうつもりかしら?

こないだ私を振り切るようにして帰ってから謝罪の言葉もないなんて … 」


あの日以来、数日ぶりに、はなはドミンゴで執筆する満代の前に顔を出したのだ。

「申し訳ありません!」

平謝りのはな。

「私、面白い恋愛の題材をずっと待ってるんだけど」

満代は煙草をふかしながら、はなの顔をじっと覗き込んだ。

それが聡文堂の新雑誌に執筆する条件なのだ。

はなはまるで蛇ににらまれた蛙だった。

「あの … 友達の話なんですけど … 」

「つまらなそうだけど聞くわ」


友だち? … まさか蓮子の話?

はなは訥々と話しはじめた。

「友達が、ある男性と再会して … ひょんなことから、その人のことが好きだと気づいてしまって … 思わず思いを告げてしまったんです」

蓮子よりもっと身近な人物の話だった。

「咄嗟に後悔して、彼の前から立ち去ったんですけど … 何故か彼は土砂降りの雨の中、追いかけてきて …

そして、傘を差し出してくれて … 」

「 … それで?」

「抱きしめて … 」

「それで?」

「あっ、あくまでも友達の話です」


はなは今更ながら念を押した。

「それで?」

満代は語気を強めた。

「 … 翌日、彼はこう言ったんです。

『昨夜のことは忘れてください』と」


* * * * * * * * * *

そこまで話して、はなは黙り込んでしまった。

「それでお終い?」

「はい」


まずいことに、満代に事の成り行きを話していたら、今までのことを思い返してしまって … だんだん腹が立ってきた。

「 … そもそも、『忘れてください』って、何なんですかね?

わざわざ追いかけてきて、それから … だ、抱きしめて、それなのに『忘れてください』って!!

しかも『忘れろ』とか言っときながら、仕事では助けてくれたり、急に優しいこと言ってきたり、あの人はどういうつもりなんですか?!」


気づけば、満代に向かって一気にまくしたてていた。

「あなた、大丈夫?」

そう言われて我に返ったはな。

「 … と、友達が怒ってました」

喉がカラカラで目の前にあったサイダーをごくごくと一気に飲み干してしまった。

そんな、はなの様子を無表情のままじっと見ていた満代は、さっさと帰り支度を始めた。

「あの、先生?」

「何か進展があったら、また教えてちょうだい」


席を立ち、店から出て行ってしまった。

… 今のはなの話に少なからず興味は持ったようだ。

* * * * * * * * * *

「あの … うちの原稿は?」

はなは立ち尽くし、ため息をついた。

「お姉やん、編集者の仕事って本当に大変だな … 」

近寄ってきたかよがはなを見てしみじみと口にした。

自分の生々しい失恋話さえ、場合によっては提供しないといけないのだ。

* * * * * * * * * *

満代と入れ替わりに店に入ってきたのは、宮本龍一だった。

「いつもの頼む」

そうかよに注文すると、指定席に陣取っている仲間たちの元へ向かった。

すると、まるで後を追ってきたかのように、鳥打帽をかぶった男がひとり店に入ってきた。

「いらっしゃいませ ~ て?!」

男の顔を見て、かよは仰天した。

なんと兄の吉太郎ではないか?!

吉太郎の方も目を丸くしている。

「てっ?!」

はなも気がついた。

しかし、吉太郎は何も言わずに、ふたりのことをまるで無視して、カウンター席に腰かけてしまった。

* * * * * * * * * *

「兄やんだよね?」

はなとかよは顔を見合わせた。

兄の顔を見間違う訳もない … 背広にネクタイ姿だが、確かに吉太郎だ。

「兄やん」

「本物の兄やんじゃん」


すると、吉太郎は振り向かず声を潜めて話してきた。

「 … 任務中だ。

悪いが知らねえふりをしてくりょう」


吉太郎は肩越しに龍一たちの一団を鋭い目で盗み見た。

< 憲兵になった吉太郎の任務とは、一体何なのでしょう?

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月24日 (火) | 編集 |
第74話

「昨夜のことなんですが … すみませんでした!

… 忘れてください」

英治は突然、その大きな体をふたつに折って、はなに向かって頭を下げて来た。

「はあ?」

「とにかく忘れてください … 本当にすみませんでした」

そのままの体制で踵を返すと、振り返りもせずに、はなをひとり残して逃げるように部屋から出て行ってしまった。

< つまり、はなは振られてしまったのでしょうか? >

「 … 忘れてください?」

* * * * * * * * * *

「 … 忘れてください?」

はなは英治が言ったその言葉の意味を懸命に考えてみたが、ひと晩明けても確かな答えは出なかった。

上の空で朝食を取っているはなをかよは怪訝に思った。

「お姉やん、大丈夫け?」

すると、はなは茶碗と箸を置いて、かよに訊ねた。

「ねえ、『忘れてください』って、どういう意味だと思う?」

「ほりゃあ、忘れてくりょうってことずら」

「ほれって … つまり?」

「よく分からんけど … 思い出したくねえから、なかったことにしてくりょうってことかな?」

「 … なかったことに?」


かよの言葉にはなは微かな動揺をみせた。

「本当にどうしたでえ … また何かあっただけ?」

かよは心配そうに顔を覗き込んだが、はなは慌てて首を振った。

「ううん … ほ、翻訳してて、ちょっこし気になっちゃってさ」

明らかにウソだと分かった。

「 … やっぱし何かあっただね?」

はなは平然を装い、ふたたび茶碗を手にしたが、箸でご飯をつかみ損ねてしまった。

* * * * * * * * * *

いつものように、かよに見送られて長屋を後にしたはな。

会社への道すがら、ふと足を止めたのは、あの雨の日に英治に抱きしめられた小さな祠の前だった。

実際、はなには分かっていた。

英治は、あのことを忘れてくれと言っているのだと … 頭の中で何度も否定したが、やはりそれしかない。

はなは思いきり頭を振って、抱きしめられた残像を振り払った。

「忘れよう … こぴっと、忘れよう」

そう自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

「 … よし、忘れた忘れた」

うなずき、無理に笑顔を作って、また歩き出した。

* * * * * * * * * *

入口を勢いよく開けて会社に入っていったはなは、やたら元気よく梶原に挨拶をした。

「編集長、おはようごいす!」

「おはようごいす?」


返す刀で傍らにいた三田にも愛想よく訊ねた。

「三田さん、何かお手伝いすることありませんか?」

「 … いえいえ、別に」


面食らっているふたりに機嫌よく笑ったはなは、出社してきた亜矢子を見ると駆け寄っていった。

「ごきげんよう、醍醐さん!

岡田先生の原稿の編集、まだよね? … お手伝いします」

「 … それは助かるけど」

「今日も忙しくなりそうね ~ 頑張りましょう!」


そう言って亜矢子の手を握った。

「取りあえず皆さん、とびっきり美味しいお茶入れますね!」

「 … いつものお茶っ葉でしょ?」


やたらテンションが高いはなを見て、亜矢子は訝しげに思った。

「はなさん、妙に明るいですね?」

「不自然なほどね。

まあ、何かあったんだろう … そ~っとしておこう」


梶原の言葉に亜矢子と三田は顔を見合わせてうなずいた。

* * * * * * * * * *

< はなが空元気を振りまいている頃 …

福岡の蓮子は部屋に引きこもり、現実のうさを読書で紛らわせておりました >

人を招いてのサロンや音楽会にもいい加減あきたのか、この頃は東京から取り寄せた本を日がな一日片っ端から読みふける毎日。

部屋の中には読み終わった本が、あちらこちらに無造作に積み上げられたままだった。

「奥様、お客しゃんがお見えですばい ~ 奥様」

廊下からタミが声をかけてきたが、蓮子は不機嫌に返事した。

「私を訪ねてくる人なんていないわ」

「ばってん、東京から来んしゃったそうで ~ 」

「 … 東京から?」


東京からと聞いて、蓮子の頭に浮かんだのは、はなの顔だった。

「どなた? 女の方?」

「いいえ ~ 宮本しゃんちゅう、男ん人です」


まったく聞き覚えのない名前だった。

「知らない方だわ、お帰りいただいて」

* * * * * * * * * *

座敷で待っていたのは … 宮本龍一だった。

その手にあるのは蓮子の歌集だけ、他に荷物の様なものは一切見当たらない。

「 … お帰りくださいっち、奥様が」

「はるばる東京から来たんです … 会わせてください」

「ばってん、もう奥様はず~っと部屋にこもりっきりで」


誰にも会いたくないと言って出て来ないのだとタミは話した。

「 … 分かりました」

龍一は席を立った。

「お客しゃんがお帰りばい!」

廊下に出た龍一は、今タミが戻って来た方向へと歩き出した。

「ちょっと?!」

「玄関はこっちですばい!」


タミと女中のトメが慌てて引き戻そうとしたが、龍一はどんどん廊下を奥へと進んでいく。

* * * * * * * * * *

「蓮子さんの部屋は何処ですか?」

「勝手に困りますばい!」


タミたちは必死に止めるが、龍一は従わず、部屋の戸を次から次へと開けて、しらみつぶしに蓮子を捜しはじめた。

「何すいとですか?!」

* * * * * * * * * *

「本当に困りますき、帰ってつかあさい!」

「会わずに帰るつもりはない!」


外の騒ぎに蓮子が気づいた時、扉を乱暴に開けて龍一が入ってきた。

ハッとして立ち上がった蓮子。

「何なの、あなた? … 出て行きなさい」

「嫌です。

話を聞いていただくまで帰りません」


そう宣言して、足を踏み出した龍一は、床に散らかっていた本を踏みつけて、思いきり引っくり返ってしまった。

「痛って ~ 」

目の前でその姿を見てしまった蓮子は、思わず吹き出した。

「勇ましさが台無しね」

真面目腐った顔をして意気込んで入ってきた龍一が見せた滑稽さが可笑しくて仕方がなかった。

蓮子は声を上げて笑いはじめた。

体を起こした龍一は部屋の中を見渡した。

辺り一面、ところ構わず積み上げられた本の山を見て唖然とした。

「何だこの部屋 … 俺の部屋より散らかってる」

蓮子は昔から、片付けることや掃除が苦手で、女中にもこの部屋に入ることを禁じていたから、散らかし放題のままだった。

いつまでも蓮子は笑っている。

そのうちに龍一も自分自信が可笑しくなって … 一緒に笑いはじめていた。

タミをはじめとする女中たちは、その様子を見てバカらしくなったのだろう … 呆れた顔をして部屋から出て行ってしまった。

* * * * * * * * * *

「ああ、こんなに笑ったの久しぶり … 」

蓮子は笑いすぎで出てきた涙を拭っていた。

「人の不幸を笑うとは悪趣味だな」

龍一は苦笑いをした。

「どなたか存じませんけれど、東京から尻もちをつきにいらしたの?」

「笑いすぎですよ!」


さすがにプライドを傷つけられ、ムッとした龍一は立ち上がった。

「この顔、お忘れですか?」

蓮子が自分のことをまったく覚えていないことも面白くなかった。

* * * * * * * * * *

蓮子は龍一の顔を見つめ直した。

言われてみれば、確かに見覚えがある顔 … はなと待ち合わせたカフェで絡んできた失礼極まりない学生だった。

「ああ、あの時の … 」

「やっと思い出してくれましたか」

「こんなところまで、またケンカを売りにいらしたの?」

「いいえ … あなたを口説きに来たんです」


蓮子は不審な顔をした。

「これ読みましたよ」

袖の中から歌集『踏繪』を取り出した。

「 … それで?」

「僕たちの劇団のために脚本を書いてください」

「脚本?」


蓮子は鼻で嗤った。

歌ならいざ知らず、脚本とは見当違いの話だからだ。

「さあ、三十一文字より多く文字をつづる術を知らないわ」

「僕はあなたに書いて欲しいんだ!」


まるで、人にものを頼む態度ではなかった。

「どうして私なの?」

礼儀を知らない龍一に蓮子も声を荒げてしまった。

「劇団でお金でも必要なのかしら?」

「金なんか … 」


龍一は、しばし言葉に詰まった。

「いや本音を言うと、金も欲しいですけど … 」

あまりにも正直に認めたので、蓮子はまた吹き出してしまった。

「僕たちは演劇を通して、今の不平等な日本を変えようと思っています。

そのためには、まず人々の心に深く突き刺さり、揺さぶる舞台をやる必要がある!」


* * * * * * * * * *

「僕はこの本を読んで、すぐに汽車に飛び乗りましたよ。

白蓮の歌に込められた、ほとばしるような激情に僕の心が揺さぶられたからです … 引き受けてもらえるまで帰りません」


蓮子は、龍一の若い情熱に逆に心を揺さぶられた思いがした。

「随分と熱いのね … でも、世の中なんてそう簡単に変えられるものじゃないわ。

しきたりも仕組みも変わりはしないのよ」


そのことを一番承知しているのは自分だと言いたかった。

「じゃあ、世の中なんてどうでもいい。

僕のために書いてくれませんか?」


何を言い出すのだろう、この男は … 蓮子は、龍一の顔を見つめた。

「 … あなたにしか書けない脚本を」

* * * * * * * * * *

はなは仕事の手が空いた少しの時間でさえ、部屋の片付けをしたりして体を動かし続けていた。

じっとしていると、要らぬことを考えて落ち込んでしまいそうで怖かったのだ。

本を書棚に収めようとした時、不覚にも英治のことを思い出してしまった。

< あの人のことを忘れよう忘れようとして、余計頭に浮かんでしまう … それが、恋というものなのです >

首を横に振り、気を取り直して、高い位置にあった本を戻そうとした時、背後から伸びてきた腕が手を貸してくれた。

振り向くと、腕の主は郁弥だった。

「 … どうもありがとうございます」

「いいえ ~ 」

「今日はお兄様、いらっしゃらないんですか?」


すぐさま、亜矢子が訊ねた。

「兄は別件でちょっと … 代わりに割り付け届けに来ました」

英治に会って気まずい思いをせずに済んだはずなのだが、会えないのは尚更さみしい … はなは複雑だった。

* * * * * * * * * *

「あの、私は花より … 」

「チップの方がいいんですよね?」


勿忘草を一輪、かよに差し出しながら郁弥は言った。

「でも、勿忘草を見てたら、かよさんのことを思い出してしまって」

ひとり悦に入ってニコニコしている郁弥、かよは不機嫌な顔で注文を訊いた。

「ウイスキーを」

注文を通したかよは改めて郁弥に訊ねた。

「今日は英治さんはいらっしゃらないんですか?」

すると今度は郁弥が少し不機嫌な顔をした。

「何で皆、僕の顔を見ると同じこと聞くのかな …

兄は、ねえさんの見舞いに行ったんです」


郁弥に姉がいることは初耳だった。

「お姉さん、入院なさってるんですか?」

「もう3年も結核の病棟に …

兄と結婚してすぐに胸を患って」

「結婚?

… 英治さん、結婚なさってたですか?!」


郁弥は何気なく口にしたことが驚愕の事実だった。

「あ、ご存じなかったですか?」

「え、ええ … 」


かよが驚いた後、考え込んでしまったので、郁弥は不安になった。

「かよさん、ひょっとして … 兄のことが好きだったんですか?」

「てっ?!

違いますよ … 好きなのは私じゃなくて … 」


その先はいくら妹でも軽々しく口にはできない。

* * * * * * * * * *

その時、梶原を先頭に仕事を終えた聡文堂の面々が店に入ってきた。

「いらっしゃいませ!」

慌てて出迎えるかよ。

「おう、郁弥君」

梶原が声をかけてきたが、郁弥はかよの話の続きが気になって挨拶も何処か気が入っていなかった。

一番後ろから入ってきたのははなだった。

「あ、郁弥さん ~ ごきげんよう」

かよは慌てて、はなを郁弥から引き離して席に誘導してしまった。

* * * * * * * * * *

その頃、 … 妻の見舞いから村岡印刷に戻った英治は、ひとり薄暗い事務所で活字で組まれたはなの原稿に目をやっていた。

そして、おもむろに白紙を取り出すと『王子と乞食』の割り付に取り組みはじめた。

* * * * * * * * * *

「お兄さんが結婚していること、ちょっこし内緒にしていてもらえますか?」

かよは聡文堂の人々に聞こえないよう、声を潜めて郁弥にそっと懇願した。

「ちょっこし?」

「 … 傷つく人がいるので」

「それは、かよさんじゃないんですよね?」


郁弥はもう一度念を押して訊いた。

「違います … とにかく内緒に」

「 … わかりました」


* * * * * * * * * *

「郁弥さん、よかったらこっちにいらっしゃらない?」

亜矢子に声を掛けられた郁弥はテーブルを移って仲間に加わった。

「あっ、『王子と乞食』の原書は郁弥さんからいただいたんです」

はなは皆に打ち明けた。

「そうだったの?」

梶原が呑気に驚いている … この時代、編集者であろうと、翻訳ものに対する著作権という意識がまだ薄かったのだろう。

当然、原作者のマーク・トウェインに許可を得てはいなかったに違いない。

「安東さんの翻訳、兄は仕事を忘れて読みふけっていました」

かよが言う「英治の結婚を知って傷つく人」が、まさかはなだとは思ってもみない郁弥だった。

「 … すごく面白いって」

「それは、原作が素晴らしいからです!」


かよは姉を見て胸が痛んだ。

「はなさんズルいわ ~ 私ももっと頑張らなきゃ!

… 英治さんは何がお好きなの?」


亜矢子が対抗意識をむき出して郁弥に訊ねた。

「あ、兄の好きなものですか?」

「珍獣だよ」


代わりに答えたのは梶原だ。

「ほら、ナマケモノとかさ」

「 … なまけもの?」


亜矢子は首を傾げている。

「変わってますよね」

英治からナマケモノに例えられた本人、はなにとっては … 思い出すだけでつらいことだったが、努めて明るく笑っていた。

< かよは知ってしまったのです。

お姉やんの恋は … 道ならぬ恋だと。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月23日 (月) | 編集 |
第73話

< 東京の出版社で働き始めたはなは、 蓮子と10年ぶりに再会しました >

「この辞書の送り主は ずうっと前から はなちゃんの心の中にいたのね … 」

< 蓮子の言葉で、自分が恋に落ちていることに気がついてしまったのです >

「私の心臓は、パルピテーションの嵐です … 好きです!」

しかし、自分の告白が英治を困らせている … そう感じ取ったはなは、土砂降りの中へ飛び出してしまった。

英治はそんなはなのことを追いかけてきた。

「 … 本当にごめんなさい」

「もう謝らないでください」

傘を差し掛けた英治、その手がはなのことを抱きしめた。

熱い抱擁を交わしているふたりを、作家から受け取った原稿を社に持ち帰る途中の亜矢子が偶然にも見てしまったのだ。

* * * * * * * * * *

朝になり、昨夜からの雨はすっかり上がって見違えるような晴天になった。

かよが、濡れた赤い蛇の目傘を干していると、はながもっそりと目を覚ました。

外に干した傘をぼんやり眺めていると、昨夜の出来事が寝起きの頭によみがえってきた。

「おはよう」

かよが声をかけても、はなの耳には届かなかったのか、虚ろな目をしたままだ。

「お姉やん、昨夜は村岡さんのお兄さんの方に送ってもらったの?」

「てっ!」


村岡という名前に反応して、途端にそわそわと落ち着きがなくなった。

「 … 村岡さんと何かあっただけ?」

「てっ … 何もないよ」


かよは昨夜から、何だかはなの様子がおかしいことに気づいてはいた。

「ボ~っとしたり、そわそわしたり … 村岡さんと何かあっただね」

「てっ … ど、ど、どうして?」


かよの指摘に動揺を隠せないはなだった。

「だって、村岡さんって言う度に、てっ、てっ、てって」

「てっ?!」


からかい交じりの追及から逃れるように、はなは寝間着のまま外に飛び出した。

「何処行くでえ?」

「井戸で水汲んでくる!」


かよはその背中を目で追いながらおかしくて吹き出した。

「お姉やん、分かりやすいじゃん」

* * * * * * * * * *

出社したはなを出迎えたのは、不機嫌な顔をした亜矢子だった。

挨拶しても返事せず、眉間にしわを寄せ、不自然に目をそらすと避けるように行ってしまった。

「醍醐さん?」

はなには何が何だか分からない … あんな亜矢子は今まで一度も見たことがなかった。

「昨夜、村岡君とどうだった?」

梶原の言葉にドキッとするはな。

「 … な、何がですか?」

「大雨だったし、ちゃんと原稿渡せたかなと思って」

「ああ ~ はい、確かにお渡ししました」


そこへ須藤がやって来て、梶原に午後からの編集会議に英治も呼んだことを報告した。

英治がやって来ると聞き、はなの鼓動は高鳴った。

すると、亜矢子がやけに深刻な顔をして寄って近寄ってきた。

「はなさん、ちょっと後でお話があるの … 」

* * * * * * * * * *

カフェ・ドミンゴでは、例の演劇かぶれの学生たちが授業にも出ずにいつもの席に陣取っていた。

「この間、お前が絡んだ嘉納伝助夫人。

筑豊の屋敷でサロンだの音楽会だの開いて、贅沢三昧だと」


その中のひとり、田中が新聞に蓮子の素行を書いた記事が載っていたのを見つけて、龍一に見せた。

「全部、炭鉱の労働者から搾取した金じゃないか … 最低な女だな」

そう吐き捨てた龍一だったが、何故かいつもより歯切れが悪かった。

「嘆かわしい ~

帝大生ともあろう者が三面記事で人を判断するとは … 」


口を出したのは、件の老紳士だった。

「何だよ、あんた?」

老紳士は立ち上がって、龍一たちのテーブルの横にやって来た。

「詩人のボアローはこう言っている … 『批評は容易く、芸術は難しい』」

そう言って、龍一に自分が今まで読んでいた本を手渡した。

そして、勘定を済ませると店を出て行ってしまった。

「装丁は竹久夢二か … 金だけはかかってるな」

龍一から本を受け取った田中だったが、表紙をめくってみただけで興味なさそうに放り出してしまった。

何となく気になった龍一は本を手に取った。

『踏繪』

それは蓮子が、白蓮の名で出した歌集だった。

* * * * * * * * * *

亜矢子に呼び出されてカフェ・ドミンゴにやって来たはなは店から出てきた老紳士と出くわしていた。

「ごきげんよう、またお会いしましたね」

はなが挨拶をすると、老紳士は意外そうな顔ではなを見た。

「君はまだ田舎に帰ってなかったのかね?」

今日はこの紳士も虫の居所がわるいようで、それだけでさっさと行ってしまった。

* * * * * * * * * *

はなは亜矢子についてテーブル席に座った。

かよが愛想よく注文を訊いたが、亜矢子は仏頂面で答えた。

「ライスカレー、お願い」

はなも同じものを注文した。

話があると言って呼び出したのに、亜矢子はひと言もしゃべろうとしない。

料理が運ばれてきても、ただはなの胸元をじっと見つめているだけだった。

「あの … 醍醐さん、お話って?」

はなの方から切り出すと、やっと口を開いた。

「 … 私、昨夜見たの」

「えっ?」

「見たくないけど、見てしまったの … 雨の中で、はなさんと英治さんが … 」


一番見られてはいけない人に見られていた。

「一体、いつから英治さんとは、そういうご関係だったの?」

うらめしそうな目で見つめた。

「違うの、あれは … ああ、何と言うか … 事故のようなもので … 」

はなは上手な言い逃れが思い浮かばず、却って亜矢子の機嫌を損ねてしまった。

「あれが事故?!

随分素敵な事故だこと … 私は未だ、男の方と手をつないだことしかないのに!」


恋愛に関して、奥手だとばかり思っていたはなに先を越されたのが悔しいようだ。

* * * * * * * * * *

「私としたことが迂闊だったわ。

… 英治さんが好きなんでしょ?」


言いあぐねたはなが返事に困っていると、亜矢子の口調は一層厳しくなった。

「私、はなさんには負けませんからね!」

いわば恋敵への宣戦布告だった。

「いただきます!」

亜矢子は猛然とカレーライスを食べ出した。

そんなふたりの様子を店の隅から、かよが心配そうにうかがっていた。

* * * * * * * * * *

午後になり、亜矢子は先ほどのことなど忘れたかのように、てきぱきと仕事をこなしはじめた。

はなはいろいろ気が散って中々仕事がはかどらない。

そうこうしているうちに、英治が弟の郁弥を伴って打ち合わせにやって来た。

「お待ちしていたんですのよ ~ 」

亜矢子がいの一番に出迎え、英治の帽子を預かった。

英治は、はなのことは一瞥もせずに梶原の方へと歩いて行ってしまった。

「こんにちは、先日はどうも」

その代わりといっては何だが、郁弥が丁寧に挨拶をしてきた。

「今日は弟も連れてきました。

イギリスで最新の印刷技術を学んできたので、お役に立つかと思って」


英治は梶原に郁弥を紹介している。

「大歓迎だよ ~ よし、編集会議をはじめよう!」

* * * * * * * * * *

会議席についた一同にお茶を運ぶはなと亜矢子。

亜矢子は、はなを出し抜いて、英治と郁弥の前に紅茶を置いた。

「あれ、ふたりだけ紅茶?」

須藤が不満そうに訊ねた。

「おふたりはお客様ですから ~ 」

「客扱いは止めてください。

皆さんと一緒に新しい雑誌の立ち上げにに参加させてもらえるだけでうれしいんですから」


梶原もふたりの自由な意見に期待している。

英治は、紅茶の方が好きだという須藤のお茶とあっさりと交換してしまった。

面白くないのは亜矢子だった。

* * * * * * * * * *

「じゃあ、表紙から決めよう」

梶原が言うと、英治は用意してきた素案 … 四色刷りの絵が印刷された表紙の見本を5枚テーブルの上に並べてみせた。

色々なタイプ、色調の絵に『白い鳩』という仮の雑誌名がそれぞれに合わせてデザインされている。

「これはちょっと地味だな」

「これは少し奇抜すぎるだろう」

「これぐらい目立った方が … 」


皆それぞれ好みもあり、中々話はまとまらない。

「 … ひとつに絞れませんね」

「そうだな ~

よし、じゃあ多数決で決めようか!」


自分が好きなものを「1、2、3」で指をさす方式だと梶原は皆に説明した。

「1、2の3!」

偶然にも、はなと英治が同じ黄色系の色で構成された表紙を指さした。

お互いの指先がふれあって、ハッとして離した。

すると、亜矢子も、サッとふたりと同じ表紙に選び直した。

「私もこれがいいと思ったんです」

誰も訊いてはいないのに勝手に言い訳している。

* * * * * * * * * *

「そうか … 女性はふたりともそれか?」

梶原をはじめ他の男たちは皆が同じカラフルな色遣いの表紙を選んでいた。

「しかし、多数決は多数決ですよ」

三田にそう言われ、梶原はうなずいた。

「よし、じゃあ表紙はこれに決めよう」

しかし、選ばれた表紙では『白い鳩』という雑誌名は合わないというのが亜矢子の意見だった。

「雑誌名は大事だから、もう一考しようと思ってたんだ」

梶原は一同に向かって案を募った。

「動物に拘らなくてもいいと思います」

* * * * * * * * * *

「あ、あの … 」

はなが何か思いついたようで、皆の視線が集中した。

「『にじいろ』というのはどうでしょうか?」

「虹?

何だかすぐに消えそうじゃないか?」

「何色なのか曖昧で、はっきりしないわね … 」


三田と亜矢子から異論が上がった。

しかし、はなにとって最も頼もしい支持者が現れる。

「でも、その分、想像の余地はあるんじゃないですか?

書店に並んでいたら、どんな雑誌なのか … 僕は開いてみたくなります」


英治のその言葉に梶原の心は大きく動かされた。

「『にじいろ』か … 悪くないな」

「ファンタスティックですね!」


郁弥が思わず英語を使うと、場の雰囲気が一気に和んだ。

この時、雑誌名は、はなが提案した『にじいろ』に決定したのだ。

* * * * * * * * * *

「村岡さん、さっきはありがとうございました」

会議が終わり、はなは英治の元へ行き、礼を言った。

「まさか、自分が思いついた名前が採用されるなんて ~ 村岡さんのお蔭です」

浮かれているはなとは裏腹に英治はニコリともしない。

「いい案だと思ったから、賛成したんです」

素っ気ない態度で妙によそよそしく、郁弥を連れて、さっさと出口へと向かった。

「村岡さん、明日もお待ちしております」

亜矢子に見送られて帰って行ってしまった。

「はなさん、明日も負けないわよ」

ふたりが出て行った後、亜矢子ははなにそう言ったが、はなは勝ち負けなど考えてもいなかった。

* * * * * * * * * *

退社時間になり、職員はひとりまたひとりと帰って行く。

後片付けをしていたはなは、入口の横の帽子掛けに英治の中折れ帽が掛かったままになっていることに気づいた。

「安東、雑誌の名前も決まったことだし、一杯やるから来ないか?」

帰り支度を整えた梶原のお誘いだった。

「あ … 今日は、翻訳の原稿に手を入れたいので、ご遠慮いたします」

丁重に断ると、「熱心だな」とひと言、三田と須藤を伴って出かけて行った。

行く先はドミンゴに違いない。

* * * * * * * * * *

< あの人が帽子を取りに戻って来るかも知れない …

そう思い、はなはわざと仕事を作って会社に残ったのです >

帽子掛けから、英治の帽子を外して、手に取ってみた。

< でも … これでは、仕事になりませんね >

はなは部屋を歩いて、念のため誰も居ないことを確認した。

この部屋に残っているのは、はなひとりだけだった。

はなは鏡に向かって、まず英治の帽子を頭に乗せた姿を映してみた。

帽子を取り、英治がするように胸に当てて挨拶のまねをした。

* * * * * * * * * *

そこへ、本当に英治が帽子を取りに戻って来た。

はなは気づかずに、英治の帽子を使ってポーズを取ったりして、ひとり遊びを続けている。

英治はそのしぐさに見惚れ、その場に佇んでしまった。

しばらくその様子を見ていると、ようやくはなが自分がいることに気づいた。

「て … どうしよう?」

はなは恥ずかしいやら、後ろめたいやら … 戸惑いの顔で、英治に頭を下げた。

「すみません … やだ …

あ、あの … これ取りにいらしたんですよね?」


はなは帽子をうやうやしく、英治に返した。

「どうぞ」

「 … どうも」


* * * * * * * * * *

ぎこちないふたりの間に沈黙の時間が流れた。

「あの … 」

お互い同時に口を開いた。

「何でしょう?」

「いえ、どうぞ先に言って下さい」


譲り合うふたり。

「いえ、どうぞ村岡さんから … 」

英治は意を決して話しはじめた。

「昨夜のことなんですが … 」

「 … はい」


はなは高鳴る鼓動を抑えて、英治の言葉を待った。

英治は突然、その大きな体をふたつに折って頭を下げて来た。

「すみませんでした!」

* * * * * * * * * *

「 … 忘れてください」

「はあ?」


英治の言っている意味がはなには分からなかった。

「とにかく忘れてください … 本当にすみませんでした」

頭を下げたまま、顔も上げずに英治は謝り続けている。

* * * * * * * * * *

英治はそのままの体制で踵を返すと、振り返りもせずに、はなをひとり残して逃げるように部屋から出て行ってしまった。

呆然と立ち尽くすはなの耳にドアが閉まる音が響いた。

< つまり、はなは振られてしまったのでしょうか? >

「 … 忘れてください?」

< ごきげんよう、さようなら … >

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2014年06月22日 (日) | 編集 |
まずは、先週のおさらいを …



それでは、次週の「花子とアン」は?

