NHK朝ドラ『花子とアン』『ごちそうさん』『あまちゃん』…ストーリーを勝手に解釈&裏読み … ほぼネタバレ…
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2014年08月31日 (日) | 編集 |
まずは、先週のおさらいを …



さて、次週の「花子とアン」は?

宇田川(山田真歩)から従軍作家として戦地へ行くという報告を聞き、驚く花子(吉高由里子)と蓮子(仲間由紀恵)。触発された醍醐(高梨臨)は自分もいつか従軍記者として戦地へ赴きたいと言い出し、長谷部(藤真利子)に歓迎される。そんな一同の様子に花子は戸惑いを隠せず、蓮子は花子に「この人たちについて行けない」と本音を漏らす。

そんなある日、ブラックバーン(トーディ・クラーク)が村岡家に花子と英治を訪ね、カナダへ帰国得ると告げる。ブラックバーンは日本と欧米の緊張関係を心配しながらも、花子に希望を託して去って行くのだった。

あなたは何をやってるんだ?

一方、宮本家に突然、憲兵姿の吉太郎(賀来賢人)が部下を引き連れて現れる。龍一に聞きたいことがあると言うのだ。

私は時代の波に平伏したりしない

やがてこの一件をきっかけに、花子と蓮子との間に大きな亀裂が生じていく …

今日の子供の新聞の放送はどうなるんでしょう?

花子は、ラジオで連日、戦争や軍隊のニュースばかり読むことに葛藤を深めていた。黒沢(木村彰吾)に悩みを打ち明けるものの、花子が子供に人気があることを理由に慰留されるのだった。

日中戦争が激しさを増していくある日、スコット(ハンナ・グレース)がとある一冊の本を手に村岡家を訪れる。

帝国陸海軍は、アメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入れり …

1941年(昭和16年)12月8日。ラジオから流れる日米開戦のニュースに花子と英治はがく然とする。

私たちは永遠に友達です

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2014年08月30日 (土) | 編集 |
第132回

< 美里を元気づけようと、花子はニュースの原稿に書かれた軍用犬をテルという名前にして伝えてしまいました >

放送が終わるのを待ち構えていたように有馬が花子に言った。

「読み合わせの時と、原稿の内容が違いましたね?

問題になっても、私は一切関わり合いになりたくございませんので …

では、ごきげんよう、さようなら」


憤然とした有馬がスタジオから出て行くのと入れ替わりに黒沢が入ってきた。

「村岡先生、お話があります」

* * * * * * * * * *

花子を廊下に連れ出すと、黒沢は厳しい表情で問い質した。

「先ほどの放送で原稿にはないことをお話しされましたよね?

犬の名前をテル号と」

「はい … 申し訳ありませんでした」


花子は頭を下げた。

「先生はこれまで、子供たちが理解しやすいように言い回しを変えることはあっても、今日のように本番で内容を変えることをなさらなかったのに何故テル号と付け加えたのですか?」

< まさか自分の娘を元気づけたかったからとは、とてもじゃないけれど言えません >

花子は平身低頭謝るしかなかった。

「子供向けのニュースであっても、事実を曲げてはいけない … それが放送というものです。

それに政府の放送への統制が一層厳しくなっていることは、先生もご理解いただいてますよね?

逓信省の検閲を終えた原稿を変更したとなると … 」


* * * * * * * * * *

「何っ?」

まずいことに偶然通りかかったのが漆原だった。

「検閲済みの原稿は変えてはならないと、何十回も申し上げているのに。

勝手に変えて逓信省に目をつけられたら、私の首が … 番組に関わった全職員の首が飛ぶかもしれないんですよ」


黒沢から局長の耳には入っていないことを確認すると、ひとまず安堵した漆原だったが、花子に対して腹の虫が治まらなかった。

「この際だから申し上げておきます。

村岡先生は我々ラジオ局の立場を理解してなさらないようだ。

いいですか … 我々は、国民に国策への協力を促す立場にあるんです。

先生はそういう社会のことに全く興味がないかもしれませんが」


花子は否定したが、漆原は鼻で嗤った。

「ご婦人というものは、家のことや子供のことで頭がいっぱいで、他のことは何にも見ないで生きてますからね」

家に帰ると余程、夫人に手を焼いているのだろう、漆原の言葉には実感がこもっていた。

* * * * * * * * * *

「お言葉ですが、女性の関心は家の中だけではなく、確実に社会に向いています」

花子は反論したが、後ろめたさからか遠慮がちだった。

「では、我々組織の立場も配慮していただきたいですね」

漆原は『組織』をたてにとったが、花子には『自分の立場を配慮しろ』と聞こえた。

「村岡先生のお話を楽しみにしている子供たちのために、この番組は続けていきたいんです」

黒沢のそのひと言は漆原のどんな叱責よりも、花子には堪えた。

「本当に申し訳ありませんでした … 以後気をつけます」

* * * * * * * * * *

沈んだ気持ちで家に戻った花子を迎えたのは、はしゃいだ美里の明るい笑顔だった。

「お帰りなさい、お母ちゃま。

テルは元気なのね」


花子が答えあぐねていると、美里は旭とももに楽しそうに話しはじめた。

「テルは偉いのよ ~ 戦争に行って、兵隊さんのお手伝いをしたから、テル号って名前になったの。

テルより偉い名前なのよ」


美里の話を複雑な思いで聞いている花子に英治は伝えた。

「 … 今日、お義兄さんが美里に、テルはもう戻って来ないって言われて … 美里泣いてしまったんだ」

しかし、花子の放送を聴いてからすっかり元気になって … テル号をテルだと思いこんでしまったのだ。

* * * * * * * * * *

「今夜はテル、テルって大はしゃぎだったからすぐ寝ちゃったよ」

美里の寝顔を見つめながら、花子は英治に打ち明けた。

「本当はね、今日の放送でお話しした軍用犬に名前はついていなかったの。

私が勝手にテル号ってつけてしまって … ラジオを聴いてくれた子供たちに申し訳ないことをしたわ」


「子供向けのニュースであっても、事実を曲げてはいけない」という黒沢の言葉が時間が経つにつれて身に染みてきた。

「確かに、テル号なんて言わない方が、犬を連れて行かれた他の家の子供たちも皆喜んだだろうね。

自分の犬も戦地で活躍しているんだって」

「ええ」

「でも、テルのことを想像している時の美里は本当にいい笑顔をしてた。

瞳をキラキラ輝かせて … 花子さんは今日、美里に素敵な贈り物をしたんだよ」


英治は慰めてくれたが、花子の心は晴れなかった。

「私、例え世の中がどんな状況になっても … この子たちの夢だけは守りたい」

小さな寝息を立てて眠る美里を見つめながら、花子と英治はうなずき合った。

< 子供はいつの時代も、美しい夢を持っています。

それを奪ってはならないと、花子は心に誓いました >

* * * * * * * * * *

数日後、宇田川満代が突然電話をかけてきた。

「 … 報告したいことがあるので、3時にかよさんのお店に来てちょうだい」

「てっ、今日の3時ですか?」


満代は花子の都合も聞かず、「必ず来るのよ」と命令口調で言うと電話を切ってしまった。

横暴さはまったく変わっていない。

時を同じくして、亜矢子が訪ねてきた。

やはり満代に招かれたとのことで、花子を誘いに寄ったのだ。

* * * * * * * * * *

花子が出かける支度をして亜矢子と共に家を出ると、前の路地で近所の子供たちが水遊びをしていた。

「あ、ラジオのおばさんだ」

「ごきげんよう ~ 」


子供たちは花子の顔を見ると、それぞれ元気よく挨拶してきた。

「ごきげんよう」

ふたりが子供たちの横を通り過ぎようとした時、頭上で爆音が響いた。

皆が空を見上げると、軍用機が通り過ぎていった。

「ねえ、醍醐さん … 前にもここで飛行機を見たことがあったわね」

「ええ」


* * * * * * * * * *

もう大分前 … 歩の誕生を祝って、亜矢子と共にブラックバーン校長とスコットが村岡家を訪れた時のことだ。

今日と同じように頭上を通り過ぎる飛行機を花子たちは見上げていた。

ブラックバーンは言った。

「これからの飛行機の進歩は世界を平和に導くか、戦争をもっと悲惨にするか、どちらかです。

… 我々、人類は飛行機をどう使おうとしているのか、平和か、戦争か?」

* * * * * * * * * *

「最近よく、あの時のブラックバーン校長の言葉を思い出すの。

平和か、戦争か … それは我々の上にかかっている課題であることをよく考えておきなさい」


* * * * * * * * * *

ふたりがカフェータイムに着くと、すでに多くの編集者たちが集まっていた。

「お姉やん、こっち」

かよに促されて店内に入ると、蓮子の姿があった。

「ごきげんよう、はなちゃん、醍醐さんも」

「蓮様もいらしてたの」

「ええ、お招きの電報をいただいたの」

「やっぱり、結婚なさるのかしら?」

「それにしては宇田川先生、今日は地味ないでたちですよ」


ほどなくして一同の前に、かよの言うようにカーキ色の服をまとった満代が長谷部汀と共に現れた。

* * * * * * * * * *

「私、この度、長谷部汀先生をはじめとする諸先生方のご推薦をいただきまして、ペン部隊として大陸の戦場へ向かうことといたしました」

「ペン部隊?!」

「宇田川先生には、従軍記者として戦地に赴いていただきます」


汀の言葉を受けて満代は胸を張った。

「お誘いを受けて、すぐに決めました。

日本軍の躍進ぶりを目の当たりにできるまたとない機会ですもの」


勇ましく宣言した満代は、花子の知る彼女とは別人のようだった。

「私たちのために命を懸けて戦って下さってる兵隊さん方のこと、しっかり取材して書いてください」

「はい」


汀の激励に満代は力強くうなずいた。

「宇田川満代先生、万歳!」

編集者のひとりの音頭で万歳三唱がはじまった。

かよや亜矢子までその輪に加わっている。

そして、拍手に包まれて、満代は誇らしげに笑みを浮かべた。

ただひとり、蓮子だけは眉をひそめ、険しい表情で見つめている。

花子は … 胸の奥に得体の知れない不安が暗雲のように広がっていくのを禁じ得なかった。

< 時代は大きく動き始めておりました。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月29日 (金) | 編集 |
第131回

< 中国との戦争が続き、人々の暮らしの中にも戦争の影が忍び寄っておりました >

村岡家の愛犬テルも、美里の留守の間に徴用のため、連れて行かれてしまった。

< 花子も英治もテルが二度と帰って来ないことを知っていました >

「テルいつ帰って来るの、テル帰って来るんでしょ?

… お母ちゃま、テル帰って来るわよね?」

花子は美里に何と答えればよいのか困ってしまった。

* * * * * * * * * *

英治は美里の手を握った。

「美里、テルはもう … 」

「帰って来るわよ。

テルは兵隊さんのために一生懸命働いて、きっと帰って来るわ」


花子は英治の言葉を遮って、思わず口を出してしまった。

「美里がいい子にしてたら、早く帰ってきてくれる?」

「そうね … 」

「美里、たくさんいい子にしてるわ」


< 花子は美里を悲しませたくない一心で、ウソをついてしまいました >

* * * * * * * * * *

「テル、ちゃんとご飯食べたかな?」

「心配しなくても大丈夫よ、今日も一日よく頑張ってお仕事しましたねって、兵隊さんたちからたくさんご飯をいただいてるわ」


寝る時間になっても美里はテルの話ばかりしている。

「ねえ、お母ちゃま、テルは今どこに居るの?」

「海の向こうに渡るために、きっと今頃お船の上だよ」


英治の言葉に美里は目を閉じた。

花子から教えられた空想の翼を広げる方法だ。

「テル、兵隊さんたちと一緒に大きなお船に乗ってるわ」

「うん、お船の上で兵隊さんたちに可愛がられてるわね」


花子も同じように目を閉じて、思い浮かべた。

「そんな遠い所に行って、迷子にならない?」

「 … 兵隊さんたちがついてるから心配いらないわ」


美里は安心すると、ようやく布団に入った。

「テル、早く帰って来ないかな ~ 」

* * * * * * * * * *

花子は美里の寝顔を見ると胸が痛かった。

「 … どうしよう、あんなこと言っちゃったけど」

川の字に布団を敷いて、美里を挟んだ向こう側に横たわっている英治が答えた。

「しょうがないよ、テルがもう帰って来ないなんて … 言えないよ」

「そうよね … 」


* * * * * * * * * *

< その後も美里は毎日、テルの帰りを心待ちにしていました >

外出しても、テルが帰って来るかも知れないと急いで帰り、テルの絵ばかり描いていた。

花子は自分の言葉を信じて、テルの帰りを待っている美里のことが気になって、仕事の手も止まりがちだった。

* * * * * * * * * *

そんなある日、吉太郎が久しぶりに村岡家を訪れた。

「しばらくだな、皆元気そうじゃん」

吉太郎は美里に土産だと言って饅頭の包みを渡した。

「てっ、兄やんが御饅頭?」

「どうしたの?」


ももと花子が大袈裟に驚くと、吉太郎はバツが悪そうな顔をした。

「たまには土産くらい持ってくるさ … いや、実を言うと、はなにちょっと頼みがあってな」

* * * * * * * * * *

「上官の甥っ子が、はなのラジオ番組を大好きならしくて … 」

頼みというのは、『王子と乞食』の本に花子の署名を入れてほしいという他愛のないことだった。

美里は吉太郎の土産の饅頭を美味しそうに頬張っている。

ラジオの出演がある花子が出かけて行った後、美里は吉太郎に一緒に絵を描こうとねだった。

子供に優しい吉太郎のことを美里も大好きだった。

* * * * * * * * * *

「へえ、上手だな」

縁側で絵を描く美里を吉太郎は目を細めて見ていた。

実父と養父、どちらも絵の才能がある美里の絵は絵心がない吉太郎の目にも達者に見えた。

「テルが兵隊さんをお助けしているところよ」

吉太郎はその言葉にテルが居ないことに気づいた。

「テルは?」

「兵隊さんのために働きに行ったの」

「兵隊さんのために … お母ちゃまがそう言ったのか?」

「テルが帰ってきたらね、いっぱいほめてあげるの ~ ごほうびもあげるのよ」


* * * * * * * * * *

「美里ちゃん、毎日待ってるの」

複雑な顔で美里の話を聞いている吉太郎にももが小声で伝えた。

「早く帰って来ないかな ~ 」

しばし考えていた吉太郎が美里に言った。

「 … 美里、テルはお国のために身を捧げて働いてるんだ」

「でも帰って来るんでしょう?」

「お仕事が終わったら帰って来るって、お母ちゃま言ってたものね」


ももがとりなすと美里はうなずいた。

「美里がいい子にしてたら、早く帰って来てくれるわよね?」

そして、念を押すように訊ねたが、吉太郎は黙って美里の顔を見つめたままだった。

「おじちゃま?」

* * * * * * * * * *

「 … 帰って来られなくても、テルはお国のために立派に尽くしたということだ」

吉太郎は美里の目を見ながら諭すように言った。

「兄やん」

ももが止めたが少し遅かった。

「テル、もう帰って来ないの?」

美里の涙声を聞いて、吉太郎もそれ以上何も言えなくなってしまった。

「やだっ、そんなのいや!」

その表情から何かを察したのだろう、美里は声を上げて、裸足のまま縁側を飛び下りると、英治の居る工房へと走っていってしまった。

* * * * * * * * * *

「お父ちゃま」

泣き顔の美里を英治は抱き上げた。

「美里、どうした … うん、どうした美里?」

ももと吉太郎が慌てて工房に走り込んできた。

「申し訳ありません。

自分が余計なことを言ってしまって … 」


吉太郎の話を理解するには美里はまだ幼すぎたのだ。

* * * * * * * * * *

ラジオ局の花子は、そんな出来事があったことを知る由もなかったが … 美里とテルのことを思い、たまらなくやるせない気持ちに苛まれていた。

「ごきげんよう … よろしくお願いいたします」

廊下ですれ違った有馬が呆れたように言った。

「あんな浮かない顔で、ごきげんようもないものです」

「原稿さえ、読み間違えなければいいんだ」


漆原は吐き捨てた。

* * * * * * * * * *

ニュースの原稿は前にも増して、軍事関連のものばかりになっていた。

花子にとって、選考するのさえ気が重かった。

「村岡先生、動物のニュースがありました。

いいニュースですよ」


黒沢が差し出した原稿に花子は飛びついた。

それは、徴用された軍用犬が戦地で手柄を立てたというニュースだった。

* * * * * * * * * *

「正しい発音、滑舌に注意、一字一句原稿は正確に!」

リハーサルを終えた花子に有馬がいつもにも増して強い口調で注意を与えてきた。

逓信省の目が厳しくなっているのだ。

「原稿を正確に読むことは益々重要です」

「はい … 」


* * * * * * * * * *

村岡家。

『コドモの時間』が始まったというのに、ラジオの前には美里の姿がなかった。

縁側に座って、テルの犬小屋をじっと見つめたまま動こうとしないのだ。

「美里ちゃん … 」

ももが近づいて声をかけてもびくとも動かない。

「ほら美里、お母ちゃまの出番だよ」

「全国のお小さい方々、ごきげんよう … 『コドモの新聞』のお時間です … 」


* * * * * * * * * *

「 … さて次は、犬の兵隊さんに功労賞が贈られたという話です。

犬の兵隊さんと呼ばれる軍用犬は戦地でお働きの兵隊さんをお助けして、大変お役に立っていると、何度かお話ししましたね」


『犬の兵隊さん』の話だと知った美里は、急いで居間へ行き、英治の膝の上にちょこんと腰かけた。

「この軍用犬の中には、皆さんのおうちで飼われていた犬もたくさんいます」

ラジオから流れて来る花子の声に美里は耳を傾けた。

「その中のあるおうちで飼われていた犬 … 」

花子の脳裏をテルと遊ぶ美里の笑顔がよぎった。

「 … テルは、戦地で元気に兵隊さんのお役に立っています」

重大な違反行為だった。

許可を得ず、その場で原稿を読みかえてしまったのだ。

「テル号は、隠れていた敵を見事に捜し出し、兵隊さんをお守りするという大変立派な働きをしましたので、この度、功労賞を与えられました」

* * * * * * * * * *

ラジオを聞く美里の顔に微笑みが戻っていた。

「テル、テルだ!

テルがニュースに出たよ」


目をキラキラ輝かせて皆に言って回った。

* * * * * * * * * *

< もちろん、原稿にはテルともテル号とも、ひと言も書いてありませんでした >

スタジオの中、花子の傍らに座っている有馬はあたかも憎悪を込めたようなまなざしで花子をにらみつけている。

あの黒沢でさえ、指揮室から花子のことを厳しい目で見つめていた。

< これは、まずいことになりそうです。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月28日 (木) | 編集 |
第130回

ももは美里を花子たちに託し、胸を患った旭の療養先に向かった。

1938年(昭和13年)・夏。

< それから5年経ちました。

ももの献身的な看病のお蔭で旭は元気になり、英治の頼もしい片腕として働いています。

ももと旭の間には、もうひとり女の子が産まれました。

花子たちが長らく預かっていた美里は、ももと旭のたっての願いで、村岡家の養女になりました >

愛犬のテルも立派な成犬に育ち、美里のいい遊び相手だ。

「お母ちゃま、いってらっしゃい」

「美里、ももおばちゃまの言うこと聞いていい子にしてるのよ」

「はい、夕方、ラジオ聴くからね」


美里やももに見送られて、花子はラジオ局に向かった。

* * * * * * * * * *

「今日の記事はまだ決まらないんですか?」

漆原が苛立ち気味に会議室に顔を出した。

花子は黒沢と共に原稿を選考しているのだが、なかなか思うような記事が見つからなかった。

「あの、動物の記事はありませんか?」

「はあ?!」


花子が黒沢に訊ねたのを耳にした漆原が声を荒げた。

「ほら、動物園から珍獣が逃げ出して大騒ぎとか … 以前はそういうニュースたくさんあったじゃないですか?」

「村岡先生、この時局下において、珍獣がどうのこうのってことどうでもいいんです!」


花子の言葉など、一蹴した。

< 前年、日中戦争が勃発し、この春には国家総動員法が出来、国民は総力を上げて、軍事体制への協力が求められていました >

* * * * * * * * * *

< 『コドモの新聞』のニュースも軍事に関するものが大半を占めるようになりました >

村岡家の近所の子供たちの遊びも兵隊さんごっこのように勇ましいものに変わっていた。

「あっ、今日はラジオのおばさんの日だ!」

「もうじき始まるぞ!」


それでも子供たちは、『コドモの新聞』を楽しみにしていて、放送時間が近づくと遊ぶのも止めて、家路を急いだ。

* * * * * * * * * *

「 … JOAK、東京放送局であります。

只今から、『コドモの時間』の放送です」


ラジオから軽快な音楽が流れ出し、有馬が番組のはじまりを告げた。

村岡家の居間には、美里と英治、それに旭と赤ん坊を抱いたももがラジオの前に集まっていた。

「楽しみだな ~ 」

美里は英治の膝の上に座ってうれしそうに話した。

「今日ね、お母ちゃまにお願いしたの ~ 美里が好きな動物のお話をしてって」

どうりで、花子が動物の話を探していた訳だ。

* * * * * * * * * *

ところが、ラジオから聞こえてきた話は様子が違った。

「遥か太平洋の向こう、カナダのバンクーバーという港に住む日本人は、青年会を作っています。

その中の少年たち30人は、クリスマスやお正月のお小遣いを倹約して、貯金をしていました。

それが、25圓53銭になりましたので、陸軍省宛てに送って来ました。

『このお金で軍馬や軍用犬や軍用鳩のため、何かごちそうをしてあげてください』とありました … 」


* * * * * * * * * *

「また一週間経ったら、お話ししましょうね。

それでは皆さん … ごきげんよう、さようなら」


放送が終わると、美里はすぐに英治に訊ねた。

「動物のお話は?」

「う ~ ん … 軍馬、軍用犬、軍用鳩って、お母ちゃま言ってただろ?

あれは、兵隊さんたちのお手伝いをする、お馬や犬や鳩のことだよ」


苦しい説明だった。

「まあ、動物の話には違いないんですけどね … 」

「美里ちゃんには、ちょっと難しかったかな?」


旭とももが宥めたが、美里はつまらなそうな顔をしていた。

* * * * * * * * * *

宮本家でも、龍一を除いた家族が揃って花子のラジオを聴いていたところだ。

「カナダの少年たちは偉いわね、お小遣いを貯めて陸軍省に送るなんて」

富士子が感心していると、純平が咎めるような口調で言った。

「富士子、一番立派なのは、お国のために戦っている兵隊さんたちじゃないか。

はあ ~ 僕も早く入隊したい」


純平がふと漏らした言葉に、文机で原稿を書いていた蓮子のペンが止まった。

「 … 純平?」

すると、純平は蓮子の方に向き直って膝を正した。

「お母様、僕は軍人になりたいです」

「純平、立派な心掛けです」


浪子は純平の志を褒めた。

「こないだラジオで言っていました。

少年航空兵は、15歳から募集があるそうです。

… 試験を受けさせてください」


* * * * * * * * * *

「だめです、いけません」

蓮子が認めないと、純平は不満げに理由を訊ねた。

「 … あなたは、まだ勉強しなければならないことがたくさんあります。

戦地がどういう所かも分かっていないでしょう?」

「僕は、お国のために身を捧げ、お母様たちをお守りしたいんです!」


* * * * * * * * * *

「純平君がそんなことを?」

次の日、村岡家を訪れた蓮子は、昨晩の純平の話を花子にこぼした。

「蓮様、龍一さんは何て?」

「龍一さんにはとてもそんなこと言えないわ」


龍一が中国との戦争を終わらせるために、昔の仲間たちと共に活動していることを蓮子はそっと明かした。

「家族には迷惑かけたくないと言って、余り話してはくれないけれど … 」

不安そうに表情を曇らせた。

< 戦争の影は、人々の暮らしの中に忍び寄っておりました >

* * * * * * * * * *

数日後、梶原が思いがけない人を伴って村岡家を訪れた。

「梶原さん、ごきげんよう、お暑かったでしょう … てっ!?」

後から入ってきたのは、スコットだった。

「スコット先生には少し前から秀和女学校の仕事の合間に聡文堂を手伝っていただいていたんだ」

居間に腰を下ろした梶原はそう説明した。

「これからはなかなか翻訳ものは出しづらくなると思うけど … まあ、出来る限りのことはやろうと思ってね」

梶原はスコットの推薦だと言って、一冊の本を差し出した。

「 … どう思う?」

「パレアナ!」


花子はその本を手に取り、タイトルを見るなり声を上げた。

「(私の大好きな物語です!

どんなつらい時も希望を見出そうとする主人公が素敵ですよね)」


スコットは笑顔でうなずいた。

「梶原さん、この物語は必ず日本でも愛されると思います」

「じゃあ、決まりだな ~ 翻訳してくれるよね?」


花子はふたつ返事で引き受けた。

スコットと一緒に本を作れるなんて、花子には夢のようなことだった。

「スコット先生は英語が通じる喜びをはじめて私に教えてくださった恩人なんです」

* * * * * * * * * *

「(先生方はお元気ですか?)」

「(何人かは日本を離れ、帰国しました)」


花子の質問にスコットはやや寂しそうに答えた。

「(そうですか … )」

ミッションスクールへの政府の圧力が強まったという話を聞き、花子は心配はしていたのだ。

「(これからどうなっていくのでしょう?)」

眉をひそめたスコットに、花子は何も答えることが出来なかった。

* * * * * * * * * *

花子は早速、大好きだった物語、『パレアナ』の翻訳に取りかかった。

* * * * * * * * * *

< そんなある日のことでした >

「役場から連絡があったと思いますが、この犬はお国のためにお預かりします」

婦人会の役員たちが、テルのことを引き取りにやって来た。

「この犬は、娘と楽しく遊ぶことしかできません。

お役に立てるかどうか … 」


テルを出来れば渡したくない花子がささやかな抵抗を試みたが、役員たちはただ「お国のため」と口にするだけだった。

連れて行かれる時、テルはまるで「行きたくない」というように悲しい鳴き声をあげた。

「テル … 」

< ほっそりした柴犬のテルが戦地で勇ましく戦える訳がありません。

役に立たなければどうなるか … 花子も英治もテルが二度と帰って来ないことを知っていました >

* * * * * * * * * *

しばらくすると、ももと出かけていた美里が帰って来た。

「お母ちゃま、ただいま ~ 」

美里は花子に挨拶をすると、その足でテルの犬小屋へ向かった。

「テル、ただいま!」

「美里 … 」


犬小屋にテルが居ないことを知った美里は、テルの名を呼び、庭中を捜しはじめた。

「テル、テル?」

美里は庭に出てきた花子に訊ねた。

「お母ちゃま、テルは?」

「あのね、美里、テルは … 」


その後の言葉がどうしても出てこない花子に代わって、英治が説明した。

「テルは、お仕事に行ったんだよ」

「お仕事?」

「うん、兵隊さんたちを手助けするために行ったんだ」


美里は花子を見た。

「お母ちゃま、そうなの?」

「ええ」

「美里もテルお見送りしたかったのに … 」


美里の言葉に胸が一杯になりながら花子は答えた。

「テルね、目でお話してたわ。

『僕、行ってきます … 美里ちゃんに、ありがとうって言って下さい』って」


* * * * * * * * * *

「テルいつ帰って来るの?」

花子は息を呑んだ。

「テル帰って来るんでしょ?

… お母ちゃま、テル帰って来るわよね?」


美里に悟られてはいけない思いながら、花子は悲痛な顔で黙り込んでしまった。

花子だけでなく、英治も、ももも、旭も同じだった。

< とても本当のことは言えない花子でした。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月27日 (水) | 編集 |
第129回

< 歩の誕生日と同じ9月13日、ももと旭に可愛い女の子が産まれました >

「おめでとう、もも、よく頑張ったじゃん」

かよは、ももの腕に抱かれた赤ん坊に目を細めた。

庭では旭がスケッチブックにいろいろと名前を書きだして悩んでいた。

「よし、やっぱりこれだな」

旭が選んだのは『桃太郎』だった。

「益田桃太郎?」

自信満々の旭の顔を見て、英治は首を傾げた。

桃太郎では男子の名前ではないか … この男、本当に真剣に考えたのだろうか?

