2013年01月10日 (木) | 編集 |
第83回
閉じこもり客・天野から生きる希望がないと告げられた純は、「生きる希望を湧かせてみせる」と宣言する。
(2012年12月28日 NHKネットステラ)
「ほんとにいいんですか? 僕は、純さんに合ってると思います。ここのホテル」
「いいの。また明日から違うホテル探すから…」
未練を吹っ切るように、純がそう言いました。
「純さん!」
突然、愛が大声をあげ、「里や」の2階を指さしました。
カーテンをひいた窓に映っている影は、首つりをしようとしているように見えました。
「大変だ!」
… … … … … …
純と愛は、2階へ駆け上がり、世捨人の部屋の扉に体当たりして、中に飛び込みました。
今まさに吊るされる寸前の世捨人を押さえると、布団の上に倒れ落ちました。
「どうして、こんなことするんですか? いったい何があったんですか?!」
「生きる希望がないからや!」
世捨人~天野と名乗ったその男は、それ以上は頑なになって話そうとはしません。
「わかりました。じゃあ、ウチの旦那に教えてもらいます」
… … … … … …
愛は、天野の顔を覗き込むと、静かに語り始めました。
貧しい生まれだった俺は、苦学の末、就職、結婚、娘も儲けることができた。
しかし、信頼していた上司や親友、妻に裏切られ、傷害事件を起こしてしまった。
服役後、酒におぼれたが、娘の結婚を契機に立ち直ろうとした。だが、世間の風は冷たく、自分に負けて、また酒に手を出した俺を見て、娘は言った。
「もう、あなたと会うことはない…」
… … … … … …
「だから、俺は生きていても仕方ないんだ」
愛に本性を言い当てられて、驚愕する天野。サトも驚いています。
「ウチの旦那、人の本性みたいなものが見えるんです」
「あ、違うんです。今日はこれが、あったので」
天野が書いた遺書、娘らしき女性と天野…幸せそうに笑った写真でした。
愛の手から、奪い取る天野。
… … … … … …
「死ぬなんて、やっぱりダメですよ」
「何でや?!」
天野にそう聞かれても、咄嗟に返事が出てこない純、傍らのサトに助け舟を求めました。
「ああ、ドラマチックな人生だね」
この人、こればっか…
頼りにならない女将をあきらめて、純は言葉を探しながら天野に語りかけます。
「…ここに閉じこもっていたのだって、もう一度お酒やめて、何とか娘さんに会おうとしていたからじゃないんですか? …だったら、あたし、応援しますから。
あきらめないで頑張れば、きっと良いことありますよ」
… … … … … …
「お前みたいな人間が、一番腹が立つ。
頑張ったら、ええことあるとか、○×▲◎…そんなの愛されて、ぬくぬくと育った人間の戯言やあ!」
純の言葉が、気に障ったのか、天野は、大声をあげました。
「あたしは、ただ天野さんの為に…」
純の言葉を遮り、天野が言いました。
「人の為と書いて何て読むか知ってるか?」
“偽”(いつわり)でした。
「お前みたいな嘘くさい人間は、見ているだけで不愉快や! 出ていけ!」
… … … … … …
「じゃあ、これで失礼します」
サトに挨拶をして、去ろうとする純に愛は問いかけます。
「天野さん、どうするんですか? …逃げないでください!」
「だって、“いつわり”って言われちゃったんだよ。 …あたしのやっていることは、嘘くさいって言われたんだよ。天野さんに」
「何で簡単にあきらめるんですか? 助けたい人がいるのに」
「だって、また、あたしが何かやったら…たぶん、後悔するし」
今日の愛は、とことん引き下がりません。
「何もしない方が、絶対に後悔します」
「無理だよ!あたしにあの人を救うのは無理」
愛は、純の肩をつかみ目を見つめて言いました。
「待田純の辞書に“無理”って言葉はありません」
… … … … … …
「どうして、“ダメだ、助けられない”じゃなくて、“ヨシ、助けてあげよう”って思ってくれないんですか?」
「何でそんなに、今日はムキになってるわけ? いとしくん」
少し言いにくそうに愛は言いました。
「…純さんに出会ってなかったら、僕も天野さんと同じように生きる希望を持つことができなかったからです」
… … … … … …
愛は、天野に自分を重ねて見ていたのでした。
「…純さんと出会わなかったら、僕も天野さんみたいになっていたかもしれないからです」
純の心が揺れました。
「あのう、お邪魔して悪いけど、これは破っていいのかな?」
サトが、純の退職願を差し出しました。
うなずく、純。
「お願いします」
サトは、うれしそうにビリビリに破きました。
… … … … … …
純と愛は、再び“あかずのま”の前に立ちました。
扉の向こうの天野に話しかける、純。
「天野さん、…あたし、やっぱあきらめないことにしました。
“嘘くさい”とか、“いつわり”とか言われても構いません。
やっぱり間違っていると思います。そこに閉じこもって誰とも合わないなんて。 …わたしは、天野さんにそこから出てきてもらって、それから…
生きる希望を持ってほしいんです」
扉が、きしみながら少し開き、天野が顔を覗かせました。
「わかった。 …なあ、教えてくれ、“生きる希望”ってやつを。
それが、湧いてきたら、出て来たるわ」
そう言うと、扉を閉めました。
振り向き愛と顔を見合す純、うなづきあいました。
「わかりました。教えてあげます、生きる希望ってやつを」
… … … … … …
おじい、こうなったら、受けて立ってやろうじゃないの!
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