道ならぬ恋だけはしてはなりません

思わぬきっかけで、雨の中、英治(鈴木亮平)と熱い抱擁を交わしてしまったはな(吉高由里子)。それを、偶然通りかかった醍醐(高梨臨)が見てしまう。

翌朝、やたらそわそわしているはなを見て、かよ(黒木華)ははなと英治の間に何かあったのではと感づく。

はなが出勤すると、なにやら醍醐が不機嫌そうな様子。醍醐ははなをランチに呼び出し、昨夜目撃してしまったことを打ち明け、はなにライバル宣言をつきつける。

そんな中、英治が弟・郁弥(町田啓太)とともに、新雑誌の打合せのために聡文堂を訪れる。打合せでは雑誌の名前をめぐって意見が割れるが、はなが提案した案を英治が支持し、編集長の梶原(藤本隆宏)がその名前を採用する。

あなたの翻訳する言葉は本当に素直で美しい

はなは英治に支持してくれたお礼を言うが、英治は意外にも「昨夜のことは忘れてください」と頭を下げ、去ってゆく。

東京の男は信じられんさ

動揺するはな… 一方、福岡の蓮子(仲間由紀恵)のもとへ、東京で出会った帝大生・宮本龍一(中島歩)が突然訪ねてくる。龍一は強引に部屋までやって来て、蓮子に演劇の脚本を書いて欲しい、と迫る。

英治さんはやめろし

かよから、英治を最近見かけないがどうしたのかと聞かれた郁弥は、意外なことを口にする … かよから英治のことはあきらめるように言われたはなは、もうふられたのだと打ち明ける。

その頃村岡印刷では、英治が『王子と乞食』の割り付けに取り組んでいた。

兄やん?!

あの男とは関わらない方がいい


突然カフェーに現れた吉太郎(賀来賢人)、「任務中だから知らないふりをしてくれ」と言われ、はなとかよは戸惑う。兄が鋭い視線で見つめていた人物とは … ?

あんたが?

… はなちゃんです


そんなある日、カフェーに蓮子の夫、嘉納伝助がやって来る。

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2014年06月21日 (土) | 編集 |
第72話

「素敵な恋をしているはなちゃんがうらやましいわ」

10年ぶりに再会した腹心の友、蓮子が帰り際に残した言葉。

「素敵な恋 … 蓮様なんであんなこと?」

はな自身は恋に身に覚えなどないのだが、それだけに却って気になって仕方がなかった。

* * * * * * * * * *

仕事中だというのに、そんなことに気を取られていたが、名前を呼ばれてハッとすると、梶原が目の前に立っていた。

「編集長?!」

「この間の翻訳、どれくらい進んでいる?」

「あ、もうすぐ一話分終わります」

「 … 何とか明日までに上がらないかな?」

「明日ですか?」


はなは驚いたが、梶原は切羽詰まったような顔をしている。

「あ、はい … 何とか急げば … 」

かなり無理な話なのだが、そう答えざるを得ない雰囲気だった。

満代との交渉が難航しているのか、掲載する作品が足らないのだろう。

「読んでよさそうなら、新しい雑誌に入れようと思ってる」

それを聞いて、はなの目の色が変わった。

「本当ですか?

明日までに必ず仕上げます」


現金なもので、俄然、今まで以上にやる気が湧いてきた。

「すごいわ、はなさん ~ お手伝いすることある?」

「大丈夫、ありがとう」


* * * * * * * * * *

亜矢子の応援を得て、はなは早速残りの翻訳作業に取り掛かった。

それは、相棒の英英辞典と共に夜を徹して続いた。

そして、東の空が白む頃、はなは何とか一話分の翻訳を仕上げることができたのだった。

「できた … やったあ!

おまんのおかげじゃ ~ ありがとう!!」


はなは愛しい英英辞典を抱きしめて、左右に揺さぶった。

「あれ?」

すると、頁の間から一枚の紙切れが落ちてきた。

* * * * * * * * * *

それは、蓮子が密かに書き残した手紙だった。

『この辞書の送り主は ずうっと前から はなちゃんの心の中にいたのね

自分の気持ちに素直になりなさい

蓮子』

「てっ … 蓮様いつの間に??」


はなは英英辞典を見つめた。

「 … この辞書の送り主?」

村岡英治の顔が浮かんだ。

「てっ、何で?!

て ~~~ ?!」


はなが余りにも大きな声を上げたので、傍らで眠っているかよがぴくりと動いて、寝返りを打った。

夜が明けてきたとしても、まだ起きるには早すぎる時間だった。

< その時、はなにははっきりと分かったのです。

はなの夢を支えていたのは、誰だったのか … >

「ナマケモノは … 樹にぶら下がりながら、夢を見ているのだと思います。

だから、あなたも夢を忘れないでください」

「あなたは花子になるべきです … 花子という名前で、これからも書き続けてください」

人生の岐路に英治の言葉があったことに気がついたはなの顔に朝陽がさしていた。

* * * * * * * * * *

「うん、いいじゃないか」

はなが仕上げた原稿を読んだ梶原は大きくうなずいた。

「よし、これで組んでみよう」

掲載決定だった。

「はなさん、おめでとう!」

「ありがとう、ありがとうございます」


はなは感激していた … 自分なりに自信がある出来だったのだ。

「僕は日本の作家しか認めないけど … まあ、翻訳ものは他誌がやってないから珍しいかもしれませんね」

ひと言付け加えたのは三田だ。

素直に認めることができないのだろう。

「夕方には村岡印刷が原稿を取りに来るから」

梶原の口から出た『村岡』という名前に、はなの胸が高鳴った。

「私が村岡さんに渡しておきます」

「醍醐君は岡田先生のところに原稿を取りに行ってきてくれ」


亜矢子は残念そうな顔をしながらも梶原の指示に従った。

「じゃあ、はなさんが直接に入稿してね」

「村岡印刷さん … ですか?」


様子がおかしいはなを、亜矢子は不審な顔で見た。

「はなさん、どうかして?」

慌てて笑顔で誤魔化したはなだった。

* * * * * * * * * *

昼前から降り出した雨は夕方になって一層強くなってきた。

まるで台風のような風と一緒に窓を叩いている。

はなはひとりきり、部屋を片付けながら、原稿を受け取りにくるはずの英治を待っていた。

本棚に本を戻す時、ふと自分の身長では届かない高い位置の棚を見上げた。

英治の手を借りて戻した本がある。

ひと通り片付けも済み、原稿を見直していると、突然英治が飛び込むように入ってきた。

「遅くなってしまってすみません!」

「いえ、お待ちしてました」


部屋にいるのがはなだけだと分かると、戸惑いの顔をした。

ふたりはぎこちなく挨拶を交わす。

「他の皆さんは … もう帰られたんですか?」

「あ、ええ … 大雨なので皆、早めに」

「ああ、そうですか … 」


会話が続かない … 意識しているのは、はなだけでなく、英治も同じのようだ。

「あ、あの、雨大丈夫でしたか?」

「雨? ああ、降ってます … あの、かなり。

あなたも早く帰った方が … 」


かなりトンチンカンな返事だ。

「ええ … その前に原稿を」

「そうでしたね」


お互いに真っ先にしなければならないことを忘れていた。

* * * * * * * * * *

「では、拝見します」

はなから受け取った原稿に目をやった英治は、その題名を見て驚いた。

『王子と乞食』

「 … これ、郁弥が渡した本の?」

「ええ」

「花子さんが訳されたんですか?」

「梶原さんたちに早く読んでもらうために大急ぎで一話分訳してみたんです」


原稿の束を眺めながら英治は感心していた。

「たった一週間で、これだけの量を訳すなんて … あなたの集中力はナマケモノ … 

いや、それ以上だ!」


彼にしてみれば最大級の賛辞なのだ。

「やっぱり、ナマケモノですか?」

「ああ、すみません」

「いえ、いいんです」


何故か今夜は腹が立たない … それどころかうれしささえあった。

「ナマケモノは泳ぐ時にだけ、すごい集中力を発揮するんでしたよね?」

「ええ、僕は何だか感動してしまいました」


英治は少し興奮気味に原稿をめくり続けている。

「ナマケモノに?」

「いいえ … 花子さんに」


* * * * * * * * * *

「村岡さんにいただいたあの辞書のお蔭です」

原稿から顔を上げた英治とはなの目が合った。

はなは慌てて視線をそらす。

「 … 何だか蒸し暑いですね」

雨のせいですべての窓を閉め切ってはいたが、暑いのはそのせいではないだろう。

「ああ、開けましょうか?」

英治は原稿を一時机の上に置いて窓を開けた。

途端、強い雨風が部屋の中へ吹き込んできて、はなの原稿を舞い上げた。

「てっ、原稿が!」

「すいません!」


英治は慌てて窓を閉めた。

* * * * * * * * * *

「本当にすみません … 」

ふたりは、部屋中に散らばった原稿を拾い集めた。

「何枚ありました?」

「こちら10枚です」

「 … どうしよう、一枚足りません!」

「大変だ … 」


辺りを血眼になって探すふたり。

「て … あんなところに!」

はなが指さす先、天井の梁に原稿用紙が一枚貼りついていた。

飛ぼうが跳ねようが、はなの身長ではとても届かない。

英治は手を伸ばし、軽く飛び上がって原稿用紙をつかみ取った。

「ありました ~ 17頁」

ホッとしたふたりは微笑みあった。

* * * * * * * * * *

ふたたび、はなと英治の目が合った。

お互いに顔が強張る。

はなは胸に手をあてて、背を向けてしまった。

「ああ、もう嫌になっちゃう … 」

「 … すみません、僕が窓なんか開けなければ」


英治は自分が責められたと思って頭を下げた。

「いいえ、違うんです」

はなは否定すると、何とか呼吸を整えて、話しはじめた。

「 … 私のこと、誰よりも分かってくれる友達に、心の … 心の中を読まれてしまったんです。

私の中にはずっと … ずっと … ある男の人がいるって。

そんなはずない、絶対に違うって打ち消そうとしたんですけど … 」

「確かに、そう言うことって … 」


英治にとってもドミンゴでの蓮子の言葉がそうだった。

「どうやら、私の知らないうちにその人は … 私の心臓の中まで入り込んでしまったみたいで …

私の心臓は、パルピテーションの嵐です!」


* * * * * * * * * *

「 … あなたのせいで」

はなは振り向いて英治を見た。

「好きです!」

英治は言葉を失って立ちすくんでいた。

どう見ても、はなの言葉を受け入れたような表情ではない。

困惑している顔だ。

はなは、ハッとして我に返った。

「て … ごめんなさい!」

慌てて頭を下げた。

「私、どうかしてますよね?

… ごめんなさい!」


土砂降りの中へ逃げるように飛び出して行った。

* * * * * * * * * *

はなは傘もささず、ずぶ濡れになりながら家路を急いだ。

「花子さん!」

英治が追いかけてきた。

はなは一瞬足を止めたが、振り向くこともせず早足で歩き出した。

英治も雨に濡れながら、はなを追い越し前にはだかった。

はなは英治の顔が見れずにうつむいてしまった。

「 … 本当にごめんなさい」

「もう謝らないでください」


英治は手にしていた傘を開いて、はなにさしかけた。

「謝らなければいけないのは僕の方です」

「 … 村岡さんは何も」


はなは首を横に振った。

「花子さん … 」

はなはゆっくりと顔を上げて英治を見つめた。

その瞬間、英治の手から傘が落ちて … その手がはなのことを抱きしめた。

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月20日 (金) | 編集 |
第71話

「ここは、あなたのようなブルジョアの来るところじゃない。

女給にたっぷりチップをはずんでから … お帰り下さい」


蓮子は龍一の言い分は無視して、かよにカップを下げるよう指示した。

「セイロンティーがないなら、シャンペンをいただくわ」

「 … しゃ、しゃんぺん?」

「ないの?

じゃあ、ブランデーを」

「分かんない女だな ~ あんたの飲むものはここにはないんだよ!

帰った、帰った!」


苛立ち、声を荒げた龍一に怯むこともなく、蓮子はきっぱりと言い切った。

「帰りません、絶対に!

… 私は世界で一番大切な友達とここで会うんです」


その気迫に勝負は決まった。

かよは蓮子の正々堂々とした態度に感動していた。

はなから聞いた通りの素敵な女性だった。

* * * * * * * * * *

須藤が口を滑らせたひと言で、満代ははなの『逢引』に興味を示した。

「さあ、早く ~ あなたの恋愛の話を聞かせてちょうだい」

そもそも相手は女性だし、『逢引』でさえないのだ。

しかし、はなは説明する時間さえ惜しかった … とにかく、一秒でも早く蓮子の元へ飛んで行きたかった。

「申し訳ありません!

完全に経験不足でお話しできることは、ひとつもございません … 失礼します!」


そう詫びると、後のことは考えず、社を飛び出して行った。

「蓮様 … 」

< はなと蓮子は無事に再会を果たすことができるのでしょうか? >

* * * * * * * * * *

ドミンゴに駆けつけたはなを、かよが怒ったような顔で迎えた。

「蓮様は?」

かよは首を横に振った。

「蓮様!」

店を見渡しても、蓮子の姿は見当たらなかった。

「お姉やん、何時だと思ってるで?」

はなはかよが指さした時計に目をやった … 7時20分、約束の時間を1時間以上も過ぎていた。

「 … 帰っちまったの?

1時間も待ちぼうけさせちまったから」

「ほうだよ ~ 」


はなは今にも泣きだしそうだ。

「せっかく10年ぶりに会えると思ったのに … 」

何故、あと5分早く、社を出なかったのだろう。

そうすれば、満代に会うこともなく約束の時間に間に合ったのに … 後悔してもしきれないはなだった。

* * * * * * * * * *

「 … はなちゃん」

空耳ではなかった。

かよの後ろに立っていたのは蓮子だった。

遅れてくるはなを驚かせようと、かよと一緒にひと芝居うったのだ。

「帰る訳ないでしょ!」

「蓮様?!」


蓮子は、両手を広げて、お約束の挨拶をしてみせた。

「お久しぶり、はなちゃん」

「蓮様、遅くなってごめんなさい、待っててくれたのね!」


はなは蓮子に駆け寄った。

「はなちゃん!」

「蓮様、会いたかった!」

「私も!!」


ふたりは互いの手を取り合って喜んだ。。

* * * * * * * * * *

席に着くと、蓮子が用意されたあったグラスにブドウ酒を注いだ。

「まずは乾杯しましょう」

「 … ブドウ酒?!」

「覚えてる? あの事件」

「忘れたくても、忘れられないわ … 私、あれから自分にブドウ酒禁止令を出したのよ」

「はなちゃんには苦い思い出かも知れないけど、私にとっては大切な大切な思い出なの」


蓮子は、遠い目をして言った。

「蓮様 … 」

「はなちゃんを待ってる間に次から次へと、あの頃のことが頭に浮かんだの。

もう、何もかも懐かしくて … どうしても、ブドウ酒で乾杯したくなったの」


はなには蓮子のそんな気持がよく理解できた。

「10年ぶりの再会に … 」

「そして … 腹心の友に」


ふたりは声を合わせてグラスを掲げた。

「乾杯!」

* * * * * * * * * *

「何だが、本当に夢みたい。

私この10年間ず~っと、毎日のように想像のツバサを広げて、蓮様とこうして再会する日を夢見ていたのよ」

「まあ、うれしい!」

「何かを楽しみに待つということが、そのうれしいことの半分に当たるのよ」

「素敵な言葉ね ~ はなちゃん、ちっとも変わらないわ」

「蓮様も … すっかり素敵な奥様ね」


その言葉に蓮子は微かな憂いをみせた。

「お金がいくらあっても、生甲斐のない暮らしは空しいわ」

まるで今の蓮子がそうであるかのように、はなには聞こえた。

「はなちゃんと寄宿舎で過ごしたあの半年間だけが、私にとっては宝物のような時間なの。

どんな宝石の輝きにも負けないわ」

「蓮様 … 」


はなとって、うれしいことだが、先ほどの言葉が少しだけ心に引っかかった。

「今夜はあの輝きを取り戻すわ」

蓮子はもう一度、グラスを掲げた。

「ええ!」

* * * * * * * * * *

しばらくすると、村岡兄弟がドミンゴへやって来た。

「いらっしゃいませ」

かよが出迎えると、郁弥がどこで摘んできたのか、小さく可憐な勿忘草の花を一輪、差し出した。

「これ、かよさんに … この花、かよさんみたいでしょ?」

「 … 私、チップの方がうれしいんですけど」


そんあ言葉も郁弥は気にせず、微笑みながら、かよの髪に花を飾った。

「よく似合います」

「て … 」


かよは戸惑い、頬を染めた。

* * * * * * * * * *

「お姉やん、村岡さんよ」

積もる話に花を咲かしているふたりのテーブルに、かよが英治を案内してきた。

「 … はなちゃん、こちらは?」

はなは蓮子に英治を、そして英治に蓮子を紹介した。

「『逢引』ってこういうことだったんですね」

まさか英治はその確認に来た訳ではあるまい …

「あれは編集長たちが勝手に言っていたことで、私は『逢引』なんてひと言も言ってませんから!」

「そうですか?」

「そうですよ!」


懸命に弁解するはな、英治はどことなく機嫌がいい。

蓮子はそんなふたりのやり取りをまじまじと見つめた。

「あれ、ブドウ酒には嫌な思い出があったんじゃないですか?」

テーブルの上のグラスにブドウ酒が注がれていることに気がついた。

「 … 今日はいいんです」

「まあ、腹心の友との再会なら、思う存分飲んでください。

何なら、またおぶって行きますから」

「はなちゃん、相変わらず酒癖が悪いの?」


蓮子はからかい気味に訊いた。

「もう ~ 蓮様まで!」

「もしかして、もう酔っぱらってるんですか?」

「まだ酔ってません!

あ ~ もう、本当にお構いなく」


英治が現れてから、何だか調子が狂ったみたいだ。

「 … あっ、私、郁弥さんに本のお礼を言わなくっちゃ!」

はなは一時席を外して、郁弥が座っているカウンター席へと足を向けた。

「ちょっと、お座りにならない?」

何か意図がありそうな … 蓮子は英治に座るように促した。

* * * * * * * * * *

「郁弥さん、先日は貴重な原書をありがとうございました。

夢中になって、ひと晩で読んじゃいました」


翻訳して新しい雑誌に載せられるように働きかけていることも伝えた。

「 … あれは、兄です。

兄から、あなたの気に入りそうな本を贈りたいと言われたんです」

「えっ?」

「あなたに英語への情熱を取り戻して欲しいって」


はなが振り返ると、英治は、蓮子と楽しそうに談笑していた。

「今日も何冊か持ってきたんです」

郁弥は人懐っこい笑顔を見せると、鞄から英国の本を数冊取り出して、カウンターの上に置いた。

「わあ … 読んでもいいですか?」

はなは目を輝かせながら尋ねた。

「どうぞ」

はなは郁弥の隣りに腰かけると、待ちきれないように頁をめくりはじめた。

* * * * * * * * * *

蓮子と英治は、はなの様子をテーブル席から微笑みながら見ていた。

「はなちゃん、ちっとも変わってないわ」

蓮子は、はなを見つめる英治の目がとても優しいことに気づいていた。

「村岡さんは、はなちゃんのことが好きなのね?」

英治は驚いて蓮子を見た。

「花子さんを?

… そんな?!」


英治は戸惑いの微笑みをみせた。

「はなちゃんは、ずっと花子って呼ばれたがっていたんです。

あなたのような人が現れて、よかったですね」


すると、英治は真顔になった。

「いえ、そんなことは断じてありません!」

そう言いながらも、動揺しているのは明らかだった。

「どうして、断じてなんておっしゃるの?」

蓮子は照れているぐらいにしか思わなかったのだが、英治の真剣なまなざしを見るとそうでもなさそうだ。

「だって、僕は … 」

* * * * * * * * * *

「て ~ お姉やん、だめえ!!」

かよの叫び声に皆の視線がカウンター席のはなに集まった。

はなが自分のグラスにブドウ酒を注いでいる。

「それ三杯目だから、だめ!」

「はなちゃん、三杯目はいけません!」


蓮子もカウンターにやって来て、はなを止めた。

「三杯目はだめだと、おふたりは言ってます」

郁弥にまで諌められた。

不満そうな顔をしていたはなだったが、さも愉快そうに笑いはじめた。

「皆そこまで必死に止めることないじゃん!」

「だめずら!」

「はなちゃん、いけません!」


はなの手からグラスを取り上げようとする3人、抵抗して離そうとしないはな。

「大丈夫、大丈夫 ~ 」

そんなはなを見つめる英治といえば … 蓮子に言われて気づいた自分の気持ちにひどく困惑していた。

一体、どんな言葉を飲み込んだのだろうか?

* * * * * * * * * *

かよが目を覚ますと、蓮子はすでに着替えを済ませて帰り支度を終えていた。

昨夜、彼女もこの長屋に泊まって3人で布団を並べて眠ったのだ。

「おはようございます」

「かよさん、おはよう」


はなは、かよが体を揺すっても一向に起きようとしない。

「姉は毎日遅くまで、英語の本を読んでるから … いつも朝寝坊なんです」

かよが申し訳なさそうに机の上の英英辞典を指さした。

それは蓮子にも見覚えがあった。

「 … 秀和女学校の頃、寄宿舎に送られてきたの」

「お姉やん、ずっと大切にしてるんです」

「どなたの贈り物?」

「村岡さんです」

「昨夜のあの大きい方?」

「はい、大きいお兄さんの方からもらったそうです」


それを聞いて、蓮子は頭の中で点と線がつながった気がした。

「そうだったの … 」

はなの寝顔を見て、自然に笑みがこぼれた。

* * * * * * * * * *

「奥様 ~ 蓮子様 ~ 」

その時、外で男の呼ぶ声がして、蓮子の顔が急に強張った。

「て、どうしたで?!」

はなが飛び起きた。

「がっかりだわ … もう迎えが来てしまったようね」

ふて腐れたような顔をしてソッポを向いてしまった。

* * * * * * * * * *

「て、人力車 … 」

はなとかよが外に出てみると、長屋の前の通りに蓮子を迎えに来た使いの者と、人力車が待っていた。

* * * * * * * * * *

ふたりが外に居る間に蓮子は、便箋に慌ただしく何かをしたため、それを折りたたんで英英辞典の間に挟んだ。

* * * * * * * * * *

「かよさん、お世話になりました」

「いえ、また来てくれっちゃ」

「はなちゃん、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうわね」


名残惜しそうにはなの顔を見た。

「蓮様、今度はいつ会えるかしら?」

「 … 主人の許可が出たらね」


そう答えることしかできない蓮子だった。

「奥様 … 」

野暮な使いの者が蓮子を急がせた。

「 … ごきげんよう、はなちゃん」

「ごきげんよう、蓮様」


はなから鞄を受け取った蓮子は、突然はなの手を握りしめた。

「素敵な恋をしているはなちゃんがうらやましいわ」

そう言って笑うと、人力車に揺られて去って行った。

自分自身は『恋』にはまったく身に覚えなどないはなだった。

< 続きはまた明日 … ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月19日 (木) | 編集 |
第70話

「もしもし、はなちゃん ~ 私よ!

ごきげんよう!」


受話器から聞こえてくるのは、紛れもなく蓮子の声だった。

「てっ?!

蓮様???」


あの遠い日に別れて以来、10年ぶりの声の再会だった。

「お仕事中、ごめんなさい。

いつぞやは、ご本とお手紙ありがとう。

… 東京での生活はどう、もう落ち着いた?」

「ええ、何とか ~

蓮様はお元気ですか?」

「はなちゃんと話て元気が出たわ」


言葉を交わした瞬間、ふたりの間にあったはずの別れた時のつらい記憶も、わだかまりも、あとかたもなくすっかり消えていた。

「あのね、私 … 東京へ行くことになったの」

「本当に?」

「東京にいる間に是非会いたいわ」

「私も ~ 是非是非!」


はなは会社にいることも忘れてはしゃいでいた。

「じゃあ近くなったら、またお報せするわね」

「ああ、もう今から楽しみで眠れそうにないわ ~ 」


ふたりはお互いに電話の前で「ごきげんよう」とポーズを取り、受話器を置いた。

* * * * * * * * * *

そんな蓮子の様子を伝助は偶然目にしていた。

「ごきげんようか … 」

伝助の声に蓮子は振り向いた。

「お前のそげなごきげんさんな声は久しぶりに聞いたばい」

穏やかな顔で見ている … やはり、妻が機嫌がいいと悪い気はしないのだろう。

しかし、蓮子はぎこちなく会釈しただけだった。

* * * * * * * * * *

一方、はなは … うれしさを隠せずに、今にも踊り出しそうなどうしようもない心地だった。

電話機を見て、蓮子との会話を思い出してはニヤニヤしている。

傍から見ていると、少し危ない人に見えないこともない。

状況を理解している亜矢子は微笑んで見ているが、梶原はどうしたものかと困惑顔だ。

< なんと10年ぶりに、腹心の友と再会できるのです >

* * * * * * * * * *

「お待ちしてたんですよ」

いつものように嘉納の屋敷に呼び出された黒沢は、今日の蓮子がずこぶる機嫌がいいことに気づいていた。

「何かいいことがあったんですね」

「あら、お分かりになって?」

「ずっと塞ぎ込んでいたから心配していたんですよ … どんないいことがあったんですか?」


蓮子は思わせぶりに笑っているだけだ。

* * * * * * * * * *

「誰かしゃんは二度も婚礼ば経験しちょるとに、ちったあ嫁入支度の手伝いばしちゃってもよかろうにね」

ふたりが廊下を歩いていくと、そんなタミの声が聞こえてきた。

冬子と例の銀行の頭取の御曹司との縁談がまとまったのだが、一切関わろうとしない蓮子に代わってタミをはじめとする女中たちが婚礼の準備に追われていた。

「 … お母様は、この結婚にずっと反対なさっちょるき」

祝言の衣装合わせをしながら、冬子があきらめたようにつぶやいた。

「あら、奥様おんしゃったとですか?」

部屋の前で足を止めていた蓮子を見て、タミがしらじらしく頭を下げてみせた。

「黒沢さん、参りましょう」

蓮子は一瞥しただけで、黒沢を促しその場を立ち去った。

「冬子さんの嫁入支度、女中さんたちに任せきりのようですが、よろしいのですか?」

「 … 私も冬子さんぐらいの時、嫌々結婚させられたことを思い出して、どうしても祝福できないのよ」


冬子が幸せそうなら、話はまた別だったが、蓮子の目にはそう映らなかった。

父親に逆らえず、嫁いでいかなければならない冬子が不憫だった。

限りなく政略結婚の匂いを嗅ぎ取ってしまって、昔の自分に重ねてしまうのだ。

* * * * * * * * * *

「さあ、ご覧になって … 」

黒沢が蓮子の後についてサロンに足を踏み入れると、テーブルに上等なネクタイがずらりと並んでいた。

業者を呼びつけてわざわざ持って来させたのだ。

「気分がいいから、黒沢さんに贈り物をしたいの … どれでもお好きなものを選んでね」

社の規則を口実に黒沢が遠慮すると、蓮子はなげやりに笑いながら言った。

「私、じゃぶじゃぶお金を使うことに決めたの。

… 新興成金の妻らしくね」

「湯水のようにお金を使っても、あなたの心の空洞は埋まりませんよ」


蓮子は表情を一瞬曇らせたが、すぐに元の調子で黒沢に訊いた。

「それじゃあ、東京のおみやげは何を買ってきたらいいかしら?