「ちょっとね … 」

* * * * * * * * * *

『命名 美里』

旭は『桃太郎』で最後までねばったが、ももが許さず、赤ん坊の名前は『美里』に決まった。

名付けたのは英治だ。

< やっと名前が決まって、よかったですね ~ >

「ごきげんよう、美里ちゃん」

* * * * * * * * * *

1933年(昭和8年)・冬。

< … 三箇月が過ぎました >

ラジオ局。

花子がいつものように本番前の会議室で原稿に手を加えていると、漆原がやって来た。

「今日も随分と原稿に手を入れてるようですね」

漆原は机の上の原稿を眺めた。

「ええ、あと少しで終わります」

「今日はこちらの原稿に差し替えてください」


手にしていた原稿を花子の目の前に置いた。

「先生の担当なさる週は呑気な話題が多すぎるのではないでしょうかね ~

ご自分の人気取りのために面白おかしい話ばかりを取り上げるのは如何なものかと」

「そんなこと … 」

「今日はこっちのニュースにしてください」


花子は時間がないことを理由に抵抗したが、漆原は取り合わなかった。

「手直しせずにそのまま読めばいいじゃないですか」

口調とは裏腹に、漆原の目は笑っていない。

「じゃあ、後ほど … ごきげんよう」

さっさと、部屋を出て行ってしまった。

「だめだ … これじゃあ、子供たちに伝わらない」

< 花子も負けていません >

あくまで子供たちに分かりやすいことにこだわる花子は、猛然と原稿に赤えんぴつを入れ始めた。

* * * * * * * * * *

『コドモの新聞』の放送が始まった。

「 … 満洲でお働きの兵隊さんをお助けして、いろいろな手柄を立てる犬の兵隊さん。

すなわち軍用犬のお話はついこの間も申し上げましたが、陸軍ではこの4月から5年がかりでこの軍用犬をどしどし育てることになりました」


指揮室で放送を聴いていた漆原の顔色が変わった。

「また原稿を直したのか?」

黒沢はうなずいた。

漆原は忌々しげにスタジオの中の花子をにらんだ。

時間ぎりぎりに原稿を変更すれば、手直しが間に合わず、逓信省の許可も取れないと踏んでの策略だったのだが … 見事、花子は切り抜けてしまったのだ。

* * * * * * * * * *

帰り道は雪になった。

凍えて家に戻ると、ただならぬ様子で英治が出迎えた。

「何かあったの?」

「旭君が倒れたんだ」


* * * * * * * * * *

「旭さん、ずっと咳をしていて熱も下がらないから、病院で診てもらったら … 結核でした」

「結核?」


ももから旭の容態を訊いた花子は愕然とした。

… 結核といえば、当時生死にかかわるような病気だった。

「入院して経過見てみないとよく分からないって … でも、よくないみたいで」

「そんな … 」

「お姉やん、しばらくの間、美里を預かってもらえませんか?」


沈痛な面持ちのももの願いを花子は当然のように引き受けた。

「ありがとうございます」

「もも、お姉やんに遠慮なんかしないで」


* * * * * * * * * *

花子に美里を預けると、ももは旭が入院した病院へと向かった。

「 … 旭さんとも結ばれて、こんなに可愛い赤ちゃんも授かって、これからって時にどうしてももだけ、あんな悲しい思いをしなきゃいけないの?」

もものことが不憫でならなかった。

「旭君が一日も早くなってくれることを祈ろう」

「ええ」


* * * * * * * * * *

花子は、昼間の仕事中は書斎の机の傍らにかつて歩が使っていたゆりかごを置き、そこに美里を寝かせた。

しばらく仕事を続けていると、美里が急に泣き出した。

「美里ちゃん、どうしたの?」

慌てて抱き上げたが一向に泣き止まない。

「ミルクはさっき飲んだばっかりだし、おしめも換えたし … 」

手を焼いていると、窓の外で英治が呼ぶ声が聞こえた。

* * * * * * * * * *

「おかえりなさい」

花子は美里を抱いたまま、書斎から外に出て、英治を迎えた。

「随分、元気に泣いてるね」

「そうなの、さっきまでいい子だったんだけど … 」


英治は、にこやかに美里の顔を覗きこんだ。

「美里ちゃん、今日はお友達を連れてきたよ」

「お友達?」


しかし、辺りには特に誰も居なかい。

「ほらっ」

英治がコートの懐から出した腕の中には茶色の小犬が抱かれていた。

「て ~ 可愛い、どうしたの?」

「いつの間にか僕の後ついて来ちゃって、帰らなくてさ ~ ほらっ」


英治はその子犬を美里の目の前に差し出した。

「この子、うちで飼わない?」

「美里ちゃんも賛成よね ~ 」


不思議なことに美里はぱったりと泣き止んでいる。

子犬が村岡家の一員になることは、即決した。

「名前はどうしようか?」

英治は子犬の顔を見ながら考え始めた。

花子がひらめいた。

「 … テルはどう?」

「テル?」

「泣いてた美里ちゃんの涙が、あっという間に晴れたから … てるてる坊主のテル!」

「うん、いいね」


< 村岡家に新しい家族が増えました >

* * * * * * * * * *

数日後、花子の元に甲府の吉平とふじから手紙が届いた。

結核で入院した旭のことを心配して、ももの助けになって欲しいと懇願している。

『 … 何か困ったこんがあったら、すぐにいうだよ。

いつでも飛んでくから

お父、お母より』

ちょうど、手紙を読み終えた時、ももがやって来た。

「美里ちゃん、お母ちゃまよ」

* * * * * * * * * *

「転地療養?」

「空気のいい所で、2年くらいじっくり治療した方がいいって、お医者さんが」


ももは医者の見解を伝えた上で、花子と英治に相談した。

「私も旭さんに着いていきたいんです」

「旭君も、ももさんが着いていれば心強いと思うよ」


英治の言葉にももはうなずいた。

「ただ、赤ちゃんには伝染りやすい病気だから、よくなるまで一緒にいない方がいいって …

美里には申し訳ないけれど、今は旭さんの傍に居てあげたいんです。

… 前の主人は、お医者さんにも連れて行けなかった。

だから、旭さんには精一杯のことしたいんです」


ももが何を言いたいのか花子には分かっていた。

「旭さんが退院できるまで、美里をお願いできませんか?」

ももにしてみれば苦渋の選択だろう。

花子が英治の顔を見ると、笑顔が答えだった。

「いいわよ、うちはいくらでも」

「ああ、本当にすみません」


ももは安堵し、深く頭を下げた。

「美里、よかったね … 」

* * * * * * * * * *

「お姉やん … 」

そして、ももは少し顔を強張らせて、改めて花子に向き直った。

「お姉やんに、ずっと謝りたかったことがあるの」

「えっ?」


ももの意外な言葉に花子は困惑した。

「東京に来たばかりの頃、私、お姉やんにひどいこと言ったでしょ … 」

* * * * * * * * * *

「幸せなお姉やんには私の気持ちなんか分かりっこない」

* * * * * * * * * *

「私、お姉やんは、ずっと陽の当たるとこ歩いてきて、惨めな思いなんてしたことない人だと思い込んでた。

でも、違った。

私の知らない所で悔しい思いもいっぱいして、涙もいっぱい流して …

私、お姉やんがうらやましくて、そんなことも分からなかった」


ラジオ局で漆原の心ない言葉に責められながらも、毅然とした態度で返す花子の姿にももは感動を覚えた。

「人生は上手くいく時ばかりではありません。

どうかすべての人たちが明日も元気に無事に放送を聴けますようにという祈りを込めて、番組を終わらせたいんです」

* * * * * * * * * *

「それでは皆さん。

… ごきげんよう、さようなら」

* * * * * * * * * *

「あの時、お姉やんの『ごきげんよう』っていう言葉が、すうっと心に入ってきて … おらまでここが暖かくなった」

ももはそう言いながら胸を押さえた。

「ほれなのに … ずっと、素直に謝らなんで、ごめんなさい!」

もう一度頭を下げたももに花子はかぶりを振った。

「ううん、お姉やんこそ、ももの気持ち分かってやれなくてごめんね」

「お姉やん、おら、もうこれっぽっちも自分を惨めだなんて思っちゃいんよ。

旭さんみたいに優しい人に出会えて、お姉やんやお義兄さんに祝福してもらって、美里も元気に産まれてきてくれて … 本当に今は毎日、旭さんの看病できて … 本当に幸せ。

ほう思えたのは、お姉やんのお蔭だよ」


花子は目を潤ませ、ももを見つめた。

「ももさん、美里ちゃんのこと心配しなくていいから … 旭君の看病、しっかりやってあげてください」

「はい、ありがとうございます」

「もも、大丈夫よ … 旭さん、きっと元気になるから」


ももはしっかりとうなずいた。

< こうして、ももは美里を花子たちに託し、旭の療養先へ向かいました。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月26日 (火) | 編集 |
第128回

ももをモデルにした旭の絵が完成した。

「この絵が完成したら言おうと思っていたことがあります。

… 僕と結婚してください」

絵の出来は素晴らしく、花子と英治の目からもふたりはお似合いに見えた。

ももはうつむき、苦しそうに返事をした。

「 … できません」

* * * * * * * * * *

「僕はずっと、周りの人たちをびっくりさせるような絵を描いて、有名になりたいと思っていました。

でも、ももさんを描いているうちに分かったんです。

周囲に才能を評価されるよりも、もっと大切なことがあると。

… それは、描く対象をちゃんと愛することです」


旭は切々と語った。

「芸術家気取りは、もう止めにします。

これからは地道な仕事に就いて、一生懸命働きます。

生活の苦労も絶対にかけません … それでも駄目ですか?」


花子と英治にも旭の真剣さが伝わってきた。

すると、ももは申し訳なさそうに答えた。

「 … 違うんです。

こんな素敵な絵描いてくれて、本当にうれしいです」


そう言いながら、旭の絵を悲しげな目で見つめた。

「でも … これは本当の私じゃありません」

* * * * * * * * * *

「ほんの少し前まで、北海道でひどい暮らしをしてました。

2年前に夫を亡くして … いろいろあって東京に来ました」

「知ってます … 」


実は、ももが初めてかよの店に行った時、客として来ていた旭は酔いつぶれながらも、ももが語る身の上話を聞いてしまったのだ。

「僕なんか想像も出来ないような苦労をなさったんですね。

でも、僕はそれを聞いて … どうしようもなく、あなたに惹かれました。

そんなに過酷な生活の中でも、生きようとする強さを持ち続けた … 僕はあなたのそんな強さに惹かれたんです」


旭は声に力を込めて、絵を指さした。

「その気持ちを、僕はこの絵に込めました」

ももは顔を絵を見上げた。

絵に託された旭の思いがひしひしと伝わってくるようだった。

「ももさん、これからは僕にももさんを守らせてください」

花子はももの顔を見た。

「もも … 」

涙を溜めた目でじっと旭を見つめている。

旭のまごころにももの心が揺れているのだ。

旭もまた、ももから視線を外すことなく目を見開いていた。

そして、ももは頬をほころばせると、旭に向かって小さくうなずいた。

* * * * * * * * * *

1933年(昭和8年)・夏。

< それから1年後の夏 … 旭とももは結婚し、村岡家の近所に家を借りました。

あの時、旭が描いたももの絵は展覧会で三等賞になりました。

旭は英治に印刷の技術を教わりながら、青凛社で働いております >

* * * * * * * * * *

< そんなある日のこと、珍しいお客さんが訪ねてきました >

「て ~ 朝市、どうしたでえ?」

連絡も入れず、突然、村岡家にやってきたのは朝市だった。

「 … 今日は相談があって来ただ」

朝市は十数年ぶりに再会したももの幸せな結婚を心から祝福した。

「もうすぐ赤ちゃんも生まれるだって、本当におめでとう」

「ありがとう」


あの教会の図書室での出来事は、ふたりだけに胸にしまいこんだ遠い記憶だ。

* * * * * * * * * *

「それで相談って?」

学校で長いこと指導を続けてきた『綴り方』の生徒たちの作品を、まとめて本にしたい … 青凛社で出来ないかという相談だった。

花子と一緒に話を聞いていた英治に快く引き受けてもらえた朝市は安堵の笑みをみせた。

* * * * * * * * * *

「あ、ほうだ ~ この間、武に誘われて、甲府で演芸会に行ったら、はなの物まねしてる芸人さんが居たさ」

「てっ、私の物まね?」


朝市は『コドモの新聞』での花子の口調や言葉遣いをまねた芸人のことを花子に話した。

「『ごきげんようのおばさん』ってはなはすっかり有名人じゃんね」

花子は喜んでいいのかどうか複雑な顔をしている。

「はなの『ごきげんよう』が皆に広まって、おらもうれしいだよ」

朝市は懐かしむように話し続けた。

「はなが東京の女学校から甲府に帰ってきて、はじめて『ごきげんよう』って言葉を聞いた時ゃ、えれえびっくりしたけんどな ~

今思うと、はながすっかり東京のお嬢様みてえになっちまって、寂しかっただな」


* * * * * * * * * *

「ふんだけんど、はなが女学校でうんとこさ頑張ってるの分かって … おらももう一度勉強してみようって気持ちになれただ。

はなには、感謝してる … おらが教師になれたのは、はなのお蔭じゃん」


今日の朝市は何か変だと花子は思った。

「朝市、急にどうしたでえ?」

「ずっと、お礼が言いたかっただ」


面と向かって感謝されることなんて、今までになかったことだ。

「 … 今日は、もうひとつ報告があって来ただ」

「何?」


朝市は台所に立っていたももにも聞いて欲しいと呼んだ。

* * * * * * * * * *

「おら、今度結婚するだ」

「てっ、結婚?!

ああ、朝市おめでとう ~ 相手はどんな人、甲府の人?」


朝市はうなずき、教員仲間の妹だと言った。

「どんな女の人?」

ももが訊ねた。

「きさくでよく笑う人だ。

本読むのが好きで … たまに怒るとおっかねえけんどな」

「お姉やんみたい」


朝市は笑った。

「はははは … 顔は似てねえけどな」

「りんさん、喜んでたら?」

「結婚するって言ったら、うちのお母、急に泣き出してびっくりしたさ ~ この歳までひとりだからもうあきらめてただとう。

… お母にも随分心配かけちまった」


* * * * * * * * * *

「よかったね ~ 朝市、おめでとう」

ふと気づくと、花子は笑いながら、ボロボロと涙をこぼしているではないか。

「はな … 何で、はなが泣くでえ?」

唖然とする朝市。

「だって、私本当にうれしくって … こんなにちっくい時から知ってる朝市がお嫁さんもらうと思ったら、もう … 」

花子の涙は止まらない。

「おら、はなとももちゃんには、こぴっと報告したかっただ」

「本当におめでとう、朝市」


朝市は花子の泣き顔を見ながら優しく笑った。

結婚をする前に、花子への思いに改めてにけじめをつけておきたかったのだろう。

* * * * * * * * * *

< 9月の半ばのことです >

その日、居間で縫物をしていたももが急に産気づいた。

旭ばかりでなく英治まで仕事が手につかず、工房を閉めて庭でそわそわしていると、ほどなくして元気な産声が聞こえてきた。

「元気な女の子よ!」

縁側に飛び出してきた花子が告げた。

* * * * * * * * * *

「ごきげんよう」

布団に起き上がって、産まれたばかりの娘を抱いたももはそっとささやいた。

< ももと旭の赤ちゃんは、歩と同じ9月13日に誕生したのでした >

花子と英治は不思議な縁に思いをはせ、ももに抱かれたその赤ん坊を見つめた。

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月25日 (月) | 編集 |
第127回

< 花子は翻訳家として活躍する一方、ラジオのおばさんとしての第一歩を踏み出しました >

そんな折り、花子たちの前にやつれた姿のももが現れた。

夫を亡くしたももは北海道の嫁ぎ先から逃げてきたのだ。

花子は一緒に暮らすことを願ったが、ももは頑なに拒否した。

* * * * * * * * * *

「『ごきげんよう』は様々な祈りが込められた言葉だと思います。

人生は上手くいく時ばかりではありません … どうかすべての人たちが明日も元気に無事に放送を聴けますようにと、『祈り』を込めて番組を終わらせたいんです」

< 花子は心を込めて言いました >

「 … ごきげんよう、さようなら」

ラジオから流れる花子の言葉を耳にしたもも。

< その言葉が、もものかじかんだ心に沁み込んでいきました >

* * * * * * * * * *

放送を終えた花子が帰宅すると、英治が待ち構えていたように玄関で出迎えた。

「おかえり、花子さん、待ってたんだよ。

ももさん、この家で一緒にくらしてくれるそうだよ」


花子は急いで家に上がった。

「もも?!」

花子の顔を見ると、ももはいきなり畳に正座した。

「ここに置いてもらう代わりに、家の仕事を私にやらせてください。

ふたりともお仕事忙しそうだし、私に出来ること何でもしますから」

「 … ありがとう」


花子も英治も心から喜び、ももの申し出を快く受け入れた。

* * * * * * * * * *

< ももが花子たちと暮らし始めて数日後のことでした >

働き者のももは炊事洗濯掃除とあらゆる家事を手際よくこなした。

お蔭で花子は心置きなく仕事に専念することが出来るようになった。

ももが縁側を雑巾がけしていた時のことだ。

突然、何者かが庭から目の前に現れた。

「きゃあっ!」

花子がももの悲鳴を聞きつけて駆けつけると、見知らぬ男が縁側に身を乗り出して、ももの手を掴んでいた。

「困ります、やめてください!」

「ももに何するんですか?!」


花子が男の手を振り払った時、騒ぎを聞きつけた英治が工房から飛んできた。

「花子さん、どうしたの?」

「この人がもものこと」


すると、男はももに話があると口にした。

「ももには指一本触れさせません!」

花子が毅然と言うと、男は慌てて否定した。

「いいえ、決して怪しい者ではなく、ももさんに折り入ってお話が … 」

そう言いながら、またもやももに近づこうとする男を英治は羽交い絞めした。

「十分怪しいよ!」

力づくで取り押さえようとする英治を、何故かももが止めた。

「お義兄さん、やめてください … その人、かよ姉やんの店の常連さんなんです」

闖入者の正体は、カフェータイムの常連の売れない画家だった。

* * * * * * * * * *

花子たちは仕方なく男を居間に通した。

「それで、絵描きさん、ももにご要件というのは?」

「僕は益田旭といいます。

まだ無名ですが、近いうちに有名になる予定で … 」


改めて顔を見ると、どこか気弱で人の良さそうな旭は、到底悪人には見えなかった。

「そのために、ももさんに絵のモデルになっていただきたいんです」

人懐っこい顔で笑った。

「絵のモデル?」

「 … また、変な絵を描くんじゃないですか?」


ももは不審な目で旭を見た。

「へ?

あっ、今度はちゃんと描きます!

近いうちに大きな展覧会があるんです … 僕に力を貸してください、お願いします」


旭は頭を下げた。

* * * * * * * * * *

「あの、どうしてももなんでしょう?」

花子が素朴な疑問をぶつけると、旭は考え込んでしまった。

「分からないんですか?」

「 … これ程までに描きたいと思うのは、どうしてでしょうね?」


旭は英治の顔を見た。

「いや、私に聞かれても … 」

英治がいらつき気味に返すと、旭はまたも考え込んでしまった。

「う ~ ん  … はっ!

分かりました」


案外容易く答えが出たようだ。

「ももさん、あなたが好きだからです」

旭はまったく臆面もなく、ももに伝えた。

* * * * * * * * * *

「えっ?!」

目を丸くするもも。

「 … お願いします。

僕のモデルになって下さい」


その表情は真剣だった。

困惑していたももは、座ったままで後ずさりすると突然立ち上がった。

「あっ、もも?!」

そのまま家を飛び出して行ってしまった。

* * * * * * * * * *

ももが逃げ込んだのはカフェータイムだ。

「そんなに慌ててどうしたで?」

かよが呆気にとられていると、続いてももの後を追って花子が駆け込んできた。

* * * * * * * * * *

水を一杯飲んでひと息ついた花子はかよに訊ねた。

「… 益田旭さんってどういう人なの?」

「画家を目指して東京に出てきたらしくて、毎日のように来てくれるの。

いつもお金はないけど、親切な人だよ」


店の椅子や棚、ラジオまで直してくれたらしく、かよは好印象を持っているようだ。

* * * * * * * * * *

「この絵、益田さんがももにくれたんだよね」

例の抽象画をかよは花子に差し出した。

「随分、変わった絵を描く方なのね … これ何の絵?」

「これ、ももなんだって」


かよがさも可笑しそうに話した。

「て ~ これがもも?!」

「あ、でも悪い人じゃないよ」


それは花子にも分かった。

だが、肝心のももは先程からずっと思いつめたように黙ったままだ。

「もも、心配しなくていいよ。

いやならお姉やん、断っておくから」

「 … 違うの。

私、男の人から初めて好きだって言われた」


ももは、うつむいて頬を赤らめた。

「うちの人、そういうこと口にする人じゃなかったから …

はあ、びっくりしてしまって」

「びっ、びっくりして飛び出しちゃったの?」


ももはコップの水をごくりと飲んだ後、小さくうなずいた。

その少女のような振舞に花子とかよは安堵するとともに顔を見合わせて笑った。

「なんだ、そうだったんだ ~ 」

* * * * * * * * * *

結局、ももは旭の絵のモデルになることを承知した。

絵を描くのは村岡家の居間。

「はい、そのまま動かないで」

緊張気味に椅子に座っているももに旭はいくつか注文をつけた後、キャンバスに向かった。

「あ、どうぞ … 息は吸ってください」

ももは旭に言われたことを律儀に守って、息まで止めていたのだ。

* * * * * * * * * *

花子宛てにラジオに届く手紙は回を重ねるごとに増え、花子自身も反響の大きさに驚くばかりだった。

「『ごきげんよう、さようなら』という村岡先生の最後の挨拶、大層評判がいいです」

花子も聴き手に自分の思いが通じたようでうれしかった。

あの漆原でさえ、『ごきげんよう』が好評だと認め、花子に接する態度も違ってきた。

あれほど嫌悪していた『ごきげんよう』を自ら口にするほどだ。

* * * * * * * * * *

< 売れない絵描きの旭さんは、毎日、村岡家にやって来ました >

絵描きとモデルという立場で、ほとんど言葉も交わさないふたりだったが … ある日、唐突に旭がももに訊ねた。

「ももさんは、どんな色が好きですか?」

「 … 好きな色なんて、考えたことありません」


ももが答えに困っていると、旭は質問を変えた。

「それじゃあ、好きな季節は?」

「冬は嫌いです」


その言葉に実感がこもっていたので、旭は筆を止めて、ももを見た。

「僕も冬は嫌いです」

「今くらいの季節は好きです。

植物が太陽に向かって、毎日大きくなっているのを見ると、元気がもらえるから」


旭は、せっせとパレットの上で絵具を混ぜ始めた。

「あの … こんな話、絵と関係あるんですか?」

「僕は、ももさんのすべてが知りたいんですよ」


朴訥とした見かけによらず、自分の思いを直球で伝えてくる。

「やっぱり、ももさんには緑色が似合うと思ったのは、間違いなかったな」

「えっ?」


旭はパレットの上で作った緑色の絵具を含ませた筆を、ももの顔の横に立てた。

「太陽に輝く緑色 … これが、ももさんだ」

一瞬、戸惑いの表情をみせたももだったが、ふっと肩の力が抜けたように笑った。

「やっぱり変な絵になるんじゃないですか?」

「変な絵には、しませんてば」


* * * * * * * * * *

「あのふたり、何だかいい雰囲気じゃない … 」

ももと旭の様子を花子と英治が微笑ましく見つめていた。

「案外お似合いかも知れないな」

「ええ」


* * * * * * * * * *

数日後、旭の絵が完成した。

「心を込めた描かせていただきました」

もも、花子、英治を前に、旭はキャンバスにかけてあった布をゆっくりと外した。

そこには写実的な画風で描かれた … 希望に満ちた目で真っすぐ見据えている、ももの顔があった。

花子と英治が唸った。

「いいね」

絵心のある英治が真っ先に賛辞した。

「ももらしさが出てて、とてもいいわ」

花子も感動していた。

目を輝かせて絵を見つめていたももの顔からは笑みがこぼれた。

「あのへんな絵を描いた人と同じ人とは思えないわね」

思わず漏らしてしまった花子は慌てて旭に謝った。

「ももさんを描くならこの方がいいと思ったんです。

ももさんの純粋さを、ありのままに表現したかったんです」


何故か、ももが次第に表情を曇らせていくのにも気づかずに旭は話を続けた。

「この絵が完成したら、言おうと思っていたことがあります」

そう言うと、旭は3人の前に正座した。

* * * * * * * * * *

「お義兄さん、お義姉さん … ももさんと結婚させてください」

驚いた花子はすぐさま、ももの顔を見た。

ももも同じように驚き、困惑していた。

「しまった!」

旭は下げていた頭をガバっと上げて困ったような顔をした。

「え?!」

「 … すみません、順番間違えました」


旭は改めて、ももの前に座りなおした。

「ももさん、僕と結婚してください」

* * * * * * * * * *

花子と英治はももを見た。

旭はじっとももを見つめ、答えを待っている。

ももは … うつむき、そして苦しそうに返事した。

「 … できません」

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月24日 (日) | 編集 |
まずは、先週のおさらいを …



それでは、次週の「花子とアン」は?

ラジオで初めて「ごきげんよう、さようなら」と語りかけた日、花子(吉高由里子)が帰宅すると、英治(鈴木亮平)が慌てた様子で迎えに出る。

もも(土屋太鳳)が来ているというのだ。

ももは花子と英治に村岡家に置いてもらう代わりに家事を引き受けたいと申し出る。

花子は心から喜び、ももは村岡家で暮らし始める。

数日後、ももが掃除をしていたところ、庭に不審な男が現れる。

花子と英治が捕まえてみると、売れない絵描きの益田旭(金井勇太)だった。

僕のモデルになって下さい

また変な絵を描くんじゃないですか?


ももに絵のモデルになって欲しいというのだ。

おっちょこちょいな様子の旭に困惑しきりのももだが結局、モデルを引き受けることに。

今日は報告があって来たら

そんな折り、朝市(久保田正孝)が久しぶりに村岡家を訪れる。

生徒たちが書いた『綴り方』をまとめて本にしたいとの相談だったが、もうひとつ花子に大切な報告があるという …

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2014年08月23日 (土) | 編集 |
第126回

「ほれじゃあ、もものこん頼むじゃんな」

「英治さん、はな、もものこんよろしくお願えしやす」


翌日、吉平とふじは花子と英治にもものことを託して、甲府へと帰って行った。

ももは昨晩、村岡家には戻らず、かよの家に泊まり、今日はそのまま店の準備を手伝っていた。

花子はラジオ局に向かう前に店に出向いてももに気持ちを伝えた。

「もも、うちで一緒に暮らそう。

お嫁に行く時、もも言ってくれたじゃない」


花子の書く物語を楽しみにしていると言ったももの言葉が勇気をくれた。

「あの時、ももがああ言ってくれなかったら … お姉やん、お話を作る夢あきらめてたかも知れない。

私が今、翻訳したり、童話の仕事をしていられるのは、もものお蔭だよ」


しかし、ももは仕事の手を休めようともせず、頑なに口を閉ざしたままだった。

< もものかじかんだ心が溶ける日は来るのでしょうか? >

* * * * * * * * * *

ももに無理強いすることは避け … ひとまず、花子はラジオ局へと向かった。

「皆さん、ごきげんよう ~ 今日もよろしくお願いいたします」

廊下で漆原、黒沢、有馬の3名と出くわした。

黒沢は、花子の放送が大変好評だということを伝えた。

「まあ、それはうれしいです。

では、後ほど … ごきげんよう」


花子の後姿を見つめながら、漆原が吐き捨てるように言った。

「ごきげんようか … 」

* * * * * * * * * *

会議室。

「これ全部、村岡先生宛てのお手紙です。

どうぞ、ご覧になって下さい」


黒沢は手紙の束を差し出すと、花子が修正を加えた原稿の許可を得るために逓信省へと出かけて行った。

花子は、その中の一通の葉書に目が留まった。

< それは、病気の坊やを持つお母さんからのお手紙でした >

* * * * * * * * * *

「もも、少し休んだら?」

朝からひと息もつかずに働きずくめのももを見てかよが嗜めた。

店はまだそれほど忙しい時間ではないのだ。

「私、一生懸命働くから … ここに置いて」

「 … でも、お姉やんが寂しがるよ」


かよはやんわりと諭した。

「ももと一緒に暮らしたいって、お姉やん心から思ってるよ」

「お姉やんはきっと、そんなこと思わないよ … あんなに忙しそうだし」


そう言いながら、ももは一向に手を休めようとはしなかった。

「お姉やんがあんなに仕事するようになったのは … 坊やが亡くなってからだよ」

かよの言葉にももの手が止まった。

「それからは、日本中の子供たちに物語を届けるんだって、いつもたくさん仕事を抱えてる。

… ラジオのおばさんもそんな気持で引き受けたんだと思う」


* * * * * * * * * *

花子が目を留めた葉書には、入院中の息子が『コドモの新聞』を楽しみにしていること、放送を心待ちにしていることが書かれていた。

『 … 息子にとって、先生の放送は希望なのだと思います』

手紙はそう締めくくられていた。

読み終えた花子はあることを思いついた。

* * * * * * * * * *

一方、その頃、ももは村岡家に戻っていた。

工房で仕事をしていた英治は、ももが花子の申し出を聞き入れてくれたと思って、ことのほか喜んだ。

「花子はラジオ局に行ってますけど、帰って来たら大喜びします」

「違うんです、荷物を取りに … 」


自分の早合点に気づいた英治は、残念そうな顔をみせた。

* * * * * * * * * *

居間に通されたももは、歩の遺影の前に座ってじっと見つめていた。

花子がももの夫の死を知らなかったように、もももかよに聞くまで歩の死を知らなかった。

ももには子供はいなかったが、身近な者を亡くす悲しみは理解できた。

それが我が子だとしたら … 花子の気持ちを思うと胸が痛んだ。

「 … これですね」

英治がももの唯一の荷物である風呂敷包みを持ってきた。

「すみません … 」

「実を言うと、僕はももさんが羨ましいです」


英治の唐突な言葉に、ももは思わず顔を見た。

「喧嘩が出来る姉弟がいて、羨ましいです」

英治は郁弥の遺影を見つめながら話しを続けた。

「僕は弟を亡くしました。

喧嘩も仲直りも、ひとりじゃできません」


* * * * * * * * * *

「あ、そうだ ~ ももさん、ちょっと待ってて。

花子が書いた新しい本、持っていってください」


花子の新刊を取りに書斎に入った英治は、仕事机の上に歩の小袋が置き忘れてあることに気づいた。

* * * * * * * * * *

「ももさん、お願いがあるんです。

この写真をラジオ局まで届けてもらえませんか?」


英治は小袋に入った歩の写真を差し出した。

「僕がいければいいんですが、急ぎの納品があって … 花子に渡して欲しいんです」

「 … 分かりました」


ももは英治から小袋を受け取った。

そして、その中から写真を取り出してみた。

可愛らしい男の子が少し照れくさそうに笑っていた。

* * * * * * * * * *

スタジオ内で本番を間近に控えた花子だったが、指揮室を出ると、その場に控えていた漆原と有馬の前に立った。

「あの、ご相談があるんですが … 」

「今度は何ですか?」


漆原はあからさまに嫌な顔をした。

「原稿を変更したいんです」

「またですか … 」


漆原と有馬は顔を見合わせた。

「放送はもう間もなくです。

逓信省の承認を取る時間はもうありませんから、そのままお読みになるしかありません」


有馬はにべもなくはねつけた。

「変更と言っても、ひと言だけです。

最後の挨拶を『さようなら』ではなく、『ごきげんよう、さようなら』にしたいんです」


有馬は鼻で嗤った。

「冒頭でも『ごきげんよう』と述べて、最後にまた『ごきげんよう』と述べるのですか?」

「余程、ごきげんようという挨拶をしたいんでしょう」


漆原はまるで蔑むような目で花子を見た。

* * * * * * * * * *

「あなたは、秀和女学校のご出身だそうですね?」

花子がうなずくと、自分の妻もそうだと漆原は言った。

「ごきげんようは、朝から晩まで耳にタコができるくらい聞かされます」

うんざりしている口ぶりだった。

「あそこは、家柄のいいお嬢様たちが通う名門です。

しかし、あなたは給費生だったそうですね?」

「ええ、そうです」


この男は一体何を言いたいのだろうか …

「貧しい家の出であるあなたが、ことさらに『ごきげんよう』という言葉を使いたい気持ちは分かります。

しかし、『ごきげんよう』が似合う人間と似合わない人間が居るんですよ」


身分を鼻にかけて、人を嘲る … これがこの男の本性なのだ。

* * * * * * * * * *

しかし、花子も負けてはいなかった。

「そうでしょうか?