10年ぶりに東京へ帰れるのよ ~ この幸せを誰かと分かち合いたいの」


高揚する気持ちを抑えきれずにいる蓮子のことを黒沢は不安げに見た。

「 … 心配です。

あなたはまるでここから逃げ出そうとしているように見える。

この10年の生活をすべて壊して … 」

「大げさね ~ 東京で私に許された時間は、たったひと晩。

腹心の友に会って、他愛ないおしゃべりをして … それだけよ」


改めて自分が置かれた立場を思い知ったのか、寂しく笑った。

「私には、ここ以外に戻れる場所なんて … 何処にもないんですもの」

* * * * * * * * * *

「 … 先生、是非とも考えてみてください、お願いします!」

性懲りもなく、ドミンゴまで執筆依頼にやってくるはなのことを、満代はいい加減うんざりしていた。

「じゃあ、私の代わりによその連載小説の続き書いてくれる?」

「承知しました!

そうしたら、うちにも原稿書いてくださるんですよね?!」


この手の冗談ははなには通じないのだ。

はなに満代の代わりが務まる道理がなかった。

「安請け合いしないでよ … 逢引もしたことないあなたに恋愛小説が書けるわけないでしょ!」

満代は声を荒げると、原稿をまとめて出口に向かった。

「梶原さんにツケといて」

またもや、そう言いつけて店から出て行ってしまった。

あまりの剣幕に件の紳士が目を丸くしながらつぶやいた。

「 … 今日もせっかくのコーヒーがまずい」

かよは恐縮して詫びた。

あれ以来、ずっとこんな調子なのだ。

それでも、何故だかこの紳士は懲りずに店にやって来る。

はなと目が合うと微笑んで返した。

はなは申し訳なさそうに会釈するだけだった。

* * * * * * * * * *

満代への執筆依頼は行き詰っていたはなだったが、『王子と乞食』の翻訳作業は順調だった。

はなにとって英英辞典は、分からない単語の意味を即座に教えてくれる頼もしい『相棒』に間違いなかった。

長屋での作業はおもしろいように捗っていった。

< そして、待ちに待った再会の日がやって参りました >

* * * * * * * * * *

その朝、はなはいつもより早起きして、普段はほとんど気にしない髪型を合わせ鏡までして入念に確認していた。

珍しくおしゃれに櫛までさしている。

「ねえ、この櫛おかしくねえ?」

「お姉やん、ほれ訊くの何回目でえ?」


かよはそんな姉のことを面白そうに眺めていた。

『腹心の友』というより、『恋人』に会いにいくみたいだと思った。

「大丈夫、こぴっと決まってるじゃん」

「そう? … よし!」


かよに太鼓判を押されて、はなはニッコリ笑った。

「夕方、あのカフェーで待ち合わせしてるから、かよにも蓮様を紹介するね」

以前、蓮子が甲府を訪れた時、かよは製糸工場に奉公に出ていたので、初対面になるのだ。

「本当に素敵な方なのよ」

かよは、はなが蓮子のことを話しだしたら、ちょっとやそっとでは終わらないことを知っていた。

「お姉やん、会社遅れるよ」

「あっ … ほれじゃあ、行ってきます!」


はなは慌てて出かけていった。

* * * * * * * * * *

「なんか安東さん、いつもと違って見えますね」

印刷原稿を受け取りに聡文堂に顔を出した英治が須藤に尋ねた。

「飾りじゃない?」

須藤は手で自分の頭の上に櫛の形を作ってみせた。

「ああ、なるほど ~ 」

「今日、大切な人に会うらしいよ」

「へ ~ 」


英治は気になるのか、はなを見つめた。

「 … はなさん、待ち合わせ6時よね?」

校正に集中していたはなは、亜矢子に言われて柱の時計に目をやった。

すでに6時10分前を指している。

「編集長、今日はお先に失礼してもよろしいでしょうか?」

「ああ、待ちにまった『逢引』の日か?」

「『逢引』だなんて、そんな … 」


『逢引』という言葉に反応したのは英治だった。

「おふたりで積もる話もあるでしょうから、私はお邪魔しませんから」

「醍醐さんまで … 」


何も知らない英治が、はなのその態度を見て、恋人に会いに行くものと勘違いしても仕方ないことだった。

それほど、はなはいつになく浮ついてみえた。

* * * * * * * * * *

ちょうどその頃、蓮子はひと足早くドミンゴに到着していた。

「いらっしゃいませ … おひとり様ですか?」

「待ち合わせです。

もうひとり後から来ます」


生憎、かよは蓮子の顔を知らず、蓮子もかよのことは知らなかった。

「ご注文は?」

「ああ、紅茶を … セイロンティーにしてちょうだい」


蓮子の注文は、かよが聞いたことのない飲み物だった。

「 … かしこまりました」

取りあえず受けたが、他の定員にも知っている者がいない。

困ったかよは、学生ならば分かるかもしれないと、例の演劇かぶれの一団に尋ねてみた。

「 … あの、『せいろんてえ』って誰か知ってます?」

「正論亭?」

「誰がそんなもん頼んだんだ?」


以前かよに身の上を訊いてきたことがある青年 … 宮本龍一が怪訝な顔をした。

「あのお客様が … 」

かよに言われ、龍一は蓮子のことを見た。

いかにも高価な着物に身を包み、鏡を見ながらおくれ毛を整えている蓮子を見て、龍一は吐き捨てるように言った。

「ブルジョワか … 」

店の時計は6時5分前を指していた。

* * * * * * * * * *

「では、皆さん、今日はお先に失礼します … ごきげんよう」

「蓮子様によろしくね」


亜矢子の言葉にうなずき、はなが慌ただしく部屋を出ようとした時、一瞬早くドアが開いて … そこには、宇田川満代が立っていた。

「 … 邪魔」

邪険に言って、はなを避けさせると、ずかずかと部屋に入ってきた。

「宇田川先生!」

「さあ、どうぞどうぞ、こちらへ!」


男性職員が総出で彼女を歓迎している。

… はなは帰るに帰れなくなってしまった。

* * * * * * * * * *

「先生の方から来ていただけるなんて思いませんでした」

梶原の言葉通り、突然の訪問だった。

「 … 連載の件、考えていただけましたか?」

「いいえ、苦情を言いにきたんです。

この『みみずの女王』にしつこくされて … 本当に迷惑してるんです」

「それは、大変失礼しました」


応接席で向かい合っている梶原と須藤だけでなく、傍らに控えているすべての職員が満代に向かって頭を下げた。

「申し訳ありません」

もちろん、はなも …

「ですが、安東は、それだけ先生に書いていただきたいんです。

彼女だけじゃありません … 社員一同、新しい雑誌には是非とも先生に書いていただきたいと、心から思ってるんです」

「梶原さんたちには賞をいただいたご恩もあるし、そこまで熱心に誘ってくださるなら、こちらも書きたいのはやまやまなんだけど …

今、よその恋愛小説に煮詰まってて、それが終わらないとこちらの連載まで手が回らないの」


* * * * * * * * * *

「私たちでよければ、いくらでも題材をご提供いたしますわ … その代わり、うちの雑誌に書いていただけませんか?」

「面白い恋愛の話を提供してくれるなら考えてもいいわ」


亜矢子の必死な提案に満代が少しだけ歩み寄りをみせた。

はなは気が気ではなかった。

蓮子と約束した6時はとっくに過ぎていたが、担当の自分がこの場をあとにする訳にはいかない。

「ちょっと、どこ見てるのよ?」

満代は目ざとく、はなの態度を咎めた。

「 … すみません!」

「まあ、この人は経験不足だから使えないわね」


端から見下している。

「そんなことありません。

安東は今夜、逢引の約束があるんです」


余計なことを須藤が口走ってしまった。

梶原が制したが、後の祭りだ。

「へえ ~ 」

「いえ、その … 」


刺さるような満代の視線を感じて、はなは言葉に詰まってしまった。

* * * * * * * * * *

時間はすでに6時半になろうとしていた。

「 … はなちゃん、お仕事忙しいのかしら?」

一向に現れないはな、限られた時間しか与えられていない蓮子は、少し焦り始めていた。

「大変お待たせしました」

そこへ、かよがようやく注文した紅茶を運んできた。

カップに口をつけた蓮子の顔色が変わった。

「これは、セイロンティーとはまったく違う飲み物ね」

「 … そうですか?」

「香りも味もまるで違います」


険しい顔でかよを責めた。

蓮子は確かめるようにもうひと口だけ口をつけると、顔をしかめた。

「 … コーヒーを水で薄めたもののようだけれど?」

「そんなはずは … 」


かよには何が何だか分からない。

「ここには気取った紅茶なんかありません」

いつの間にか宮本龍一が蓮子の席の前に立っていた。

「 … 新興成金の奥方には、わざと不味いコーヒーでも飲ませて追っ払えと、僕が言ったんですよ」

敵意を込めた目で蓮子をにらみつけた。

「私のことをご存じのようね?」

蓮子も決して負けてはいない … 毅然と龍一をにらみ返した。

「筑豊の石炭王、嘉納伝助夫人、蓮子さんでしょう?」

「てっ、この人が蓮子さん」


かよは驚いた。

改めて見れば、はなが言ってる通りの美しい女性だった。

「 … それで私に何かご用ですか?」

涼しげな笑みをたたえて、蓮子は龍一に訊ねた。

< はなが約束の時間に遅れなければ、このふたりは出会うこともなかったのに …

ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月18日 (水) | 編集 |
第69話

「花子さん … よかったら、今夜歓迎会やり直しませんか?」

< 生まれて初めての逢引のお誘いに心拍数があがるはなでしたが … >

その日は一日中そわそわして仕事が手につかず、時計ばかりが気になっていた。

約束の時間が近づいた頃、亜矢子が話しかけてきた。

「はなさん、今日村岡さんと歓迎会やり直すんですって?」

何故か、亜矢子が逢引のことを知っていた。

「三田さんから聞いたの」

三田は知らん顔をしている … この男、結構食わせ者かも知れない。

「私もご一緒してよろしくて?」

いくら友達だといっても、逢引に連れて行くのは変じゃないだろうか?

一瞬、言葉に詰まったはなだったが …

「 … ええ、もちろん」

「本当に?!」


亜矢子の勢いに負けて思わずうなずいてしまった。

* * * * * * * * * *

英治と約束したのは『カフェー・ドミンゴ』、上京して数日しか経っていないはなだったが、すでに常連のように顔を出している。

「ちょっと早く来過ぎたわね」

亜矢子に急かされて、ふたりは指定された時間よりも大分早く店を訪れていた。

「 … あのね、はなさん、私好きになっちゃったみたいなの」

「えっ?!」


亜矢子は唐突に口を開いたが、はなには話が見えない。

「よく当たる占い師さんに診てもらったの … それによると、私の運命の人は以前から知っていて、最近急に身近になった男性なんですって。

それなら、あの方しかいないわ」

「あの方って?」


恋愛に鈍感なはなに、それだけでは分かる筈もなかった。

「 … 村岡英治さんよ」

「て ~ 村岡印刷さん?!」


亜矢子は小声でそっとささやいたのに、驚いたはなは大声をあげてしまった。

「新しい雑誌の打ち合わせで、最近会う機会が増えたし、村岡さんなら編集者の仕事にも理解があるし … 結婚したら、とても上手くいくと思うの」

「 … そんな先のことまで考えてるの?」


いつもながら、亜矢子の恋愛話は、はなの想定の範囲をはるかに超えていた。

「はなさん、応援してくださるわよね?」

亜矢子は、はなの手を取って、訴えるような目で見つめてきた。

返答に困って曖昧に微笑んでいると、店のドアが開いて英治が入ってきた。

* * * * * * * * * *

「いらっしゃいませ」

出迎えるかよ。

「昨夜は姉が失礼しました」

「いえ … 今日は弟を連れてきました」


後から入ってきたのは、英治の弟、村岡郁弥だ。

「兄さんの会わせたい女性って …

はじめまして、お目にかかれてうれしいです」


郁弥は、かよに近づくとその手を取った。

「てっ?!」

思わず手を引っ込めるかよ。

「 … やめてくれちゃあ」

その恥じらう仕草が郁弥にはひどく新鮮に感じた。

「てっ … やめてくれちゃあ … 何て、不思議な響きだ …

Amazing!」


英治が慌てて、ふたりの間に割って入って、かよに詫びた。

「かよさん、すみません … 驚かれたでしょう?

弟はイギリスから帰国したばかりでいろいろ変なんです」

「かよさんとおっしゃるんですか?」

「 … 郁弥、お前に会わせたいのは、かよさんのお姉さんの方だよ」


* * * * * * * * * *

はなと亜矢子は席を立って、英治たちを待っていた。

「村岡さん、ごきげんよう」

亜矢子はいち早く英治のことを笑顔で出迎えた。

「醍醐さんも来られたんですね」

「 … ご迷惑でしたか?」

「いえいえ、大勢の方が楽しいですよ」


英治はまったく気にする様子もなく、楽しそうにニコニコ笑っている。

< な~んだ、はじめから逢引じゃなかったみたいですね >

はなは肩透かしを食った気分だったが、考えてみれば『逢引』だと言っていたのは、あの三田だけだった。

* * * * * * * * * *

今宵、はなはアルコール類は口にせず、食事を楽しみ、歓迎会は穏やかに進んだ。

郁弥の英国帰りが話題になり、亜矢子も以前両親がしばらくロンドンに居たことがあると話した。

「郁弥さんは、留学でロンドンへ?」

はなが尋ねた。

「はい、最新の印刷術を勉強に」

「英語は少しはしゃべれるようになったのか?」


英治に突っ込まれた郁弥は、まるでそれが合図だったかのように突然、はなに英語で話しかけてきた。

「(今日はお目にかかれてうれしいです)」

何年かぶりの英語に一瞬怯んだはなだったが、自然と受け答えが口から出てきた。

「ああ … (こちらこそ)」

「(あなたのことは、兄から色々うかがっています)」

「 … (どんなうわさか、少し心配です)」

「英語が堪能で翻訳の才能が素晴らしいと … 」

「そうなんだよ ~ 彼女の翻訳はバカが読んでも分かる」


得意げに言った英治に、はなは頬を膨らませた。

「また、バカって?!」

「兄さんは褒めてるつもりでも、その言い方じゃ誤解されるよ」


郁弥は眉をひそめて、兄のことを咎めた。

* * * * * * * * * *

「村岡さんって本当に面白い方ですわ」

亜矢子の言葉に村岡兄弟は顔を見合わせた。

「あっ、おふたりとも村岡さんでややこしいですわね … 英治さんとお呼びしてもよろしくて?」

「どうぞ」


亜矢子の思惑を知っているのは、はなだけだ。

* * * * * * * * * *

「(安東さんは、どんな小説がお好きですか?)」

郁弥はゲームを楽しむように英会話を続けてきた。

「(大人から子供まで楽しめて、夢のある小説です)」

ちょうど料理を運んできたかよが目を丸くした。

「てっ?!

お姉やんが英語しゃべってるの初めて聞きました」


すると、英治がやけにうれしそうに言った。

「弟を連れてきた甲斐がありました。

ずっと英語から離れていたとうかがったので、思い出して欲しくて」

「え?!」

「英治さんってお優しいのね」


亜矢子に言われ、英治は少し照れをみせた。

英治の本意を知ったはなは、自分が抱いていた印象とはかけ離れていて、何だか意外な気持ちだった。

* * * * * * * * * *

「お姉やん、英語もっとこぴっとしゃべってくれっちゃ」

「こぴっと?!」


郁弥はかよの甲州弁にいちいち反応する。

「 … なんて、mysteriousなんだ?!」

かよは警戒した顔で郁弥を見た。

「あ、かよさん … 」

郁弥は立ち上がって、自分の腕時計を見ながら話し続けた。

「今7時27分ですが … お仕事は何時頃終わりますか?」

「はあ?」

「弟は、ロンドンで買ってきたあの腕時計が自慢なんです」


英治は何かにつけ、時計を人に見せたがる弟にあきれていた。

「お仕事が終わったら、何処かで会えませんか?」

実の姉がいる前で悪びれることもなく妹を誘っている。

「郁弥!」

英治が諌めたが、彼の眼差しは真剣だった。

「ここはそういうカフェーじゃないので、お店の外でお客様と逢引はしません」

かよは見事なほど毅然と拒絶した。

「 … 他にご注文は?」

あえなく撃沈された郁弥。

「なければ、失礼します」

笑顔を見せて仕事に戻って行く、かよ。

はなは我が妹ながら、立派なふるまいに感心するとともに安堵したのだった。

* * * * * * * * * *

席に着いた郁弥は、まるで鼻を折られた天狗のように沈んでしまった。

「そうだ、本持ってきたんだろう?」

場の雰囲気を繕うためか、英治は郁弥に耳打ちした。

「ああ ~ うん」

気を取り直した郁弥は、鞄から取り出した本をはなの前に置いた。

「わあ」

「素敵 ~ 」


女性たちから歓声が上がった … それは豪華な装丁を施された英国の本だった。

「ロンドンの書店で書棚を見ていると、端から端まで日本に持って帰りたくなるんですよ」

少年のように笑った郁弥。

少々お調子者だが、決して嫌な男ではなかった。

「こんなに美しい本が並んでるなんて … 」

『The Prince and Pauper』、日本語にすると『王子と乞食』それがこの本の題名だ。

「 … 読んでもいいですか?」

はなが訊くと、郁弥は当然のようにうなずいた。

喜び勇んだはなは本を手に取り、緑地に金色で装飾された表紙を手で触り、ゆっくりと頁をめくった。

* * * * * * * * * *

はなは瞬く間に物語の世界に入っていった。

そんなはなを英治は微笑んで見ている。

「本、気に入りましたか?」

郁弥の声がはなを現の世界へと呼び戻した。

「あ、ええ … 」

「差し上げますよ」


始めからそのつもりだったのだろう … 何の躊躇もなくそう言った。

「とんでもない、こんな高価なもの!」

「 … 正直、僕の英語力では歯が立たないんです」


事実だろうが、そう言った方がはなももらいやすいという気配りも感じられた。

「あなたのような人に持っててもらった方が本も喜びます」

英治が言った … きっと彼が仕組んだことだろう。

「そうよ、はなさん」

亜矢子にも勧められ、はなはふたりの好意をありがたく受け入れることにした。

「ありがとうございます!」

実際、はなにとって何よりもうれしい贈り物だった。

* * * * * * * * * *

はなは食事することも忘れて、再び本に夢中だった。

そんなはなが突然、首を傾げた。

「あの、どなたか … この単語分かりますか?」

3人は、本を覗き込んで、はなが指さす単語を見た。

「 … はなさんが分からないんじゃ、分かる訳ないわね」

「たしかに … 」


亜矢子の言う通り、誰にも分からない。

「 … 気になる」

もう居てもたってもいられなかった。

「帰ります!」

「えっ?!」


さすがの英治も我が耳を疑った。

「皆さんは、どうぞそのまま、気にせず …

ごめんなさい、ごきげんよう!」


言うが早く、脱兎のごとく店を飛び出して行ってしまった。

呆気にとられる村岡兄弟。

「何が起きたんだ?!」

自分の歓迎会だというのに … 信じられなかった。

つきあいの長い亜矢子だけが可笑しそうに笑っている。

「はなさんは昔から分からない英語の単語があると、ああなるんです」

「きっと英語の辞書を引きに帰ったずら」


子供の頃からまったく変わっていないと、かよも笑っている。

ふたりから理由を聞いた英治は、何故かうれしそうな顔ではなが去ったドアを見つめていた。

* * * * * * * * * *

「perplexity … perplexity … 」

はなは意味が分からなかった単語を念仏のように唱えながら、家へと急いでいた。

履物を脱ぎ捨て、着替えもせずに、辞書を手に取ると机に向かった。

「perplexity … perplexity …

あった!

当惑、混乱 … 難問か ~ ! 」


喉につかえていた異物が取れたようにスッキリとした。

はなは何年かぶりに再会した相棒のように英英辞典を愛おしく撫でた。

忘れてかけていた充実感がよみがえってくるのが分かった。

そして、辞書を脇に置くと、本の続きを読み始めた。

* * * * * * * * * *

次の日、出勤したはなは、すぐさま梶原の元を訪れた。

「編集長、新しい雑誌の企画、募集してましたよね?」

「何か面白いものでもあった?」


はなが取り出して梶原に見せたのは、郁弥からもらった本だった。

「 … これです」

「英文じゃないか、これ?」


訝しげに本をめくっている梶原にはなは提案した。

「それを日本語に訳して、連載にしたらどうでしょうか?」

「翻訳ものか … 」

「はい、私に翻訳させてください」

「えっ?!」


梶原にとってまったく想定外の提案だったようだ。

「日本にいい小説家が大勢いるのに … わざわざ海外のものを取り上げることもないでしょう」

またも三田が口を出した。

新入りの女性社員の提案なんてという先入観を持っているのだろう。

「そうだな … 」

梶原自身もあまり乗り気ではないようだ。

しかし、やる気になったはなはこのくらいで引っ込みはしなかった。

「でしたら、私が翻訳したものを読んで判断なさってください」

「まあ、素敵な本!

編集長、私その本読んでみたいです … 日本語で読めたらいいのにな ~ 」


亜矢子の援護射撃 … すかさず、はなはもうひと押しした。

「編集長、やらせてください!

お願いします!」


はなは頭を下げた。

その必死さに梶原は折れた。

「分かった … そこまで言うなら」

「はい、ありがとうございます!」


* * * * * * * * * *

とはいえ、はなの提案が採用されるかどうかは、翻訳を読んでもらってからのことだ。

はなは自分が与えられた仕事をきちんとこなした上で翻訳する時間を作らなければならなかった。

当然、家に持ち帰って、寝る間も惜しんで翻訳の作業を続けた。

女学校時代、向学館のアルバイトで短い説明文や蓮子に頼まれた詩集などを訳した経験はあるが、この本の様な小説をまるまる翻訳するのは初体験だった。

熱中すると、深夜でも英文を読み上げる声が大きくなっていった。

かよの睡眠を邪魔してはいけない … 

* * * * * * * * * *

満代への執筆依頼もはなに与えられた大事な仕事だった。

はなはドミンゴで仕事する満代の元をあきらめずに日参を続けていた。

「宇田川先生、もう一度だけお話を聞いていただけませんか?」

「あなたの顔、見たくないって言ってるでしょ」

「そうおっしゃらずに、私でできることなら何でもしますから … お願いします」


しかし、けんもほろろ … ただ、はなはもう肩を落として帰るようなことはしなかった。

すべてを前向きに受け止めて、社へも軽やかな足取りで戻って行った。

はなと入れ違いにドミンゴにやって来た英治が、そんな様子を微笑んで見つめていた。

* * * * * * * * * *

「 … 戻りました」

はなからの報告を受けた梶原と亜矢子が軽く落胆の表情を見せた。

その時、電話が鳴り、傍にいたはなが受話器を取った。

「もしもし、聡文堂でございます」

受話器の向こうの交換手が福岡からの電話だということを告げて相手につないだ。

「そちらに安東はなさんはいらっしゃいますか?」

電話の主は女性だ。

受話器を通しているので、確かではないが落ち着いた口調はどこか聞き覚えのある気がした。

「 … 安東は私ですが、どちらさまでしょうか?」

電話を出たのがはなだと知ると相手は興奮気味に話し出した。

「もしもし、はなちゃん ~ 私よ!

ごきげんよう!」

「てっ?!

蓮様???」


間違いない電話をかけてきたのは蓮子だ。

あの遠い日に別れて以来、声の再会だった。

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月17日 (火) | 編集 |
第68話

歓迎会で酔っぱらってしまったはなを家まで送った英治は、自分が贈った英英辞典が漬物石代わりに使われているのを目にしてしまった。

「 … 英語の翻訳続けてなかったんですか?」

それは、はなにとって耳の痛い言葉だった。

「村岡さんって、田舎に住んだことなんかねえでしょ?」

はなは反対に英治に訊き返した。

酔いのせいか、少しろれつが回っていない。

「ええ」

「やっぱしねえ ~

おら、甲府に6年も引っ込んでいたですよ。

英語の本なんて一冊もねえ、英語を話す人なんてひとりもいねえ … 英語なんて、うんとこさ遠い世界の話じゃん」


英治は困惑顔で尋ねた。

「英語からはまったく離れてたんですか?」

「たまに生徒たちと遊びで使ってましたけんど …

グッドモーニング、グッドアフタヌーン、グッドイブニング」


吉平から教わった身振り手振りを使った挨拶をしてみせた。

「うちのお父も言ってました。

英語なんて、これさえ覚えときゃ何とかなるって」


はなはおどけて、さも可笑しそうに笑ったが、英治はにこりともしない。

「何そんな怖い顔して ~ 」

「あなたには、翻訳の才能があるのに … 残念です」


その口調は明らかに失望していた。

「ああ、あともうひとつ思い出した … Go to bed!

バイ、バ~イ」


はなは再び板の間に大の字に引っくり返って、辞書を枕に寝てしまった。

* * * * * * * * * *

次の朝、はなは、その板の間で目を覚ました。

寝入ってしまったはなを寝床まで運ぶことができず、掛布団だけかけておいたのだ。

起き上がろうとしたが、頭がガンガンする。

「痛たた … 」

かまどの火を起こしていたかよが、はなが起きたことに気づいた。

「二日酔いずら?」

「おら、昨日歓迎会からどうやって帰ってきたずら?」

「何にも覚えてないだけ?」


まったく覚えていなかった。

「村岡さんが、お姉やんおんぶして、うちまで送ってくれたじゃん」

「てっ、村岡さんって、あの村岡印刷さん?」

「ここで管巻いたのも覚えてないだけ?」

「くだまいたあ?」

「英語なんて、遠い世界の話 … とか言って、村岡さんに絡んでたじゃん」

「て?!」


はなの頭痛は一層ひどくなった。

「お姉やんがこんなに酒癖悪いとは知らなんだ … 」

それは、はな本人も知らなかったことだ。

* * * * * * * * * *

「大切な英語の辞書、漬物石なんかにしてごめんね」

かよに言われて、はなは自分が枕にしていたのが英英辞典だったことに初めて気づいた。

「これ、村岡さんにもらっただけ?」

「うん、昔出版社で働いてた時 … でも今、使う機会もないし … 」

「村岡さん、何だか悲しそうだったじゃん」


記憶のどこかに残っていたのだろう … その時、はなにも英治の悲しそうな顔が見えた気がした。

* * * * * * * * * *

反省しきりで出社したはなは、早速梶原に昨夜の失態を詫びた。

「昨日はせっかく歓迎会を開いていただいたのに、ご迷惑をおかけしてしまって … 申し訳ありませんでした」

「いやいや、無理やり飲ました僕たちも悪かったよ」


梶原は笑ってすましたが、三田のように嫌味を言う者もいた。

「新人のくせに調子に乗り過ぎだよ」

「 … そういえば、村岡さんもお呼びしたのにいらっしゃらなかったですね」

亜矢子が残念そうに言った。

「急ぎの仕事でも入ったんだろう」

英治に家まで送ってもらいながら管を巻いて帰してしまったことを、この場でとても口にすることはできなかった。

「 … ああ、もう合す顔ねえ ~ 消えちまいてえ。

いや、こぴっと謝らんきゃ」


* * * * * * * * * *

そんなはなに梶原から初仕事が与えられた。

「今日は宇田川先生のところへ行って来てくれ」

「宇田川 … せんせい、ですか?」

「『赤い鳥』が『芥川龍之介』や『有島武郎』のような大作家に書かせるなら、こっちは今飛ぶ鳥を落とす勢いの『宇田川満代』で勝負したい」


連載小説を依頼して、梶原や亜矢子たちがくどき続けているのだが、いまだに引き受けてはもらえないのだ。

「彼女は君と同じ賞を受賞しているから、何かしら君に親近感もあるだろう。

君は書く側の気持ちも分かる。

安東君から説得してもらえば、上手くいくかもしれない」

「我が社の運命は、はなさんに掛かってるのよ」


梶原に加えて、亜矢子もはなのことを煽った。

「こぴっと、頑張らせていただきます」

いきなり大役を与えられて、はなは意気込んで早速出かけていった。

「ちょっと大げさに言いすぎたんじゃないですか?」

傍らで聞いていた向学館時代からの仲間である須藤が笑っている。

「まあ、やる気になったみたいだからいいじゃないか」

梶原はダメもとくらいの気持ちだったが、亜矢子は「はなだったらもしかして」という期待を込めて背中を見送った。

* * * * * * * * * *

宇田川満代は『ドミンゴ』で執筆していることが多い。

はなは店の前で呼吸を整えた。

< 宇田川満代 … はなが最も苦手な女です。

でも、そんなことは言っていられません >

かぶりを振って、店のドアを開けた。

「いらっしゃいませ … お姉やん、どうしたで?」

「作家の宇田川先生に原稿の依頼 … 」

「もう仕事任されたの? すごいじゃん」


かよは奥まった席で原稿に向かっている満代を指さした。

気難しい顔でペンを持ち、灰皿の煙草は煙をくゆらせたままだ。

「コーヒーお替り!」

ペンが進まずイライラしているらしく、きつい口調で女給を呼んだ。

「はい、ただいま」

* * * * * * * * * *

満代の元にお替りのコーヒーを運んだのは、はなだった。

「 … あっ、みみずの女王だ」

はなだと分かると何故こんなところでコーヒーを運んでいるのかと訊いた。

「お久しぶりです、宇田川先生」

「何なの?」


満代は不審な顔ではなを見た。

「ご執筆中に申し訳ありません。

ちょっとお話ししたいのですが … 」

「執筆の邪魔してまでしたい話って?」


はなはおもむろに頭を下げた。

「お願いします。

新しい児童向けの雑誌に小説を書いてください」

「何で、みみずの女王から原稿の依頼されなきゃいけないのよ」


満代はあからさまに嫌な顔をしてみせた。

「え~と、あの …

この度、私、聡文堂で働き始めたんです … 編集者として


緊張しているせいかもしれないが、それでは話の持っていき方が逆だ。

「あなた、作家も向いてないけど、編集者はもっと向いてないわ」

一笑にふしただけでなく、見下したように吐き捨てた。

「さっさと田舎へお帰りなさい」

「ほんな ~ 一昨日、甲府から出てきたばっかりなんですよ」


* * * * * * * * * *

満代は、はなの存在など忘れたように隣の席に座っている男女をじっと見つめだした。

「宇田川先生?」

「 … あなた、逢引したことある?」


突然、はなに尋ねた。

「いいえ … 」

「いい歳して、逢引もしたことないの?」


満代はあきれたように言うと不機嫌な顔をした。

意味も分からず頭を下げたはなはテーブルの上の原稿が目に入った。

『逢引』という題名が見えた。

「これ次の連載小説ですか?」

「『文芸東洋』に書くのよ … 取材しようと思ったのに、役に立たないわね」


そう言うと原稿用紙をまとめはじめた、場所を変えるつもりなのだろう。

「あ、あ、待ってください!

うちの雑誌にも書いてください!」

「私はもう子供向けの話なんか書かないの」

「どうしてですか?

宇田川さんの『つむじ風の乙女』、素晴らしかったのに … 」


満代は、はなのことを見据えた。

「あなたと違って、私は更に高みを目指してるの!

私の才能を子供向けの雑誌なんかに費やすつもりはないわ ~ 日本文芸界の損失よ」


* * * * * * * * * *

「お言葉ですが、子供向けだから大人の小説より価値が低いということはないんじゃないですか?!」

満代の口から出た聞き捨てならない言葉に、はなは作家に執筆を依頼している編集者という自分の立場を忘れてしまった。

途端、満代の顔色が変わった。

「仕事の邪魔した上に、この宇田川満代に意見する気?」

人一倍プライドが高い彼女が、一介の編集者であるはなの意見に耳を傾けるはずがなかった。

はなが、しまったと思った時はすでにあとの祭りだった。

「 … すみません、すみません」

「あなたの顔見たら、余計書きたくなくなったわ」


取りつく島もなくさっさと出口に向かった。

「あ、お勘定を … 」

「梶原さんにつけといて、この人の迷惑料よ」


かよに言い捨てると店を出て行ってしまった。

* * * * * * * * * *

「 … 今日はせっかくのコーヒーの味が分からなかった」

読んでいた新聞をたたみながら、近くの席に座っていた常連らしき初老の紳士がそうつぶやいた。

「すみません、美味しくなかったですか?」

かよが慌てて頭を下げた。

「いや、あの鼻持ちならない女の作家のせいで … 」

そう言って、紳士はにやりと笑った。

先ほどから、はなと満代のやり取りが気になっていたようだ。

「あなたも大変ですね ~ 」


恐縮するはなに紳士は続けた。

「しかし … 宇田川先生とやらにひとつだけ共感できることがありました。

あなたは、編集者にはまったく向いてない」

「てっ?!」


いきなり見知らぬ紳士からそんなことを言われて、はなは眉をひそめた。

「悪いことは言わない … 早く郷に帰った方がいいですよ」

店を出て肩を落としすごすごと社へと戻っていくはな。

偶然通りかかったのか … その背中を見つめていたのは英治だった。

* * * * * * * * * *

はなから報告を受けた梶原は大笑いした。

「安東君捕まえて、逢引の取材とは彼女らしいね」

「 … 宇田川先生はいつもそうなんですか?」


はなはあまり愉快ではなかった。

「彼女に限ったことじゃない。

作家が飛びつくような題材を提供するのも、編集者の大事な仕事だよ」

「まだ1回目じゃない ~ 頑張って」


落ち込んでいる様子のはなを亜矢子は励ました。

「そうだよ、当たって砕けろだ」

梶原、須藤、亜矢子の3人は、はなに留守番を任せて、広告取りに出かけていった。

* * * * * * * * * *

はなは散らかったままのテーブルを片付け始めた。

出しっ放しになっていた本を持って本棚に向かった。

空いたスペースを見つけたが、はなの背丈よりはるか上の位置だった。

つま先立ちになり腕を伸ばしたが、まだわずかに届かない。

すると、頭越しに男の腕が伸びてきて本をつかんで棚に収めてくれた。

… いつかも確かこんなことがあった。

はながハッとして振り向くと、そこには英治が立っていた。

咄嗟に頭を下げた。

「昨夜は失礼いたしました」

口から出たのは礼ではなく、昨晩の謝罪だった。

「 … こちらこそ。

僕もあれから反省してたんです」


はなは不思議そうな顔をした。

「どうして、村岡さんが反省するんですか?」

「あなたの事情も分からないのに、自分の勝手な思いだけを口にしてしまいました」

「?」

「この6年間、あなたはきっと僕には想像もつかないほど … 大変だったんですよね?」


深刻な顔をして、はなのことを見た。

「 … 学校の他に家の仕事もあったでしょうに。

ナマケモノの集中力を発揮する余裕もないほど、忙しかったんでしょう?

責めるようなことを言ってすいませんでした」


大きな体を二つに折って、はなに謝罪した。

* * * * * * * * * *

「そんな風に謝られたら私、本当にどうしたらいいか … あの、昨夜自分で言ったことも、あなたに言われたことも … 覚えてないんです」

「えっ?!

そんなに酔ってたんですか?」

はなは心底自分のことが恥ずかしかった。

「申し訳ありません」

あれだけはっきりと絡まれた英治には信じがたいことのようだ。

自分の言動を顧みて、昨晩はよく眠ることさえできなかったのだ。

「あの … 私、どんな感じだったでしょうか?」

はなは、恐る恐る英治に尋ねた。

「花子さん」

「はい」

「 … よかったら、今夜歓迎会やり直しませんか?」


思いもしなかった英治の申し出だった。

「逢引か … 」

ふたりの会話に聞き耳を立てていた三田がポツリとつぶやいた。

その言葉にドキッとするはな。

< もしかして、これは … 生まれて初めての逢引のお誘い?!

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月16日 (月) | 編集 |
第67話

< はなはまた新しい曲がり角を曲がろうとしていました。

夢を叶えるために、東京の出版社で働くことにしたのです >

1919年(大正8年)春、東京・銀座。

上京したはながまず訪ねたのは、かよの元だった。

「お姉やんが東京に来たら、また一緒に暮らせるね。

楽しみに待ってるじゃんね。

かよより」

かよのハガキに書かれていた住所は以前上京した際に泊めてもらった場所とは違っていた。

探し当てると、そこは『ドミンゴ』という名のカフェだった。

「てっ、ここけ?」

ほぼ満席の店内は、洒落た洋風の雰囲気で、テーブル席の他にカウンターもあり、人々はカップを前に歓談している。

「いらっしゃいませ」

「てっ?!」


出迎えたのは着物にエプロン姿のかよだった。

「かよ?!」

思わず声を上げたはなをかよは慌てて制した。

「お姉やん、ほんな大きな声出さねえでくれちゃ」

はなは、かよの頭のてっぺんから足の先までまじまじと見つめてしまった。

< 何と、かよはカフェーの女給さんになっていたのです >

* * * * * * * * * *

テーブル席に案内されながらはなは尋ねた。

「かよ、女給さんって一体どういうことで?」

「話は仕事が終わってから …

ご注文はブラジルコーヒーでよろしいですか?」


聞いたことない飲み物だった。

「ここのお客さんは皆ほれを飲みにくるだよ」

「 … ほれじゃあ、それを」


< 当時、銀座の町にはこういう洒落たカフェーが次々にオープンしておりました >

ほどなく、かよがコーヒーを運んできた。

< さて、はじめて飲むコーヒーのお味は? >

砂糖もミルクも入れないままひと口飲んだはなは顔をしかめた。

「苦え ~ 」

「最初は皆ほうだけんど、何べんも飲んでるうちに美味しくなるだよ」


かよに笑われ、はなはもう一度カップに口をつけた。

やはりどうしようもなく苦い。

* * * * * * * * * *

向かいのソファー席に陣取っている青年たち。

聞こえてくる話から、どうやら演劇を志している学生のようだ。

シェークスピアなど海外の劇作家を取り上げ、演劇論の様なものを交わしていた。

「 … 今度の公演は、チェーホフを演らないか?」

「『かもめ』か『桜の園』は?」

「いや、脚本は一から作る」


一番手前に座っていた青年の発言に皆が注目した。

「今、この時代を生きている女性の叫びを芝居にするんだ。

たとえば … 」


辺りを見渡した青年は、かよのことを呼び手招きした。

「君はここに来る前、何をしていたんだ?」

「 … え~と、洋服店の縫い子や製糸工場の女工をしてました」

「女工は辛かったろう?」


かよはうなずいた。

「死ぬほど辛くて逃げ出しました」

「それは大変だったね … 」


青年は同情した顔でかよを見たあと、仲間たちに向って言った。

「ほら、この子も資本家に踏みつけにされた犠牲者だ。

特権階級はますます私腹を肥やし、労働者は苦しむ一方だ。

だが、ロシアでも革命が起きた … 俺たちは演劇による革命を起こそうじゃないか?!」


それに応えた仲間たちは「やってやろう」だの「その通り」だのと盛り上がっている。

* * * * * * * * * *

彼らが口にしているのは社会主義の思想だとはなにも分かった。

「かよ、大丈夫なの?」

はなは吉平が4年間も身を隠す原因だった社会主義に対する警戒心が大きかった。

「あの学生さんたち、いっつもああいう話ばっかしてるだよ ~ まるでお父みてえずら」

それはかよも同じで、小声で迷惑そうに言った。

* * * * * * * * * *

仕事が終わったかよははなを自分が今住んでいる長屋へと連れて帰った。

「ここが今、おらが住んでるお城だ」

はなは、今夜からここで厄介になるのだ。

古い長屋だが、以前の洋服屋の住み込みの部屋に比べたら、台所もあり、ふたりで住むには十分だった。

部屋に入ると、はなは待っていたようにかよに女給になった理由を尋ねた。

「 … おら、前からカフェーで働きてえって思ってただ。

きれいな着物の女給さんたちにあこがれてただ」


製糸工場を逃げ出したかよは、迷惑をかけた実家に仕送りがしたいと言った。

「ふんだけんど、おらお姉やんみてえに学校行っちゃいん … お金がうんともらえる職業婦人にはなれん。

ほれでも女給になれば、お客さんからチップがもらえるだよ。

頑張って働けば働いた分、うんと稼げるじゃん!」

「ふんだけんど、お姉やん心配だ」


先ほどの学生たちの様な輩を見てしまうと尚更不安は募った。

* * * * * * * * * *

「あのお店はいかがわしいことするカフェーじゃねえから安心して。

男のお客さんだけじゃなくて、女のお客さんだって多いし … ほうだ、醍醐さんもよく来るだよ」

「醍醐さんも?!」


はなが店を信用するに十分な名前だった。

「本当に大丈夫だから … 

おら、お姉やんよりはしっかりしてると思ってるし」


その通りかもしれないと、はなは苦笑いした。

「ほうだね ~ 」

「お姉やんこそ、東京の男には気をつけろし」

「 … お父にも同じこと言われたさ」


はなは改めてかよに頭を下げた。

「ほれじゃあ、今日っからお世話になりやす」

「こっちこそ、よろしくお願えしやす」


ふたりは顔を見合わせて楽しそうに笑った。

* * * * * * * * * *

次の朝。

はなは、梶原たちが興した出版社、聡文堂を訪れた。

今日からここが、はなの新しい職場だ。

< さあ、はなの出勤一日目です >

「ごきげんよう!」

「はなさん … 首を長くして待っていたのよ」


出迎えてくれた亜矢子は、髪型も洋風に変わり、会うたびにモダンになっている。

「いやあ、安東君 ~ 来たか」

「梶原編集長、またお世話になります ~ よろしくお願いします!」


部屋の中には梶原と亜矢子の他に数名の職員が働いていた。

向学館で見覚えがある顔もいる。

「今日から働いてもらう安東君だ」

「よろしくお願いします」


* * * * * * * * * *

新雑誌の創刊準備に追われる聡文堂では、連日企画会議が開かれており、出勤初日ながらはなも参加させられた。

「我々の目標となる『赤い鳥』には、『芥川龍之介』『有島武郎』『泉鏡花』といった、名だたる作家が寄稿している。

うちの創刊号もそれに匹敵する様な作家を引っ張って来よう」


梶原が新雑誌の抱負を語ると、職員たちがうなずいた。

「そして、この聡文堂の顔になるような新しい児童雑誌を作るんだ」

意気込む梶原は、はなに言った。

「君も小学校の教員をしていた経験を踏まえて、自由に意見を出してくれ」

「はい」


誰の意見でもよいものは分け隔てなく取り入れるというのが梶原の方針のようだ。

「物語だけじゃなくて、子供たちがワクワクするような記事も載せましょうよ」

早速、発言する亜矢子。

「毎号、最新のおリボンやお帽子の記事なんかも入れたいですね」

いかにも彼女らしい意見だが、男性社員の三田悠介が鼻で嗤った。

「この雑誌を読む読者がリボンの記事なんか喜びますかね?」

「あ、あの … 」


はなが手を上げた。

「子供たちの作文を投稿してもらったらどうでしょうか?」

「間違ってもらっては困る!

… 児童向けといっても、大人が読むに堪える小説や詩を載せるべきだと、私は思いますね」


またも異論を口にしたのは三田だった。

「まあ、この雑誌に必要なのは、あくまで芸術性だ」

すると他の男性社員も三田を支持した。

男性たちは端から女性の意見を軽んじているようにみえた。

「まず宇田川先生の交渉を継続しましょうよ」

「そうだな … 交渉はやっぱり醍醐君ですかね?」


< 結局、はなはひと言しか発言できず … それもあっさり却下されてしまいました >

それに加えて、聡文社にとって記念すべき第一冊目『たんぽぽの目』の作者である安東花子には執筆の依頼はないのだろうか …

* * * * * * * * * *

その夜、カフェー・ドミンゴではなの歓迎会が催された。

ドミンゴは夜になると、アルコールのメニューに代わるのだ。

「今日の主役は安東君だ。

ようこそ、聡文堂へ ~ 」


梶原が乾杯のためにグラスにウイスキーを注ごうとしたが、学生時代の失態が忘れられないはなは遠慮した。

「私、お酒はちょっと … 」

「作家の先生たちは酒好きが多いから、飲めるようにならないと大変だよ」

「はなさん、ブドウ酒じゃないから大丈夫よ」

「飲むのも仕事のうち」


亜矢子をはじめ、同僚たちも勧めるので、はなは断り切れなくなってしまった。

「では、少しだけ … 」

* * * * * * * * * *

「では、新しい仲間を歓迎して … 乾杯!」

梶原の音頭で乾杯、一同が美味しそうにグラスを傾けるのを見て、はなも恐る恐る口をつけてみた。

「 … 美味しい!

このお酒美味しいですね」

「ウイスキー、気に入った?

西洋のね、焼酎みたいなもんだ」


梶原の話を感心して聞いているはなにかよが耳打ちをした。

「お姉やん、ほれ強えよ … 大丈夫?」

「ブドウ酒じゃねえから、大丈夫だ~」


そう言うと、かよの心配をよそにグラスのウイスキーを一気に飲み干した。

「かはははは … 美味しい」

もうご機嫌だ。

「もう一杯!」

< ちょっと、まずい予感が致します … >

* * * * * * * * * *

「西洋の焼酎、もう一杯くださ~い!!」

すっかり出来上がってしまった。

「 … それぐらいにしといたら?」

梶原がたしなめたが、はなは聞く耳を持たなかった。

「編集長、まだ三杯目ですよ ~ 三杯目!」

そう言いながらへらへらと笑っている。

「 … 三杯で酔っちゃうなんて、はなさんってそもそもお酒が強くなかったのね?」

亜矢子は軽い気持ちで飲むように勧めたことを大きく後悔していた。

「まだ酔ってませんてばっ!」

誰も注いでくれようとしないので、自分でウイスキーのボトルに手を伸ばした。

間一髪、かよが上手にボトルを取り上げた。

「お姉やん、送ってくからもう帰ろう」

「まだまだ夜はこれからじゃんね ~ 先輩」


へらへらと三田に言った。

「 … 先輩?!」

足元もかなりおぼつかない様子 … まったくブドウ酒事件の時の再現のようだ。

「姉のために歓迎会をありがとうございました!」

かよは強引にはなの腕を取ると、店の外へと連れ出してしまった。

* * * * * * * * * *

転がるように店の外に出たはなは、ふと空を見上げた。

「わあ、星 … 」

きらきら星を口ずさむはな。

「もう、お姉やん … 帰るよ」

かよの手を解き、いい気分で踊りながらふらふらと歩き出したはなだったが、前方から来た誰かと衝突してしまう。

「あっ、すみません!」

「痛て … 」


衝突した相手は、見覚えのある顔 … 村岡英治だった。

「壁かと思ったら、村岡印刷さん」

「歓迎会に呼んでいただいたのに、遅くなってすみません」


時間に遅れて急いでいたのだ。

「大分、酔ってますね?」

誰が見ても一目瞭然だった。

「村岡印刷さん!

ご無沙汰してます … ごきげんよう」


身体を傾げた途端、バランスを崩して尻もちをついてしまった。

「 … おうちまで送ります」

ひとりでは持て余していたかよは有難く英治の好意に甘えるのだった。

* * * * * * * * * *

かよに案内されて、英治ははなを背負って長屋まで送り届けた。

「助かりました … ありがとうございました」

かよは英治に礼を言った。

ひとりではとても姉を連れて帰っては来れなかっただろう。

何も知らぬはなは板の間で引っくり返って眠りこけている。

「いいえ、じゃあ僕はこれで … 」

外へ出ようとした時、はなが目を覚まして体を起こした。

「わあ ~ 逃げるだけ?!」

理にかなわない言い草だが、英治は笑っている。

「逃げませんよ ~ また明日、会社で会いましょう」

頭を下げて帰ろうとした時、何となく台所に置いてあった漬物樽が視界に入った。

途端に顔が強張った。

かつて英治がはなに贈った英英辞典が漬物石の代わりに載せられていたからだ。

* * * * * * * * * *

「どうして辞書が漬物石に?!」

「あ、あれ?」


はなにも理由が分からない。

「あ、おらが置いたの … ちょうどいい重さだったから」

かよにしてみれば何の悪気もなかった、彼女にとって辞書はその程度のものなのだ。

「うわ ~ あなたのくれた辞書、なかなか役に立つじゃんね ~ 」

はなは辞書を抱きかかえて、相変わらずへらへらしている。

「全然使ってなんだし … ちょうどいいだよ ~ 」

素面だったら、とても口にできなかったろう … 冗談にもならない失礼な物言いだった。

英治は怒りはしなかったが、信じられないという口調で尋ねた。

「花子さんは英語の勉強、止めてしまったんですか?」

* * * * * * * * * *

はなの顔が一瞬真顔に戻った。

「て ~ 花子?

花子なんて呼ばれたら、酔いが冷めちもうら ~ 」


おどけるはなに英治は追い討ちをかけた。

「 … 英語の翻訳続けてなかったんですか?」

はなはまた一瞬真顔を見せ … そしてひどく不自然に声を上げて笑い出した。

< はなにとっては痛い言葉でした。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月15日 (日) | 編集 |
まずは、先週のおさらいを …



それでは、次週の「花子とアン」は?

< さて、来週は、はなの東京での新生活です >

春。一大決心とともに甲府から東京へ出て来たはな(吉高由里子)だが、同居することになったかよ(黒木華)が銀座でカフェーの女給となっていることを知り、大いに驚く。

今日から働いてもらう安東君だ

よろしくお願いします


翌日、新しい職場・聡文堂に初出勤したはなは、梶原(藤本隆宏)や醍醐(高梨臨)らに迎えられ、早速企画会議に参加するが、醍醐はじめ周りの同僚たちの仕事への情熱に押され気味。

梶原たちははなを励ますべくカフェーで歓迎会を催すが、ウィスキーを飲んだはなはすっかり酔っ払ってしまい、遅れてかけつけた英治(鈴木亮平)が家まで送ることに。

あなたに翻訳の才能があるのに残念です

たどり着いた英治は、かつて自分が贈った英英辞典が漬物石代わりに使われているのを見て、はなに英語をやめてしまったのかと問う。

はなは、甲府にいた自分の気持ちなどあなたに分からないと言い、酔いつぶれてしまう。

翌日、昨夜の酒癖の悪さをかよから聞いたはなは、反省しきりで梶原らに謝るが、梶原は宇田川(山田真歩)への連載依頼をはなに命じる。

私の心臓はパルピテーションの嵐です

はなはカフェーで宇田川に執筆を頼むが、相手にされないどころか怒らせてしまい、客の紳士(中原丈雄)にまで「編集者に向いてない」と言われる。はなが出版社で落ち込んでいる時、英治が訪れ「歓迎会をやり直さないか」と誘う…

英治と“人生初の逢引き”を約束したはな。ところが話を聞いた醍醐から自分も行っていいかと聞かれ、はなは思わずうなずいてしまう。

弟の郁弥です

そこへ英治が弟の郁弥(町田啓太)を連れてくる。英治に郁弥を紹介されたはなは、そもそも“あい引き”でなかったことに肩透かしを食らうが、郁弥は一冊の本を取り出し…

村岡さんははなちゃんのことが好きなのね

そんなある日、福岡の蓮子(仲間由紀恵)から電話がかかって来た。娘の結婚式で東京に出てくる蓮子と再会する約束をし、はなは喜びでいっぱいになるのだが …

花子とアン 公式サイト、YAHOO!テレビガイド他を参照)

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2014年06月14日 (土) | 編集 |
第66回

「はな、めっけた夢は夢中になって、追っかけろし」

はなにそんな言葉を遺して、甲府に初雪が降った日、周造は眠るように息を引き取った。

* * * * * * * * * *

周造の葬儀も済ませた日、吉平は位牌に手を合わせながら宣言した。

「お祖父やん、俺、行商辞めて百姓やることにしたです。

これっからは、ふじと力合して、こぴっと精進します」

「あんた … 」


吉平は、後ろに座っているふじに向かって言った。

「もう何処にも行かん、おまんの傍にいる … ずっと、この家にいる」

「ふんだけんど、表富士には連れてってくりょう」

「ああ、分かってる」


ふじはうれしそうな顔をして、手を合わせて周造に報告した。

「こっちが表 … 」

そんな声が聞こえてくるような気がした。

* * * * * * * * * *

百姓をやると決めた吉平は、昼は畑仕事、夜もふじに教わりながら、周造がやっていたわら仕事に精を出していた。

そんなある日、突然、はながふたりの前に正座をした。

「お父、お母、聞いてくりょう」

「何でえ、改まって?」

「おらを東京に行かしてくりょう」

「てっ?!」


はなはついにその言葉を口にしたのだ。

「おら、本気で夢を追っかけてえ … 本作る仕事に就きてえさ」

はなは詫びた。

「本当にごめんなさい … お祖父やんが居なくなって、いっとう寂しい時にこんなわがまま言って」

* * * * * * * * * *

「 … おら、これまで人生はたし算だと思ってた。

明日は必ず今日よりもいいことがあるって、信じてた。

ふんだけんど、大好きなお祖父やんが死んでしまって …

人生は引き算なのかもしれない、ほう思ったら、何だかじっとしていられんくなったさ」


ふじも吉平も黙ってはなの話に耳を傾けている。

「勇気を振り絞って、自分の足で … 一歩を踏み出さんきゃって」

「ほれで東京の出版社に?」

「お願えします」


はなはふたりに向かって両手をついた。

「おらのわがままを聞いてくりょう!」

* * * * * * * * * *

吉平はふじの顔を見た。

自分は賛成だが、ふじは悲しむのではないか?

果たしてふじは、優しく微笑んではなを見つめていた。

「はながほうしてえなら、ほうしろし」

「ふじ、いいだけ?」


うれしそうに笑顔で尋ねたのは吉平だった。

「お祖父やんが生きてたら、きっと応援してくれるら ~ はなのあの本が大好きだったからね」

周造の位牌の横には『たんぽぽの目』が供えてある。

「ああ、お祖父やんにせがまれて何十回読まされたか分からん」

吉平はふじと顔を見合わせて笑った。

周造との長い間のわだかまりを消すことができたのもこの本のおかげだった。

* * * * * * * * * *

はなは、まさか両親に … 特にふじからこんなに簡単に許可をもらえるとは思ってはいなかった。

「ありがとう … お母、ありがとう、お父」

こうしてはなが再び上京することが決定した。

* * * * * * * * * *

そして季節は過ぎ、また春が来た。

1919年(大正8年)・3月。

「 … 本当に行っちまうだけ?」

荷造りをするはなの横で隣のリンが寂しそうに尋ねた。

「おばさん、お父とお母のことよろしくお願えしやす」

「わかってるさ ~ ほれで … 」


そのことよりも、リンには気になっていることがあった。

「うちの朝市は何か言ったけ?」

「何か?」


リンもさすがに息子の秘めた恋心を勝手に口にする訳にはいかなかった。

「 … ほら、幼馴染ずら、引き留めたりしなんだけ?」

「ああ、いっとう最初に相談して … 励ましてくれたのは、朝市です」

「て … まったくあのボコは … 」


惚れている女が上京するのを止めるどころか後押しするなんて … 我が息子ながら、人のよさにあきれるリンだった。

* * * * * * * * * *

< はなが学校を去る日がやって来ました >

3学期の終業式も終わり、クラスの生徒たちがはなに別れを告げに集まってきた。

「さいなら、はな先生」

「東京行ったら、『たんぽぽの目』より、もっと面白え話を書いてくりょう」

「ありがとう … 皆、元気でね」

「サンキュウ ~ はな先生、ごきげんよう!」


手を振って、生徒たちを見送ったはなは、誰も居なくなった教室に戻った。

机に手を触れながら、ゆっくりと教壇に向かう。

前の黒板には「ありがとう」「さようなら」「サンキュウ」など、生徒たちからの伝言が一面に書かれていた。

その文字を読んだあと、教壇から教室を見渡した。

感慨にふけっていると、後ろの戸が開いた。

「校長先生?!」

校長だけでなく、続いて緑川、朝市をはじめとする職員たち、寅次までがぞろぞろと入ってきた。

「 … 本当に、いろいろとありがとうごいした」

はなは教室の後ろに揃った一同に向かって頭を下げた。

* * * * * * * * * *

「どうした、先生方?

最後ずら、何か言えし … 」


皆、何故だか、誰もひと言も口にしようとはしない。

校長はゆっくりと前に歩きはじめた。

「 … 思い出すら?

おまんがいっとう最初に学校に来た時にこの机に座ったじゃんね」


はなの席だった机に手を置いてしみじみと言った。

何も分からなかった少女のはなはいきなり机の上に正座して、皆から笑われたことがあった。

「うちの仕事が忙しくて学校に来れなんで、他の生徒よりずっと勉強が遅れてて、はじめは字も書けなんだおまんが … 教師になって戻ってきて、今度は作家の先生目指して東京へ行くとは …

本当に、おまんには、いつもびっくりさせられてばっかだわ!」


はなは申し訳なさそうな顔をした。

「東京行っても、こぴっと頑張れし。

… おまんは、この小学校の誇りじゃあ!」

「校長先生 … 」

「元気で頑張れし!」


はなが感激していると、緑川が一歩前に出た。

「元気で頑張れし!」

「て、緑川先生?!」


緑川の目にも光るものがあった。

「元気で頑張れし!」

強面の寅次も涙で顔をくしゃくしゃにしている。

意外な人たちにまで激励されてはなは言葉に詰まった。

* * * * * * * * * *

すると、朝市が机の上に正座した。

はなをじっと見つめ、精一杯の笑顔を作った。

「 … さいなら、安東先生。

安東先生のことは、決して忘れんさ」


「はなのことは、決して忘れんさ」

それは、少年だった朝市が、女学校に入学するために学校を去るはなに贈ったはなむけの再現だった。

「朝市 … 」

朝市は涙を堪えている。

懸命に笑おうと努めるが、泣き笑いの顔になってしまう。

「はなの言いてえことぐらい分かるさ …

『おらのことは花子と呼んでくりょう』ずら?」

「 … ほうずら」


はなも目に涙を浮かべて微笑んだ。

朝市が背中を押してくれたから、東京に出て夢を追う決心がついたことを、はなは決して忘れないだろう。

* * * * * * * * * *

< そして、いよいよ明日、はなは東京へ旅立ちます >

最後の夕食は、ふじがこしらえたほうとうだった。

「うんとこさ作ったから、いっぺえ食べろし」

はなの箸を動かす手が止まった。

「お父、お母 … ごめん」

今更ながら、申し訳ない気持ちにはなは苛まれていた。

「何を言うでえ?」

「はな、ボコが大人になっていくちゅうことは、こういうこんだ。

これからは、夫婦水入らずで仲良くやっていくじゃん」


頭では分かっていながら、何故か割り切れないはなだった。

「はな、女学校卒業して、甲府に戻ってきてくれて、本当にありがとうね。

おまんがここに帰ってきてからの6年間は、お母にとって一生の宝物だよ」


ふじは優しく諭すように言った。

「さあさあ、早く食べねえと冷めちもうよ」

「お母の作るほうとうは日本一だって … はな、いつも言ってるら」


はなはほうとうを頬張った。

「美味え … 」

今夜のほうとうは涙で少ししょっぱかった。

「美味えな … 」

* * * * * * * * * *

次の日、はなは作家になるという夢を抱いて東京へと旅立った。

< 今また、はなは新しい曲がり角を曲がろうとしていました。

その先には何があるのでしょう?