『ごきげんよう』は様々な祈りが込められた言葉だと思います」

「祈り?」

「どうかお健やかに、お幸せにお暮しくださいという『祈り』です。

人生は上手くいく時ばかりではありません。

病気になることもあるし、何をやっても上手くいかない時もあります。

健康な子も、病気の子も、大人たちも、どうかすべての人たちが明日も元気に無事に放送を聴けますようにと、『祈り』を込めて番組を終わらせたいんです。

… どうかお願いします」


それでも、花子は漆原に頭を下げて頼んだ。

完全に論破されて、返す言葉もない漆原はソッポを向いている。

その時、指揮室に入ってきた黒沢が助け舟を出した。

「挨拶の部分ですから、換えても問題にならないと思います」

「いいえ、一行一句変えてはなりません!」


杓子定規の有馬はそう言いはったが、当の漆原はあっけなく折れた。

「まあ、いいでしょう。

問題になったら、下りてもらえばいい … 時間だ、はじめよう」


漆原にとって自分に責任が及ぶかどうかが一番重要なのだ。

* * * * * * * * * *

「村岡先生 … 」

黒沢に促されて、花子がドアの外を見ると、そこにはももが立っていた。

「もも?!」

当然、今のやり取りもすべて目の当たりにしていた。

「お姉やん、これお義兄さんから … 」

ももは歩の小袋を花子に手渡した。

「ああ … ありがとう」

「じゃあ、私 … 」


そそくさと引き上げようとするももに向かって花子は言った。

「もも、本当にありがとう」

ももは少し顔を強張らせながらも小さくうなずくと、その場から立ち去った。

* * * * * * * * * *

6時20分、『コドモの新聞』は始まった。

「全国のお小さい方々、ごきげんよう ~ これから皆さんの新聞のお時間です … 」

局内に流れる花子の声に、ももはじっと耳を傾けていた。

「最初のお話です … 大阪でヒヒが逃げたお話です。

今朝の6時ごろのことです」


花子の優しい口調を耳にしているうちに、ももの顔にも笑みが浮かんできた。

「 … 今日の新聞のお時間はここまでです。

それでは皆さん … ごきげんよう、さようなら」


* * * * * * * * * *

「ごきげんよう … 」

そうつぶやいたももの顔を夕陽が黄金色に染めていた。

< 花子の声が魔法の言葉のように、ももの心に沁み込んでいきました。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月22日 (金) | 編集 |
第125回

< 北海道に嫁いだももは夫に先立たれ、東京へやって来ました。

そして、安東家の家族全員が本当に久しぶりに顔を揃えました >

ももに会うために吉平とふじが甲府から上京し、吉太郎とかよも村岡家を訪れたのだ。

* * * * * * * * * *

その夜の食卓には、忙しい花子に代わってももが作った料理が並んだ。

「もも、北海道はどんなとこだったで?」

「 … お父が言ってた通りのとこ」

「旦那はどんな人でえ?」

「お父が言ってた通りの働き者」


かよや吉太郎が訊ねても、ももは多くを語ろうとはしなかった。

その旦那が去年、病気で亡くなったことを花子の口から聞いた一同は愕然とした。

「ほうだっただか … 」

「もも、苦労しただね」


ふじはももの境遇に涙しながらも、家族全員が無事で揃ったことを喜ぶのだった。

* * * * * * * * * *

「さあ、いただきましょう ~ このご馳走、全部ももが作ってくれただよ」

「ここんちの台所は何でも揃っててびっくりしたら?」


かよに訊ねられ、ももは小さくうなずいた。

「もも、美味えな」

「美味えよ」


和やかな雰囲気でささやかな晩餐がはじまった。

だが、ももは何処か虚ろな様子で塞ぎ込んでいるように見え、花子は心配を募らすのだった。

* * * * * * * * * *

食事の後、かよはももを自分の店に誘い、吉太郎と花子もつきあった。

かよがコーヒーを準備していると、常連の画家、益田旭が店に入ってきた。

「絵描きさん、今日は身内だけの貸切りなんですけど」

しかし、ポケットからなけなしの小銭を出して、酒を注文すると勝手に席についてしまった。

「またヤケ酒ですか?」

* * * * * * * * * *

「どうぞ、かよ姉やん特製のコーヒーじゃん」

誰もがコーヒーをはじめて見た時にするように、ももも訝しげにその真黒な飲み物を眺めた。

「 … いただきます」

カップを湯呑でも持つように手を添えると、恐る恐る口に近づけ、ひと口飲んで顔をしかめた。

* * * * * * * * * *

「花子さん、時折、ももさんに本や手紙送ってましたけど … このところ、返事がなくておかしいと思ってたんです」

ももがカフェータイムでコーヒーの苦さを味わっている頃、村岡家では英治から事情を聞かされたふじと吉平が沈痛な面持ちになっていた。

「ももは、北海道でどんな暮らしをしてたずら … 」

それは、子供の頃から貧しい暮らしの中でも笑顔を絶やさなかったももが逃げ出す程の場所なのだ … ふじの胸は痛んだ。

特に縁談を持ち込んだ吉平は自責の念に苛まれていた。

* * * * * * * * * *

「もも、もう北海道には戻らなんでいいだよ」

花子がももにそう伝えると、かよもうなずいた。

「ほうだよ、逃げ出すほど辛かったとこなんか、戻るこんないさ」

花子はももに一緒に暮らそうと申し出た。

「英治さんは優しい人だから、ももは何も気にしなんでいいだよ。

… おら、もっと、もものこと分かってやらんきゃいけない」

「お姉やんには分からないと思う」


ももははっきりとした口調で花子の言葉を遮った。

「あんなにいい暮らしして、立派な仕事して、旦那さんにも大切にしてもらって … 幸せなお姉やんには、私の気持ちなんて分かりっこない」

ももの言葉は花子にとって思いもよらぬものだった。

「どうしてこんなに違うんだろう?

同じお父とお母から生まれたのに … 」


* * * * * * * * * *

「もも、おらも昔、同じこん考えたことがある」

口を開いたのは吉太郎だった。

「はなは東京の女学校行って、最高の教育受けてるに、何で長男のおらが地べた這いつくばって百姓やってるずらかって」

それは花子にしても常にうしろめたさを感じていたことだった。

「あの頃は、お父を恨んでた。

あの人は、口では『人間は平等だ』とか言ってるけんど、はなだけを特別扱いしただ」


吉太郎の言っていることは紛れもない事実なので、花子は否定する訳にもいかなかった。

兄がこんな風に話を持っていくのにはきっと訳があるのだろうと自分に言い聞かせた花子だった。

「もも、いいから全部ぶちまけちまえ!

腹ん中に溜まってるこん、言っちめえ … 何で逃げてきたのかも、全部話してみろし」


* * * * * * * * * *

ももは始めは迷っているようだったが、少しずつ身の上話を話しはじめた。

「 … 食べる物も着る物もなくて、本当に冬は辛かった。

雪ん中、裸足で仕事したり … それでもまだ、あの人が生きてた頃は頑張れた。

皆で必死に土地耕してれば、そのうち楽な生活が出来るようになるって信じて … 来年こそは、来年こそはって、頑張ってた。」


少女だったももが、彼女なりの『大志』を抱いて、渡った北海道だった。

「けど、うちの人が病気で働けなくなったら、親兄弟皆冷たくなって … 薬買うためにお金借りようとしたけど、『皆、その日生きていくのに精いっぱいで貸す金なんかない』って言われた。

… 最後は葬式も出してやれなかった」


* * * * * * * * * *

「旦那さんが亡くなってからは、どうしてたでえ?」

かよが訊ねた。

「誰も助けてくれなくて、住む家もなくて … 馬小屋で寝てた」

花子は目を見開いた。

花子だけではない、吉太郎もかよも絶句していた。

「街に出た時、ラジオからお姉やんの声が聞こえてきて … その時、思った。

私にはこんなに立派なお姉やんが居るのに、こんな所で何やってるんだろうって」


そう言いながら、ももは顔をゆがめた。

「けど … お姉やんに会ったら、もっと惨めな気持ちになった。

お姉やんが羨ましくて羨ましくて … 何でおらとこんなに違うだって … 」


後は、涙で言葉にならないももの肩を吉太郎が抱いた。

花子は … ももの話を聞いて、かける言葉も見つからずに、目を閉じうなだれるだけだった。

* * * * * * * * * *

「 … 全部、俺のせいだ」

ひと足先に村岡家に戻った花子から、ももの話を聞いてふじはただ涙し、吉平は更に自分を責めた。

「俺がももを北海道なんかに嫁がせなんだら、ほんな思いしなんで済んだに」

吉平とふじは、ももを甲府へ連れて帰ろうとうなずきあっている。

「お父、お母 … 甲府に帰っても、ももは肩身が狭いだけじゃん。

ここで一緒に暮らす。

今の私があるのは、家族みんなが働いてる中、私だけ思いっきし勉強させてもらったからじゃん。

… ももにも感謝してるだ。

ほれを少しでも返したいの」

「僕からもお願いします」


花子に同調して英治は吉平とふじに頭を下げた。

* * * * * * * * * *

吉太郎も帰り、かよは店の片づけをはじめた。

花子に思いを吐き出したももではあったが、決して気持ちが晴れた訳ではなく、ぼんやりと椅子に腰かけたままだ。

さっきまで酔いつぶれていた益田はしきりにスケッチブックに何やら描き込みはじめていた。

「絵描きさん、もう店じまいなんで」

かよが閉店を告げると、益田は絵を描く手を止めてももに話しかけた。

「あの … 今日は一枚も売れなかったんで、この絵買ってもらえませんか?」

今描き終った絵をももに見せて訊ねた。

ももは絵などまともに見もせず、迷惑そうな顔で軽く会釈しただけだ。

「調子よすぎますね」

益田は自嘲気味に笑った。

そして、スケッチブックから絵をはがすと、ももに差し出した。

「いいです、差し上げます」

* * * * * * * * * *

「何の絵?」

ももが受け取った絵を見て首を傾げているので、横からかよが覗き込んだ。

益田の絵は、抽象的過ぎるというか … いくつかの曲線が交差していて、その交わりの中心に人の顔があった。

かよにもさっぱり分からない。

ふたりは不審な目で益田を見た。

すると、益田はサッともものことを指さした。

「て ~ これ、もも?」

ふたりは今一度、絵をまじまじと眺めた。

ももは思わず噴き出して笑いはじめた。

益田は一瞬不満そうな顔をしたが、やがて照れ笑いに変わった。

< ももがようやく昔の笑顔を見せてくれました。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月21日 (木) | 編集 |
第124回

< 花子がラジオのおばさんとしての第一歩を踏み出してから一週間後のことでした >

蓮子がある女性を連れて村岡家を訪れた。

「てっ、もも?!」

その憔悴しきった表情の女性は紛れもなく妹のももだった。

「 … ご無沙汰してます、お姉やん」

あの明るかったももとはまるで別人のように暗い 目をしている。

< 北海道に嫁いで幸せに暮らしていたはずのももに何があったのでしょうか? >

* * * * * * * * * *

「最初、うちにいらした時は、あのももちゃんだなんてちっとも気がつかなくて驚いたわ」

ももが小さい頃に甲府の家で会っただけの蓮子ゆえに仕方がないことだろう。

花子と英治もふたりの結婚式以来の再会だった。

「結婚式の時は、高い旅費を出していただいてありがとうございました」

「そんな、こちらこそ遠い所駆けつけてくださって … ありがとうございました」


ももから丁寧に礼を言われて英治は恐縮してしまった。

「それにしても、突然、蓮様と一緒に来るんだもん、びっくりしたわ」

花子も英治も、再会を喜んでいるのだが、ももの方はまだ一度も笑顔さえ見せずにほとんどうつむいたままだ。

「さあ、いっぱい焼いたから遠慮しないで、好きなだけ食べて」

花子は。ももが好きだったクッキーを勧めた。

「いただきます」

すると、ももは貪るようにクッキーを食べ始めた。

* * * * * * * * * *

「もも、東京に来るなら連絡してくれてもよかったのに …

旦那さんと一緒に来たの?」。


花子に訊ねられて、ももはクッキーを食べる手を止めた。

「 … ももちゃんは、北海道の生活に耐えきれずに逃げてきたそうよ」

代わりに答えた蓮子の話に驚く花子。

すると、ももが重たい口を開いた。

「主人は、去年亡くなって … 」

「お姉やんそんなことちっとも知らなくて … 」

「 … 報せる余裕がなくて」


ももは北海道で偶然、花子のラジオ放送を耳にして … 花子の声を聞いたら、居てもたってもいられなくなって、嫁ぎ先を飛び出してきたらしい。

「どうして蓮様のとこに?」

だとしたら、何故真っ先に自分を頼ってくれなかったのだろうか。

「私が書いた記事が雑誌に出て以来、苦しい境遇に身を置く女性が何人も訪ねていらっしゃるの。

北海道からの船の中で、ももちゃんも噂を聞いたらしくて … 」


ももは蓮子の言葉にうなずいた。

「記事を書いた作家の先生のお宅に行けば、ご飯も食べさせてもらって泊めてもらえるって聞いて … まさか、お姉やんの友だちの蓮子さんとは思わなかった」

* * * * * * * * * *

「とにかく元気でよかった … 会えてよかった」

花子は微笑みかけたが、ももは相変わらずうつむいていた。

「ももさん、よければこの家に泊まって下さい。

仕事関係の方たちや、近所の子供たちも大勢集まってきたり、賑やかな家ですけど … いつまででも、居たいだけ居てください」


英治の言葉にももは驚いていた。

「ええ、是非そうして」

まず英治が許してくれたおかげで花子も心おきなく、ももを誘うことができた。

「よかったわね、ももちゃん」

すると、ももは座布団を外して、畳に両手をついた。

「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします、お願いします」

必死に頭を下げるももの他人行儀ともとれる振舞に花子は絶句した。

* * * * * * * * * *

ラジオ局にでかける道すがら、花子は蓮子を送りに出た。

「蓮様、もものことありがとう」

蓮子に感謝しながらも、ももが自分を頼って来なかったことに疑問を感じている花子だった。

「もも、昔はいっつもニコニコ笑ってたのに …」

何がももを変えてしまったのか … 考えているうちに花子は足を止めていた。

「ももちゃん、余り話したがらないけれど、北海道での暮らしは相当過酷だったようよ。

子供がいなかったこともあって、ご主人が亡くなってからは親族の方たちから余りいい扱いを受けていなかったようで」

「ももが逃げ出すほど辛い思いしてたのに、私ちっとも気づいてやれなくて … 」


花子とて、もものことを忘れていた訳ではない。

事あるごとに手紙を送ってはいたのだが、ももからの返事がないことを忙しいからだろうと思って、深く考えはしなかったのだ。

「もっと早く気づいてやればよかった」

花子は自分を責めた。 

「 … 私、もものために何をしてやれるのかしら?」

* * * * * * * * * *

花子がラジオ局の会議室でニュースの原稿に修正を加えていると、有馬と黒沢を従えて漆原が入ってきた。

「『コドモの新聞』、大変結構だと局長も褒めてましたよ」

「村岡先生の語り口が親しみやすくてよいと、感想の手紙が来ています」


おおむね好評だと、黒沢がテーブルに葉書の束を置いた。

「そうですか、うれしいです ~ でも、まだちっとも慣れなくて、緊張で毎日震えています」

「では、ご自分で原稿に手を加える時間があったら、与えられた原稿を正確に読む練習をなさってください」


有馬だけは花子に耳の痛い忠告をした。

「まあ、結構じゃないですか … 今日もお願いしますね」

当たり障りのない挨拶をして漆原は出て行った。

< 漆原部長は本当はどう思っているのか … いまひとつ腹の中が分からない人です >

「では、スタジオでお待ちしております。

今日もよろしくお願いします」


黒沢も部屋から出て行ったが、何故か有馬はそのまま残っていた。

「子供向けとはいえ、『コドモの新聞』はニュース番組です。

くだけた語り口というのは、私はいかがなものかと思います」


< こちらはあからさまに花子のことを快く思ってませんね >

有馬は有馬なりに、アナウンサーとはこうあるべきという信念を持っているのだ。

* * * * * * * * * *

有馬も退出し、ひとりに戻った花子は机の置いてあった歩の小袋を手に取った。

「お母ちゃま、今日もこぴっとニュース読むわね」


写真を取り出し、歩の笑顔を確認した。

* * * * * * * * * *

花子の番組が始まる時間が近づき、英治が工房での仕事を切り上げて戻って来ると、台所にたたずんでいるももがいた。

「ももさん、どうしたんですか?」

ハッとするもも。

「すみません … お夕飯の支度でもと思ったんですが、台所の使い方が分からなくて」

見たこともないガスコンロの前で戸惑っていたのだ。

「ああ、それは助かります」

英治はももにガスコンロに火を点ける方法を教えた。

「あっ、こんな簡単に火が」

コックを開けて、マッチの火をかざしただけでこうこうと燃え上った炎を見て、ももは目を見張った。

「ガスで火がつく仕組みなんです」

ガスコンロの他、氷を利用した冷蔵庫まで、この家の台所にはあった。

すべてが、花子の家事の負担をなるべく減らして、翻訳や執筆の仕事に専念させようという英治の思いやりだった。

「お姉やんは幸せ者だな … 」

ふと漏らしたももだった。

* * * * * * * * * *

6時20分になり、『コドモの新聞』がはじまった。

「全国のお小さい方々、ごきげんよう ~ これから皆様方の新聞のお時間です」

英治とももは居間のラジオの前に座って花子の声に耳を傾けていた。

「 … 今日の新聞のお時間はここまでです。

またお話ししましょうね ~ それでは、皆さん、さようなら」


番組は終わっても、ももは虚ろな目でぼんやりと座ったままだった。

* * * * * * * * * *

< 翌日、もものことを知らされた吉平たちが甲府からやって来ました >

「はな、電報もらってびっくりしたじゃん」

「ももが北海道から戻って来たって本当け?」


挨拶もそこそこに花子はふたりを家に上げた。

居間の掃除をしている最中だったももは、両親の顔を見て手を止めた。

「もも … 」

「お母 … お母、会いたかったよ」


ふじはももに歩み寄るとひしと抱きしめた。

「もも、もも … 」

ももは、今まで決して見せることがなかった涙を母の腕の中で流し続けた。

< 想像もつかないような苦労を、ももは乗り越えてきたのかも知れません。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月20日 (水) | 編集 |
第123回

< ラジオ局から出演の依頼を受けた花子は断るつもりで局にやって来ましたが … 

ラジオを好きだった歩のことを思い、引き受けることにしました >

素人の上、極度のあがり症の花子は、マイクの前で緊張してうまく話すことが出来ない。

花子を抜擢した黒沢は、本番までに何とかしなければと、看板アナウンサーの有馬による特訓を花子に課したのだった。

* * * * * * * * * *

花子は、有馬にしごかれて、すっかり自信喪失して帰宅した。

玄関を上がると、居間の方から子供たちの歓声が聞こえてきた。

「どうしたの、皆?」

座卓に座った英治の周りを近所の子供たちか取り囲んで何やら盛り上がっていた。

「見てくれこれ ~ 最新型のラジオです!」

気の早い英治は花子の放送を聴くために、帰り道に早速、ラジオを購入してきていたのだ。

* * * * * * * * * *

< その頃、宮本家はとんだ修羅場となっておりました >

突然訪ねてきた雪乃という女性、浪子は龍一の女ではないかと蓮子に吹きこんだ。

半信半疑ながら取りあえず、雪乃を居間に通した蓮子は緊張の面持ちで対峙していた。

「突然押しかけて申し訳ありません。

吉原から逃げてきて、ここしか行く当てがなくて … 」


雪乃は畳に両手をついた。

「主人は今居りません、お帰りください」

「そんなこと言わずにどうかお助けください … 大好きな宮本蓮子先生にひと目会いたくて」

「え?」


雪乃が言う『先生』とは龍一ではなく蓮子のことのようだ。

「 … 私に?」

すると、雪乃は懐から雑誌の切り抜きを取り出して蓮子に見せた。

それは例の『どんな境遇であれ女性は男性と等しい権利を持つべき』と題された記事だった。

「先生の言葉に勇気づけられ、私は廓から逃げ出してきたのです。

… お願いします、どうか、どうかお助け下さい」


* * * * * * * * * *

「 … 分かりました。

雪乃さん、今日からここで一緒に暮らしましょう」

「本気なの、蓮子さん?

今頃の廓の連中が血眼になって、この人を捜してんのよ」


騒動に巻き込まれることを懸念して浪子は蓮子を止めたが、ちょうど帰って来た龍一は蓮子に賛成した。

「あなたが自由になれるよう、できるだけのことはします」

「主人は弁護士なんです。

社会に虐げられた人たちの味方です」


蓮子が雪乃の手を取ると涙を流して感謝した。

「やっぱり来てよかった … 先生、ありがとうございます、ありがとうございます」

* * * * * * * * * *

< そして、いよいよ花子のラジオ初出演の日がやって来ました >

見送りに出た英治は花子に訊ねた。

「花子さん、緊張してる?」

「練習はしたけれど … やっぱり緊張するわ」


やはり本番となると緊張の度合いは違っていた。

「これ、持っていきなよ」

すると、英治は小さな赤い巾着袋を花子に手渡した。

中には微笑んでいる歩の写真が入っていた。

「ニュースの原稿を読もうとするんじゃなくて、歩に新しいお話をするつもりでやってみたらどうかな?」

「ありがとう … いってきます」


* * * * * * * * * *

有馬にしっかりとしごかれたお蔭で、与えられた原稿に関してはほぼ準備万端の花子だったが、本番前になって黒沢が別のニュースも読んで欲しいと言い出した。

「今朝がた、動物園のライオンが逃げ出した事件がありまして、こちらもお願いできますか?」

「 … そんな、急に原稿渡されても」

「本番までに練習する時間、まだありますから … では、よろしくお願いします」


結局、花子は断り切れなかった。

眉をひそめながら原稿を目を通していた花子だったが … ふと、英治のアドバイスが頭をよぎった。

歩の写真を取り出して見つめているうちに、花子はあることを思い立った。

* * * * * * * * * *

「お願いがあります。

大変失礼ですが、ニュース原稿を書きかえさせていただきました」


花子は赤鉛筆で修正を入れた原稿を黒沢に差し出した。

「この原稿、読ませていただきませんか?」

「何をおっしゃってるのですか?

あなたは語り手としてここにいるのです。

原稿を一字一句正確に読むことが、語り手の仕事です」


黒沢の横に座っていた有馬は強い口調で諌めたが、花子も引き下がらない。

「ですが、元の原稿のままだと、子供たちは途中で飽きてしまうと思うんです。

小さい子供たちの我慢は5分と持ちません。

分かりやすく優しい言葉にした方が、より楽しんで聴いてもらえるのではないでしょうか?」


しかし、ニュース原稿というものは、事前に逓信省の確認を取る必要があるのだと、有馬は突っぱねた。

「無茶なお願いをしていることは分かりますが、もっと子供たちにニュースを楽しんで聴いてもらいたいんです」

花子の修正原稿に目を通し、その思いに共感した黒沢は自らの判断で逓信省の許可を得るために走った。

* * * * * * * * * *

カフェータイムでは、かよが客から譲ってもらった古いラジオを用意して花子の放送を待っていた。

甲府では、甚之介の好意で徳丸商店のラジオの前に、吉平、ふじ、リン、朝市が集まっていた。

「こんな箱っから本当にはなちゃんの声が聞こえるずらかね?」

「はなは東京にいるだにね ~ 」


リンとふじが不思議そうにラジオをなめるように見回している。

「はなの声を乗せた電波をこの箱が受信するです」

朝市がなるべくわかりやすいように説明した。

「はなの声が聞こえりゃ、難しいこんはいいだ」

吉平はラジオの声が一番よく聞こえる場所に陣取っている。

「ほれにしても、ふじちゃんとこの娘はえれえ立派になったもんじゃん。

まさかラジオにまで出るたぁな」


甚之介が感心していると、吉平が当然だと言わんばかりの顔をした。

「ほりゃあ、俺とふじの娘だからじゃ」

「婿殿は何もしちゃあいんら ~ はなちゃんが立派になったのは、はなちゃんが頑張ったからじゃんね」


いつになっても、吉平に厳しいリンだった。

* * * * * * * * * *

村岡家でも、新品のラジオの前に次々と人が集まってきていた。

近所の人や子供たちに交じって、蓮子と純平、富士子親子、亜矢子の姿もあった。

「はなさんがラジオに出演すること、新聞にも出てましたわ」

亜矢子が花子の顔写真が載った新聞の切り抜きを見せた。

「6時20分になったらここからはなちゃんの声が聞こえてくるのよ」

「花子さん今どこにいるのかな?」


蓮子の言葉に富士子は待ち遠しそうにラジオを見つめた。

「ラジオの電波って、凄く遠くまで飛ぶんでしょ?

… 空の上の歩君にも届くね」


歩と仲のよかった純平が言った。

「そうね」

蓮子はうなずき、英治も微笑んでいる。

* * * * * * * * * *

そうしているうちにラジオから軽快な音楽が流れ始めた。

「6時になりました … JOAK東京放送局であります。

只今から『コドモの時間』の放送です」


有馬が落ち着いた声で番組名を読み上げた。

花子もすでにスタジオの中でマイクの前に座っていた … 出番はもうすぐだ。

* * * * * * * * * *

「逓信省の方は本当に大丈夫なんだろうな?」

漆原は自分が責任を取るようなことにならないか、くどいほど黒沢に確認していた。

「新しい原稿、確認済みです」

* * * * * * * * * *

「さて、続きましては、本日よりはじまりますニュース番組である『コドモの新聞』です。

お伝えしますは、児童文学の本を多く書かれております村岡花子先生です」


黒沢が指揮室から花子に合図を送った。

ひと呼吸おいて、花子はマイクに向かった。

「ぜん … 全国のお小さい方々、ごきげんよう、『コドモの新聞』のお時間です」

花子の第一声が、かよのカフェー、村岡家の居間、徳丸商店の座敷、そして全国津々浦々のラジオに届いた瞬間だった。

* * * * * * * * * *

花子は机の上に置いた、歩の写真が入っている小袋に語りかけるかようにニュースを読み始めた。

ラジオの前では皆が、まるで花子の緊張が伝染したかのように、ドキドキしながら花子の読むニュースに耳を傾けた。

「京都の動物園でライオンが逃げ出したお話です。

今朝の8時頃、京都市にある動物園で今年13歳になるライオンが、園長さんの隙を見ていきなり檻の外へ飛び出し、のそのそと面白がって動物園の中を歩き回りました」


花子は分かりやすい言葉に修正した原稿を、まるで物語を読み聞かせするかのような優しい口調で読み続けた。

「このライオンは京都で生まれ、小桜号という名前まで付けてもらっているくらいで … 」

すると、あんなに緊張していた気持ちが次第に落ち着いてくるのが分かった。

「 … 今日の『コドモの新聞』のお時間は、ここまでです。

皆さん、さようなら … 」


* * * * * * * * * *

花子は初めての放送を何とか無事にやり遂げることが出来た。

有馬が出て行ったスタジオで、ほうっと息をつき、安堵の微笑みをみせた後、歩の小袋を手に取った。

そっと握りしめて目を閉じた。

* * * * * * * * * *

「お母ちゃま」

花子はハッとして目を開けた。

何と、テーブルの前にニッコリと笑った歩が立っているではないか?!

「あ~あ~、JOAK東京放送局であります」

歩はお得意のアナウンサーの口真似をしてみせた。

「 … 歩ちゃん。

歩ちゃん、歩ちゃんのお蔭で、お母ちゃま、何とかお話しすることが出来たわ」

「お母ちゃま」


歩は満足そうに笑っている。

「ありがとう、歩ちゃん … 」

いつしか、歩の姿はゆっくりと消えていった。

* * * * * * * * * *

感極まった花子の目から止めどもなく涙があふれてきた。

花子は、ひとりきりのスタジオでさめざめと泣き続けた。

< こうして『コドモの新聞』第1回目の放送は終わりました。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月19日 (火) | 編集 |
第122回

蓮子と伴って村岡家を訪れた黒沢の目的は、花子にラジオ番組の出演を依頼することだった。

「今度『コドモの新聞』という番組が始まるのです。

子供たちにニュースを分かりやすく伝える番組なんですが、語り手がアナウンサーだけでは堅苦しいので、そこで誰かいないかと捜していたんですよ」


花子が自宅の界隈で『お話のおばさん』と呼ばれていることを知った蓮子が黒沢に推薦したのだ。

「先ほど、子供たちに本を読んでやっているところを拝見して確信しました。

村岡先生が引き受けてくれれば、きっと全国の子供たちが、あんな風にラジオの前に釘づけになると」


黒沢はすっかり乗り気になっていた。

「無理です、私には!」

花子は自分がひどいあがり症だということを理由に固辞した。

しかし、黒沢は、一度局に見学がてら来てほしいと告げて、その日は帰って行った。

* * * * * * * * * *

「やってみればいいのに、ラジオの仕事。

… 前から思ってたんだけど、花子さんの話す声は人をホッとさせる」


夜、書斎で仕事している花子にお茶を運んできた英治は黒沢の仕事を引き受けるように勧めた。

「特に子供たちに話す声は愛にあふれていて、暖かくて … 」

「そんなことはじめて聞いたわ」


面と向かって褒められた花子は、照れて顔を赤らめた。

「もしナマケモノのお母さんがしゃべったら、きっとそういう声に違いないな」

「は?」

「 … 褒めたつもりなんだけど」

「褒められてません。

やっぱり明日断ってくるわ」


英治は残念そうな顔をした。

「花子さん、緊張して失敗するのが嫌なのか?」

確かにそれも理由のひとつだったが、今の花子は翻訳の仕事で手一杯なのだ。

「 … ラジオに出る時間があるなら、面白い物語をひとつでも多く、日本の子供たちに伝えたいの」

英治は、もうそれ以上何も言えず、花子らしいと微笑むだけだった。

* * * * * * * * * *

「その村岡先生ってのは何者なんだ?」

JOAKの制作部長、漆原光麿は不機嫌そうに黒沢に訊ねた。

「児童文学の翻訳をなさっている村岡花子先生です」

「花子 … 女?」

「漆原部長、断りましょう」


看板アナウンサーの有馬次郎も子供向けの番組とはいえ素人の女性を起用することには反対だった。

「しかし、もう局長の承諾もいただきました」

孫が『王子と乞食』の愛読者である局長は花子の起用に賛成なのだ。

そのことを知った漆原は黙り込んでしまった。

* * * * * * * * * *

一方、花子は黒沢に正式に断りを入れるためにJOAKを訪れていた。

「 … 来てくれなくてもよかったのに」

「ラジオ局ってどんな所か一度見たかったんだよ」


お供で着いてきた英治は呑気なことを言っている。

「ようこそ。JOAK東京放送局へ」

応接室で待っていると、ほどなくして漆原と黒沢が現れた。

「番組の内容は黒沢から説明があった通りです … 出演していただけますよね?」

局長の意向だと分かった途端、漆原は表向きは賛成の立場に回っていた。

ところが、花子は …

「いいえ、今日はお断りするために伺ったんです」

「どうしてですか?」

「ラジオの向こうの大勢の人たちにお話しすると考えただけでも震えて、身がすくんでしまうんです」

「まあ、そうおっしゃらずに、うちの局長も乗り気ですので、引き受けてくださいよ、山岡先生」


いくら表面をよくしても、名前さえ憶えていない … 漆原にとって花子はその程度の存在なのが見え見えだった。

「これから放送がありますので、我々はスタジオに行きます。

どうぞ、一緒に見学にいらしてください」


* * * * * * * * * *

英治と花子は黒沢にスタジオへと案内された。

「ここが指揮室です … ここから放送が出ます。

これからテストして、本番がはじまります」


ガラス越しのスタジオの中では有馬が発声練習をして声の調子を整えていた。

「 … JOAK東京放送局であります」

花子はハッとした。

それは、歩が鉱石ラジオを耳にしながら、よく口真似していた文言だった。

花子はまるで歩が目の前にいるかのように、スタジオの中を見つめていた。

* * * * * * * * * *

本番が終わり、有馬がスタジオから出てきた。

「いかがでしたか?」

黒沢は花子に感想を訊いた。

「 … 本番でよくあれだけ落ち着いていらっしゃれるものですね。

私はここで聞いているだけで足が震えました」


実際に有馬の仕事ぶりを見せて花子に引導を渡す … すべては漆原の思惑通りのはずだった。

「でもやってみます」

「は?」

「私でよければ … やらせてください」


思い出の中の歩が花子の背中を押したのだ。

「では、引き受けてくださるんですね?