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月13日 (金) | 編集 |
第65回

周造にせがまれた吉平が何回目かの『たんぽぽの目』を読んでいる途中、ふじが畑仕事から戻って来た。

「お父やん、帰ったよ ~ 」

周造が寝ている布団の横で正座をしながら本を読む吉平の姿を見たふじの顔が強張った。

「ふじ … 」

ふじは荷物も下さずそのまま家から飛び出して行った。

吉平も後を追って外へ出ると、ふじは庭先で背中を向けて肩で息をしている。

「 … ふじ、こぴっと話し合おう」

ふじは振り向き、吉平をにらみつけた。

「おらの居ねえ間に、お父やんに取り入るなんて … 調子いいだから!」

「ちっと待ってくりょう!」


取りつく島もなく、家に逃げ込むと戸を閉めてしまった。

* * * * * * * * * *

「これ、はな先生のお祖父やんにお見舞い」

放課後、きよが差し出したのはクラスの皆で摘んできた野の花だった。

「ありがとう ~ 皆、気をつけて帰るのよ」

下校して行った生徒たちと入れ替わりに、例のサダがはなを訪ねてやって来た。

< お父の女ずら … >

* * * * * * * * * *

はなが家に戻った頃には、ふじから閉め出しを食った吉平はすでにあきらめて立ち去っていた。

周造は布団の上で体を起こして、はなの本を眺めていた。

「あっ、お祖父やんもう大丈夫け?」

「ああ、お帰り」


大分気分もよさそうに見え、はなはホッと安堵した。

ふじは夕餉の支度に追われている。

「あのね、お母 … 今日、学校にサダさんが来て」

「てっ?!」


かまどに火をくべているふじの手が止まった。

「おらもびっくりしたけんど … 謝りに来ただ」

「どういうこんで??」

「もともとお父とは何にもなかったって … 」


ふじは不審な顔をして立ち上がった。

* * * * * * * * * *

「 … 実はね、こないだの話、全部ウソなのよ」

はなを学校に訪ねたサダは、悪びれることなくそう言ってのけた。

「て … ウ、ウソって?」

はなが呆気にとられていると、サダは口をとがらせながら話しはじめた。

「だって、幸せそうなんだもん!

あんたのお母さん、旦那のこと信じ切ってるし … 私が何を言っても庇うもんだから …

こんなに旦那を愛してる奥さんもいるんだって、くやしくなっちゃって」

「ふんだけんど … ほの櫛は?」

櫛は気に入ったからサダが自分で買ったものだった。

「うちの旦那はこんなもの買ってくれる人じゃないから … 」

開いた口がふさがらないはな。

「これ買った時、吉平さんたら、あんたのお母さんに櫛を上げた時の話をずっとうれしそうにするのよ」

* * * * * * * * * *

はなの話をふじは呆然として聞いている。

「 … ほれとね、富士山の話もウソだったの」

あの時、サダは吉平が「いつか表側の富士山を見せてやる」と約束したと言った。

「お父、本当はこう言っただって …

うちの奴に、表側の富士山を見してやりてえだ ~ 俺の故郷の景色を見てもらいてえだって」


ふじはこみ上げてくる喜びに、瞳を潤ませている。

「ほんなこと … 」

「お父、教会の本の部屋に居るよ」

「はな!」


居ても立っても居られなくなったふじは、はなに吹き竹を手渡すと、大慌てで家を飛び出して行った。

その背中を笑顔で見送るはな。

「 … 何べん言ったら分かるだ、こっちが表であっちが裏」

ひとり不機嫌そうにつぶやく周造を見てはなは吹き出してしまった。

* * * * * * * * * *

ふじはもの凄い勢いで図書室に入ってきた。

「 … ふじ?」

「あんた、全部聞いただよ … はなの学校にサダさんが来て」

「て?!」

「 … あんた、いつ表の富士山を見に連れてってくれるで?」

「て … ほれも聞いただか?」


ふじは涙を溜めながらも、うれしそうにうなずいた。

「おらを生まれ故郷に連れて行きてえなんて … ほんなこと思っててくれたなんて …

うれしいよ!」


ついに大きな声で泣き出してしまった。

「おい、泣くことねえら ~ 」

吉平は、少し困った顔をしてみせたが、首から下げた手拭いでふじの涙を拭い、そして優しく抱きしめた。

「ふんだけんど、夢みてえじゃん」

「俺は、おまんと一緒になって、ここで暮らして甲府のことが大好きになった。

おまんにも俺の生まれ故郷を好きになってもれえてえだ … 」


* * * * * * * * * *

はなは、昨夜ふじに言われたように周造に『たんぽぽの目』を読み聞かせようと横に座った。

「はなの作る話は面白えなあ … 」

本を手にして周造がしみじみと言った。

「え?」

「今日、何べんも何べんも婿殿に読んでもらっただ」

「てっ、お父に?」


意外な組み合わせにはなは驚いた。

「はなは、ボコの頃、わしに言ったら?

自分が周造じゃなく、周衛門や周左衛門になったと思ったら、景色が違うて見えるって … 」


「名前が変われば、見える景色も変わるだよ ~ 自分が花子だと思うと …

ほら、風の匂いまで違うじゃん」

「 … はなに言われてっから、わしゃ時々、周左衛門になってみてるだよ。

ほうすると … はなの言った通り、何かわくわくしてくるだ。

ああ、そうさな ~ はなの夢見る力がわしにも伝わるだな」


今日の周造はよくしゃべる。

* * * * * * * * * *

「はな、めっけた夢は夢中になって、追っかけろし」

周造は両手ではなの手を握った。

「 … この手で、わしらの作れんもんを作ってくれっちゃ」

そして再び本を手に取って笑った。

「『たんぽぽの目』、祖父やん大好きだ」

子供のはなにしたように頭を撫でる周造。

「お祖父やん … 」

本を開いてじっと眺めている周造の姿が滲んで見えたはなだった。

* * * * * * * * * *

次の朝、吉平はふじと一緒に畑仕事に、はなは学校へと出かけて行った。

笑顔で見送る周造。

安東家に平穏な日常が戻って来た。

* * * * * * * * * *

そして、季節は秋から冬へと移り変わって行った。

周造はすでに畑仕事に出ることもなく、一日をほとんど布団の上で過ごすようになっていた。

家族が仕事に出ている間、家には周造ひとりきりだ。

その日、周造は障子を開けて外を見た。

冷えてきたと思ったら、空から白いものが舞ってきている。

「ああ … 初雪か」

穏やかな顔で笑った周造。

「 … まだまだと、おもひすごしおるうちに… はや、死のみちへ … むかふものなり。

周左衛門」


< 甲府に初雪が降った日、周造は眠るように息を引き取りました >

* * * * * * * * * *

周造の葬儀も滞りなく済ませ、はなは学校に復帰した。

「 … このたびはお休みをいただき、ありがとうございました」

はなは教務室で職員に向かって礼を述べた。

「お蔭さまで無事に祖父を送ることができました」

「顔はおっかなかったけんど、優しいお祖父やんだったな」


校長の言葉に、はなはうなずいた。

「安東先生、お力落としのねえように …

亡くなったお祖父やんも花嫁姿見たかったらね ~ 」


こんな時でもひと言多い緑川だった。

「 … いえ、祖父は私に『夢を追っかけろ』と言ってくれました」

「ゆめ?

よめ、じゃなくて … ゆめ?」

「ええ、夢です」


はなは毅然と言い切ってみせた。

* * * * * * * * * *

教会の図書室。

はなは自分の手を見つめていた。

あの日の周造のぬくもりがまだ残っているような気がしてならない。

「 … ごめん」

朝市が息を切らしながらやって来た。

「待ったけ? 校長先生に捕まっちまって」

慌ただしくはなの向かいに座った。

「 … 相談って何ずら?」

今日は、はなの方が朝市をここへ呼び出したのだ。

「学校のことけ?」

はなは首を振った。

「ふんじゃあ?」

呼び出しておきながら、はなは口に出すのをためらっている。

* * * * * * * * * *

「あっ … その前に、朝市の大事な話って何だったで?」

両親の騒動のせいでそのままになっていたことを、はなは今更ながら思い出した。

「てっ?」

「ほら、何か話があるって言ってたじゃん」

「ああ … 」


朝市は困惑した。

本来ならば千載一遇の好機のはずなのに、何故かためらってしまった。

「何だったけな … 忘れちまった。

あれは、もういいだ。

ほ、ほれよりどうしたで?」


* * * * * * * * * *

ようやくはなが話しはじめた。

「 … 東京から出版社の人が来たことあったら?

ほのことで … 」


朝市は何となく予感していたのだ。

「迷ってるだけ?」

「お母たち残して、とっても上京なんてできねえって、いっぺんはあきらめたけんど … 」


朝市ははなを見つめた。

いつもはなのことを見ていた朝市だ … 本心は痛いほどよく分かった。

「はなは … 東京に行きてえだけ?」

朝市の問われて、はなは真剣なまなざしで顔でうなずいた。

「うん」

その時、朝市は自分の思いは、しばらく封印することに決めたのだ。

「ふんじゃあ、行けし」

「朝市 … 」

「一生懸命やって、勝つことの次にいいことは … 一生懸命やって、負けることだ」


朝市の言葉に、今一度うなずいたはなの目にもう迷いは消えていた。

<  … ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月12日 (木) | 編集 |
第64回

一命は取りとめた周造だったが、医師の診断によると心臓がかなり弱っていて、次に発作が起きた時は覚悟するようにと宣告されてしまった。

「おらのせいだ ~

あの女のことに気取られて、お父やんひとりに畑仕事押し付けちまって … 」


ふじは自分を責めて、嘆き悲しんでいる。

「ふじ、俺で手伝えるこんあったら、何でも言ってくりょう」

「おまんにふじちゃんが素直に頼める訳ねえら!」


リンから叱責された吉平は、反論することもできずに「医者を送ってくる」と出て行ってしまった。

* * * * * * * * * *

症状は安定しているものの、夜になっても周造の意識は戻らなかった。

「お母、おらが見てるから少し休めし」

「おまんは明日も学校があるじゃんけ」


ふじは、思いつめた顔で周造の傍から離れようとはしない。

「 … 寒くねえかな?」

空気が大分冷えてきたので、周造の襟元を気にした。

「お祖父やんの掻巻取ってくる」

納屋へ入ったはなは、たたまれた掻巻の上に『たんぽぽの目』が置かれているのを見つけた。

* * * * * * * * * *

ふじが周造に掻巻を掛けると、はなは枕元に本を置いた。

「はなの本、どっから持ってきたでえ?」

「お祖父やんの寝床に置いてあったさ」

「て、お父やん字が読めねえのに … 」


孫のはなが初めて書いた本だから大事に持っていたのだろう。

「明日、学校から帰って来たら、読んであげてくりょう … きっと、元気でるら」

微笑んでうなずいたはなは、心の中で自分の気の利かなさを後悔していた。

もっと早く読んで聞かせてあげればよかった … 本を出したことで満足してしまっていたのかもしれない。

忙しさにかまけて、家族のことをないがしろにしていたのではないのか?

そう思ったら、両親のことが気になりだした。

「 … お母、お父のことこのままでいいの?」

思い切って訊いてみたが、ふじは黙ってはなの顔を見つめただけだった。

このままでいいと思っているはずはない … しかし今は周造のことでいっぱいいっぱいだ。

そして、お父の方は … 今自分が何をするべきなのか?

薄寒い教会の図書室で毛布にくるまりながら必死に考えていた。

< 吉平もその夜は、一睡もできませんでした >

* * * * * * * * * *

「はな、大丈夫け?」

休み時間、廊下でぼんやりしていたはなに朝市が声をかけてきた。

「おらは大丈夫ら … ふんだけんど、お母は寝なんでお祖父やんの看病をして、ほのまま畑へ行った」

「ほうか … おばさんまで倒れんきゃいいけんどな」


はなも、周造が倒れたことに責任を感じて無理をしているふじのことが心配だった。

「おらにできることがあったら、何でも言ってくりょう」

はなは素直にうなずいた。

「 … うちのお母もお節介やきた焼きたがってるけんど、あのおしゃべりが行っちゃあ、周造祖父やんもやかましくておちおち寝てられんら」

少しでも和ませようとして言った冗談にも、今のはなには応える余裕がないことに朝市は気づいた。

「大丈夫、きっと元気になるさ」

その言葉にようやく力なく笑ってみせた。

「ありがとう … 」

* * * * * * * * * *

「おまん、商売している場合け?」

店先に商品を受け取りに顔を出した吉平を見て、甚之介は不審な顔をした。

「周造さん倒れて、大変だったらしいじゃん」

「ああ … 」


吉平は気のない返事をした。

「まさか、まだうちに帰っていんだけ?」

「ふじが許しちゃくれんら … 」


甚之介は人払いをすると、吉平の傍にしゃがみ込んだ。

「おまん、本当にふじちゃんを裏切るようなことしてないだけ?」

「いや … 俺は、やってねえ … と思う」


このはっきりしない態度がふじを怒らせたのだ。

「ふんだったら、してねえだ!

… ほういう時こそ、ふじちゃんの傍にいてやるべきずら」

「ふんだけんど ~ やっぱし、俺にできるこんちゅうのは、行商で金稼いで早く借金返すぐれえで … 」


すると、甚之介は声を荒げた。

「おまんはバカけ?

金貸してるわしが、行商なんやめてうち帰れってんだ!」


吉平をひと晩しか泊めなかったのもそんな思惑があってのことだった。

「今、ふじちゃんが心っから頼れるのは誰でもねえ … 亭主のおまんずら?」

* * * * * * * * * *

安東家。

周造が意識を取り戻した時、はなは学校、ふじは畑仕事に出かけている最中だった。

ふと顔を傾けると、傍らにはなの本が見えた。

周造は蒲団の中から腕を伸ばして本を手に取った。

ページを開いてみたが、文盲の周造には何が書いてあるかさっぱり分からない。

周造は『たんぽぽの目』がどんな物語か未だに知らないのだ。

本を閉じて、ぽつりとつぶやいた。

「ああ、字が読めたらなあ … 」

今ほどそう願ったことはなかった。

「あの … 俺でよかったら読みますけど … 」

襖からおそるおそる顔を覗かせた吉平が遠慮がちにそう申し出た。

甚之介に諭されて、周造の様子を見に来ていたのだ。

周造は吉平のことをにらみつけた。

「 … 失礼しました」

吉平は出過ぎた真似だと思い直して、頭を下げて立ち去ろうとすると … 

「待て … 」

周造が呼び止めた。

「おまんしか居ねえだから、しょうがねえら」

* * * * * * * * * *

吉平は本を手にすると、周造の横に正座をした。

「ふんじゃあ、読ましていただきます …

『たんぽぽの目』

百合子はひとりっ子でしたからお友達が遊びに来ない時は、寂しくてたまりませんでした … 」


読みはじめてから、しばらくして周造の顔を見ると、目を閉じていてまるで眠ってしまったみたいだった。

「あれっ … お祖父やん、つまらんですか?」

すると、周造は目を開けて吉平を見上げた。

「はなの話がつまらん訳ねえら!」

そう言って、また元のように目を閉じてみせた。

「こうして目をつぶった方が景色が浮かぶだ」

それは、幼い頃のはなから教わった、『空想のツバサ』の使い方だった。

「さっさと続きを読めし」

周造から急かされて吉平は物語の続きを読みだした。

* * * * * * * * * *

「 … 私、大きくなったらお歌を作る人になりたいの ~ なれるでしょうか、どうでしょうか … 

お父さんもこれからは、たんぽぽを邪魔だなんて言わないようにしようね ~ お父さんは優しく百合子の頭をなでました。

… おしまい」


吉平が物語を読み終えると、目を開けた周造は手を出して本を受け取った。

「はなは本当に面白いボコだったな ~ 」

「ええ、神童ですから」

「おまんが、東京の女学校へ入れるって言い出したときゃあ、とんでもねえこんになったと思ったけんど …

はながこうして本を出すようになるとはな」


本の表紙をじっと見つめている。

「婿殿が変わり者だったお蔭かも知れねえな」

吉平は笑って聞いている。

* * * * * * * * * *

「はっきり言って、おまんのことは、ふじが結婚してえって連れて来た時っから … ずっと好かなんだ」

「 … 知ってました」

「こっちから見る富士山が『裏富士』だなんて言い腐って … 」


何気なく口にしたひと言、それが嫌われるきっかけになっていたのだ。

「ひとつ屋根の下に居て、目も合してくれなんだ … 」

「そうさな ~ 」


周造は苦笑いした。

我ながら子供じみているとは思うが、富士の表裏はどうしても譲れないことであり、頭に血が上ってしまうのだ。

* * * * * * * * * *

「お義父さん、このたびはいろいろ、ご心労をおかけして … すまなんだです」

吉平は突然頭を下げた。

周造が倒れたのは、ふじのせいではない、自分のせいなのだ。

「あのサダとかいう女とは何もなかったずら?

よう考えてみりゃ、おまんはほんな甲斐性のある男じゃねえら」


周造には分かっていたのだ。

「ふんだけんど、ふじはほう簡単には許さねえど ~

あいつは、噴火すっとおっかねえからなあ」

「 … 名前が『ふじ』ですから」

「ああ」


周造が笑い、吉平も笑った。

長い間、お互いを避け続けてきた舅と婿のふたりがはじめて心が通い合った瞬間だった。

「婿殿 … 」

「はい」

「わしゃもう、そう長くはねえ … ふじのこと、こぴっと頼むぞ。

子供たちのことも頼んだぞ」


吉平はしっかりとうなずいてみせた。

その姿を見て、周造は満足そうに微笑んだ。

そしてまた目を閉じた。

「 … もう一遍、読んでくりょう」

< その日、吉平は周造にせがまれ、何べんも何べんも、はなの小説を読みました >

吉平は目頭が熱くなるのを感じながら本を読み続けた。

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月11日 (水) | 編集 |
第63回

安東家を突然訪れたサダという女性は、吉平と結婚の約束を交わしたと言った。

「あんたみてえな男、もう愛想が尽きたじゃん ~ 出てってくりょう!」

< ついに、ふじが大噴火してしまいました >

ふじの逆鱗に触れて家を追い出されてしまった吉平。

朝市の計らいで何とか教会の図書室に泊まれることになったのだが … そんな企みもはなにはすっかりバレていた。

図書室に現れたはなは吉平の荷物を放り出すと告げた。

「お父、お母がもう帰って来なんでいいって … 」

* * * * * * * * * *

「おら、情けねえの通り越して悔しい … あの人が来た時、お母、最後までお父のこと信じて、『ほんなこん絶対ねえ』ってお父の肩持ってただよ!

『絶対間違いなんかねえ』って、お母にこぴっと言ってほしかった!」


はなは吉平に迫りそして責め立てた。

「お母はもう何年も、お父のこと信じて待っていたのに、傷つけるようなこんしてっ!」

吉平につかみかかって怒りに任せて何度も揺すった。

「はな、お父の話も聞いてくりょう!」

「いい訳なんか聞きたくねえ、お父のバカ!!」


吉平の鼻先で両手を振り回した。

「はな、冷静に話し合おう!」

見かねた朝市が宥めると、怒りの矛先が変わった。

「冷静に話し合うこんなんてねえ!

… そもそも、何で朝市はお父の肩持つでえ?」


はなににらまれて、朝市は一瞬怯んだ。

「ひ、人は … 誰でも、過ちを犯すもんずら」

「はあ?」

「お、おじさんのこと … 受持ちの生徒だと思って、考えてみろし」


はなは吉平の方を振り返った。

情けない顔をして毛布にくるまっている。

「 … 過ちを犯した生徒を受け入れ、いい方に導けるかどうかで、教師の器が決まるら?」

もっともらしいことを言ってはいるが、どこか取ってつけたようで無理があった。

「ほれとこれとは違う!

これだから男は信用できん!!」


* * * * * * * * * *

次の朝、はなは不機嫌極まりない顔で教務室にやって来た。

戸の開け閉めもどこか乱暴で、朝市が挨拶しても無視して目さえ合わせようとしない。

「どうしただ ~ ケンカでもしただか?」

不審に思った校長が尋ねたが、原因が原因だけに説明することを朝市が憚っていると、横から緑川がうれしそうな顔をして口を出した。

「聞いただよ ~

おまんの親父を訪ねて、えっれえ綺麗なおなごが来たらしいじゃん」

「てっ?!」


はなは朝市のことをにらみつけた。

「いやいや、おらじゃねえ!

うちのおしゃべりお母が … 」


緑川どころか、もう村中に知れわたっていると校長があきれ顔で言った。

「まったくおまんちは話題にこと欠かんな ~ 」

いくら校長の言葉だとしても、はなは面白くなかった。

* * * * * * * * * *

その時、小遣いの寅次が、学校に届いたはな宛ての郵便を渡しに来た。

差出人は … 福岡の蓮子だ。

仏頂面だったはなの顔がぱあっと明るくなった。

お互いの著書を交換したふたり、遠く離れていながらも『腹心の友』は復活していた。

急いで廊下に出ると、手紙を開封した。

蓮子の達筆な文字だ。

『はなちゃん、ごきげんよう。

“たんぽぽの目”出版おめでとう、ついに作家「安東花子」の誕生ですね。

このたび、娘の冬子を秀和女学校に入れることにいたしました。

あの、お懐かしい茂木先生に相談しながら、入学の準備を進めております … 』

「てっ?!」


はなは目を丸くした、蓮子に娘がいたことも初耳だった。

* * * * * * * * * *

その頃、蓮子は、黒川を屋敷に呼びつけていた。

「秀和女学校へ冬子さんを?」

「私は、あの学校で素晴らしい先生方と腹心の友にめぐりあったの」


冬子にもその人生の可能性を広げてほしい、秀和女学校ならそれは叶うと蓮子は語った。

蓮子からその話を聞いて、黒川が懸念したのは伝助のことだった。

「 … ご主人が許してくれますかね?」

「絶対に説得してみせます」


蓮子は自信ありげに微笑んだ。

* * * * * * * * * *

黒沢を呼びつけた目的は、冬子にダンスの手解きをしてもらうためだった。

蓮子は大広間に場所を移した。

昔は蓮子のことを母とは認めず、何につけ反抗的な冬子だったが、成長するにつれマナーも身につけ、いいつけにも割と素直に従うようになっていた。

「最初は先生に合わせて動くだけでもいいわ ~ 黒沢先生、お願いします」

黒沢は緊張している冬子の手を取り、蓄音機から流れる音楽に合わせてステップを踏み始めた。

冬子は黒沢にリードされて踊りながら、蓮子に尋ねた。

「何でこげなこつ?」

「あなたはこれから新しい時代を生きるレディになるのよ。

秀和女学校に行って、華族のお嬢様たちと堂々と胸を張ってお付き合いできるように、レディのたしなみを身につけておかなければね」


* * * * * * * * * *

最初は戸惑い気味に黒沢に合わるだけの冬子だが、踊り続けるうちに次第に楽しそうな笑顔を見せはじめた。

若いだけあって勘もいい。

「そう、その調子」

復縁の友との友情もよみがえり、冬子を秀和女学校に入学させるための準備に追われる日々。

蓮子にとって、嘉納家に嫁いできてはじめての充実感を感じる毎日だった。

* * * * * * * * * *

突然、音楽が軋むような音と共に止まった。

いつの間に帰ってきていた伝助が蓄音機を手で止めたからだ。

「こげなこつは、必要ない!」

「でも、これからの女性はダンスのひとつも踊れないと恥をかき … 」

「必要ない!!」


伝助は、蓮子の言葉を声を荒げて遮った。

広間に足を踏み入れて冬子の前に立った。

「冬子、いい見合いの相手が見つかったぞ。

銀行の頭取の息子ばい!」

「何ですって?!」


驚く蓮子に構わず話を続けている。

「近いうちに、先方と食事することになったき、いいな?」

「 … お父っちゃん」


冬子は何か言いたげに伝助の顔を見た。

「冬子さんが可哀そうだと思わないんですか?」

「何を言う?!

… 冬子の幸せを思っちょるきこそ、この縁談を持ってきたとやないか!」


* * * * * * * * * *

「冬子さんはそれでいいの?」

蓮子は冬子の手を取って尋ねた。

冬子は決して喜んではいない … しかし伝助に逆らう勇気もないのか。

「わしの言う通りしちょったら、間違いないき!」

「横暴です!」


にらみ合う伝助と蓮子、どちらも譲らない。

「お嬢様のこと、一番に考えて … どうか冷静に話し合ってください」

そう言い残して、黒沢は立ち去った。

* * * * * * * * * *

先に目をそらして、広間から出て行ったのは伝助だった。

蓮子は伝助の後を追った。

「あなたは卑怯者です。

私に隠れて縁談を進めるとは!」

「冬子んためを思うて決めたことたい、お前は口を出すな!」


前を見据えて、廊下を進む伝助に蓮子はしつこく食い下がった。

「冬子さんはまだ若いんです。

もっと教養を身につけて、自分の可能性を広げるべきです!」

「おなごんクセに学問やらせんでよかっ!

学のあるおなごはわしは好かん!!」


* * * * * * * * * *

足を止めた蓮子は、その場で大声で問い質した。

「じゃあ、何故私と結婚などしたんですか?!」

伝助も足を止めた。

「そら … 」

ゆっくりと振り向き蓮子を見つめた。

「惚れたとたい」

そう言うと蓮子の前まで戻って来た。

「見合いで会うた時、その … まあ … なんちゅうか … いわゆる … ひと目惚れっちゅうやつで … 」

ぶっきらぼうな言い方だが、いい歳をした伝助が照れていた。

* * * * * * * * * *

「ひと目惚れ?

… はじめて伺いました」


しかし、蓮子は怪訝な顔をして伝助を見ていた。

「お前、信じちょらんな?!」

ここまで言わせておいて … 喜ぶどころか疑心に満ちた目で見ている。

「信じろと言う方が無理です!

学のあるおなごは好かんと言ったその口で」

「ああ言えば、こう言う ~ 可愛げのないやつばい!」


可愛さ余って憎さは … 伝助は余計に腹が立ってきた。

「お聞きします!

あなたは私のどこを好きになったのですか?」

「お前の華族ちゅう身分と、そん顔たい!」


売り言葉に買い言葉だった。

必ずしも偽りではなかったが、決して口にするつもりはなかった言葉を怒りに任せて吐き出してしまった伝助だった。

「 … 身分と顔?」

それは彼が思っている以上に蓮子に与えた衝撃が大きい言葉だった。

「そんなの愛じゃないわ!

あなたは何ひとつ私を理解しようとなさらないじゃありませんか?」


蓮子は自分を棚に上げて夫を責めていることに気づいてはいなかった。

「黙らんか!」

一喝すると、左手で蓮子の両頬を挟んでつかんだ。

「 … お前の身分と顔以外、どこを愛せち言うとか?」

絞り出すような声で言った伝助の表情は怒りよりも悲しみに満ちていた。

そして、蓮子の瞳に憎悪の色を見て、その手を緩め、足早に立ち去って行った。

呆然と立ち尽くす蓮子 … 彼女はふたたび心を閉ざすのだった。

* * * * * * * * * *

安東家、朝食。

ふじは箸を持つ手を止め、気の抜けたようにぼんやりとしている。

吉平のことが許せずに追い出したのは自分自身なのだが、気になって気になって、何も手につかないのだ。

まったく食が進んでないのを見て、周造が気にかけて尋ねた。

「腹の具合でも悪いだか?」

そんな言葉さえ、ふじの耳には聞こえないようだ。

「ここの具合ずら … 」

はなは、胸を指してみせた。

「ああ、そうさな … 」

周造が納得すると、ふじはハッと気づいた。

「あ … いや、元気だ」

誰が見ても元気があるようには見えなかった。

* * * * * * * * * *

「ごっそうさん ~

畑はわしがやるから、ふじは休んどけし」


周造はひとりで野良仕事に出かけようとしている。

「この忙しい時に休んでなんか … 」

「いいから、ちょっくら休めし」

「お祖父やんひとりで大丈夫け?」


はなは働きづくめの周造のことも気になっていたが、反対に学校へ遅れると心配されてしまった。

* * * * * * * * * *

吉平は教会の図書室で何回目かの朝を迎えていた。

「おはようごいす」

朝一番に顔を出したのは朝市だ。

リンの目を盗んで、おむすびまで握ってきてくれた。

はなへの求婚どころか、口さえ利いてもらえない状況を作った張本人だが、放っておけない人のいい朝市だった。

「すまんな ~

ふじはまだ怒ってるずらか?」

「たぶん … 」

「ほうずらな ~ 」


余りにもあっさりとあきらめてしまう吉平。

「おじさん、おばさんとこぴっと話した方がいいですよ」

朝市に意見されて、吉平は頼りなくうなずいた。

* * * * * * * * * *

家の前まで戻って来た吉平は、窓の隙間から中を覗いた。

ふじがぼんやりとした顔でわら仕事をしているのが見えた。

話をするなら今しかない ~ そう思った吉平は戸に手を伸ばした。

が、気配を感じて振り向くと庭先に野良仕事から戻った周造が仁王立ちして、にらみつけ居るではないか?!