ありがとうございます」


喜ぶ黒沢と裏腹に漆原と有馬は複雑な表情をしていた。

* * * * * * * * * *

出口に向かいながら花子は英治に言った。

「英治さんの言いたいことは分かるわ。

『断りに来たんだろ?

君はひどいあがり症なのに、大丈夫なのか』って言いたいんでしょ?」


英治はただ笑っている。

「 … 全くその通りよね」

「いや、僕は君の勇気を讃えるよ … よく引き受けたね。

歩もきっと天国で喜んでいるよ」


英治も同じ風景を見ていたのだ。

「あの子は、ラジオが大好きだったからな」

歩が導いてくれた仕事にも思えるふたりだった。

* * * * * * * * * *

「村岡先生、早速ですが、マイクの前で声を出してみてください」

後を追いかけてきた黒沢が、最初の放送で読む予定の原稿を渡してテストをしたいと申し出た。

仕事がある英治はひと足先に帰って、花子はスタジオへと戻った。

* * * * * * * * * *

マイクの前にはじめて座った花子は落ち着かない様子で辺りを見渡した。

すると、指揮室から黒沢が合図するのが見えた。

「た、た … 大切な … て、帝国議会のおし、お話」

「村岡先生、テストですからそこまで固くならずに … 一度深呼吸してみましょうか?」

「 … はい」


花子は立ち上がって二度三度、深呼吸をしてみた。

しかし、落ち着くどころか、なおさら緊張の度合いが増したような気さえした。

* * * * * * * * * *

黒沢は再び合図した。

「 … 帝国ぎ、帝国議会とは、尋常6年のと、読本 … 巻の12と、修身の本には出ておりますように … 」

はじめてにしても酷すぎた。

「部長、本気でこの人に番組をやらせるおつもりですか?」

有馬が漆原に渋い顔で訊ねた。

「局長がそう言ってるんだからしょうがないだろう」

* * * * * * * * * *

「すいません、緊張してしまって … 」

指揮室に出てきた花子は漆原達に申し訳なさそうに頭を下げた。

「いいえ、なかなか結構でしたよ ~

あなたと一週交代で語りを担当してもらうことになった有馬次郎アナウンサーです」


漆原は花子に有馬を紹介すると、後は全て有馬に押し付けてスタジオから逃げるように出て行ってしまった。

* * * * * * * * * *

「村岡先生、今から特訓を受けてもらいます」

さすがに黒沢もこのままでは使い物にならないと、有馬による特訓を花子に課したのだった。

「おかしな抑揚をつけるな」「発音滑舌なにもかもなっていない」 … 有馬の辛辣な指摘が容赦なく花子に浴びせられた。

「まずは早口言葉!」

「久留米のくぐり戸はくぐ … 久留米のくぐり戸は栗の木のくぐり戸、くぐりつけりゃ、くぐりいいが … 」

「遅い!

それでは時間内に原稿を読み終わりません!

… 武具馬具ぶぐばく、三ぶぐばく!」

「ぶぐがぐ … ぶぐばぐぶぐばく、ぶぐばぐぶぐばぐ … 」

「遅いっ!!」


* * * * * * * * * *

< 花子がボロボロになりながら特訓を受けている頃 >

昨日の今日で、花子がまさかラジオ局でしごかれているとは夢にも思わない蓮子だった。

「はなちゃんなら大丈夫」

そう確信しながら原稿を執筆するペンを走らせていると、何者かが玄関の戸を叩いた。

「ごめんください、ごめんください!」

浪子が玄関を開けると、妙齢の女性が駆け込んできた。

「あの、こちら宮本先生のお宅ですよね ~ 先生、いらっしゃいますか?」

「 … どういう御用?」


「先生に会いたいんです、会わせてください!」

女性は切羽詰まった目で浪子に迫った。

「蓮子さん、蓮子さん」

浪子は女性から逃れて、蓮子を呼んだ。

「どうなさったんですか、お義母様?」

玄関に出てきた蓮子は女性を目にした。

「 … ごきげんよう、どちら様ですか?」

「雪乃と申します」


女性はそう言って深くお辞儀した。

「 … まさか龍一の女じゃ?」

「まさか?」


浪子に耳打ちされ、蓮子は女性の顔をまじまじと見つめた。

< さて、この色っぽい女の人は何しにやって来たのでしょう?

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月18日 (月) | 編集 |
第121回

< … 時代は昭和に代わり、花子は児童文学の翻訳に没頭していました。

日本中の子供たちのために楽しい物語を送り届けたいという強い思いからでした  >

1932年(昭和7年)・5月。

英治と花子は、製本が上がったばかりの新雑誌『家庭』を居間に並べた郁也、歩、そして三年前に他界した平祐の遺影の前に供えた。

「子供も大人も楽しめるような雑誌にしました。

歩は喜んでくれてるかしら?」

「ああ、きっと喜んでくれているよ」


< 歩の死から6年、ふたりが歩のことを思わない日はありませんでした >

ただ、最近やっと涙を流すことなく、歩の思い出を語り合うことができるようになったふたりだった。

* * * * * * * * * *

カフェータイムにおいて、『家族』の創刊の祝賀会が開かれ、女流大物作家の長谷部汀や宇田川満代、蓮子に亜矢子とそうそうたる執筆陣の面々が集まった。

「お陰様で青凛社の雑誌『家庭』、皆様にご協力いただき、無事創刊の運びとなりました」

乾杯の輪の中に、大震災で失った聡文堂を再建した梶原の姿もあった。

新生聡文堂のため、参加している作家たちへの執筆依頼も目論んでいた。

「ところで花子先生、うちも翻訳ものを増やしていきたいんですが、今後どんな作品を翻訳したいですか?」

「日本には十代の若い方たちが読む物語が少ないと思うんです。

私が女学校時代に読みふけっていた欧米の青春文学をもっともっと紹介していきたいと思います」


そう言いながら、花子はすでに翻訳の連載が二本、少女小説、随筆まで執筆して多忙な作家生活を送っていた。

「あなたそんなに?

私より稼いでるんじゃないの?」

「はなちゃん人気者ね、一体いつ寝ているの?」


満代と蓮子に茶化されて、花子は困った顔をして謙遜した。

* * * * * * * * * *

「そういう白蓮さんは、ご自分の半生を小説にお書きになって、映画化までされたんですものね ~ 」

汀は褒めたが、昔から蓮子に対抗意識を持っていた満代は、相変わらずの毒を吐いた。

「赤裸々に書きゃいいってもんじゃないわ。

白蓮さんはようするに世間の注目をずっとあびていたいのよ。

平民になったあなたが何を着てくると思ったら … 」


中国の知り合いからもらったというチャイニーズドレスを見事に着こなした蓮子は満代の言葉など気にも留めていないように微笑んだ。

「あっ、宇田川先生こそ … 震災の時、運命的な出会いをなさったご主人とのことお書きになったらいかがでしょうか?」

「ぜひ、私の小説なんかよりよっぽどロマンティックですわ」


花子はご機嫌取りのつもりで話を振ったのだが、満代は却って不機嫌になった。

「 … あれは、錯覚でした」

とっくに離婚していたことを誰も知らなかったのだ。

< それで宇田川先生、今日は一段と荒れてるんですね … >

梶原が自分も離婚経験者だと慰め、蓮子などは二回も経験していると慰めた。

「作家は不幸なほど、いい作品が書けるのよ ~ ほっといて」

そう吐き捨てて、ウイスキーを飲み干した。

* * * * * * * * * *

「それはそうと … 白蓮さんが雑誌に書いてらした『どんな境遇であれ、女性は男性と等しい権利を持つべき』だという記事、感心して読みましたわ」

またも汀が蓮子を評価すると、花子も亜矢子も同意した。

「まあ、うれしいお言葉ですわ」

「文学の世界も男性中心ですけれど、政治も同じです。

女性は家庭を守るだけでなく、男性を同じように社会に参加する権利があるはずです」


花子が皆の前に出て訴えた。

「その通りです!

そもそも25歳以上の男性に選挙権があって女性にないのはおかしいですわ」


花子に続いて息巻く蓮子に、かよはニコニコしながらコップの水を渡した。

「蓮子さん、早くしゃべれるようになりましたね」

「 … お姑さんに鍛えられましたから」


蓮子は少し照れて、肩の力をふっと抜いて笑った。

* * * * * * * * * *

「皆さん、女性の地位向上のためにがんばりましょう!」

汀が立ち上がってグラスを掲げると、他の女性たちも立ち上がった。

「男の出番はないな」

「ええ」


女性陣の勢いに押され気味の梶原と英治は苦笑いだ。

「これからもお互い切磋琢磨していきましょう ~ 乾杯!」

* * * * * * * * * *

祝賀会が終わって、店のカウンターには秀和女学校の同窓生三名だけが残っていた。

「はなさん、今日はありがとう … お蔭で先生方から取材の承諾をいただけたわ」

「醍醐さん、燃えてるわね」

「その後、吉太郎さんとはどうなの?」


蓮子の質問に表情を曇らせながら、亜矢子は答えた。

「それが、龍一さんや武さんにあんなお芝居までしてご協力いただいたのに … 」

* * * * * * * * * *

「 … 上官に醍醐さんとのことを話しました」

「それで、上官の方は何と?」

吉太郎は亜矢子の顔を見つめて、無言で首を横に振った。

話があると呼び出された時の雰囲気から亜矢子はすでに答えを察していた。

「そうですか … 」

「醍醐さんには自分より相応しい相手が居ます。

ですから … 」

「いいえ … 私待ちます、いつまででも … 吉太郎さんを思い続けます」

* * * * * * * * * *

そんなことがあってから、すでに数年が経とうとしていた。

「 … そうだったのね」

「好き合ってるふたりがどうして一緒になれないの?」


最愛の人にはもう会いたくても会えないかよは、亜矢子と吉太郎の関係が歯がゆかった。

「でも、兄やんはまだひとりだし … きっとまだ醍醐さんのこと」

「もういいの ~ 私、これからは仕事に生きることにしましたから」


それが亜矢子の本心でないことは花子にさえ分かった。

「醍醐さん、その愛が本物なら、必ずいつか成就すると私は思います」

蓮子の言葉には説得力があった。

「蓮子様 … 」

亜矢子の顔を見て、ふたりはうなずいた。

* * * * * * * * * *

「龍一君たちが迎えに来ましたよ」

英治が蓮子を迎えに来た龍一と純平、富士子を案内して店に戻って来た。

「ごきげんよう」

「お母様を迎えに来ました」


蓮子の子供たちは花子たちに礼儀正しく挨拶をした。

「まあ、偉いこと … 純平君はお母様思いで立派ね」

「純平の奴、『お母様は僕が守る』って、完全に蓮子の味方なんです。

夫婦喧嘩なんかしようもんなら、僕が一方的に責められますよ」


そうボヤキながらも龍一は幸せそうだ。

「あっ、そうだ … はなちゃん、明日お宅へ伺ってもいいかしら?」

会わせたい人がいると蓮子は言った。

* * * * * * * * * *

「純平君また背が伸びたみたいだな」

蓮子たち家族の背中を見送りながら、英治がつぶやいた。

「ええ、歩はひとつ上だから … 」

「今頃、純平君より大きくなってたな」

「英治さんの息子ですもの、のっぽになったはずよ」


… ふたりの心の中に今も確かに歩は生きているのだ。

* * * * * * * * * *

翌日、花子が書斎で執筆に勤しんでいると、近所の子供たちが窓から顔を出した。

「お話のおばさん、お話聞かせて!」

忙しいのも構わずに花子は快く子供たちを庭に招き入れた。

「今日は何のお話がいい?」

子供たちは声を合わせて『王子と乞食』を注文した。

「ある日、ロンドンの片隅に住んでいたキャンティという貧乏人の家に男の子が生まれました … 」

子供たちに語り掛けるように読み聞かせする花子を英治は工房から出て、微笑みながら眺めていた。

* * * * * * * * * *

ちょうどその時、蓮子が『花子に会わせたい人』を連れて門の外までやって来ていた。

「英治さん、ごきげんよう」

「ああ、蓮子さんいらっしゃい」


英治が近づくと、蓮子の後ろに控えていた男が頭を下げた。

「あちらが村岡花子さんよ」

「子供たち、顔を輝かせて聞いていますね」


男は花子と子供たちの様子を見ると穏やかに笑った。

「ね、花子先生ならぴったりじゃなくって?」

満足そうにうなずいたその男は … あの黒沢一史だった。

* * * * * * * * * *

「JOAKで番組を作っています、黒沢と申します」

居間に通された黒沢は花子に名刺を渡し、自己紹介した。

「JOAKって、あのラジオ局の?」

花子と英治は顔を見合わせた。

ラジオ局の人がどんな用があるのだろう?

「黒沢さんは福岡で新聞社記者をなさっていたの。

それがいつの間にかJOAKにお勤めになっていたのか … 私も知らなかったけれど、またご縁が出来てね」

「あの … ご要件というのは?」


話が読めない花子は不安げに黒沢に尋ねた。

「村岡花子先生、ぜひ我々のラジオ番組に出演してください」

単刀直入に切り出すと頭を下げた。

「て ~ ラジオに?!」

花子と英治はまた顔を見合わせた。

< てっ、花子がラジオに?!

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月17日 (日) | 編集 |
まずは、先週のおさらいを …



それでは、次週の「花子とアン」は?

1932年(昭和7年)。

花子(吉高由里子)と英治(鈴木亮平)が雑誌『家庭』を創刊したのを祝い、かよ(黒木華)の店に女流大物作家の長谷部汀(藤真利子)や宇田川満代(山田真歩)、醍醐(高梨臨)や蓮子(仲間由紀恵)が集う。

それぞれ活躍している女性陣に、英治や梶原(藤本隆宏)はたじたじとなる。

ある日、蓮子が「花子に紹介したい人がいる」と村岡家を訪れる。

同行したのは元・新聞記者で、今はJOAK東京放送局に努める黒沢(木村彰吾)。

黒沢は、子供向け新番組を制作するので、語り手として花子に出演して欲しいのだと言う。

近所の子供たちは大喜びし、英治も「やってみたら」と勧めるが、花子は翻訳が忙しく、しかも実はあがり症だということもあって、とても引き受ける気にならない。

素人のご婦人を起用するなんて無謀ですよ

ともあれラジオ局を訪れた花子と英治は、部長の漆原(若松了)と看板アナウンサーの有馬(堀部圭亮)に会う。

似合う人間と似合わない人間が居るんですよ

黒沢と違って、あまり花子を歓迎していない雰囲気のふたりだが、花子はそこで、実際のラジオ放送を間近で目撃することに …

最新型のラジオです

てっ?!


有馬にしごかれてすっかり自信をなくした花子が帰宅すると、さっそく新型のラジオを買ってきた英治が、近所の子どもたちと盛り上がっている所であった。

まさか、龍一の女じゃ?!

その頃、宮本家では突如訪ねてきた吉原の娼妓・雪乃(壇蜜)と蓮子が緊張の面持ちで対じしていた。雪乃が訪ねてきた訳を聞いた蓮子は…

花子がラジオの語り手を始めて一週間たったある日、蓮子が今度はある女性を連れて村岡家を訪れる。

幸せなお姉やんには、私の気持ちなんて分かりっこない

その憔悴した女性を見た花子は絶句する。北海道にいるはずの、もも(土屋太鳳)だった。

全国の小さい方々、ごきげんよう

花子とアン 公式サイト、YAHOO!テレビガイド他を参照)

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2014年08月16日 (土) | 編集 |
第120回

1926年(大正15年)・12月。

『王子と乞食』が『世界家庭文学全集』に収録された。

花子が翻訳の仕事を本格的に始めるきっかけとなった作品であり、それが評価されたことで喜びもひとしおだ。

* * * * * * * * * *

5歳の誕生日を前にして、この世を去った歩は、花子の心に母性という灯をともしてくれた天使だった。

歩はもういないけれど、花子の心の灯は消えることはなかった。

日本中の子供たちにその光を届けていくことが … 花子の願いとなった。

思いを新たにした花子は、以前にも増して翻訳家として意欲的に仕事に取り組んでいた。

* * * * * * * * * *

その日、カフェータイムの表には『本日貸切』の貼り紙がされていた。

「醍醐さん、今日はまた一段とおしゃれですね」

そわそわと手鏡を覗きこんでいた亜矢子は、かよの言葉に心細そうな顔をみせた。

「かよさんどうしよう?

実は私、男の方とふたりきりでお食事なんて、はじめてなんですもの … 」

「心配しなんで、大丈夫ですよ。

本当に無口で、あんまり笑ったりもしませんけんど、別に怒っている訳じゃないんで … 」


どうやら、亜矢子の食事の相手というのは、かよが知っている男のようだ。

「どうしよう … 」

そう言いながらまた手鏡を入念に覗きこんでいると、入口の戸が開いた。

慌てて立ち上がった亜矢子。

店に入ってきたのは、背広姿の吉太郎だった。

「お呼び立てしておきながら、お待たせして申し訳ありません」

「 … 私が早く来過ぎてしまっただけですから」


かよが促すと吉太郎は先ずは直立不動で頭を下げた。

「失礼します!」

「 … 兄やん、大丈夫け?」


* * * * * * * * * *

「座ります!」

背筋を伸ばし、そのままの体制で椅子に腰を下ろした。

「私の方こそ … 座ります」

亜矢子も緊張気味に席についた。

< てっ … 醍醐と吉太郎はいつの間に、パルピテーションの間柄に?! >

* * * * * * * * * *

「醍醐さん、これ長いことお借りして申し訳ありませんでした」

吉太郎は懐から取り出したハンカチをテーブルの上に置いた。

それは、以前 … 歩の死に遭って吉太郎が男泣きしていた時、涙を拭うようにと亜矢子が貸したものだった。

「いいえ、お貸ししてよかったですわ。

お蔭でこうしてお会いできたんですもの」

「えっ?」


吉太郎は意味が分からずに亜矢子を見た。

「あ、いえ … 何でもありません、おほほほ … 」

亜矢子は不自然な笑顔で誤魔化した。

* * * * * * * * * *

「そう言えば、先日、醍醐さんが弁当を作ってきてくれましたよね … あの煮物は美味しかったです」

「煮物 … ですか」


褒められたのだから、本来は喜んでもよさそうなのだが、何故だか亜矢子は余りうれしそうではない。

「後、おかかが入った握り飯も美味かったです」

「おむすび … ごめんなさい!」


亜矢子は突然、頭を下げた。

「実はあのお弁当、女学校からのお友達の畠山さんにお手伝いをお願いして … 煮物もおむすびもほとんど畠山さんが作ってくれたんです」

あの時、花子が意外に思った通り、お嬢様で最近まで家事などしなくても困らない生活をしていた亜矢子が作った料理にしては出来がよすぎた。

それを正直に白状してしまうところもまた亜矢子らしかった。

「 … そうだったですか?」

吉太郎は真実を知って残念そうな顔をした。

「あっ、でも … 卵焼きだけは、私が作りました」

「てっ?」

「卵焼きだけなんて、自慢出来ることじゃないですよね … お恥ずかしい」


穴があったら入りたい … 亜矢子はうつむいてしまった。

* * * * * * * * * *

「あの卵焼きが一番美味かったです。

見かけはよろしくなくありましたが … 味は一番美味かったであります」


亜矢子は吉太郎の顔を見た。

例え慰めであってもうれしかった。

「 … ありがとうございます」

「いえ … 」


亜矢子の潤んだ目に見つめられた吉太郎はぎこちなく視線を逸らした。

「なんだ … おらが何かしなんでも、ふたりともいい感じじゃんけ」

カウンター越しに見ているかよの目にもふたりがお互いに意識し合っているのが手に取るようにわかったのだ。

* * * * * * * * * *

『世界家庭文学全集』に収められた『王子と乞食』の表紙を開き、本文に入る前の頁にこう書かれていた。

我が「まぼろしの少年」歩の霊に捧ぐ

「歩ちゃんもきっとお空の上で、ご本を読んでることでしょうね」

「そうだね」


手に入れたばかりの全集を純平と一緒に読んでいた蓮子は、突然、 … 純平に訊ねられて、うやむやに済ませていた彼の出生時のことを話しはじめた。

「あなたが産まれてきた時のこと、この間ちゃんと答えられなくてごめんなさい。

お母様はお父様と引き裂かれて、ひとりであなたを産んだのよ。

だから、お祖母様もあなたが生まれた時のことを知らないのよ … 」


幼い純平に理解できたかどうかは分からないが、蓮子は包み隠さずに話したのだ。

「蓮子さん、大変!

龍一、弁護士の仕事を放り出して、また演劇に熱上げているみたいなの」


血相を変えて飛び出してきた浪子の手に握られていたのは、龍一が新しく書き下ろした脚本だった。

* * * * * * * * * *

数日後、村岡家には、かよの他、蓮子に亜矢子、そしてどういう訳か甲府の武まで揃っていた。

皆がそれぞれに手にしているのは、龍一の脚本で、中にはお互いに読み合わせをしている者たちまでいた。

どうやら、今回の脚本はこの連中のために書かれたもののようだ。

「お待たせしました ~ 皆さん、セリフは覚えましたか?」


遅れてきた龍一が確認すると、いの一番に武が胸を張った。

「完璧じゃん」

武は台本がボロボロになるまで読み込んで来ていた。

「 … 何てったって、今日の主役はおらずら」

「武、今日の主役は醍醐さんなんだけど」


とんでもない勘違をいしているのではないかと花子が武に注意した。

「心配するな ~

この武様に任しとけし」


自信満々の武に皆は一抹の不安を覚えた。

「皆さん、よろしくお願いいたします」

主役である亜矢子が、一同に頭を下げた。

* * * * * * * * * *

亜矢子は無口だが優しい吉太郎にパルピテーションを感じていた。

そして、かよの見立てでは吉太郎も亜矢子のことを憎からず思っている。

何の問題もないはずなのだが …

憲兵という立場と性格のためか、吉太郎は自ら意思表示しようとはしないのだ。

そこで、周りの者たちが、亜矢子のためにひと芝居打って、吉太郎に態度をはっきりさせようという魂胆だった。

そのための脚本及び演出に名乗りを上げたのが龍一なのだ。

* * * * * * * * * *

「何でえ、急用って?」

村岡家に呼び出された吉太郎は玄関で花子を怪訝な顔で見た。

「と、とにかく早く上がって … 」

居間に通された吉太郎の目の前で芝居の幕は下された。

「どうも ~ 吉太郎さん、ご無沙汰しております … じゃん」

まずは武のセリフから始まった。

「今日は重大発表があり、甲府からはるばるやって来ました … じゃん」

台本がボロボロになるまで読みこんだだけはあり、セリフは頭に入っているようだが、台本は標準語で書かれていたため、セリフ回しがややおかしかった。

「重大発表?」

吉太郎は武の顔を見た。

「はい … 醍醐亜矢子さん」

武は亜矢子の方を振り返った。

「おらんちは、甲府でも名の知れた地主で … ごいす。

醍醐亜矢子さん、おらの嫁さんになってくりょう」


* * * * * * * * * *

「まあ、うれしいわ ~ 武さん」

秀和女学校の大文学祭で主役のロミオを演じた人物とはとても思えない棒読みのセリフだった。

一同は吉太郎を見た。

明らかに狼狽えているのが分かった。

「醍醐さんのことを必ず幸せにします … じゃん」

「武さん、幸せにしてください」


心が全くこもっていないセリフの後、亜矢子はちらりと吉太郎を見た。

吉太郎は黙ってうつむいてしまった。

* * * * * * * * * *

「花子さん … 」

自分のセリフの番を忘れていた花子を龍一は小声で促した。

「て … その結婚ちょっと待った!」

「何故止めるんだ … ずら?」


花子は吉太郎に向かって言った。

「あ、兄やん … このまま醍醐さんが結婚してしまってもいいですか?」

亜矢子に輪をかけて花子の棒読みはひどかった。

龍一に目で合図され、次は英治だった。

「そ、そうですよ」

「兄やん、醍醐さんのこと好きなんじゃねえの?」


こんなに大根役者ばかりが揃っていても、吉太郎は不審には思わないのだろうか?

「あ、兄やん … 地主なんかに醍醐さんが奪われてしまってもいいの?

もっ … も、持つ者が、も、もつ … 」

「持つ者が持たらざる者から奪う社会をおかしいとは思わないんですか?」


口が上手く回らなかった花子に代わって龍一がセリフを吐いて、事なきを得た。

「 … 持たざる者が、富める者から奪ってこそ意味がある!」

「その通りだ」


英治に与えられているのはまるで合いの手のようなセリフだった。

* * * * * * * * * *

「よく分からんけんど。

醍醐さんが武と結婚してえって言うだから … 」


吉太郎は皆の思惑に反して、あきらめに似た言葉を口にした。

「吉太郎さん、違うの!」

芝居を忘れて慌てる亜矢子。

龍一は蓮子に合図した。

「吉太郎さん。

醍醐さんのことが好きなら … 略奪してでも一緒になるべきだわ。

例え世間から後ろ指さされたって、好きな人と一緒にいられれば耐えられる!

好きな人と一緒に生きられることほど、幸せなことはないわ!」

「 … あれ、そんなセリフあったかな?」


英治が首を傾げたのも無理はなかった … 自分の境遇に重ねてしまった蓮子は思わずセリフのことを忘れて本音を口走っていたのだ。

「 … 龍一さんと一緒にいられて、とても幸せよ」

芝居から離れてそれはもう惚気だった。

しかも、脚本演出の龍一は咎めるどころかだらしなくにやけて、挙句の果てにふたりは見つめ合ってしまった。

* * * * * * * * * *

花子が咳ばらいすると、蓮子は慌てて台本通りの筋書きに戻って芝居を進めた。

「吉太郎さん、今ならまだ間に合うわ … 醍醐さんを連れてお逃げなさい」

ところが、そこに予想をしなかった闖入者が現れた。

「駄目だ駄目だ、吉太郎君は軍人なんだ!

軍人の脱走がどれほどの重罪になるか … 君の一生、いや君の家族の人生まで台無し … 」


話を耳にした平祐がもの凄い剣幕で一同を諌めた。

予め平祐に話を通しておかなかったのは失敗だった。

「父さん、父さん、ちょっと … 」

英治が焦って平祐を居間から連れ出した。

「これは、醍醐さんと吉太郎さんの仲を取り持つためのお芝居なんです」

「仲を取り持つ?

憲兵の吉太郎君が、物書きの女性とそう易々一緒になれる訳がないだろ!」


腹芸のできない平祐が声を荒げかけたので、英治は必死に止めた。

「もうここで静かに観劇していてください」

* * * * * * * * * *

「じゃあ、蓮子の最後のセリフからもう一回!」

芝居を中断され苛立っていた龍一が口を滑らせてしまった。

「セリフ?」

吉太郎は訝しげに龍一を見たが、蓮子は構わずに芝居を再開した。

「吉太郎さん、醍醐さんを連れてお逃げなさい」

「自分は、脱走などできません!

醍醐さんが武と結婚して幸せになるなら … よろしいのであります」


吉太郎はうつむき加減だが、きっぱりと言い切った。

しかし、果たして脱走までする必要があるのか … 芝居がかりすぎた龍一の脚本の設定に誰も異を唱えなかったのか?

* * * * * * * * * *

亜矢子は、武との結婚を止めてさえくれない吉太郎の態度にショックを隠せなかった。

「て ~ ほれじゃあ、本当におらが醍醐さんと結婚していいだな?」

調子に乗った武が身を乗り出した時、亜矢子が堪らず声を上げた。

「違うんです!

今のは全部お芝居で … 吉太郎さんがなかなか思いを告げてくださらないから、私焦ってしまって … 」

「え?」

「私が好きなのは、吉太郎さんなんです!」


吉太郎は黙ったまま亜矢子を見ている。

「吉太郎さん、私と結婚してくださいませんか?」

意を決した亜矢子は思いを告げただけでなく、ついに自分から求婚までしてしまった。

一同の視線が吉太郎に集中した。

* * * * * * * * * *

「 … いや、駄目です」

全員が我が耳を疑った。

吉太郎は亜矢子からの求婚を拒否してしまったのだ。

「兄やん?!」

「 … そうですよね。

ごめんなさい、こんなこと言ってしまって … それじゃあ、皆さんごきげんよう」


無理に笑顔を作って、席を立った亜矢子は部屋から飛び出して行ってしまった。

「てっ?!」

何と真っ先に亜矢子の後を追いかけたのは吉太郎だった。

* * * * * * * * * *

「醍醐さん!」

亜矢子は玄関を出たところで、吉太郎から呼び止められた。

「 … あの、本当に申し訳ありませんでした。

吉太郎さんのお立場も考えずに、あんなこと … 」


振り向くことも出来ず、吉太郎に謝罪した。

「醍醐さん、話は最後まで聞いてください」

吉太郎の言葉に亜矢子はゆっくりと振り返った。

「こういう大事なことは自分の性分として、女の醍醐さんに言わせる訳にはいきません」

ふたりを追って出てきた花子は戸口で聞き耳を立てた。

「自分から言わせてください。

… 自分もあなたのことが好きであります」

「まさか … 」


一瞬、頬が緩んだ亜矢子だったが、信じ切れずに目を伏せた。

「いえ、本当に結婚して欲しいと思っているのであります」

亜矢子はもう疑わうことはせず、まっすぐに吉太郎のことを見つめた。

「吉太郎さん … 」

* * * * * * * * * *

居間に駆け込んできた花子が、意気消沈している一同に向かって両腕で頭の上に大きな丸を作ってみせた。

* * * * * * * * * *

「ですが … 」

吉太郎が話を続けようとした時、家の中から歓声が上がって話の腰を折られてしまった。

「『ですが』何ですか?」

亜矢子は駆け寄って吉太郎に確認した。

「ですが、自分は憲兵という立場上、独断で結婚することは出来ません。

少し時間をいただけませんか?」

「いくらでも待ちます」


亜矢子が迷うことなく返事すると、吉太郎の表情がふっと緩んで笑顔になった。

「よかった … 醍醐さんが武を選ばなんで、本当によかった」

皆の前では無表情でいたが、内心は相当動揺していたのだ。

「まあ ~ 」

亜矢子はうれしそうに笑顔を返した。

* * * * * * * * * *

「芝居なんか打つ必要なかったみたいですね」

「そうみたいね」


和やかな雰囲気の中で、ただひとり武だけが悲観に暮れて涙を流していた。

「てっ、武どうしたでえ?」

「醍醐さ~ん」


かよに訊ねられた途端、武は大声で泣き出した。

「 … おらが嫁にもらいたかった ~ 」

「武、何を言ってるでえ?