吉平は周造の方へと向き直った。

「 … ふじとこぴっと話し合おうと思うです」

怒りに震えている周造だったが、何か言おうとした瞬間、目の前が真っ暗になった。

* * * * * * * * * *

相変わらずはなは、朝市とひと言も口を利こうとはしなかった。

落とした鉛筆を拾ってもらっても目も合わせない。

とんだとばっちりだったが、朝市には、はなの怒りが治まるまで、耐え忍んで待つしかなかった。

教務室の静けさを破って、戸が思いきり開かれ ~ 飛び込んできたのは、リンだった。

「はなちゃ~ん! 大変だあ!!」

「お母、また新潟の女の人来ただけ?」


リンは目を剥いて否定した。

「周造さんが倒れただよ!」

* * * * * * * * * *

「お父やん、しっかりしてくりょう … 」

苦しげに布団に横たわっている周造、ふじは必死に額や首からにじみ出てくる汗を拭ってあげていた。

「先生、お願えしやす、お願えしやす!」

診療所の戸を懸命に叩く吉平。

* * * * * * * * * *

はなは我が家を目指して、走り続けていた。

< 大好きなお祖父やんが?! はな、急げ!!

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月10日 (火) | 編集 |
第62回

「ふじちゃんが … とにかく大変だ、早く来てくれちゃあ!」

大慌てのリンに家へ呼び戻されたはなが目にしたのは、見知らぬ女性と対峙するふじの姿だった。

「 … どなた?」

「お父の … 女じゃ」


< さて、お父の女は、ふじに何を言いにきたのでしょう? >

* * * * * * * * * *

ふじは、敵意をこめた眼で女性をにらんでいるが、女性の方は薄笑いを浮かべていてどこか余裕さえ感じられた。

周造は難しい顔で座っている。

何故かリンと、教会の図書室から戻って来た朝市まで板の間に腰かけて様子をうかがっていた。

はながお茶を出すと、女性は口を開いた。

「お母さんと違って気が利くのね、はなさん」

「 … 何で私の名前をご存じなんですか?」

「吉平さんがいつも自慢してたんですよ ~

娘のはなは東京の女学校を出て、英語もしゃべれるって」


ふじとはなは顔を見合わせた。

「あの … うちの父とは、何処で知り合ったですか?」

「新潟で知り合って、しばらく一緒に過ごしました」


臆面もなく言った。

「あ、あの … 一緒にというのは?」

「まるで夫婦のように」


にこりと笑ってみせた。

「てっ?!」

* * * * * * * * * *

「吉平さんは新潟を去る時、こう言いました。

『必ずサダさんを迎えに来るから』って … 」


目を丸くする一同。

「父がですか?!」

「ええ、こうも言いました。

『山梨に置いてきた古女房とは別れるから、一緒になろう』と」


ふじはよろよろと立ち上がると、水瓶に駆け寄った。

気持を落ち着かせるために柄杓で水をすくって口に含んだ。

「それから私、ずっと待ってたんですけれど、寒くなるとぬくもりが恋しくて … 」

「 … ぬくもり?」

「ええ、お嬢さんの前で何ですけれど … 吉平さんのぬくもりが恋しくなって、こっちから迎えに来ちゃいました」


サダは、のろけ話でもするように楽しそうに話した。

* * * * * * * * * *

「ほんな話、うちの人からいっさら聞いてねえです。

人違いじゃねえですか?

ほんな … うちの人に限って、ほんなこと … 絶対に信じれんねえ」


サダにそう言い切ったふじだが、明らかに動揺している。

すると、リンが前にしゃしゃり出てきた。

「ほうだよ ~ 

吉平さんは肝心な時にいっつもうちに居ねえし、4年間も家族ほっぽらかして音沙汰なかったし、いろいろ問題のある婿殿だけんど …

ふんだけんど、ふじちゃんのこと裏切るようなこんだけはするわけねえ!」


周造もうなずいている。

「でも確かに吉平さんはそう言ったんです」

サダも少し強い口調で言い返すと、自分の髪から白い櫛を取って、ふじたちに見せた。

「この櫛も吉平さんがくれました」

ふじに衝撃が走った。

「私によく似合うって … この櫛には俺の気持ちがこもってるって」

へなへなとその場に座り込んでしまった。

「お母?!」

* * * * * * * * * *

「それにしても、吉平さん遅いわね ~ よっぽどこのうち、居心地悪いのかしら?」

サダは立ち上がると、戸を開けて、外の景色に目をやった。

「 … そう言えば、『ふじさん』の話もしてくれたっけ」

「お父、お母のこと何て言ってたですか?!」

「違いますよ、あの『ふじさん』」


サダが指さしたのは富士の山だった。

「甲府から見えるのは、裏富士で、吉平さんの生まれ故郷の静岡から見えるのが、表富士だって教えてくれました。

いつかお前には、表側の富士山を見せてやるって … 」


* * * * * * * * * *

「バカっちょが!!」

今までずっと黙っていた周造が突然、聞いたことがないような大声を上げた。

一番驚いたのは、すぐ前に座っていたはなだ。

「こっちが表に決まってるら!」

富士山のことについては決して譲れない周造は、すっかり頭に血が上っている。

「しゅ、周造祖父やん、お、落ち着いてくりょう」

朝市が慌てて宥めたが、周造の怒りは収まらない。

「帰ってくりょう ~ 二度と来んでくりょう!」

周造に怒鳴りつけられても、サダは少しも怯まずに微笑みながら言ってのけた。

「また来ます」

うなだれたままのふじを尻目に家から出て行った。

* * * * * * * * * *

表に出たサダは、ちょうど行商から戻って来た吉平と鉢合わせした。

「あれ、サダさん?!」

「吉平さん!」


吉平の姿を見て、うれしそうに駆け寄るサダ。

その声を聞きつけて、はなとリンが慌てて外へ出てきた。

「 … どうしたんじゃ?」

「どうしたって ~ はるばる新潟から会いにきたに決まってるじゃない」


馴れ馴れしく吉平の腕を取った。

「お父 … 」

サダに腕を組まれて、吉平は能天気な顔で笑っている。

旧知の仲というのはウソではないらしい。

「じゃあ、吉平さん、また出直すわ」

「あれ、サダさん、もう帰るだけ?」


サダは、腕を解くと何処ともなく立ち去って行った。

その背中をポカンと見送る吉平。

「お父 … 」

「おう、はな、帰ったぞ」

「帰ったぞじゃ、ねえら?!」


吉平は、はなが何故目くじらを立てているのか分からない。

* * * * * * * * * *

「帰ったぞ ~ 」

いつもの調子で家に入っても誰ひとり出迎えはしない。

周造は不機嫌顔だし、ふじは立ち上げって背を向けてしまった。

「 … 皆どうしたでえ?」

「お父、さっきのサダさんって人何なの?」

「ああ、新潟でしばらく同じ木賃宿に泊まってただけんど」


まったく悪びれる様子はない。

「ほれだけじゃねえら?!」

「お父、本当のこと言って!!」


ようやく、皆が自分のことを怒っているのだと感づいた吉平は、朝市に訊いた。

「サダさん、何を言ったで?」

「 … おじさんと約束したって」


吉平は首をひねった。

「け、結婚 … 」

「てっ、結婚?!」


仰天する吉平。

* * * * * * * * * *

「ほんなことある訳ねえら ~

何でえ、皆ほんな話信じただけ?」


吉平は笑い出したが、他の者は誰ひとりにこりともしていない。

「バカ言え、サダさんにはちゃ~んと旦那がいるだ」

その言葉にハッとして、ふじは振り向いた。

「ふんだけんど、ほの旦那が荒くれもんでけんかっ早くってな ~

サダさんはいっつも、あっちこっち行って謝って … ほれでまた旦那に叩かれたりして、気の毒な身の上じゃん」

「お父、ほれじゃあ何もなかっただけ?」

「酒を一緒に飲んだこんはある」


バカ正直な吉平だった。

「酒の勢いで何かあったじゃないだけ?

… 洗いざらい白状しろし!」


リンが不審いっぱいの顔で問い質した。

* * * * * * * * * *

「う~ん 、酔っぱらった後のこたあ … 」

首をひねる吉平。

「ふんじゃあ、ふんじゃあ … 」

ふじはすがるような目で、吉平に迫った。

「 … あの、白くて高そうな櫛はなんでえ?」

「櫛?

… ああ、サダさん気に入ってくれたからなあ、ははははは」


パシッ!!

へらへら笑った吉平の頬をふじの平手が思いきり叩いていた。

「てっ … 」

「あんたみてえな男、もう愛想が尽きたじゃん!」


ふじは金切り声をあげ、吉平につかみかかった。

「出てってくりょう、出てってくりょう ~ 出てけ出てけ出てけ!」

「ちっと待ってくりょう … 違う、何かの間違えだ、ふじ」


弁解する余地も与えずに表に追い出すと、ぴしゃりと戸を閉じてしまった。

* * * * * * * * * *

ふじは戸の前に泣き崩れた。

「あの女といい、婿殿といい、とんでもねえじゃん!

塩まいとけし、塩!!」

「そうさな … 」


追い討ちをかけるリン。

「ふじちゃん、絶対許しちゃダメだからね」

表で耳にした吉平は戸に伸ばしかけた手を引っ込めた。

困った顔をして2、3歩歩き出すと、背中で戸が開く音がした。

「ふじ?!」

振り向くと、そこには鬼の形相の周造が塩の壺を抱えて立っていた。

「まだ居ただか?」

憤然と塩をまくと、ふたたび戸を閉ざしてしまった。

* * * * * * * * * *

家を追い出された吉平が頼ったのは、地主の徳丸甚之介だった。

「何でわしがおまんを泊めんきゃならんら?」

取り合わずに追い返そうとする甚之介に吉平はしつこく食い下がった。

「頼む、今晩ひと晩だけでいいから ~ うち追ん出されて行くとこねえら!」

「追い出されただとう?」


事の経緯を聞いた甚之介は吉平を家に上げた。

「 … 恩に着るじゃん」

「ほの新潟の女のところでも行かれちゃ、ますますふじちゃんが気の毒ずら」


甚之介は今晩だけだと念を押した。

「あの晩、酔っぱらってサダさんと … いやあ、ほんなことはねえと思うけんど … いや、ふんだけんど酔っぱらってたからな ~ いや、 参ったな思い出せねえ」

あやふやな記憶をたどってブツブツつぶやいている吉平に甚之介は、ひとり腹を立てている。

「どうしようもねえ男だと思ったけんど … 本当に許せん奴じゃん!」

「 … 何で徳丸さんは、ほんなに怒るだ?」

「うるせえ、黙って寝ろし!」


* * * * * * * * * *

一夜明けて … 尋常小学校、教務室。

「昨夜、お父何処え泊まったずら?」

朝市が知る由もなかった。

はなが心配しているのは、甚之介と同じようにサダと一緒ではないかということだった。

「心配だな … 」

「ほうだけんど、お母の気持ち考えたら許せねえじゃん」


はなやリン、女性陣は一様にふじの肩を持ち、吉平を責めているが … あの場に居た朝市は、吉平がウソ偽りを言っているようには見えなかったのも事実だった。

その時、ふと廊下に目をやった朝市は、硝子戸の向こうで帽子で顔を隠して手招きしている吉平を見つけた。

はなに気づかれないように廊下に出た。

声を潜めて尋ねた。

「どうするです、これから?」

「昨夜は徳丸さんちに泊めてもらったけんど … ほこも追い出された」


朝市の家に泊めてくれるよう頼んだが、リンはふじ以上にカンカンに怒っているらしい。

「はあ ~ 今夜は野宿するしかねえか」

秋も深まって、甲府は野宿するには厳しい季節になっていた。

* * * * * * * * * *

朝市が思いついた場所は、教会の図書室だった。

「牧師さんに許可貰ってきたです」

朝市は手にしていた毛布を吉平に手渡した。

「今日は泊っていいって」

「ほうか ~ ありがとうな、朝市」


毛布にくるまったが、寒さが身に染みる吉平だった。

図書室から出て行こうとした朝市の足が止まった。

後ずさりする前方から、荷物を背負ったはなが入ってきた。

「朝市 … 」

怒った顔をして朝市をにらみつけた。

「はな?!」

「 … どうして、ここが?」

「ふたりの来そうなとこぐらい分かるさ!」


頭隠して尻隠さず? … 学校の廊下でこそこそ話をしている様子をはなはしっかりと見ていたのだ。

はなが背負っていたのは吉平の行商の荷物だった。

それを無造作に床へと放りだした。

「お父、お母がもう帰って来なんでいいって」

< 秋深し、お父とお母の間もこのまま冷え切ってしまうのでしょうか?

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月09日 (月) | 編集 |
第61回

「お姉やんの新しい物語、楽しみにしてる … 書えたら、送ってくりょう」

< 北海道に嫁いだももに励まされて書いたはなの童話が、めでたく出版されることになりました。

そして、秋も深まったある日のこと >

* * * * * * * * * *

1918年(大正7年)・10月。

はなが学校から戻ると家の前に村人たちが人だかりを作っていた。

「あっ、大変大変!

はなちゃんのことを訪ねて、東京から男の人が来てるだよ」


はなの顔を見たリンが慌てふためいている。

「男の人?」

「ああ、えれえ立派な身なりの紳士じゃん」


急いで家に入ると、周造とふじと向かい合って立っていたのは梶原だった。

「梶原さん?!」

「君の本、出来たよ」


刊行されたばかりの『たんぽぽの目』を携えて届けにやって来たのだ。

「わざわざ届けてくださったんですか?」

「うちの出版社にとっては、記念すべき第一冊目だからね」


立派に製本された『たんぽぽの目』を手に取って、はなは歓喜の声をあげた。

「わあ、夢みたいです!」

今度は間違いなく『安東花子』と印刷されている表紙を夢心地で見つめている。

「それから今日はご家族の皆さんにお願いがあって参りました」

梶原は改まって周造とふじに向き直った。

「 … お嬢さんをください」

「てっ?!」


* * * * * * * * * *

呆然とする一同。

「 … 梶原さん?」

はなは頭を下げている梶原に声をかけた。

「この間の話、真剣に考えてほしい」

「ああ ~ あの話ですか?」


胸をなで下ろすはな。

「はな、あの話って?!」

話がみえないふじが不安げにはなに尋ねると、はやとちりのリンが横から口を挟んできた。

「ほりゃあ、結婚話しかねえら ~ 」

「そうさな … 」


はなは慌てて否定した。

「違う、違うってば!」

順序立てて話を切り出さなかった梶原も悪い。

「実は新しく作った出版社で一緒に働いてほしいと、はなさんをお誘いしているんです」

「ほうですか ~ 出版社」


ふじは安堵してみせたが、はなが必要とされていることには変わらない。

「余り大きくはないが、銀座に編集室を構えたんだ。

醍醐君も君が来てくれるのを待ってる … 是非、いい返事を聞きたい」


* * * * * * * * * *

「はな、東京に行っちまうだけ?」

周造が心細そうな顔をして尋ねた。

「 … お祖父やん、お母、心配しなんで」

ふたりにそう告げたはな。

「梶原さん … 私、やっぱり決心がつきません。

このうちを離れる訳にはいかないので … 」


申し訳なさそうにうつむいたはなを見て、梶原も察したのだろう。

残念な表情をしながらも、それ以上は何も口にはしなかった。

* * * * * * * * * *

「山梨から見る富士山もなかなかいいな ~ 」

家から出た梶原は目の前に広がった甲斐の山々を従えたような見事な富士山に思わず感嘆の言葉を漏らした。

「こっちが表でごいす!」

もの静かな周造が声を荒げたので、梶原は意外な顔をした。

「静岡から見るのは裏だ。

こっちが表っ!」

「 … お祖父やんは、富士山にはうるさいんです」


はなとふじは笑っているが、周造は真剣そのものだ。

生まれた時からずっとそこにある富士山のことは誰であっても譲れないのだろう。

「ああ、それは失礼しました」

梶原は周造に頭を下げた。

「僕はあきらめずに待ってるから … 決心がついたらいつでも連絡してくれ」

はなに懐から取り出した名刺を渡して東京へ戻って行った。

* * * * * * * * * *

「ほら見ろ、やっぱし俺が思った通り、はなはうちの希望の光だったら?」

行商から戻った吉平は『たんぽぽの目』を手にして自慢げにふじに言った。

「あんたがいっとううれしそうじゃんね ~ 」

ふじは朗らかに笑っている。

「ほりゃあ、うれしいさ ~ 」

そんな両親を見て、はなは少しだが親孝行できた気分だった。

「ほうだ、ふじ … 2、3日くれえ畑仕事休めんけえ?

おまんを連れて行きてえとこがあるら」


吉平の言葉にふじはあきれ顔で立ち上がってしまった。

「はあ、またほんな突拍子もないこと言い出して」

「てえ ~ 旅行け?

いいじゃんね ~ たまにはふたりで言ってこうし」


横で聞いていたはなも勧めたが、ふじは怒ったような口ぶりになった。

「はなまで何を言うだよ?!

この忙しい時に畑ほっぽらかして遊び行ける訳ねえじゃん!」


* * * * * * * * * *

その晩、はなは蓮子に手紙を書いた。

『蓮様、ごきげんよう。

9年間もご無沙汰してしまって、ごめんなさい。

先日は、素敵な歌集とお便りありがとうございました。

私は甲府に帰ってきてから、学校と家の往復で毎日が慌ただしく過ぎていき、書くことからは遠ざかっておりましたが、蓮様の歌集を拝読し、雷に打たれたようでした。

白蓮の名で詠まれた歌の数々、田舎教師の私にとっては大いに刺激的で触発されました。

お蔭で私はもう一度、物語を書くことに挑戦できたのです … 』


* * * * * * * * * *

数日後、福岡の蓮子の元にはなからの小包か届いた。

待ちきれないように開封すると、件の手紙と一緒に一冊の本 … 『たんぽぽの目』が同封されていた。

著者名は『安東花子』。

急いで表紙をめくると見返しに『腹心の友に捧ぐ 花子』と記されていた。

感激する蓮子に、楽しかった秀和女学校でのはなと過ごした日々がよみがえってきた。

「ねえ、蓮子さん … 私の腹心の友になってくれて?」

「ええ」

屈託なく笑い合えたあの頃 …

「はなちゃん、ついにやったわね!」

蓮子は遠く離れた『腹心の友』に祝福の言葉を贈った。

* * * * * * * * * *

秀和女学校での充実した生活を思い出した蓮子にある考えが沸き上がった。

それを夕食の席で夫の伝助に切り出した。

< 蓮子の献身的な看病のお蔭で、伝助はすっかり元気になりました >

「私、いいことを思いつきましたの ~

冬子さん、もうすぐこちらの学校、卒業なさるでしょ?

来年の春には是非、東京の秀和女学校の高等科へ進学するべきだと思いますの」

「 … 東京の女学校?」


蓮子の提案を聞いて、冬子の顔が強張った。

「いきなり何を言いよると?」

伝助も困惑している。

「娘に最高の教育を受けさせることは親の努めですわ。

その点、秀和女学校なら最高の淑女教育をしてくださいますから」


機嫌よく話す蓮子を伝助は憮然と見つめた。

* * * * * * * * * *

「冬子さん、心配しなくていいのよ ~ 秀和の先生方は素晴らしい方ばかりです。

きっと気に入りますとも」


しかし、伝助は大きくかぶりを振ってみせた。

「いや、冬子はもうよか歳になったき、見合いでんした方がよか!

なあ?」

「お見合いなんて、まだ早すぎます!

… 入学手続きは、こちらで進めますから」


蓮子の言葉を聞きながら、伝助はブドウ酒を注ぐタミと意味ありげに目を合わせた。

そして、不機嫌にそれを一気に呷った。

* * * * * * * * * *

『たんぽぽの目』は教務室でも注目の的だった。

「わしも教え子が有名になってくれて鼻が高えじゃん」

「校長先生、買ってくださったんですか?

ありがとうごいす!」


ふと気づけば、本多校長だけでなく、あの緑川も『たんぽぽの目』を手にしているではないか。

「 … 本屋の看板娘が面白れえって勧めるもんで、買っただけじゃん」

バツが悪そうな顔をしてみせたが、珍しいことに内容についての批判は一切口にしなかった。

朝市も自分の席に座って『たんぽぽの目』を読んでいる。

「木場先生も読んでくれてありがとう」

はなは朝からご機嫌で席に着いた。

しかし、朝市は、実は本など上の空で、必要以上にはなのことを気にしていたのだ。

* * * * * * * * * *

始業の鐘が鳴り、はなと朝市が教務室から出ると … シゲルやきよたち、はなのクラスの生徒数名が廊下で待っていた。

「 … 皆、どうしたの?」

「はな先生、小説家の先生になったずら?」

「学校辞めて、東京行っちもうだけ?」


心配そうに訊いてきた。

「えっ?」

「お母が言ってただよ、東京から男の人が誘いに来たって … 」


きよは今にも泣きだしそうだ。

はなは笑顔で首を振った。

「ううん、先生は何処にも行かないよ」

「本当?!」


生徒たちの顔が、ぱあっと明るくなった。

「本当、本当 ~ さあ、教室に入って」

「は ~ い!!」


安心した生徒たちは、元気に返事をして教室へ戻っていく。

ああは言ったものの、はなは迷っている … その表情から朝市は感じ取っていた。

「はな … 東京の出版社のこと迷ってるだけ?」

「ううん、朝市こそ浮かない顔してどうしたでえ?

悩みがあるなら、はな先生が聞いてやるじゃん」


本心を見透かされたはなは、わざとおどけてみせた。

* * * * * * * * * *

生真面目な朝市は、思いつめるほどに暗い表情になってしまう。

「はな、大事な話があるだ。

放課後、時間あるけ?」

「 … うん」

「教会の本の部屋で待ってるから … 後で来てくりょう」


はなの目をまともに見ようともせずにそう言うと、さっさと先に行ってしまった。

* * * * * * * * * *

放課後はあっという間にやってきた。

「お姉やんが好きずら? … こぴっと伝えんきゃダメだよ」

ももの言葉を胸に秘め、朝市は教会の図書室ではなのことを待っていた。

ほどなくして、はなはやって来た。

バカがつくほど恋愛に鈍感なはなは、この期に及んで朝市の気持ちに全く気づいてはいなかった。

「朝市、何ずら ~ 大事な話って?」

「うん … 」


首を傾げて朝市の顔を覗き込んだ。

「あのな … 」

朝市は、あの日のももの気持ちが痛いほど分かった。

心臓が口から飛び出しそうだ。

「 … おら … ずっとはなのこと」

* * * * * * * * * *

「はなちゃん、はなちゃん!」

あと一歩のところだった。

「てっ、お母?!」

図書室に大騒ぎで飛び込んできたリンがすべてを台無しにした。

「ふじちゃんが … ふじちゃんが!」

「お母がどうしたで?」

「何かあっただけ?」


リンは多くを語らず「とにかく大変だ」とまくしたてた。

「早く来てくれちゃあ!」

はなの手を引いて図書館を飛び出して行ってしまった。

必死な思いで振り絞った勇気に水をかけたのは、こともあろうに母親だった。

図書館にひとり置いてけぼりの朝市は、呆然として座り込んだ。

* * * * * * * * * *

「お母!」

はなが家に戻ると、ふじは土間で見知らぬ女性とにらみ合っていた。

色白で涼しげな目、鼻筋の通った整った顔、ふじとは全く対照的な女性。

「お客さん?」

「そうさな … 」


周造に尋ねてもそれしか返ってこなかった。

ふたりはひと言も話さない。緊迫した雰囲気が漂っている。

「 … どなた?」

はなはもう一度、周造に尋ねた。

すると、ふじが憎悪を込めた目で女性をにらみつけながら口を開いた。

「お父の … 女じゃ」

< さあ大変、お父の女がふじに何を言いにきたのでしょうか?

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月08日 (日) | 編集 |
まずは、先週のおさらいを …



それでは、次週の「花子とアン」は?

ある日、東京から梶原(藤本隆宏)が、甲府の安東家にはな(吉高由里子)を訪ねて来る。梶原は新刊の「たんぽぽの目」をはなに渡し、あらためて新しい出版社へ誘うが、はなはふじ(室井滋)や周造(石橋蓮司)をおいて甲府を離れる訳にはいかない、と断る。

それでも内心、「安東花子」と記された本に感慨を抱いたはなは、福岡の蓮子(仲間由紀恵)にあてて手紙を書くのだった…。

大事な話があるんだ

そんなある日、はなは小学校で朝市(窪田正孝)に「大事な話がある」と言われ、放課後に教会の図書室で待ち合わせをすることに。

ところが、やって来たはなに朝市が用件を切り出そうとすると、「大変だ!」とリン(松本明子)が血相変えて飛び込んできて、はなを連れて行ってしまう。

結婚?

リンに連れられはなが家に駆けつけると、ふじ(室井滋)が見知らぬ女とにらみ合っていた。その女・サダ(霧島れいか)は、かつて木賃宿で吉平(伊原剛志)と夫婦のように暮らし、一緒になると約束したから迎えに来た、と話す。

お父の女じゃ

ふじは動揺しつつも「うちの人に限ってそんなことはあるはずない」と反論するが、サダは決定的な“証拠”を指し示す。周造はじめ一同が絶句していると、吉平が帰って来る…

あなたは何ひとつ私を理解しようとなさらないじゃありませんか …

黙らんか?!


そんな中、はなが先日手紙を送った福岡の蓮子から返事が届く。蓮子は娘の冬子(城戸愛莉)を修和女学校へ進学させるため奔走していたが、伝助(吉田鋼太郎)は …

これだから男は信用できん!

騒動の中、周造が倒れる。

お願いします … おらのわがままを聞いてくりょう

花子とアン 公式サイト、YAHOO!テレビガイド他を参照)

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2014年06月07日 (土) | 編集 |
第60回

< はなは書き上げた新作をかつて働いたことのある出版社、向学館に持ち込むことにしました >

「あれ、安東君じゃない?」

「梶原さん、ごきげんよう」


編集長の梶原は、はなを笑顔で迎えてはくれたが、先約との打ち合わせが入っていて忙しそうだ。

取り合う暇もないようで、はなはその場で待たされた。

「ちょっと邪魔、どいて」

邪見な物言いで、はなを避けさせて偉そうに編集部に入ってきたのは、どこか見覚えのある女性 … 化粧も濃くなり、着物も上等なものに変わっているが、かつてはなと同時期に『児童の友』賞を受賞した宇田川満代だった。

「宇田川先生、お待ちしておりました」

梶原が待っていた打ち合わせの相手の満代は職員たちに丁重に扱われれながらソファーに腰かけた。

そんな満代を見て、はなは明らかに気おくれしていた。

< どうした、はな ~ こぴっと売り込むんじゃなかったの? >

* * * * * * * * * *

「いやあ、面白いですね」

梶原は満代の原稿に目を通しながら絶賛している。

「 … 売れっ子の小説家にすぐになってみせます!」

< 宇田川満代は、あの言葉通り人気作家になっていました。

それに引き換え … >

「あら、どっかで見た顔だと思ったら、『みみずの女王』の … ?」

満代は、はなのことに気づいたが、名前までは出てこないようだ。

「そうです、一緒に『児童の友』賞を受賞した安東さんです」

梶原ははなに満代に挨拶するよう促した。

「 … どうもご無沙汰しております」

梶原からはなも新作を書いたことを聞くと、満代は少しだけ興味を示した。

「ふ~ん … あなた、もう書くのは辞めて田舎で教師やるとか言ってなかった?」

「ええ、でも … 」

「ちょっと見せて」


満代は、はなが手のしていた封筒をサッと奪うと、承諾も得ずに原稿を取り出してしまった。

「『たんぽぽの目』 … 相変わらず、ぬるい作文みたいな題ね」

パラパラとめくっただけで、はなのことをにらみつけた。

「こっちは命がけで書いてんのよ …  田舎教師の趣味と違うの」

無碍もなく、原稿を突き返してきた。

* * * * * * * * * *

気迫負けしたはなはふと梶原の机の上に目をやった。

送られてきた原稿らしき封筒が山積みになっている。

< これでは、いつ読んでもらえるか分かりません >

はなは意気込んでいた気持ちがみるみるうちにしぼんでいった。

「はなさん、お久しぶり」

そこに声をかけてきたのは醍醐亜矢子だった。

「醍醐さん?!」

以前よりまたいちだんと華やかな洋装姿の亜矢子にはなは目を見張った。

「編集長、今日はずっと打ち合わせだから … 明日、出直した方がいいわ。

必ず読ませるから」


亜矢子はそう言って、はなの原稿を預かった。

* * * * * * * * * *

その晩、はなはかよの部屋に泊まった。

「ちっくいけど、ここがおらのお城」

こじんまりとして小奇麗に片付いた部屋に裁縫の道具の他、ミシンまで置いてある。

「うん、洋服店の旦那さんも女将さんもいい人でよかったね」

店の様子やこの部屋を見ただけでも、かよが大事にしてもらっているのがよく分かって、はなは安心していた。

* * * * * * * * * *

久しぶりに会った姉妹は積もる話に花を咲かせた。

「かよに話したいことがいっぱいあるさ ~ 手紙に書ききれんかったこともたくさんあっただよ」

「おら、いっとうびっくりしたのは、もものことじゃん。

あの子がこんなに早くお嫁に行くとはね … ほれも北海道なんて」


話がもものことに及ぶと、はなは不機嫌な顔になった。

「おら、まだ納得できんことがある。

ももは、朝市のことが好きだったのに …

もも、こぴっと朝市に気持ちを伝えただよ」


うなずくかよ。

「ほれなのに … 」

「朝市の方から断っただね?」

「 … うん」

「ほれで、ももは北海道なんて遠い所へお嫁に行っただけ?」

「おら、朝市のことが許せなくて …

もも、一生分の勇気を振り絞って朝市に気持ちを伝えただと思う。

ほれを断るなんて … 男の風上にも置けねえ!」


憤るはなにかよは神妙な顔で訊いた。

「お姉やん、何で朝市がもものこと断ったか本当に分からんの?」

「分からんから怒ってるだよ ~ もも、あんなにいい子なのに」


* * * * * * * * * *

「お姉やんは誰かを本気で好きになったことねえの?」

唐突な問いかけに、はなは答えることができなかった。

「本当に好きになったら、他の人と取り換えなんて利かないさ。

朝市が本当に好きなのは … 」


かよははなをまじまじと見つめた。

「 … きっと、ほういう取り換えの利かねえ相手なんだよ」

かよはお茶と一緒にその相手の名前を飲み込んだ。

「かよ … 知らんうちに大人になっただね」

しきりに感心してニヤニヤしているはな。

ここまで言っても、まったく気がつかない姉の鈍感さに半ば呆れているかよ。

「お姉やんは、ちっとも変わらんねえ」

「てっ、ほんなあ … 」


< 確かに、3人姉妹の中で恋愛問題に一番疎いのは、はなかも知れません >

* * * * * * * * * *

一方、甲府の安東家。

聞こえてくるのは、ふじが生糸を紡ぐ音と周造が草鞋を編む音だけだ。

「静かじゃんね ~ 」

「そうさな … 」


その静けさを破るかのように、となりのリンが顔を出した。

「やだよ ~ ここんちは、お通夜みてえじゃん」

「リンさん、お出でになって」

「はなちゃん、東京行っただと?」


自分が書いた作品を出版社に持ち込んだと知って、困惑顔になった。

「本当に小説家になる気ずらか?