醍醐さんと兄やんの思いが通じ合って、筋書き通りじゃんけえ」


花子は武に台本を突きつけた。

「ほれとこれとは違うじゃん」

< 吉太郎と醍醐、幸せになれるといいですね ~

泣くな、武 … ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月15日 (金) | 編集 |
第119回

< 翻訳の仕事を完成させた花子がいなくなってしまいました >

胸騒ぎを感じた英治は、かよの店や宮本家に行ったが花子は訪れてはいなかった。

「早まったこと考えないといいけどね … 」

浪子の言葉に不安を募らせた蓮子は英治と共に心当たりのある場所を捜し回ったが、花子は見つからない。

もしかと思って、村岡家に戻ってみたが花子の姿はなかった。

「僕が目を離したりしなければ … 」

* * * * * * * * * *

その時、花子が近所の子供たちに囲まれながら路地を歩いてくるのが見えた。

「はなちゃん」

慌てて駆け寄る蓮子と英治、そして平祐。

「花子さん、心配したよ」

「 … 早くに目が覚めてしまって、散歩に行っただけよ」


子供たちに出会って物語を聞かせてほしいとねだられたので連れて戻って来たと話した。

* * * * * * * * * *

花子は、いつものように子供たちを庭に招き入れると、自分は縁側に腰掛けて、雲の話をはじめた。

「 … それでも雲は勇ましくこう言いました。

『下界の人たちよ、私は自分の体がどうなっても構わない … あなたたちを助けよう。

私は自分の命 … 』


その先を話すことは今の花子にとっては辛いことだった。

『 … 自分の命をあなたたちにあげよう』

黙り込んでしまった花子を見て、子供たちは心配そうに顔を覗きこんだ。

「おばちゃん、どうしたの?」

「ごめんなさい … 続きはまた今度ね」


ただならぬ花子の様子を子供なりに察したのか、皆素直に礼を言って帰りはじめた。

「今日、歩君どうしたんだろうね?」

「居ないね … 」


いつもなら、歩も子供たちと一緒に花子の話を聞いているはずだったからだ。

英治、蓮子、平祐の三人はそんな花子と子供たちのやり取りを居間から痛々しく見つめていた。

「英治、ちょっと … 」

平祐は英治を外へ呼び出した。

* * * * * * * * * *

「花子さんまで失っていいのか?」

工房に入るなり平祐は英治にそう訊ねた。

平祐は、花子の散歩に行っていただけという言葉に疑問を抱いていたのだ。

「郁弥が亡くなった時、私は郁弥の傍に行きたいと願った … 花子さんの気持ちはよく分かる」

「 … 僕にも分かります」


英治は悲痛な顔で答えた。

「だったら、花子さんとちゃんと話をしろ。

お前だって辛いのは分かってる … しかし、花子さんの悲しみを受け止めてやれるのは、お前しかいないんだぞ。

歩が死んだのは、誰のせいでもないんだ」


* * * * * * * * * *

英治は、縁側でぼんやりとしている花子の隣りに腰かけた。

「僕を置いて、ひとりで歩の所に行こうとしたんじゃない?」

英治の質問には答えず、花子は虚ろな目でつぶやくように言った。

「海に連れて行けばよかった … 歩、あんなに海に行きたがっていたのに … 晴れたら行こうねって、約束したのに私が破ってしまって」

自分を責める花子。

「仕事なんかしないで、海に行けばよかった」

ふたりの話を聞いていた蓮子が不意に言った。

「 … 行きましょうよ。

これから海に行きましょう ~ ねえ、行きましょう」


* * * * * * * * * *

花子と英治、そして蓮子は海に向かった。

歩と海水浴に来るはずだった海だ。

人影もない9月の海水浴場、ただ波が寄せては返す砂浜を花子と英治は歩いた。

蓮子は浜に打ち上げられている船に腰かけてふたりを見守っている。


「もうここに来る事もないと思ってたわ。思い出なんて辛いだけだもの」

花子の口から出るのは自分を責める言葉ばかりだった。

「もっとたくさんしてやれた。

仕事なんてしないでもっとそばにいてやればよかった。

もっと私がちゃんと見ていれば、歩ちゃん … あんなに早く天国に行く事もなかったのに … 」

「花子さん、そんな事ないって!」


英治は慰めたが、花子は聞き入れず砂の上に崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。

「私みたいな母親のところに生まれてこなければ、歩はもっと幸せになれた。

私の子になんか生まれてこなければ良かったのに!」


* * * * * * * * * *

「花子さん、それは違うよ!」

英治は声を張り上げ、花子の言葉を遮った。

そして以前、歩が吉太郎に語っていた話を花子に話して聞かせた。

「歩言ってたんだ。

神様に頼んだって … 」


* * * * * * * * * *

「神様と雲の上から見てたんだ … そしたらお母ちゃまが見えたの。

お母ちゃま英語のご本を読んだり紙にお話を書いたり忙しそうだったよ。

でも楽しそうだった。だから神様に頼んだの。

『僕はあの女の人のところに行きたいです』って … 」

* * * * * * * * * *

「歩がそんな事を?」

花子は驚いている。

「その時は信じられなかったよ。

歩は、君に似て想像の翼を広げる子だから。

でも今は信じる。

歩は本当に君を選んでこの地上にやって来てくれたような気がするんだ。

君は歩が選んだ最高のお母さんじゃないか!」


花子は感動で涙が止まらなかった。

英治はしっかりと花子を抱き締めた。

* * * * * * * * * *

「はなちゃん!」

蓮子に呼ばれ、ふたりが振り向くと … 蓮子は空を指差していた。

見上げると、まるで奇跡のように虹がかかっていた。

「僕わかったよ。

雲はね、雨を降らせて消えちゃったあと虹になるんだよ!」

その時、花子は歩の声が聞こえた気がした。

「お別れにお空の虹になったんだ」

* * * * * * * * * *

「英治さん、私もっと忙しくなってもいい?」

花子の口から、ごく自然にそんな言葉が出てきた。

「これからすてきな物語をもっともっとたくさんの子供達に届けたいの。

歩にしてやれなかった事を日本中の子供達にしてあげたいの」

「もちろん。大賛成だよ。」


英治に反対する理由などなかった。

* * * * * * * * * *

「はなちゃん … 」

歩の話を聞き、虹を目にした花子は明らかに変化があった。

「歩、ありがとう」

あの虹は歩に違いない … 花子はそう信じていた。

* * * * * * * * * *

< 花子は書き始めました。

歩に話してやったお話を思い出しながら >

「夕立のあった場所一帯に美しい美しい虹が雲のための凱旋門のようにアーチを作り … 天にあるだけの輝いた光線が、虹のアーチに色をつけました。

自分の命を消してまでも人間のために尽くした大きな雲の愛の心が、別れの言葉として残した挨拶は … 

その虹だったのです」

< … ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月14日 (木) | 編集 |
第118回

< 9月1日の朝、歩が疫痢で息を引き取りました >

それは奇しくも3年前に関東大震災が起こった日 … 歩は、郁弥と同じ日に旅立ったのだ。

* * * * * * * * * *

歩の葬儀には、吉平、ふじ、吉太郎、かよ、蓮子、龍一、そして朝市、梶原、亜矢子が参列した。

「本日は歩の葬儀にお集まりくださいまして、ありがとうございました。

歩の死は、余りに突然でした … 今でも信じられません」


誰もが歩の短すぎる一生を憂い、深い悲しみとやるせなさでいっぱいだった。

遺影の中の歩のあどけない微笑みがひときわ涙を誘った。

「歩の居ない時間をどうやって過ごしていったらいいのか、情けない話ですが僕たちにはまだ考えられません。

… 皆さん、どうか花子を支えてやってください」


憔悴しきった花子の傍には蓮子が寄り添っていた。

* * * * * * * * * *

歩のことを人一倍可愛がっていた吉太郎は、歩と一緒に作った鉱石ラジオを手に取って男泣きした。

偶然にもその様子を見てしまった亜矢子は、そっとハンカチを差し出した。

「 … 吉太郎さんは、歩ちゃんの親友でいらっしゃいましたものね」

吉太郎は自分の弱い姿を亜矢子に隠そうともせずにただ泣き続けていた。

* * * * * * * * * *

葬儀を終え、自宅に戻った蓮子に純平が突然訊ねた。

「お母様は僕が死んだら悲しいの?」

戸惑う蓮子に純平はさらに訊ねた。

「 … 歩君、天国に行っちゃったんでしょ?」

純平が歩と遊ぶと言ってきかなかったので浪子が教えたのだ。

「悲しいわよ … 純平が居なくなったら、お母様、とても生きていけない」

純平を抱きしめながら、花子が今どんなに悲しく辛い気持ちなのか改めて実感する蓮子だった。

* * * * * * * * * *

葬儀が終わった後も長い間、歩の祭壇の前に座って、じっと見つめていた花子がふいに立ち上がって書斎に向かった。

仕事机の上は、翻訳途中の原書や原稿がそのままになっている。

本棚には、吉太郎がこしらえてくれた木の船や鉱石ラジオなど、歩がほんの数日前まで遊んでいたお気に入りのおもちゃが並んでいた。

ぼんやり見つめていると、吉平が顔を覗かせた。

「はな、大丈夫け?」

「うん … 」


花子は力なくうなずいた。

その夜、吉平とふじは後ろ髪を引かれながらも甲府へと戻っていった。

* * * * * * * * * *

< 翌日、蓮子は再び花子の元を訪れました >

花子が蓮子から手渡された小さな包みを解くと、中には歌を綴った短冊の束が入っていた。

「 … はなちゃん、こんなことしかできなくてごめんなさい」

「蓮様 … ありがとう」


多くの言葉を語らなくても、花子には蓮子の思いやりが伝わったきた。

* * * * * * * * * *

『あすよりの 淋しき胸を 思ひやる 心に悲し 夜の雨の音』

『母と子が 並びし床の 空しきを 思ひやるなり われも人の親』

『われにさへ けさは冷き 秋の風  子をうしなひし 君がふところ』

どの歌も子を思う母の心情を歌っていて、花子は心を打たれた。

短冊を読み終えた花子はひとしきり目を閉じた。

そして、目を開けると、途中だった翻訳の仕事を再開した。

< 蓮子から贈られた歌の数々が花子を仕事に向かわせました >

* * * * * * * * * *

その夜、歩の祭壇に手を合わせに訪れた吉太郎は英治から花子がすでに仕事を再開したことを知ると、書斎に乗り込んだ。

「はな、もう仕事なんしてるだか?」

「翻訳の締切過ぎちまって、急がんきゃ」


吉太郎の相手もそこそこに、手を休めようともしない花子。

「歩が死んだばっかだに … よく仕事なんて出来るじゃんけ?!」

憤慨した吉太郎が声を荒げると、花子はようやく手を止めた。

「これ持ってくぞ!」

棚にあった鉱石ラジオを手にすると吉太郎は出て行ってしまった。

平然を装うとした花子の顔が歪んだ。

しかし、涙を堪えながらも、再びペンを走らせはじめた。

* * * * * * * * * *

「はなの奴、こんな時に仕事なんか …

母親が仕事しているせいで、歩がどんだけ寂しい思いしてたか、はなはちっとも分かっちゃいん」


怒りが治まらない吉太郎は、かよの店によってぶちまけた。

「兄やん … お姉やん、今ほうしか出来んじゃねえかな?

おらもあの頃ほうだった … 」


かよは店の棚に飾ってある郁弥の腕時計を見つめた。

「身体動かしていんと、苦しくて寂しくて … 生きてるのが怖かった。

ふんだから、昼も夜もがむしゃらに働いてたさ。

お姉やんにとっちゃきっと … ほれが物語作ったり、翻訳することなんだよ」


吉太郎は何も言えなくなってしまった。

かよの言う通りだと思った。

怒りに任せて、花子にひどい言葉を投げかけてしまったことを悔いていた。

* * * * * * * * * *

「徹夜したの?」

翻訳を終えた花子に英治がお茶を運んできた。

「ありがとう … 」

「梶原さんには僕が電話して渡しておくから、君はゆっくり休めよ」


しかし、花子は「まだ眠くならないから」と言って、机に向かったままで新しい原稿用紙を取り出した。

英治は花子を気にかけながらもそっと書斎を出て行った。

花子は黙々とペンを走らせていた。

* * * * * * * * * *

ひと晩じゅう降っていた雨も朝にはすっかり上がった。

眠りについた花子に代わって英治が梶原に連絡を入れ、原稿を手渡した。

「英治君 … これ」

確認をしていた梶原が原稿の中から一枚抜き出すと、英治に差し出した。

「 … 申し訳ないことをしたかも知れないな」

それは、花子が歩宛てに書いた手紙だった。

* * * * * * * * * *

『歩ちゃん、あなたと一緒にこのご本を読みたかったのですよ

でも、もうあなたは天のおうちね

お母ちゃまはバカでしたね

こんなに早く天国に行ってしまうなら、仕事ばかりしていないで、あなたのそばにずっといてやればよかった


* * * * * * * * * *

雨が降って来ました

お母ちゃまの心にも雨が降っています

可愛いお宝の歩ちゃん

お母ちゃまの命は、あなたの命と一緒にこの世から離れてしまったような気がします』


* * * * * * * * * *

悲しい手紙だった。

英治はいまだかつて、これ程悲しい手紙を読んだことがなかった。

頬を幾筋もの涙が伝わっていった。

* * * * * * * * * *

「英治、花子さん何処に行ったんだ?」

平祐に声をかけられて、英治はハッとした。

「昨夜徹夜したのでまだ寝てるはずですが … 」

英治は涙を拭いながら答えたが、平祐は何処にも居ないと言う。

家中くまなく捜したが花子の姿はなかった。

どうしようもない胸騒ぎがして、英治は表に飛び出していった。

< 花子が姿を消してしまいました

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月13日 (水) | 編集 |
第117回

「僕 … お熱があるかも知れないよ」

その夜、歩が突然高熱を出した。

急いで医者を呼び、歩を布団に寝かせた。

氷枕を当てて、額には濡れた手拭いを乗せたが、歩の熱は上がる一方だった。

「歩、もうすぐお医者さん来るからな」

すると、歩は花子に訊ねた。

「 … お母ちゃま、痛いお注射する?」

「そうね … 」


歩が注射を嫌がったので、花子は思わず自分が代わりにしてもらうなどと口走った。

「それじゃあ、僕の病気よくならないよ … 」

歩の方がしっかりしていた。

「歩は強いから注射痛くても大丈夫だよな?」

歩は赤い顔で健気にもうなずいてみせた。

「お医者様の言うことを聞いて、いい子にしていれば、すぐよくなりますからね。

元気になったら、今度こそ海に行こうね」


花子の言葉に歩は微笑んだが、その直後少し呼吸が荒くなった。

「大丈夫?」

そうしているうちに医師と看護婦が到着した。

「坊やの熱はいつからですか?」

「夕方頃、急に高い熱が出て … お腹も下しています」


* * * * * * * * * *

「先生、歩は?」

歩を診察した医師は表情を曇らせながら所見を述べた。

「 … 残念ながら、疫痢の可能性が高い」

花子は愕然とした。

「疫痢?」

「そんな … 何とかしてやってください」

「先生、歩を助けてください。

お願いします、お願いします … 」


花子と英治は医師に必死に頭を下げ続けた。

< 当時、疫痢はたくさんの子供たちが命を落とし、もっとも怖い病気とされていました >

* * * * * * * * * *

深夜におよび、医師は懸命に処置を施したが、歩の容態は予断を許さない状況だった。

花子たち家族が歩のために出来ることは回復を願って見守ることしかなかった。

しばらく小康状態が続き、歩が突然目を開けた。

「歩ちゃん?」

花子と英治が顔を覗きこむと、歩はしっかりと目を見開いて天井を見つめていた。

「まあ、やっと気持ちよくなったのね。

歩のお目目のなんてきれいなこと … こんなに高い熱が出たのに、ちっとも目が曇らないのね」


歩が一命を取りとめたと安堵した花子は、歩の頭を撫でながら笑顔でささやきかけた。

そして、台所に立ち、白湯を汲んで戻って来た。

「さあ、おぶうを飲みましょうね」

それをガーゼに含ませると歩の唇に数滴たらした。

すると、歩は再び瞼を閉じてしまった。

* * * * * * * * * *

「 … 歩ちゃん?」

花子が声をかけたが歩はピクリとも動かない。

「歩ちゃん、歩ちゃん」

体を揺すりながら、必死に名を呼んだが反応がなかった。

「先生 … 」

英治が涙声で医師を呼んだが、医師はもう何も処置しようとはせずに答えた。

「 … もうお時間がないので、抱いてあげてください」

花子は目を見開いて、医師のことを振り返った。

「花子さん … 」

英治は涙を流しながら、花子を促した。

花子は歩の頬を両手で包むように触ると、腕を回して抱きかかえた。

とめどなく流れる涙を拭おうともせず、歩の顔を愛おしげに見つめた。

* * * * * * * * * *

「お母ちゃま … 」

目を閉じたままの歩がか細い声で花子を呼んだ。

「なあに、歩ちゃん?」

「僕がお母ちゃまと言ったら、『はい』ってお返事するんだよ」

「お返事しますとも」


涙ながらに花子はうなずいた。

「 … お母ちゃま」

「はい」

「お母ちゃま」

「はい」


二度同じやり取りを交わした後、歩は何も言わなくなった。

「お母ちゃまの返事聞こえないの?」

花子が呼びかけると、唇が微かに動いた。

「おかあちゃま … 」

「はい … はい …

歩ちゃん、お母ちゃまもお父ちゃまもお祖父ちゃまも皆あなたの傍にいるのよ。

歩ちゃん、なあに … なあに?

… お願い、何か言って、お願い、歩ちゃん!」


花子がいくら呼びかけても歩からはもう何も返っては来なかった。

「歩ちゃん? … 歩」

歩の体からすうっと力が抜けて行くのが分かった。

花子は歩を強く抱きしめた。

< その日の明け方、歩は息を引き取りました >

… 僅か4年の生涯だった。

* * * * * * * * * *

早朝、宮本家に歩の訃報を知らせる電報が届いた。

「歩君が?!

はなちゃん … 」


呆然と立ち尽くす蓮子のことを浪子は叱責した。

「何をぐずぐずしているの?

母親にとって子供を亡くすのは、心臓をもがれるよりも辛いことよ。

子供たちの世話は私に任せて、早く行きなさい!」


思いもよらぬ姑の言葉に送り出されて、蓮子は花子の元へと駆けつけた。

* * * * * * * * * *

まるで眠っているように穏やかな顔で横たわる歩 … 花子は、その傍らに放心状態で座っていた。

「花子さん、蓮子さんが来てくださったよ」

英治が蓮子が弔問に訪れてくれたことを伝えたが、花子は虚ろな目で歩を見つめたままだった。

蓮子は花子の隣に座ったが、何と声をかけてよいのか分からなかった。

「はなちゃん … 」

花子はゆっくりと蓮子の方を振り向いた。

「 … 蓮様」

蓮子は歩に向かって合掌した。

* * * * * * * * * *

「歩 … お母ちゃま、お母ちゃまって … 」

花子の嗚咽が次第に大きくなっていく。

「はなちゃん」

蓮子は花子の手を握った。

「歩 … 」

堰を切ったように花子が泣き崩れた。

悲痛な面持ちで花子を抱きしめる蓮子。

* * * * * * * * * *

「申し訳ありませんが、翻訳の締め切りは遅らせていただけないでしょうか?」

やはり弔問に訪れた梶原に英治は締切の延期を願い出た。

「 … 当分、仕事は手につかないと思いますので」

「いや、翻訳のことは心配しないでくれと、花子さんに伝えてくれ。

… 英治君、君は大丈夫か?」


英治は気丈にうなずいた。

* * * * * * * * * *

花子は歩の亡骸から決して離れようとしなかった。

夜になると、まるで寝かしつけるかのように添い寝して、歩の頭を優しく撫で続けた。

英治と平祐はその様子をぼんやりと見つめ、蓮子は花子を見守るように傍らに座っていた。

花子の耳には、歩の歌が聞こえていた。

♪ こっちがママのダ~リング、こっちがパパのダ~リング

庭を元気に駆けてきた歩。

おむすびを頬張る歩。

船のおもちゃを操る歩。

風車に息を吹きかける歩 …

たらいから汲んだ水をじょうろで撒く歩を花子は縁側から笑って見ている。

じょうろの水が太陽の光を映した。

「虹が出たよ」

* * * * * * * * * *

外は雨が降り始めていた。

蓮子は、いつの間にか寝入ってしまった花子に自分の羽織をかけた。

< あすよりの 淋しき 胸を 思ひやる 心に悲し 夜の雨の音

… さようなら >

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2014年08月12日 (火) | 編集 |
第116回

楽しみにしていた海水浴が大雨のために中止になり、へそを曲げてしまった歩だったが、花子が語る『雲が困った人たちのために雨を降らして、自分は姿を消してしまう』という物語を聞き、雨も大切な恵みだと知って機嫌を直した。

「今日は雨で海に行けなくて残念だったけど、今度の日曜日行こうね」

「うん」

< 歩と約束した花子でしたが … 次なる仕事が舞い込んでしまいました >

急遽、梶原から頼まれた十日後が締め切りの仕事を断り切れずに引き受けてしまった。

* * * * * * * * * *

花子はほぼ一日中、書斎にこもって翻訳の仕事を進めていた。

歩が上手に描けた海水浴の絵を見せに来ても、まともに相手をしてあげることも出来なかった。

* * * * * * * * * *

「お母ちゃま、まだお仕事?」

歩が寝る時間になっても花子は仕事にかかりきりだった。

「歩と海に行きたいから、こぴっと頑張ってるんだよ ~ 邪魔しないようにしような」

英治が諭すと、歩は少し寂しそうな顔をしながらもうなずいた。

< 何とか歩との約束を果たそうと、寝る間も惜しんで翻訳をする花子でした >

♪ こっちがパパのダ~リング、こっちがママのダ~リング

この頃の花子にはまだ、居間から聞こえてくる歩の『かわい子ちゃん』の歌を口ずさむ余裕があった。

* * * * * * * * * *

< そして、日曜日がやって来ました >

誰にも起こされることなく目が覚めた歩は、窓から見える快晴の空を確認すると、英治を揺り起こした。

「天気だよ、起きて ~ 早く海に行こうよ」

「ああ、よかったな歩、海に行けるぞ。

… 花子さんも起きて」


しかし、花子の布団はもぬけの殻 … というより眠った形跡がなかった。

* * * * * * * * * *

歩が書斎に駆け込むと、花子は机に突っ伏して眠っていた。

「お母ちゃま、お母ちゃま、起きて ~ 早く海に行こうよ」

「てっ?!

もう朝? … しまった、寝ちまった!」


歩に起こされた花子は顔面蒼白だ。

「早く ~ 海、海、海!」

まとわりついてくる歩に応える余裕もなかった。

「 … どう、行けそう?」

英治に状況を訊ねられ、花子は申し訳なさそうに原稿をみせた。

「まだ、これだけ … 」

* * * * * * * * * *

翻訳が思いのほか捗らなかった上に寝不足が続いていたため、いつの間にかうとうとと … 朝まで気づかずに寝過ごしてしまったのだ。

* * * * * * * * * *

「お母ちゃまのうそつき」

「ごめんね歩ちゃん、お母ちゃまお仕事が間に合わなくて … 今日はどうしても一緒に行けないの」


仕方がないので、平祐と英治の三人で海水浴に行くように宥めても、歩は花子が一緒でなければ嫌だと承知しなかった。

「お仕事が終わらないと、困る人がいるんだよ」

「やだやだやだ!」


むくれて、またも書斎に入り込んでしまった。

* * * * * * * * * *

机に向かい花子が仕事をしている横で、歩はノートに絵を描きなぐっていた。

「歩ちゃん、本当に海に行かないの?

お祖父ちゃまとお父ちゃま待ってるわよ」


花子が声をかけても、返事もしなかった。

「 … 本当にごめんね」

ただ黙々と絵を描き続ける歩。

* * * * * * * * * *

仕事に戻った花子は、しばらくして、すぐ横で歩の気配を感じた。

「何してるの?」

振り向いた花子は仰天した。

歩が大切な英英辞典にクレヨンで落書きしているのだ。

「やめて ~ やめなさい!」

思わず声を上げて、歩の手からクレヨンを取り上げた。

「どうしたの?!」

その声を聞きつけて、英治が書斎に飛び込んできた。

「歩が … 」

「ああ ~ こりゃまた豪快にやったな」


花子は歩を問い質した。

「どうしてこんなことするの?

これは、お父ちゃまからもらった大切なご本なのよ」


しかし、歩を唇を真一文字に結んで何も答えない。

「歩、ごめんなさいは?」

「 … お母ちゃま、お仕事しないで。

海に行くって約束したのに!」


反対に花子が約束を破ったことを責めた。

花子は一瞬後ろめたい気持ちに苛まれた。

「 … だからって、やっていいことと悪いことがあるでしょ?

こんな悪いことする子はお尻ペンペンですよ!」


* * * * * * * * * *

「よっ、歩」

ふらりと訪れた吉太郎が顔を覗かせると、途端に歩が顔をほころばせた。

「あっ、吉太郎だ」

そう呼び捨てにして、歩は吉太郎に抱きついた。

「吉太郎伯父さんでしょ」

花子は歩を咎めたが、呼ばれている本人はそれで構わないと言った。

「はな、出来ん約束は最初っからするな」

花子を諌めると、吉太郎は歩を抱き上げた。

「歩、今日は俺と遊ぼうな」

歩はすっかり吉太郎に懐いているのだ。

「歩の大好きな吉太郎さんが来てくれてよかったじゃいか。

これで集中できるだろう、仕事に」

「そうね … 」


花子は一応うなずいてみせたが、歩の度を越した悪戯を叱らぬ英治や吉太郎に対して不満を感じていた。

* * * * * * * * * *

「歩、すっげえ面白いもんもってきたぞ、一緒に作らんけ?」

吉太郎は持参した包みを開いてみせたが、歩には何を作る材料か分からない。

「 … なあに?」

「ほりゃあ、出来てからのお楽しみだ。

すげえびっくりするぞ」


歩は目をまん丸くした後、ニッコリ笑った。

吉太郎は歩にも手伝わせながら、何やら組み立て始めた。

* * * * * * * * * *

しばらくすると、かよから花子がすごく忙しいと聞いて、亜矢子がやって来た。

歩と遊ぶつもりだったのだが、吉太郎との工作に夢中になっていた。

「兄やん、歩と妙にうまが合うらしいの」

「吉太郎さんって見かけによらず子供好きなのね」


そのギャップが亜矢子には新鮮だったようだ。

* * * * * * * * * *

「歩のお母は、歩くれえの頃から三度の飯より本が大好きだっただ」

「ふ~ん」

「歩は仕事なんかしなんで、一緒に遊んでくれるお母の方がよかったけ?」


吉太郎の質問に歩は首を傾げた。

「誰にも言いつけんから、本当のこと言っていいだぞ」

すると、歩は不思議な話をはじめた。

「僕がお母ちゃまを見つけたんだ」

「えっ?」

「神様と雲の上から見てたんだ。

そしたら、お母ちゃまが見えたの」


今度は吉太郎の方が首を傾げてしまった。

「お母ちゃま、英語のご本読んだり、紙にお話を書いたり、忙しそうだったよ」

居間にいる英治や平祐、亜矢子も歩の話に耳を傾けた。

「でも、楽しそうだった。

だから神様に頼んだの … 『僕、あの女の人のところに行きたいです』って」


空想や夢だとしてもよく出来ている話だった。

「だけど、今日は頭に来ちゃったよ」

吉太郎は笑いながら歩の頭を撫でた。

「本当にお母と海に行きたかっただな?」

歩も笑ってうなずいた。

* * * * * * * * * *

「今の歩ちゃんの話、どう思います?」

亜矢子が尋ねると、英治は笑いながら答えた。

「歩は花子に似て、想像の翼が大きいんです」

「私は信じますわ … 素敵なお話ですもの」


英治も同じ気持ちだった。

さすがに亜矢子の前では『神童』だとは言えなかったが、親バカを抜きにしても、歩の発想は四歳になったばかりの子供とは思えないものがあった。

「お昼にしませんか、お弁当持ってきたんです」

* * * * * * * * * *

「う~ん、こりゃ美味い」

「すごいですね、醍醐さん」


書斎にいる花子のところまでそんな声が聞こえてきた。

居間に顔を出すと、食卓の上に所狭しと亜矢子が持参した弁当の重が並んでいて、男性陣が舌鼓を打っていた。

「てっ、これ醍醐さんが作ったの?」

そう言えば、これだけ長いつきあいをしていながら、亜矢子の作った料理を見るのは初めてのことだった。

「ええ、はなさんも召し上がれ」

「わあ、ありがとう ~ いただきます」


寝過ごしたせいで、まともに食事していなかった花子は大喜びだ。

「どれも本当に美味しいです」

「お口に合ってよかったです」


黙々と食べている吉太郎だったが、顔を見れば味に満足していることがよく分かった。

「兄やんも歩の機嫌直してくれてありがとうね」

「いや」


花子に礼を言われても軽くうなずくだけだった。

* * * * * * * * * *

「お母ちゃま、ここから人の声が聞こえるよ」

吉太郎の隣に座って、何やら耳当てをしている歩が花子にそう教えた。

見れば、歩は小さな機械を手にしていて、耳当てから出た線はそれに繋がっていた。

「わあ、すごい ~ これどうしたの?」

「鉱石ラジオを吉太郎さんが作ってくれたんだ」

「ラジオを作ってしまうなんて、吉太郎さんって機械にお強いんですね」

「いえ、ごく簡単なものですから」


亜矢子に褒められても、照れながら軽く受け流す吉郎だった。

しかし、亜矢子の方は今日一日で吉太郎に大して相当、好印象を抱いたようだ。

* * * * * * * * * *

「お母ちゃまも聴いて」

歩は耳当てを外して、花子に差し出した。

… ニュースであります … こちらはJOAK …

「てっ、本当に人の声が聞こえる ~ 一体、何処から話してるのかしら?」

「ずっと遠くだよ」


歩は花子に自慢げに答えた。

「歩、お母に言うことあるずら?」

吉太郎に促された歩は、こくりとうなずくと立ち上がった。

「お母ちゃま、大切なご本にお絵描きしてごめんなさい」

花子に向かって頭を下げて謝った。

「歩ちゃん … 」

花子は目頭が熱くなるのを覚えながらも歩を抱きしめていた。

「お母ちゃまも約束破ってごめんなさい。

今やってる仕事が終わったら、今度こそ絶対に絶対に海に行こうね」

「うん、お母ちゃま!」


歩もうれしそうに花子に抱きついた。

「 … 歩ちゃんは、お母ちゃまのダーリングボーイ」

そんなふたりを一同は暖かい目で見つめていた。

* * * * * * * * * *

「あ~あ~、JOAK東京放送局であります。

次は、村岡歩先生のお歌であります」


達者にアナウンサーの口真似をした後、『かわい子ちゃん』の歌を歌い始めた。

♪ こっちがママのダ~リング、こっちがパパのダ~リング …

思わず噴き出す花子。

< 鉱石ラジオを気に入った歩は、毎日、ラジオごっこをして遊ぶようになりました >

* * * * * * * * * *

数日後の夕方のことだった。

台所で夕食の準備をする花子に英治が尋ねた。

「締切間に合いそう?」

「ええ、今夜頑張れば何とか … 」


何とか目途が立ち、次の日曜日に歩との約束が守れそうだ。

「お母ちゃま … 」

その時、花子を呼んだ歩の声にいつもの元気がなかった。

「どうしたの、歩ちゃん?」

「僕 … お熱があるかも知れないよ」


花子は驚いて歩の額に自分の額をつけた。

「ホントだわ … 随分高いお熱よ」

「風邪ひいたのか?」


英治も歩の額に手を当てた。

真っ赤な顔の歩は崩れるように、花子の腕の中に倒れ込んだ。

「歩、歩」

「歩ちゃん?!」


平祐も駆け寄り、英治に医者を呼びに行くよう指示を与えた。

花子の腕の中、歩は目を閉じてぐったりとしたままだ。

< 可愛いお宝の歩が熱を出してしまいました。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月11日 (月) | 編集 |
第115回