… 困ったねえ」

「何でおまんが困るで?」


訝しがる周造。

「うちの朝市だけんど … 縁談があっても断ってばっかしだからおかしいと思って、おらこぴっと考えただ」

リンは腕を組んで首をかしげる仕草をした。

「ひょっとしたら ~ 心に決めた人がいるずらかって」

ここにもひとり、はな級の鈍感がいた … いや、そのことに気づいただけ、はなよりは少しましかも知れない。

ふじも周造も黙って聞いている。

「 … ほりゃあ、はなちゃんじゃねえかって!」

リンは確信した顔をしてみせた。

「リンさん、お母のくせに今っ頃気づいただけ?」

「そうさな ~ 」


顔を見合わせて笑ったふたりを見て、仰天するリン。

「てっ、やっぱしほうけ?!

何でふたりとも言ってくれなんだで ~ 」


* * * * * * * * * *

かよと枕を並べて寝床に入ったはなは、はじめて弱音を口にした。

「勢いで出版社に持ち込んでみたけんど、宇田川満代さんに会って圧倒された。

小説一本でやってく人は、やっぱり違うさ」

「本当に小説家になりてえなら、何だってできるはずじゃん。

お姉やんが本当に本気なら … 」

「かよの言う通りかも知れねえ … 本当は自信がないの」


はなは自嘲気味に笑うとスタンドの灯りの中、かよの顔を見た。

「 … かよは何でも自分で決めて、いっつも前に進んで偉いじゃんね」

かよはにっこり笑ってスタンドを消した。

「おやすみ ~ 」

あっという間に目を閉じてしまった。

はなも暗がりの中、天井を見つめて考え込んでいるうちに眠りに落ちていった。

* * * * * * * * * *

翌日、はなが向学館を再び訪れると、梶原はちょうどはなの原稿に目を通している最中だった。

亜矢子の案内で梶原の前のソファーに座らされたはなは目一杯緊張しながら待った。

読み終えた梶原は、難しい顔をして腕を組み、そして口を開いた。

「君は小説家になるには普通すぎる … と言ったよね?」

「はい、あきらめた方がいいと言われました」

「君の新作は、ひどく普通だ」


ある程度予想していた評価だった。

「 … 平凡すぎる私が本を出したいなんて、やっぱり無理ですよね」

傍らの亜矢子も梶原の言葉に表情を曇らせている。

「分かりました … あきらめます。

お時間取らせて申し訳ありませんでした」


しかし、面と向かって言われると、さすがにショックは大きく動揺を隠すことができなかった。

「はなさん … 」

「 … 安東君」


梶原が何かを言いかけたのを制して、はなは立ち上がった。

「あ、あ … 大丈夫です。

慰めとかそういうのは一切いりませんから … これでこぴっとあきらめがつきました」


顔をひきつらせながらそう答えた。

「ありがとうございます … ごきげんよう、さようなら」

頭を下げると、慌ただしく出口に向かおうとした。

一秒でも早くここから逃げ出して、甲府に飛んで帰りたかった。

* * * * * * * * * *

「話は最後まで聞きたまえ!」

梶原は少し怒ったような口調で呼び止めた。

「この作品は何気ないありふれた日常を切り取っている。

ささやかな暮らしの断片に光を当て、奇をてらったところが少しもない」


はなの作品の平凡な点をあげつらった後、梶原はひと言つけ加えた。

「 … そこが実にいい」

はなは少し混乱しながら、梶原の言葉に耳を傾けた。

「君は平凡さを逆手にとって、素晴らしい作品を書き上げた。

洗練された平凡、それは直ちに非凡さに通じるものだ」


梶原は、自分の作品を褒めていることをようやくはなは理解した。

「是非、出版させてくれ」

はなは俄かに信じることができず、梶原に聞き直していた。

「 … 本にしていただけるんですか?」

すると、梶原は立ち上がって右手を差し出してきた。

「よろしく」

はながおどおどと差し出した手で握手をすると、亜矢子が飛びついてきた。

「おめでとう、はなさん … じゃなかった。

安東花子先生、おめでとう!」


< はなは、ふわふわと、何処かへ飛んで行きそうな気分でした。

遂に、『花子』の名前で本が出版されるのです >

* * * * * * * * * *

< その頃、朝市は … >

「朝市さんも … こぴっと伝えんきゃダメだよ」

教会の図書室で、旅立っていったももが残した言葉を思い返していた。

「よしっ」

< 朝市は決意していました。

はなが東京から帰って来たら、今度こそ気持ちを打ち明けようと … >

「安東はな様 … 」

それでは、少し堅苦しいかと思い直し、呼吸を整えてもう一度、はじめから言い直した。

「はな … おら、ずっとはなのことが好きだっただ。

結婚してくりょう!」


* * * * * * * * * *

原稿を預けて甲府へ戻るはなを梶原と亜矢子が見送りに出てきた。

「今度こそ、安東花子の名前で出していただけるんですよね」

「もちろん。

ただし出版社はここじゃない」


そう言いながら、梶原は亜矢子と目くばせをした。

「 … 実は近々、出版社を作ることになったんだ」

「私も編集長についていくの」

「醍醐さんも?!」


梶原は一冊の雑誌をはなに見せた。

「この『赤い鳥』のような児童向けの本を作りたいと思ってる」

独立後の第一作目として『たんぽぽの目』を出版したいという。

「 … どうかな?」

「ありがとうございます」

「もし君が本気で執筆を続けていく気があるなら、東京に来ないか?

新しい会社で一緒に働いてほしい。

きっといろんな出会いがあるだろうし、君にとってもいい勉強になると思う」


思いもかけない梶原の提案。

「はなさん、一緒に頑張りましょう!」

「て … 」


ただただ驚くばかりのはなだった

< この続きは、また来週。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月06日 (金) | 編集 |
第59回

家に戻ったはなは、庭先でふじの腕の中で子供のように泣きじゃくるももの姿を目の当たりにした。

「もも … 」

< はなは、ももの初恋が実らなかったのを、その時知ったのでした >

* * * * * * * * * *

< ももが北海道へ旅立つ朝がやってまいりました >

土間でせっせと荷づくりするもも。

「北海道の冬は甲府の何倍も寒いっていうから、おねえやんのもたくさん持って行けし」

はなは自分のありったけの防寒着を持ち出してきた。

「こんなにくれて … お姉やんは冬が来たらどうするでえ?」

「北海道の冬はここよりもずっと長いから」


とにかく旅立つ妹に何でもかんでも持たせてあげたいのだ。

ももが着ているのは、ははなから譲られたお茶会の時の思い出の赤い着物だ。

「もも、これも持っていけし」

周造も藁で編んだ手袋と草鞋を差し出した。

「お祖父やんありがとう、大事に使うよ」

ももの行李は、あふれそうな荷物でいっぱいになった。

「もも、これ産土様のお守りだ、持ってけし」

ふじは小さなお守り袋を手渡した。

「ほれにしても北海道なんて遠く行かんでも、この辺になんぼでもいいのが … 」

何も知らない隣のリンが余計なことを言いそうになったので、ふじは慌てて話をそらした。

「ああ、リンさんがお餞別持ってきてくれただよ ~ 」

「これ、腹壊さんように … おらのお古の腹巻だあ」


リンの餞別はいつでも腹巻だと周造が言うと皆が笑った。

「ほれじゃ、ももちゃん元気でね」

朝市に家族水入らずの邪魔をするなと言われたからとリンは慌ただしく戻っていった。

* * * * * * * * * *

「よし、ほれじゃあ、そろそろ行くけえ」

荷物をまとめ終わったももを見て、吉平が腰を上げた。

「お父、待って」

「忘れ物け?」


うなずいたももは皆に向かって座り直した。

「お祖父やん、お父、お母、お姉やん … 今までどうもありがとうごいした」

そう言って、丁寧に頭を下げた。

「もも、ほんな改まらんでも … 」

「こういうのは、こぴっとやらんとダメずら?」

「 … そうさな」


ももに言われて、周造をはじめ家族皆も座りなおした。

そして、ひとりひとりに挨拶をはじめた。

* * * * * * * * * *

「お祖父やん、草鞋と手袋、ありがとうごいす。

ほれと、畑仕事とわら仕事教えてくれて、ありがとごした」

「達者でな … 体にはくれぐれも気つけるだぞ」

「はい、お祖父やんもまだまだ元気でいてくりょうし」

「そうさな …

もも、我慢したらいけんぞ ~ 婿のことなんか尻に敷くぐれえがちょうどいいだからな」


笑顔でうなずいたももは、吉平を見た。

「お父、おらのために縁談見っけてきてくれて、ありがとうごいす」

「もも … 」

「ほれから、この櫛もうんとうれしかったさ ~

一生、大切にします」

「もも、ほんなこと言うな … またいつでも買ってやるから」


* * * * * * * * * *

「お母 … 」

「もも、旦那さん支えてこぴっと頑張るだよ」

「はい、お母のほうとうの味は一生忘れねえ」

「いつでもこせえてやるさ ~ ももの帰るうちはちゃんとここにあるだからねえ」

「お母 …

おら、お母みてえな強くて優しいお母になるよ」


目を潤ませて聞いているふじ。

「お母、おらのこと産んでくれて、ありがとうごいす」

「もも、幸せになれし」


* * * * * * * * * *

「 … ほれから、お姉やん」

ももははなの方に向き直った。

「お姉やんの書えた『みみずの女王』の話、あっちで皆に読んであげるだ」

「うん」


はなも目を潤ませ鼻をすすりながらうなずいた。

「お姉やんはおらの自慢じゃん」

北海道までは長旅だと、他の本も持たせようと取りに立とうとしたはなをももは止めた。

「ううん、おら知らねえ人が書いた本よりも … お姉やんが書いた話が読みてえ」

「もも … 」

「お姉やんがしてくれる話は、全部突拍子もなくて面白かったなあ ~

お姉やんの新しい物語、楽しみにしてる。

書えたら、送ってくりょう … 約束だよ」


目をキラキラと輝かせて身を乗り出した。

「うん」

* * * * * * * * * *

ももが急に口をつぐんでうつむいた … 泣きそうになるのを堪えているのだ。

「 … もも、そろそろ汽車の時間じゃ」

吉平に急かされて、ももは最後にまた姿勢を正した。

「おらのこと、今日まで育ててくださって … ありがとうごした!」

深々と頭を下げたももに、家族も同じように頭を下げて返した。

顔を上げたももはこぼれる涙をぬぐいながら笑顔を見せた。

ももの健気さに涙する一同。

北海道までの距離を考えると、もしかしたら今生の別れになるかも知れないのに、誰もがまた会えると信じていた。

涙と笑顔に見送られてももは家を出た。

この村を出ていく者、誰もがするように、村はずれの大きな樹下でももは見慣れた甲府の景色を振り返った。

今日まで過ごしてきた故郷にお辞儀をして、ももは吉平に連れられて旅立っていった。

< もも、Girls, be ambitious. お幸せに … >

* * * * * * * * * *

その晩の夕食。

囲炉裏を囲んでいるのは、周造、ふじ、はなの3人きりだ。

「 … 行っちまっただな」

周造がポツリとつぶやいた。

「ももは、明るくて働き者だから、きっと皆に好かれて幸せにやっていけるだね」

そんなももが居なくなって安東家の食卓は火が消えたようだ。

「何だかこのうち … 広くなったね」

はなが家の中を見渡しながら言った。

「何を言ってるだ ~ うちが急に狭くなったり広くなったりする訳ねえら」

強がっているふじの言葉に皆笑ってはいるが、ももが居ない寂しさは少しも消えなかった。

* * * * * * * * * *

はなはももと約束を果たすために、新しい物語の執筆に取り掛かった。

「お姉やんの新しい物語、楽しみにしてる … 書えたら、送ってくりょう」

ももの言葉を胸に、はなは一念発起したのだ。

「よしっ、平凡な私にか書けない『普通の話』を書くじゃん!」

教会の図書室の机で原稿用紙に向かうと、自然と書き出しの文章が浮かんできた。

『百合子はひとりっ子でしたから、お友達が遊びに来ない時は寂しくてたまりませんでした』

するとウソのように次から次へと物語の続きが湧いてくる。

『誰か遊びに来ないかな ~ と言いながら、お庭の木戸から裏の原っぱへ出て行きました』

* * * * * * * * * *

『私ね、お父さん、たんぽぽは子供に似ていると思うの、チョウチョやハチと一日中元気に踊っているようじゃありませんか。

お日さまが沈むと、たんぽぽも目をふさいで眠りますのよ』


執筆の場所を変えても、筆は面白いように進み、はなは昼も夜も寸暇を惜しんで物語を書き続けた。

『お父さんもこれからは、たんぽぽを邪魔だなんて言わないようにしようね ~ お父さんは優しく百合子の頭をなでました』

* * * * * * * * * *

そして、入道雲が広がる熱い日に、はなは1本の物語を書き上げた。

白紙の原稿用紙の真ん中に物語の題名『たんぽぽの目』と書き入れ、その下に『安東花子』と署名した。

* * * * * * * * * *

数日後、はなは東京へと向かう汽車に乗った。

上京するのは、『児童の友』賞を受賞した時以来だ。

訪れた場所は向学館。

< はなは、出版社に原稿を持ち込んで、直談判することにしたのです >

「よし、こぴっと売り込むだ」

そう自分に気合を入れると編集部に足を踏み入れた。

< 気合だけは、十分です。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月05日 (木) | 編集 |
強調文第58回

< 大好きな朝市の心の中にいるのは、自分ではないことをももは知ってしまったのです >

教会の図書室から立ち去ったももが家に戻ったのは大分時間が経ってからのことだった。

「ただいま!」

元気を装って家に入った。

「もも、やっと帰って来ただか?」

「どけえ行ってたでえ?」


すでに戻っていたはなが心配顔で訊いた。

「教会の本の部屋行ったけんど、お姉やんと会えなんで … ほいで、学校の方も見に行ってたさ」

「おら、本の部屋にいたよ」

「てっ、どうして見えなんだずら?」


わざと驚きながら自分の席についたが、はなと目を合わせることができない。

「あっ … おら、ぐ~ぐ~寝てて、ももが来てくれたのちっとも気づかなんださ」

「何やってるだ、はなは ~ 嫁入り前の娘がそんなとこ人に見られたらどうするだ?」


周造が笑いながら注意した。

ももの微妙な変化に気づいているのは、ふじだけだった。

* * * * * * * * * *

「 … 朝市さんとお姉やんならお似合いじゃん」

ももは満月にそう語りかけた。

大好きなふたりが一緒になってくれたら、こんなにうれしいことはないじゃん … そう自分に言い聞かせて微笑んだももだった。

< その晩、ももは重大な決意をしたのです >

* * * * * * * * * *

翌朝、皆が揃った朝食の席でももは突然切り出した。

「お父 … おら、あの縁談受けようと思う」

驚く家族一同、話を勧めてきた吉平でさえ唖然としている。

「もも?!」

「本当け?」


ももはうなずいた。

「おら、北海道へ行って、森田さんって人と幸せになる。

がーる、びー … なんとかだ!」


不自然にはしゃいでみせた。

「もも急にどうしたでえ?」

皆、朝食の箸を止めて、もものことを見つめている。

「なるべく近くの人と結婚して、家族と離れるのは嫌だって言ってたじゃん?!」

寝耳に水のはな、自分に相談さえしないで決めてしまったももを問い質した。

「もう決めたさ … おらは、お父が選んでくれた人と結婚する」

笑顔できっぱりと言い切った。

しかし、はなは合点がいかない。

「だって、ももには好きな人が … 」

「はな、もういいら?」


はなの問いかけを遮ったのはふじだった。

「お母?」

「ももが自分で考えて決めたことさ。

… お母は賛成じゃん」


ももの方を見てにこりと笑ってみせた。

「ほんな … 」

* * * * * * * * * *

「何で急に縁談受けるなんて言い出したずら?」

どうにも腑に落ちないはな。

朝市に話すと驚きはしたが、まるで当事者意識が感じられない。

「ももちゃん、決心したのか?!」

「何が決心したのかよ?

朝市はももが結婚しちまってもいいだけ?」

「いいも何も、ももちゃんが自分で決めたずら?

おらが口出しすることじゃ … 」

「朝市の鈍感!」


はなは、ももの気持ちに全く気づかない朝市に腹を立てたが、同じくらい自分も鈍感だということには気づいていなかった。

* * * * * * * * * *

ももが家の裏で薪を割っていると、吉平が改めて確認をしてきた。

「もも、本当に縁談進めていいだけ?」

「ええ、お父が勧めたずら?」


どうにも吉平は手放しで喜ぶことができなかった。

「まあ、ほうだけんどな ~ 朝市のこんはいいだけ?」

「なんで朝市さんが出てくるでえ? … へんなお父じゃん」


ももが朝市のことを好いているのは間違いないと分かっているからだ。

* * * * * * * * * *

「このままでいい訳ねえ … 」

仕事にも集中できないはなは、もものためにと立ち上がった。

「ねえ、朝市」

思いつめたような顔のはなを朝市は訝しげに見た。

「後で教会の本の部屋に来て … 待ってる」

* * * * * * * * * *

そして、そのことをももに伝えるために家に戻った。

「 … 朝市が本の部屋で待ってる。

ももは、朝市のことが好きなんだよね?」

「やだな ~ お姉やんまで、何を言ってるでえ?」


ももは笑って誤魔化そうとしたが、はなは構わず話を続けた。

「縁談の話決める前に、朝市にももの気持ちこぴっと伝えた方がいいと思う」

「ふんだけんど … 」


真顔になったももだが、迷っている。

「気持ちを伝えないまま、他の人と結婚するなんて … 絶対だめだよ。

きっと後悔する」


そんなふたりのやり取りを、ふじと吉平が土間で聞いていた。

「ももの気持ちが本物なら、勇気出して。

… 心に思ってることを伝えないのは、思ってないことと同じことだよ」

「お姉やん … 」


その言葉がももの背中を大きく押した。

「行こう」

ももはうなずいた。

土間では、吉平はうつむき、ふじは静かに一点を見つめていた。

* * * * * * * * * *

教会の図書室を覗くと、朝市が机に向かい本を読みながら待っているのが見えた。

「お姉やんまだ仕事があるから学校に戻るけんど … 」

「おら、勇気出して気持ちぶつけてくる」


はなはももを見つめ、そして手を握った。

「こぴっと頑張れし」

はなに見送られて、ももは息を整え、図書室へと入っていった。

* * * * * * * * * *

「朝市さん」

声をかけると朝市は驚いたように本を読んでいた顔を上げた。

「あれ、ももちゃん … どうしたで?」

ももを見ながら、その後ろの方も気にしている。

「あっ、お姉やんが来ると思った?」

「うん、まあ … 」


曖昧な返事をした朝市をももはじっと見つめた。

「 … 朝市さん」

朝市に見つめられて、ももは言葉に詰まってしまう。

「あっ、聞いたさ。

ももちゃん、縁談決めただって?」

「あ、うん … あのね、朝市さん」

朝市の目をまっすぐに見つめると、鼓動が早鐘のように高鳴り、息苦しくなってきた。

窓から射す夕陽がももの顔をより一層赤く染めていた。

「おら … 朝市さんが … 好きだ」

勇気を振り絞って、やっと言えた。

* * * * * * * * * *

朝市は呆然としている。

ももは目を伏せた。

「 … ふんだけんど、ももちゃん、北海道にお嫁に行くって?」

「ほの前にちゃんと言いたかっただよ。

子供の頃からずっと好きだった気持ちを、なかったこんにするなんて寂しすぎるら」


朝市は、ももの告白に明らかに困惑している。

「ふんだから、朝市さんにこぴっと気持ち伝えてから … お嫁に行くことにしただ」

その正直な反応を見て、ももは一縷の望みさえ捨てていた。

「朝市さんも … こぴっと伝えんきゃダメだよ」

* * * * * * * * * *

「 … 朝市さんは、お姉やんが好きずら?」

朝市はうなずいた。

「うん … 好きだ」

ももは目を潤ませながら笑顔を作り、朝市に向かって頭を下げた。

「ちゃんと言ってくれて、ありがとう。

おらこれで、安心して北海道に行ける … 絶対、幸せになる」


誤魔化したり、ウソをつかれたくはなかった。

「ももちゃん … 」

朝市は、こんな時でさえ気の利いた言葉ひとつ返すことができないような生真面目な男だった。

そんな朝市だからももは大好きなのだ。

「お姉やんのこと、よろしくお願いします」

ももはもう一度頭を下げた。

「さいなら … ふんじゃあね!」

朝市の目に焼き付けるようにとびっきりの笑顔を見せて、ももは図書室から出て行った。

あとを追うことさえできず立ち尽くす朝市。

こうして、ももの初恋は終わりを告げたのだ。

* * * * * * * * * *

家に戻って来たももの様子を見て、ふじはすべてを察して優しく出迎えた。

「もも、お帰り」

「お母 … 」


ふじの顔を見た途端、堪えていたものが一気にこみあげてきた。

「今夜は、ももの好きなほうとう作っただよ」

「お母 … おら … 」


ふじは黙ってもものことを抱きしめた。

泣きじゃくるもも。

「何も言わんでいいだよ … もも、えらかったじゃんね」

ふじには分かっていたのだ。

ももの朝市に対する気持ちも、朝市のはなに対する気持ちも … ゆえに余計なことはせずに見守っていたのだ。

< もも、いっぱいお泣きなさい。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月04日 (水) | 編集 |
第57回

< 伝助の炭鉱でガス爆発の事故が起こり、怒りを募らせた男たちが乗り込んできました >

「ここに社長はいません、お帰り下さい!」

偶然居合わせた黒沢が蓮子を守って男たちの前に立ちはだかったが、彼らは信用せずに猛然とまくしたててくる。

すると、蓮子が落ち着き払った態度で毅然と男たちの前に出た。

「ごきげんよう … 私に何かご用でしょうか?」

* * * * * * * * * *

男たちは一瞬怯んだだけで蓮子にかみついてきた。

「貴様、白蓮とかいう名でくだらん本ば出しちょるらしいな?」

「読んでから批評なさってください!」

「あの本に金いくらかけたんか?」

「お前たちが道楽できるとは、わしらが命がけで石炭ば掘りよるお蔭やろが?!」


そう言って、ひとりの男が蓮子の肩を小突いた。

「ご婦人に何をする?!」

黒沢が庇って前に出た。

「貴様何者か?」

「私は新聞記者です。

このような無礼な振舞、記事にしますよ」


しかし、男は開き直ってみせた。

「ああ、上等たい!

ばってん、新聞に書くとなら、わしらの怒りも全部書けよ!」

「お前たちの贅沢んために、仲間が命落としたとたい!」


衝撃を受けた蓮子は動揺を隠せない。

「 … 心よりお悔やみ申し上げます」

蓮子は頭を下げた。

「怪我して、もう働けんごとなった者も大層おる!」

「それは … お気の毒に …

私、お見舞いに伺います。どちらの病院でしょう?」


その言葉が男たちの怒りに火に油を注いでしまったのだ。

「見舞いやと … ふざくんなっ!」

「お前たちが仲間を殺したも同然やろうが?!」


掴み掛ってきた男たちを黒沢は必死に抵抗して止めた。

* * * * * * * * * *

「やめんかっ!!」

帰宅して騒ぎを目の当たりにした伝助が男たちを一喝した。

「わしの留守中に土足で上がり込むとは、何たる無礼か?!」

男たちは伝助の威厳に飲まれながらも言い返した。

「お、俺たちの話を聞こうとせんとが悪いたい」

「誠意をみせろ!」


伝助は近づきながら、静かに言った。

「分かった … 話は聞くき」

傍らに控えていたタミに言いつけて彼らを座敷に案内させた。

「怖か思いさせて、すまんかったな … 大丈夫か?」

伝助は座敷に向かいながら、蓮子に声をかけた。

「あなた … 」

「仕事の場におなごは邪魔やき」


蓮子にひと言もしゃべらせずに行ってしまった。

* * * * * * * * * *

座敷に入ると、伝助は男たちと膝を交えるような位置に腰を下ろして話しはじめた。

「わしもガキの頃から、真っ暗い穴の中這いつくばって、石炭掘りよった。

そやき、お前らの苦労も仲間を思う気持ちも、誰よりも分かっちょるつもりたい」


これだけのことで彼らは興奮していたのがウソのように大人しくなっていた。

蓮子は廊下から中の様子をうかがっている。

「皆さんが来るち分かっちょったら、いろいろと用意しちょったばってん … こげなもんしか用意できんとですけど」

タミが袖の中から取り出した分厚い封筒を代表格の男に手渡すのが見えた。

「こらえちゃんなっせ」

封筒の中身の札束を見て、男たちは顔を見合わせた。

「近いうちに必ず話し合いの場を持つきに、そん時までにそちらの要望をまとめちょってくれんね」

* * * * * * * * * *

帰って行く男たちを見送ったタミに憤った蓮子は詰め寄った。

「私、許せません!

ろくに話し合うこともしないで、お金を渡したんじゃ、何の解決にもならないでしょう?!」

「これがこの家の昔からのやり方ですき」


タミは平然と言って返した。

「あんな大金を勝手に支払うなんて?!」

「 … うちは旦那様から信用されて預かっちょるとです。

それが何か?」

「妻である私にそんな口を利いていいと思っているの?」

「妻?

妻らしいことやら何ひとつしよらん人は、人形らしく黙っちょきゃいいとたい!」


タミは嘲笑ったあとに凄んでみせた。

「何ですって?!」

頭に血が上った蓮子はタミの頬を思い切り叩いた。

するとこともあろうにタミも叩き返したのだ。

「ふたりとも止めんか」

なおも打ち返そうとする蓮子の腕を伝助がつかんだ。

「先に奥様の方が手を出したとですよ」

「離しなさい!」


蓮子に罵倒されて、伝助は吹き出した。

「とんでもねえ、伯爵家の娘ばい」

蓮子は、使用人から自分の妻が叩かれても笑っている伝助のことが理解できなかった。

「こんな家に居たら、私だっておかしくなります!」

今までかつて、どんなに憎らしく思っても、人に手を上げたことなどなかった。

高笑いしながら立ち去る伝助。

「ああ、痛か ~ 」

タミはまったく悪びれることなく頬を抑えながらその後に従った。

男女の関係があったのだろう … そして、自分の方が絆が強いとでも思っているのだ。

* * * * * * * * * *

蓮子は、そのやるせない気持ちを、はなへの手紙にしたためた。

決して出すあてなどない手紙を。

『 … 主人にとって、私は床の間に飾られた人形に過ぎないのです

どんなに財産があっても、生甲斐のない毎日は空しい

今すぐにでも逃げ出したい

けれど … 』


廊下を近付いてくる足音に筆を止め、書きかけの手紙を隠した。

「俺たい … ちょっと、よかろうか?」

伝助だった。

「何でしょうか?」

素っ気なく返事をすると、先ほどの傲慢の態度とは打って変わって神妙な面持ちの伝助が部屋に入ってきた。

「 … 今日は、色々すまんなったな」

膝を正して蓮子の前に座った。

「もう結構です。

よく分かりました … 私がこの家でいかに軽く見られているか」

「何を言うとか?」

「爆発事故のことさえ知らされていなかったんですよ」

「お前は … 仕事んことは知らんでいいと … 」


そう言いながら、伝助は顔をしかめて体を傾けた。

「どうかなさったんですか?」

「ああ、いや … どうでもない」


何とか立ち上がったが、ふらついてその場に崩れるように倒れ込んでしまった。

「あなた?!」

慌てて駆け寄る蓮子。

伝助はうめき声をあげ、苦悶の表情で横たわっている。

「誰か、早くお医者様を!!

あなた、あなたしっかりしてください!」


* * * * * * * * * *

事故の処理と怪我人たちへの対応、心労が重なり、過労で倒れてしまったのだ。

「当分、しっかり安静にさせちょってください。

嘉納さんはこの地にはなくてはならんお人やき、何かあったらすぐ知らせちゃんなっせよ」


往診に駆けつけた医者の言葉にうなずく蓮子。

医者が帰ると、部屋の外で控えていたタミが枕元にやって来た。

「旦那様、お気の毒に … 」

甲斐甲斐しく看病しようとするのを蓮子は制した。

「主人に触らないでください!