< たくさんの友人たちの力を借りて、花子たちは青凛社を作り、『王子と乞食』の単行本を完成させました。

それから二年後、かよは必死で働き、自分の店を持ちました。

そして、歩は四歳になりました >

花子たちはやんちゃ盛りの歩に手を焼きながらも、惜しみない愛情を注いでいた。

* * * * * * * * * *

1926年(大正15年)・8月。

< さて、8月のある日のこと >

村岡家では、歩と英治、平祐までが夢中になって、てるてる坊主を作っていた。

もうすでに数十個は出来上がっていて、軒先や部屋の鴨居等いたるところにぶら下がっている。

「歩ちゃん、お祖父やんとお祖母やんが来てくれたよ」

「歩、ぐっどいぶにんぐ」


甲府から吉平とふじがやって来たのは、翌日に控えた海水浴に花子と英治が誘ったのだ。

ふたりを出迎えた歩は明日が待ちきれず、すでに海水着を着ていた。

「ああ、こんだけてるてる坊主吊るしゃあ、明日はきっと晴れるら ~ 

歩、海行ってスイカ割りしような」


吉平は手土産に持ってきた見事なスイカを見せた。

「歩、呼んでくれてありがとうね ~ お祖母やん、海水浴なんて産まれてはじめてじゃん」

吉平とふじは久しぶりに会えた可愛い孫の一挙手一投足に目を細めるのだった。

「お母ちゃま、これ着るんだよ」

歩が引っ張り出してきたのは、歩と同じ柄の花子の海水着だった。

* * * * * * * * * *

だがてるてる坊主たちのご利益はなく … 翌日、外は大雨で、雷まで鳴りはじめた。

< てっ、ザーザー降りですか >

「歩ちゃん、海はまた今度ね … 」

「や~だ、皆で海に行くんだもん」


すっかりへそを曲げた歩は泣き出してしまう。

花子は歩を元気づけるため、あることを思いついた。

「 … やりましょう、海水浴」

* * * * * * * * * *

花子は居間にゴザを敷き、海水浴に持っていこうと用意した弁当のお重を広げた。

「歩ちゃん、ここは海よ …

想像の翼を大きく広げて、ここが海だって想像してみるの」

「ここが海?」


花子は歩の目を閉じさせた。

歩だけでなく、大人たちも全員目を閉じて、自分たちが海にいると想像した。

「ザブ~ン、ザブンと寄せては返す波 … 」

「 … でも、ここはおうちだもん」


歩はこれで、誤魔化されるような単純は子供ではなかった。

吉平と英治は畳の上で泳ぐ真似をしてみせた。 

「おお、海だ ~ お祖父やんと泳ごう!」

「でも、ここは海じゃないもん。

僕、海に行きたい … 海に行きたいの!」


… 畳を海だと思えという方が無理な話だった。

* * * * * * * * * *

花子は書斎にこもってしまった歩に吉平たちからの土産のスイカを運んだ。

「これ食べて、機嫌直そうよ」

「僕、海でスイカ食べる!」


目の前で障子をぴしゃりと閉められ、花子はか~っと頭に血が上ってしまった。

「いつまでもわがまま言っている子は知りませんからね!」

* * * * * * * * * *

< 花子が息子に手を焼いている頃。

一方、蓮子は … >

依頼が増えた原稿を家事の合間を縫って執筆する忙しくも充実した毎日を送っていた

傍らのゆりかごの中では富士子がすやすやと静かな寝息を立てている。

こんな時間が最も捗る時だった。

< … おや、こちらは順調のようですね >

しかし、仕事にかまけて少しでも手を抜くと、浪子の厳しい叱責が待っていた。

それでも嫁と姑の関係は以前に比べると概ねうまくいっているようだ。

「それにしても富士子はいい子だね ~

産まれた時からお乳はたくさん飲むし、よく育つよ」


そんな浪子の言葉を耳にした純平は自分が生まれた時のことを執拗に訊ねた。

「ねえねえ、教えてよ ~ 」

「お祖母様は、純平が産まれた時のことを知らないのよ」


返事に困っている浪子に代わって蓮子が答えたが、純平の疑問は更に深まってしまった。

「どうして?」

「それは … 」


< 龍一と引き離され、実家に連れ戻された蓮子は、ひとりで純平を産みました。

それを幼い息子に、どう説明したらよいのか … 蓮子は言葉が見つかりませんでした >

* * * * * * * * * *

依然、歩は書斎でむくれたままだった。

「歩ちゃん、皆と一緒にお弁当食べましょう」

「雨なんか嫌いだ ~ ずっと降らなきゃいいんだ」


花子や英治がいくら宥めても機嫌は直らず、しまいには雨に対して悪態をついた。

* * * * * * * * * *

「 … 今日のようにある暑い夏の朝のことです」

そこで、花子が即興の物語を話しはじめると、歩が興味を示して身を乗り出してきた。

「小さなひとひらの雲が、海から浮き上がって、青い空の方へ元気よく楽しそうに飛んで行きました。

ずっと下の方には、下界の人間が汗を流しながら真っ黒になって働いておりました。

雲は思いました。

『どうかして、あの人たちを助ける工夫はないのだろうか?』」


英治は、花子の話に合わせて、スケッチブックに絵を描きはじめた。

「こちらは、空の下の世界です。

あんまり太陽の光線が強いので、人々は時々空を見上げては、雲に向かって …

『ああ、あの雲が私たちを助けてくれたらなあ』

というような様子をいたしておりました。

… さあ、雲は何て言ったと思う?」


歩はにっこり笑って答えた。

「助けてあげるよって」

「そうね …

でも、雲は人間の世界に近づくと消えてしまうの」

「消えちゃうの?」


途端に歩は悲しそうな顔をした。

* * * * * * * * * *

「それでも雲は勇ましくこう言ったの。

『下界の人たちよ、私は自分の体にどんなことが起きても構わない。

あなたたちを助けよう。

私は自分の命をあなたたちにあげます』

下へ下へと、人間の世界へ下って行った雲は、とうとう涼しいうれしい夕立のしずくとなって、自分の体を失くしました」


ちょうどそこで、英治が描き上げた物語の絵を歩に手渡した。

「まあ ~ 」

優しい顔をした雲が太陽の光を遮って、下界の人たちに恵みの雨を降らしている絵だ。

「 … 雲は死んじゃったんだね」

絵を見ていた歩が顔を上げて花子に訊ねた。

「ええ … でもね、雲が降らせた雨で苦しい苦しい暑さから、たくさんの人や、動物や、樹や草花が救われたのよ」

「じゃあ、雨のこと嫌ったらかわいそうだね」


花子は優しくうなずいた。

「 … 今日は雨で海に行けなくて残念だったけど、今度の日曜日行こうね」

「うん」


* * * * * * * * * *

ようやく機嫌を直した歩は居間に戻って、皆と弁当を食べ始めた。

「僕、分かったよ。

雲はね、雨を降らして消えちゃった後、虹になるんだよ」

「て … 」


花子は驚くとともにうれしくなった。

自分が考えつかなかった物語の続きをわずか四歳の我が子が話しはじめたのだ。

「 … ほうね」

「お別れに、お空の虹になったんだ」

「ほう ~ 」


感心する吉平を見てふじが笑った。

「あんたの言いてえこんは分かるさ」

「歩は神童に間違いありませんよ」


ところが、吉平のお株を取っのはた英治だった。

真顔で皆に訴えた。

「いやあ、まったくじゃん」

同意する吉平 … 神童の花子の子供は神童に違いないのだ。

歩を中心に場の雰囲気も一気に和んだ。

* * * * * * * * * *

翌日、吉平とふじは甲府に帰る道すがら、かよの店『カフェータイム』に立ち寄った。

「て ~ 立派なお店じゃん、かよ」

「ああ、自分の店を持つなんて … 俺の娘にしちゃ出来過ぎじゃん。

かよ、うんとこさ頑張っただな」


かよはうれしそうにうなずいた。

「お父もお母もゆっくりしてってくれちゃ」

カウンターの向こうでコーヒーを淹れる、かよは一端の女将に見えた。

吉平は訊ねた。

「かよ … もう郁弥君のことは大丈夫か?」

「こぴっと頑張ってれば … きっと、郁弥さんが見ててくれる。

ほう思ってるさ」


穏やかに笑ったかよを見て、吉平もふじも安堵したようだ。

* * * * * * * * * *

村岡家には仕上がった原稿を受け取りに梶原が訪れていた。

「花子君は締め切りを守ってくれるから本当に助かるよ」

編集者の経験がある花子には梶原たちの苦労がよく分かるから迷惑はかけられないのだ。

「 … それで折り入って相談なんだが、この本の翻訳もお願いできないだろうか?」

花子は梶原が差し出した原書を受け取った。

原題は『VOICES OF THE BIRDS』。

数頁めくって花子は笑顔を見せた。

「歩の好きそうな本です」

「 … 大急ぎで翻訳してもらえないだろうか?」

「はい、是非やらせてください」

「本当に急いでるんだ。

十日で仕上げてくれないか?」


花子は唖然とした … とても十日で終わらせる仕事ではなかった。

梶原が褒めたのにはそれだけの理由があったということだ。

「十日ですか … 」

「何か用でもあるの?」


海水浴に行かなければならないとは言えなかった。

「大丈夫です … 頑張ります」

そう答えた顔が少し引きつっていたかもしれない。

「引き受けてくれるか … 助かるよ」

* * * * * * * * * *

梶原が引き揚げようとした時、歩が居間に駆け込んできた。

「お母ちゃま、日曜日、これ海で着るんだよ」

歩は花子の水着を広げて梶原に見せてしまった。

「歩ちゃん … 」

「十日で本当に大丈夫?」


梶原は不安そうに花子に確認した。

「大丈夫です … 」

< さて、花子はこの海水着を着ることが出来るのでしょうか?

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月10日 (日) | 編集 |
まずは、先週のおさらいを …



それでは、次週の「花子とアン」は?

8月のある日、村岡家へ、甲府から吉平(伊原剛志)とふじ(室井滋)がやって来る。花子(吉高由里子)と英治(鈴木亮平)が海水浴に誘ったのだ。

歩(横山歩)は早くも水着を着て翌日海に行くのを楽しみにしており、吉平とふじ、平祐(中原丈雄)は目を細める。

雨なんか嫌いだ

ところが翌日はあいにくの大雨。がっかりした歩は泣き出してしまう。花子は歩を元気づけるために、ある物語を語り聞かせる。

それは『雲が、困った人々のために雨を降らし、姿を消してしまう』というお話だった。雨も大切な恵みであることを知った歩は機嫌を直し、次の日曜日に海に行くことに。

しかし、急きょ梶原(藤原隆宏)に頼まれた翻訳の仕事により、またも花子は海に行けなくなってしまう。

お母ちゃまのうそつき

すっかりへそを曲げた歩は、とんでもないいたずらをしでかし、花子を怒らせる。

そこへ現れた吉太郎(賀来賢人)は、歩のために鉱石ラジオなるものを作ってやる。すっかり気に入った歩は吉太郎に、ある『ちょっと不思議な話』を打ち明けるのだった。

花子と歩は仲直りし、今度こそ海へ行こうと約束を交わす。

だが、しばらく経ったある日、歩が「お熱があるかも」と花子に言ってくる。

夕方ごろ、急に高い熱が出て、お腹も下しています

本当に高い熱を出していることに驚く花子と英治。花子は急いで歩を布団に寝かせ、つきっきりで看病を始める。

歩ちゃん …

やがて英治に呼ばれた医師と看護師が到着。歩を診察した医師は、花子と英治に所見を伝える。

これから海に行きましょう

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2014年08月09日 (土) | 編集 |
第114回

念願の出版社兼印刷会社『青凛社』を立ち上げ、『王子と乞食』の単行本の出版までこぎつけた英治と花子。

「郁弥、これからも美しい本を、たくさん作るからな」

ふたりは、郁弥の遺影に出来上がったばかりの本を供えて誓った。

「 … 時間は止まっちゃいんだね … 郁弥さん、ありがとう」」

庭の片隅を埋め尽くすように咲く郁弥が好きだった勿忘草の花を見て、止まっていたかよの時間がまた動き出したのだった。

* * * * * * * * * *

< それから2年が経ちました >

1926年(大正15年)・初夏。

「歩ちゃん、待ちなさい!

かよおばちゃんのお店に行くんだから、ちゃんとお着替えなさい!」


着替えさせようとする花子の手をかいくぐって、歩は家中を逃げ回っていた。

< 歩はもうすぐ五歳です。

やんちゃ盛りの我が子に花子は手を焼いているようです >

「歩ちゃん、いい子だからお着替えして … 」

* * * * * * * * * *

< かよは、必死で働き、小さいながらも自分の店を持ちました >

今日は、かよの店『カフェータイム』の開店祝いの日だった。

カウンター席の他に、四人掛けの丸テーブルがふたつしかないが、こじんまりとしていて、かよらしい温かい雰囲気がする店だ。

皆を迎える準備を終えたかよは、棚に飾った勿忘草の鉢植えの横に郁弥の形見の腕時計を置いた。

郁弥の時計は再び時を刻んでいた。

* * * * * * * * * *

「ねえ、おかあちゃま ~ 早く、早く」

歩を捕まえるのに手こずってしまった花子は、ようやく自分の支度に取りかかっていた。

自分の着替えが終わった歩は、今度は早く出かけようとせがんだ。

「歩ちゃん待って … ああ、転んだら大変よ」

花子は庭へ駈け出した歩を追って縁側に出た。

「歩ちゃんは、お母ちゃまの『darling boy』なんだから」

「だありんぐぼうい?」


吉太郎が作ってくれた木の船を受け取りながら歩は首を傾げた。

「『かわい子ちゃん』って意味よ」

「ぼくは、お母ちゃまのかわい子ちゃんなの?」


花子は微笑みながら歩を抱きしめた。

「そうよ ~ お母ちゃまのdarling」

「お母ちゃまのだーりんぐ」


そんなふたりを平祐と英治が微笑ましく見つめていた。

* * * * * * * * * *

「かよおばちゃん!」

かよの店に歩が真っ先に飛び込んできた。

「いらっしゃい、歩 ~ グッドアフタヌ~ン」

「ぐっどあふたぬ~ん」


かよと歩は吉平仕込みの挨拶を交わした。

続けて花子、英治、平祐と店に入ってきた。

「いらっしゃい」

「開店おめでとう」

「かよさんらしい落ち着いたいいお店だね」


英治は感心しながら、店内を見渡した。

「狭い店ですけんど、好きなとこに座って下さい」

平祐は早速コーヒーを注文した。

「ぼくもお手伝いする」

「歩はお客さんだから、ママたちと一緒に座ってて」

「ほう、歩は実に優しい子だな」


目じりを下げながら歩を褒めた平祐のことを、英治が眉をひそめながら釘を刺した。

「またご褒美のお菓子はいりませんからね」

「何も言ってないだろう」

「父さんは、歩を甘やかしすぎなんですよ」


と言いながらも、村岡家の大人たちは皆、愛らしい歩にメロメロなのだ。

* * * * * * * * * *

「ごきげんよう、皆様」

そこへ、蓮子たち親子もやってきた。

< あの純平君もこんなに大きくなりました。

そして、宮本家にはふたりめも生まれました >

龍一は腕に中の娘を紹介した。

「富士子です。

蓮子が花子さんのお母さんみたいに優しい女性になって欲しいっていうんで … 」


いきなり大勢の大人に囲まれて驚いたのか、富士子は元気な声で泣きだした。

* * * * * * * * * *

「かよちゃん、今日はお招きありがとう。

屋台もよかったけれど、このお店も素敵ね … 自分の力でお店を開くなんてすごいわ」


かよの指導を受け続けたおかげで蓮子も何とかいっぱしに家事をこなせるようになっていた。

「ごきげんよう」

最後に顔を出したのは、亜矢子だった。

< 開店祝いに皆が顔を揃えました >

* * * * * * * * * *

テーブルの上には、かよが作った心づくしの料理が並んだ。

「かよ、皆に挨拶しろし」

花子に促されて、一瞬戸惑ったかよだったが、恥ずかしそうに一同の前に立った。

「皆さん、今日はお集まりいただき、本当にありがとうございます。

お客さんがお腹一杯になって、元気になれるような店を目指して、こぴっと頑張りますので … どうぞご贔屓に」

「さあ、乾杯しましょう」


蓮子の言葉で、一同はグラスを手に立ち上がった。

そして、かよの店が出来るのを誰よりも楽しみにしていたという平祐の音頭で乾杯した。

「かよさん、開店おめでとう … 乾杯!」

* * * * * * * * * *

皆が席に着こうとした時、亜矢子が自分からも報告があると皆の前に歩み出た。

「蓮子様の事件を取材していた記事を昨年より文芸東洋で連載してまいりましたが …

この度、一冊の本として出版の運びとなりました」


亜矢子は刷上ったばかりの本を皆に配った。

「醍醐さん、すごいじゃない!」

「ありがとう」

「醍醐さんの連載、よくそこまでと思うほど深く踏み込んだ内容になっていていい記事だった」


辛口の平祐が称賛するほど、亜矢子の連載は評判がよかったのだ。

「ありがとうございます。

それもこれも、蓮子様と宮本さんが愛のために大胆な事件を起こしてくださったおかげです。

おふたりの勇気に感謝いたします」


亜矢子に頭を下げられても、龍一は複雑な思いなのか苦笑いしている。

「散々批判はされたけれど、感謝されたのははじめてね」

亜矢子の取材を延々と受けていた蓮子の方が腰が据わっているようだ。

* * * * * * * * * *

「醍醐さんが私のことを書いてくださったおかげで、私も小説のお仕事をいただいたのよ」

「あの小説、本当におもしろかったわ」


花子は蓮子の小説を絶賛した。

「蓮子様には、短歌だけはでなく、小説の才能もあったんですね」

「趣味ではなく、仕事として書くことが、これほど張り合いがあることとは思わなかったわ」


すると、花子がもう一度乾杯しようと提案をした。

「醍醐さんと蓮様のご活躍に乾杯!」

* * * * * * * * * *

「やあやあ、ご婦人方は大活躍だな ~

ふたりとも頑張りなさい!」


平祐から発破をかけられた英治と龍一は困ったように顔を見合わせてしまった。

輝いている女性たちを前にして、どうにもこうにも頼りなく見えるふたりだった。

* * * * * * * * * *

「ひとつ大きな目標を達成したことだし、これからは仕事以外に … 結婚相手を見つけることも頑張るわ!」

久しぶりに亜矢子の口から『結婚』という言葉を聞いた気がする。

「あなたは秀和の生徒の時からそればかりおっしゃっていたのに」

蓮子が笑った。

気づけば、同級生の中で嫁いでいないのは亜矢子ぐらいのもので … すっかり押しも押されぬ職業婦人のお手本だった。

* * * * * * * * * *

「ああ、楽しい ~

久しぶりに、三杯目飲んじゃおうかしら?」

「お姉やん!」「はなちゃん!」「花子さん!」


花子のひと言を聞いて、かよ、蓮子、英治までが血相変えて止めに入った。

「 … 冗談よ、冗談」

花子はしっかりと手にしていたブドウ酒のビンを名残惜しそうにテーブルに置いた。

「ねえ、歩ちゃん?」

歩を振り向いた花子は仰天して、ほろ酔い加減が一気に醒めてしまった。

大人しく遊んでいるはずの歩と純平が店の壁に落書きをしていたのだ。

「歩、何やってるの、駄目じゃない … 壁に書いたりしたら!」

* * * * * * * * * *

「歩、かよおばちゃんにちゃんとごめんなさいして」

しかし、歩は涙を溜めて首を横に振るだけだった。

「歩!」

「お姉やん、ほんなに怒らんでもいいじゃん」

「かよ … 本当にごめん」


花子は決して謝ろうとしない歩の代わりにかよに頭を下げた。

* * * * * * * * * *

「歩、とうとうかよおばちゃんにごめんなさい言わなかったわね」

店では、かよが執り成したのでそのままにしてしまったが、家に帰ると花子は歩のことを叱った。

「大きい絵、描きたかったんだもん」

そう言って、歩は花子の前から逃げ出した。

「あっ!」

慌てて追いかけようとした時、英治が歩を抱きあげてしまった。

「僕からよく言っておくから、花子さんは仕事しなよ」

ニコニコしている英治は、到底あてにはならなかった。

歩ときたらそれが分かっているのか、英治の腕の中で、してやったりという顔をしている。

「ほら、行くぞ」

ふたりは書斎を出て行ってしまった。

「もう、英治さんは甘いんだから!」

花子は憤慨しながら仕事机に着いた。

< かなり、怒っております >

* * * * * * * * * *

こちら宮本家では …

「楽しかったわね ~ 」

久しぶりに羽を伸ばすことができた蓮子はご機嫌だった。

「楽しすぎて、ついつい時間を忘れちゃったわ」

居間の前を通りかかった蓮子は思わず立ち止まった。

不機嫌な顔をした浪子が座っていたからだ。

「遅い … 私の夕飯も忘れちゃったの?」

「母さん、腹が減ったなら自分で作ればいいだろ」


龍一が諌めたが、浪子は跳ね返した。

「家事は嫁の仕事!」

「申し訳ありません、お義母様」


蓮子は着替えもせずに慌てて台所に立った。

迂闊にも蓮子は浪子の存在を忘れてしまっていたのだ。

< こちらも … かなり、怒っております  >

* * * * * * * * * *

夜になり、花子の翻訳をするペンが乗ってきた頃、居間の方から歩の歌声が聞こえてきた。

♪ こっちがパパのダ~リング ~ パパ、ママのダ~リング

花子が部屋を覗くと、英治の手拍子に合わせて、歩が歌いながら踊っていた。

♪ パパ、ママのダ~リング

それは、花子が初めて耳にした歌だった。

「どうしたの、その歌?」

「歩が作ったんだよ」


歩は花子の方を振り返った。

「かわい子ちゃんの歌だよ」

「て ~ 」


花子は感動してしまった。

わずか五歳の我が子が歌など作れるとは思ってもみなかったからだ。

「ねえ、お母ちゃま、お話して ~ 」

歩にねだられ、花子は快く引き受けていた。

「今日はどんなお話がいい?」

「『王子と乞食』がいい」


* * * * * * * * * *

親子三人、川の字に敷かれた布団に横たわり、花子は歩に物語を聞かせた。

「 … トムは王子に言いました。

私は、たった一度でいいから、王子様が着ていらっしゃるような着物を身につけたいと思います」


真ん中に寝ている歩はふたりの手を握って、花子が語る物語に聞き入っていた。

< 花子にとって、毎晩こうやって歩にお話を聞かせるのが、最高に幸せな時間でした >

「王子とトムはそっくりだもんね」

「そうね ~ 」


* * * * * * * * * *

次の日の昼のことだ。

書斎で翻訳作業に熱中していた花子は、ふと傍らで遊んでいたはずの歩が居ないことに気づいた。

「歩ちゃん?」

呼んでも返事がない。

歩が居た場所に、お気に入りの木の船が放り出してあった。

「歩ちゃん」

窓から庭を見たが、歩の姿はなかった。

花子は慌てて部屋を出た。

すると、縁側にうつ伏せになった歩がいた。

一瞬、倒れているように見えたが、それは見間違いだとすぐ分かった。

「何やってるの?!」

歩は縁側にクレヨンで懸命に落書きをしている真っ最中だったのだ。

花子は歩を抱き起こした。

「お母ちゃま見て、これ王子とトムだよ」

歩は少しも悪びれることなく、花子に得意顔で教えた。

確かに五歳の子が描いた絵にしては出来がよかったが、それどころではなかった。

「もう ~ お父ちゃまに叱られる前にこぴっと御片付けしましょう」

花子が散らばっているクレヨンを拾いはじめると、歩は半べそをかきながら反抗した。

「やだ ~ 」

そして、裸足のまま庭に降りてしまった。

「歩!」

歩は水瓶の後ろに隠れて顔を覗かせている。

「言うこと聞かないのなら、お母ちゃまにも考えがあります!」

「 … お母ちゃま、こわい」


* * * * * * * * * *

夕方になり、仕事から戻って来た英治は唖然とした。

「ちょっと、花子さんまで一緒になって何やってるんだよ?!」

考えがあるどころか、花子まで歩と仲良く縁側に落書きをしていたのだ。

「ごめんなさい … つい楽しくなっちゃって」

落書きは縁側一面に広がりつつあった。

「お父ちゃまも一緒にお絵描きしようよ」

歩は英治のことも仲間に引き入れるつもりだ。

「え ~ お父ちゃまはいいよ」

「ねえ、英治さん見て。

これ、歩が描いたの … 王子とトム、そっくりでしょ?」

「え ~ ?!」


その絵を見た英治は思わず唸った。

歩が絵を描くのが好きなのは明らかに英治譲りだろう。

「ねえ、早くやろうよ ~ 皆、揃ってるよ」

「ねっ、英治さんも」


ふたりがかりの誘惑に英治は負けた。

「しょうがないな …

じゃあ、お父ちゃまは雲を描こうかな」


< いつしか歩より夢中になる、花子と英治でした。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月08日 (金) | 編集 |
第113回

伝助の口添えで銀行から受けた融資によって、村岡家の庭の一角に出版社兼印刷会社の工房が完成した。

工房といってもささやかなものだが、ここから村岡印刷あらため『青凛社』の新たな一歩がはじまるのだ。

「英治さん、もうちょっと下げて … 右が上がり過ぎてる」

「これぐらい?」


入口に掲げる看板の位置が、なかなか定まらないのを見て、平祐が苛立ち気味に横から口を出した。

「看板ひとつ取り付けるのにいつまでかかってるんだ?」

「なんたって、社の顔ですから!」

「お義父様に相談役になっていただく会社ですから」


花子の言葉で、平祐も目の色を変えて、英治に指示しはじめた。

< たくさんの友人たちの力を借りて青凛社が誕生しました >

ようやく取り付けが完了した看板を見て、花子は満足そうにうなずいた。

「うん、完璧よ!」

一同は万感の思いで真新しい看板を見上げたのだった。

* * * * * * * * * *

その時、会社のために引いた電話のベルがけたたましく鳴り響いた。

「きっと予約の電話よ」

すでに今朝の朝刊に『王子と乞食』の予約受付中の広告を載せていたのだ。

「花子さん、早く出ないと!」

花子は呼吸を落ち着かせて受話器を取った。

「はい、青凛社でございます」

交換手が甲府からの電話だと告げて、電話をつないだ。

「もしもし、はなたれけ?」

緊張感に水を差すような電話の声は武だった。

「はな、会社設立おめでとう!」

いきなり電話の相手が朝市に代わった。

「朝市 … ありがとう」

「ほれにしても、はなたれのくせに新聞に広告出すなんて、生意気じゃんけ」

「武 … 」


コロコロと相手が代わる … たぶん、ふたりで受話器を奪い合っているのだろう。

「はな、『王子と乞食』生徒にも読ましてえから、一冊予約頼むじゃん」

「て … 朝市、ありがとう」

「おうおう、朝市、もう電話代もったいねえからな」


まだ話があるという朝市から受話器を取り上げて、武が電話を切ってしまった。

「切れちまった …

でも、朝市が一冊予約してくれた!」

「そうか、朝市さんが … 」


< とういう訳で、『王子と乞食』の予約第一号は朝市でした >

すると、また電話が鳴った。

「はい、青凛社でございます!」

* * * * * * * * * *

青凛社があつらえた印刷機はほとんど手動式の小型のものだった。

まずは平祐が昔取った杵柄で、機械を操作して、英治に手本を見せた。

一枚、一枚と刷上げていく地道な作業だ。

平祐から引き継いだ英治は刷上った原稿を見ながらインクの量などを調整して試行錯誤を重ねていった。

* * * * * * * * * *

そして、数週間後 …

< 『王子と乞食』の単行本がついに完成しました >

英治の装丁、村岡花子訳と書かれた表紙を花子は愛おしく撫でた。

英治が最後の頁をめくると、発行者村岡英治と青凛社の文字が見えた。

ふたりは微笑みあった。

思い描いていた通りの本に仕上がった。

英治は、最初の一冊を郁弥の遺影の前に供えた。

「郁弥、これからも美しい本を、たくさん作るからな」

感慨深く見つめる平祐の目に光るものがあった。

* * * * * * * * * *

「出来ただね … 」

かよは自分の部屋の文机の上に『王子と乞食』の単行本が置かれていることに気づいた。

そっと表紙をめくると、そこには …

『郁弥の思ひに捧ぐ』と書かれていた。

かよはその文字をそっと指でなぞった。

* * * * * * * * * *

数日後、懐かしい人が花子を訪ねてやって来た。

その日、花子は締め切りが迫った翻訳に追込みをかけていた。

もうすぐ梶原が原稿を受け取りにやって来る時間だ。

「お客さんだよ」

歩を抱いた平祐がそう告げた。

「ああ、もう梶原さんいらしたんですか」

約束の時間より少し早い、花子は焦った。

「すいません、ちょっと待っててもらってください」

「いや、違うよ … 」


* * * * * * * * * *

来客は、ブラックバーン校長と富山タキのふたりだった。

「大変お久しぶりですね。

あなたが卒業して以来かしら?」

「ええ、本当にご無沙汰しております」


花子の目には、富山はあの頃と少しも変わっていないように映って見えた。

「(ブラックバーン校長もお元気そうで … )」

「Thank you.

(秀和女学校でも犠牲者が出て、タキもふさぎこんでいましたが … 今は元気になりました)」


富山が携えていたのは、『王子と乞食』の単行本だった。

「この本のおかげで生徒も私もずいぶん明るくなりました。

… 震災後の唯一の明るい出来事でした」

「富山先生 … 」

「今のは褒めました」


花子は本望だった。

恩師の言葉に目頭を熱くしながらうなずいた。

「Hana.

(人生は進歩です。

最上のものは過去ではなく、将来にあるのです)」

「(その言葉は私のここにあります)」


ブラックバーンの言葉に花子は胸に手を当てた。

「 … (私は生涯、あなたの生徒です)」

* * * * * * * * * *

「花子さん、今度こそ梶原さんだよ」

平祐に案内されて梶原が居間に顔を出した。

「原稿、上がったそうだね」

梶原は富山に気づき、富山は思わず目を伏せた。

「 … ご無沙汰しています」

「こちらこそ … 」


ふたりはお互いにぎこちなく挨拶を交わした。

「今、梶原さんに翻訳のお仕事をいただいているんです」

花子が今日が締め切りだということを伝えると、富山はブラックバーンを促して、帰り支度をはじめてしまった。

「えっ、今いらしたばかりなのに?!」

「では、私たちはこれで … (参りましょう)」


* * * * * * * * * *

慌ただしく村岡家を後にした富山とブラックバーン。

「富山先生!」

後を追いかけて飛び出してきた梶原が富山を呼び止めた。

立ち止まり、ゆっくりと振り返った富山。

「え~と、その … 」 

呼び止めたまではよかったが、言葉に詰まる梶原。

「『ニジイロ』 … 毎号、拝読しておりました」

口を開いたのは富山の方だった。

「そうですか … 」

「新しい号は、もう出さないのですか?」


梶原は心苦しそうに答えた。

「会社が焼けてしまって … 

僕は今、向学館に戻っているんです」


そう言いながら、富山に近づいていった。

「そうでしたか … 」

ふたりの間に沈黙の時間が流れた。

* * * * * * * * * *

「実は震災の時、何故か一番最初に浮かんだのは … どういう訳か … 梶原さんの顔でした」

富山は目に涙を溜め、声が震えていた。

「ご無事でよろしゅうございました」

そして、深々とお辞儀した。

「タキさん … 実は僕も、真っ先にあなたのことを考えました。

あなたもご無事でよかった」


顔を上げた富山は涙をぬぐい、軽く会釈すると、路地の先で待っているブラックバーンの方へ歩き出した。

「あの … 」

梶原は今一度、富山を呼び止めた。

「また、会っていただけますか?」

富山は微笑みうなずくとブラックバーンの後を追っていった。

「ご連絡します」

梶原は喜びをかみしめ、村岡家へ戻っていった。

* * * * * * * * * *

誰もが震災という困難を乗り越えて、少しずつ前へと進み始めていた。

しかし、かよは時間があれば、郁弥の遺影の前に座って、あの日から止まったままで動かない腕時計を眺める日々を送っていた。

郁弥への思慕と、素直になれなかった後悔の念に苛まれて、かよの心は郁弥の時計と同じだった。

そんなある日のことだ。

かよは、雨上がりの陽の光に誘われて庭に出た。

以前に見つけた勿忘草が更に辺り一面を埋め尽くすように花をつけて咲いていた。

思わず目を奪われていると、花子も庭に下りてきて、隣りに並んだ。

「 … 時間は止まっちゃいんだね」

かよはひとり言のようにつぶやいた。

* * * * * * * * * *

「よく似合います … 」

「あの、結婚したら、子供何人ぐらい欲しいですか?

… 僕はいっぱい欲しいですよ」

「かよさん、あなたは僕の女神です … 僕と結婚してください」

* * * * * * * * * *

郁弥との思い出が、笑顔が、声が、かよの脳裏に浮かんでは消えた。

「郁弥さん … ありがとう」

かよの頬をいく筋もの涙が流れた。

* * * * * * * * * *

そんなふたりの様子を縁側から見ている平祐と英治がいた。

「郁弥が好きだった花だ … あんなにたくさん咲くとはな」

「父さんが種をまいたんですか?」


英治に訊ねられて、平祐は無言で微笑んだ。

* * * * * * * * * *

花子は勿忘草の花を一輪手折って、かよの髪に挿して飾った。

「かよ、よく似合う」

かよがふっと肩の力が抜けたように笑った。

「お姉やん … ありがとう」

< 止まっていたかよの時間がまた動き出しました。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月07日 (木) | 編集 |
第112回

村岡家を出て、番頭を従え歩き出した伝助が突然、足を止めた。

前方からこちらに向かって歩いてくるのは … 蓮子だ。

蓮子も伝助に気づいた。

あれほど世間を騒がせて離婚したふたりが、バッタリ出くわしてしまったのだ。

< ふたりが顔を合わせるのは、何と蓮子の駆け落ち事件以来でした >

蓮子は視線をそらしてうつむいた。

「筑前銀行の頭取さんは明日ん約束やったかな?」

表情も変えずに伝助は後ろに従っている番頭に訊ねた。

「明日の午後二時からの約束になっちょります」

再び歩き出した伝助が、そのまま無視して蓮子の横を通り過ぎようとした時だった。

「あの … 」

蓮子の方から声をかけてきた。

「ちょっと、一杯やりませんか?」

思いもかけない蓮子からの誘いの言葉に、さすがの伝助も仰天した。

「はあ?!」

* * * * * * * * * *

蓮子が伝助を案内したのは、かよの屋台だった。

連れ立って訪れたにもかかわらず、ふたりは柱を挟んで腰かけた。

かよの方を見据えていて、お互いに視線を合わせようともしない。

< かよは緊張で引きつっていました。

あれほど世間を騒がせて離婚したふたりが何故屋台なんかに来たのでしょう? >

酒を注ぐ手も震えているのが分かった。

「 … そう言えば、はなちゃんとかよちゃんは、この人のことを褒めていたわね。

怖そうに見えるけれど、きっと苦労人で優しい人だって」

「はい」


かよは、伝助の顔をちらりと見た。

「それなのに、あの頃の私は、この人のいいところなんてひとつも見ようとしてはいなかった。

自分で心を閉ざしてしまって … 」


* * * * * * * * * *

すると、伝助もまるでかよに話しかけるように口を開いた。

「まあ、仕方なかったろう …

今思えば、こん人は気の毒な花嫁じゃった」


蓮子は伝助の顔を見た。

「俺は金ん力で買えんもんは何ひとつないち思ちょった。

ばってん、この年になってやっと分かった … この世には金の力ではどうにもならんもんがひとつだけある」


失ってはじめて、己がどれほど蓮子のことを愛していたかを思い知った伝助だった。

伝助はコップの酒を一気に呷った。

「 … 俺の負けたい」

潔く認め、かよに勘定するように言った。

「いいえ、ここは私が … 」

「何を言いよる、天下の石炭王が女に金など払わせられるか!」


しかし、蓮子は聞かなかった。

「怒るばい!」

蓮子はしっかりと伝助を見つめて懇願した。

「自分で稼いだお金でごちそうさせてください!

そのためにお誘いしたんです」


* * * * * * * * * *

「 … 分かった。

そんなら、一遍だけごちそうになるばい」


伝助が納得してくれたことが分かって、蓮子はホッと安堵の表情になった。

「かよちゃん … お替りをふたつ」

なみなみと注がれたコップを掲げてふたりは乾杯した。

言葉には出さない和解だった。

* * * * * * * * * *

「蓮子 … しゃん」

「はい」

「今、幸せか?」


蓮子は伝助がこんなにも優しい顔をしていたのだとはじめて気づいた。

目に涙を溜めながら微笑んだ。

「はい」

その答えを聞いた伝助は一瞬目を閉じて、満足そうに … それでいて寂しげに二度うなずいた。

「 … そうか」

そして、コップに残っていた酒を飲み干した。

「ごちそうになった」

伝助が席を立つと、蓮子も後を追うように立ち上がり、ふたりは向かい合った。

* * * * * * * * * *

「じゃあ、元気でな」

「あなたもお元気で … 」


蓮子は穏やかに微笑んだ。

「 … ごきげんよう … さようなら」

蓮子の肩に手を伸ばした伝助は、ゆっくりと顔を近づけてその唇で額に軽く触れた。

あっという間に体を離すと、すべてを吹っ切るように豪快に叫んだ。

「さあ、今夜は神楽坂中の芸者呼んで、どんちゃん騒ぎたい!」

振り向かずに早足で立ち去っていった。

蓮子は晴々とした顔で黄昏の空を見上げた。

結果はどうあれ、伝助に嫁いだことを少しも後悔していない自分に気づく蓮子だった。

そのお蔭で今の自分がある … そうとさえ思えた。

* * * * * * * * * *

「そう、よかったわね … 」

村岡家に足を運んだ蓮子が、花子にたった今、伝助と和解できた報告をしていると … 英治が龍一を担ぐようにして帰って来た。

足腰が立たないほど泥酔している龍一は玄関から板の間に倒れ込んだ。

「おかえりなさい … どうしたの?」

「工事現場の帰り、龍一君に飲みに誘われて … 」


すると、龍一が突然息巻いた。

「女ってのはね、魔物ですよ!

僕は蓮子のことが分からなくなりました!」

「さっきからずっとこんな調子で … 」


英治はいいかげん困り果てていた。

* * * * * * * * * *

「龍一さん」

花子は龍一に水が入ったコップを渡した。

この時、英治は居間に蓮子がいることに気がついた。

「龍一君!」

しかし、それが分からない龍一は声を荒げた。

「石炭王とね、仲良く乾杯してたんですよ ~ 」

どうやら、蓮子を捜しに出て、偶然ふたりのやり取りを見てしまったのだろう。

「 … 蓮子が今の暮らしにガッカリしてるのは、分かってましたよ。

新米弁護士の稼ぎじゃ、贅沢させられないし、口うるさいお袋はいるしさ ~ 」


よろよろと立ち上がったと思ったら、また引っくり返ってしまった。

* * * * * * * * * *

「龍一さん … 」

名前を呼ばれ、龍一はやっと蓮子がここにいることに気がついた。

「蓮子 … 」

蓮子は悲しげな顔で龍一を見ていた。

「何で石炭王と屋台なんか行くんだよ!

じゃあ、俺との逃避行は何だったんだよ?!」


英治はいきりたつ龍一を止めながらも彼を擁護する発言をした。

「でも、龍一君がヤケ酒飲みたくなる気持ちも分かりますよ … 」

* * * * * * * * * *

「もう、英治さんまで」

横で聞いていた花子が呆れたように笑った。

「花子さん」

英治は龍一に気を遣って諌めたが、花子は話すのを止めなかった。

「蓮様は、別れたご主人に、きちんと『さよなら』を言ってきたんです。

こぴっとけじめをつけて、今日から育児も家事も頑張るそうです」

「龍一さん … 私、今の暮らしにガッカリなんてしていなくってよ。

お義母様には叱られてばかりいるけれど、嫌われないように頑張るわ」


蓮子のその言葉にすべて自分の誤解だったと龍一は悟った。

「帰る家があるって、うれしいことね」

* * * * * * * * * *

「醍醐さんが声をかけてくれて、秀和の同級生たちが、こんなにお金を送って下さったの」

何通も届けられた現金書留の封筒を前に花子と英治は胸がいっぱいだった。

「亜矢子さん、ほんとうにありがとうございます」

ふたりは亜矢子に頭を下げた。

「『王子と乞食』の単行本化を待ち望んでいるお母様たちが、こんなにも大勢いらっしゃるということですわ」

「皆さんのお気持ちに必ず応えましょう」

「 … そうだね」


花子の言葉をしっかりと受け止めた英治だった。

「何年かかっても必ずやりとげよう」

そんな決心を廊下で聞いていたかよ … その表情はいまだ戸惑っていた。

* * * * * * * * * *

「英治さん、今日からこれで我慢してください」

次の日から、愛妻弁当が、おかずが漬物だけの日の丸弁当に変わった。

「節約は大切だよ … 今僕たちに出来ることは、ひとつずつやっていこう」

皆の善意と期待に報いるために、まずは自分たちの生活を切り詰めることからはじめたのだ。

英治は前にも増して、懸命に工事現場で汗を流した。

花子は贅沢品の着物を古道具屋を呼びつけ、買い取ってもらった。

そして、ひとつでも多く仕事をこなそうと寸暇を惜しんで翻訳に精を出した。

< どうしても会社を再建し、郁弥の夢を叶えたい … その強い思いが、ふたりを突き動かしていました >

* * * * * * * * * *

本の装丁も英治の手で順調に進められていた。

< こうして、ふたりで頑張っていたある日のこと >

伝助の伝言を携えて、嘉納鉱業の番頭が村岡家を訪れた。

「筑前銀行東京支店の内藤支店長が融資の話を聞いちゃんなさるそうですばい」

番頭は紹介状と支店長の名刺を渡しながらそう言った。

* * * * * * * * * *

英治と花子は早速、出版社兼印刷会社設立のための事業計画を作成し、筑前銀行に赴いた。

伝助から話が通っていたのだろう、計画書を見るまでもなく、あっさりと融資の契約が交わされたのだ。

* * * * * * * * * *

「父さん、印刷機が買えます!」

銀行から戻った英治が興奮しながら玄関を上がってきた。

「『王子と乞食』を出版できるんです!」

「 … まさか?!」


歩の相手をしていた平祐は信じられないといった顔で英治を見上げた。

「本当です。

銀行が融資してくれたんです」


英治は契約書を平祐に見せた。

「郁弥さんと私たちの夢が叶うんです」

花子の声もうわずっている。

「どこの銀行だ?!」

「筑前銀行です。

九州の嘉納伝助さんが口を利いてくださって」


沈みがちだった平祐までいつになく興奮気味だ。

* * * * * * * * * *

隣りの部屋にいたかよは居たたまれず廊下へ飛び出した。

その時、ふと庭にひっそりと咲いている可愛らしい花に目が留まった。

見覚えがある花 … それは勿忘草の花だった。

かよは庭に下りて、花の前にしゃがみ込んだ。

* * * * * * * * * *

「この花、かよさんみたいでしょ?」

そう言って郁弥は一輪の勿忘草を差し出した。

「私、チップの方がうれしいんですけど … 」

そんな受け答えをしたかよの髪に優しく飾ってくれた。

「よく似合います … 」

* * * * * * * * * *

郁弥の笑顔が目に浮かんで切なかった。

そんなかよに声を掛けられず、花子が部屋の中から見つめていた。

< いつの間にかこんなところに、勿忘草が …

ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月06日 (水) | 編集 |
第111回

「 … もうひとつ、訊きたいことがある」

伝助は身を前に乗り出して、そう言った。

「な、何でしょう?」

身構える花子。

「あいつはどげんしよるとね?」

「え?」

「蓮子は無事に暮らしちょるか?」


伝助は、ようやく一番気にかけていたことを花子に訊ねた。

番頭たちに「蓮子のことは終いにする」と宣言した手前、表だって調べさせる訳にもいかなかったのだろう。

英文の翻訳など口実に過ぎなかったのかも知れない。

「あ、蓮様ですか …

はい、震災の後、龍一さんと坊やと一緒に暮らせるようになって … 蓮様も人並みにお姑さんのことで苦労なさってるみたいですよ」


伝助は、ふうっと息を吐いて安堵の表情になった。

* * * * * * * * * *

< その夜のことでした >

トランクを抱えた亜矢子が村岡家に転がり込んできた。

「今夜泊めてくださる? … 私、行くとこがないの」

「て?!」

「出版社を辞めて、蓮子様の駆け落ち事件を取材していることで、父と衝突してしまって … もう、あんな家には帰らないわ!」


* * * * * * * * * *

「ご迷惑なのは重々承知しておりますが、他に行くあてがないものですから」

主である英治は快く許可した。

「狭いけど我慢してね」

平祐にかよ、そして亜矢子と村岡家の居候が三名に増えた。

* * * * * * * * * *

< こうして、醍醐は村岡家に居候しながら、ますます取材に燃えておりました >

「私の記事を?」

「はい」


自分の記事を書くための取材を申し込んできた亜矢子に、蓮子は少々食傷気味に答えた。

「これまでにも散々あちこちで書かれているじゃないの … 醍醐さんも、どうぞお好きにお書きになったら?」

しかし、亜矢子は食い下がった。

「そこには、ひとつも本当のことは書かれていません。

調べれば調べるほど、あの事件はただの恋愛沙汰ではないと思いました」


今まで書かれてきた記事のほとんどは、筑豊の石炭王を捨てて若い恋人と駆け落ちした華族のお姫様という決まりきった切り口で面白おかしくでっち上げたゴシップ記事でしかなかった。

亜矢子が書きたいのはまったく別なものだ。

「蓮子様は、家や身分に操られる人生を捨てて、自分の人生を生きようとしたのではありませんか?

私は、貴方の声を聞き、真実を書きたいんです」


亜矢子の熱意は蓮子の心を動かした。

取材することを許された亜矢子は、それから、蓮子の元を頻繁に訪れることになる。

* * * * * * * * * *

「蓮子さん、大変 ~ 雨よ、雨!」

取材を受けている部屋に浪子が駆け込んできた。

ふたりとも話に夢中になっていて、外の天気のことなどまったく気にしていなかったのだ。

「まあ、ホントだわ!」

「ほら急いで、洗濯ものが濡れてるじゃないの!」


浪子は自分では決して手を出そうとはしない。

「大変ですわ … 」

蓮子なりに慌てているのだが、浪子の目にはゆっくりとしか見えなかった。

「急いで ~ 遅い、遅い!

どうして雨が降る前に洗濯ものを取り込まなかったのよ?!」

「申し訳ございません、お義母様」


優雅に頭を下げている場合ではなかった。

「あなた、見てないで手伝って!」

浪子は亜矢子にまで指図した。

どしゃ降りの中、庭に飛び出して洗濯物を取り込むふたり。

ただ、どちらもお嬢様育ち故に、手際の悪いことときたら …

* * * * * * * * * *

村岡家では、雨上がりの庭で英治が歩を相手にシャボン玉で遊んでいた。

家の中から出てきた花子が縁側にいる英治の横に座った。

「英治さん」

英治が振り向くと、『王子と乞食』の装丁案が置かれていた。

「やっぱり、『王子と乞食』の本、作りましょう」

「でも … かよさんは賛成してないんじゃ?」


花子は英治に、先日の伝助の言葉を伝えた。

「 … こんな時だからこそ、本を待ってる人がいるんじゃないかって」

「あの人が?」


花子はうなずいた。

「そう言ってもらって、私も強く思ったの。

この本が出来ることで、少しでも元気を取り戻してもらえる人が増えたらいいって … どうかしら?」


英治は少し考えて、そして微笑んだ。

「うん、そういう本を作ろう。

これは、僕たちがやらなきゃいけない仕事だ」


微笑みを返す花子。

そんなふたりのやり取りを庭の隅で見ている平祐が居た。

* * * * * * * * * *

「素敵だわ ~ 郁弥さんの夢を実現なさるのね?」

夕食の後片付けを手伝いながら、亜矢子は花子の話に賛同した。

「是非、私もお手伝いさせて」

「でも、まだ資金のこともあるし … 実現できるかは目途は全然立ってないの」

「そうなの?」


考え込む亜矢子。

「 … 醍醐さん?」

何か妙案がひらめいたようだ。

「はなさん、クッキーをたくさん焼きましょう」

そう言ってニッコリと笑ってみせた。

* * * * * * * * * *

< さて、醍醐さんがひらめいたアイディアというのは? >

数日後、それは実行された。

まず亜矢子は座卓に真っ白なテーブルクロスを敷いた。

「焼けたわよ」

花子は亜矢子に言われた通り、鉄鍋でクッキーを焼き上げた。

「すごいわ、はなさん!」

それをふたりで大きな皿に並べた。

しばらくすると、村岡家に数名の訪問者がやって来た。

「お待ちしてましたわ」

玄関の扉を開けて真っ先に顔をみせたのは … 秀和女学校時代の同級生で、ふたりにとってはルームメイトでもあった畠山鶴子だった。

「ごきげんよう」

その後から次々に懐かしい顔が入ってきた。

< まあまあ ~ 秀和女学校の同級生の皆々様でございますね >

「皆さん、ごきげんよう ~ お元気そうで」

「はなさん、醍醐さん、お懐かしいわ」

「今日はお招きいただき、光栄ですわ」


* * * * * * * * * *

「皆さん、お茶をどうぞ ~ 紅茶がとても高いので、女学校の時代のようにはできないけれど」

居間に通された皆にお茶が配られ、座卓の中央にクッキーの皿が置かれた。

「さあ、皆さん、クッキーもどうぞ」

一同から歓声が上がった。

「スコット先生、直伝のクッキー?」

「ええ … でも、震災の後でオーブンが調達できなくて」

「かまどで焼いた特製クッキーよ」


少し焦げたものがあるのはご愛嬌だ。

* * * * * * * * * *

「皆さん、ご無事で本当によかったわ」

ひとしきり昔話に花を咲かせた後、花子が改めて、こうして同級生たちと無事に再会できたことに感謝した。

「私、教会の奉仕活動で震災以来、避難所を訪ねているんですけれど … 皆さん、家族やお家、お仕事を失って、本当に絶望なさっていて … 」

鶴子はそこまで話して言葉をなくした。

「震災さえなければ … 」

誰かがつぶやいた。

「でも、秀和の建物が無事に残って、本当に幸いでしたわ」

亜矢子が言ったように、皆絶望の中に何かしら希望の光を見出したいのだ。

「やっぱり女学校の頃が一番楽しかったわね …」

沈みがちな雰囲気に花子も思わずそんな言葉を漏らしてしまった。

* * * * * * * * * *

「はなさん、そんなこと言ったら、ブラックバーン校長に叱られますよ」

鶴子の言葉にハッとする花子。

「ああ」

卒業式でのブラックバーン校長の言葉を思い出した。

「The best things are never in the past.

but in the future.」

「最上のものは過去にあるのではなく、将来にあります。

旅路の最後まで、希望と理想を持ち続け進んで行くものでありますように」


校長の言葉を訳して皆に伝えたのは他ならぬ花子だった。

誰もがしっかりと記憶にとどめていたのだ。

* * * * * * * * * *

「皆さん、お手紙にも書いた通り、今日はご協力お願いしたいんです」

「え?」


亜矢子の言葉に花子は首を傾げた。

「はなさん、ご主人と『王子と乞食』を出版なさろうとしているんですってね。

うちの子供たちも、あの物語ずっと読んでいたのよ」


鶴子が言った。

「出版社を兼ねた印刷会社を作ろうとしていると伺いました。

はなさん、是非協力させてください」


澄子が花子の前に封筒を差し出した。

「私も協力いたしますわ」

鶴子も封筒を置いた。

「もちろん、私も協力させていただくわ」

亜矢子をはじめ、今日集まった全員が協力を厭わずに寄付金が入った封筒を差し出したのだ。

* * * * * * * * * *

「皆さん … 」

花子は同級生たちの好意に言葉を詰まらせた。

「お金はいただけません」

しかし、感謝しながらも、受け取ることを辞退してしまった。

「どうして?」

亜矢子は表情を曇らせた。

「皆さんのお気持ちはホントに … ホントにうれしいです。

でも、甘える訳には … 」


すると、鶴子がある提案を口にした。

「それじゃあ、このお金は未来の本への投資というのはどうかしら?」

「投資?」

「会社が上手くいったら、どんどん本を出すでしょ。

そしたら、私たちに割引価格で優先的に売ってくださらない?」

「いい考えね」


一同が鶴子の提案に賛成した。

「こういう時こそ、人々の心を楽しく元気づけるものが必要だと思うの」

奇しくも、鶴子の口から出たのは、伝助と同じ言葉だった。

うなずく亜矢子たち。

「皆さん … 」

* * * * * * * * * *

「 … 未来の本への投資?」

仕事から戻った英治は、皆から集まった寄付金が入った封筒を亜矢子から手渡された。

「皆、早く本を作ってくれって言ってくださって」

英治にそう説明した後、花子は亜矢子に改めて礼を言った。

花子が困難に見舞われた時、必ずと言っていいほど手を差し伸べてくれるのが亜矢子だった。

「醍醐さん、ありがとう」

英治も同じように頭を下げた。

「お茶会を開いて、私も助かったわ。

畠山さんのお宅、離れが開いてるから貸してくださるって … 明日からお世話になることにしたわ」


その時、花子は居間に入らず、廊下で暗い表情で立っているかよに気づいた。

目が合うと、ふいっと二階へ上がって行ってしまった。

< かよの心の時計は、まだ止まったままなのでしょうか … >

* * * * * * * * * *

< 数日後、再び嘉納伝助がやってまいりました >

伝助は村岡家の玄関に山のような食料や日用品、雑貨を番頭に運び込ませた。

「こないだ、翻訳してもろうたお礼たい」

「 … こんなにたくさんいただけません」


花子は恐縮を通り越して困惑していた。

伝助にとって、愛情や感謝の大きさを表すのは金額や物なのだろう。

「よかよか ~ 余ったら、配給ち言うて、近所ん人に配っちゃんしゃい」

豪快さの中に優しさがあった。

「ありがとうございます … じゃあ、遠慮なく」

伝助は片手を上げ微笑むと、感謝する花子に見送られて帰って行った。

* * * * * * * * * *

村岡家を出て、番頭を従え歩き出した伝助が突然、足を止めた。

前方からこちらに向かって歩いてくるのは … 蓮子だ。

蓮子も伝助に気づいた。

< あれほど世間を騒がせて離婚したふたりが、バッタリ出くわしてしまいました。

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月05日 (火) | 編集 |
第110回

かよが働きはじめた屋台に蓮子がふらりとひとりでやって来た。

「ひょっとして家出でもしてきたですか ~ まさかですよね?」

冗談半分で訊ねたかよだったが、蓮子から返ってきた言葉は …

「その、まさかなの … 」

「てっ?!」

「私、今夜は帰りたくない … 」

ただ事ではなかった。

主婦になった蓮子に、一体何があったのだろう?

* * * * * * * * * *

「ねえ、かよちゃん … 私って、そんなにしゃべるの遅い?」

蓮子から訊かれて、かよはピンときた。

「ああ、お姑さんに言われたですか?」

「私って、そんなに遅いかしら?」


< 確かに早いとは言えませんね … >

「これでも精一杯急いでやっているのよ ~ お掃除も、お炊事も、お洗濯も」

口をとがらせた蓮子をかよは宥めた。

「大丈夫、家事は慣れです。

そのうち出来るようになりますよ」

「そう?」


不安げな顔で見つめた蓮子にかよは笑顔でうなずいた。

「ねえ、かよちゃん … 私の先生になってくださらない?」

「てっ、先生?」

「ねっ、私に家事を教えて!」


蓮子の目は真剣だった。

蓮子と家事の手ほどきをする約束を交わしたかよは、次の日、屋台に行く前に宮本家を訪れた。

* * * * * * * * * *

物干し竿に干した洗濯ものを、かよは掌で挟んでパンパンと叩いてみせた。

「こうすると、しわが伸びるですよ」

「そうなの?」


蓮子も見様見真似で同じようにしてみた。

「 … 面白い」

洗濯が終われば、次は炊事だ。

半月切りにした大根に危なっかしい手つきで包丁を入れていく蓮子。

「蓮子さん、左手は軽く丸めて抑えると、切りやすいですよ」

かよの言う通りすると、これまた面白いようにザクザク切れる。

「本当だわ!」

* * * * * * * * * *

かよの指導で、蓮子が味付けした味噌汁、それを味見したかよは大きくうなずいた。

「うん」

ホッとした蓮子の顔から安堵の笑みがこぼれた。

「よかった ~

かよちゃんのおかげで、今夜はお義母様のお小言聞かなくて済みそうだわ。

… ねえ、これからちょくちょく来て」

「はい、昼の仕事が休みの日なら」


蓮子にねだられて、かよは快く承諾した。

「あ、でも … 夜も屋台で働いてるのに、大変じゃない?」

「やるこんがある方がありがたいです。

何かして体を動かしていんと、つい考えちまって … 」

「 … 郁弥さんのこと?」


かよは蓮子の質問には答えずに慌ただしく料理する手を動かしていた。

* * * * * * * * * *

一方、村岡家では …

昼食にほとんど手をつけずにぼんやりと座っている平祐。

「お口に合いませんでした?」

花子が心配して訊ねても、答える気力もないのか …

「明日はお義父様の好きなライスカレーにしますね」

ご機嫌を取ってみたが、ニコリともせずに重たい口を開いた。

「 … 明日は必ず来るものじゃない」

平祐は郁弥の遺影を見つめながら話した。

「郁弥を失ってから、強くそう感じるようになった」

悲観的なことしか口にしなくなった今の平祐を郁弥が見たらどんな顔をするだろうか …

* * * * * * * * * *

ふたたび、宮本家。

指導役のかよがほとんどこしらえた煮物を入れた器を手に蓮子は言った。

「あんまり上手に出来過ぎると、誰かに作ってもらったって分かっちゃうかしら?」

ふたりが顔を見合わせて笑っていると、背後から厳しい声が聞こえた。

「もう分かっちゃいましたよ」

息を呑む蓮子 … 慌てて振り向くとそこに浪子が立っていた。

「おかえりなさい、お義母様。

随分お早やかったんですね … 」

「どなた?」


浪子はかよのことを不審な目で見ている。

「こちら、私の女学校時代の友人のはなさんの妹さん … 」

「手短に言ってちょうだい」


気の短い浪子には、蓮子の説明がまどろっこしかったようだ。

「かよと申します」

「お料理を習っておりましたの」


* * * * * * * * * *

それを聞いて、浪子は皮肉たっぷりに

「あなたにも学ぼうなんて気持ちがあるのね?