… 主人の看病は私が致します」

「お湯も沸かせんような奥様が、旦那様の看病げな?」

「出てって頂戴、早く!」


小ばかにしたようなタミや女中を有無を言わさずに部屋から追い出してしまった。

そして、慣れない手つきで水に浸して絞った手拭いで、伝助の額の汗を丁寧に拭い始めた。

* * * * * * * * * *

蓮子が献身的な看病を続けているうちに夜は明けた。

色々と手こずったのだろう、蓮子も少しやつれて見える

「ご気分はいかがですか?」

目が覚めた伝助は覗き込んでいる蓮子の顔を、信じられないというような目で見た。

「 … 大分ようなった」

蓮子の手を借りながらゆっくりと蒲団の上で上半身を起こすと弱弱しく笑った。

「まさかお前が看病しちょるとはなあ ~

倒れてみるもんばい」


伝助に見つめられて思わず目をそらした。

「 … 今は仕事のことは忘れて、ゆっくりと静養なさってください」

そう言いながら、蓮子は準備してあったお粥を茶碗によそった。

「召し上がりますか?」

うなずく伝助。

さじですくったお粥を息で冷まして伝助の口元に運んだ。

「熱ちっ!」

「ご、ごめんなさい」


この価値観も嗜好も違う、歳の離れた夫婦が僅かに心が触れ合った瞬間だった。

* * * * * * * * * *

< 蓮子が柄にもなく夫の看病をしている頃 … はなは >

教会の図書室で、机に向かい … 蓮子から送られてきた歌集『踏繪』を手に取った。

『 … あなたはいつになったら、安東花子の名前で本を出すのですか?

ぐずぐずしていると、お祖母ちゃんになってしまいますわよ … 』


蓮子の手紙が甲府で教師生活を続けるうちに、すっかり忘れかけていた物語への情熱を思い出させてくれた。

机の上に原稿用紙を広げて、鉛筆を手にした。

しかし、そう簡単にはいかないものだ。

< 物語を書きたい … 何か書かなければと、焦れば焦るほど、自分に苛立ってしまうはなでした >

歌集を出した蓮子に追いつきたい … そんな気持ばかりで、筆はまったく進まなかった。

* * * * * * * * * *

一方、吉平は何としても、ももと森田との縁談話をまとめたいと躍起になっていた。

「あれから、ももは何か言ってたけ?」

ふじに訊いてものらりくらりと交わされてしまう。

「ふんじゃあ、朝市のこんは?」

ほとほと呆れたという顔でふじは夫の顔を見た。

「ほのこんは、放っといてやれしって言ってるじゃん」

表でそんなやり取りをしていると、家の中からもも本人が出てきた。

「何でえ、もも?」

「 … 夕飯できたけんど、お姉やん遅えな ~

また教会の本の部屋ずらか?」


ももははなを迎えに出かけていった。

* * * * * * * * * *

ちょうどその頃、朝市が借りていた本を返却に図書室を訪れていた。

本棚の隙間から、はなの後姿が見えた。

「はな?」

近づくと、はなは机に突っ伏して眠っていた。

物語を考えているうちに眠ってしまったのだろう。

「こんなとこで寝ていたら風邪ひくら?」

声をかけたが、目を覚まさないほど熟睡している … 呑気なことだ。

何の警戒もなくすやすやと寝息を立てているはなの寝顔を覗き込んで微笑んだ。

「ボコみてえな顔して … 」

* * * * * * * * * *

ほどなくして、はなを迎えに来たももが階段を上がってきた。

「朝市さん?!」

入口から朝市の姿を見つけて笑顔になった。

驚かしてやろう … そう思ったももは足音を立てずに朝市に近づいて行った。

しかし、朝市の視線の先にはながいることに気づき、咄嗟に本棚の後ろに隠れてしまった。

本と本の隙間から、ふたりのことを覗いて見た。

朝市は眠っているはなの横に腰かけて、その寝顔をじっと見つめていたのだ。

はなが動いてずれた羽織をそっとかけ直した。

穏やかで優しい笑みを浮かべた朝市 … その視線ははなの寝顔から動かない。

ももは目をそらして、本棚に背を向けた。

< 大好きな朝市の心の中にいるのは、自分ではないことを … ももは知ってしまったのです。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月03日 (火) | 編集 |
第56回

< 吉平がももに縁談を持ってきました >

相手は、行商の途中で知り合った森田という青年で、一家をあげて北海道へ移住しようとしている。

吉平は熱心に勧めるが、肝心のももはあまり乗り気でない様子だ。

< ももの朝市への気持ちに気づいたはなは、茶飲み会を計画したのです >

* * * * * * * * * *

次の日曜日、徳丸家を訪れたはなともも、それに朝市は座敷に案内された。

出席者は武を入れて4名だ。

「只今より、合同パルピテーション会を行います」

< さて、はなの計画通り、朝市とももは急接近してくれるでしょうか? >

* * * * * * * * * *

ももは、はなから借りた着物を着てめかしこんでいる。

朝市の向かいに座って緊張気味だ。

目の前に用意されたカステラにも手をつけられずにいた。

「ももちゃん、カステラ食わねえけ? 美味いよ」

「武さん、ありがとう」


カステラなんて初めて見たももだった。

ひと切れ口に運んで、今まで味わったことがない美味しさにやっと彼女らしい笑顔を見せた。

「美味いなあ ~ 」

「本当だな」


ももの素直な反応に朝市も笑顔になった。

* * * * * * * * * *

「ふんだけんど、何でこの4人でえ?」

「ほういやこの顔ぶれって、小学校の頃、4人教室にいただよな」


武の言葉で朝市は昔のことを思い出したようだ。

「ほういや ~ あの石盤事件の時にも、この顔ぶれじゃん」

「てっ … 本当だ!」


はなは気まずそうに笑った。

「 … 石盤事件て?」

「ももちゃんはボコだったから、覚えてねえら?」


ももを背負って授業を受けていたはな、ちょっかいを出してももを泣かせた武。

朝市の仕業と勘違いしたはなは、石盤を取り上げて思いきり振り下ろした …

「ほんなことがあっただけ?!」

話を聞いて、ももは目を丸くして驚いた。

「あん時はとんだ目に遭ったさ」

朝市と武は大笑いしている。

「お姉やん、石盤で叩くなんてひでえじゃんけ!」

「ありゃあ、もとはといえば武が悪いだよ」


ももに責められて、はなはバツが悪そうに武のせいにした。

「えっ、ほうだったか ~ おまんらふたりで廊下立たされたじゃん」

「 … あの後しばらく、はな口利いてくれなんだよな」

「ふんだって、朝市が本当のこと言わんから … 」

「やっとはなと仲直りしたと思ったら、奉公行くって言い出して … 」

「朝市、おまんあん時、泣きそうな顔してたじゃん」


武がからかうと朝市はムキになって言い返した。

「てっ、ガキん時のはなしずら!」

「はなが東京の女学校行く時は本当に泣いてたら?」

「武だって!」


これではまずい … 話の中心がはなで、ももの知らないことばかりだった。

* * * * * * * * * *

はなは行動に出た。

「武、おら … ちっとご不浄に …

ああ、ここんちは広いから迷子になってしまうかも分からん ~ 一緒に来てくりょう」

「ったく、ひとりで便所も行けねえだけ?

… 甘えん坊な奴じゃ」


そう言いながら、頼られたと思ったのか武もまんざらでもなさそうな口ぶりだ。

不自然でもこの際仕方がない … 口実を作って、ももと朝市をふたりきりにするのだ。

席を立った時、朝市が自分のカステラをももに分け与えているのを見て、はなはうなずいた。

* * * * * * * * * *

「おお、便所はそっちじゃねえよ」

「 … ご不浄はもういい。

おら、ちっと急用を思い出した … 武、うちまで送ってくりょう」


渋る武の袖を引いて慌ただしく出口に向かった。

「おまん、おらとふたりきりになりたかっただな?」

突然こんな行動に出られたら、武でなくても勘違いするかも知れない。

「 … ほれでこんな茶飲み会なんて開いただけ?」

「はあ?」

「ほれなら、のっけから素直にほう言やいいら ~

まあ、おらに惚れるのは分かるけんど … 地主と小作じゃあ、身分が違いすぎて、結婚はできんら」


ひとり悦に入る武を見て、はなは寒気がしそうだったが、今は武をふたりから遠ざけるのが先決だ。

「いいから送れし!」

「えっ?!」


* * * * * * * * * *

ご不浄に立ったまま、いつまで経っても戻らないはなと武。

朝市ともものふたりも、何となくおかしいと思い始めていた。

「遅えな … 」

「本当だね」


カステラも食べつくし、いい加減話題も途切れてきた。

「あっ、ほういや ~

ももちゃん、北海道行く人と縁談あるだけ?」

「 … 朝市さん、どうすればいいと思う?」


ももは探りを入れるような目で朝市に尋ねた。

「ももちゃんなら、きっといいお嫁さんになるら。

… ふんだけんど、周りに流されて気が進まん結婚だけはしんほうがいい」


朝市の言葉にももは心底うれしそうに笑った。

「朝市さんがほう言うなら、絶対に断る。

お姉やんがお父を説得するって、約束してくれたし」

「ほうか … じゃあ、大丈夫だ」

「うん」


* * * * * * * * * *

「 … ほれにしても遅えな」

「どけへ行ったずら? お姉やん」

「はなみてえなお姉やん持つと、ももちゃんも大変ずら?

急に突拍子もねえこと思いついたりするから」


ももは首を振った。

「ふんだけんど、あんな ~ 妹思いのお姉やんは何処にもいねえ。

おら、お姉やん大好き!」


もものはなを慕う気持ちが手に取るように伝わってきて、朝市は頬を緩めた。

* * * * * * * * * *

「本当に遅えな ~ 」

庭から座敷に射す陽も少し傾いてきた頃、ようやく武がひとりきりで戻って来た。

「てっ、おまんらまだ居ただけ?」

「はなは?」

「ああ、とっくに帰ったさ ~

あいつは何を考えてるだか … 送ってくれとか言って、うちの前まで付いてったら、ピシャッと戸を閉められただ。

ったく、はなたれの分際で … 」


武のぼやくことぼやくこと … 親子二代にわたって安東家の女性に振り回されていた。

朝市とももは顔を見合わせた。

* * * * * * * * * *

「送ってくれて、ありがとう」

家の前まで帰って来て、ももは朝市に礼を言った。

送るも何も朝市の家は隣だ。

「ほれじゃあ」

うなずいたももはまだ何か言いたげに朝市の顔をじっと見つめていた。

「ももちゃん、おらの顔何かついてるけ?」

「ううん」


恥ずかしそうに目を伏せた。

「今日は何だか変てこな茶飲み会で疲れたじゃんね?」

しかし、ももは首を振った。

「おら、最高に楽しかったさ ~ 」

「ほうけ?

ならいいけんど … ほれじゃあ」


朝市とふたりきりの時間を過ごせただけでも、ももにはかけがえのない幸せな一日だった。

* * * * * * * * * *

そんなふたりの様子を納屋の陰から、はなと吉平が隠れて見ていた。

「 … という訳さ」

「ももは朝市のことが … ほれで、縁談渋ってただか」


鈍感な吉平も自分の目で確かめてやっと分かったようだ。

朝市に対するももの態度は恋する乙女のものだった。

「 … 朝市は確かにいい奴だが、森田君も負けず劣らずいい奴だ。

ももも会えばきっとよさが分かる」

「お父、何で ~ 朝市ならうちも近いし、仕事ぶりも真面目だし、昔っからよく知ってるし、何の問題もねえら!」


はなは何故吉平がももに限って遠くへ嫁に行かせたいのか理解できなかった。

他人同然の人たちと見ず知らずの土地へ行けば、苦労するのに違いないのに … 自由だ平等だという言葉で見失っているのか?

「ふじはどう思う?」

ちょうど家から出てきたふじに意見を訊いた。

「お母も、ももと朝市が一緒になった方がいいと思うじゃんね?」

「そうさな ~ 」


周造の口癖をまねたふじ。

「お母はいつからお祖父やんになったで?」

「こっちは真剣に訊いてるだ」


ふじが答えをはぐらかしたのにはそれなりの理由があったのだが、あえて口にはしなかった。

「 … ふたりとも、もものことはそっとしといてやれし」

そう釘を刺しただけだった。

* * * * * * * * * *

< そんなある日のこと … >

学校にはな宛ての郵便物が届いた。

寅次から渡された小包の差出人を見たはなは思わず大きな声を上げてしまった。

「てっ?!」

教務室中の視線がはなに集中した。

「 … どうもすみません」

頭を下げたはなは、改めて小包をまじまじと見つめた。

< はなの心臓はドキドキ高鳴っていました。

9年間も絶交していた、あの蓮子からです >

『嘉納蓮子』確かに差出人は蓮子に間違いなかった。

開封すると、中には手紙と1冊の本が入っていた。

「踏繪 … 白蓮」

背表紙に書かれている本の題名と著者名。

震える手で緑色の表紙を開くと、十字架にかけられたキリストの姿が描かれた口絵が目に飛び込んできた。

< それは当時、一世を風靡した竹久夢二が装丁を施した歌集でした >

同封されていた手紙を開くと懐かしい蓮子の文字だった。

『前略、安東はな様

以前、児童の友という雑誌であなたの童話をお見かけしましたが、あれ以来待てど暮らせど、あなたの作品は一作も見かけません

その間に私は歌集を出すことに相成りました

あなたはいつになったら、安東花子の名前で本を出すのですか?

ぐずぐずしていると、お祖母ちゃんになってしまいますわよ

では、ごきげんよう、さようなら』

「蓮様 … 」


< はなの胸には、たまらない懐かしさと共に、忘れかけていた物語への情熱がよみがえってきました >

* * * * * * * * * *

< 余裕綽々の手紙とは裏腹に … その頃、蓮子は大層いらだっておりました >

蓮子は黒沢を屋敷まで呼びつけて問い質していた。

「教えてください、何があったんですか?

主人は今何処で何をしてるんですか?」


何か重大な事態が起こっていることは直感的に感じているのだが、自分だけ蚊帳の外に置かれ、新聞を読むことさえ禁じられているのだ。

「黒沢さんなら教えてくださるわよね? … いったい何があったのか、話して下さい」

黒沢も口止めされているようだったが、辺りを窺うと小声で話しはじめた。

「10日前、ご主人の炭鉱でガス爆発が起きたんです」

「何ですって?!」

「 … 多くの犠牲者が出ました。

ご主人は事故の処理と怪我人たちとの対応に追われています」


愕然とする蓮子。

「事故が起きてから炭鉱の労働者たちの衝突が激化し、彼らは嘉納鉱業の社屋を取り囲んでいます」

「 … 私は嘉納の妻よ。

何にも知らせてもらえないなんて!」


蓮子の誇りは激しく傷ついていた。

今から伝助に会いに行くと言う蓮子を黒沢は強く引き留めた。

「落ち着いてください。

本当に危険な目に遭いますよ」


* * * * * * * * * *

その時、玄関の方から男たちの怒号と女中の悲鳴が聞こえてきた。

「社長を出せ!」

「嘉納伝助、出て来んか!」


逃げ惑う女中たち。

男たちは勝手に家の中まで上がり込んできたのだ。

「何処におるとか?!」

「おい、あれは嘉納伝助の女房ばい!」


廊下に飛び出した蓮子の姿を見つけて迫ってくるのが分かった。

間一髪、黒沢が男たちの前に立ちはだかった。

「ここに社長はいません、お帰り下さい!」

必死にはねつけたが、男たちは聴く耳持たずに凄んでくる。

「とぼくんな、社長を出せ!」

「おい、女!」


すると、蓮子は黒沢を押しのけて男たちの前に出た。

「ごきげんよう … 私に何かご用でしょうか?」

その落ち着き払った毅然とした態度に男たちは怯んで言葉を失っていた。

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月02日 (月) | 編集 |
第55回

1918年(大正7年)。

< はなが初めて生徒たちを送り出してから4年の月日が経ちました >

「木場先生、おはようごいす!」

「おはよう」


朝市の教え子たちが元気な声で挨拶しながら、教務室の前を通って行った。

「はな先生、グッドモーニング!」

「グッドモーニング」


それに続いて、受持ちの生徒たちの英語の挨拶に笑顔で返したはなを見て、緑川が顔をしかめた。

「てっ、あれだけ禁止した英語も今では使いてえ放題じゃん。

校長先生、4年も経つとおなごは図々しくなって始末におえんですな ~ 」


緑川の嫌味を、はなは軽く受け流した。

「4年もって悪かったですね、緑川先生。

授業行ってきます!」

「行ってこうし」


その緑川に送り出されて、はなは教室へと向かった。

笑顔で見ている朝市。

決まりきったような朝の光景だ。

* * * * * * * * * *

「ごきげんよう ~ 」

教室に入って、真っ先に目についたのは、黒板に書かれた大きな相合傘で、はなの相手はこともあろうに緑川だった。

「はな先生と緑川先生、お似合いじゃん!」

「うちのお母が言ってたさ、ケンカするほど仲がいいだと」

「結婚するだけ?」


シゲルと正一が先頭になってはやし立てたが、はなは平然と黒板係の生徒に落書きを消すように命じ、自分は教壇に立った。

< はなの教師生活も早5年目に入り、すっかり教師らしくなりました >

* * * * * * * * * *

夕食の時、ふじがうれしそうに吉太郎から届いた手紙を取り出してみせた。

「はあ ~ おらが読めるように、全部ひらがなだ」

ふじは拙い口調で手紙を読み始めた。

「ははうえさま、おげんきですか?

じぶんは、まいにち、げんきで、にんむに、はげんでいます。

こんげつは、すこしおおく、しおくりをします … 」


ふじは手紙に向かって、ありがたそうに頭を下げた。

< 軍隊に入った吉太郎は、うちには戻らず、志願して憲兵になりました >

「 … 兄やん、たまには帰ってきてもいいじゃんね。

憲兵の仕事ってほんなに忙しいずらか?」


ももが少し怒ったような顔をした。

兄は憲兵になってから一度もうちに帰ってきていないのだ。

「元気でやってくれてたら、それでいいだよ」

ふじの言葉に周造はうなずいている。

「お盆には帰って来られるといいね」

はながそう言った時、吉平の威勢のよい声がした。

「帰ったぞ!!」

< 地主の徳丸さんに借金を返すと宣言した吉平は、相変わらず忙しく全国を回って行商しています >

* * * * * * * * * *

「いい土産を持ってきただ」

荷物を解くのももどかしく吉平は家に上がると、いきなり切り出した。

「縁談話じゃ!」

「てっ?!」


にこにこ笑っている吉平とは裏腹に家族一同が固まった。

「お父、おらもう縁談はいい … 」

はなは、あからさまに嫌な顔をした。

4年前の望月啓太郎との縁談で余程懲りたのだろう。

「 … お見合いはつくづく向いてねえって分かったから」

「違う、はなにじゃねえ ~ ももの縁談じゃ」


仰天するもも、吉平は写真を取り出して話を続けた。

「旅先で知り合った森田君ちゅう若者だけんど … これがなっかなか見込みのある奴でな。

新天地の開拓のために一家を上げて北海道に移住するだと」

「北海道?!」

「ほっかいどう … そこ何処で?」


はなが遠くて冬はすごく寒い所だと教えると、ももは東京都どちらが遠いか尋ねた。

「北海道の方がずっとずっと遠く」

* * * * * * * * * *

「何でまたほんな遠くへ行く人との縁談なんか?」

ふじも眉をひそめた。

「おお、森田君はほりゃあいい奴なんじゃ ~ 働きもんのもものこん話したら、向こうも是非にと言ってくれてる。

ほれに時代は今、北海道だ!

まだ誰のもんでもねえ土地が、ほこら中にあるし、金持ちも貧乏人もねえ、皆平等だ!」

「 … また婿殿、突拍子もねえ話が始まったわ」


周造は苦々しく吐き捨てた。

「これっからは北海道の時代だ!

偉え外国の博士も言ってる … え~っ、何だっけな?

ぼーいず、べー、あん、あん … 」

「Boys, be ambitious.」


はなが言い直すと、吉平はうなずいた。

「ぼーいず、びー、あんびしゃす … だぞ、もも!」

「お父、ももは女の子だから … Girls, be ambitious.」


吉平は満足げな顔になった。

「おお ~ ももよ、大志を抱けし!

森田君はな、でっけえ野望を持った熱い男だ … どうでえ ~ 夢のある縁談ずら?」


浅野の演説を聴いて、社会主義にのめり込んだ時と何ら変わらない … 痛い目を見たはずなのに懲りない吉平だ。

ももには吉平の話に現実味が感じられず … 理解できずに困惑した顔だ。

「いい話ずら?」

ふじはあきれて笑っていた。

* * * * * * * * * *

ふたりきりになった寝所で、はなはももに尋ねた。

「さっきの縁談の話、嫌ならお姉やんからお父を説得するよ」

「おら、家族と離れるのは嫌だ」


布団を敷きながら、ももははっきりとそう答えた。

「 … 地元人と結婚して、この近くで暮らしてえ。

ほうしたら、皆とずっと一緒にいられるら?」

「分かった、北海道なんて絶対行かせねえから … 心配せんでいいよ」

「ほれと、おらお嫁に行くなら … 好きな人のところがいいな」


ももは明らかに誰かを思い浮かべている。

「もも、ひょっとして好きな人でもいるのけ?」

ハッとして振り向いたもも、日に焼けた頬を染めて恥ずかしそうにうつむいた。

「てっ、誰?!」

ももは思わずその名を口に出しそうになったが … 寸でのところでとどまった。

「やっぱし言えねえ、おやすみ!」

蒲団をかぶって寝てしまった。

< あんなに小さかったももが、いつの間にか恋するお年頃になっていたんですね ~ >

そんなももが愛おしくて、自然と頬が緩むはなだった。

* * * * * * * * * *

次の朝。

いつものように迎えに来た朝市の袖がほつれていることをはなは見つけた。

「中で直してやる」

そう言って、針を手にしたまではよかったが、裁縫が不得手なはなではなかなか捗らない。

挙句の果てに針で朝市の腕を刺す始末だ。

「お姉やん、貸して」

見かねたももが替ると、手際よくあっという間に繕ってしまった。

「ももちゃん、上手いね」

朝市にほめられてうれしそうに笑ったもも。

「ほれくらいどうってことねえだよ ~ いつでもやってあげるさ」

「本当け? ありがとう」


笑顔の朝市に見つめられてはにかんだもも、持っていた針で誤って自分の指を刺してしまった。

「て ~ っ!」

「大丈夫け?」


朝市が手を取ろうとすると慌てて引っ込めた。

何だか様子がおかしい。

< もしかして、ももの好きな人というのは … >

いかに恋愛経験が乏しく、疎いはなであっても、このももの態度を見れば気がつくだろう。

「朝市さん、遅刻するよ、行ってこうし!」

* * * * * * * * * *

昼休み、はなは朝市にももの縁談話を聞かせて反応をうかがった。

「ほうか、北海道か … 」

「朝市はどう思う?」

「どうって … ももちゃんがほんな遠い所に嫁いじまったら、滅多に会えねえじゃん。

寂しくなるな … 」

「寂しくなる? … ほうけ♪」


はなは朝市の方も脈ありと思って俄然喜んだ。

そんなはなを朝市は怪訝な顔で見た。

「 … ももは、わしも受け持ったことがあるけんど、素直でいい子じゃん。

もう嫁に行く歳になったのか」


傍らで聞いていた本多校長がしみじみと語った。

「妹に先越されそうで焦ってるだけ?

20代も半ばんなって、素直の『す』の字もねえおなごの貰え手はいねえ ~ もうあきらめろし」


緑川が、ここぞとばかりに憎まれ口を叩いた。

「 … 私のことはいいです」

朝市が何か言いたげな顔をした。

* * * * * * * * * *

「朝市に縁談の話したら、ももが北海道に嫁いじまったら、寂しくなるな ~ って言ってただよ」

家族そろっての夕食、はなはわざと吉平のいる前で今日の話をして聞かせた。

「朝市さんが、本当に?!」

嬉々とするもも。

< やっぱりももが好きなのは、朝市に間違いない … と、はなは思いました >

「何で朝市が、ももの縁談に口をはさむだ?

森田君は本当にいい奴だから、一緒になれば必ずももは幸せになれるだ」


吉平の無神経な言葉に、うつむくもも。

ふじとはなはそんなももを気にしている。

はなは手にしていた茶碗と箸を置いて姿勢を正した。

「お父、もっとももの気持ち考えてやれし。

おら、ももが赤ん坊の頃から子守してきた … おしめを替えて、背中におんぶして、一緒に学校にも通った。

お父やお母に負けねえぐれえ、おらもものことが可愛くてたまらん。

… ふんだから、ももが好きな人と幸せになってくれることが一番だと思う」

「お姉やん … 」

「 … そうさな」


多くを語らない周造も、はなと同じ気持ちなのだろう。

はなに意見され、吉平は黙って考え込んでしまった。

吉平にしろ、自分なりにももの幸せを一番に考えているのは同じなのだ。

ところが、どういう訳か複雑な表情のふじだった …

* * * * * * * * * *

「こうなったら、急いで朝市とももをくっつけなきゃ ~ 」

はなはひとり意気込んでいた。

「 … お父をあきらめさせるにはほれしかねえ!」

しかし、それには何をしたらいいのか … はなには思いつかない。

そんなことで頭がいっぱいで学校の廊下を歩いていたら、校長と出くわしても気がつかずに通り過ぎそうになった。

「おっ、安東、おまん何をぶつぶつ言ってるだ?」

「校長先生、教えていただきたいことが … 」


ちょうどいい、校長なら妙案を教えてくれるかもしれない。

「男女を急いで仲良くさせるにはどうしたらいいでしょうか?」

「うん、おまんの受け持ってる3年生は、男子も女子も仲がいいら?」

「はあ … もっと大きな男女の場合は?」

「ほんなもん一緒に遊ばしときゃ、仲良くなるら!」

「 … なるほど」


期待したほどの案ではなかったような気がする。

その時、はなは衝撃的(??)な光景を目の当たりにする。

廊下を歩いてきた朝市の後ろから走って来た女子生徒が追い抜いて前に回り込んだ。

「木場先生、おら大人になったら先生のお嫁さんになる!」

「あ、ありがとう … 」


突然の告白に頭を掻く朝市。

「て ~ 木場先生、持てるじゃんけ?!

… これは、本当に急がんきゃ」


* * * * * * * * * *

かよがこしらえた借金も吉平が行商に精を出し、吉太郎の仕送りのお蔭で年内にも全額返済できそうだった。

はなは、その月の返済で訪れた徳丸商店で思い切って甚之介に尋ねてみた。

「徳丸さんならご存知かと思うんでお聞きしますけど … 大人の遊びって何でしょう?」

「大人の遊びっていったら、芸者呼んで『お座敷遊び』ずら」

「芸者 … いえ、もっと気軽にできるもんで?」

「舟遊びもいいぞ ~ 川に船浮かべて、芸者呼んで」


ふた言目には『芸者呼んで』だ。

「 … 男女が一緒に楽しめて、お金のかからない何か遊びはないでしょうかね?」

「う~ん、ほれなら茶飲み会でもやれし」


甚之介はいい加減面倒になっているようだ。

「なるほど!」

すると、帳場でふたりの会話を聞いていた武が首を突っ込んできた。

「ほんなに大人の遊びがしてえなら、うち招待してやらっか?」

* * * * * * * * * *

息を切らして家に戻ったはな。

「もも、今度の日曜日、徳丸さんとこで茶飲み会やるよ ~ 一緒に行こう!

朝市も誘うから」

「てっ、朝市さんも?!」


ももはふたつ返事で承諾した。

< もものために、今でいう『合コン』を思いついたはなですが … ふじは何だか心配そうです >

「どうしっか? … 着るもんねえだよ」

「お姉やんの着ていけばいいじゃん」

「うん、うれしいよ」


< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年06月01日 (日) | 編集 |
まずは、先週のおさらいを …



それでは、次週の「花子とアン」は?

4年の月日が経った。はな(吉高由里子)はすっかり小学校の教師らしくなり、緑川(相島一之)の嫌味も、生徒たちのいたずらも余裕で受け流すほどになっていた。

ボーイズ・ビー・アンビシャスだぞ、もも!

ある日、行商から戻って来た吉平(伊原剛志)が、見合い話を持ってくる。はなは「見合いはもうこりごり」と言うが、今度はなんと妹・もも(土屋太鳳)への見合い話。相手は、一家をあげて北海道へ移住しようとしている青年だと言う。

吉平は熱心に勧めるが、ふじ(室井滋)や周造(石橋蓮司)は遠く離れた土地に嫁がせることに否定的で、肝心のもももあまり乗り気でない様子。はなはももの言動から、ももは実は朝市(窪田正孝)のことが好きなのではと思い当たる。

勇気出して、気持ちぶつけて来る

こぴっと、頑張れし


はなは徳丸(カンニング竹山)の知恵を借り、はな・もも・朝市・武(矢本悠馬)で合同の茶飲み会を開き、ももと朝市を何とか仲良くさせようと画策する。

ずっとはなのことが好きだっただ

だがふじは、ももについて何かしら思うところがあるようで、はなや吉平に「そっとしといてやれ」と伝えるのだった。

幸せになれし …

そんなある日、小学校にはな宛ての小包が届き、差出人の名前にはなは大いに驚く。「嘉納蓮子」。九年間も絶交していた、あの蓮子(仲間由紀恵)からだった。はなが小包を開けると…

こんな家に居たら、私だっておかしくなります!

一方、福岡の炭鉱でガス爆発が発生、炭鉱夫たちが嘉納家に怒鳴りこんで来た。

花子とアン 公式サイト、YAHOO!テレビガイド他を参照)

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