… てっきり料理なんて使用人がするもんだって、バカにしてるのかと思いましたよ」

「そんなことございません!

私だって … 」


ムキになって否定しようとした蓮子の言葉を浪子はさえぎった。

「言い訳は結構!」

そう言って、浪子は土間に下りてくると、菜箸で煮物を味見した。

「あら?!」

美味しかったのだろう … 浪子は頬をほころばせたと思ったら、おもむろにかよの方に振り向いた。

「かよさんとやら …

この人、大変だと思うけど、せめてこれくらいまともな料理が作れるようになるまで、せいぜい気長につき合ってやってちょうだい」


思いがけず、姑からお墨付きを得た蓮子は大喜び。

これでこそこそ隠れてかよを呼ぶ必要もなくなったのだ。

「かよちゃん、お義母様もそうおっしゃってるし、また来てね!」

かよは少し戸惑いながらも承知した。

* * * * * * * * * *

震災の時のことがきっかけになり、花子は近所の子供たちを集めては時々、物語を聞かせるようになっていた。

庭に並べた椅子に子供たちを座らせて、縁側で花子が語る今日の物語は『王子と乞食』だ。

「 … 王子はトムに言いました。

『お前は髪の毛といい、目つきといい、声から動作から、姿、形、顔つきまで私と瓜ふたつだ。

もしもふたりが裸で出て行ったら、誰ひとり見分けられる者はないだろう』 … 」

「王子とトム、そんなに似ているの?」


歩も子供たちに混ざって、花子の物語に耳を傾けていた。

「そう、そっくりなの」

家の中から出てきた英治が花子にノートを手渡した。

「花子さん、こういうのはどうかな?」

そこには、ラフな鉛筆画が描かれてあった。

「 … 単行本の装丁?」

「王子とトムだ」


その絵を見た歩の言葉を聞いて、子供たちが花子の周りに集まってきた。

花子がノートを皆に見えるように掲げると歓声が上がった。

中央に『王子と乞食』のタイトル、それを挟んで背中合わせに王子とトムが座っていた。

連載に色を添えていた、英治のあの優しい画風の絵だった。

「皆、『王子と乞食』の本が出来たら、読んでくれるかな?」

英治が尋ねると、子供たちは一斉にうなずいた。

「わあ、うれしい ~ 」

* * * * * * * * * *

花子は仕事から戻ったかよに、待ちきれなかったように英治の装丁案をみせた。

「こういう洒落た装丁なら、郁弥さんも喜んでくれるらね」

ところが、かよの表情は冴えなかった。

「 … ほんなこんしても、意味ないじゃん」

「かよ?」


喜んでくれるとばかり思っていた花子は唖然とした。

「おやすみなさい」

かよは逃げるように部屋へ引っ込んでしまった。

* * * * * * * * * *

昼間は家事や育児等に追われる花子が仕事に没頭できるのは、歩が眠りについてからの時間だった。

しかし今夜は、夕方のかよのことが気にかかって、ペンのノリが悪かった。

「君も無理するなよ」

書斎に入ってきた英治が花子の机に飲み物の入ったカップを置いた。

「ありがとう」

「 … かよさんは、『王子と乞食』の単行本を作ること反対なんだな」


花子の心の中を見透かしたかのように英治は言った。

「私もこのまま進めていいのかどうか、分からなくなったわ … 」

郁弥を失った悲しみは皆同じでも、平祐、かよとの間に出来た心情的な隔たりに花子は困惑していた。

* * * * * * * * * *

一方、かよという姑公認の指導者を得た蓮子。

彼女が教えてくれるちょっとした生活の知恵は蓮子にとって新鮮であり、家事に対する興味も湧いてきた。

「お水にお酢を少し入れるといいなんて知らなかったわ」

雑巾がけさえ楽しく思えるようになってきた。

「かよちゃん?」

「 … ごめんなさい」


やる気満々の蓮子とは裏腹に、かよは何かにつけ、ふとした時にぼんやりすることが多くなっていた。

「何かあったの?」

どうしてだろう、かよは今の気持ちを蓮子になら話せる気がした。

「お姉やんたち、『王子と乞食』の単行本を作ろうとしてるです」

* * * * * * * * * *

「お姉やんたちは、郁弥さんの夢を叶えようとして頑張ってる。

ほれでも、郁弥さんは、郁弥さんの時計はあの日からずっと止まったまんま …

前に進まんきゃ、いけんのかな?」


かよは辛そうな顔をした。

「おら、このまま止まっていてえ、郁弥さんの居た時間に … 」

蓮子は慈母のようなまなざしでかよを見つめていた。

「かよちゃん … 」

* * * * * * * * * *

その日、花子は郁弥の遺影に手を合わせ問いかけてみた。

写真の中の郁弥は自慢の時計が見えるように気取ったポーズを取って澄ました顔だ。

その時計は、かよが言った通り、あの日の時間を指したまま、遺影の前に置かれている。

「ごめんください」

そんな時、突然やって来た訪問者は出迎えた花子を驚かせた。

玄関の前に立っていたのは、嘉納伝助だったのだ。

「はなちゃん、久しぶりやね」

* * * * * * * * * *

「ここんちは、無事やったようで何よりばい」

伝助は花子たちの無事を喜んだが、どことなくぎこちない … 一番聞きたいことを聞けないでいるからだろうか?

「今日はどうなさったんですか?」

「あんたに … 頼みがあって来たとばい」


そう言うと、お付の番頭に合図して、花子の前に一通の封筒を差し出した。

「はなちゃんは、英語ん翻訳がでくるとやろ?」

「ええ」

「それを日本語に直しちゃってくれんね」


封筒に入っていたのは、英文の手紙だった。

「分かりました」

「おお、よろしく頼むばい」


花子にしてみたら容易いことだった。

しかし、ざっと目を通した花子はこの場で読み上げるのを躊躇してしまった。

花子は伝助の顔をそっと覗き見た。

「なんな?」

「いえ … では」


花子は翻訳をはじめた。

「 … 最愛の伝助様。

お慕いしております」


伝助の眉が動いた。

「アメリカに帰っても、あなたのことは、わ、忘れません」

紛れもない恋文だった。

「あ、あなたと過ごした神戸での熱い夜 … 」

* * * * * * * * * *

「分かった、もうよか!」

伝助は花子から手紙を取り上げると、気まずそうに咳ばらいをした。

「え ~ 神戸の博覧会で会うた、金髪の踊り子たい」

花子が聞いてもいないのに釈明しながら手紙を懐にしまった。

「これくらいならお安い御用なので、いつでもどうぞ」

「ははは、助かるばい」


伝助は話題を変えた。

「はなちゃんは、また本を書いて出さんとか?」

「ええ、出したいと思ってるんですけど … このご時世ですからなかなか難しくて」

「うん … 蓮子は、あんたの本を読みよる時が一番ご機嫌やったばい」


蓮子に対する恨みつらみなどまったく感じられず、伝助はただ懐かしそうに話した。

「俺は無学で字が読めん。

ばってん、あいつが読みよるのを見て分かった。

本ちゅうのは、読むもんを夢み心地にするとやろね」


伝助の言葉は、まさに花子が考える本の本質そのものだった。

「はい!」

花子はうれしくなって笑顔でうなずいた。

「ふふふふ、東京はこげな有様やき … こげん時こそ、あんたの本を待っちょる人が他にも大勢おるとやろね」

「嘉納さん … 」


花子は感動していた。

出版に携わる誰もが悲観的にしか考えていない状況の中での、伝助は物事を前向きに捉えていた。

< 伝助の言葉に力づけられた花子でした。

ごきげんよう … おや? >

その時突然、伝助が身を前に乗り出した。

「もうひとつ、訊きたいことがある」

花子をじっと見据えてそう言った。

「 … な、なんでしょう?」

< 石炭王は一体、何を訊きたいのでしょうか?

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月04日 (月) | 編集 |
第109回

1924年(大正13年)・春。

< 関東地方南部に壊滅的な被害をもたらした大震災から半年。

人々は悲しみを乗り越え、復興に向け歩きはじめていました。

村岡印刷は全焼し、英治は工事現場で働いています >

「英治さん、力仕事はお腹が空くでしょ。

ご飯ぎっしり詰めといたからね」

「ありがとう」

「お父ちゃま、こぴっと頑張って」


英治は、花子と歩に見送られ、愛妻弁当を抱えて出かける毎日だった。

* * * * * * * * * *

そんなある日のこと、英治が同僚たちに担架で担がれて自宅に運び込まれた。

「奥さん、すまねえ ~ 足場から落ちちまって」

親方は花子に申し訳なさそうに頭を下げると、現場に戻って行った。

「ただの捻挫だよ … 親方、いい人なんだけど、ちょっと大げさで」

花子から足首に包帯を巻いてもらいながら、英治は苦笑した。

「心配かけてすみません」

英治は平祐に詫びた。

震災後、平祐は英治たちと同居していた。

「慣れない力仕事なんかするからだ。

お前まで居なくなったら、私はどうしたらいいんだ … 」


不機嫌な顔で平祐は諌めた。

英治は思わず、棚の上に置いた郁弥の遺影に目をやった。

そこには、かよが拾った本人がお気に入りだった時計も供えてある。

「 … 父さん、僕たちは一日も早く会社を再建したいんです」

「郁弥さんの遺志を継いで、『王子と乞食』の単行本を作りたいんです」


英治と花子の言葉に、傍らにいたかよが目を伏せた。

* * * * * * * * * *

「郁弥さんからもらった『王子と乞食』の原書のおかげで、私は翻訳の仕事を続けて来られたんです。

… だから、恩返しのためにも是非、実現させたいんです」

「銀行も色々回ったけど … このご時世でどこも融資してくれません。

会社を再建するお金が溜まるまで、仕事を選んでいられないんです」


ふたりの話に答えることもなく、かと言って反論もせずに平祐は庭へ出て行ってしまった。

郁弥が亡くなってからというものの、気力がうせてしまったのだろうか … 笑うこともほとんどなく、日がな一日ぼんやりと過ごすことが多くなった。

あんなにモダンだったミスター・ドミンゴはめっきり老け込んでしまったようだ。

* * * * * * * * * *

「おら、明日早いので … お義兄さん、お大事に」

まだ日も暮れていないというのに、かよも席を立って二階にある自分の部屋へと引き込んでしまった。

< 震災で家を失くしたかよは、 大森の家で一緒に暮らしながら、食堂で働いていました >

英治と花子の決意を聞いても、何故か素直に喜ぶことができずに複雑な思いを抱いているかよだった。

* * * * * * * * * *

< 一方、あの駆け落ち事件から二年半 … 苦難を乗り越えて、幸せな家庭を築いた蓮子ですが … >

「龍一さん、お上手」

「村岡家の人たちに特訓してもらったからね」


純平のおしめを手際よく換える龍一の横で微笑む蓮子が居た。

「蓮子さ~ん!!」

穏やかな雰囲気を打ち破るような声が宮本家に響き渡った。

顔を見合わせる蓮子と龍一。

「蓮子さん!」

声の主は、よほどセッカチなのか、さほど時間は経っていないのにもう一度、声を上げて呼んだ。

「は~い」

蓮子は返事をすると、声のする方へとようやく歩き出した。

* * * * * * * * * *

龍一、純平と共に宮本家に入った蓮子には思いもよらぬ敵が待ち構えていたのだ。

< 蓮子にとって、次なる苦難は … この家の実権を握る姑の浪子です >

「まったくもう ~ 遅い、遅い、遅い!」

浪子の部屋の前で蓮子は正座するとゆっくりと障子を開けて、丁寧にお辞儀をした。

部屋の中に入り静かに障子を閉めて … やっと浪子の前に座った。

「お呼びでしょうか?」

「何時間かかってるの?!」


それは言い過ぎだが … 蓮子の優雅な立ち振る舞いは、浪子にはのんびりしているとしか受け取れなかった。

「 … 申し訳ございません」

「もっと早くしゃべって!」


更に頭を下げた蓮子だった。

「蓮子さん、あなたねえ … 伯爵家から正式に席を抜かれて、もう華族様ではないのよ」

「ええ ~ 私、平民になりました」


蓮子は、うれしくて堪らないという顔をした。

「では、こちらも平民として扱います。

… 蓮子さんに家事一切を譲って、私は楽隠居させてもらうから、しっかりおやりなさい」


浪子の言うようなことが今の蓮子に敵う訳がない … だが、とにかくうなずいた。

「まずは、お掃除から!」

そう言って、浪子はハタキを蓮子に差し向けた。

* * * * * * * * * *

「な、何その絞り方は?!」

先ず手始めは廊下の雑巾がけだ。

蓮子は早速、バケツの水に浸した雑巾の絞り方が足りないと注意されてしまった。

「はい、お義母様」

慣れない手つきで、もう一度雑巾を絞ると、丁寧に廊下に広げた。

そして両手をつくと、厳かに拭きはじめた。

「お、遅い … 遅い、もう ~ イライラするね ~ 」

拭き掃除などする必要もなかったお姫様の蓮子だから仕方ないことなのだが、浪子は見ているだけで苛立ってきた。

「蓮子は育ちが違うんだから、急には無理だよ。

家事なんかやったことないんだし … 」


見かねて蓮子を庇った龍一に浪子は食って掛かった。

「家事も満足に出来ないような嫁は出てってもらうよ!」

「はい、お義母様」


しかし、生まれついてのおっとりがそう簡単に治る訳もない。

「まだあんなところだよ!」

* * * * * * * * * *

花子が昼食の支度をしようとしていた時、かよが仕事から戻って来た。

「かよ、今日は早かったじゃんね?」

「お姉やん、宇田川先生から手紙が来てただよ」


かよは手にしていた封筒を手渡した。

「こないだ、働き口を紹介してくださいって、手紙書いたさ。

こんなに早く返事が来るなんて」


花子は喜び勇んで手紙を広げた。

『前略

私、昨年九月、素晴らしい出会いがあり、結婚いたしました』


そんな書き出しに花子は目を丸くした。

『あの震災で火の海となった街を逃げている途中、たくましい男性に救われ、やがて私たちは恋に落ちました

震災で多くの雑誌は廃刊に追い込まれ、私もあらゆる出版社との関係を断ちましたが、今は主人のおかげで幸せでとろけそうな毎日を送っております

という訳で、仕事の件はお役に立てませんので、他を当たってください』


読み終えて、花子はため息をついた。

現在で言えば、震災婚というやつだろうか … わざわざ返信を寄こしたのも、ただただ惚気たかっただけの気がする。

* * * * * * * * * *

当てが外れ、がっかりして、花子が顔を上げると、かよはぼんやりと郁弥の遺影を見つめていた。

満代は震災によって伴侶を得たが、かよは伴侶となるべき男性を亡くしているのだ。

「かよ … 」

花子が声をかけると … かよはハッとして我に戻った。

「あっ、お姉やん、おら今夜から屋台で働くことにしただ」

かよは満代の話など気にしてはいなかったようだ。

「屋台?」

「今働いてる食堂の人に頼まれたから、引き受けただ」


花子は働き過ぎのかよの体が心配だった。

「 … ちっと体休めんと」

「居候は早くお金貯めて、引っ越ししんきゃね」


笑いながらそう言ってはいるが、郁弥を失った悲しみを紛らわすために違いなかった。

「ほんな無理しなんでも … 」

「無理なんかしちゃいんさ」


花子は出かけて行くかよの背中を不安な気持で見送った。

* * * * * * * * * *

玄関を出たかよは、思いがけない人に出くわした。

「やあ、かよちゃん」

「梶原さん、お久しぶりです」


花子を訪ねてきた梶原だった。

< 聡文堂が焼けた梶原は古巣の出版社に戻りました >

* * * * * * * * * *

「うちの社長に相談したら … 君を雇う余裕はないが、翻訳の仕事なら回せるからと」

花子にとって願ってもない話だった。

「て … ありがとうございます、助かります」

「堅苦しい本なんだけど」


梶原が差し出した原書は、物語ではなくガーデンプランニングの本だった。

贅沢が言える状況ではない、花子は数頁めくって確認しただけでふたつ返事で引き受けた。

「印刷会社を再建するために少しでも仕事を増やしたいんです」

うなずいた梶原は郁弥の遺影に目をやった。

「 … 本当に寂しくなったね」

* * * * * * * * * *

「梶原さん、もうひとつお願いがあります。

梶原さんの所で『王子と乞食』の単行本を出していただけないでしょうか?」


花子は思い切って梶原に相談してみた。

「あの震災さえなかったら、聡文堂から出すはずだったんだ。

是非力になりたい。

でも、僕は今、学術書担当の一編集者にすぎないんだ。

それに今、小説や児童文学は歓迎されないからね … 」


梶原は申し訳なさそうに言うと、表情を曇らせた。

「引き受けてくれる出版社を探すのは難しいだろう」

* * * * * * * * * *

夕方になり、仕事から戻った英治に花子は梶原から翻訳の仕事を受けたことを報告した。

「そうか ~ よかったね」

英治は手放しで喜んでいる。

「それから、梶原さんと話しているうちに思いついたことがあるの。

村岡印刷を再建するなら、いっそ出版社を兼ねた印刷会社にしたらどうかしらって …

そうすれば、『王子と乞食』の単行本も出版できるでしょ」

「そうか … 確かにその手があったな」


花子の夢のような話に英治も笑顔で賛成した。

「郁弥が生きてたら、『great idea!』って叫んだだろうな」

ふたりは郁弥の遺影を見つめた。

「よし、じゃあ出版と印刷の両方が出来る会社を作ろう!」

「ええ」


ふたりの夢は広がり、すぐにでも叶うような気がしていた。

* * * * * * * * * *

「何を言ってるんだ」

気がつくと平祐が渋い顔で立っていた。

「 … あの恐ろしい震災からまだ半年しか経っていないんだぞ。

住む所も、着る物も、何も足りていないのに … 誰が物語の本なんか買うんだ?」


そう水を差すと、また引っ込んでしまった。

英治は、どちらかといえば楽観的だった父の変わりように絶句した。

* * * * * * * * * *

< それから、数日後のことでした >

かよが働きはじめた屋台に思わぬ客がやって来た。

「てっ?」

「かよちゃん、ごきげんよう」

「蓮子さん?!」


かよが居ることを知っていた訳でもなかろうが … 偶然、ふらりと現れた蓮子はひとりきりだった。

「 … さあ、どうぞ座ってください」

掃き溜めに鶴、先客の男たちは慌てて蓮子に席を譲った。

「まあ、美味しそう … 取りあえず冷を」

龍一に行きつけの屋台飲み屋に幾度か連れて行ってもらった経験がある蓮子は、彼が言っていたよう注文をした。

安酒をひと口飲んだ蓮子は、ふうっと息をついた。

「美味しい ~ 」

およそ似つかわしくない雰囲気の蓮子、かよは不審に思って訊ねた。

「蓮子さん、龍一さんと純平君は?」

「 … お姑さんとお家にいるわ」


やはり、いつもとどこか様子が違う … かよは冗談半分で探りを入れてみた。

「ひょっとして家出でもしてきたですか ~ まさかですよね?」

ところが、蓮子は目を伏せた。

「その、まさかなの … 」

「てっ?!」

「私、今夜は帰りたくない … 」


顔を強張らせてそう口にした。

これはただ事ではない!

突然、ひとりで現れた美人から聞き捨てならないことを耳にして、周りの客たちは息を呑んだ。

< 主婦になった蓮子に、一体何があったのでしょう?

… ごきげんよう、さようなら >

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2014年08月03日 (日) | 編集 |
まずは、先週のおさらいを …



それでは、次週の「花子とアン」は?

関東大震災から半年が経った、1924年(大正13年)・春。

村岡印刷が全焼したため、工事現場で働き始めた英治(鈴木亮平)だが、足場から落ちて捻挫してしまう。

一日も早く会社を再建したいです

慣れないことをするからだといさめる平祐(中原丈雄)に、英治と花子(吉高由里子)は「一日も早くお金をためて会社を再建し、郁弥(町田啓太)の遺志を継いで『王子と乞食』の単行本を出版したい」と話す。

しかし、郁弥が亡くなって以来ふさぎこんでいる平祐は乗り気でない。

村岡家に身を寄せているかよ(黒木華)も花子や英治とは距離を置き、夜な夜な屋台で働きはじめる。

その屋台に蓮子(仲間由紀恵)がふらりとやって来る。

実は蓮子も新たな試練に立たされていた。

まずはお掃除から

龍一(中島歩)の母・浪子(角替和枝)に家事を教わっているが、その厳しさにまるでついて行けないのだ。

私の先生になって下さらない?

愚痴をこぼす蓮子に、かよはこっそり料理を教えることに。

こんな時だからこそ、本を待っている人がいるんじゃないかって …

未来の本への投資というのはどうかしら?


一方、花子は小さな翻訳の仕事を引き受けて再建資金を溜めようと励んでいたが、かよが『王子と乞食』出版に賛成でないと気づき、前に進んでいいものか迷いはじめる。

そんな時、伝助(吉田鋼太郎)が突然、村岡家を訪ねて来る。

花子に「翻訳して欲しいものがある」と言うのだが …

ちょっと一杯やりませんか?

はあ?


村岡家の前でばったり出くわした蓮子と伝助。あえて通り過ぎようとする伝助に、意外にも蓮子が声をかける。

前に進まんきゃいけんのかな …

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2014年08月02日 (土) | 編集 |
第108回

郁弥が関東大震災の犠牲になってしまった。

かよは郁弥からの求婚に素直に応えられなかったことを悔やみ、自分自身を責めていた。

笑顔を失くして、まるで魂の抜け殻のようなかよ …

< そんなかよに何も言えない花子でした >

* * * * * * * * * *

大地震から五日後、甲府から救援物資を運んできた吉平、朝市、武が村岡家に到着した。

「無事で本当によかった!」

無事で再会できたことを喜び合う一同。

「おじさんもおばさんも本当に心配してただよ」

しかし、かよだけはその輪に加わろうとはせずに家の奥に引っ込んでしまった。

「お父、おらたちは無事だったけんど、郁弥さんが … 」

「かよ … 」


郁弥本人からかよを嫁にしたいと聞いていた吉平は絶句した。

* * * * * * * * * *

花子たちは、吉平たちが運んできてくれた食糧を使って、家の前でほうとうの炊き出しを行った。

「皆さん、たくさんありますから召し上がってくださいね」

ブドウ酒や山梨の名産も並び、噂を聞きつけた人たちが大勢集まってきた。

「はなさん!」

人混みの中から現れたのは亜矢子だった。

「て、醍醐さん … 無事だったのね?!」

花子は、銀座に居たはずの亜矢子たちのことも気にかけていたのだが、安否を知るすべはなかったのだ。

「まあ、甲府の皆さんもごきげんよう」

甲府から駆けつけた三人に会釈した亜矢子、鼻の下を伸ばしていたのは武だ。

「醍醐さん、ご家族は?」

「皆、元気よ … でも、聡文堂の建物はすっかり崩れてしまって」


梶原や聡文堂の仲間も無事だったが、原稿や書籍はすべて燃えてしまったと、亜矢子は表情を曇らせた。

* * * * * * * * * *

「ねえ、醍醐さんも召し上がって … お父たちが甲府から色々持ってきて作ったの」

「醍醐さん、どうぞ」


武が気取って、ほうとうの入った椀と箸を亜矢子に手渡した。

「いただきます」

ひと口食べた亜矢子は、「美味しい」と顔をほころばせた。

「こんな時こそ、美味いもん食って、元気出しましょう!」

朝市は、そう言って炊き出しに並んでいる人たちを激励した。

「私も持ってきたの!」

亜矢子が携えてきた小さなトランクを開けてみせると、中には様々な形や色のリボンが詰まっていた。

「わあ、おリボン?」

「私なら、これが一番元気が出ると思って」


おしゃれな亜矢子らしい発想だった。

「女の子はきれいなものを見ると元気が出るんですもの」

早速集まってきた少女たちひとりひとりの髪に、ふたりはリボンをつけて回った。

* * * * * * * * * *

かよは、炊き出しを手伝うことはせず、ひとり家の中を掃除していた。

なるべく人と関わらずにいたいのだろう。

しかし、雑巾がけする手にもどこか気が入っていなかった。

縁側に腰掛けて親の迎えを待つ正男とフミの兄妹にほうとうを運んできた花子が、かよの前にも椀を置いた。

「かよもひと休みして食べろし … ずっと食べてないじゃん。

… 倒れちもうよ」


かよは無言で首を横に振っただけで手をつけようとさえしない。

「かよちゃん … 」

その様子を見ていた朝市が痛ましげにつぶやいた。

「どうなさったの?」

心配そうに訊ねた亜矢子。

* * * * * * * * * *

「郁弥さんみてえに、明るくて楽しい人が … こんなこんになるなんて」

自分でさえこれほど辛いのに … かよの心情を思うとやるせない朝市だった。

結局、かよはほうとうを自分では食べずに正男に与えてしまった。

「かよ、まるで感情をどっかに失くしてきてしまったみたいだ」

花子は、そんなかよに何もしてあげられないことがはがゆかった。

「ねえ、おばちゃん、また『ナミダさん』の話して!」

ほうとうを食べ終わったフミがまたねだってきた。

* * * * * * * * * *

花子は兄妹を書斎に招き入れて話をはじめた。

「 … 『よしてください、よしてください』

カエルは夢中になって飛び回りました。

『そんなにお泣きになると、大水が出ます』

なるほど、ナミダはちょっと泣くのを止めて、辺りを見回しますと …

水は一刻一刻に増しておりました。


* * * * * * * * * *

『それじゃあ、私をこの島から出してちょうだいよ。

そうすりゃ、泣かないわ』

すると、カエルはナミダにこう言ったんです。

『この島から抜け出す道はひとつしかありません … 』」


花子が話を続けることに躊躇していると、フミが大きな声で言った。

「笑うんだよ!」

ハッとして笑顔になる花子。

かよは相変わらず無表情のまま縁側に座っている。

* * * * * * * * * *

花子は話を再開した。

「 … カエルは涙に言いました。

『笑うんです。

笑いさえすれば、池もだんだんに水が引いてきて、私たちは逃げられるようになります』」


* * * * * * * * * *

かよの隣りに朝市がやって来た。

「笑えば、涙の池が小さくなるなんて、はならしいじゃんね。

… はなだって、本当は泣きてえ気持ちだろうに」


かよは黙ったままだ。

「かよちゃん … うちのお母がいつか言ってただ。

お父が死んじまった時、ここがぎゅうっと締め付けられるみてえで、苦しくてたまらなんだって」


朝市は胸を押さえてみせた。

「明けても暮れても、ただ寂しくて、苦しくて、腹も空かんし …

もう二度と笑えんと思っただと」


自分の言葉がかよに伝わっているかは分からない、だが朝市は続けた。

「ふんだけんど、人っちゅうのは、やっぱり腹は空くし、楽しいことがありゃあ笑っちもう生きもんだ。

怪我が治るみてえに、自然と心の辛さもよくなる。

ふんだから、かよちゃんも … きっと大丈夫だ」


うつむき加減だったかよが朝市を見た。

* * * * * * * * * *

陽は傾きかけたが、炊き出しの列は途絶えることはなかった。

「私にもほうとういただけるかしら?」

聞きなれた声に花子が顔を上げると … 蓮子と純平を抱いた龍一が立っていた。

「蓮様?!」

「龍一君?!」

「 … はなちゃんも皆さんも、よくご無事で」

「その節はお世話になりました」


蓮子と龍一は花子たちに頭を下げた。

「蓮様、もう葉山様のお屋敷からは解放されたのね?」

「龍一さんが純平と私を救い出しに来てくれたの」


蓮子はうれしそうに笑った。

「 … 想像の翼を広げて、この日が来るのを待っていたのよ」

* * * * * * * * * *

< その日の夜のことでした >

正男とフミの父親がふたりを迎えにやって来たのだ。

「父ちゃん!」

「正男、フミ! … 無事でよかった」


父親に飛びつく兄妹、抱きしめる父親。

「ふたりとも遅くなってごめんな ~ 寂しかったろう?」

しかし兄妹は首を振った。

「寂しくなかったよ、『ナミダさん』のお話、聞いてたから」

それを聞いて、花子の顔に笑みがこぼれた。

「よかった … 」

そうつぶやいたかよを花子は振り返った。

何日かぶりにかよの笑顔を見たような気がした。

* * * * * * * * * *

「お姉やん … 」

花子とふたり、台所で片づけをしていたかよがふと手を止めた。

「なあに、かよ?」

「もう一遍だけでもいいから、郁弥さんに会いてえ」

「かよ … 」


花子は返事に困ってしまった。

しかし、穏やかに、そして微かに笑みを湛えながら話を続けるかよは昨日とはどこか違って見えた。

「郁弥さん、あんなに素敵な求婚してくれたに … おら恥ずかしくって、店を飛び出しちまったさ。

どうしても、郁弥に伝えてえこんがあるだ」


かよはそう言うと目を閉じた。

* * * * * * * * * *

かよの前に、あの日の光景が広がった。

楽団が奏でる甘いメロディー、目の前には郁弥が片ひざをついて見上げている。

「かよさん、あなたは僕の女神です。

… 僕と結婚してください」

* * * * * * * * * *

「 … はい」

かよはうなずくと目を開いた。

「おらをお嫁さんにしてくれちゃあ … 」

微笑みながら、言うことができなかった返事を郁弥に伝えた。

「会いてえ … 郁弥さんに会いてえ」

泣き崩れたかよを花子は優しく抱きしめた。

かよは、花子の胸でただただ泣き続けるのだった。

* * * * * * * * * *

花子たちの無事を見届け、救援物資を届けるという役割も果たした吉平たちが甲府に帰る日がやって来た。

見送りに出てきたかよに吉平は言った。

「かよ、一緒に甲府に帰らんけ?

何なら、この大八車に乗っけて連れて帰るぞ」


吉平はわざと冗談ぽく誘った … 本当は無理にでも連れて帰りたいところだろう。

「かよちゃん、ほうしろし」

武も一緒に帰ることを勧めた。

「ううん … 大丈夫。

おら、東京に残って皆と頑張る」


そう胸を張って答えたかよを見て、朝市はうなずいていた。

吉平はかよの手を取った。

「ほうか … 分かった」

「お父、ありがとう」


笑顔で返したかよに何度もうなずく吉平。

「ほいじゃあ、また」

別れを告げた朝市、英治は三人に頭を下げた。

「本当にありがとうございました」

「ほいじゃあ、また来るからな」


吉平は娘たちに約束した。

「ようし、武!

帰りはおまんひとりで引けし」

「てっ?!」

「ほうじゃん、早く持てし!」


小作のふたりが地主の武ひとりに大八車を引かせて、威勢よく帰って行った。

* * * * * * * * * *

悲しみはすぐには癒えないだろう … しかし、花子はかよに立ち直る兆しを感じていた。

< かよの顔に少しだけ微笑みが戻りました。

… ごきげんよう、さようなら >

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